「ブラマンシュ少尉、ちょっといいか」
「あら副司令。何でしょう?」
廊下で偶然出会い、話を持ちかけてみる。
「今度のダンスパーティーなんだがな。俺も参加せねばならんのだが、あいにくとパートナーのあてが無くて困っている」
「はぁ、そうなんですの」
「そこでだ。もし良ければ、君にそれを頼みたいんだが、どうだろう」
ブラマンシュ少尉はニッコリと、人当たりの良い笑みを浮かべて言った。
「ご冗談を」
GA男塾
第17話 『塾長、がんばる』
食堂で顔を合わせたので、また誘ってみる。
「ブラマンシュ少尉、頼まれてはくれないだろうか。人助けだと思って」
「あらあら、そんな気弱なことでどうするんです。副司令さえその気になれば、パートナーなんていくらでも見つかりますわよ」
「他に先約でもあるのか?」
「そんなものは、ございませんけど」
「ならば」
「嫌ですわね副司令ったら。私なんかをからかって楽しいですか?」
まるで相手にしてもらえなかった。
・
・
・
・
夜も更けた。
消灯時間を過ぎ、灯りの落ちた廊下を歩きながら、俺は考えていた。
今日一日、しつこくブラマンシュ少尉に誘いをかけてみたが、まるでダメだった。
そもそも話すら聞いてくれない。
あの人当たりの良い笑顔で、すべてごまかしてしまうつもりなのか。
「ぬぅ……」
笑顔。
ある意味、最もやっかいな防御体制だ。
終始ニコニコされていては、こちらも強く出ることが出来ない。
ダンスパーティーは1週間後に迫っている。このままでは……。
ブリッジの扉が見えてきた。
今日の仕事のノルマが終わっていないので、これから残業である。
俺はため息をつきながら、自動ドアをくぐった。
シュッ
タクトがいた。
左手でメインコンピューターを操りながら、右手で書類に書き込みをしている。
「………………」
「………………」
振り返った奴と、目があった。
しかし奴は、つまらないものでも見たかのように目をそらし、再び作業に戻る。
「……何をしているんだ」
俺の呼びかけに対し、タクトは素っ気なく言った。
「帰れ」
不機嫌な声。
「仕事の邪魔だ。帰れ」
「お前が、仕事だと?」
「司令官が自分の仕事をして、何が悪い」
振り返りもせず、そう答える。
「どういう風の吹き回しだ?」
「どうもこうも無い。お前こそ、何をノコノコ仕事なんかしに来てるんだ。他にやる事あるだろ」
「やる事?」
「仕事は俺が片づけといてやる。お前はお前がやるべき事をやれ」
「……どういう事だ?」
尋ねると、奴は呆れ顔で振り返ってくる。
「どういう事だ? それを訊くのか? 本当に分からなくて訊いてるのか? だからお前はバカなんだ」
「バカだと? よく言った。これでもくらえ」
タクトのくせに生意気な。
腹が立ったので、俺はクールダラス家一子相伝の必殺パンチを奴にお見舞いする。
ドカッ
奴は木の葉のように吹き飛び、床に叩きつけられて昏倒――――
。
しなかった。
驚いた事に、グッとその場に踏みとどまったではないか。
耐えただと? バカな。いつもあれほど簡単に昏倒していた奴が、クールダラス家一子相伝の必殺パンチを受けて。
「……ふん」
奴は、俺が殴った頬を乱暴に拭い、鼻を鳴らす。
「ぬるいな。ぬるいぞレスター。所詮、守るものも無い男のパンチなんて、この程度が限界だ」
「なにを……貴様」
俺は身構えるものの、内心はタクトの異様な迫力にたじろいでいた。
バカな。この俺が、タクトごときにプレッシャーを感じるなど……。
「あー、2人ともケンカしちゃダメですよぉ」
間延びした声が割って入った。
ブリッジに桜葉少尉がやって来たのだ。
「タクトさんたら何してるんですかぁ。副司令をサポートしてあげるんでしょ?」
「だって、こいつがあんまりバカだからさぁ」
とたんに骨抜きのフニャフニャになるタクト。
