『1+1=』


――
今日は風が吹いていた。


吹き付けると表現できるほど強い風でもない。
だが、冬という季節柄、その冷たい風は肌に刺さるような錯覚さえも覚えさせる。
「さむ……っ」
少年、田口雄哉(たぐちゆうや)は冷風に身を強張らせ、思わず呟いた。
太陽が真上に昇る時間だというのに、一向に温かくなる様子は無い。
すぐにでも初雪が降りはじめそうな寒さだ。
彼が踏みしめる最近舗装されたばかりの無機質なアスファルトの鈍い光沢も、その寒さを一層際立たせているかのようだった。
「あーあ今日はポカポカ陽気になるんじゃなかったのかよ
雄哉は一人ごちる。
昨日の夜に彼が見たテレビの天気予報によると、今日は初秋の気温になる筈だったのだが実際はこの通りである。
今日の気温は初秋どころか真冬並みだ。
もっとも、吹き付ける風により体感温度がさらに下がっているため、真冬という感覚には多少の誤差があるかもしれないが。
天気予報を信じ、薄着をしてきた事を彼は今さらながら後悔していた。

ぶわっ

再び風が吹く。
散り落ちて、人や動物に踏みにじられ、原形を失いかけた紅葉が風に踊る。
曇天と、そこに舞う赤い紅葉の不格好な色彩のコントラスト。
空で一通りの舞を披露した紅葉は、風と共に地へと落ちた。
散り残った紅葉が風に吹かれて雄哉の頬に張り付く。
だが、彼は頬に張り付いたままの紅葉を取り去ろうとはしない。
否、出来なかった。
彼の両手にはそれぞれ大きなボストンバッグ。
ついでに背中には小さなナップザック。
つまり、彼の両手は完全に塞がっている状態なのだ。
周囲の人間に修学旅行か家出少年と見られてもおかしくは無いだろう。
もちろん修学旅行などではないし、家出をしなければならない程に家庭が荒れているわけでもない。
「俺は何をやってるんだろうな
雄哉は自分の両手を見て呟く。
寒さのためか、思考回路が上手く働かない。
何かがあったはずだ。
そうでなければ、このような馬鹿げた荷物を持って町内を徘徊する事も無いだろう。
俺は………何を……

…………あ」

ふと、雄哉は顔を上げる。
(そうだ俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人暮らしすることになった。結論から述べるとすればただそれだけだった。

あえて詳細を述べるのであれば、両親が海外に転勤になった。

本当にただそれだけだった。両親が日本からいなくなっただけで俺の生活はまったく変化が無かった。

いや、まったく変化が無いと言うのは少々語弊がある。

これから日本でたった一人で生活していくのに二つほど問題が生じた。

ひとつは住む家が無くなったことだ。

 

「あぁ…そうだったな…くそっ」

そう…何故俺がこんな寒い日に馬鹿げた荷物を持って町内を徘徊しているかというと

これから俺が生活する家に向かっている途中だったのだ。

 

「つーかさ…生活費少なすぎないか?」

そしてもうひとつの問題が生活費、すなわち金だ。

世の中には金で買えないものがあるというが、実際はそんなことはないだろう。

………いや、確かに例外が存在することは認めよう。

だが結局のところ世の中は金なのだ。

昔、どこかの盗賊も言っていたではないか。

 

世の中なんて金でどうにかなる!
金がすべて、金があればなんでも手に入る!
お金大好き! 愛してるー!!

 

いい言葉だ、素晴らしい、非常に共感できる。

そう、やはり世の中金なのだ。

だというのに……………。

 

 

「貯金が10万円しかないと言うのはいかがなものか……」

そう、これから俺がたった一人で生活していく資金は10万しかないのだ。

家賃、食費、光熱費、水道代、その他諸々。

全てをたった10万円でまかなわなくてはならないのだ。

 

「バイトでもするか……」

うむ、生きていくには金が必要。金は働いて稼ぐしかない。

しかし、このご時世で高校生などを雇ってくれる所などあるのだろうか?

