GAオリジナル長編小説「Courage of Steel 〜守る力、戦う力〜」
筆者・コードネーム「ビスマルク」
灰暗い海底。
それは、すべてが闇に包まれた暗黒の世界。
その深海から、古の遺産が引き上げられようとしている。
だが、それは決してやってはならぬことであった……。
「第2話 強襲、漆黒の堕天使」
エンジェル隊を乗せた空母艦隊は、とあるメガフロートに到着した。
見えるのは、海上に聳え立つ巨大な流線型のタワー、沿岸部の無数の砲台。
港に並ぶ多数の軍艦と、それに似合わないほど美しい街並み……。
ここが、惑星アクアスの首都であり、海軍の本部でもあるメガフロート「軍艦島」である。
ミルフィーユ達は、空母の甲板から、その街並みを眺めていた。
言葉も発せず、ただただ街を眺めるばかりであった。
空母は、タグボートと呼ばれる小型船に牽引されて、埠頭に接岸した。
隣の埠頭には、大型イージス艦や中型潜水艦が係留されていた。
船員や兵士が港にあふれ、仲間同士で話していたり、タバコを吸ったりしている。
軍港といこうことを感じさせないほど、その風景は平和そのものだった。
空母から降りながらその風景を見ていたエンジェル隊の前に、スーツ姿の青年が現われた。
「エンジェル隊の皆さんですね? こちらへどうぞ」
青年はそそくさと、ミルフィーユ達を車に案内した。
その車は、ちょうど8人乗れるくらいのワゴン車で、荷物も後ろに積めた。
ウォルコットが助手席で、あとの6人は後ろに座る。
ヴァニラが、ノーマッドを膝に置いている。
車が発進すると、運転していた青年が話し始めた。
「狭い車で申し訳ありません。豪華すぎる車だと、逆に怪しまれますので…」
「それは構わないけどさ、アンタは何者だい?」
「あ、申し遅れました。私はシエル、海軍の総司令官秘書をやっております」
「総司令官秘書が迎えに来るってことは、今向かっている場所は……」
「はい、海軍本部です。総司令官が、あなた方をお待ちになられています」
青年は、自分からシエルと名乗り、同時に総司令官の秘書であることを明かした。
この星の海軍を指揮する総司令官が、直々に彼女達に会いたいと言っている。
総司令官に会うということを聞いただけで、彼女達は徐々に緊張してきた。
海軍の最高司令官であり、そのすべてを動かすことのできる唯一の階級。
一体どんな人物なのか、どんな顔をしているのか、疑問は多い。
そんな心境の彼女達を乗せた車は、順調に道路をひた走る……。
ミルフィーユ達を乗せた車は、軍艦島の中心部まで来た。
さすがに中心部まで来ると、高いビルやタワーが周りにあふれていた。
太陽の光を遮り、影が道路を覆う。
「皆さん、見えてきましたよ」
シエルの声に反応し、皆が前を向く。
目の前には、ほかのどのビルよりも高い建物が聳えていた。
ここが、アクアス海軍の本部「セントラルタワー」である。
青を基調とした外壁は、さきほど見た海と同じほど綺麗だった。
最上部の窓に太陽光が反射し、キラキラと光っている。
その外観は、まるで噴水のような美しさである。
車は、そのタワーにまっすぐ、まっすぐ向かっていった……。
玄関に到着したミルフィーユ達は、さっそくタワー内部へと足を踏み入れる。
入ってすぐに、ミルフィーユ達は目の前の風景に釘付けになっていた。
外壁と同じ青色の壁、美しく咲く青いバラ、エントランスの噴水などなど……。
どこかの高級ホテルにも引け劣らない内装だった。
ミルフィーユは目をキラキラさせる一方、ランファは目がテンになっていた。
「ふふふ…どうですか? すごいでしょう?」
微笑んでいたシエルが自慢げに言った。
一同は、首を縦に振ってそれに答えた。
どうやら、驚いて声も出ないらしい。
「面白い方々だ。さぁ、上に上がりますよ」
シエルに案内された一行は、スケルトンのエレベーターに乗り込む。
ゆっくりと上がっていくエレベーターの中、やっとフォルテが口を開いた……。
「えっと……突ッ込む所が多すぎて混乱してるんだけど、質問していいかい?」
「ええ、どうぞ」
「ここは軍本部だろ? こんな感じの内装でいいのかい?」
「ふふっ…聞かれると思いました。大丈夫、これは一種の『癒し』というものです。
軍というのはお堅い所ですから、どうしても兵士達にストレスが溜まってしまうんです。
ですから、このタワーの内装は、兵士達の心を少しでも癒せるようになっているのです」
シエルの説明を聞いたフォルテは、ただただ納得していた。
たしかに、これだけ青が目の前に広がっていれば、自然に癒されているような気がする。
