部屋の主であるフランボワーズ少尉。
俺を呼びに来たアッシュ少尉。
呼ばれた俺。
呼ばれてないのについてきたタクト。
あと、なんとなく居る桜葉少尉。
以上が今回のメンバーだった。
……ろくでもない顔ぶれだな、改めて見てみると。
GA男塾
第11話 『塾長、恋を悩む』
「つまり、副司令が恋に疎すぎるのが悪いんですよ」
フランボワーズ少尉の話は、いきなり結論から始まった。
「よって、今日は副司令に恋人でもあてがってみようというお話です」
「おおおっっし! やってやるぞおおおぉぉぉ!」
タクトは燃えていた。
なんでお前がやる気満々なんだ。
「もうバーンってやっちゃいましょう、バーンって!」
桜葉少尉、君もか。
「2人とも……ナイスガッツ……」
アッシュ少尉……なぜ満足気?
「みんなーっ! ときめいてるーーーっ!?」
『おーーーうっ!(おー……)』
……早くも帰りたくなってきた。
あきれて言葉も無い俺に、フランボワーズ少尉は振り返って言った。
「というわけで、副司令」
「む?」
「ミントに恋してください」
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「……は?」
間の抜けた声を上げてしまった。
「は? じゃありません。ミントに恋してください」
「いや、恋しろと言われても、はいそうですかと出来るものでは……」
控えめに抗議してみるが。
「四の五の言わずに恋してください」
有無を言わさぬ態度だ。
「しかし、恋愛とは本来、自由意志によるものであり……」
なおも抵抗してみるが。
「副司令の意思? 不要です」
取りつくしまも無い。
どうしたものかと俺が途方に暮れていると、フランボワーズ少尉はそんな俺の態度が気に入らないのか。
「なんです? 不満そうですね」
「いや、俺の人権はどこへ……?」
「ミントの何が気に入らないんですか」
「そういうわけじゃないが」
「じゃあ良いじゃないですか。いいから、とりあえず恋しなさい」
もはや命令形である。俺は一応、上官のはずなのだが。
そこへ横から、桜葉少尉が口を挟んできた。
「ミントでダメって事は、フォルテさんならいいんですか?」
「だからそういう問題では」
「あ、分かった! ランファだ!」
「違う」
さらにタクトが。
「まさか貴様、ミルフィーを!? させるか、表へ出ろっ! お前なんかに彼女は渡さんっ!!」
「お前はしゃべるな」
どげしっ
「あうんっ」
妙に艶っぽい声を上げて、タクトは昏倒する。
気色悪いな。
「副司令、わがまま言うんじゃありません!」
いきなりフランボワーズ少尉が逆上し、椅子を蹴り倒して立ち上がった。
セリフがお母さんだ。
「何を怒っているんだ、フランボワーズ少尉」
「副司令がいつまで経っても恋しないからですよ! 分かりました、ヴァニラあげます! 青少年法上等!」
「君のじゃないだろう。それに法律に上等切る気も無いぞ」
「だから四の五の言わない! 3秒あげますから恋しなさい。さーん、にーい、いーち、ゼロ! 恋しました!?」
「するわけないだろう」
どうでもいいが、なぜ怒られているんだ? 俺は。
なんだか恋というものが、今までとは違う物に見えてきたぞ。
「あーもう、なんで恋しないのよーっ!」
フランボワーズ少尉は癇癪を起こしたように、しばらく暴れ狂っていた。
具体的にはタクトに八つ当たりしていた。
腕をへし折り、心臓にハートブレイクショットを叩き込み、転蓮華で首を変な方向に曲げる。
「わー! タクトさんの顔が上下逆さまに!」
桜葉少尉が慌てて救急箱を持って来る。
そして、人体と呼ぶには色々とおかしくなってしまったタクトの損傷個所に、一生懸命オロナインを塗り込んでいた。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
その最中、ふとアッシュ少尉が俺に近づいてきた。
「……副司令……」
「何だ」
彼女は少し頭の中を整理するように沈黙して、それから口を開く。
「……すみません、今のお話がよく理解できなかったのですが……」
「ふむ?」
「つまり私は、今日から副司令のものになるのでしょうか・・…?」
「ならない」
俺は即答した。
いきなり何を言い出すんだ、この娘は。
「お食事の給仕などを……」
「しなくていい」
「お風呂でお背中を流したりは……」
「無用だ」
「……ご主人様とお呼びした方が……」
「呼ぶなっ!」
どこでそんな事を覚えたんだ。
まるで俺が、特殊な趣味の人間みたいではないか。
「……そうですか……」
目を伏せるアッシュ少尉。
なぜ憂い顔?