「うだうだ考えていても仕方が無いか……」

とにかく、今は一刻も早く新しい我が家に着かねば。

……ここは寒い。

いや懐具合はもっと寒いがな、あえて例えるなら氷河期か?

自分のことながら空しくなってきた。

 

 

 

 

 

「…やっと……着いた…………」

両手には大きなボストンバッグ、背中には小さなナップザック。

こんな重い荷物を抱えながら町内を徘徊してきたが。

「…………疲れた」
一体何キロくらい歩いただろう?

いい加減一休みしようと思いはじめたときついに、目的の家にたどり着いた。

 

しかし………

 

騙された。

それが…これから俺が住むことになる家に対する第一印象だ。

それもそうだろう、これでまともな家であるほうがおかしいのだ。

 

なぜなら………

 

 

 

「まぁ家賃一万円だしな」

そう、この大都会東京に家賃がたった一万円で住める場所などありはしない。

ありはしないのだが………偶然にも俺は見つけてしまった。

それが、今俺の目の前にある建物なのだ。

 

「しかしそれにしてもひどすぎだろ」

外壁には所々ひびが入っており、甲子園球場並みのつたが生えている。

二階へ上るための階段はすでに赤錆びていてぼろぼろだ。

しかもどういうわけか隣にはメイド喫茶が建っている。

 

「まぁいいか、とにかくここは寒い早く中に入ろう」

俺は荷物を持ち直して赤錆びた階段を上っていった。

 

 

 

 

 

 

赤錆びた階段は、一歩踏むだけでも今にも壊れそうな音をたてている。

歩くたびに床がきしみ、悲鳴を上げた。階段のぼろさは予想以上にひどかった。

だが、そんなものはまだ序の口でしかなかった。

 

二階に上がった俺はそのあまりの凄惨さに呆然としてしまった

まず目に付いたのは、ひび割れた外壁には似つかわしくないほどに彩り豊かな落書き。

俺は彩り豊かなぼろい廊下を慎重に歩いていく。

廊下のいたるところにたばこの吸殻が散乱している。

 

「ぼろいうえに汚いな」

こんなところに住む人間がいるのだろうか?

いや、これから俺が住むのか。

 

「ここか……」

俺は、今これから住むことになる204号室の前にいる。

幸いここには落書きも少なく、掃除をすれば人間が住める環境になりそうだ。

ただし……なにやら血痕のようなものがそこら一面に広がっているが、あえて気にしないでおこう。

俺は一旦廊下に荷物を置き、ポケットの中をまさぐった。不動産屋から渡されているこの部屋の鍵を取り出すためだ。

 

「おっ、あったあった」

この鍵も、この建物の古さを示すものだ。

いまどき前方後円墳型の鍵穴など日本全国を探してもここだけだと思う。というか、俺もこんな鍵がまだ存在しているなんてはじめて知った。

 

 

ガリッ

 

 

錆びついた鍵穴に無理やり鍵を突っ込み、回そうとするが……。

 

「あれっ?」

 

回らない。何故だ?

やはり鍵穴も相当錆びついているようだ。

しかし、そんなことでこの俺を止めることなど出来ぬわ!!

 

俺は全身の力を指先に集中させ、解放した。

 

ギリギリギリ……ガキンッ

 

物凄く嫌な音をさせながらも、鍵は開いてくれたようだ。

 

「指が……鼓膜が……痛い……」

 

当然だろう、長年風雨にさらされ続け管理がまったく行き届いてない鍵穴を無理やり開けたのだ。

むしろよく開いたな、開けた自分をほめてやりたい気分だ。

 

……しかし鍵穴ですらここまで錆びついていたのだ、部屋の内部は一体どうなっていることやら……。

扉を開けるのを少々、いやかなりためらわれるが……

 

「行くしかないか……よしっ」

 

ここまできたら何があってももう驚かんぞ。

部屋の中に血がこびりついていようが、幽霊が出ようがもう何も恐れるるに足らず。

俺は気合を入れなおし、ドアノブに手を掛け。

 

 

そして……開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

埃が舞い落ちる狭い室内には似つかわしくない純白のドレスを着た少女が、眩いばかりの銀の弓をこちらに向けて……

 

「さようなら、田口雄哉さん」

と微笑み、そして矢を放った。

 

 

 

 

 

一体これは何の冗談なんだ?