まるで、海の中をずっと泳ぎまわっているような感じに、自然となってくる。
「………フォルテさん? どうかしましたか?」
ボーッとしていたフォルテに、シエルが声をかける。
フォルテは、シエルに顔を向けてこう言った。
「………いやぁ、アタシらの基地もこんな感じだったらいいなぁと…」
「「「「同感(です)(だわ)(ですわ)(ですね)」」」」
ミルフィーユ、ランファ、ミント、ちとせの4人が声を合わせて言った。
声は出さなかったが、ヴァニラも首を縦に振って答えた。
一同は、目線だけをウォルコットに向けていた。
ウォルコットは、ただならぬ空気を感じ取ったのか、冷や汗をかいていた。
ちょうどそのとき、エレベーターはタワーの最上階に到着した。
降りると、目の前には大きな扉が現われる。
この中に総司令官がいらっしゃいます、とシエルが言った。
シエルを先頭にして、一同は部屋へと足を踏み入れる。
入ると、部屋の窓際に人が立っていた。
「総司令、エンジェル隊の皆さんとウォルコット中佐殿をお連れいたしました」
「ありがとうね、シエル」
窓の外を眺めていたのは、背が高くて美しい女性だった。
その紅色の髪は、同じ女性であるミルフィーユ達でもうっとりしてしまうほど綺麗だった。
その女性は、ゆっくりとミルフィーユ達のほうを振り向いた。
「初めまして、私が海軍総司令官のファム・カールフォン・プロイツェンです。
あなた方エンジェル隊の噂は、以前から聞いておりました」
「ほとんど嘘だと思うよ、その噂」
「ふふふ、はやり噂通りの方々ですね。お会いできて光栄です。
トランスバール皇国軍からは、あなた方に全面協力するように要請されています。
もちろん、こちらとしても喜んで協力させていただきますよ」
ファムはニッコリと微笑んで、彼女達にそう答えた。
その笑顔も綺麗で、さらに可憐さが追加されていた。
ウォルコット中佐も、少し頬を赤らめていた。
「それでは、さっそくミーティングを始めましょう。シエル」
「了解です!」
シエルが机のボタンを押すと、窓のシャッターが下り、天井から大きなモニターが降りてきた。
電源が入り、画面に「NAVY(海軍)」の文字が現われる。
最初に現われた画像は、どうやらこの星の全体図と海図のようだ。
モニターの横にシエルが立ち、画像について説明をし始めた。
「先日、我が海軍の深海観測艦が、とある海域の海底に沈没船を発見しました。
調査潜水艇で調べたところ、どうやらクロノクェイク以前に沈んだものらしいのです。
そして、その船の積荷のひとつに、保存状態が良好なものが発見されました」
「それが、ロストテクノロジーというわけですか。でも、錆びて朽ち果てているのでは?」
「赤外線サーチを行なったところ、中に海水が入った形跡はありません。
つまり、錆びているのは外側だけで、中身は大丈夫ということです」
ミントの問いに、的確かつ分かりやすく説明するシエル。
さすがは総司令官秘書、こういう仕事はやり慣れているようである。
ここで、フォルテが挙手をして質問をする。
「で、その船はどのぐらいの深さに沈んでいるんだい?」
「この沈没船は、海面下3000メートルの深海にあります。でも、ご心配なく。
我が海軍の技術を持ってすれば、こんなの容易です!!」
シエルが、胸を張ってそう言い切った。
そんなシエルを見て、エンジェル隊の面々は少々呆れ気味になった。
その空気を察知してか、ファムはシエルに説明を急がせた。
「………ええと、説明を続けてシエル」
「はい。積荷は沈没船の船内に格納されているため、船ごと引き上げる必要があります。
さらに付近の海域には、荒くれ者の海賊が出没するため、厳重な警戒が必要です」
「海賊? そんなに厄介なのかい?」
「はい、資料をモニターに出します」
モニターの画面が切り替わり、いろんな資料が出てくる。
海図、少しぼやけた艦艇の画像、朽ち果てたメガフロートなどが現われた。
「海賊の戦力は、空母1、強襲揚陸艦1、潜水艦1、その他魚雷艇が多数です。
元々は潜水艦と魚雷艇だけでしたが、いつの間にか戦力を増強したようですね」
『その規模ならば海賊というよりも、私設軍隊って感じですね』
「きゃあ!?」
ノーマッドが、その機械的なボイスで言った。
人形だと思っていたノーマッドが突然喋ったので、ファムは驚いた。
ノーマッドは不機嫌になり、失礼な、とファムに言った。
「引き上げは明日の正午、
既に先遣隊が現地に向かっていますが、あなた方には本隊に随伴していただきます。
