「Dブロックに火災発生! 消火班、急いで下さいっ!」

「B−1からB−3までを隔離しろ、シェルター閉鎖!」

「3番砲座、完全に沈黙! 砲座長、応答願います!」

「砲手、何をやっている! 相手が見えていないのかっ!」

 

 

……言っておくが、別に戦闘をしているわけではない。

タクトと桜葉少尉を捕まえようとしているだけだ。

 

エルシオールの乗組員、総がかりで。

 

 

 

 

 

 

 

 

GA男塾

 

第14話『塾長、まだまだ走る』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてやつらだ」

 

もはや呆れるのを通り越して、感嘆の溜め息が出る。

このエルシオールの人的戦力を総動員していると言うのに、たった2人が止められないとは。

 

「整備班、中央ホールで目標と接触。交戦を開始しました!」

「3分持たせろ、装備部を大至急支援に回せ」

「あっ、スティーブ軍曹がマウントポジションを取られました! ひどい、メッタ打ちです!」

「絶対死守だ! 死んでも抜かれるな!」

 

2人といっても、桜葉少尉は何もしていない。ただ走って逃げているだけだ。

問題は、それを追いかけるタクトの馬鹿なのである。

 

「ダメです! 整備班、戦力90%減! 中央ホールを突破されました!」

「くっ……負傷兵の救助! 衛生兵、衛生兵はどこだ!」

「Aブロックの廊下です! ケーラ先生、急いで下さい!」

 

奮戦の甲斐も無く、整備班の屈強な男達はタクト1人に蹴散らされる。

そう言えば、前にもこんな事があったような。

 

「………………」

 

無意識に隣を見やる。

俺の視線に気付いたのか、アッシュ少尉は顔を上げて見つめ返してきた。

 

「……何でしょうか……?」

「いや、別に」

 

一瞬、例の『ヴァニラちゃん親衛隊』とやらを投入できないか、と考えてしまった。

 

バカな事を。俺はいったい何を考えているんだ。

あんな奴らに頼ってしまっては、何か大切なものを捨ててしまうような気がする。

 

「ん〜、しょうがないわね。いっちょ、アタシが行って来ましょうか?」

 

フランボワーズ少尉が指をパキパキ鳴らしながら、そう言ってくる。

 

「却下だ」

「え〜? なんでですか」

「いや……君はあくまで最後の切り札だ。まだ早い」

「切り札。え、そ、そうかなぁ?」

 

照れ笑いしながら頭をかく彼女を尻目に、俺は放送で次の指示を出す。

 

「総員、一時撤退だ。武器庫を開放しろ、機関銃以下の武装を許可する」

 

 

どげしっ

 

 

途端、後ろから頭を殴られる。

 

「なんでアタシより機関銃の方が先なんですか!」

「だから君は最後の切り札だと」

「機関銃でもダメな相手が、アタシなら大丈夫だって言うんですかっ!」

「……?」

「不思議そうな顔をするんじゃないっ! アタシを何だと思ってるんです!!」

 

強いと誉めているのに、なぜ怒るのだろう。

やはり女の考える事はよく分からん。

俺はさらに視線をめぐらせた。

俯いているブラマンシュ少尉に呼びかける。

 

「ブラマンシュ少尉。この状況、何か良い案は無いか?」

 

返事が無い。

 

「ブラマンシュ少尉」

「……え?」

 

ようやく気が付いたらしい。

寝起きのように冴えない顔が上がる。

 

「この状況をどうするか相談している。何か案は無いか?」

「あ……ええと……」

 

いちおう思案顔などして見せるが、期待できそうにない事は一目で分かった。

どうにも覇気が無いのである。

 

「申し訳ありません……これといって策は……」

 

いつもは見るからに聡明そうな輝きを放っている瞳が、完全に曇り果ててしまっている。

思いつかないと言うより、まともに頭が働いていないといった様子だ。

いったいどうしてしまったのだろうか。

 

 

「こりゃ一体、何の騒ぎだい?」

 

 

