こねこね――――



ふう……あら、お客様ですか? これは気付きませんで、失礼いたしましたわ。
こんにちは、ミント・ブラマンシュと申します。
申し訳ありませんが、今ちょっと手が離せませんで。このままで失礼いたします。

ところで、噂で聞いたのですが。
とあるどこぞの世間様では、私が副司令に好意を抱いている、というもっぱらの噂らしいですわね。
まったく。いったいどこから、そんな根も葉もない噂が立つのでしょう。
私だけならともかく、副司令にまでご迷惑をおかけしてしまうような今の風潮は勘弁してほしいですわ。
あ、すみません。ちょっとそこの延べ棒を取ってくださいますか? ありがとうございます。


のばしのばし――――


え? 本当のところ、ですか?
デマに決まっているじゃありませんか。どうして私が副司令に恋をしなければなりませんの?
冗談ではございません。どうして私が、あんな鈍感で朴念仁で無愛想で気の利かない、そっちの方面ではウミガメみたいにボーッとした人を…………


……………………………………………………

…………………………

……………

……


あーもうっ! 分かりました、分かりましたわ! 素直に認めればよろしいんでしょう!? 
ええ、確かに最近、私は副司令のことが微妙に気になっておりますわ。これでよろしくて!?
でもこれだけは言わせてくださいな。本当に「微妙に気になる」だけなんですの。
だから、「副司令が好きなのか?」と訊かれたら、答えはNoですわ。
はっきりしろと申されても、こればかりは他に答えようがありません。ええ、これはハッキリしています。


まるめまるめ――――


え? きっかけ、ですか? 
はあ、気になりだしたきっかけ……。そうですね、きっかけ……。
……う〜ん、特にこれといった事件があったわけではありませんわ。
でも敢えて心当たりを挙げるとしたら、アレでしょうか。

いえ、本当にぜんぜん大したことじゃありませんのよ?









GA男塾・番外編


『恋するレシピ』









あれは、そう、2ヶ月ほど前のことですわ。
私は日課である深夜徘徊……もとい、真夜中のお散歩を楽しんでいました。
新作の着ぐるみ『ハンプティダンプティ』の着心地は、それはもう筆舌に尽くしがたいものがありましたわ。
つるつる温泉タマゴのような肌触り。
ころころとふくよかな弾力感。
愛らしいキュートなボディに、私の心はキュウキュウとときめきっ放しで……はぁ、今でもため息が洩れてしまいます。
私の長い着ぐるみ人生の中でも、3本の指に入る逸品でしたわ。
当然、初めて着たその時はもう夢見心地で。

「ハンプティダンプティ、転んで割れた♪ ケラケラケラ♪ なんてもろいんでしょ、ダンスの相手はできませんわ〜♪」

小声で歌なんて歌っていましたわ。
そんな時でした。


ガコン


不意に前方、中央ホールの方から、自販機でジュースを買う音が聞こえてきましたの。
あら……こんな深夜に、どなたかいらっしゃるのかしら?
最初はこの姿を見られては大変だと、物陰に隠れていたのですが。
どうやらこちらへ来るような気配はありません。
私は忍び足で近づいて行って、そっと首を伸ばしてホールをうかがいました。

常夜灯で赤茶けた、薄暗いホール。
長身の男性が、簡素なソファーに座っておりました。
そう。それが、クールダラス副司令でした。

「ふう……」

傾けていたコーヒー缶から口を離して、大きなため息。
それから独り言を呟きます。

「あと何だ……兵站需品の決済報告と、次回補給ポイントの調整……いや、兵装エネルギーの総残量を見積もるのが先か……くそ」

小さな呟きでしたが、深夜の静寂の中にあって、はっきりと私の耳に届きました。
ひどく疲れていらっしゃるようでした。
声にも、仕草の1つにも、疲労感がにじみ出ています。



――――今にして思えば、そのとき私は回れ右して、別のコースで散歩の続きをすれば良かったんです。



たぶん『ハンプティダンプティ』が余りに素晴らしかったので、私は少々浮かれていたのでしょう。
不景気なお顔の副司令を元気づけてあげようと、そんな仏心が沸いてきたのです。
物陰で着ぐるみを脱ぎ、服装を整え、手鏡で髪をチェック。
身支度を整えてから、私は何食わぬ顔でホールへ立ち入りました。