桜葉少尉は俺に振り返り、ニッコリとした。
「ごめんなさい副司令。これでもタクトさん、副司令を助けてあげるつもりだったんです」
「助ける? タクトが、俺を?」
「あんなにたくさん仕事があったんじゃ、ミントとの事もままならないだろう。たまにはオレが代わってやるか、って。……そうですよね? タクトさん」
「んんん? どうだったかな。記憶が薄れて思い出せないぞ」
指で頬をポリポリかきながら、曖昧に目をそらすタクト。
「……そうだったのか?」
「知らないな。そうだったかも知れないし、違ったかも知れない。2時間前のオレに訊いてくれ」
とぼけやがって。
そうとは知らず、悪い事をした。
「もー、タクトさん。何ですか2時間前のタクトさんって」
「ふっ……もうオレは、昔のオレじゃない。すっかり変わってしまったんだ」
「大丈夫です。タクトさんが覚えていなくても、私が覚えてます。タクトさんは優しい人だって」
こいつら、結婚するだろうな。
脈絡も無く、そんな事を思う。
感謝……すべきなのだろうな。
「すまん」
「へん、謝って済むならエンジェル隊はいらないんだよ!」
「タクトさんてばぁ。どういたしまして、副司令。こっちは任せて、ミントのことよろしくお願いします」
立場が逆になってしまったな。
俺は一瞬だけ親友の顔を見やり、背を向けてブリッジを後にする。
そう、だから俺は奴と親友をやっているんだ。
タクトは……バカな奴だが、決して悪い奴ではないのだ。
「意固地な方ですわね、あなたも」
翌日。
部屋を訪ねると、ほとほと呆れた顔をされた。
「しつこい殿方は嫌われますわよ?」
そんな事は分かっている。
しかし、俺とて退くわけには行かん。
協力してくれたフランボワーズ少尉、アッシュ少尉、タクトや桜葉少尉に申し訳が立たん。
「君こそ、なぜそんなに意固地になる。お互い相手もいない。何も問題無いではないか」
「ですから、そこでどうして私なんです? 他の方を誘えばよろしいじゃありませんか。きっと、ここまで苦労せずに済みますわよ?」
「他の相手か。一体どこの誰の事を言っているのか、教えてもらいたいな」
「よりどりみどりじゃありませんか。……例えば、そう、フォルテさんとか」
「シュトーレン中尉?」
何だそれは。
「なぜシュトーレン中尉の名前が出てくるんだ」
「こないだ、良い雰囲気だったじゃありませんか。端から見ても、お似合いでしたわよ?」
「良い雰囲気? あんなもの、ただの冗談ではないか」
「まあまあ、冗談であんなことを話すんですの? 大人って嫌ですわね」
芝居がかった仕草で、そっぽを向いてしまう。
俺は内心で苛立ちを感じながら、なおも言いつのった。
「都合の良い時だけ子供ぶるのはやめろ。君は頭の良い娘だ、それくらい分かっているだろう」
「微妙なお年頃なんですの。理詰めで何でも解決すると思ったら大間違いですわよ、副司令?」
「言葉を弄ぶな。俺は真面目に話しているんだ」
「あら、心外ですわね。私だって真面目に話してますわ」
ぬけぬけと。
のらくらとかわす魂胆が見え見えの態度に、俺もいいかげん頭に来た。
「嘘をつけ! さっきからああ言えばこう言う、君は時間が経って俺が諦めるのを待っているだけではないか!」
ブラマンシュ少尉は悪びれた風も無く、ヒョイと肩をすくめる。
「さすがは副司令、それがお分かりなら話は早いですわ。お互い時間を無駄にする事もないでしょう、お引き取り下さいな」
「おい待て、話はまだ終わっていないぞ」
さっさと部屋の中に戻ろうとする彼女の肩を掴んで止める。
彼女が溜め息をつくのが分かった。
それから、キッと険しい目で振り返ってくる。
「頭の悪い方ですわね……! イライラしますわ」
「なにを」
「私は、あなたの為に言ってるんですのよ? どうしてそれがお分かりになりませんの!?」
俺の為だと?
