「オーライ、オーライ」

エルシオール倉庫内部にてクレーンを使い、荷物を運ぶ。

それはこの倉庫ではありきたりの風景にすぎない。今日も順調に荷物を運んでいく。

「この荷物は、どこら辺に置いときましょうか?」

「それは……向こうのほうにお願いします……」

長いライトグリーンの髪を後ろにまとめ上げ、ヘッドギアをつけている物静かな少女、ヴァニラ・H(アッシュ)が倉庫にいる。真面目な性格からいつも通り手伝いをするヴァニラであるが、いくら彼女でも、重労働には限界があるため、エルシオールのクルーに的確な指示を出す作業をしている。

 

そこへ―――

 

「すいませーん!シナモンパウダーとバニラエッセンス届きましたか〜?」

ほのぼのとした声が倉庫に響き渡る。入り口のほうにはピンク色の髪に花のカチューシャを両側につけた少女、ミルフィーユ・桜葉(さくらば){愛称・ミルフィー}が立っている。

「どうしました、ミルフィーさん?」

「あ、ヴァニラ。お仕事ご苦労様―」

ヴァニラに駆け寄るミルフィーユ。

「シナモンパウダーとバニラエッセンスを注文したんだけど、今日届く予定なんだー。」

「そうですか……食品関係ならば、あちらのほうに……」

そう言って食品関係のコンテナの方角を指すヴァニラ。

「ありがとうー。さっそく行ってみるねー」

教えられたとおりの方角に駆け出していったミルフィーユ。しかし、

「でも、今はまだ作業中で……あ、……ミルフィーさん?」

いつの間にかいなくなっているミルフィーユに気づいたヴァニラ。まだ説明の途中であったが、夢中になったミルフィーユは人の話は聞かないことが多いのである。

 

 

 

 

 

「あっ!?入らないでください!まだ作業中ですから!」

「あ、ここらへんかな?」

食品関係のコンテナにたどり着くミルフィーユ。止めに入る作業員のことなどお構いなしにやってきた。

「でも、こんなにあると、どこにあるかわからないなぁ……」

なにげなくコンテナに手を触れるミルフィーユ。その時、

 

ズズズ………ブチッ、メキッ、ズシン!

 

「な、何、何の音?」

思わず音が聞こえた方角を見上げるミルフィーユの頭上には、なんとコンテナが降ってきた。

「ええ〜!!!」

逃げる暇も無く、もはやつぶされるのも時間の問題かと思われたが、

 

ズドン!!ベキベキッ!!ドガッシャ〜ン!!!

 

かろうじてミルフィーユの横に落ちたのであった。だが落ちた衝撃でコンテナは粉々になってしまった。

 

「だ、大丈夫ですか!?ミルフィーユさん!?」

「うわ、コンテナがメチャクチャだ……」

作業員が急いで駆けつけ、ミルフィーユの無事を確認する。だが、

「うえ〜ん、恐かったよ〜。」

何とホコリだらけだが傷ひとつ無いミルフィーユがそこにいた。

さっきのコンテナといい、無傷といい、良くも悪くもミルフィーユの強運が作用したのだろう……

「ごめんなさ〜い………。あたしのせいです〜」

髪や服に付いたホコリを払いながら立ち上がるが、涙声になってしまっている。

「ミルフィーさん……、大丈夫ですか?」

騒ぎを聞きつけてきたヴァニラが問いかける。

「うん、大丈夫……だと思う」

「待っていてください………ナノマシンで治療します」

そう言ったあと、ミルフィーユの全身を淡い光が包む。

「あ、ありがとうヴァニラ」

「いえ………、ですが念のため医務室に行きましょう。ケガがないとはいえ油断はできません………」

そういってミルフィーユを倉庫から出そうとするヴァニラ。

「あ……でもシナモンパウダーが……」

視線をコンテナの方面に向けるミルフィーユ。しかしコンテナは粉々になっており、中に入っていた品物もあちこちに散らばっていた。

「あの状態では、時間がかかります……。見つかり次第、部屋に届けてもらってはどうでしょう……?」

「あ、そうか。じゃあそうする。じゃあ、行こっかヴァニラ」

手間がかかることと、強運によって起きた出来事への罪悪感から、おとなしく引き下がるミルフィーユ。ヴァニラとともに倉庫から出て行った………

 

 

 

 

その時、破損したコンテナの中から、1つの球体が出口へ転がっていったことに気づいた者はいなかった………

 