「まあ、副司令? こんな夜更けに、どうなさったのですか?」

副司令は少しだけ驚いたご様子で、私の方を振り向かれました。

「ブラマンシュ少尉……? 君こそどうしたんだ」
「たまたま目が覚めてしまいましたの。喉が渇いたので、メロンソーダでもいただこうかと思いまして」
「ああ……なるほど」

あら。

私はちょっと珍しいものを目撃して、不覚にも言葉をなくしてしまいました。
副司令が、笑っていらっしゃるんです。
それも昼間お見かけするような、芝居がかった皮肉屋の笑みではなく。
別人のように穏やかな、優しい微笑み……。
疲れのせいで、副司令も心のガードが緩んでいたのかも知れませんね。

「それで、メロンソーダだな?」
「ええ……」
「よし」

副司令は立ち上がって、自販機にコインを入れます。
――――はっ?
呆然としていた私は、そこでようやく我に返りました。

「副司令?」
「何だ」
「あの、なにを……?」

副司令は振り返り、不思議そうに小首を傾げました。

「メロンソーダではなかったのか?」

まるで、そうすることが当然のように言うのです。

「メロンソーダですけど」
「まあ飲め、遠慮するな」

さっさとボタンを押して買ってしまい、それを私に投げてよこします。
私には、慌ててキャッチするより他に術がありませんでした。
強引な方ですわね、まったく。
これではまるで、私がおねだりしたみたいじゃありませんか。

「……ありがとうございます」

一応お礼を言いましたが、自分でも分かるくらいに、不満そうな物言いになってしまいました。
嬉しいんですけど、せっかくならもうちょっとこう、人当たり良くおごっていただきたかったですわ。
たとえばタクトさんみたいに、

『やあミント、奇遇だねえ。この偶然を記念して、オレがメロンソーダおごってあげるよ。乾杯しよう』

とか何とか言って。
そうすれば、私だって素直に感謝できて、とっておきの笑顔でお礼が言えましたのに……。
だけど副司令は、私の不満そうなお礼を気にした風もなく。
ひと仕事したとばかりにソファーへ戻って、飲みかけのコーヒーを再び口にされました。

「お隣、よろしいですか?」
「構わんぞ」

簡潔な返事。

「失礼いたします」

私は副司令の隣に腰かけます。
缶のプルタブを開け、いただきますと断りを入れてから、一口。
メロンソーダの炭酸が、舌の上で弾けました。

「………………」
「………………」

しばらく、私達は黙って缶を傾けていました。
ジジ……と、自販機のクーラーが動く音だけが、広いホールに小さく響いていました。
私は隣に座る彼を見上げます。
自販機の青白い光に照らされた、その横顔。
彫りの深い顔立ちを彩る、濃い陰影。

(確かに……ルックスは抜群ですわよね……)

なんとなく、そんなことを思います。
某ブリッジのオペレーターさんが騒ぐ気持ちも、こうして見ると分からないでもありません。
もちろん私は外見だけで相手を気に入るような、安い女ではございませんわ。でも。
整った目鼻立ちは美しく、まるで美術館の彫刻のようです。
そして気がついたのは、彼がすごく背が高いという事でした。
そんなことは分かりきっていたはずなのですが、間近に座ってみて、初めて知ったような気がします。
薄暗い照明効果も手伝って、浮世離れした雰囲気をかもし出すその横顔が、やけに遠く見えました。
いえ、もちろん私の体が人並み以下に小さいという事もあるのですが……。

「………………」

何でしょう? なんだか不思議な気分です。
着ぐるみの浮かれ気分も過ぎ去って、頭の冷えてきた私は、ようやくこのシチュエーションの奇抜さに気がついてきました。
どうして私は、こんな夜更けにこんな場所で、この人と一緒に並んで座っているのでしょう?
あの女嫌いで有名なクールダラス副司令の隣に、こんな何かのドラマみたいなシチュエーションで、この自分が座っているという事実に、今更ながら驚いてしまいました。
美味しそうにも不味そうにも見えない表情でコーヒーをすする彼の横顔を、ジッと見上げていました。

「何だ?」

不意に、彼が私を見下ろして言いました。

「え?」
「いや、この手は何かと」

言われて初めて気がつきました。
なぜか私の右手が、副司令の袖をつかんで引っぱっていたのです。

「きゃっ……!? し、失礼いたしましたわ」

慌てて手を離します。
わ、私ったら、何を……?