「どういうことだ」
「あなた、ご自分の立場をわきまえてますの? あなたはエルシオールの副司令官なんですよ? シヴァ皇子をお守りする艦の副司令が、私みたいなのをパートナーに連れていたら、周りの皆さんはどう思われますか!」
意味不明な事を言い出す。
何だと言うんだ。
「どう思われるんだ」
「ああもう……! 一から十まで言わなきゃ分からないんですか! ホントにイライラしますわ!」
イライラするのはこちらの方だ。
喉元まで出かかった怒声をグッと飲み込み、俺は努めて冷静に言う。
「完全に君の説明不足だ。納得できる十分な説明を要求する」
ブラマンシュ少尉は、嫌味たっぷりにこう言い放った。
「少しは周りの目をお気になさいと言っているんです! いいからフォルテさんあたりをお誘いになれば宜しいんです! こんな『眼中にない』小娘なんかに構っていないで!」
カチンときた。
「………………」
頭にきた。
今度こそ、頭にきた。
今度こそ、本気で、頭にきたぞこの小娘がっ!
「何だそれは! 殊勝に聞いていれば、結局はそれを根に持っていただけかっ! 何度も謝ったではないか!」
「ああもうっ、だから言いたくなかったんです! せっかく穏便に話を済ませようとしたのに、そうやってほじくり返すから! だからあなたはバカなんです!」
「いつ頼んだ! 俺がいつ君に、周りの目の心配をしてくれと頼んだ! 余計な気を回して、それで恩着せがましく言わないでもらいたいものだなっ!」
「まあまあ、よくもまあ……! もういいですわっ!!」
たっ
ブラマンシュ少尉は俺の脇をすり抜け、廊下を走って行ってしまった。
「逃がすかっ……!」
俺は怒りに任せて、後を追うのだった。
・
・
・
・
・
・
・
俺達は走った。
廊下を、中央ホールを、コンビニの店内を。
公共の場を騒々しく走り回り、公衆の面前でお互いに罵り合った。
たっぷり2時間は走っただろうか。
銀河展望公園で彼女を捕まえた時には、もう日が暮れようとしていた。
ブラマンシュ少尉がベンチに座り込み、ゼエゼエと肩を上下させている。
俺も荒い呼吸を落ち着けながら、彼女の回復を待つ。
2人とも汗だくだ。
夕暮れの涼風が、火照った体に心地よかった。
「もう逃げられん、ぞ……観念するんだな……」
一息に言って威圧してやろうとしたら、途中で息が切れてしまった。
無様だ。
「……どうして、私に構うんですか……」
うつむいたまま、ブラマンシュ少尉は荒い呼吸と共に呟いた。
「こんな可愛くない女、さっさと愛想を尽かしてしまえばよろしいじゃありませんか……っ!」
黄昏時の赤い夕陽。
前髪の影が濃く落ちて、その表情は見えない。
影法師が、遊歩道に長く伸びていた。
ようやく頭が冷えてきた俺は、彼女にかける言葉を探す。
だが、何と言えばいいのか。
俺が言いたいのは、つまり、もっとこう……。
「……いつだったか」
考えもまとまらぬまま、気がつけば俺の口は勝手に動いていた。
「君に、手紙の書き方を教えてもらった」
「それがどうかしましたか?」
「タクトと桜葉少尉の縁結びをしようと、色々やった」
「そんなこともありましたわね。……それが?」
「弁当も作ってもらった」
「……ですから、それが……」
見上げてくる彼女の目を、静かに見据える。
不思議な感覚だった。
まるで俺でない誰かが、俺の気持ちを代弁してくれているような。
自分で言って、ああそうかと納得する。
そう、俺が言いたいのは――――
。
「君が、1番長く、俺と共に居てくれた相手だからだ」
彼女は沈黙した。