「レスター」
ポン、と肩を叩かれた。
振り返ると、タクトだった。
「お前は馬鹿だ」
バカはお前だ。
と言うか、おかしな人体のまま話しかけるな。ものすごく怖い。
とりあえず、そこから出ている骨を何とかしろ。
――――数十分後。
「ふう、助かったよミルフィー。もう少しで色々と取り返しのつかない事になるところだった」
タクトはまたしても、意味不明な復活を果たしていた。
首なんて180°上下が逆さまになってたのに、オロナインは偉大だ。
ちなみに俺も塗るのを手伝ったのだが、なぜか俺ではダメだった。
「オロナインを塗らせたら、ミルフィーは銀河一だな」
要するに桜葉少尉なら何でもいいんだろ、お前は。
「愛さ、レスター」
「うるさいだまれ」
化け物め。
まぁ、こんな人類のブラックボックス野郎は置いておいて。
「はあ……もういいですよ」
こちらではフランボワーズ少尉が、何事も無かったかのようにため息をついていた。
「でも本当、異性に無関心すぎるってのも問題だと思いますよ。人として不出来です」
「おおげさな。まるで俺が欠陥品みたいじゃないか」
「だから、そう言ってるんですってば」
「……何気に失礼だな君は」
「今のままなら、ですよ」
飄々としてお茶をすする。
それから少しだけ真面目な顔を取り繕って言った。
「でも不思議なんですよね。私がもともと惚れっぽい性格だから余計」
その言葉通り、心底不思議そうに言う。
「副司令、なんで女の子を好きにならないんですか?」
「俺に訊かれてもな。なぜ髪が銀色なのか、と訊かれるのと同じくらい答えようが無い。そう生まれついたからだ」
「んー、そうじゃなくて。だって、恋してみたい、とか普通に思いません? 生物としての本能ですよ?」
「じゃあ逆に訊こう。なぜそんなに恋をしたいと思うんだ?」
「そんなの決まってます、楽しいからですよ」
単純明快な答えだった。
俺の嫌いな類の答えだった。思わず渋面を浮かべてしまう。
するとこちらの思考が読めたのか、彼女は逆にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「そんな幼稚な考えにはつきあっていられない、って顔ですね」
「…………」
「でも、さっきも言いましたけど、これは本能から来る現実です。私から言わせれば、人が何千年も何万年も前から続けて
きた現実を、理論武装で否定しようとする方がよっぽど馬鹿ですね。結局、現実が見えていないって事じゃないですか」
「……そう思うか」
「ええ。私は副司令にはそんな馬鹿な男になって欲しくないんです」
「しかし俺は……」
「難しく考えないで。楽しいから恋をする、それでいいじゃないですか。あの2人を見習ったらどうです?」
そう言って彼女が指し示したのは、俺達の隣で談笑しているタクトと桜葉少尉だった。
「ん〜、確かここをこうして……」
ちなみにどこから持ち出したのか、2人はあやとりをして遊んでいた。
今はタクトが紐を持ち、桜葉少尉がそれを取ろうとしている。
うろ覚えなのか、桜葉少尉は自信無さそうにしながら紐に手をかける。
「あれ? え〜と……あ、あれ?」
間違っていたらしい。紐はこんがらがり、タクトの両手を縛ってしまった。
「わ、わ、ごめんなさいタクトさん! すぐにほどきますからっ!」
慌てて謝罪し、紐をほどこうとする桜葉少尉。
で、タクトはと言うと。
「ミ、ミルフィーに縛られた……」
なぜだか喜んでいた。
「ね? 楽しそうでしょ?」
フランボワーズ少尉は、そんな2人を温かい目で見守りながら俺にそう言う。
「……いや、確かに楽しそうではあるが……」
なにか間違ってないか?
