GAオリジナル長編小説「Courage of Steel   〜守る力、戦う力〜」

                                  筆者・コードネーム「ビスマルク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第7話        狂気の戦闘舞踏会」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気付かれてはいないみてぇだなァ……」

 

 

海面下数十メートル、潜望鏡深度まで浮上した潜水艦の中で、男が呟いた。

 

ボロボロの仕官帽を横に被り、潜望鏡を覗き込む。

 

潜望鏡越しの彼の目には、空母とそれを取り巻く護衛艦の姿が見えていた。

 

 

「つまらん。なぜ私が待機なんだ」

 

「しゃあないやん。そないに言うたかて、ファントゥームの修理、まだ終わってへんやんか」

 

 

彼の後ろには、2人の人間が立っていた。

 

1人は、黒いロングコートを着た蒼い短髪の女性、レイ・エヴァンジェリン。

 

もう1人は、黒い長髪を後ろで縛っている巫女服の少女、如月なぎさ。

 

2人はモニターで、潜望鏡からの映像を見ていた。

 

 

「……ちっ!!」

 

「あっ、膨れたレイさんも可愛ぇーな!!」

 

「うっ、うるさい!!」

 

 

目線をモニターから逸らさず話す2人。

 

レイの瞳は、空母だけに狙いを定めていた。

 

まあ、今回は出撃できないので、ただ睨んでいるだけだが……。

 

そんな2人に、潜望鏡を覗いたままの男が声をかける。

 

 

「レイ、渋るのもそこまでにしとけよ。なぎさもすぐに出撃だ。そろそろ格納庫へ行け」

 

「はいな! ほな、戦闘指揮よろしゅうにな〜! 」

 

「ああ、任せろ」

 

 

艦橋から出て行くなぎさを見送ると、レイは再び目線をモニターに戻す。

 

見ると、空母は若干ではあるが回頭をしており、甲板上の航空機が確認できた。

 

レイはその中に、自分を退かせた6機の機体を見つけ、それを睨みつけた。

 

それと同時に、先の戦いで負った傷がまた痛み始めた。

 

すると突然、シュンッ、と言う音と同時にモニターの映像が消えた。

 

レイは驚いて横を見ると、リモコンを持った男が立っていた。

 

 

「見すぎだ馬鹿、そのうちストレスで倒れるぞ」

 

「っ………ふんっ!」

 

 

レイは指揮席に座り、腕を組んで前を向いた。

 

男は、やれやれ、とため息をつき、艦長席に腰掛けた。

 

そして、今まで横に被っていた帽子を正面に直すと、その瞳の輝きを鋭くさせた。

 

 

「魚雷、1番から8番まで装填!! 種類はMk-5誘導魚雷だ!!」

 

「了解!! 魚雷室、Mk-5誘導魚雷を1番から8番まで装填!!」

 

「魚雷発射後急速浮上、主砲射撃準備!!」

 

「はっ!!」

 

 

俄かに慌しくなる艦内には、戦闘配備を知らせる警報が鳴り響く。

 

今まで誰にも気付かれず、静かにその機会を伺っていた潜水艦が、ついに動き出すのだ。

 

潜水艦の艦長である男は、いきり立った声で艦橋に怒号にも似た命令を轟かせた。

 

 

「魚雷……発射ァァ!!!」

 

 

その後ろで、レイが密かに口元を微笑ませたことに、誰一人として気付くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魚雷は発射管から放たれた数秒後に、空母や護衛艦のレーダーにその姿を映した。

 

突然の出来事に、艦隊は再び騒然となった。

 

8本の魚雷が数十隻の艦から標的に選んだのは、旗艦の空母《ドレッドノート》だった。

 

それにいち早く気付いたアレックスが、即座に指示を出す。

 

 

「機関始動、全速!! 迎撃システム機動、魚雷を沈めろ!!」

 

 

ドガガガガガガガ!!! ドォン、ドォン、ドォン!!!