……わけがわからない、この部屋は今日から俺が住む部屋であって見知らぬ女の子がいるはずがない。

それに鍵穴の錆び具合からいってもここ数年使われた形跡がない。

では、俺の目の前にいる少女は一体何者なんだ?

 

そんなことを考えているうちに銀の矢は俺に近づいてきた。

人間は命の危機にさらされると全てのものがスローモーションで見えると聞いたことがあるが、今がまさにそんな状態だ。

眩い光を帯びた銀の矢がゆっくり、だが確実に俺の胸へと向かっていた。

……そう、俺の心臓を穿つために。

 

 

 

おい、ちょっと待て。

矢がスローモーションでこちらに向かっているということは、もしかしたら避けられるんじゃないのか?

そうだ、避けられるはずだ。

俺はすぐさま全身に力を入れ、以前見た映画のように上半身をそらし、矢をかわそうと試みた。

 

 

 

その時、今までスローモーションで見えていたもの全てが突然通常通りに動き始めた。

俺の心臓を穿つはずだった矢は、上半身をそらしたおかげで心臓に突き刺さることはなく、俺の鼻先を掠めてそのままいずこへと消えた。

 

「えっ?!!」

 

矢を放った少女は、俺が矢をかわしたことに相当驚いているようだ。

……まぁ、普通は驚くよな。俺も驚いてるし、まさか本当にかわせるとは……。

本日の教訓は、人間やってやれないことはない、に決まりだな。

 

「仕方がありません、もう一度…神様力を貸してください」

 

おいコラッ、ちょっと待てっ!

もう一度って……また射つ気か?!

そんなことをされてはたまらないので、俺は急いで上半身を起こし、少女への間合いを詰め少女が持つ銀の矢を蹴り飛ばした。

 

「えっ? ひゃうっ!!」

 

俺が弓を蹴ったことに驚き、少女は素っ頓狂な声をあげた。

少女は、俺が弓を蹴ったことに怒ったらしく大声で俺を非難しはじめた。

 

「いきなり何するんですかっ?! 痛いじゃないですかっ!!」

「やかましいっ! あんたこそいきなり何すんだっ!!」

「私、あなたになにか失礼なことしましたかっ?!」

「いきなり人の命狙っといて、失礼なことしましたかってよく言えるな?!」

「私は大天使様の命令で殺そうとしたまでです! あなたにとやかく言われる筋合いなんかありません!!」

 

おいおい、何言ってんだ? この女は……。

人の命狙ったり、開き直ったり、挙句の果てには大天使さまだぁ?

頭…大丈夫なのか? この場合病院でCTスキャンを撮ったほうがいいのか、問答無用で精神病院にぶち込んだほうがいいのか悩むところだな。

 

「あの……今とてつもなく失礼なこと考えませんでしたか?」

「いや、あんたの処分を真剣に考えていただけだが?」

「処分って……何を勘違いしているんですか?! 私があなたを処分する側なんです!! あなたは処分される側なんです!!」

 

ここまで言われてはさすがの俺でも我慢の限界と言うものだ。

 

「おいあんた、いい加減にしろよ! 勝手に俺の家に上がりこみやがって!! その挙句には俺を処分するだと?! 勝手なことばっか言いやがって!! 一体どういうことか説明しやがれ!!!」

 

俺は自分でも驚くくらいの剣幕で、目の前の少女を怒鳴りつけた。

……やはりこれはやりすぎたようで、少女はおびえた小動物のような目をしてこちらを見てきた。

 

「…………………………」

 

少女から無言の圧力を与えられてしまった……。

くそっ、そんな目で俺を見るな! 何故か俺が悪いみたいじゃないか!!