 

*

 

 

「倉庫のほうが、イヤに騒がしいですわね。何があったんでしょう?」

「事故でも起きたのかしら?」

ミルフィーユと同じ目的で倉庫の近くまでやってきたのは、普通の耳がありながら、青い短めの髪の上に白く長い耳がある少女、ミント・ブラマンシュと、

長いブロンドの髪と所々切れ目が入った赤いチャイナドレスが印象的な少女、蘭花(ランファ)・フランボワーズであった。

2人は近くの騒ぎ声から方角を確かめると、倉庫の異変に気づいた。

「とにかく行ってみましょう!早く新しいトリートメントリンスを使ってみたいし」

「そうですわね。私も新しい駄菓子を一刻も早く試食してみたいですわ」

目的が実に自分本位だが、倉庫へ急ぐランファとミント。

そして倉庫にたどり着いた2人であったが、惨状見て呟く。

「うっわー……。ひどい散らかってるじゃないの、ここ……」

「全く……、粉々ではないですか、あのコンテナ」

倉庫は現在、1つだけとはいえ荷物を積んであったコンテナが粉々になったのである。しかも中に入っていた荷物がバラバラになったため、そのおかげで補給作業がはかどらないようだ。

「ねえ、いったいどうしたのこれ?」

ランファは近くにいた女性乗組員に、この惨状を尋ねた。

「実は先ほどまでミルフィーユさんが居たんですよ……」

乗組員は2人に事故の経緯を語った。

 

 

*

 

 

「それでミルフィーは無事なの!?」

話を聞き終わったランファは、女性乗組員に掴みかかるような勢いで聞いた。

「ミルフィーユさんには怪我がなかったようですが、念のためにとヴァニラさんと一緒に医務室に行きましたよ」

「そうですか……」

ほっとするランファとミント。しかし、

「でもヘンなんです。コンテナを運んでいた、クレーンのワイヤーには何の異常も見当たらなかったのに……。ミルフィーユさんが近づいた途端、ワイヤーが切れだすなんて……」

女性乗組員は思いついたように語った。

(なるほど………。それではミルフィーさんの強運が事故を引き起こしたといっても、過言ではありませんわね。)

話を聞き終わったミントは嘆息しながら心の中で呟いた。

「それじゃミルフィーの強運が、この惨事を引き起こしたようなモンじゃないの……」

呆れ顔で言うランファ。

その言葉に即座に反応してランファを見るミント。

「どうしたのよ、ミント?アタシがなんかヘンなことでもいった?」

「い、いえ………。きっと私の勘違いですわ」

怪訝な表情をするランファ。

まさか自分と同じ考えをしていたことに驚いたとは言えないだろう……

「でも、これじゃあ注文した商品を取ることはできそうにないわねぇ」

「そうですわね。ひと段落が付くまで、ミルフィーさんの様子でも見に行きましょうか。」

そうして2人は医務室に向かっていった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「あとは、この書類を……」

今まで自分の部屋で書類整理を行なっていた、軍服をしっかりと着こなし、端正な顔立ちに赤いリボンをつけた黒髪の少女、烏丸(からすま)ちとせが分厚い資料を抱えながら司令官室に向かって廊下を歩いていた。

 

エオニア戦役終了後、白き月から新しく発見された紋章機、シャープシューターのパイロットに選ばれ、エンジェル隊に入隊したちとせは、そのまま現在の任務に就いていた。

新人ながら、エンジェル隊でも人一倍働くちとせは、まだ仕事を行なっていた。

「この書類をタクトさんに確認してもらわなければ………。あらっ………?」

司令官室に向かう途中、廊下に白い物体を見つけた。

「なんでしょうこれは?何の球体でしょうか?」

謎の球体に近づいていくちとせ。そして拾おうとした瞬間、

 

ヒュイーーーーン!!!!!