 

 

ドレッドノートはその巨体をゆっくりと回頭させながら、銃弾の雨を魚雷に浴びせる。

 

しかし、その銃弾はただ水しぶきを作るだけで、魚雷にまったく当たらない。

 

周りの護衛艦も、バルカンや主砲で魚雷を攻撃するが、どれも命中しなかった。

 

それほど、魚雷の速度が速すぎるのだ。

 

 

「魚雷、さらに接近!! 距離500!!」

 

「左舷全速回頭!! 意地でも避けろっ!!!」

 

 

ドレッドノートは、左に大きく傾きながらその進路を変える。

 

推進機関のメーターが振り切れそうになるほどのスピードでも、魚雷は迫ってくる。

 

緊迫した状況の中、さらに不利な情報がオペレーターにより報告された。

 

 

「艦長!! 本艦前方に艦影を確認、潜水艦です!!」

 

「なっ!?」

 

 

アレックスは双眼鏡を手に取り、艦橋の窓から身を乗り出す形でそれを覗いた。

 

彼は、たった今海中から現われた巨大な黒い艦体を、自分自身の目で確認した。

 

その甲板には、護衛艦の物よりも大きく、また砲門数も多い主砲があった。

 

次の瞬間、それらが一斉にドレッドノートに砲口を向けた。

 

 

ドッゴォォオオォォーーーーーーン!!!!

 

 

3連装4基、計12門もの砲口が一斉に火を噴いた。

 

放たれたオレンジ色の砲弾は、虹のような曲線を描きながら空気を裂く。

 

それらは、まるで意思を持つかのような正確さで、ドレッドノートに降ってくる。

 

 

「砲弾、本艦に急速接近!!!」

 

「回避、迎撃!!!」

 

 

ドガガガガガガガガ!!!!! ドガガガガガガガガガ!!!!!

 

 

魚雷と砲弾、2つの攻撃を一度に受けたドレッドノートは、雨のような弾幕を張ることが精一杯だった。

 

だが、その努力もむなしく、魚雷と砲弾の両者は、容赦なくドレッドノートに襲い掛かる。

 

部下からの絶望的な報告を聞いたアレックスは、覚悟を決め、叫んだ。

 

 

「砲弾5、弾幕を抜けました!! 命中します!! 魚雷も後方から4本が接近中!!」

 

「ちぃ!! 総員、衝撃に備えろぉ!!!!」

 

 

その瞬間、皆の目に映る光景が、まるでスローモーションのようにゆっくりと流れた。

 

 

 

ドオオオオオオオォォォーーーーーン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッガアアァァアアアアァァァァァァァン!!!!

 

 

「うわあああぁぁぁっ!!!!」

 

「ああああぁぁぁ!!!」

 

 

魚雷より先に砲弾が着弾した飛行甲板は、辺り一面炎の海と化した。

 

砲弾の直撃で爆発した艦載機が宙に舞い、火の粉が乗組員達の頭上に降り注ぐ。

 

それに加えて、駄目押しの魚雷直撃で、空母は大きく揺さぶられる。

 

甲板は激しい揺れに襲われ、乗組員達はバランスを崩して海に落下していく。

 

炎に包まれた甲板の中を、1人の女性が駆け抜ける。

 

紅い髪に片眼鏡をしたエンジェル隊のリーダー、フォルテ・シュトーレンだった。

 

フォルテは先ほどまで自室に居たが、警報を聞いていち早く部屋を飛び出してきたのだ。

 

そして彼女が甲板に出ようとした瞬間、空母は攻撃を食らったのだ。

 

 

ドォォォォォォン!!!

 

 

「くっ………どこもかしこも火の海で、これじゃあ紋章機まで行けるかどうか!!」

 

 

フォルテは自身の感だけを頼りに、炎の中を駆け抜けていた。

 

顔を右腕で庇いながら、前へと進む。

 

目前に、少し炎が収まった場所を見つけ、そこに迷わず飛び込んだ。

 

するとそこには、1人の兵士に治療を施している少女、ヴァニラの姿があった。

 

兵士の服は血に染まり、赤よりも濃く、どす黒い色になっていた。

 

傍らにいるノーマッドが、心なしか悲しそうな顔をしているように見えた。

 

フォルテはもっと近づいてみると、その兵士は既に息を引き取っていた。

 

横目で見たヴァニラの瞳から、透明な雫が零れ落ちた。

 

フォルテの心に、深く突き刺さるものがあった。

 

ヴァニラはゆっくりとフォルテに顔を向け、搾り出したような声で言った。

 

 

「フォルテ…さん………また命が……失われて……」

 

「およし、それ以上言わないほうがいいよ」

 

 

フォルテは自身の手でヴァニラの涙を拭い取ると、彼女に優しく語りかけた。

 