 

「…………………………」

 

今もなお少女からの無言の圧力は続いている。

さらに目尻には大粒の涙をためている、今にも泣き出しそうだ。

くそっ仕方がない……。

 

「申し訳ありませんでした、どうかこの無知で愚かな私めに、何故私が死なねばならないのかお教えくださいませ」

目の前の少女に対して土下座をして謝る俺。

……あぁ、なんて情けない。

 

「……わかりました、では理由をお話します」

いきなり機嫌が良くなり話し始めるとは……、なんて現金なやつだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……一体どういうわけで俺が死ななくちゃならないんだ?」

 

やっとのことで部屋の中に入り、一息つくことが出来た。

もちろん埃だらけの室内で一息ついているわけではない。

目の前にいる少女が、両手を合わせ眩く暖かな光を放ち、部屋は光に包まれた。そして一瞬で埃、カビ、その他の汚れを消してしまったのだ。

しかし……何で引っ越すだけでこんなに疲れなきゃならんのだ。

まぁ、掃除する手間が省けたのは助かったけど………………。

 

「え〜とですね、そのことなんですけどね……」

「悪い、ちょっと待った」

「何ですか? 早くしたいんですけど……」

 

あからさまに機嫌の悪そうな声を出す少女。

 

「事情を聞く前にあんたの名前を知っておきたいんだが……」

「あっ、そうですね。 すいませんでした。」

 

少しも悪びれた様子もなく謝る少女。

 

「えっと……大天使様直属の近衛騎士団長ペリア・リオリティーです。よろしくおねがいしますね。」

「俺は田口雄哉だ、よろしく」

 

………………なんか、今すごいこと言ってたような気がするけど気にしないで置こう。

しかも、一体何をよろしくするのだろうか? ……そのことについては触れないで置こうか。

 

「では、話を戻してもいいですか?」

「あぁ、頼む」

 

純白のドレスに身を包んだ少女―――ペリアは重々しい雰囲気を醸し出しながら口を開いた。

 

「正直なところ、私にもよくわからないんですよね」

「何だと、よくわからないのにあんたは人を殺すのか?」

「いいえ、本来ならそんなことしませんよ。でも、今回は珍しく大天使様の勅令なんですよ」

「……つまりどういうことだ?」

「え〜っと、つまりですね……」

 

ペリアは自分のバッグの中から何かを探し始めた。

そして、一枚の紙切れを取り出し俺に差し向けてきた。

 

「何だ……これ?」

「大天使様からの勅令状です、読んでみてください」

 

どれどれ……、俺は差し出された紙切れを受け取り目を通した。

そこには、こう書いてあった。

 

 

 

 

 

〜近衛騎士団長ペリア・リオリティーへ〜

 

 

貴殿に勅令を言い渡す。

人間界へ赴き、罪人 田口雄哉を抹殺せよ。

 

 

大天使グレーダブル・フォマッティックス

 

 

 

……何ていうか、かなり偉そうな名前だな……。それに、つまらない文面だな。

まぁ、仕事の内容なんだからしょうがないけどさ、もう少しユーモアとかがあってもいいような気もするんだが……。

 

 

「まぁ、そういうわけでして……あなたには死んでいただかないと困るんです、納得できました?」

「おい待て、こんな内容でどうやったら納得できるんだ?」

「そーよ、あんたに殺されちゃあたしも困るのよ」

「全くだ、こんなわけのわからんことで俺は死んでたまるか」

「そうそう、こいつを殺すのはあたしの役目なんだから」

 

 

………………ふぅ、と俺は盛大にため息をつき。

 

「あんた……誰?」

 