「君は俺の事を好きだと言ってくれた。だがすまん、俺には分からんのだ。本当に分からんのだ。俺も好きだと口で言うのは簡単だ、しかし実のない言葉など、君には通用すまい?」
「………………」
「……信頼している、というのでは駄目か? この銀河中で、たった1人の相手を選べと言うのなら、俺には君以外に考えられないのだ。これが好きという事なのかは分からん。しかし努力する。考察に考察を重ね、はっきりさせて君に伝える」
「………………」
「俺と、踊ってくれないか。ブラマンシュ少尉。いま言えるのはこれだけだ。俺は心から、そう願っている」
彼女は、いっそう深くうつむいた。
その小さな肩が、小刻みに震え出す。
「……ダメです……」
「ブラマンシュ少尉」
「ダメなんです……! そうしたいですけれども、ダメなんです!」
ペタリと悲しげに伏せられた耳。
隠しようもない、涙声。
―――― ふと、歌が聞こえた気がした。
「何が駄目なんだ」
「私と副司令では、身長が釣り合いませんもの」
「そんなことで」
いや、詩だ。
アッシュ少尉が読んで聞かせてくれた、あの詩だ。
「だって!」
ブラマンシュ少尉が顔を上げる。
泣いていた。
♪ ハンプティダンプティ、転んで割れた
「ご覧のとおり、チビな小娘ですもの! 3つも年下のヴァニラさんよりも、もっと小さなお子様ですもの! フォルテさんもおっしゃってたじゃないですか。副司令は身長がおありだから、パートナーも限られてくるって。私なんかがお相手したら、きっと副司令に恥をかかせてしまいます。そんなの私、耐えられません!」
涙ながらに訴える。
♪ ケラケラケラ なんてもろいんだろう ダンスの相手はできないね
「それだけじゃありませんわ。私はミルフィーさんのように素直でもなく、蘭花さんのように積極的にもなれず。ヴァニラさんのように優しくもなければ、フォルテさんのように良い言葉も言えません……! 何から何まで、副司令とは不釣り合いなんです!」
俺は、軽く驚いていた。
違う。
いつもの彼女は、もっと強気で、飄々としていて……。
♪ ハンプティダンプティ塀の上 きれいな眺めにご満悦
これが、あのブラマンシュ少尉だとは。
俺が抱いていたメージとは、およそかけ離れた、気弱な少女がそこには居た。
「……案外、劣等感が強いんだな」
「はっきり言ってくれますわね。ええ、その通りです。自分でもガッカリですわ」
ブラマンシュ少尉は自身へのいらだちを隠そうともせず、目を伏せて言う。
「いつも余裕ぶっておきながら、その実、こんなコンプレックスの塊みたいなつまらない女だったなんて」
♪ 危ないよって言ったけど へそまがりのきかんぼう
「あなたのことは好きです。ええ、好きですとも。身の程知らずにも、大好きです。だからこそ、一緒には踊れません」
「ブラマンシュ少尉、そんなことは」
「お願いです、私に優しい言葉なんてかけないで下さい。少しは私にも、格好をつけさせて下さい。つまらないプライドを、守らせて下さい……。私にとっては大事な事なんです。そうしないと私、もうこれ以上惨めには……」
♪ 嗚呼、誰でもいい 愛してほしかった
俺は彼女を見下ろしていた。
ようやく分かった気がする。
ハンプティダンプティ、かわいそうなタマゴ。
丈夫そうに見えた殻は、こんなにも脆かったのか。
「……言いたい事は、それだけか」
ずいぶん経ってから、口を開く。
泣き濡れた瞳が、俺を見上げる。
「分かった。君の言い分は聞いた。今度はこっちの番だ」
その顔に、わずかに不安と怯えが見て取れる。
ええい、くそ。
もっと優しく物を言えないのか、俺は。
