GAオリジナル長編小説「Courage of Steel   〜守る力、戦う力〜」

                                

                                    筆者・コードネーム「ビスマルク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界には、2種類の人間が存在する。

 

 

 

「正義」の人間と、「悪」の人間である。

 

 

 

では、その定義は何なのだろうか?

 

 

 

何をすれば「正義」なのか、何をしたから「悪」なのか……。

 

 

 

その答えは、いったいどこにあるのだろう……。

 

 

 

 

 

 

「第3話     鋼鉄の咆哮」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――ドガガガガガガガガガ!!!

 

 

 

漆黒の機体が放った、まるで鞭のような弾列は、確実に護衛艦《マラカイト》を捕らえていた。

 

オレンジ色の弾丸はマラカイトの頑固な装甲をいともたやすく貫通し、艦内へ到達した。

 

 

ドオオォォオオオォォン!!!……ドンドンドン!!……バアァァアン!!!

 

 

弾丸が命中した場所から、轟音とともに炎が吹き上がり、爆発する。

 

いや、爆発というよりも、むしろ炎が爆発的に燃え上がったという表現が正しい状況だ。

 

そのすさまじい炎と黒煙に追われ、乗組員達は次々に海へ飛び込む。

 

来ている衣服に火が燃え移り、熱さに苦しみながら飛び込むものも少なくなかった。

 

救命ボートなどで脱出していた乗組員達は、そういった者達を救助する。

 

 

ブオオオオォォォォォォ!!…………

 

 

護衛艦の汽笛が、乗組員達と別れを告げるかのように名響く。

 

艦首を天に向け、ゆっくりとその巨体を海に沈めていく。

 

救命ボートに乗った乗組員達は、沈んでいく自分たちの乗艦を、その姿が見えなくなるまで見つめていた。

 

護衛艦《マラカイト》は、海底にその姿を没した……。

 

 

 

 

空母《ドレッドノート》の艦橋のモニターに、沈み行くマラカイトの姿がはっきりと映し出されていた。

 

アレックス艦長以下、艦橋でその光景を見ていた者達は、言葉を失っていた。

 

ミルフィーユ達も、いきなりのことに何が起こったのか把握しきれないで呆然としていた。

 

その沈黙を破ったのは、アレックスの怒鳴りにも似た命令だった。

 

 

「………ッ!! 第一次戦闘配置!!」

 

「はっ!!  第一次戦闘配置、繰り返す、第一次戦闘配置!!」

 

「おい、敵機をモニターに映せ!!」

 

 

艦橋の天井部にあるモニターに、漆黒の機体が映し出された。

 

両腕に大きなハサミを持ち、巨大なガトリングが前方に突き出ている。

 

鋭角の多い奇妙な形状をしているが、全体的なフォルムは紋章機に酷似していた。

 

おそらく、武装や装備は侮れないだろう。

 

漆黒の紋章機を見ていたオペレーターは、声を震わせながら言った。

 

 

「艦長、あれは……」

 

「外見に惑わされるな!! 今は冷静になって状況を報告しろ!!」

 

「は、はっ!!? 護衛艦《マラカイト》の全乗員は脱出しました。

現在、僚艦が乗員の救助に当たっており、ほかの護衛艦は防御体制を整えています」

 

「敵機の位置は?」

 

「現在、左舷前方8000に……っ!! 艦長、敵機が戻ってきました!!」

 

「なにっ!?」

 

 

レーダー上では《unkwon》と表示されている漆黒の機体が、戻ってくる。

 

スピードはさきほどよりも若干遅いが、確実に艦隊へ近づいている。

 

アレックスやオペレーター、そしてほかの乗員達が慌しくなる。

 

警報が鳴り響き、警戒レベルが最大値になったことを知らせる。

 

その様子を、ミルフィーユ達は唖然として見ていたが………。

 

 

「…………ちぃ!!」

 

「フォルテさん!?」

 

 

今まで黙って状況を見ていたフォルテが、いきなり駆け出した。

 

それを見て、ミルフィーユが驚きの声を上げる。

 

 

「シュトーレン中尉!? いったいどこへ!?」

 

「アイツが戻ってくるんだろ、私も迎撃に出る!!」

 

「なっ!?……しかし、あなた方は……」

 

「今はうだうだ言っている場合じゃないだろう!!」

 

 

そう怒鳴って、フォルテは艦橋から出て行った。

 

それを見ていたミルフィーユ達は、互いに顔を見合わせていた。

 

そして、互いに意思を確認し、フォルテと同じ行動を取った。

 

 

「み、皆さん!!?」

 

「私もフォルテさんに賛成よ!! この状況を黙って見ているほうが無理よ!!」

 

「私も、行きます……」

 

『ヴァニラさんのご意志とあらば、私は付いていくまでです』

 

「すみません、今は黙って行かせて下さい!!」

 

「このまま何もしないなんて、私にはできません」

 

「珍しく、と言いますか、初めて皆さんと意見が合いました」

 