もう、これ以上問題増やさないで欲しいんだがな……。

いい加減休ませてくれないか……? そろそろ引越し用の荷物も整理したいんだけどな。

お隣さんに引越し蕎麦も届けなくちゃならんしな……。

あれ?うどん……だったけ? もう何でもいいや……

 

「ん? あたし? あたしはクラシー・トラクチャー。悪魔、ヴァンパイア族の純血種にして賞金稼ぎよ」

露出度のやけに高い黒い服を着た少女―――クラシーはいたずらっぽくウインクしてきた。

 

あぁ、本当にもういい加減にしてくれ、天使の次は悪魔ですか……。

俺にはもう安息というものは存在しないのですか?

父上様、母上様 今、心の底から後悔しています。

何故この愚かな私めは一緒に行かなったのでしょうか?

プリンスエドワード島……でしたっけ? 何しに行くんだろうね……うちの親は……。

 

「ちょっと、おーい戻って来い」

「ん? あぁすまない」

 

あまりの非現実さに少々、いやかなり現実逃避していたようだ。

 

「まぁ、あたしとしてはあんたがどうなろうと知ったこっちゃあないけどね」

「あぁ、そうですか」

「何よ、 いきなり随分投げやりになったわね?」

「何か……もう、どうでもよくなってきてな……疲れたよ」

 

その台詞をきいた二人は同時に瞳を輝かせた。

 

「「そう?! じゃあ死んでくれる?」」

「ふざけんな! 莫迦ども!!」

 

しかも、二人ともハモりやがって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずだ、ペリアは何も知らないようだが……クラシー、あんたは何か知っているのか? いい加減、俺が死ななきゃならない理由が知りたいんだが」

 

さっさと理由を問いただして帰ってもらおう、俺はそう決めた。

 

「知ってるわよ、あんた魔界じゃ有名だもの」

当然でしょ、と言わんばかりの眼差しを向けてくる。

 

「それか、では教えてくれ。俺は何故死ななければならない?」

「ん〜。簡単に言うなら……あんたは悪魔にとって邪魔な存在なのよ。もちろん天使にとってもね」

「一体どういうことだ?」

「それはね………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………なんてこった…………それじゃあ、命狙われてもおかしくないよな」

俺は深いため息とともに落胆する……。

どうやら、クラシーの話では真相はこういうことらしい。

 

 

俺が天使から命を狙われるのは、俺が悪魔の血を引いているかららしい。

そして俺が悪魔から命を狙われるのは、天使の血を引いているかららしい。

……つまり、俺は純粋な人間では無く天使と悪魔の血が混ざり合ったことにより突然変異で人間に生まれた、ということなのだ。

俺の中の天使と悪魔の血は、俺が16歳の誕生日を迎えたときに目覚めるらしい。

すなわち、突然変異であるがゆえにどんな力を持っているかもわからない、もしかしたら自分たちより強いかもしれない。

それは困る、というのが天界、魔界、双方の見解らしい。

対策として、天界では近衛騎士団長であるペリアを人間界へ送り込み、一方魔界では俺の首に懸賞金をかけ賞金稼ぎを送り込むことにした。

 

 

……っておい!ちょっと待て!!

 

「クラシー、あんたはさっき16歳の誕生日で目覚めるって言ったよな?」

「そうよ、だから16歳になってないあんたはただの雑魚、屑、カスってわけ。力の使えないあんたなんか恐るるに足らず、殺すなら今しかないでしょ?」

 

雑魚はわかるけど……屑、カスってのはひどすぎだろ……

 

「でもさ……俺もう16歳なんだけど……」

 

 

 

場が凍った。

 

 

 

話が長かったせいか、船をこぎ始めていたペリアも目が覚めたようだ。

クラシーにいたっては、口を魚のようにパクパクとさせている。

 

 

「何でそんな大事なことを今まで言わなかったんですか?!」

ペリアは顔を紅潮させ、俺の首をがくがく揺らしながら怒鳴り散らしてきた。

……これは……かなり……苦し、い。

 