その時、1人の女性がブリッジに入ってきた。

赤味がかったセミロングの髪。

ロングコートをひるがえす姿が、ひどく様になっている。

目深にかぶった帽子の奥に湛えた、隙のない鋭い眼差し。

フォルテ・シュトーレン中尉。

エンジェル隊最年長にしてリーダーを努める、唯一の大人の女性である。

 

「表が騒がしいから顔を出してみたら、なんか艦内中で大騒ぎしてるじゃないか。何かあったのかい?」

「いや、それが」

 

俺は事情をかいつまんで話す。

 

「と、言うわけなんだ。桜葉少尉がなぜ怒ったのか、皆目見当がつかなくてな……シュトーレン中尉?」

 

説明し終えた所で、俺は気が付いた。

話を聞いたシュトーレン中尉は顔を引きつらせ、こめかみに汗を垂らしていた。

 

「あ〜……そうかい。そりゃあ〜、大変だわなぁ、うん」

「どうした? 何か知っているのか?」

「いや、知ってるっつーか……まあ、何つーか……」

 

何事か訳の分からない事をゴニョゴニョ言った後。

パンッ、と両手を合わせ、シュトーレン中尉は頭を下げた。

 

「悪ぃ! それ私のせいかも知れねぇわ!」

「何だと? いったいどういう事だ!?」

「実は……」

 

 

 

 

 

 

 

俺はエンジェル隊全員を引き連れ、またしても走っていた。

 

「つまり何か。桜葉少尉は別に、何も怒ってはいないという事なのか?」

「もし私の言う事を真に受けてるんなら、そういう事だよ!」

 

隣を走るシュトーレン中尉の答えに、俺は思わず天をあおぐ。

彼女の話によると、真相はこうだった。

 

 

つい数日前、シュトーレン中尉は展望公園で桜葉少尉と会った。

ベンチに腰かけ、憂鬱な溜め息をついている桜葉少尉を偶然見かけ、声をかけたのだ。

すると、悩みを相談されたのだという。

その悩みというのが。

「自分はタクトが好きだが、タクトはどうなのか分からない。あの優しさに甘えていいのか分からない。うっかり甘えてしまったら、ずうずうしい女だって嫌われそうで怖い」

という事だったらしい。

そこでシュトーレン中尉はこう答えたのだ。

「じゃあ試してみなよ。一度、思いっきりわがまま言って逃げちまいな。それでタクトが追ってきてくれたら、あんたのこと本気だって事だよ。白黒はっきりさせるんだ、いつまでもビクビクしてるよりマシだろ?」

 

 

「で、それを忠実に実行しちゃった、と」

 

フランボワーズ少尉が、走りながら器用に肩をすくめる。

 

「なんて迷惑な話なんだ!」

「けど実際、行動を起こすとなると相当勇気が要ったはずさ。大したもんだよミルフィーは」

「……ご立派です……」

「しかし、それで艦内が大変なことになっているんだぞ!」

 

俺たちは現在、タクト達のもとへ向かっているのだが。

艦内は大混乱となっていた。

 

 

 

タタタタタッ  ババババ  ヒュ〜……ドドーン!

 

「なんだコノヤロ」

「やるかコノヤロ」

「上等だ」

「オモテ出やがれ」

「おもしれぇ」

 

 

Aブロックでは、いつの間にか乗組員同士で乱闘が始まっていた。

日頃の鬱憤が溜まっていたのだろうか?

しかし、ここはまだいい。

 

 

 

 

 

ワーワー キンッ、ザシュッ! ヒヒーン……

 

「ぬうう、おのれ伏竜! 謀ったなっ!」

「見よ、これぞ連環の計!」

「五虎大将なにするものぞ! 蹴散らしてくれるわーっ!」

「おおお! お前こそ、万夫不当の豪傑よ!」

 

 

Bブロックが、なぜか群雄割拠の状態になっていたり。

(なんか赤い馬とか走っていた)

 

 

 

 

 

 ♪ 憎い〜、あんちくしょ〜ぅの〜顔めが〜け〜、たたけ、たたけ、たたけぇ〜♪

 

 

「立て〜! 立つんだ○ョ〜!」

「水、水ぅ〜〜〜! おお、お嬢さん……」

「悲惨だわ。惨めだわ。青春と呼ぶには暗すぎるわ」

「燃えたよ……燃え尽きた。真っ白な灰に……」

 

 

Cブロックが、血と汗と涙の男の世界になっていたり。

 

 

 

 

 

エンジェルろっけんろ〜♪ おっ決まりパラッダ〜イス(あ、シェキシェキ)♪

 

Dブロックが……ってちょっと待て!!!