 

「ひゃっ!!」

とっさに身構えるちとせ。辺りを超音波と、真っ白な光が包み込む。

 

「い、一体何が起こって………」

ちとせは最後まで言うことができず、両腕に抱えていた書類を床に散らばしながら、気を失っていった………。

 

 

同時に光と超音波も収まっていき、白い球体はまた何処かに転がっていった………

 

 

 

「さて、みんなはティーラウンジにでも集まってるのかな?」

ブリッジを出た後、艦内を歩きまわっているタクト。見回りというのは、ほんの建前に過ぎないのだが、

「今日はみんな見かけないな。………おやっ?」

視線の先に誰かが倒れているのを見つけ、駆けつけるタクト。よく見ると、

「あっ、ちとせ!?おい、しっかりするんだ!」

タクトはちとせを呼び覚まそうとしたが、目を覚ます気配はない。

「こ、こうしちゃいられない。早く医務室に運ばないと………」

ちとせをいわゆる『おひめさまだっこ』で抱えあげ、タクトは急いで医務室へ向かった。

 

 

 

*

 

 

 

「あら、いらっしゃい。マイヤーズ司令………って、あら?」

医務室の扉が開き、タクトの姿を確認した、エルシオール医務室の担当医である白衣の女性、ケーラは抱えられたちとせに気づいた。

「ケーラ先生、ちとせが倒れていたんです」

タクトの説明で、一瞬にして医師の顔つきになるケーラ。

「とりあえずそこのベッドに連れて行って」

ベッドの方へ誘導するケーラ。そこには、

「あ、タクトさん」

「って、ちとせ!?一体どうしたのよ!?」

隣のベッドにはミルフィーユが座っており、周りにはランファ、ミント、ヴァニラがいた。

「ちとせさんは一体どうなさったんですの!?」

「わからない、オレが発見したときには、もう廊下に倒れていたんだ………」

ミントの問いかけに、悲痛な面持ちで答えるタクト。

「ちとせ、最近忙しかったのかもしれないな………」

「きっと疲れたんですね………」

心配そうな表情で呟くタクトとミルフィー。

「ちょっと、タクト。ちとせに仕事押し付けすぎたんじゃないの?」

「そうかもしれない」

「そうかもしれない……、じゃなーい!」

ビシッっと指を突きつけるランファ。

「こういうことにならないよう、部下を管理するのがアンタの役目でしょうが!」

「申し訳ありません」

涙目で返事をするタクト。部下に説教をされる上司……。

もはやそこには威厳というものは感じられない……。

 

そんなやりとりを聞いていたミントは

「まあまあ、落ち着いてくださいなランファさん」

「何よミント! タクトにはもっと言わないと……」

「ここは医務室ですし、あまり大声を出すと、ちとせさんの迷惑になりますわよ」

おだやかにそれでいて鋭い目つきでランファをなだめるミント。ハッと冷静になったランファは口を閉ざす。

しかし、ミントは途中で表情を崩したかと思うと

「それにちとせさんも、タクトさんに『おひめさまだっこ』なんていう、めったに無い機会に遭われたんですから」

「ぶっ!?」

いたずらそうな笑みを浮かべるミントの言葉に、思わず噴き出すタクト。

「なっ!?」

……………」

意表を付かれた様な表情をするランファとヴァニラ。しかし、

「いいなあ〜ちとせ。タクトさんに『おひめさまだっこ』されるなんて」

単純にうらやましがるミルフィーユ。タクトのちとせに対する行動に対し、深い意味を感じ取ってはいないようだ。

「タクトさんも、どうやらまんざらでもなさそうですわね」

周りの反応が気にならないように、ミントは続けて発言をする。

「まさかタクト………、ちとせに何かしようと思ったんじゃないでしょうね!?」

「ランファ、何かって何なの?」

「アンタはだまってなさい!」

「あの……皆さん……」

「ち、違うよ!オレは単純にちとせを助けたくて……」

もみくちゃにされながら、タクトは必死に言い訳しようとするが、

「それではお伺いしますが……タクトさん、いつまでちとせさんを抱きしめておられるのですか?しかも随分お顔が近くにあるようですけど」

随分と冷え切った口調で、ミントが言い放った。

「えっ……!?あ、これは!?」

今までちとせを『おひめさまだっこ』をしていたタクトであったが、支えていく度により密着していく体勢になってしまい、まるでタクトが一方的にちとせを抱きしめているようだった。

