その少女を呼んだ客は親子連れだった。
食べ残しが転がっているテーブルを慣れた手つきで拭いていたウエイトレスの少女は、ただいま参りまーす、と大きな…しかし澄んだ可愛らしい声で返事をする。
そして、汚れた布巾をそのテーブルに置き、客に見えないように小さく手を払うと、パタパタと小走りで親子のもとへと駆けていった。
母親の手には伝票が握られている。
会計なのだろう。
「お会計、失礼いたします」
少女がレジカウンタに入ると、母親が少女に伝票を差し出す。
それを笑顔で受け取ると、少女は伝票に書かれている内容を流れるようにレジに打ち込んだ。
まるで軽快にステップを踏んでいるかのような、テンポ良く、かつ無駄のない入力を終えて少女は顔を上げる。
「お待たせいたしました。お会計は1470円になります」
実際のところ大して待たせてはいないのだが、テンプレートに則り金額を読み上げた。
ミートソーススパゲティと野菜サラダ、アイスコーヒー、オレンジジュース、お子様ランチ。それにチョコレートパフェ。
これだけの量を注文してこの金額なのだから、この店は本当にお財布に優しいなぁ…とレジを打つたびに少女は思う。
もっとも、だからこそ今ここで接客出来る要員が店長と少女しか居ないわけなのだが。
本当はもうひとり接客要員のアルバイトがいるが、今日は来ていない。
一月ほど前から「今日は休む」と宣言していたので、今頃はどこかを遊び歩いているのかもしれない。
母親は伝票を見てあらかじめ用意していたと思われる1470円ぴったりの代金をレジカウンタの上の受け皿に載せる。
少女は金額を丁寧に確認してレジスターに入れ、ありがとうございました、と嫌味なくぺこりとお辞儀をした。
子供の手を引いて店を出る母親を見送り、最後にもう一度「ありがとうございました」と親子の背中に笑いかけ……そして、少女は目の前の壁に掛けられている時計を見上げた。
午後の2時10分。お手軽な値段の昼食を求めて来店した客も次第に減る時間帯。
店内には空いているテーブルが目立つようになってきた。
お昼時を過ぎれば、あとしばらくは遅い昼食を求める客が時折来店する程度。
基本的には勤務時間内でありながらもちょっとした休憩のようなひとときを過ごす事になる。
もちろん、少女も例外ではない。
レジカウンタの影で制服の皺を伸ばすと、少女は静かに息を吐いた。
お昼時の混雑で張り詰めていた気持ちがゆっくりと解けていくのが分かる。
今までは気付く事すらも出来なかった、店内に僅かに残る料理の匂い。
「……そういえば、私もお昼まだだったなぁ」
少女は眉をハの字にして小さく呟く。
きゅるるる。
そして間髪いれず、少女のお腹が切なげな鳴き声を漏らした。
少女は慌てて両手でお腹を押さえると、頬を真っ赤に染めて店内をきょろきょろと見回す。
目に付くのは空いたテーブルばかり。
奥に一つだけ、若いスーツの男性が席についているテーブルがあったが、当の男性は何かを書いているのか、食い入るようにテーブルを見つめたまま右手を忙しなく動かしていた。
この時間帯にはいつも同じ場所に座って書き物をしている、ある意味常連ともいえる男性なのだが、幸い少女のお腹の虫の鳴き声は男性の耳に入っていなかったようだ。
あるいは、耳に入っていても気にしていないだけなのかも知れないが。
少女はお腹をぎゅっと押さえたまま、ほっと息を漏らした。
ウエイトレスは食事時が一番の稼ぎ時であり、故に昼食や夕食は一般的な時間帯には食べられない事が多い。
自分のお腹が空いている時に他人の食事を眺めてなければいけないというのはもはや拷問でしかないのだが、いざ食事時になると忙しさのあまり空腹も忘れてしまうのはある意味幸運と言えるかも知れない。
もっとも、それは忙しい時間帯だけ。
食事時が過ぎれば、少女の中で無意識のうちに押さえ込んできた腹の虫がゆっくりと活動を再開するのだ。
そう、今のように。
「今ならお客さんも少ないだろうし、休憩を入れようかな…」
店長は客が引き始めたところを見計らい、少女よりも少しだけ早く休憩室に入った。
そろそろ、交代しても良い頃だろう。
お腹の虫に、そして自分自身に栄養を与えなければ。
少女は奥の席に座っている男性を見る。
相変わらず書き物に集中しているようで、少女を呼びつける様子は無さそうだ。
迅速に引継ぎをすれば、問題なく休憩に入る事が出来るだろう。
少女はそう思い、休憩室に向かおうとしたその時。
からーん、からーん。
店の入口に付けられたベルが鳴り響く。
先程の男性が外に出たとはさすがに考えられないので、おそらくは遅い昼食を摂りに来た客か。
ううっ、こんな時に…っ。
内心毒づきながらも、少女は全ての感情を笑顔の奥に隠して振り向いた。
「いらっしゃいませーっ」
…………。
少女、筑井 和希(つくい かずき)は、視界に入ったそれに言葉を失った。
入り口には謎の物体が立っていたのである。
白い箱に棒状の手足らしきものが付いていて、何故だか小刻みにブルブルと震動している。
箱の正面上部には、目とおぼしき楕円形の透明なプラスチックがふたつ並んでおり、黄色く光っていた。
あまりの空腹で頭がおかしくなって、人間が小刻みに震える白い箱に見えるようになってしまったのではないか?
そう思って、いつも奥の席に座っている男性の方を見る。
相変わらず食い入るようにテーブルを見つめたまま右手を忙しなく動かしている人間の姿がそこにはあった。
それを見た少女は自分自身がおかしくなったのではなく現実の方がおかしくなった事が解り、ほっとした。
つまり目の前にいるのは間違いなく白い箱に棒みたいな手足が付いて、何故だか小刻みにブルブルと震動している物体なのだ。
「オジョウサンニ訊ク。ココノ店長、会イニキタヨ。ドコイルカ?」
謎の物体が来日したばかりのタイ人ばりの口調で少女に話しかけてきた。
その言葉の意味から察するに、どうやら店長に会いたがっているようである。
もしかしたら店長の知り合いなのかもと少女は思い、少々お待ち下さーいと、いつも通りの大きな声で言おうとしたが失敗してしまった。
ぎゅるるるるるぅ~。
口の代わりにお腹の虫が、「はやく食べ物を摂取せな、わて死んでまうで」と叫ぶかの如く、店内に大きく鳴いた。
和希は恥ずかしさで顔全体が沸騰しているかのようにみるみる真っ赤になっていく。
奥の席に座っている男性が不思議そうな顔をして、少女の方をちらっと見た。
少女は溢れるほどの恥ずかしい気持ちを胸に、お腹を両手で押さえながら、その場から逃げるように小走りで店長のいる休憩屋へと向かっていった。
休憩室は店の一番奥にある。
室内は禁煙で、従業員ロッカーと掃除用具入れ、それと何故かカラオケ機材が完備されており、店員ならばいつでも歌い放題やり放題の状態になっている。
ただし、それを使って唄えば店内に声が隅々まで響き渡るというおまけ付きである。
過去に何も知らなかった和希はこのカラオケを使って<天城越え>を唄い大恥をかいたことがあったりするが、それはそれとして少女はそこへとかけていった。
「てんちょー、そろそろ交代して…」
休憩室の引き戸を開けて和希が入りかけた瞬間だった。
頭上に何かが落ちてきた感覚と、ぽすっと気の抜けた音がし、白い煙みたいなものが舞った。
一体何が起きたのかが理解できず、少女はその場で立ち尽くす。
地面にはチョークの粉が沢山付いた黒板消しが落ちていた。
なんでこんなものがここに?