「謝らなくてもいいがな。何か、言いたい事でもあるのかと」
「いえ、あの、その……そ、そうです、メロンソーダが美味しいと……」

自分でも嫌になるくらい、しどろもどろな言い訳でした。
副司令は知ってか知らずか、口元を笑みの形に作ってうなずきます。

「そうか。それは良かった」
「あの、ありがとうございます。とても美味しいです」
「改まって礼を言われるほどの事じゃない。それに……」

副司令は目線を前に戻して、独り言のように呟きました。

「俺には、これくらいしか……」
「はい?」
「なんでもない」

しばしの沈黙。
それから、ようやくといった感じで、副司令は言葉を続けました。

「ブラマンシュ少尉、君はタクトをどう思う?」
「どう、とは?」
「タクトは司令官として、うまくやっているか?」

おかしな事を訊く方ですわね、と思いました。

「どうして私にそんな事を? ブリッジで間近に接している副司令の方がよくお分かりでしょうに」
「いや、そうじゃない。何と言えばいいのか……あいつは個人的に君たちと親密になれているのか、と言うか。つまり君たちエンジェル隊と、あいつはもっと深いところで絆と呼べるものを築けているのか、という事を訊きたくてだな……」

副司令のおっしゃる事は、さっぱり要領を得ません。
でも苦しい言葉の羅列の中で、それらしいニュアンスだけは感じ取ることができました。

「命を預けてもいいと思えるほど、私達がタクトさんに心を開いているのか、という事をお聞きになりたいんですの?」
「そう、それなのだ」

副司令は安堵したようにうなずきます。

「君は頭の回転が速くて助かる」
「光栄ですわ。そうですわね……」

私はタクトさんの事を考えます。

「YesかNoで答えろと言われれば、答えはYesですわ。タクトさんは充分に信頼に値する御方です。少なくとも私は、タクトさんの指揮を全面的に信じております。タクトさんが右に行けとおっしゃれば、たとえその先に戦艦3隻が待ち受けていようと、私は右に参りますわ。きっと何か策がおありなのだろうと信じて」

副司令は初めて、喜色を隠そうともせずに大きくうなずかれました。

「そうか」

本当に嬉しそうです。こんな副司令は初めて見ました。

「……どうして、副司令がそんなにお喜びになりますの?」

余りに不可思議で、思わず訊いてしまいました。
副司令はハッと我に返り、私に笑顔を見られた事を後悔するように、目をそらしてしまいました。

「タクトは……」
「はい」
「あいつの仕事は、君たちの信頼を勝ち取る事だ。いや、こんな言い方は君らに対して失礼だな。あいつの一番の使命は、君たちエンジェル隊の信頼に応えられるような司令官になる事だ。見ての通り、いい加減な奴だが。少なくとも第一義は果たしている、それが分かってホッとしたのだ」

私は眉をひそめます。
副司令らしくもない、認識の甘さでした。

「タクトさんは、単に女の子が好きなだけなのでは……?」
「どちらでも構わん。君たちと仲良くやれている、その事実だけで俺が口出しする事など何も無い」
「そんなことはありませんでしょう?」

ブリッジで副司令がタクトさんに文句を言うお姿は、しょっちゅうお見かけします。
あの文句が実は本気ではない、とでも言うおつもりでしょうか?

