GAオリジナル長編小説「Courage of Steel   〜守る力、戦う力〜」

                                

                                    筆者・コードネーム「ビスマルク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺さなきゃ殺される』、それが戦場での常識。

 

 

 

撃つのをためらえば、自分自身が死ぬことになる。

 

 

 

そう、相手を殺さなきゃ、自分が殺されてしまうんだ。

 

 

 

私は、幼いころからそうやって生きてきた。

 

 

 

そして……、今もそれは変わらない……。

 

 

 

いや、私は変わったのかもしれないが、この世界は変わってないのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

「第4話     女たちの戦い」

 

 

 

 

 

 

 

―――バシュウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

漆黒の紋章機《ファントゥーム》が放った、プラズマ砲《フレスベルグ》。

 

それは突如軌道を変え、回避行動直後のハッピートリガーに襲い掛かった。

 

攻撃を避けきったと思っていたフォルテは、完全に不意をつかれてしまったのだ。

 

 

「し、しまった……!」

 

 

フォルテが気付いたときには、もう遅かった。

 

もう一度回避運動をしようと操縦桿を引くが、もう既にプラズマは目の前まで迫っていた。

 

ハッピートリガーが、青白い巨光に包まれようとしていた、刹那。

 

 

ヴオオォォォオオオオオオォォン!!

 

 

突如、プラズマとハッピートリガーの間に、淡いハーブ色の機体が割って入る。

 

そして、事前に展開していたエネルギーシールドで、プラズマを防御したのである。

 

一瞬のことで訳がわからなかったフォルテも、その機体が何であるのかすぐに解った。

 

そして、フォルテは幾度と無く見慣れたその機体に通信を繋いだ。

 

 

「ふぃ〜、助かったぁ。サンキュー、ヴァニラ」

 

『フォルテさん、ヴァニラさんのご恩は一生忘れないでくださいね』

 

 

通信から聞こえてきたのは、毎日聞きなれた人工知能の機械的な声だった。

 

いつもなら怒鳴るか脅すところだが、今はそんなことをしている場合ではない。

 

フォルテはノーマッドの言葉を軽く無視すると、モニターに映る漆黒の機体に眼をやった。

 

 

「今まで散々やってくれちゃったけど、それもここまでみたいだねぇ」

 

 

フォルテは、漆黒の機体から眼を逸らし、自機の後方を見やる。

 

見えるのは、向かってくる大型の機影が4つ。

 

ミルフィーユ達が、やっと空母から発進してきたのだ。

 

 

「フォルテさ〜ん!! お待たせいたしました〜!!」

 

「もう、フォルテさんったら、1人で飛び出して行っちゃうんだから」

 

「手柄の独り占めは良くないですわ」

 

「でも、これでやっとエンジェル隊が全員揃いましたね」

 

 

ミルフィーユのラッキースターを先頭に、駆けつけるエンジェル隊の面々。

 

口々にキツイことを言ってはいるが、内心はフォルテが心配なのである。

 

そして、彼女達は自身の乗る愛機をハッピートリガーに近づけ、編隊を組んだ。

 

機首を目の前の漆黒の機体に向け、その場でホバリングする。

 

機首のカメラアイが、まるで獲物を睨む野獣の瞳のように見える。

 

 

「さて、これからどうする?」

 

 

フォルテは、モニターに映る漆黒の機体を眺めながら、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

一方、こちらは漆黒の紋章機《ファントゥーム》のコックピット。

 

女は、新たに出現した4機の機体を見て、かなりの焦りを見せていた。

 

 

「くっ…、少々時間をかけすぎたか」

 

 

女の額に、流れ出た冷や汗が滴る。

 

あっちは6機、こちらはたった1機、圧倒的に分が悪い。

 

だが、女は引き下がらなかった。

 

ここまで屈辱を味わったままでは、おめおめと引き下がれない。

 

 

「せめて……、アイツだけでも落とすッ!!!」

 

 

ファントゥームは急加速し、目前の6機に突っ込む。

 

6機は即座に反応、散開して回避する。

 

ファントゥームはすぐに旋回し、獲物を狙って突進をかける。

 

狙うのはもちろん、恨み深き紫色の機体である。

 