そう思いながら少女は白いお腹を見せている黒板消しを見つめる。
そして休憩室に少女ではない別の誰かの声が響いてきた。
ダンディーなお髭を生やしたナイスミドルの店長、伴 秋彗(ばん しゅうすい)の笑い声だった。
まさかここまで思い通りにいくとは思わなかったという感じで笑っている。
その店長の姿を見て、初めて黒板消しをイタズラに使ってやろうと考えた輩を市中引き回しの上、打ち首獄門にしてやりたいという怒りで少女は顔が真っ赤になった。
「てんちょー!」
強制的に白髪にさせられた和希は出来る限りの怖い顔で店長をにらみつけた。
「あはは、すまんすまん」
今日も絶好調にダンディーな店長は、顔の前で手のしわとしわを合わせて謝る仕草をした。
それにあわせて頭を何度も赤ベコのようにカクンカクンと上げ下げている。誠意のかけらが微塵もない謝り方だ。
もしかしたら、こんなイタズラをはじめて考え付いたやつに向かって、なんとなく敬意を表していたのかもしれない。
なぁ~むぅ~。
ぎゅるるぎゅぎゅるるぅーっ!!
店長が和希に謝っていると、和希のお腹の虫が、「もう限界でっせ、はよ何でもいいから腹に入れておくれやす」と、悲鳴を上げた。
その悲鳴で店長は放っておけば死んでしまうのではないのかと思うくらいの爆笑ぶりを披露してしまう。
結果、少女の中の何かが鈍い音とともに切れ、鬼の形相で烈火の如く店長に飛びかかっていった。
「てぇーんちょーっ!!」
きっと黒板消しでイタズラをしたことがあるやつ全員に対しての宣戦布告の意味もあったに違いない。
人間お腹がすいていても、戦争が出来るくらいの勢いは意外と残されているものである。
「あーははは! ひぃーひひ! すまんすまん、あーっはははは・・・・・!!」
それからしばらく休憩室の中で、腹を抱えて笑う店長と頭にチョークの粉が付いた少女の追いかけっこが続いた。
「ソレデハ、ゴ注文ヲ繰リ返シマス。マグロノ兜焼キガ3ツ、スパゲッティミートソースガ12人前、ウニノ軍艦巻キガ3貫デスネ」
「えーっと、あと牡蠣の土手鍋もよろしくッス!」
「ヨク食ウナ、オマイラ。ハラ壊スデナイゼヨ」
その頃、店は接客要員が不在となり、接客の滞った店内では、謎の白い四角が和希に代わってウエイトレスを勤めるという異常事態が発生していた。
「アノムスメッコ、感情ニ惑ワサレ自ラノ役割ヲ忘レルトハノォ。社会ニ出テカラ苦労スルゼヨ」
黒のメイド服を着た四角が毒づく。
口調はタイ人から、土佐出身の浪人風のそれへと変貌していた。
ここは休憩室。
横倒しになったカラオケセット。掻き毟ったような傷跡が生々しく残る壁紙。
床に破損したロッカーから散乱したエロ本とか同人コピー誌とかのり玉ふりかけとかあとこけしとかこけしとか色々。
そんな荒れ果てた室内にて対峙する、強制的に若白髪になることを強要された怒りを胸に空腹というハンデを背負いつつも戦い抜いた汗まみれの少女と、顔に108と3の引っかき傷を負い、せっかくのダンディーな雰囲気をかもし出していたおヒゲも台無しな店長。
「ぜぇー、ぜぇー、そろそろ、こ、交代してください、てんちょー!」
「わ、分かった分かった、ゆっくり休め。後で修正してやるからな!」
左手でヒゲを直しながら、右手で和希にむかい中指を突きたてた。俗に言う○ァックのポーズ。
「修正すべきはテメーのちょっとお茶目だと思ってるそのイタズラ癖だコノヤロー」
頭から蒸気が出ている和希はミルコも裸足で逃げ出すほどの前蹴りで店長を休憩室からはじき出す。
千鳥足で店長がレジカウンタのほうに消えた後、和希は何か言うことがあったような無かったような気がしたが、床に落ちていたのり玉を見た瞬間に空腹を満たすことで頭がいっぱいになった。
店長がカウンターへ出てみると、小刻みに震える白い四角が接客をしていた。
そして、恐らく分裂して役割分担でもしたのだろう、もうひとり(?)の白い四角がレジを担当していた。
音速に匹敵するスピードで入力を終え、駅前のアパートに住んでるミャンマーからの留学生パンテッツェラート・ガドゥルボウさん(22)を想起させる片言で金額を客に告げている。
「マグロノ兜焼キガ3ツ、スパゲッティミートソースガ12人前、ウニノ軍艦巻キガ3貫、ソレニ土手鍋、ソノ他モロモロデ2100円ニナリマス」
数字の桁をひとつ間違えているとしか思えない出血大サービスのしすぎで、来店した人全員が失血死すること請け合いな安さである。
とっても安くて救急車がよく来ちゃう、ダンディーなヒゲ店長のいるお店。イメージは最悪だ。
しこたま食いまくった客たちは勘定を済ませると、つまようじでシーシーしながら店を出て行った。
「アリガトウゴゼーマシタ。マタ来テチョンマゲ」
レジ打ちをしている白い四角の大きな…しかし澄んだ可愛らしい電子音声を最後に、店内は静まり返った。
午後の3時4分、ちょうどおやつ的な時間帯である。
「お、ご苦労だったねキミィ」
まともな人間が見たら発狂しそうな店内の状況に突っ込む素振りなどまったく見せず、店長はレジ打ちをしていた方の白四角の肩(だろう)に手を置いて告げた。
レジ打ちをしていた四角に店長のダンディー成分が流入し、立派なおヒゲが生えてきた。
普通の神経を持つ人間であれば、電光石火の勢いで突っ込みまくるだろう。
「何者だお前は!?」「なんで接客とレジ打ち勝手にやってんだ!?」「うわっ、ヒゲ生えた!?」等、終いには「あぁーもうどこから突っ込んでいいかわかんねー!!」てな具合に。
だが、店長は突っ込まない。
普通じゃないのだ、この男の精神は。残念ながら。
バイトの女の子に「黒板消しを引き戸に仕掛ける」なんて、30年前の不良がちょっと気になる女性の教師に仕掛けるようなイタズラを実行するような精神の男が、どうしてアンビリーバブルな状況に突っ込むスキルなど持ち合わせていようか。
「ホホウ、アンタガ店長カ」
ヒゲの生えた白い四角の目が、ぺかぁ~という擬音が聞こえてきそうな感じに怪しく黄金色に光り、激しく点滅を始めた。
「待ッテイタゾ、アンタガ来ルノヲ」
白い四角は顔面(だろう、多分)を、ウィィィンという機械的な音をさせて店長に向けた。
「ウヌニ、物申シタクテゴザル」
振動が大きくなった。分かりやすくいうと、小刻みにブルブル→大きくガクンガクン。
「ソレガシモ、ウヌニ物申シタクソウロウナリ」
接客の方を担当していた白い四角が、レジ打ちをしていた白い四角と同じく目を点滅させながらカウンターへ向かってきた。
「遅れたことならすまん、謝る。ちょいとバイトの女の子がな…」
「「ソノ、ムスメッコノコトデゴザルヨ!!」」
白四角二人組は声を見事にハモらせた。