「ブラマンシュ少尉、世の中には良い言葉がある。『適材適所』という言葉がな」
「何がおっしゃりたいんですか」
「あいつはこの艦が無事に航行できるための、最も重要な役割を担っている。君達エンジェル隊と深く分かり合い、絆を深めるという役目は――――すなわち艦の安全を確保することに直結している」
「まあ、たしかに紋章機の特性上、指揮官との絆は不可欠ですが」
「……そしてそれは、俺には出来ない事だ」
「?」

思わず隣を見上げます。
そこにあったのは、少しだけ自嘲めいた、微笑み。

「女好きか、それでもいい。おそらく事実なのだろう。しかし俺が出来ない事を、あいつはやっている。出来ない奴が、まして試みもしない奴が、それをやっている奴を責める道理など無い。違うか?」

その言葉を聞いて。
私は頭の中で、1つの仮説を思いつきました。

「そうですか……」
「そうだ」
「ところで、お話は変わりますけど。副司令は、こんな時間までお仕事ですか?」
「ああ。全然はかどらなくてな。まったく、我ながら要領の悪いことだ」
「今日は私達、タクトさんと夕食をご一緒しましたわ」
「そうか。それは良い事だ」

副司令は笑ってうなずきます。これが演技なら大したものです。
私は目を細めて、思いついた仮説を口にしました。

「副司令。あなたがこんな遅くまで残業する破目になっているのは、要領が悪いからではなく……タクトさんの分の仕事まで肩代わりしているからではないのですか?」
「………………」

沈黙。
どうやらビンゴだったようです。
顔に笑みを張り付けたまま、固まる副司令。
しかし、それでも彼は私に言いました。

「非常に合理的な役割分担だろう? これが適材適所というものだ」

私はため息でそれに答えます。

「副司令、それは間違っています。仕事は仕事、けじめはきちんとつけるべきですわ」
「いや、俺は間違ってなどいない」

強引な上に強情な方ですわね。
かたや楽しい夕食。かたや煩雑な残業。どう考えてもおかしいじゃないですか。
さらに言い募ろうとする私に、副司令は思いもよらない事をおっしゃいました。

「ブラマンシュ少尉。君は、一目惚れというものをした事があるか?」
「はい?」

な、何ですのいきなり? ぜんぜん脈絡がありませんわ。
戸惑う私に、たたみかけるように繰り返してきます。

「どうなのだ?」
「……経験したことはありませんわ」
「そうか。俺もない」

何なんですの? この人。

「で。それはなぜだ?」
「なぜって……そのような事、個人の性格によるものなのではないでしょうか」
「ふむ。では一目惚れでなければ、君はどうやって人を好きになるのだ?」
「私は……初対面で素性もよく分からない方を、いきなり好きにはなれませんわ。じっくり観察して、その人の本質を見極めて、長い時間を一緒に過ごして……。そうするうちに気がついたらその方を好きになっていた、ということでしたら、あるいは有り得るかも知れませんが」

私の答えに、副司令は我が意を得たとばかりに、大きくうなずきました。

「そうだろう。人が人に心を許すようになるには、長い時間がかかるものなのだ。つまりタクトがブラマンシュ少尉、君に信用されるためには、長い時間が必要なのだ」
「それは……そうかも知れませんけど」
「あいつに規定の仕事をやらせていたのでは、君の信頼を得るための時間が確保できないのだ。純粋に、物理的にな」
「………………」
「だから、俺がやる。司令官の補佐をするのが副司令の役目だ、間違ってはいまい?」

やたらと理路整然とした結論でした。
誘導尋問っぽいとか屁理屈っぽいとか文句はありますが、くやしい事に筋は通っています。

「……はい……」

うなずくより他にありませんでした。
なんてことでしょう……この私が、論破されてしまいました。
ミント・ブラマンシュ、一生の不覚ですわ。
返す言葉も無く、メロンソーダの残りを口にするしかありませんでした。

「……タクトさんは、ミルフィーさんが特にお気に入りのようです。副司令がお仕事なさっている時に、よくお2人でおいしいケーキを召し上がりながらおしゃべりなさってますわ」

言い負かされた事に対する、負け惜しみのような口調になってしまいました。
それで副司令がちょっとでも腹を立ててくれれば良かったんですけど。

「繰り返しになるが、どんな形だろうと構わん。仲良く出来ているのなら、万々歳だ」

うむうむと、満足気にうなずいていらっしゃるんですもの。
あの、私が言いたい事、分かってらっしゃいます? あなたがブリッジで一生懸命お仕事なさっている時に、タクトさんは楽しく女の子とおしゃべりなさっているんですよ? 腹が立たないんですの?