 

 

 

 

「な、何だ今のはっ!?」

 

俺は焦ってDブロックにとって返す。

が、そこは至って普通に、壁が爆破されていたり負傷者が転がっているだけだった。

 

 

「……どうしました、副司令……」

「アッシュ少尉、いまそこにもアッシュ少尉がもう1人……!」

「なに言ってるんですか副司令。ヴァニラは1人しか居ませんよ」

「フランボワーズ少尉、君もさっきもう1人! 機関銃など問題にならない強さで……!」

「まだ言いますかアンタはっ!」

 

どげしっ

 

殴られた。

夢、だったのか? 

そう言えば、見慣れぬ顔が混じっていたような気もするな。

長い黒髪で、赤いリボンをした――――やはり夢だったのだろう、うむ。

 

「副司令、タクトとミルフィーは倉庫の方に向かったらしい。入れ違いになったみたいだ」

 

ブリッジと連絡を取っていたシュトーレン中尉が言う。

 

「くそ、埒が明かんな」

「どうするんだい?」

「こうする」

 

俺はブリッジに指示を出した。

 

「エルシオール全クルーを倉庫に集合させろ、人海戦術で動きを封じる」

 

 

 

 

 

 

倉庫に到着すると、中は人で溢れていた。

養鶏場みたいにギュウギュウのすし詰めだ。

まあ、この艦の全乗組員を集めたのだから当然なのだが。

 

「うおお、道を開けろ雑魚どもー」

 

タクトが居た。

果敢に人混みに突入しようとして、なぜだかあらゆる人間から、無言で袋叩きにあっている。

そして、ボロボロになってペッと吐き出される。

 

「くそう、こんな所で負けてたまるかー」

 

突入しては吐き出され、突入しては吐き出され。

何となく、見ていて哀れだった。

 

「タクト」

「あ、レスター。それにみんなも良い所へ。こいつらが邪魔でミルフィーの所に行けないんだ、手伝ってくれよ〜」

「その事なんだがな。実は桜葉少尉は」

 

真相を教えてやろうとして、シュトーレン中尉から肩を掴まれた。

俺に向かって、意味深に目配せ。

……何だ?

 

「タクト、ミルフィーはこの倉庫の中に居るんだね?」

「ああ、それは間違いない」

「よし。みんな手分けして探すよ!」

 

号令一下、エンジェル隊メンバーが人混みをかき分けて入って行く。

 

「お、おい?」

 

俺も慌てて後を追う。

 

「オレも――――うわああああぁぁぁ」

 

そしてタクトだけは、なぜだか例によって袋叩きにあって吐き出されていた。

なぜ奴だけ? 

中に入れると異物感でもあるのだろうか。

 

「………………」

 

桜葉少尉を探しに行こうとして。

ふと、後に残って立ちすくんでいるブラマンシュ少尉に気が付いた。

 

「ブラマンシュ少尉、行くぞ」

 

何をボンヤリしているのか。

俺は彼女の手を引いてやった。

 

「あ……」

 

中に入ると、いっそう窮屈だった。

壁のように密集して人が立ち塞がっている。

とてもではないが、先になど進めない。

 

「お〜い、副司令さん! ミルフィーを捕まえたよ!」

 

倉庫の最奥部からシュトーレン中尉の声がした。

まだずいぶん距離がある。喧騒に紛れてかすかに聞こえてくるだけだ。

急いでそちらへ向かおうとするが、いくらも進まないうちに動けなくなってしまった。

 