しかも徐々に頭を上げていったことによって、横を向くとお互いの顔がくっ付きそうな距離まで近づいていたのであった。

「タクト………、アンタってやつは〜!!」

「タクトさん、どう言い逃れされる気なのですか?」

「ちとせにばっかりズルイです〜。あたしにもやってくださ〜い」

「こ、これは不可抗力だ〜!」

もはや収拾のつかない状態であったが、

「皆さん………。これではちとせさんの治療ができません………」

ヴァニラの一言で、現実にもどったタクトとエンジェル隊。

「そ、そうですわね………私としたことが、つい……」

「あ……、そうだったわ。早くちとせの治療をしないと。タクト、あんたのせいで」

「オレのせいかよ」

やれやれといった表情で、ちとせをベッドにおろすタクト。

「離れていてください……ナノマシンで治療します……」

ヴァニラが前に手をかざすと、ちとせの身体を淡い光が覆う。

「どう、ヴァニラ?」

ケーラが状態を尋ねる。

「ただの気絶のようです。ただしばらくは安静にしなければなりません……」

「そうか……」

ただの気絶状態と聞いて、ホっとするタクト達。

「じゃあヴァニラ、ケーラ先生。目が覚めたら教えてください」

「わかったわ、まかせておいて。」

「はい……わかりました」

そのまま医務室を出るタクト。そこへ、

「待ってください、タクトさん。あたしたちも行きます」

「そうね、ここにいたら、ちとせの迷惑になるし」

「では我々はこれで失礼しますわ」

ミルフィーユ、ランファ、ミントの順に後に付くように退室する―――

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「ところで、みんなはどうして医務室にいたんだい?」

「あ、それは……」

タクトの問いかけに、思わず口をつぐむミルフィーユ。

「倉庫で事故に巻き込まれたみたいでね〜。でもそれもこの子に原因があるようなモンだけど」

ミルフィーユに代わって答えるランファ。

「事故だって!?それで大丈夫だったのか、ミルフィー?」

「はい、あたしは大丈夫でした」

にっこり笑って返事をするミルフィーユ。

「まあ、ミルフィーの強運が作用したのね。そうじゃなきゃケガひとつ無いなんて考えられないもの」

「うん……、でも、倉庫で作業してた人たちに悪いことしちゃったなあ……」

ミルフィーユはまだ気にしているようだ。

「なんでミルフィーのせいなんだい?」

「ミルフィーさんが直接というわけではないですが、強運が作用したことが1つの原因とみて間違いなさそうなのですわ」

ミントはタクトに自分の聞いた範囲で事故の様子を語った……

 

「なるほど……、確かにそれは不運だったね」

苦笑いしながら答えるタクト。ミルフィーユの強運が、こんなところでも発揮されたことに、驚いてもいる様子だ。

「まあ、大事が無くてよかったですけれど」

タクトに全貌を話終えたミントは、穏やかな表情で言った。

「そんなに気にすることないよ、ミルフィー。偶然起こった事故なんだから」

「でも、あたしが倉庫に行かなければ、あんなことにはならなかったのに………」

まだ納得できない様子のミルフィーユ。

「じゃあ、作業員達に差し入れをしたらいいじゃないか!ミルフィーの差し入れなら、みんなきっと喜んでくれるよ」

「タクトさん……」

タクトの思いがけない提案に、一瞬呆然とするミルフィーユであったが、すぐに気を取り直して、

「はい、わかりました!それじゃ、さっそくやってみますね!ありがとうございます、タクトさん!」

言うが早いか、ミルフィーユはさっそく自分の部屋に走っていった。

 

 

 

*

 

 

 

「元気でたわね、ミルフィー。」

「ほんとですわね。先ほどまで沈み込んでいたのがウソのようですわ。」

ミルフィーユの走っていく姿を見て、思わずつぶやくランファとミント。

「自分の事より、他の人の事を心配か………ミルフィーらしいね」

感心しながら言うタクト。それを見たミントは、

「さすがタクトさんですわね。ミルフィーさんのことを、よくおわかりになられているようで」

「えっ……、いやぁ、そんなことはないよ」

否定するタクトであるが、顔が緩んでいる状態では、説得力は皆無である。

「ふ〜ん、タクトって結構浮気者なのね」

ジト目でタクトを睨むランファ。

「浮気って、誰に?」

「決まってるじゃない!それはっ―――!?」

まくし立てようとしたランファであるが、思わず口をつぐむ。

(アタシ、いったい何を言おうとして……)

知られてはいけないことを言いそうになり、黙り込んでしまうランファ。

 