「大丈夫よ」

「「えっ?」」

 

クラシーは驚くほど冷静に冷たい声で言い放った。

 

「ようするに、力が目覚める前にぶっ殺せばいいのよ!!」

 

クラシーは両手に光を収束させ、禍々しい鎌を出現させた。

そのまま禍々しい鎌を振り上げ……。

 

「死っねぇぇぇええええ!!!」

クラシーは咆哮とともに振り上げた鎌を俺めがけて振り下ろした。

駄目だ、今回はかわせそうにない。だって……スローで見えてないし。

俺はついに死を覚悟した。せめて……できるだけ……痛くしないで欲しい。

 

 

 

 

 

「ふむ……あなたに彼を殺されて困るのですよ」

いきなり野太い声が聞こえたとともに、景色が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おいおい、今度はなんなんだよ? 本当にもういい加減にしてくれ……。

しかも、今度はおっさんかよ……。

 

「まずは、自己紹介といきましょうか。 私の名はクロム・クロイツフェルト。悪魔、ヴァンパイア族6大公爵が一人。以後お見知りおき下さい」

クロムと名乗った悪魔は、異常なまでに礼儀正しかった。悪魔とはいえ腐っても公爵ということか……。

 

「あんたも俺の命を取りに来たのか?」

わかりきっていることだと思うが、俺は念のため聞いてみることにした。

 

「いいえ、私はあなたの命などに興味はありませんよ」

「何だと? じゃああんたは何しにここに着たんだ?」

「私はただ、あなたの血が飲みたいだけですよ」

「「???」」

 

俺とペリアは頭に疑問符を浮かべたが、クラシーは何か思い当たる節があるらしく渋い顔をしている。

 

「おや、ご存知ありませんか? 我々ヴァンパイア族は何を糧にしているかということをね」

 

クックックなどという嫌味かつ古典的な笑い方をしてくる。

前言撤回。こいつぜんぜん礼儀正しくない、むしろそこらへんのやつよりずっと嫌味な言い方をしてきやがる。

頭にくるんだよなぁ……こういう奴って。

 

「ところでさ、ここはどこなのよ?

「ここは私の結界の中ですよ、あなたの部屋は少々手狭ですからね」

 

やっぱ……むかつくわ……こいつ。

 

「さて、如何なされますか? といってもあなた如きに選ぶ権利などありませんがね。さぁ! おとなしく喰われなさい!!」

 

一瞬でクロムは俺の視界から消えた。速い、ぜんぜん見えなかった。

どこだ? どこにいる?!

 

「雄哉っ! 左から来るわよ」

 

クラシーのおかげで間一髪、俺はなんとかかわすことが出来た。

無様な横っ飛びをした俺の横を何かが駆け抜けた。

ペリアだ。純白のドレスを翻し、敵に突進様子はさながら神話できく戦乙女のようだ。

俺はそんな彼女を美しいと思った。

そんな状況でも、そう思うような相手にもかかわらず思ってしまったのだ。

 

「ちょっと、いつまで惚けてんのよ?!」

 

そんな感情もクラシーの怒声によってかき消されてしまった。

 

「一体どういうことかな、賞金首を助けるなど賞金稼ぎであるあなたらしくもないな、クラシーよ?」

「うっさいのよ、バーカ。雄哉はあたしの獲物なの、あんたなんかにくれてやってたまるもんですか!!」

「私も同じ意見です。雄哉さんを始末するのは大天使様より授かった命です、私は近衛騎士団長として任務を遂行しなくてはなりません」

 

……なにやら物騒なことを言ってはいるが、二人ともどうやら俺を助けてくれるようだ。

 

「ちょっと雄哉?! 勘違いしないでよね! あいつ殺したら次はあんたの番なんだから!!」

「そうですよ雄哉さん、安心してもらっては困ります」

「でもよ、今だけは安心して背中を任せられるんだろ?」

 