 

「お前だけは、絶対に落とす!!!」

 

 

機首のガトリング砲がすさまじい速さで回転し、オレンジ色の火の玉を吐き出す。

 

美しい線を空中に描きながら、それは高速で飛んでいく。

 

 

「ええい、調子に乗ってッ!!」

 

 

ハッピートリガーが銃弾を避けるたび、女のボルテージは上がっていく。

 

女は唇をかみ締め、さらに強くトリガーを引く。

 

体中が熱を帯び、心臓や血管まで溶かし尽くしてしまいそうだった。

 

心臓の鼓動は早くなり、感情も高ぶってくる。

 

 

「ハァ……ハァ……、フー……フー……」

 

 

口で息を吸い、肩で呼吸する女。

 

すでに、周りは見えていない。

 

感じるのは、荒い自身の吐息に、ガトリング砲の射撃音と機体の駆動音。

 

そして、目の前にいる敵への殺意と憎悪の感情だけだった。

 

 

ピーーピーーピーー!!!

 

 

突然、コックピット内にアラートがけたたましく鳴り響く。

 

女はすぐに反応し、操縦桿を引いた。

 

ファントゥームの真横から、紅い機体が攻撃を仕掛けてきのだ。

 

それは、ランファの乗る紋章機《カンフーファイター》だった。

 

ファントゥームは、カンフーファイターの攻撃を避け、その場から離れる。

 

 

「よくも邪魔を!!」

 

 

ファントゥームは急旋回し、カンフーファイターに向かってガトリングを撃つ。

 

だが、カンフーファイターはすばやく機体をロールさせ、攻撃を回避する。

 

 

「そんな攻撃に当たるもんですかってね!!!」

 

 

カンフーファイターの中で、ランファが叫ぶ。

 

彼女は、読んで字のごとく“手足のように”愛機を操っていた。

 

新たな敵の出現に、ついに女の堪忍袋が爆発した。

 

彼女は、誘導プラズマ砲《フレスベルグ》を機動させた。

 

 

「2機とも吹っ飛べぇ!!!」

 

 

機首の砲口にプラズマが収束され、それが発射されようとした、刹那。

 

 

バァァァァァァァァァァン!!

 

 

ファントゥームは、その音で攻撃をいち早く察知し、横に回転して避けた。

 

だが、プラズマ砲による攻撃は失敗した。

 

女は、攻撃が放たれた方向を見る。

 

 

「くそっ、今度は何だ!!?」

 

 

紺碧色の機体がこちらに銃身を向けていた。

 

機体前方に突き出た銃身が特徴的で、見るからに狙撃仕様の機体だった。

 

それは、ちとせの紋章機《シャープシューター》であった。

 

 

「これ以上、好き勝手にはやらせません!!」

 

 

気が付けばファントゥームは、エンジェル隊の紋章機に囲まれていた。

 

下方にはハッピートリガー、カンフーファイター、シャープシューターの3機。

 

そして上方にはラッキースター、ハーベスター、トリックマスターの3機がいる。

 

たとえ、1機の攻撃を回避したとしても、その隙に残りの機体に攻撃を受けてしまう。

 

女は、自分が圧倒的不利な状況に置かれていることに、気が付いた。

 

 

「くっ……、ここまでか……。悔しいが、撤退するしかないか……」

 

 

女は、唇を強くかみ締め、悔しがった。

 

でも最後に……と、女は全周波数で通信回線を開いた。

 

それは、ミルフィーユ達エンジェル隊だけでなく、アレックス率いる艦隊にも繋がれている。

 

そして、女は叫ぶ。

 

 

「聞こえているか? クソッたれの軍の狗ども」

 

 

言葉だけは、一丁前に挑発をしていた。

 

その声は冷静な口ぶりであったが、怒りと憎しみがこもっていた。

 

ミルフィーユ達は、その言葉に少しムッとした。

 

 

「今日はこの辺で引き下がるが、次に会ったときは容赦しない」

 

「ちょっと待ちな!」

 

 

撤退しようとした時、突然聞こえた怒鳴り声に、女は反応した。

 

モニターを見ると、こちらを鋭い眼光で睨みつける一人の女性が眼に入った。

 