港に空母を用意していますので、それに乗艦してください」
「説明は以上です。シエル、ご苦労様」
「いえいえ」
シエルがリモコンのボタンを押すと、モニターは天井へと格納される。
窓のシャッターも上がり、太陽の光が部屋に差し込んだ。
「出発は今日の深夜です。それまでは部屋で待機していてください。
ではシエル、皆さんを部屋に案内して」
「はい。それでは皆さん、着いて来て下さい」
シエルは、ミルフィーユ達を連れて部屋を出て行った。
ファムは、それを見送って、自分のイスに深く腰掛けた。
自身の全体重をイスに預け、深呼吸をする。
「何も起こらなければいいのですが……」
ファムは、胸騒ぎがしていた。
何も起こらなければ良いと、心の中で、そして口にも出して願っている。
だが、妙に嫌な予感がする。
ある程度の護衛艦隊も用意してあるし、何よりエンジェル隊がいる。
でも、言い知れぬ不安がファムの脳内を駆け巡っていた。
何か、とんでもないことが起こりそうな、そんな予感が……。
時刻は、深夜2時過ぎ。
街の明かりも消え、人々も寝静まっている時間である。
だが、軍港施設だけは明かりが点き、多数の艦艇が出港準備を整えていた。
サルベージ艦は沖に停泊しており、護衛艦隊と空母の出港を待っていた。
ミルフィーユ達は紋章機とともに、既に空母に乗艦していた。
「ようこそ、空母《ドレッドノート》へ。私が艦長のアレックス・バースです。
以後、よろしくお願いします」
「ウォルコット・O・ヒューイ中佐です。こちらこそ、よろしくおねがいします」
さすがは最年長の中佐は、丁寧な言葉遣いでアレックスに握手をし、敬礼をする。
アレックスもそれに応じて、自身も敬礼で返した。
「アレックス艦長、全艦隊の出港準備、完了いたしました」
「うむ、出港だ!」
「全艦機関始動、直ちに出港されたし」
ドレッドノートのオペレーターの指示で、全艦がエンジンを始動させる。
スクリューが回転し、徐々に艦が岸から離れていく。
護衛艦群は、ドレッドノートとサルベージ艦を取り囲むように配置される。
海軍お得意の、堂々の輪形陣である。
「この速度だと、明日の朝には現場に到着します。それまでは部屋で待機を」
「そ、その前に甲板に案内してくれませんか?」
「いいですけど……、どうしてですか?」
「………皆さん、船酔いが激しくて……」
ウォルコットの後ろには、船酔いでグロッキー状態のミルフィーユ達がいた。
特にちとせは容態が酷く、顔色も真っ青だった。
ヴァニラは平気のようで、ほかのみんなを心配していた。
「う、うぇえ……」
「は、吐いちゃいそうです……」
「皆さん………大丈夫ですか?」
「お、おい!! 早く甲板へ連れて行ってさしあげろ!!」
「はっ、はいぃ!!」
アレックスや船員は慌てふためき、何とかミルフィーユ達を甲板に連れて行った。
『ったく、皆さん情けないですね』
ノーマッドが、いつものようにミルフィーユ達を貶していた。
そのまま言葉を続けようとしていたが、後々のことを考えて言わないでおいた。
「やっぱり、予想していた通りでしたか」
「ちゅ、中佐ぁ〜……」
こういうことには慣れているので、平然とした口調で言ったウォルコット。
その様子に、アレックスはものすごく不安になっていた。
このままで、本当に大丈夫なのだろうか……。
夜が明け、水平線に太陽が昇る。
空母や護衛艦が光に照らされ光が反射してキラキラ光っていた。
ミルフィーユ達は、今は部屋で仮眠を取っている。
長旅で疲れていたらしく、かなり熟睡していた。
でも一人だけ、艦橋に出向いた人物がいた。
それは、エンジェル隊のリーダー、フォルテだった。
それに気付いたアレックスが、彼女に声をかける。
「シュトーレン中尉、どうしました?」
「いやぁ、なんか寝付けなくてね」
「そうですか……あまり無理をなさらないでくださいね」
アレックスはフォルテを気にしながらも、前方を常に向いていた。
もうすぐ引き上げ現場とあって、その表情には余裕というものはなかった。
「艦長、もうすぐ現場なのですが…」
「ん? どうしたのだ?」
「先遣隊と、通信が繋がりません。長距離レーダーにも、艦影が確認できません」
「何だと? ちゃんと確かめたのか?」
「はい、さきほどから呼びかけても、応答がありません」
艦橋が、一気に緊迫し始めた。
そして、アレックスが座っていたイスから立ち上がった。
「第2次警戒態勢!! 全乗組員をたたき起こせ!!」
「了解、第2次警戒態勢発令!! 繰り返す、第2次警戒態勢発令!!」
ビーー!ビーーー!!ビーーーー!!!