二人は目を丸くさせて驚き。

 

「……まっそうなるわね」

「……今だけは、ですけどね」

 

そう言って俺に微笑んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ!それじゃあ俺は何をすればいい?」

「あたしらであいつを足止めする、その間にあんたは力を解放しなさい。あいつに倒す手段があるとすればこれだけよ」

「全身に神経を集中させて、力の解放を強く念じるんです。そうすればきっと出来ます、雄哉さんなら大丈夫です」

 

二人は俺を励まし、クロムへと向かっていった。二人が時間を稼いでいるうちに早く力を解放しなければ……。

 

「ふんっ!!貴様らごときに何が出来る?!!」

「純血種をなめんじゃないわよ!!」

「大天使様の名のもとに、あなたを抹消します」

 

2対1。数で勝っていても実力の差は大きいらしく、戦いというよりも実質遊ばれていた。

クラシーは槍を、ペリアはレイピアを獲物にしクロムへと攻撃を繰り返すが、すべてかわされてしまった。

二人の攻撃をかわしながらも、クロムには疲れる様子はなくそれどころか余裕の笑みすら浮かべている。

当たらぬ攻撃を何千、いや何万回繰り返しただろうか?

ついに、二人は疲弊しきってしまった。

 

 

「クククッ、どうしました? もう終わりですか? つまらないですねぇ。まぁいいでしょう、遊びは終わりです!!」

クロムは両手にどす黒い光弾を作り、二人に向けて放った。

光弾は一直線に二人を襲いかかった、先ほどの猛攻ですっかり疲弊しきっている二人にはかわす余力などあるはずも無く、直撃した。

 

「くっ!!」

「あうっ!!」

 

光弾を直撃した二人は別々の方向へと吹き飛ばされ、壁に激突しそのまま小さく痙攣するだけで、立ち上がる気配は無かった。

 

「クククッ愚かですねぇ……、たかが人間ごときのために体を張るなんて。まぁいいでしょう、これで邪魔者はいなくなりました。ゆっくり食事にありつけそうですね、それも極上の食事に」

 

クロムは倒れている二人には目もくれずにゆっくりとした足取りで俺に向かってきた。

 

俺は……。

 

「くそっ…ふざけんなよ、何なんだよこれ? 今まで平凡に生きてきた俺が実は天使と悪魔の子だっただ? そんなこといきなり言われても信じられるわけねぇだろ…。信じられるわけがねぇけどさ…。じゃあ何で…何であいつらはあんなとこで倒れてんだよ……。」

「クククッ、何を今更…。しょせん人間ごときが我ら魔族の力など扱えるわけが無いのだ。わかったらおとなしく私に喰われろォ!!」

「くそがっ! ふざけんじゃねぇ!! 今まで時間を稼いでくれたあいつらのためにも、何より俺のためにもあいつは倒さなくちゃならないんだ!!」

「無駄なことを……、いささか私も飽きましたよ、それではさようなら田口雄哉君。」

 

クロムは俺との間合いを一気に詰めて首にゆっくりと自身の牙を刺し込もうとした。

 

「こんなところで……こんなところで死んでたまるかぁーーーーーー!!! 俺の中に力があるってんなら今すぐ目覚めやがれ! あいつを倒す力を俺に貸してくれっ!!!」

叫んだ瞬間に俺の体は光に包まれ、そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の体に8枚の翼が背中に生えた。

半分は天使の翼、もう半分は悪魔の翼。体中に紋様が浮かび上がり、もはやそこには田口雄哉という存在は無かった。

そこにいたのは、輝かしいばかりの神々しさと、深き闇のような禍々しさを持った…………一人の青年だった。

 

「何だ、何なのだ? この魔力は……そんな莫迦な、人間が人間ごときがこのような魔力を持っているだと……認めん、認めんぞぉぉおおお!!!」

 

クロムはまたもや俺の視界から消えた……つもりになっている

俺はゆっくりとクロムに向き直り、頭を握り潰した。

 