「アナータ、店員ノ教育ガナッテナインジャナイノ!? 感情ニ流サレテ仕事ヲ忘レルナンテ、サービス業ヲ行ウ者トシテノ心構エガデキテナイYO」
段ボール箱の上に仁王立ちしながら説教をたれる、ダンディーなヒゲの生えた、黒いメイド服を着た白い四角。
「す、すまない…」
床に正座させられて説教を受けている店長。
「イツデモオ客様ノコトヲ第一ニ考エテ自分ノ取ルベキ行動ヲ取捨選択スルコト、コレ基本YO!」
店長の近くで奇妙な踊りをしているもう一個の四角。
「う、う…」
穏やかな昼下がり、小さな飲食店。
その中は今、目を点滅させながら中途半端なラップ調に説教する白い四角×2と、その説教に頭を垂れて聞き入るダンディーおヒゲ、そして奥のほうで熱心に右手を動かすスーツ姿の男性という、何とも形容しがたい異様な空間であった。
「……あんだーすたんどシマシタカイナ、コノぼんくら店長メガ。シマイニャ怒ルデシカシ! ナァきー坊」
「誰ガきー坊ヤネン」
「シマイニャ」とか言いつつ既に怒っている方の四角が、今まで上に乗っていた段ボール箱を降りて、それを店長に投げつける。
店長のたれていた頭のてっぺんを直撃した。
「はい、以後、気をつけます」
しぼむように小さくなっている店長。それでもおヒゲはダンディーだった。
「ウム、分カレバヨロシ」
説教し終えた白い四角×2は満足そうにずれた眼鏡を治すときの仕草をまねた。
そして、くるくると回りながら身体の形状を三角錐へうぞぞぞっと変形させた。
変形完了後、一泊おいて白四角×2は跳躍して店長から間合いを取る。
「我、オ前ヲ殺スタメニ送ラレタ刺客ダッチャ。氏ネィ裏切リモノ」
まるでダーリンの仇でも取るかのごとく、勢いのある電子音で啖呵をきった。
「お前ら今三角錐じゃねえか!」
普通の精神を持ち合わせていないダンディーな店長でさえ突っ込みたくなるほどに三角錐であった。
「シマッタ、ぎゃぐノ意味ガナクナッテシマッタ」
店長の一言で白い三角錐×2はたじろいだ。
どうやらこいつら、伊達や酔狂でそんな姿をしていたらしい。
「…マアヨイ。イクゼヨ、兄者!」
「オオ! ヒッサツゥ! グンマ特産タビガラスアッタク!」
説明しよう!
『必殺・群馬特産旅がらすアッタク』とは、己の姿を三角錐に変え、莫大な推進力で相手に突っ込むことにより、どんなものでも貫いてしまう、恐るべき必殺技なのである!
技名には、どんなに固い装甲も、この技の前には群馬の特産品である「旅がらす」というお菓子同然という意味が込められているのだ。
なお、あの物体に使用されている音声システムのバグで『アタック』と発音できないのが弱点である。
ミサイルのような勢いで店長へと肉薄する白い三角錐×2。
その場にいた誰もが
「ぬおおおお!!」
裂帛の一声とともに、両腕を掲げる店長!
店長へ突っ込む白三角錐×2!
書き物が佳境へ突入したらしく、ペンをガリガリ言わせながら書きなぐるスーツ姿の男!
三丁目の銭湯でフルーツ牛乳を堪能する、駅前のアパートに住んでるミャンマーからの留学生パンテッツェラート・ガドゥルボウさん(22)!
店内の様子など知る由もなく、また制服が汚れることなど構わず、ありったけの食料を喰って食って喰いまくる和希!
滅び行く世界、吹き荒れる嵐。まさにこの瞬間、この世に存在する<緊張感>とよばれるものはおおよそ全て、この店内に集中していた。
それは、光の速さにも匹敵する、ただ一瞬の攻防だった。
空気は心太みたいに裂け、地はゼリーのように震撼し、猫がにゃーと嘆いた。
轟音が店のガラスをビリビリと揺さぶり、衝撃波で椅子やテーブルが弾き飛ばされる。
こんな状況でもスーツ姿の男は書き物に集中していた。
店内から発せられた、世界の中心で何かを叫んだ気がする爆音は、休憩室にいた和希の耳にも届いた。
空腹を満たしている途中だった彼女は急な音に驚いて、大口あけてほおばっていた特大シュークリームを喉に詰まらせた
急いで休憩室にある蛇口で水を飲もうとしたが、どうやら壊れているらしく、全開にしても水滴が少したれてきただけだった。
(助けてください、助けてくださーい!)
鼻頭に付着したカスタードクリームと、口からはみ出るスパゲッティ&手羽先がなんともチャーミングな雰囲気をかもし出している和希は、胸をドンドンと激しく叩きながら、慌ててカウンターへ水を飲みに向かった。
(私の、世界の中心は、蛇口だ!)
ちなみに彼女、恋愛経験はゼロである。
食べかけのシュークリームを片手に、そこで和希が見たものは。
めちゃくちゃになった店内。
隅っこで黙々と何か書いているスーツの男。
小刻みに震える白い三角錐×2を人差し指と中指であたかも両手でピースサインをしているように受け止めている店長。
少しの間、喉に食べ物を詰まらせていたことを忘れるのには十分な状況であったとさ。ちゃんちゃん(効果音)。
「………」
和希は慌てず騒がずゆっくりと、少し蛇口が曲がってしまっている水道で、ひび割れたコップに水を汲んで飲んだ。
まだ喉の奥のほうでつっかえている感じがしたので、落ち着いてもう一杯水を汲んで飲む。
「えーっと、うーむ、そうだなぁ…」
少女はまるでショウケースに入った宝石を(ちょいと裕福そうに見えて、実は家計が火の車状態のマダムが)品定めするかのように、人差し指を顎に当てて思考をめぐらす。
そして、大きな…しかし澄んだ可愛らしい声で叫んだ。
「あああああぁぁぁぁーーー!!!」
とりあえずなんと言ったら良いのか分からないので、叫んだ。
否、ただ叫ぶことしか出来なかった。
それとほぼ同時に今までぶるぶると震えていた白い三角錐×2の振動が止まった。
「だでぃニオッカサーン、先立ツ不孝ヲ許シテチョンマゲ…」
ポツリと時世の句――ではないが、なんとなくそれに近い雰囲気をかもし出した言葉を呟いた白三角錐×2が突如として自爆を決行した。
そのときに楕円形の目から、涙がキラリとこぼれたのは気のせいではなかったと思う。
「わ、私の店が…」
「まだお昼食べ終わっ…」
「あのー、コーヒー下さ…」
白い四角×2を受け止めていた店長を爆心地に、財布に優しいお店は閃光の中へと溶けていった。
私ね、ずっと夢見てたの。
いつか、白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるって。
威風堂々とした佇まいで、菊池俊輔作曲の勇ましいBGMに合わせて、きりりとした笑顔を振りまきながら、海岸をパッカラパッカラ駆けていくの。
その王子様ね、暴れん坊なんだけどとっても強くて優しくて、いつも従者をふたり連れて、町に繰り出して悪者を密かに退治してるんだ。
そいで、船越英二演じるじいやがいっつもその王子様を心配してて……
――成敗!!