「それに、さっきも言ったが。俺には女と楽しく話をして親密になる、なんて芸当は出来ないからな。あいつが代わりにそれをやってくれているのなら、俺は何も……」
「………………」



まあ、何て献身的でお優しい殿方なんでしょう――――――――


……な〜んて、この私が考えたとお思いですか?



逆ですわ、ぜんぜん逆。
馬鹿だと思いましたね。ええ間違いございません、この人はただの大馬鹿です。
自分が貧乏クジばかり引いている事を、不満に感じてすらいないんですもの。
ひょっとして、そういうのがカッコいいとでも思っていらっしゃるのかしら? 
軍人で良かったですわね副司令、間違ってもあなた、商売人にはなれませんわよ? 銀河一の商人を父に持つ、この私が言うのですから間違いございません。
まあいいですわ。あなたがそれで満足なら、私が四の五の言うことではありませんものね。せいぜい他人の幸福のため、蟻ん子のようにあくせく働いていて下さいな。需要と供給がかみ合って、八方丸く万々歳ですわ!


私はメロンソーダの残りを一気に飲み干します。
なんだか猛烈に不愉快な気分でした。

「ごちそうさまでした、では私はこれで失礼しますわ!」

かなり不機嫌さを前面に押し出して言ったのに、副司令は。

「ああ」

穏やかな笑みでうなずくんです。
くっ。そこであなたも不愉快になっていただきませんと、まるで私が子供みたいじゃないですか……!

「お仕事がんばって下さいませ、ごきげんよう!」
「ブラマンシュ少尉」
「何ですの、まだ何か!?」

食ってかかる私に。

「おやすみ。いい夢を」
「…………ッ」

あきれ果ててしまいました。
ああ、もう本当にこの人は……。
どうしてこう、他人の悪意に鈍感というか、マイペースというか……あなた、タクトさんのこと言えませんわよ?

「……おやすみなさいませ……」

けっきょく完敗にも似た思いで、私はすごすごと帰る破目になりました。
あ、もちろん途中で着ぐるみを回収するのは忘れませんでしたけど。


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いかがですか? 本当に、大した話ではありませんでしょう?
夜中に副司令とおしゃべりして、彼の馬鹿さ加減がよ〜く分かったと。それだけのお話ですもの。
がっかりされても困りますわ。私は最初に、「大した話ではない」とお断りしましたので、あしからず。


チーン♪


あら、焼けたようですわね。ちょっと失礼しますわ。
え? さっきから何をしているのか、ですって?
見て分かりませんか、お菓子を作っているんです。
誰にあげるのかって?
そんなのクールダラス副司令に決まってるじゃありませんか。


……あ、言っておきますが、下手な勘ぐりはおよしになって下さいね?

そりゃ、あの人はただのお馬鹿さんですけれども。
よく考えたら私、抜け目ない商人的な思考の方が好きというわけでもありませんもの。
あのとき感じた不快感は、近親憎悪のようなものだったのではないか、と思うんです。
それに、いつまでも小さな事にこだわってヘソを曲げているのも、スマートではありませんものね。

このお菓子は、あの時のメロンソーダのお礼と謝罪のしるし。
あと、がんばる日陰者の副司令に、ささやかな愛の手を。
それくらいの意味しかありませんわ、くれぐれも誤解の無きように。

さて私、これからラッピングするので忙しいんですの。
申し訳ありませんが、お話はこれくらいで。
ではさようなら、ごきげんよう!
























……ちょっとお待ち下さいな。

あの、つかぬ事をおうかがいしますけど。
この赤いリボンと青いリボン、どちらをつけた方が副司令は私のお菓子を気に入って下さると思いますか……?

いえ、もちろんどっちでも構わない事は分かっているんですけど。
どうせなら少しでも気に入ってもらえた方が、その、嬉しいと申しますか。つ、作りがいがあるじゃないですか!

……何ですの? またおかしな誤解をなさってませんか? と言うか、なさってますね?
ごまかしても無駄です、私がテレパスだという事をお忘れですか?
違います、そんなんじゃありません。違うったら違うんですっ!
ちょっと、何ですの、その笑みは!? 何がおかしいんですかっ!?

ホントに違うんですっ! ああもう、いったい何を根拠にそんな――――(以下略)!
 







                          おしまい