その瞳の輝きには、鋭さの中にも何か暖かいものが感じられた。

 

 

「ヴァニラ、アタシ達はいつまでも悲しんではいられない。前を向かなきゃいけないんだ。

こんな悲しみが増えないように、アタシ達は戦わなくちゃいけないんだ」

 

「フォルテさん……」

 

「あいつらのような“殺すための戦い”じゃなく、アタシ達は“守るための戦い”をするんだ」

 

 

フォルテの言葉は、ヴァニラの心に確かに響いた。

 

“殺すため”ではなく“守るため”の戦い。

 

ヴァニラの瞳に、何かが宿った。

 

 

「フォルテさん、行きましょう。大切なものを守るために……」

 

「ああ、行くよっ!!」

 

 

ヴァニラはすばやくノーマッドを拾い上げると、フォルテの後に続くように駆け出した。

 

“大切なものを守る”、その言葉を胸に、彼女は再び戦いに身を投じていく。

 

その真直ぐな決意は、もう何者にも曲げられることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすが我が戦艦《リヴァイアサン》、今日も調子は絶好調だなァ!!」

 

 

空母《ドレッドノート》に、魚雷と砲弾を命中させた潜水戦艦《リヴァイアサン》。

 

その艦長、ゴーダ・フォッケウルフは、乗艦の性能のよさに気分を良くしていた。

 

モニターに映る、炎に包まれた空母を眺めて、優越感に浸っていた。

 

そこに、部下から報告が入る。

 

 

「ゴーダ艦長、敵空母より紋章機が発進しました」

 

「なにィ!! カタパルトは使えないはずだぞ?」

 

「いえ、垂直離陸した模様です。発進したのは2機、紫と緑の機体です」

 

「なっ、なんだと!!!」

 

 

その報告を聞いて驚いたのは、ゴーダの後ろにいたレイだった。

 

彼女は椅子から立ち上がると、モニターの映像を食い入るように見る。

 

特に彼女が注目したのは、紫色の機体の方だった。

 

機首より前方に突き出た砲身、両脇のレーザーポッドとミサイルランチャー。

 

レイは、その機体に乗っている人物の名を、憎しみのこもった声で言った。

 

 

「フォルテ・シュトーレン……!」

 

「それが、お前に傷を追わせた相手の名か?」

 

「っ……! うるさい!!」

 

 

レイは怒鳴ると、耳につけたインカムで通信を入れた。

 

その声は、格納庫の3人に繋がっていた。

 

 

「ヘンゼル、グレーテル、なぎさ、出撃準備をしろ!!」

 

『あらら、いきなり出撃とは、いったいどないしはったんです?』

 

『もしかして、強い奴が出てきたの?』

 

 

疑問の言葉を浮かべるなぎさ、そしてその命令に目を輝かせるグレーテル。

 

レイは、2人の質問に答えた。

 

 

「敵空母から例の大型戦闘機、エンジェル隊の紋章機が発進した」

 

『あいつらが!?』

 

「ああ、しかもそのうちの1機は……私とファントゥームに傷を負わせた奴だ」

 

 

レイのその言葉を聞いた瞬間、向こうの3人の目つきが変わった。

 

いつも無邪気なヘンゼルとグレーテルの顔が、一気に鋭くなった。

 

いつもは温厚で優しいなぎさの瞳が、邪悪な輝きを放っていた。

 

 

『へぇ……そうなんだ……。じゃあ、たっぷりと仕返しをしてやらないとね。お姉様』

 

『ええ、私達のレイに傷を付けた……たとえそれがエンジェル隊でも、私達は容赦しない』

 

『ええこと言うなぁグレーテル。うちも、あんたらと同じ気持ちや。本気で行くえ』

 

「よし、その意気だ3人とも。思う存分暴れて来い!!」

 

 

レイが傍にあったスイッチを押すと、彼女たちのいる格納庫の天井が音を立てて開き始めた。

 

今まで薄暗かった格納庫に日が差し込み、彼女達の機体を照らす。

 

それらは光を反射して、眩しく輝いていた。

 

それと同時に床が上がり、機体が甲板上に姿を現した。

 

それぞれ、蒼、緑、紅の色の機体が、威風堂々とその場に現われた。

 

 

『システムオールグリーン、こっちは問題ないよ。お姉様』

 

『こっちも、パワーフロウ良好、オールウェポンズグリーン、完璧な状態よ。お兄様』

 

『エンジン、ウィングともに異常なし。発進しますえ〜』

 

 

キュイィィィィイイイイィィィィィン………

 

 

3機のエンジンが唸りを上げ、出力を上げていく。

 

エンジンの起こした風がその場で渦を巻き、海上の波が巻き上げられる。

 

 

キュイィィィィィィイイィィン……ドォォォォォォン!!!!