和希の甘い幻想に満ちた夢は、天井から落ちてきた冷たい滴の一撃で覚めた。
少女はさっき見た夢だったら覚めないままで、永久に幸せであり続けたいと願った。
しかし、覚めてしまった以上は嫌でもなんでも現実と向き合わなければならない。
現実がおかしくなったのなら、さっきまで見ていた夢みたいになっていたらよかったのに。
どうして白馬に乗った王子様じゃなくて、なんか振動してる物体がきてしまったの?
数多くの「どうして」と「~ならよかったのに」が少女の頭の中で繰り広げられる。
でも、それらは自分の夢の延長線でしかない事に気づいていた。
「現実の…、現実のばかやろう」
一言毒づいたあと、ある疑問がぽっかりと浮かんだ。
「はて、ここ何処だろ?」
少女は寝ている状態だったので起きようとしたが、ところどころ身体に痛がはしり、上体を起こすので精一杯だった。
とりあえず足はついていたので、幽霊になってしまったわけではなさそうである。
あたりを見渡たしても、あるのは暗闇のみ。
ひんやりとした空気の中に、時折生暖かい風が少女の肌を舐めまわすように吹いてきたりした。
背筋にいやな感触の悪寒が走る。
名スレの悪寒。
「もしかして私、生きたまま地獄に落とされちゃったワケ?」
和希はがっくりと肩を落として大きなため息をついた。
地獄といえば閻魔様である。ほとんどの場合ひげが生えた大男みたいに描かれているものが多いが、もしかしたら閻魔様自体はそれほど悪人面ではなくて、嫁さんのほうがものすごかったりするのではないのか。舌を抜かれるのはその嫁さんの趣味なのではないのか。
そのようなことを時折思ったりしているのだが、本当のところ死んでみてみなければわからないことなので、最近はそういったことはあまり考えていない。
少女は今までの人生を振り返ってみると、覚えているだけでもかなりの数の嘘をついてきたので、閻魔の嫁さんに舌を抜かれることは確実である。
あれ、閻魔様に会ってから地獄に落ちるんだっけ?
まぁ、いいや。
少女はせめて舌を抜くときには麻酔くらいかけてもらいたいなと思いながら、いままで迷惑をかけてばっかりだった人々に一言だけでも謝っておけばよかったと、こんな状況になってから感じている自分が情けなくなっていた。
人間というものは、行動したときの後悔よりも、行動しなかったときの後悔のほうが大きくなる。
どこかで聞いたことのあるフレーズを思い出してもあとの祭り。花火は燃え尽きた。
「どうやら気がついたようだな」
後ろの方から声がした。
閻魔様が赤コーナーから入場してきたのだと思い、挑戦者の少女は最早これまでと観念する。
「こちとら既に覚悟は完了済み。さぁ、舌でも何でも抜くがいいさっ!」
声が聞えた方に向かって勢い良く振り向き、大きく口を開けた。
何とも男らしい、否、漢らしい態度であった。
「舌より先に、親知らずを抜いたほうがいいんじゃないのか?」
そこにはダンディーな雰囲気をかもし出しているおヒゲを生やしたナイスミドルの店長が、少女の口の中を覗き込んでいた。
暗闇だからだろうか、いつもよりも悲しみのダンディーっぽさが30%(当社比)ほどあがっていたような気がする。
きっと可憐だった過去なんかを憂いてみちゃったりなんかしていたのだろう。
少女がよく生きていましたねと言うと、あれくらいなんでもナッシングさ(キラリン・と、さわやかに店長は返した。
「てんちょーも生きたまま地獄に堕ちたんですか?」
「何言ってんだ? ここはお前ん家の地下100mくらいの場所だ」
和希は五センチほど飛び上がった。
「なんで私ん家!? しかもこんな地下の存在なんて今の今までこれっぽっちも知らなかったし」
「んーと、そのときの気分?」
「気分ごときで作らないでください」
和希、心の一句。
『キチガ○に 求めちゃならぬ 説得力』
今彼女は、ハンカチを持っていたら口にくわえて泣きながら「キイィー!」てやりたい気分だった。
そりゃあもうヒステリックに「キイィー!」って。
「The kettle should be able to fly over the sky….それが若い頃からの口癖でね」
「やかんはきっと空の上を飛べるはず、だぁ?」
和希の恋愛経験はゼロだが、英語の成績は4(5段階評価)である。
何でもかんでも数字で表現しようとした時代の哀しき影がちらほら見られるようになった昨今。
店長は、数字では無い何かをたくさん持っていた、幼きあの頃の少年のような瞳で、ここではないどこか遠くを見つめるような感じに言った。
「夢は、叶えるために抱くものだ。そうは思わんかね?」
「は、はぁ…」
和希の夢は勿論、白馬に乗った暴れん坊の王子様をじいや付きでゲットすることである。(じいやは演:船越英二が理想)
「だから私は、汗と涙とその他いろんなものの結晶を、君の家の地下で、作り上げたのだぁ!」
「なんで私の家に! いつの間に?」
和希の至極まっとうな突っ込みには耳も貸さず、店長は指パッチン。
「ライトアップ・プリーズ!」
そういった後、店長は暗闇のどこかに消えて、何かのスイッチをいれた。指パッチン無意味なことこの上無し。
数条の光線が点灯し、暗闇の中照らし出された、巨大なやかん。紛れも無い、やかんそのものである。
鈴色を湛えた体躯、ひょっとこのようにくねった口。やはりどこからどう見ても、やかんである。
「俺はやかんじゃ、文句あるんかワレェ!?」とでも言いたそうなほどに、やかんであった。
それを見た和希はというと。
「はぁ~、ウチの地下100mにこんな広い場所があったなんてね~」
……決して現実逃避しているわけではないのだ、信じてくれ。
ただ目の前で展開される出来事が超スピードなせいで、驚く速度が間に合っていないのだ。
現在、和希の驚く順番は「ライトによっておぼろげながら判明した、自分ん家の地下100mの場所の広さ」である。
この後「なぜ巨大なやかんなのか?」「いつの間にやかんなぞ作ったのか?」ときて、最初の「なんで自分の家の地下に?」に戻ってくる。
ついさっき『○チガイに 求めちゃならぬ 説得力』と詠んだばかりだというのに。
悲しいかな、理解と納得が別次元というジレンマは、心を持って生まれくるヒトが背負う、悲しき業なのだ。
そんなこんなで、一時間ほど経過した。
「そもそも、なんでヤカンなんだこのイカレポンチが!」
「夢だよ、夢」
和希は頭を抱えた。そしてかきむしった。
「そんじゃ、さっきの爆発物はなんだったワケ?」
ようやく和希は無限ループの条件から抜け出す質問をすることに成功した。
「たぶん昔いた組織関係かな?」
英語で言うならば<maybe>ではなく、<probably>くらいのニュアンスで店長は答えた。