 

ランファ、ヴァニラ、ちとせ、ミルフィーユ、そしてミントが、フォルテの後を追う。

 

あまりに突然の出来事に、アレックスやほかの乗員達も唖然としていた。

 

すると突然、アレックスが肩を震わせた。

 

艦橋の乗組員達は、アレックスの怒鳴りが響くとばかり思っていたが……。

 

 

「ふ…ふふふ……ふはははは!! いやはやまったく、ハチャメチャな娘達だなぁ!!」

 

「アレックス艦長……?」

 

「誰にも命令されたわけでもなく、ただ目の前で起こったことを見ていられずに、

自分達も何かしたいと体が動いてしまう、か。まったく、近頃の若者は無茶をする……」

 

「我々も、同じものを持っているではありませんか」

 

 

ウォルコットの言ったその言葉に、アレックスは少し口元を微笑ませた。

 

緊張が少しほぐれたのか、顔の引きつりが無くなっていた。

 

そして、彼は心から何かを引き剥がしたように頭を振り、乗員達に命令を下した。

 

 

「全艦の前乗員に通達する。現在、エンジェル隊が出撃準備を整えている。

我々は、それを全力で援護する!! この際、マニュアルなんかどうだっていい!!

各自、臨機応変に、力の限り対応せよ!!!」

 

「「「「『了解!!』」」」」

 

 

乗員達は大きな声で返事をし、それぞれの持ち場に付く。

 

彼らの目は、先程のような不安に満ちていた瞳ではなく、今はギンギラギンに燃え盛る勇気を纏った瞳を輝かせていた。

 

戦闘員も甲板要員もパイロットも、すべての乗員が心に“勇気という”炎を灯していた。

 

 

「敵紋章機、我が艦の前方4000まで接近!!」

 

「距離3000になったらミサイル発射だ!! 命中しなくてもいい、時間を稼ぐ!!」

 

「敵紋章機なおも接近、我が艦まで距離3800…3600…3400…3200……3000ッ!!」

 

「今だ!! 発射―――ッ!!」

 

 

アレックスの怒鳴りにも似た命令が発せられ、艦隊から一斉にミサイルが発射された。

 

数え切れないほどのミサイル群は、虹のような曲線を描いて正確に目標へと飛んでいく。

 

目標物をその高性能のセンサーで捕らえた鉄の飛魚が、漆黒の紋章機に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その紋章機の中で、女はこの状況を見て笑っていた。

 

今から攻撃しようかというときに、向こうから攻撃してきたのだ。

 

女にとっては好都合だった。

 

 

「はは……よもや向こうから攻撃してくるとは、最近の軍人は臆病者ばかりだと思っていたが、久々に楽しめそうだ」

 

 

女は口に微笑を浮かべたままの表情で、操縦桿を思いっきり倒した。

 

機体は一気に加速し、ミサイル群の中に突進していく。

 

 

「ふん!! はぁっ!!!」

 

 

ミサイルの雨の中を、舞うように華麗にすり抜けていく漆黒の紋章機。

 

女はまるで、愛機を手足のように操っていた。

 

そして、攻撃が止んだのを確認して、相手の艦隊を罵った。

 

 

「はっ、これで終わりか? まったく、こんなもので私を倒せると……」

 

 

バシュゥ、バシュバシュバシュ……

 

 

女が言葉を言い終わる前に、艦隊から第二波のミサイルが発射された。

 

それを見ても、女はまったく動じなかった。

 

さっきと同じ攻撃だと、余裕で構えていた。

 

漆黒の紋章機が再び加速してミサイル群に突っ込もうとした、刹那。

 

 

バンッ!!……バシュバシュバシュバシュバシュウウゥゥ!!

 

 

向かってきたミサイルの弾頭が割れ、中から小型のミサイルが数機発射された。

 

いきなりの出来事に、女の顔からも余裕が消える。

 

 

「多弾頭ミサイルか!? ちぃっ!!」

 

 

紋章機がエンジンを逆噴射させるが、ブーストの直後だったのですぐには減速できなかった。

 

女は操縦桿のトリガーに指をかけ引く。

 

紋章機に装備されているガトリング砲が火を噴き、オレンジの閃光がミサイル群に浴びせられる。

 

先ほど護衛艦をいとも簡単に沈めたものだが、命中しなければどうということはなかった。

 

数発の命中弾はあったが、ミサイルが小型過ぎたため爆発も小規模で、周りのミサイルに被害が無かった。

 

 

「ガトリング砲では限界か……」

 

 

女は片手を操縦桿から離し、すぐ横のキーボードに添える。

 

指は正確かつ敏速にキーボードを打ち、モニターに文字の配列が現われる。

 

女は顔を前方に向けながらも、正確にキーボードを打っていた。

 

 

「《フレスベルグ》安全装置解除、エネルギー充電開始……」

 

 

女がそう言ってエンターキーを押すと、紋章機の機首が開き中から砲門が出現した。

 