 

 

エンジンが炎を噴き、3機の紋章機は一斉に大空へと飛び立っていった。

 

その鋭い眼光で捉えた標的を、抹殺するために……。

 

自分達の大切な人を傷つけた敵を、この世から消し去るために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、空母より飛び立ったフォルテとヴァニラは、上空から炎上する艦を見つめていた。

 

ドレッドノートの艦体は左斜めに大きく傾き、その飛行甲板は炎に包まれていた。

 

艦載機の殆どは焼き払われ、固定されている紋章機の周りにも炎が広がっていた。

 

 

『フォルテさん、あれではミルフィーさん達は紋章機に近づけません』

 

「ああ、まずあの炎を何とかしないといけないね」

 

『では、炎は私がなんとかしてみます』

 

「わかったよ、じゃあ敵艦はアタシが……っ!!」

 

 

突然、ハッピートリガーの真横から閃光が放たれた。

 

フォルテは瞬時に反応し、その攻撃を間一髪でかわす。

 

すぐに体制を建て直してその方向を見やると、蒼い龍のような機体がそこにいた。

 

 

「へぇ〜、やるじゃん!! 僕の《ソキウス》の攻撃を避けるなんてね!!」

 

 

攻撃を仕掛けたのは、ヘンゼルの駆る紋章機《ソキウス》だった。

 

蒼を基調とした機体に、ランファのカンフーファイターのようなアンカーが装備されていた。

 

だが、その形状は鋭く尖っており、大きさもカンフーファイターの物より2倍は大きかった。

 

さらに、機体後部には長くて太い鋼鉄製の尻尾があり、その先端には砲門らしきものもある。

 

ソキウスは一気に加速し、ハッピートリガーに突っ込んでいった。

 

 

「絶対に落ーーーーーーす!!!」

 

「チィ!!」

 

 

ソキウスの腕に装備されたビームキャノンが、ハッピートリガーを襲う。

 

フォルテは舌打ちをしてそれを避けると、レーザーポッドを乱れ撃った。

 

 

「はん!! そんな攻撃でこの僕を殺ろうって?」

 

 

ヘンゼルはそう叫ぶと、操縦桿を倒す。

 

無数に飛び交うレーザーの網目を、ソキウスは超高速で潜り抜けていく。

 

そして、そのままのスピードで急旋回すると、再びハッピートリガーに襲い掛かった。

 

 

「舐めんなよ!!!  オラアアァァァ!!!」

 

 

ヘンゼルは、潜水艦の中にいた時とまったく違う表情、言葉遣いをしていた。

 

それもそのはず、彼は極度の戦闘狂、つまり戦うことを快感とする性格なのだ。

 

だから、普段は温厚で言葉遣いも丁寧なのだが、戦闘になるとこのように豹変する。

 

 

「フォルテさん!!」

 

 

明らかに押されているハッピートリガーを助けようとするヴァニラ。

 

しかし、彼女の行く手を1機の紋章機が塞いだ。

 

その機体の色は、ハーベスターと同じであったが、所々にモスグリーンのラインが入っていた。

 

前方に突き出したキャノン砲、機体両脇のビーム砲、後部のレーザーポッド、バルカン砲。

 

機体の各部に武装があり、見る限りかなりの重武装、重装甲の機体ということが分かる。

 

 

「お兄様の邪魔はさせない。そして貴方は、私がこの《アゼル》で倒す!!」

 

 

グレーテルの駆る紋章機《アゼル》が、そのごつい機体をハーベスターに突進させる。

 

突進しながらも、機体に装備された重装備のすべての照準をハーベスターに定める。

 

 

「お兄様の邪魔をするな!! 消えろーーーー!!!」

 

 

アゼルは装備された武装のほぼすべてを一斉発射した。

 

ビームとレーザーの雨がハーベスターに襲い掛かる。

 