「あんたいったいどこまで胡散臭いんだ…」
「ティッシュ配りから要人暗殺までそつなくこなす組織。私はそこの四天王のひとりだったんだぞぉ」
店長は鼻高々に、どーだ凄いだろうと、威張りながら言った。
和希は頭痛がしてきた。脳みその中心で針の化け物が「もけけけけ」とか鳴きながら暴れ狂っているような痛みだ。
そんなバカなと言おうとしたが、もう今まで遭遇してきた出来事が十分すぎてお釣りがもらえるほどに「そんなバカな」なので、間違いなく本当だろう。
というより、そう思うことに決め込んだ。もう一切合切肯定して話を進めるしかない。
突っ込んでいたらそれだけで一生分のスタミナを使い切ってしまうだらう。
「しかし、組織で働いたはいいが、ある日このままではいつまで経ってもやかんを空へ飛ばす夢は叶いそうにないと悟ってな」
夢を叶えたいという気持ちは分かるが、悟るな。
「だから、私は組織から反重力空間制御の資料をチョチョイと拝借して、飲食店を経営する傍ら、地下でこのやかんを造っていたというわけだ」
「それって、勝手にネコババして逃げた、てこと?」
「アホなことぬかすでない、ちょいと無期限で借りただけだ!」
「同じコトじゃない…」
呆れ返る和希を前に、店長は続きを語った。
その日以来店長は組織に追われており、次々に現れる刺客に命と資料を狙われたが、その都度返り討ちにしたこと。
一向に進展しない事態を見かねて、組織の上層部「四天王」の残り3人が動き出したこと。
白い四角は四天王直属の部下、「石部金吉」と「名無権兵衛」であったこと。
そいつらの爆発のおかげで店が全壊し、近辺の家屋にも被害が及んだこと。
近頃、四天王の一人が仕事よりも恋愛のほうを取り始めていること。
大切に飼っていたセキセイインコのアイカワくんが昨日逃げてしまったこと。
ついでに言うと、和希の家の地下にやかんを造ったのは、店長と和希の父が昔馴染みだったから。
「あいつと私はその昔、ふたつに分けた鯛焼きを頭の部分と尾の部分どちらにするかで殺り合った仲でな」
あまり、絆は純粋なものではないようだったが。
「それにしても、その組織が送り込んだ四角(刺客)、『石部金吉』と『名無権兵衛』だったっけ…それって、ネーミング適当すぎない?」
「テキトーじゃないもん!」
突如響いた甲高い声に、和希と店長の意識が声のした方へ集中する。
そこには小学生くらいの、ツインテール垂らしたちいさな女の子がいた。
レースのついたフリフリのワンピースを着て、怯えた仔犬みたいにふるふると震えている。地下100mが寒いのだろうか?
妙にほんわかとした空気を纏っており、和希はちょっとだけ癒された気がした。
「な、貴様は、真珠星!?」
しかし店長は巨大な蛇に出遭ってしまった時の食用蛙のような緊迫した表情をしていた。
「そう、夜空に燦々と煌めく真珠星、晩春のスピカ。それがくるみのことだよ!」
くりみと名乗った女の子は、くるっと回って可愛らしくポーズを決めた。
そして、一度聞いただけでは到底覚えられない自己紹介をした女の子は、食用蛙に出会った巨大な蛇のように喜色を浮かべた。
「というわけで、おいでませ、くるみの精鋭さん達~♪」
くるみが両腕をパタパタさせると、白い箱に棒状の手足らしきものが付いていて何故だか小刻みにブルブルと震動している物体が、背後から大量にわらわらと言いながら出てきた。
わらわらわらわらわら…
わらわらわらわらわら…
『溺れるものはわらをもつかむ』という諺があるが、これほどわらがあれば両手でつかみ放題だろう。
そんなことを思ってしまうほどに白い四角がわらわらと地下を埋め尽くした。
「さっきはしくじっちゃったけど、これだけあれば仕留められるもんね!」
自信満々にくるみは白い四角集団の中に呑まれながら言った。
呑んだら乗るな、乗るなら呑むなである。
お酒は二十歳になってから。
「やぁ~ん、前が見えないよ~」
自分が連れてきた白い四角の群れに飲み込まれ、くるみはその姿を消してしまった。
わらわらわらわらわら…
わらわらわらわらわら…
ひとしきりもみくちゃにされ、髪やら服やらがシワシワのヨッレヨレになったくるみが、まるで巨大生物から吐き出されるようにして、床にうつ伏せ状態でベチンという嫌な音をたてて投げ出された。
くるみはゆっくりとした動作で立ち上がり、埃を払うと、眦に涙を浮かべた。
痛かったらしい。泣いてしまいそうなのを必死でこらえているらしい。
そんなくるみに近寄り、優しく肩を抱く白い四角が一体。
「クルミサマ、今ハ思ウ存分泣キナハレ。大人ニナッタラ、涙ヲ見セテイイトキガ限ラレテキマスケエノォ」
「…う…えぐっ…くるみ、子どもじゃないもん…くるみ、もう大人だもん…」
次から次へとあふれ出す涙を、必死に拭うくるみ。
「…ぐすっ…コレだけっ…の数なら…あんたなんか、あんたなんか…」
くしゃくしゃの顔でくるみは店長を睨みつけたが、まるでアスファルトの道路の上でうねうね動くみみずのようだった。
初登場時は大蛇のようだったのに、ずいぶんと矮小化したものである。
あ、もとから小さかったか。
「…ドカンって、ぜったいに倒せるもん」
さっきの四角×2だけで店が全壊し、近くの家屋までに被害をもたらす威力なのだ。
これだけわらわらと大量にいれば、どれほどの威力になるのか想像もできない。
「だが、ここでアレを爆発させればお前もただではすまないぞ」
店長がそういうと、くるみはそれを想定していなかったようで、目を丸くして固まった。
そして数秒たった後、眦にあったダムの放水が始まった。
それにともなって、小さなスピーカーから大きな警告サイレンが鳴り響く。
びいいえええええん!!
「あー、小さい子泣かしたー。てんちょーが泣かしたー。いけないんだー」
和希は店長に冷ややかな目線のレーザー光線を食らわせる。
「な、なにを言うか! 昔から言うだろ、『噺家殺すにゃ刃物は要らぬ 欠伸ひとつで即死する』ってな」
「その“あくび”をした人が言うことですか?」
というより、状況と言葉がまったく関係ない。
「クルミサマ、飴アゲルカラ泣キヤンデクダサイナ」
白い四角たちは小型スピーカーをなだめるべく、必死になっていた。
そんな姿を見ていた和希は店長のことなんか放っておいて、四角と一緒になってくるみをあやし始めた。
「よしよし、いい子だから泣き止んで。ほら、お姉ちゃんがついてるからね」
「……ぐすん…ひっく…子どもじゃ、ないもん…くるみ、子どもじゃないもん…」
和希と四角達にあやされること、15分。
どうにか泣きやんだくるみは、何やらリモコンらしき物体を取り出した。
板チョコにアンテナがくっついたような『つくっ○あそぼ』的な素朴さが感じられるデザインだ。作ったのはわ○わくさんだろうか?