「――――――――」

 

もはや声にならない声をあげ、クロムの存在は消えた。

クロムが消えると同時に、あたりを包み込んでいた結界も消滅した。

そして、俺の翼も消滅した。………………同時に俺の意識も消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に、俺が目を覚ましたのはなんと一週間後だった。

引越し用の荷物はすべて片付いてあり、これから生活していくのに何の支障も無かった。

ただ、あの日の出来事は夢なのか、現実なのか未だに良くわかっていない。

 

目覚めた次の日には、もう学校へ行っていた。

だが、一週間無断欠席をしたということにはこってりとしぼられた。

 

俺はこれから生きていくためのバイトを探すことにした。

ちょうどよく隣のメイド喫茶でちょうどよく店員募集していたから給金が良かったので応募したらなんと受かってしまった。

当然ながら、仕事になれば女装をする。股の間スースーしてはじめのうちは気持ち悪かったが、徐々に慣れてきた。

客の評判も案外いいのだ、どうやら男だと言うことはばれていないらしい……。

 

そんなこんなで時は流れ、俺は高校三年生になった。

そして高校三年生としての初登校日。

 

 

「ちーす」

俺は仲の良い男連中に軽い挨拶をしてから、席に座った。

現在時刻8時18分、一眠りできそうだ。

俺はいつも朝のHRまでの時間を睡眠に使っている。もちろんバイトによる疲労をとるためだ。

 

 

…………………………ん? 今日はやけに騒がしいな。

重いまぶたをこすり、目を開く。そこには…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、はじめまして。ペリア・リオリティーです。日本に来てからまだまもないので、何かとご迷惑をおかけいたしますがどうかよろしくお願いします」

「はじめまして。クラシー・トラクチャーです。私も日本来てまもないけど、皆さんよろしくね」

 

盛り上がる男連中、騒ぎの原因はそういうことだったのか。

……やはり、あの日の出来事は夢じゃなかったんだな……。

学校生活も残り一年だが、今までとは違う。かなり騒々しい一年になりそうだ。

……先のことを考えるのはよそう、余計疲れるだけだ。

 

とりあえず……寝るか……。

 

教室の喧騒と窓から聞こえる小鳥のさえずりを子守唄に、俺は夢の世界へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

どうも、今回が初投稿となるド素人丸出しのナオキと申すものです。

今後ともよろしくお願いします。

 

 

 

いや〜、しかし何ですかね、これは?

序文とぜんぜん違うますね、妄想ぶっ飛びすぎです。

しかも、この作品書いたのって実質二日くらいです、徹夜して書きました。

小説と言うもの自体今まで書いたことなかったので色々と苦労しました。

今回の件で、小説書き様の凄さがあらためてわかりました。尊敬いたします。

 

まず反省点としては前半はまだ良かったのですが、後半になっていくにつれて表現描写が雑になっていきました。

うぅ……読みにくくわかりにくい文章ですいません。

 

では、主催者である佐野さんへ

あらためて三周年おめでとうございます。

こんな素晴らしい企画を用意していただかなかったら、きっと私は小説を書かなかったと思います。

書こう、書こうとしてもいざ書こうとすると全然書けなかったりするんですよ私。

でも、今回に企画に参加してやっぱり小説を書くことは大変だけど、とても楽しいです。

ここはどうしよう、あそこはどうしようと悩み、考えることも小説を書くことの楽しみだということを、身をもって知りました。

これからは私も、頑張って投稿させていただきますよ、その時はよろしくお願いします。

 

最後に、こんな稚拙な文章を最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

思いっきり恥さらしてますね〜私、でも最初はそんなもんですよね?(ぇ、私だけ?

いいんです、これから努力していけば、最初から上手な人などいません。

みんな、努力したからこそ今の力があるんです。私も次に投稿するときまで精進します。

 

 

 

それでは、最後まで読んでくださった皆様本当にありがとうございました!!