ハーベスターはすぐにエネルギーシールドを張る。

 

ビームやレーザーはそれに防がれるが、その雨は止むことは無い。

 

 

「ヴァニラっ!! このぉ!!」

 

「テメェの相手はこの僕だ!! お姉様の邪魔はさせねェーーー!!!」

 

「ぐぅっ……!!」

 

 

ハーベスターを助けようとするフォルテの前を塞ぐソキウス。

 

エンジン出力を全開まで上げ、エンジンは青白い炎を噴き上げる。

 

ハッピートリガーとの距離を一気に詰め、装備された大きな爪をレールガンに食い込ませる。

 

 

「アッハッハッハ!! そのウザい武装、僕が引き千切ってやるよぉーー!!!」

 

「うっく………くぅ!」

 

 

ハッピートリガーのレールガンに食い込んだ爪が、さらに深く突き刺さっていく。

 

フォルテは何とかして逃れようとするが、深く刺さった爪はなかなか抜けない。

 

レールガンにヒビが入り、もう折れるのも時間の問題かと思われた。

 

そのとき、2機のレーダーに急速接近する物体が映った。

 

フォルテは画面に表示された識別信号を見て、その正体が分かった。

 

 

「フォルテ先輩、助太刀します!!」

 

「ちとせ!!」

 

 

それは、エンジェル隊の烏丸ちとせの駆る紋章機《シャープシューター》だった。

 

シャープシューターは、慎重に狙いを定めたレールガンをソキウスに放った。

 

それに気付いたソキウスは、ハッピートリガーを掴んでいた爪を放し、その場から離れた。

 

 

「すみません、遅くなってしまいました」

 

「いやいや、ナイスタイミングだよ。おかげで助かった」

 

「いえ、とんでもありません」

 

 

シャープシュターは、ハッピートリガーを庇う形で前に出る。

 

すると、丁度そのとき、右前方からヴァニラのハーベスターが接近してきた。

 

2機にヴァニラからの通信が入る。

 

 

「ちとせさん、無事だったのですね」

 

「はい、ヴァニラ先輩」

 

「フォルテさんも、ご無事でなによりです」

 

「ちとせのおかげでね。でも機体が……」

 

「大丈夫です。ナノマシンで修復いたします」

 

 

ハッピートリガーの傍に寄り添ったハーベスター。

 

破損したレールガンが、緑色の淡い光に包まれ、見る見る修復されていく。

 

そして、数秒後には破損したとは思えないほどの完璧な形になっていた。

 

 

「これで二対三、こちらが有利になりましたね」

 

『いやいや、三対三で互角ですえ〜』

 

「えっ!? 誰っ!?」

 

「ちとせ、上だよ!!」

 

 

通信に介入してきた声に驚き、ちとせは慌てた。

 

フォルテは、上空に現われた機影に反応し、ちとせに注意を促す。

 

 

「ヘンゼルもグレーテルも、遊びすぎですえ〜」

 

「遊んでない!! こいつら本気で強いんだ!!」

 

「ええ、かなりの強敵と見るわ」

 

 

その紋章機は、ゆっくりと垂直に降りてきた。

 

赤黒い血のようなボディが怪しく光を放ち、その威圧感を周囲に感じさせていた。

 

機首には、日本刀のように鋭く研ぎ澄まされた巨大刀が付いていた。

 

本体の上部には、まるで“ドラム缶”のようなものが4つ装備されていた。

 

この装備がどのようなものか分からないが、注意したほうがよさそうだ。

 

フォルテは直感でそう思った。

 

 

「そうなんか、まあええ。うちがこの《アマテラス》でまとめて粉砕したる!!!」

 

「へっ、やれるモンならやってみな!!!」

 

「僕も行くよ!! 抹殺!!!」

 

「抜け駆けはダメよお兄様!!!」

 

 

告死天使の如月なぎさの紋章機《アマテラス》が加わり、再び戦いは始まった。

 

3対3の、ほぼ互角とも言える紋章機同士が、再び火花を散らす。

 

果たして、勝敗はどちらの手に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

火蓋は切られた。

 

エンジェル隊、告死天使、双方は激しく激突する。

 

一方は、大切なものを守るため。

 

もう一方は、敵を滅ぼすため。

 

戦う理由が違う両者が、激しく火花を散らす。

 

果たして、勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか……。

 

それは、運命のなるままに……。