ドレッドノートの艦内に、警報がけたたましく鳴り響いた。
それにびっくりして、乗組員達はベッドから飛び起きる。
すぐさま服に着替え、部屋から飛び出していく。
「ど、どうしたんですの!?」
「何かあったんですか!?」
艦橋に、さきほどまで寝ていたであろうミルフィーユ達が飛び込んできた。
彼女達も、警報の音で飛び起きたらしい。
「先遣隊の艦が確認できない。とりあえず、今は警戒を強めている」
「ちゃんと、レーダーは確認したんですの?」
ミントの問いに、さきほどのオペレーターがあたふたしながら応えた。
「は、はい!! 先遣隊の護衛艦の反応は、まったくありません」
「先遣隊の規模は、どのくらいなんですか?」
「護衛艦が六隻と深海調査船が二隻、計八隻です」
「それだけの船が、跡形も無く消えたっていうんですか?」
「そんな……信じられません」
ちとせが言うのも道理、その規模の艦隊が消えるなんてありえないことだ。
だが、先遣隊の艦は跡形も無く消えていたのだ。
これは、紛れも無い事実である。
ドレッドノートの艦橋には、緊迫感と不安が混じった、いやな空気が渦巻いていた。
何もないように見える雲の上。
何かが飛んでいるような影も形も無く、ただただ青い空が広がっていた。
だが、“彼女”は確実にそこに存在していた。
「ふぅん、あれが本隊ってわけね。通りでさっきの艦隊の規模が小さかったわけだ」
自分の座っているコックピットのモニターに映る艦隊を見て、彼女は口元を微笑ませた。
モニターの中央にほかの艦とは大きさも種類も違う船が写った。
左右に大型のクレーンを配し、甲板には無数の機材を積んでいた。
それは、沈没船を引き上げるためのサルベージ艦だった。
ふと、彼女は気が付いた。
そのサルベージ艦の真横の空母の甲板に、見慣れぬ6機体がある。
それは横にある艦載機と比較すると、かなりの大型機であることが解る。
「あれは……新型か? まぁいい、これで退屈しなくてすみそうだから……なっ!!」
語尾を強く発音した瞬間、握っていた操縦桿を思いっきり倒し、急降下していった。
コックピットのモニターの照準は、護衛艦を既にロックオンしていた。
艦隊の右端に位置する護衛艦《マラカイト》の甲板上では、船員達が慌しく動いていた。
「なぁ、いったい何があったんだよ!!」
「先遣隊が消えちまったんだってさ!!」
「マジ!? なんで?」
「オレが知るかっ!」
「いったい何なんだよ!! ………ん?」
………イィン…………キュィイ……ィン…
ふと、船員の一人の耳に『ある音』が聞こえた。
その船員は、音が聞こえた方向――――――真上の空を見上げる。
何も無いはずの空から、何らかの音が聞こえる。
船員は太陽の光を手で遮り、もっと良く空を見る。
……キュイィィ……キイイイイィィィィイイィィン!!
「なっ……!?」
今まで何も無かったはずの空に、突如現われた黒い機体。
それは、まるで獲物を見つけた鷹のごとく、護衛艦に襲い掛かった。
――――――――ドガガガガガガガガガガッ!!!
《次回予告》
突如出現した漆黒の紋章機。
姿を自由自在に消し、装備している特殊な兵器で無差別に艦隊を襲っていく。
その正体は? その目的は? その謎の答えは、すべて次回で明らかになる!!
次回を、待て!!
<コメント>
書き直しました。
文章に気に入らないところがいくつかありましたから。
こんな頼りない私ですが、今後もよろしくお願いします!!