「……お話をうかがいましたが……」
今度はアッシュ少尉が口を開く。
「今回の一件では……副司令も、少し冷たかったと思います……」
「何の話だ?」
「ミントさんのお気持ちについてです……」
フランボワーズ少尉もうなずく。
「そうそう。副司令、何かフォローしてあげても良かったんじゃないですか?」
「フォロー?」
「秘密にしていた自分の気持ちを、相手が目の前にいる時にバラされたんですよ? あの子、恥ずかしくて不安で、死にそうだった
と思います」
「……なのに副司令が、何もおっしゃらなかったから……」
「何か一言、かけてあげれば良かったんですよ。『嬉しいよ』とか『俺も好きだ』とか『結婚してくれ』とか」
いや、さすがに最後のはどうかと思うが。
俺はあの時の自分のリアクションを思い出してみる。
……こういう時は、どうすればいいのだろう?
「あ〜、ブラマンシュ少尉。その……何だ」
口を開いてみるが、言葉が続かない。
困った。
なるほど。
確かに男として、情けなかったかも知れない。
「むむむ……」
「何がむむむ、ですか」
フランボワーズ少尉が呆れたように言う。
「それだけじゃありませんよ? あの時のミントのお弁当、どう思いましたか?」
「……どう、とは?」
「だから、あの時にミントが用意してたお弁当ですよ。あれ、ミントの手作りだったんですよ?」
俺はうなずいた。
「そのようだったな。美味かったぞ」
「そうじゃなくって」
苛立たしげに首を横に振るフランボワーズ少尉。
「すっごくフツーのお弁当だったでしょう? もうこれ以上はないってほどオリジナリティのカケラも無い、そのへんの惣菜屋で買ってきて容器だけ移し替えたような、没個性もはなはだしいお弁当だったでしょう?」
ものすごく失礼なことを言っているような気がするのだが、そうではないらしい。
「……信じられません……」
アッシュ少尉が、やるせない様子で首を振る。
「ミントの作る料理って言ったらですね、そりゃもう添加物たっぷりの合成着色料てんこもり。極彩色もきらびやかで、アンタこれ人間が口に入れていいものなの? って言いたくなるくらいの代物なんですよ?」
「……そうなのか?」
「……前例は、はいて捨てるほどあります……」
「そんなあの子が、ごくフツーのお弁当。これがどういう事だか分かりますか? ぜ〜んぶ、副司令のためだったんですよっ?」
「……副司令に召し上がっていただくため、ご自分は我慢なさってたんです……」
そうだったのか?
少なからずショックだった。
俺は、彼女に無理をさせていたのか……?
「なのに副司令、ミントに『美味しい』の一言でも言いましたか?」
「………………」
「……冷たいと思います……」
返す言葉もなかった。
何という事だ……。
「まぁ、相手が副司令じゃミントもある程度は分かってるはずですから、話のキッカケにその事でも言ってみたらどうです?」
「あ、ああ」
「……副司令……ガッツ……」
アッシュ少尉が両の拳を握り締めて、弱々しくエールを送ってくれる。
そうだな、何とかしなければ。
俺はふと隣を見やる。
「人間の細胞って、3ヶ月でそっくり入れ替わるらしいんです。3ヶ月たったら別の自分になってるってことですね」
「何だって!? じゃあ3ヶ月後には今日のミルフィーは居なくなってしまうのか? そんなの嫌だーーーっ!」
「うぅ、私も悲しいです。あと3ヶ月でお別れだなんて……」
相変わらずわけの分からない話をしている2人。
そんな2人が、なぜだか少しだけ羨ましく思える。
「そうだな……何とか、しなければな……」
俺は誰にともなく、ひとりごちた。
(第12話に続く)
〜管理人コメント〜
タクトの恋のトラブル(?)も解決し、次はレスターへと移ったわけですね。
でも…蘭花さんったら、強引です……。
レスター本人の自由意志がないってどうよ(笑)。
ミントのあの弁当に、あのような伏線が張ってあったんですね…。
確かにいつものミントの弁当なら合成着色料てんこ盛りになっていた筈。
全く気がつきませんでした。
次回も期待しています。
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