「いくよぉ、みんな! フォーメーションPZ、プログレス・ジョイント!!」
目が充血気味な少女が何やら仰々しく叫び、リモコンを操作する。
未だに声には泣きじゃっくりが混じっていたが。
「よかった、くるみちゃんが泣き止んでくれて」
「状況を悪化させたことに気づけ、このアマ!」
「んだとぉ、泣かすぞヒゲ!」
和希と店長によるけんかの安価売買をよそにして、くるみの声と操作を合図に、白い四角の集団がもぞぞぞぞっと寄り集まり、大きな蛇みたいな形になった。
頭の部分にはぺろぺろキャンディーを舐めているくるみがちょこんと座っている。
「くるみはもう大人だから、ただじゃ済まなくてもいいんだもん!」
くるみはくるみなりに、腹をくくったらしい。
しかし哀しいかな。人間というものは、得てして大人になればなるほど、守るべきものや大切なものが増えてゆき、「ただじゃ済まなくなる」ことを怖れるようになっていくものである。
それが分かってないあたり、まだまだお子ちゃまだ。
「くるみはお子ちゃまじゃないもん!」
はいはい、そうですか。
そんなこんなで、くるみの乗った白い大蛇は、技名を叫びながら店長に突撃してきた。
「一撃デ決メタルデェ! トチギ名産カンピョウアターック!!」
説明しよう!
『栃木名産・かんぴょうアタック』とは、合体した白い四角が目標物に巻き付き、自爆することで目標物を完全に破壊することが出来る、防御不能の必殺技なのだ。
相手に巻き付く姿がまるでかんぴょうに巻き付かれているように見えるので、その名がついたそうである。
ただし、この技の使用時にはコントロールのための操縦者を必要とする。操縦者は勿論、かんぴょうと一蓮托生。まさに文字通りの自爆技なのだ。
妙にでかくて太いかんぴょうが店長の周りをぐるぐると高速で回り始める。
回転する輪は徐々にその円周を狭め、店長へと迫ってきた。
「わ、私はかんぴょうが苦手なんだー!」
店長の意外な弱点が判明した。
顔面真っ青になって、ダンディーなおヒゲはだらしなく垂れ下がり、ダンディー成分が今月に入って初めてのマイナス値を記録した。
脚は内股になり、奥歯がガチガチとうち鳴らされる。
よほど嫌いらしい。
「それがアナタの断末魔? ばっかみたい」
大きなかんぴょうの上で黒い微笑を浮かべるくるみ。
全身かんぴょうに巻かれ、最期の刻を待つのみとなった店長。
とりあえずやかんの中に避難してみる和希。
青ざめた瞳、見つめる炎。最後の瞬間は刻一刻と迫っていった。
「ちぇっくめいと、終わりだよ!」
アワ吹いて気を失っている店長の姿に、くるみは勝利を確信する。
くるみは板チョコみたいなリモコンのスイッチをポチっと押した。
…………………。
しかし、何も起こらなかった。
くるみはおっかしいなーと言いながら、何度もボタンを押し続ける。
仕舞いには怒ってリモコンをげんこつでぐしゃりと潰した。だがそれでも何も起こらなかった。
「…う…えぐっ…どうして、なの…?」
最後のところで店長を仕留められなかった悔しさで、くるみはまた泣き始めた。
もしかしたら、殴った時に手を痛めて泣いているだけなのかもしれませんが、とりあえず泣いていることは確かですのよ、奥様。
「ソウイヤ今日ハ、すーぱーノ特売日ダッタナァ…」
「閉店一時間マエニ行ケバ、れじニテ全品表示価格カラ30%割引デッセ」
「ソリャエエコト聞イタ。チョウド醤油切ラシテタトコナンヨ」
合体した白い四角たちはおろおろといいながら、どうしたらいいのか困っているようである。
「…う…えぐっ…ぐす……」
やかんの中に避難していた和希は、泣き始めたくるみをあやしに行こうと思ったが、花火は途中で導火線の火が消えてしまっても、決して中を覗いてはいけませんと厳しくいわれていたので、あやしに行くのはやめた。
不用意に近づいて、いきなりドカンとかんぴょうが爆発してしまった日にゃ、笑い話どころじゃない。あはは。
「がんばれー、負けんなー!」
笑い話になる代わりに、和希はやかんから澄んだ可愛らしい声で、できる限りの声援を泣いているくるみに送った。
しかし…。
「ちかぁーらのぉー限りぃー、生きてぇーやれぇー!!」
マイナスになっていたダンディー成分を取引終了間際に通常の値へと戻し、店長が叫んだ。
どこをどう間違ってしまったのか、和希の声援はくるみではなく、アワを吹いて気を失っていた店長の方に届いてしまったのようである。
引越しの際に、絶対に店長は『いらないもの』の段ボール箱へ入れてやろうと和希は思った。
「ふんぬっ!!」
店長はぐるぐると全身に巻きついていた、妙にでかくて太いかんぴょうみたいな物体を気合ひとつで弾き飛ばした。
弾き飛ばされた物体は、あべし! たわぱ! とか言いつつ粉々になりながら地下室に散らばる。
白い四角たちだった欠片は白い花吹雪のようにあたり一面に舞った。
そして、白い四角たちと一緒に吹っ飛ばされて地面に勢いよくしりもちをつき、あまりの痛さに悶絶しているくるみのもとに、ほぼ原形をとどめている状態の四角がガシャリと音をたてて落ちてきた。
「…ク、クルミサマ」
各所にひびが入りそこから火花が出ている四角は、棒状の手らしき部分をくるみに差し出してきた。
「…アッシヲ、使ッテ、クダセェ…」
「でも…」
「覚悟ハ、デキテ、オリマス」
「わかったよ、染ノ助」
くるみは差し出された手(?)を握り締める。
どうやらその白い四角(染ノ助)を使って、最後の一撃を店長に食らわせるつもりらしい。
染ノ助をよいしょと持ち上げると、乱れたヒゲの手入れに勤しんでいる店長に向かい突っ込んでいった。
「サラバ、ダ…」
染ノ助の振動が止まった。爆発のスイッチが入れられたようである。
「北極星、堕ちろーっ!」
「んあ?」
情けない声を出して振り向いた店長に、くるみは染ノ助を持ちながら特攻していく。
事の成り行きを見ていた和希は安全確保のため、やかんの中に引っ込んだ。
―そして、地下室に爆音が響いた。
爆発の衝撃が収まったところで、やかんに隠れていた和希はおそるおそる地下室の様子を見てみる。
「水曜どーでしょう、か…」
意味不明な独り言をボソリと言いながら、和希は目に神経を集中させた。
地下室に粉塵が舞う中、なにやら影が見える。
小さな影、ダンディーな影、そしてもうひとつの人らしき影。