「やはり俺と踊ってくれ、ブラマンシュ少尉。君の言い分を聞いて、ますますそう思った」
彼女は小さく息を呑む。
その大きな瞳が大きく揺らぎ―――― 。
だが、疲れたような憂い顔で目をそらす。
「物分かりの悪い方ですわね。私では釣り合いが取れないと言っているんです、物理的に。悪い事は申しませんから、フォルテさんあたりを選ばれた方が賢明ですわ」
かたくなに、そう言う。
俺は一旦、深呼吸をした。
夕陽の赤い光が、やけに気になった。
優しく。優しく。
呪文のように、それを心に念じる。
できるはずだ、俺にも。
壊れたタマゴは、元には戻らない。
壊れてしまってからでは、遅いのだ。
♪ もしも時を戻せたら 手をつないであげるのに
そんな後悔をしないように。
あの詩のように、言ってやるのだ。
さあ、そこから降りて。私といっしょに踊りましょう、と。
「……試してみるか?」
俺は言った。
もう何も聞きたくないとばかりに顔を伏せる彼女を、そっといざなう。
「ブラマンシュ少尉、手を出してみろ」
「え……?」
「手を出せと言ったんだ。俺に向かって、手を伸ばしてみろ」
俺の意図が読めなかったのだろう。
だがブラマンシュ少尉はおずおずと、言われた通りに手を差し伸ばす。
♪ ハンプティダンプティ さみしがり屋の意地っぱり
暖かい毛布で包むように。
俺は彼女の小さな手を、そっと取る。
「ブラマンシュ少尉、君は背が低いから俺とは踊れないと言うが」
♪ 壊れないように――――
「身長差が多少あろうが、俺達はこうして、手をつなぐことが出来る」
♪ 優しく――――。
「手がつなげること……。これ以上、ダンスに必要な条件などあるのか?」
ブラマンシュ少尉が、小さく息を呑むのが分かった。
つないだままの手をそっと引き、ベンチから立ち上がらせる。
俺の腰にも及ばないような、本当に小柄な体。
見上げる彼女の目から、涙が伝わり落ちた。
「私が……」
嗚咽をこらえ、言葉を紡ぐ。
「私なんかが相手で……本当によろしいのですか?」
俺は苦笑した。
「何度もそう言っている。……踊っていただけますか、お嬢さん」
ちょっと気取って、そう言ってみる。
彼女はようやく笑ってくれた。
「誘い文句が死ぬほど似合いませんわ、副司令」
「そうか? これでも学生時代は、よく貴族出身に間違えられたものだったのだが」
「嘘です……。とてもドキドキしてしまいましたわ……」
うら寂しい夕暮れ時。
赤く染まる公園の遊歩道。
小さくステップを踏むだけの、拙いダンス。
いまいち合わない歩幅。
素っ気ない街灯のスポットライト。
それでも――――
。
ターンの真似事などしてみる。
片手をつないだままで、大きく離れる。
ブラマンシュ少尉がゆっくりと1回転し、巻き戻しのように戻ってくる所を、俺が抱き留める。
「………………」
「………………」
互いの目が合う。
「映画なんかでは、キスの一つも交わすシーンなんでしょうね」
彼女が、そんなことを言った。
それを実行するには、ちょっと苦しい相手の顔までの距離。
「……どうしてもと言うのなら、腰を屈めれば、出来ないことも無いが」
「そんなの格好悪いです。まるで父親が娘にキスするようなものじゃありませんか」
彼女はクスリと笑った。
「でも、驚きましたわ。まさか副司令がそこまで言って下さるなんて」
「む……」
「案外、雰囲気に流されるタイプですのね」
反論できなかった。
彼女は、ギュッと俺の手を握った。
「今は、これだけで充分です。本当に良かった……」
そして、世にも幸せそうに。
「この手が届くところに、あなたが居てくれて」
とても綺麗に、笑うのだった―――― 。