ランファの異変に気づいたタクトは、

「どうしたんだい、ランファ?急に黙り込んじゃって。それに何か顔も赤くなっているような……」

無防備に顔を近づけるタクトに気づいたランファは、思わず飛びのく。

「ア、アタシは大丈夫よ。それよりあいまいな態度はほどほどにしないと、後で痛い目にあうわよ!」

顔を紅潮させながら言うランファであったが、

「あいまいって、オレがかい?そんなハズないと思うけど……」

やはり、鈍感なタクトにはわからないようだ。

「っ!?もういいわよ!」

「よくはないだろう。教えてくれよランファ」

「自分で気づきなさいよ!」

「仲がよろしいですわね、お2人とも」

今まで2人のやりとりを見ていたミントは、笑顔を浮かべていた。

「いったい今のどこが、仲良く見えたのよ!?」

案の定ミントに咬みつくランファ。

「ランファさん、顔が赤いですわよ」

「そ、そんなのはどうでもいいの!それよりどこが仲良く見えたのよ!?」

「ランファさんたら……そんなに否定しなくても……」

一瞬言葉につまるミントであったが、いたずらっぽい笑みを浮かべると、

「では、ランファさんは別に、タクトさんのことはなんとも思っていないということですの?」

「そうよ!」

即答するランファ。

その横でタクトが一瞬寂しそうな表情を浮かべたことには気づかなかったようだ。

それを聞いたミントは、

「それでは、私がこんなことをしても、別になんとも思いませんわね……」

そういうとミントは、タクトの腕に抱きついた。

「えっ!?」

「ミ、ミント!?」

いきなりのミントの行動に狼狽するタクトとランファ。

「さあ、タクトさん。このまま行きますわよ」

腕に抱きついたままタクトを促すミント。タクトは行動はおろか、返事もできないようだ。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよミント!アンタ、本当にそのままで行くの!?」

いち早く、正気に戻ったランファはミントを止めようとするが、

「ええ。私は別にかまいませんわ。タクトさんとこうしているのは、まんざらではないですし……」

「っ!?タクト、アンタはどうなのよ?」

ミントの意思は曲げられないとわかったランファは、タクトに矛先を変えた。

「えっ!?オ、オレかい?オレは別にかまわないけど………」

タクトも驚いているようではあるが、ミントとこうしているのは悪くないようだ。

「じゃあ、アンタ………ミントのこと、どう思うのよ………」

問い詰めるランファであるが、その心と瞳は揺れている………。

 

 

その時、タクトの答えは―――

 

 

「そんなの当たり前じゃないか。

ミントはオレの大切な仲間に決まっているよ。

あ、もちろんランファも、みんなもね」

 

「………………」

「………………」

 

辺りを静粛が包み込んだ。

タクトのあまりにもさわやかな答えに、ランファもミントも呆然としたようだ。

「はあっ、そうよね………いまさらだけど、アンタってそういう奴よね………」

いち早く立ち直ったランファはため息をついた。

「あ、まただ。いったいオレがどうしたっていうんだ………」

ブツブツ愚痴をこぼすタクトであったが、

「そうですわね………それが、普通ですわよね………」

と、ミントは自分にしか聞こえない呟きを漏らした。

「え、ミント何か言った?」

「いえ、別になんでもありません」

タクトの質問にとっさに答えたミントであったが、その表情にはまだ陰があった。

(タクトさんは、あくまで私を1人の仲間として接しているのですわね………)

タクトの腕に抱きついたのは、ミントの自分なりのアピールのつもりだったが、鈍感なタクトには通じなかったようだ。

 

ランファの態度に確信を持ったミントは、それでは自分も、とタクトにアピールしたのだが………

 

そんなタクトを尻目にミントは腕を解き、

「すみませんが、私は急用を思い出しましたので、これで失礼いたしますわ………」

2人に踵を返し、別の方向へと歩き出すミント。気のせいかその足取りには、元気が感じられない。

 

「どうしたんだ、ミントは。いきなり急用だなんて………」

そして、ミントの行動の意味に、まったく気づかなかったタクト。そんなタクトを見て、

「ミントも大変ね………。それにしても、どうしてこんな奴が………」

ブツブツと呟くランファ。

タクトに対する、ミントの気持ちに気づいたランファであるが、タクトのあまりの鈍感さに同情を覚えたようだ………

「ん?何か言った、ランファ?」

「別に………。アタシも疲れたから、部屋に戻るわね」

実際、本当に疲れたような表情で、部屋に向かうランファ。今回の件はタクトについて考えさせられる機会を得たようだ。

そして、1人になってしまったタクトは、

「えっと………オレ何かやった?」

誰に言うのでもなく、問いかけていた………