「く、苦しいですわ……!」

 

見ればブラマンシュ少尉が押し潰されそうになっていた。

俺は急いで肘を張り、小柄な彼女のために隙間を作ってやる。

しかし、どうしたものか。身動きできないぞ。

 

「……おお〜い……ミルフィー……」

 

遠くからタクトの呼び声が聞こえてきた。

 

「ゴメンよぉ……何か分からないけど謝るから……戻ってきてくれよぉ……」

 

俺は反対側に首をめぐらせる。

間の喧騒にかき消され、タクトの声は桜葉少尉に届いていない。

 

「む、そうだ」

 

俺の頭に、アイディアがひらめいた。

 

「シュトーレン中尉! そこに桜葉少尉が居るのだな!?」

 

倉庫の奥に向かって声を張り上げる。

返事はすぐに返ってきた。

 

「ああ、ここにいるよ! けど柱にしがみついて、てこでも動きゃしない!」

「タクトからの伝言を送る! すまない、謝るから戻ってきてくれ、と言っている!」

 

しばしの沈黙。

やがてシュトーレン中尉の声が返ってくる。

 

「タクトさんは悪くありません、私がみんな悪いんです、だそうだよ!」

 

さすがはシュトーレン中尉。

俺の企図を察してくれたか。

 

「タクト、桜葉少尉は自分がみんな悪いのだと言っているぞ!」

 

要は俺とシュトーレン中尉で中継ぎをして、このまま2人を会話させようというのだ。

もしかして、シュトーレン中尉もこれを狙っていたのではないだろうか?

 

「ミルフィーは何も悪くないさ! オレはバカだから君がなぜ怒っているのか分からない。でもバカだから、それでもミルフィーと一緒に居たいんだ!」

 

再び、タクトの叫び。

は、恥ずかしい事を平気で口にする奴め。

 

「君は何も悪くない! 俺は馬鹿だが、馬鹿であるがゆえに、それでもお前と一緒に居る事を願ってしまうのだ!」

 

シュトーレン中尉の声が返事を返してくる。

 

「私は嘘つきなんだ! 嘘つきで、臆病で……私はあんたの傍に居られるような女じゃないんだ!」

 

それを伝えると、再びタクト。

 

「そんな事あるもんか! オレの方こそ、オレなんかがミルフィーみたいな女の子の傍にいていいのかと思ってた! いつも冗談でごまかしてばかりだったけど、ホントはいつも不安だった!」

 

「そんな事はないぞ! 俺とて同じだ、俺のような男は君にはふさわしくないと思っていた! いつも冗談で誤魔化すしかなかった。本当は俺も、いつも不安だった!」

 

 

しかし、アレだな。

こうしていると、まるで俺がシュトーレン中尉を口説いているかのようだな。

 

「今、はっきり言うよ! ミルフィー、オレは君を愛している!」

 

ぐ……。

 

さすがに言葉に詰まった。

 

い、言えというのか? この俺に、その台詞を。

 

だが、元はと言えば俺から始めた事なのだ。ここで責任放棄するわけには行かない。

 

 

「い、今こそ言おう! 俺は君を愛しているっ!」

 

 

ぎゅっ

 

 

ふと、俺の服を掴む小さな手。

 

「ブラマンシュ少尉? どうした」

 

ブラマンシュ少尉が、泣き出す寸前の子供のような顔で俺の服を引っ張っていた。

 

「い、いえ、何でも……」

 

ぜんぜん何でもなくない表情で、手を放す。

 

「副司令は、伝言を伝えているだけ……伝えているだけ……」

 

よく聞こえないが、ブラマンシュ少尉は自分に言い聞かせるように、何事か呟いている。

気にはなったが、俺は今の役割に専念した。

 

「私なんかでいいのかい? この先、もっといい女がアンタの前に現れるかも知れないじゃないか」

 

「有り得ん。君の方こそ、俺よりいい男はこの世にごまんと居るのだぞ?」

 

「そんな事ない……今の私には、アンタがすべてだよ……!」

 

 

 

 