帽子をかぶった赤い髪の女性が、女を睨んでいた。

 

それは、エンジェル隊のフォルテだった。

 

 

「散々攻撃されて、そそくさと退散されちゃあ、私の気持ちも晴れないってもんだよ」

 

「お前か、私に一撃を食らわせたのは」

 

「だったら、どうするっていうんだい?」

 

 

フォルテも、かなり挑発的な口調で言った。

 

モニター越しでも、女はフォルテの殺気にも似たオーラを感じていた。

 

そのオーラを感じているのか、ミルフィーユ達はその通信に介入できなかった。

 

これほど怖いフォルテを見たのは、彼女達も初めてだったのである。

 

 

「お前、面白い奴だな、名前は?」

 

「まずは、自分から名乗ったらどうどうだい?」

 

「フッ、ますます面白い奴だ。私の名はレイ、レイ・エヴァンジェリンだ。お前は?」

 

「フォルテだ、フォルテ・シュトーレン」

 

「フォルテか、いい名前だ」

 

 

レイの脳内に、その名前はきっちりと刻み込まれた。

 

初めて自分に屈辱を与えた相手として、初めて自身が面白いと評価した敵として……。

 

彼女は、その名前を絶対に忘れないと心に誓った。

 

 

「フォルテ、次は絶対に落としてやる」

 

「ふん、臨むところさ!!」

 

 

フォルテとの会話が終わると、レイはほかの人物達にも叫んだ。

 

 

「貴様らも、私の名をよく覚えておくんだな!!」

 

 

レイは、通信を聞いているであろう人物達に向かって言った。

 

そして、通信を切ると操縦桿を握り、機体を旋回させる。

 

ファントゥームは水面スレスレまで降下し、海上を超スピードで滑走した。

 

水しぶきを上げながら遠ざかるその機影は、水平線の彼方へと消え去った。

 

 

「レイ・エヴァンジェリン……、いったい何者なんだ……」

 

 

フォルテは、ファントゥームが飛び去った方向を、じっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

サルベージ艦隊が攻撃されて、早1時間が経過した。

 

艦隊を攻撃した張本人であるレイは、愛機《ファントゥーム》で海上を飛行中だった。

 

だが、エンジェル隊との戦闘で受けたダメージは、予想以上に大きかった。

 

コックピットのモニターに、機体の損傷箇所とその度合いが表示される。

 

それを、レイが読み上げながら一つずつ確認していく。

 

 

「駆動パルス低下、外部装甲12%破損、ウェポン稼働率56%……」

 

 

片手で操縦桿を操り、もう片方の手でキーボードを打つ。

 

そのとき、機体全体が激しく揺れた。

 

 

「そろそろ限界か……、ここら辺で着水するか」

 

 

ファントゥームは速度を落とし、ゆっくりと下がっていく。

 

そして、その巨体をゆっくりと海面に近づけ、徐々に浸かっていく。

 

水しぶきを上げながら、ファントゥームは青い海面にその体を浮かべた。

 

 

ウイィィィィィン……ガッション!

 

 

レイはコックピットを開け、機外へと出る。

 

太陽はサンサンと照り付け、その光が海面に反射して、上も下もまぶしい。

 

レイはおもむろに懐からタバコを取り出し、ポケットから出していたライターで火をつける。

 

 

「フォルテ・シュトーレンか……、今回は、面白いことになりそうだ」

 

 

レイは、タバコを吸いながら、天空を見上げていた。

 

その口元は、少しばかり笑みを浮かべていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

彼女達を一目見たものは、死ぬ。

 

ある者は全身の骨を砕かれ、苦しんで死んだ。

 

ある者は全身を切り裂かれ、死体ですらなかった。

 

そしてある者は、全身を蜂の巣にされて死んだ。

 

人々は彼女達のことを、こう呼んだ。

 

『告死天使』、と…………。

 

 

 

<コメント>

 

どうも、お待たせしました。

GAオリジナル長編小説、第4話でございます。

ドンドンドン、パフパフ〜!!

え〜〜、着実に小説の人気投票も上位に上がってきているので、うれしいです。

これからも、がんばって書いていきます!!