四角い形の砲門の先端に、青白い光が収束されていく。

 

そして、小型ミサイル群が目前に来た瞬間、女はトリガーを引いた。

 

 

 

―――――――――バシュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

 

巨大なエネルギーの光が、轟音とともに砲門から放たれた。

 

プラズマ砲《フレスベルグ》は、ミサイルを跡形も無く消し去っていた。

 

爆発した形跡も煙も無く、空には灰と塵だけが舞っていた。

 

 

「今日は機嫌がいいな。ファントゥーム」

 

 

女は愛機である漆黒の紋章機《ファントゥーム》に、人と接するかのように語りかけた。

 

そして、計器類をある程度手でなぞった後、衝撃で乱れて顔にかかった青髪を整える。

 

光に包まれていた空が、徐々に元に戻っていく。

 

 

「今の攻撃は、ただの囮だな。でも、なぜ……」

 

 

女は、今まで頭の中にあった疑問を回想してみた。

 

空母の甲板上にある見慣れぬ機体、艦隊の突然の行動、陽動のミサイル攻撃……。

 

相手がいったい何を考えているのか、まったく検討が付かなかった。

 

ふと、女はモニターに映る空母に眼をやった。

 

さっきと変わらないはずの空母、でも女は何かを感じていた。

 

何かが違う、画面上ではわからないが、女はただならぬ違和感を覚えていた。

 

 

 

ピーーピーーピーー!!

 

 

 

突如、コックピット内に警告音が鳴り響いた。

 

それは、敵の接近を知らせるアラームだった。

 

女は瞬時に反応する。

 

 

「どこだっ!?」

 

 

モニターに機体の周囲を映してみるものの、それらしい影も形も無い。

 

見えるのは前方の大艦隊と、360度のオーシャンビュー。

 

横方向に居ないとするならば、残るは……。

 

 

「………上っ!!」

 

 

ドガガガガガガガガガッ!!!

 

 

女は瞬発的に操縦桿を引き、なおかつトリガーも同時に引いた。

 

機首のガトリング砲は、銃弾をでたらめに発射しながら、その銃身を天空に仰いだ。

 

真上には太陽があり、女はまぶしさに一瞬ひるんだ。

 

その瞬間。

 

 

--------ズバーーーーーーン!!

 

 

「うぁあっ……!!」

 

 

ファントゥームの側面を、紅い閃光が貫いた。

 

損傷はかすった軽微だが、衝撃で女の体は揺さぶられ、彼女の顔は苦痛にゆがむ。

 

 

「くそっ、よくも私のファントゥームに傷を……」

 

 

女は、自分に屈辱的な一撃を与え、後方へ飛び去っていった機体を確認した。

 

機首に大型の砲を持ち、見る限り重武装の、紫色の機体。

 

女はすぐに操縦桿を倒し、愛機《ファントゥーム》を旋回させて後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めましての挨拶は気に入ってもらえたようだねぇ」

 

 

紋章機《ハッピートリガー》の中で、フォルテは静かに言った。

 

後方のモニターを見れば、漆黒の機体《ファントゥーム》が追ってきていた。

 

先ほどの一撃が相手の怒りを買ったのだろうと、フォルテは思った。

 

 

「しかし、アイツもやるねぇ。本当は左腕を貫いていたはずのビームを、間一髪避けるなんて」

 

 

ドガガガガガガッ!!!ドガガガガッ!!!

 

 

フォルテが感心していると、後ろからオレンジ色の銃弾が飛んできた。

 

モニターで確認すると、ファントゥームがハッピートリガーの後ろにピタリと付け、ガトリング砲を連射している。

 

照準は正確であるが、フォルテは巧みに機体を操ってそれを回避する。

 

 

「私を本気にさせた報い、今ここで受けるがいい!!!」

 

 

ヴォンヴォンヴォン………バシュウウウウウゥゥゥゥゥ!!

 

 

ファントゥームから、プラズマ砲《フレスベルグ》が発射された。

 

フォルテはすぐさま操縦桿を倒し、右方向へ機体を旋回させる

 

当然、彼女はプラズマを回避できると思った。

 

だが……。

 

 

ヴオオォォォォン!!!

 

 

突如、プラズマは方向を変えて、まるで蛇のようにうねりながら、ハッピートリガーに向かってきた。

 

まるで意思を持つかのように、確実にハッピートリガーを捉えていた。

 

 

「空の塵となるがいい!!!」

 

 

女は、絶対勝利を確信した。

 

果たして、フォルテの運命は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

漆黒の紋章機《ファントゥーム》。

 

それを操る謎の女。

 

対峙するエンジェル隊。

 

激しさを増す戦いに、終止符が打たれる。

 

次回、戦いは終わる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<コメント>

 

年末、年明けの忙しい時期を抜け、やっと暇ができました。

この小説、いったいどのくらいのペースで書き上げられるのやら、検討が付きません。

とりあえず、第3話はこれで終わり。

次回は、もっともっとハードになるので、お楽しみに!!!