第3者の耳には、ままごとのようなやり取りを繰り返して。

 

そして――――。

 

 

 

 

「タクトさんっ!!!」

 

もはや中継ぎなど必要としない、涙混じりの呼び声。

 

「ミルフィーっ!!!」

 

それは、反対側からも。

 

両側から歓声が上がる。

何事かと思って見れば。

人々の頭上に、桜葉少尉の姿があった。

いや、人々が彼女を担ぎ上げているのだ。

 

それはタクトの側でも起きていた。

人々が、あれほど拒絶していたタクトを頭上に担ぎ上げていた。

今やお互いの目に、お互いの姿が見えているはずだった。

 

タクトが立ち上がる。

不安定な足場を、桜葉少尉を目指して進み始める。

 

桜葉少尉も立ち上がる。

泣き濡れた顔を喜びに輝かせ、タクトを目指して真っ直ぐに。

 

人々が2人を支え、2人のために手を差し伸べる。

それは祝福の道。

自分達を踏みつけて行く2人に、笑顔で何事か冷やかしの野次を飛ばしている。

 

タクトが近くに来た。

俺も手を伸ばす。

 

「行けっ、タクト! さんざん手を焼かせやがって!」

 

あれほど迷惑を被ったにも関わらず。

腹立たしいことに、そのとき俺は、たぶん笑っていた。

 

善きサマリア人。

なぜだろう? 昔どこかで読んだ寓話が、ふと思い出された。

純粋なる人々の善意に支えられ、2人の距離は縮まって。

やがて2人は、倉庫の中央でしっかりと抱き合った。

 

「タクトさん、タクトさん……大好きですっ!」

「ミルフィー、もう絶対に放さないからな!」

 

広い倉庫が、割れんばかりの大歓声と万雷の拍手に包まれた。

ああ、なぜだろう?

それは見ている方が赤面しそうなほど、陳腐で恥ずかしい光景のはずなのに。

俺はその光景を、心の底から、美しいと思った。

気が付けば俺も手を叩き、心からの祝福を2人に送っていた。

 

 

「やれやれ。一件落着ってとこかい?」

 

ようやく落ち着き、人々も三々五々に散り始めた頃。

シュトーレン中尉が戻ってきた。

 

「そうだな。君もご苦労だった、シュトーレン中尉」

「なあに、元はと言えば私にも責任の一端があった事だしね。うまく行って良かったよ」

 

それから彼女はニヤリとして、小首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。

 

「にしても、お熱い告白だったねぇ。副司令にあんな事言われて、ちょっとドキドキしちまったよ」

「冷やかすな。お前だって同じ事をしたんだろうが」

「はは、確かに。ちょっと恥ずかしかったね」

「もう2度と御免だな」

 

仏頂面をして見せたかったのだが、苦笑しか出てこなかった。

共同で1つの事を成し遂げた、連帯感のようなものを彼女に抱いてしまったせいだ。

 

だが、悪くない気分だった。

 

「さっきのセリフ、早くあの子にも言ってやりゃあいいのに」

「あの子?」

「ミントのことさ」

 

んーっ、と彼女は大きく伸びをする。

 

「今度はあんたが主役でさ。ハッピーエンドをもう一丁追加と行きなよ」

「む……」

「んじゃ私は帰るよ。お疲れ!」

 

彼女はさばさばした口調で、颯爽と倉庫を出て行く。

やはり、コートをひるがえす姿が様になっていた。

 

「……ん? そう言えば」

 

俺は気が付く。

いつの間にか、俺の傍からブラマンシュ少尉の姿が消えていた。

さっきまで居たような気がするのだが、どこへ行ってしまったのだろう?

 

辺りを見回す。

興奮冷めやらぬ様子で倉庫を出て行く人の波が目に映るばかりだ。

 

「ブラマンシュ少尉、か……」

 

もう一度、呟く。

 

まだ、問題の1つが解決しただけ。

 

まだまだハッピーエンドは遠いらしい。

 

「ふう、やれやれ」

 

人混みの中、俺は1人、苦笑と共に息をつくのだった。