粉塵が次第に薄れ視界が開けてくると、そこにはくるみと店長、そして店の奥でいつも何かを書いていたスーツ姿の若い男がいた。
スーツの男は腕を組み、何かを蹴り上げたようなポーズで店長とくるみの間に立っている。
どうやら男は染ノ助を蹴り上げて、空中で爆発させたらしい。
アレを店長に蹴りつけてやればよかったのに。
和希はそう思った。
男は蹴り上げていた足をもとに戻すと、くるみの頭に手を置き、穏やかに語りかけた。
「生きていれば辱めを受けることもある。だが、生きてこそ得られる栄光があるということを忘れるな」
気持ち鼻息がハァハァしていた。
「シリウス…」
くるみは必然的に上目使いでスーツの男を見上げる形になる。
「生きている事が最高の幸せなのだ。だから、お前には生きて私の帰りを待っていて欲しい」
男はくしゃくしゃとくるみの頭をなでる。
「遅くても、次の盆までには帰ってくる。迎え火たいて待っていてくれ」
「うん…くるみはアナタのこと、いつまでも待ってるから」
それは何とも感動的かつダンディーな、ロリコン野郎の優しさだった。
一体どんな関係がこの二人にあるというのだろうか。まぁ、どうでもいいけれど。
くるみはスーツの男に手を振り、トコトコと走りながら地下室を出て行った。
だが途中で白い物体だった欠片に足を引っ掛けてベチンと音を立てて転んだ。
くるみはゆっくりとした動作で立ち上がり、服についた埃を払うと、眦に涙を浮かべた。痛かったらしい。
小さな影は泣いてしまいそうなのを必死でこらえながら走り去っていった。
スーツの男はその一部始終をウヘヘと嬉しそうに鼻の下を伸ばしながら見つめている。
こんなだから容姿はそこそこイケメン部類に入るレヴェルなのに、浮いた話ひとつもないのだ。
「さて、と」
改めてスーツの男は店長へと向きなおった。
「俺が相手になろう、北極星の」
「四天王、氾濫のシリウスか」
「そう、私は天空に雄々しく猛る天狼星だ」
天狼星は昔の友人に接するかのような表情でわけのわからないことを口走った。
たぶんそれは組織内での通称みたいなものなのだろう。公国軍の赤い彗星みたいな。
「一月前から貴様がうちの店に通っていたのは気づいてたぞ」
「本当はもっと前から通っていたのだがな…」
天狼星は、半瞬呆れ顔になったが、すぐに不敵な笑いを浮かべる。
しかし店長に向けられている二つの瞳は、獲物に狙いを定めた狼のそれだった。
「貴様が奪った我ら組織の重大機密を…」
ゆっくりとファイティングポーズを取り、眼差しに力がこもる。
「やかんを飛ばすなどという、そんな馬鹿げたことのために使わせるためにはいかないのだよ」
「馬鹿げたことだと、それは違うぞ!!」
店長の目がきゅぴ~んと輝いた。
「私が飛ばすのはやかんではない! 夢だ!」
夢だー、ゆめだー、めだー、だー、あー、ぁー…と、エコーが地下室に響き渡った。
しばしの沈黙の後、天狼星がはっと思い出したかのようにはやし立てる。
「貴様の夢の価値など、塵芥にも等しいわ!」
「例え他人から見ればバカバカしくとも、無益であろうとも、私は私自身の信じた夢のため、死力を尽くす! なぜなら男だから!! 否、漢だからぁぁあ!!!」
それは、活字でないと伝わりづらい、魂の叫びであった。
天狼星、心の一句。
『キチ●イに 求めちゃならぬ 合理性』
「……」
天狼星はゆっくりと目を閉じると、精神統一のために一度、息を吐いた。
そして半瞬おき、改めて店長の目を睨み付ける。
「ならば、命令に従い、裏切り者の貴様を抹殺するのが俺の信じた道」
スーツを脱ぎ捨てネクタイを外し、顔の前で腕を十字に組んだ。
どうやら、店長のあまりの阿呆さにいい加減ウンザリしたらしい。
「現在執筆中の我がエッセー、最後のページは貴様の死を以って完結させてやる!」
「フン、望むところよ!」
対峙する二人の身体に、炎のようなオーラが立ちこめる。
天狼星は竹を割ったかのようにすっきりした水色オーラで、店長は茶目っ気タップリ120%のドス黒いオーラ。
「明日の昼までに書き終えなければ原稿が落ちるんだ。早いトコ終わりにせねばな…行くぞぉ!」
天狼星のクロスさせた腕にオーラが集中し、組まれていた十字が解かれ、拳が淡い水色に光りだす。
「我が奥義『百烈パワー全力パンチ』、受けよ!」
「ならば貴様の将星、秘伝『ギガ㌧キック』で、その原稿ごと落としてくれる!」
店長は身に纏っていた茶目っ気タップリ120%のドス黒いオーラを右足に集中させ、ダッシュの構えを取る。
「はぁああああ!!」
「ぬぅおおおお!!」
そして、周りに衝撃波を生みながら、逆方向から一直線に突き進む天狼星と店長。
ふたつの巨星がぶつかり合う瞬間は、すぐにやって来た。
そんな英雄二傑の激闘をやかんから覗いていた和希はというと。
「……これが…」
俯き、拳を潰れそうなほどに握り締める。
そして、キレた。
「これが! こいつらが! 私の平穏なる現実を狂わせた原因かぁ!!」
バカ店長の下らない夢に、スカタン組織との下らないゴタゴタに、もうこれ以上巻き込まれるのは御免だ。
自分の手で全てを強制的に終わりにしてやろうと、少女は決心した。
和希はやかんの中にあるコントロールパネルらしき場所の前に立ち、拳を振り上げる。
「地獄へおちろバカタレども!」
全身全霊を込めた拳打撃が、ちょうどそこにあったドクロの描かれたボタンに直撃し、パネルに大きな亀裂を走らせた。
たちまち大きな振動が地下全体を襲い、やかんが宙に浮かび始める。
それを見た店長は、悪の幹部みたいな口調で小学生のようにはしゃぎながら喜んだ。
「おお、ついに飛び立つぞ! 私の夢よ、大空を自由に飛んで行くがいい!!」
「何が夢だ! 貴様のやったことが、世界にどのような影響を及ぼすのかわからないのか!」
全力パンチとギガ㌧キックの競り合いをしながら語り合う二人は、事情の知らない第三者が見ていればダンディーな漢の命をかけた対決である。
身体と身体が、拳と拳がぶつかり合うことで、漢たちは絆を深めていくものなのだが、哀しいかな今日の二人は敵同士。
果たしてこの戦いの果てにあるものは……と、いった雰囲気の戦いじゃないのだから、困ったものでありますな。
「貴様が盗んでいった反重力時空間制御の資料はな…」
説明しよう!
反重力時空間制御とは、組織内で独自に研究された時空間を制御できるシステムで、重力と反重力の作用により光速に近い速度で目標物を振動させることで、時空を超えて過去や未来に飛ばせるという、はっちゃけタイムマシンみたいなモノなのだ。
ただし、その時点に無かった物などが急に現れたり消えたりした場合、そこになんかやばい感じがプンプン臭うモノが発生してしまう。
そこから、その世界における本来あるべき時間の流れから外れていってしまうのだ。
簡単に言えば、小高い丘にある大きな桜の木の下に三人でタイムカプセルを埋めて数十年たったあと、星になったアイツとの約束の日に二人で掘りに行ったら、桜の木のあった丘は削られ、そのかわりに駐車場があった時のあの切なさが世界中に&# 24059;き起こってしまうのである。
そんな危険な代物を店長がネコババしたので、組織は必死こいてその資料を奪い返そうと日々頑張っていたのである。
「反重力だから、空を飛ぶようなものだと思ってたんだけどな…」
店長、ちょっとショック。
「貴様の塵芥に等しき夢が空どころではなく、時空を飛んでしまうのだぞ! 恥を知れ、恥を!」
競り合いで天狼星がじりじりと押し始める。澄んだ水色のオーラが弾ける様に膨張していった。
「私の夢に恥じるものなど無いわぁああ!!」
だが、四天王であった店長も負けちゃいなかった。茶目っ気タップリ120%のドス黒いオーラが勢いよくでかくなっていく。
「北極星、天輝のポラリスを嘗めるでないぞぉー!!」
店長のオーラが天狼星のを飲み込み、ギガ㌧キックが炸裂しようとしたところだった。
死ぃに晒せぇぇえええいっ!!
ものすごい振動でぶれまくっている和希の乗ったやかんが、競り合っている二人めがけて突っ込んできた。
そりゃもう居眠り運転の大型トラックが横断報道を渡っている子供にするような光景だった。
違うところがあるとすれば、子供を助けて身代わりに死んじゃうような人物は、この話の中にはいないということである。
そんなまともな精神を持つ人間は、もはやこの世界には存在していなかった。
「やかんよ、お前は私の…」
店長のつぶやきは、やかんから放たれた眩い光によって、遮られた。
そしてその光は地下室の全てを包み込んでいく。
漢 志を立てて郷関を出づ
夢 若し成る無くんば復た還らず
骨を埋むる何ぞ期せん 墳墓の地
人間到る処 青山有り
地下室を包んでいた眩い光が収まると、そこには天狼星だけが残されていた。
先ほどまでとは裏腹に、辺りは静寂に包まれている。
「…二度と帰ってくるんじゃないぞ」
天狼星はそうつぶやくと、地面に落ちていたスーツを拾い、帰っていった。
そして、桜井隆文(天狼星の本名)の著書は、ラスト1ページにして、突如エッセーからSF小説に変貌することとなった。
その著書は120万部を売り上げるベストセラーになるのだが、それはまた別のお話。
あくる日、駅前のアパートに住んでるミャンマーからの留学生パンテッツェラート・ガドゥルボウさん(22)は新聞をとりながら朝食を読んでいた。
…じゃなくて、朝食をとりながら新聞を読んでいた。
――――――――――――――――――
白亜紀の地層から人類の化石!?
中国内モンゴル自治区のオルドス盆地の
後期白亜紀の地層からから、人類の化石
らしきものが発掘された。この発掘に携
わった○×大学の彫造教授によれば、白
亜紀の中期から末期にかけての時代に人
類がいた可能性を示している重要な資料
になる可能性が多いにあり、今後の進化
の歴史に大いなる影響を与えるかもしれ
ないと話している。関係者各位によると
その化石は、そこはかとなくダンディー
な雰囲気だったと口をそろえて話してい
る。
――――――――――――――――――
「ふーん」
考古学にさして興味はないので、ガドゥルボウさんは途中まで読んで次の記事へと目を運ばせた。
あれから十年もの月日が流れていきました。
私はやかんでどこかに飛ばされた後、そこでそれなりの恋愛や多くの出来事を経験し、ごく普通で平凡な日々を送り、気づけば今や一児の母親になっています。
白馬に乗った王子様は無理だったけれど、それでも現在進行形で幸せです。
てんちょーはどこに飛んでいってしまったかは知らないけれど、きっとあの人のことだから何処にいたってしぶとくダンディーに生きていることでしょう。
まぁ、いろいろとありまして、今日は子供と一緒に買い物に行き、その帰りに通りかかったお店でちょっと遅めのお昼を食べました。
「すみませーん」
和希は店員を呼んだ。
食べ残しが転がっているテーブルを慣れた手つきで拭いていたウエイトレスの少女が、ただいま参りまーす、と大きな…しかし澄んだ可愛らしい声で返事をする。
布巾をそのテーブルに置き、パタパタと小走りで和希のもとへと駆けてきた。
和希の手には伝票が握られている。
「お会計、失礼いたします」
ウエイトレスの少女がレジカウンタに入ると、和希は伝票を差し出した。
それを少女は笑顔で受け取ると、伝票に書かれている内容を流れるようにレジに打ち込んだ。
まるで軽快にステップを踏んでいるかのような、テンポ良く、かつ無駄のない入力を終えて少女は顔を上げる。
「お待たせいたしました。お会計は1470円になります」
和希は実際のところ大して待ってはいないのだが、少女はテンプレートに則り金額を読み上げた。
ミートソーススパゲティと野菜サラダ、アイスコーヒー、オレンジジュース、お子様ランチ。それにチョコレートパフェ。
これだけの量を注文して1470円。この店はお財布に優しいなぁ…と思った。
和希は1470円ぴったりの代金をレジカウンタの上の受け皿に載せる。
それを受け取ったウエイトレスの少女は金額を丁寧に確認してレジスターに入れ、ありがとうございました、と嫌味なくぺこりとお辞儀をした。
子供の手を引きながら店を出たときに、もう一度「ありがとうございました」と大きな…しかし澄んだ可愛らしい声で見送られる。
店を出てしばらくたってから、子どもが和希の服の袖を引いて言った。
「ねぇ、ねぇ」
「ん、どーしたの?」
「さっきの人、お母さんに似てたよね」
「えー、そうだったかなぁ…」
何気ない会話をしながら、親子は手をつなぎ、家へと帰っていく。
大きく開いた青空には、瑞雲がぷかりと浮かび、その親子の姿を見つめていた。
おわり
ここはとある組織の事務所。
そこではなにやら言い争っているよそ行きの白いドレスを着た若い女とスーツを着た若い男の二人がいた。
「ちょっとシリウス! 四天王の一人、夏の夜の女王星『アークライトのベガ』であるこの奈月
希美(なつき のぞみ)の出番はどうなったのよ!」
「ん? ああ、お前あの日は仕事そっちのけで年下の男とデートしてたろ」
「一ヶ月も前から決まってたんだから、別にいいじゃない。急に仕事入れるほうがどうかしてると思うわ」
「出番なくてもお前はお前で満喫できたんだからいいんじゃないのか?」
「なっとくいかなーい! 私の出番つくれー!!」
「もうエンドロールも終わった後のおまけだ、諦めろ」
「反転じゃないと写らない出番なんてイヤー!!」
空しい女王星の叫びが事務所に響いた。
そんなちょっぴり切ない、秋の午後の出来事でした。
おしまい。