男もやられっぱなしでは終わらなかった。

全部とはいかないが、いくつかの攻撃を防御していた。そして反撃を行なっていたが、

 

「何よそのパンチ、止まって見えるわよ」

 

「軽い軽い。今のアタシを倒そうと思うなんて、100年早いのよ!」

放ったすべての攻撃が、ランファにあしらわれていた。

 

「〜っ!!」

男の表情に憤怒と焦燥感が入り混じっていた。反撃が当たらないことに苛立ちを感じているようだ。

 

その一方でランファも不思議に思っていた。ミルフィーとちとせが襲われ、心の中は怒りに満ちているはずであるのに、いやに冷静な自分がいることに……

 

その間に男は、顔面に回し蹴りを喰らい倒れこんだ。

とどめを刺そうと、ゆっくりと男に近づくランファ。

あと3歩……2歩……1歩……

 

しかし男は、動かずにじっとランファを見ているだけだ。

「もうおしまい?まあ少しは頑張った方だと思うけど」

そして足を上げた瞬間―――

 

 

ガバッ

 

突然立ち上がった男は、ランファの顔面に渾身の正拳突きを放った。

 

今のランファの状態、足を上げている途中の体勢ではかわすことは不可能………

もしこの場に何者かがいるのならば、誰もがそう思ったに違いない。

 

 

その時のランファの笑みを見なければの話だが―――

 

 

ランファは正拳突きの風圧から金髪が数本ほど切り落とすも、

身を翻しながらギリギリの所で避け、そのまま後ろ回し蹴りを放つ。

 

しかし男はこれを辛うじてかわした。

その時、

 

 

 

ドゴォッ!!

 

 

「っ!!!!」

膝蹴りが男の顔面を捉え、カウンター気味にヒットした。

後ろ回し蹴りを放った瞬間、勢いを生かし膝蹴りを放ったのだ。

 

「まったく、こんなカンタンに引っかかってくれるなんて………」

そう、ランファにとって、男の行動は予測済みだったのである。そのために自ら隙を作り、攻撃を誘ったのである。ランファの格闘センスはとても侮れるものではなかったようだ。

 

 

「〜〜〜!!!」

先ほどの攻撃がよほど効いたのか痙攣を起こしながらも、倒れながら男はランファを睨みつけていた。

「さてと、もう少し遊んであげてもイイけど、さっさと捕まえちゃうわね」

そしてランファがとどめを刺そうとした、

その時、

 

 

 

 

「ランファ!無事かい!?」

 

 

 

後方にある入り口の方から聞き覚えのある声が響いてきた。

 

 

「フォルテさん!?」

思わず動きを止め、後ろを振り向くランファ。

男はその隙を逃さなかった。

 

 

バリバリバリバリッ!!!

 

「うああっ!」

男は隠し持っていたスタンガンを背中に押し付け、ランファを気絶させた。

そのまま男は逃げ出そうとするが、

 

 

「逃げんじゃないよっ!!」

ドンッ!ドンッ!!

 

薬莢が足元へ転がり落ちる。

フォルテは男のいる場所に威嚇射撃をした。

しかし威嚇といっても、抵抗を防ぐために、右腕と左大腿部に正確に当てていた。

 

…………」

「命まで取りはしないよ……アンタには聞きたいことがあるからね」

銃を構えながら男に近づくフォルテ。だが、

 

 

バァンッ!バァンッ!!

 

「な!?」

男は残った左手で取り出した銃で発砲してきた。とっさに身を潜めるフォルテだったが、

「なんであいつが火薬式の銃を持ってるんだい!?」

そう、男が持っていたのは火薬式の銃だった。

 

身を潜めている間、男はコンテナの隙間に入っていった。

 

「ランファ、大丈夫かい!?」

ランファに駆け寄り、無事を確かめるフォルテ。

「ううっ……フォルテ……さん?」

「ああ、無事だったかい」

安堵の表情を浮かべるフォルテ。そこに、

「ご無事ですか、ランファさん……?」

ヴァニラが2人の下へ駆けつけてきた。

「ヴァニラ!?ここは今危険だよ!すぐに出るんだ!」

「いえ……ランファさんを治療してから……」

ナノマシンでランファの体を治療するヴァニラ。

「どうでしょうか……ランファさん?」

「うん、まだ痺れるけど平気」

ナノマシンを使っても、すぐには体の痺れは取れないようだ。

「ヴァニラ、ランファを頼むよ」

「フォルテさんは、どうするのですか……」

「アタシはあいつを片付けに行くよ。何が目的でここにいるのか知りたいしね」

そう言ってフォルテが立ち上がった瞬間、

 

 

 

バンッ!パリンッ!

 

 

そんな音を立てたと同時に、倉庫の照明が落ちてしまった。

「どうやら敵さんは、やる気まんまんのようだね……足の怪我は軽かったのかねぇ……」

倉庫全体が暗闇に覆われてしまった。

もし逃げるのであれば薄暗いままならば、フォルテ達も視覚が悪いのだから、そのまま逃走すればいいだけの話である。

照明を撃ったということは、逃げるのではなく始末するという意味だろう。

「上等じゃないか……売られた喧嘩は買うまでだよ!」

言いながらフォルテは銃を構え直した―――

 

 

 

*

 

 

 

倉庫での戦闘に入る少し前、

「んっ……ここは……」

医務室にて目を覚ましたちとせ。

「あら、目が覚めた?どう気分は?」

にこやかに話しかけるのは医師のケーラであった。

「ケーラ先生……私は、なぜここに?」

まだ状況が掴めず、戸惑いの様子を見せるちとせ。

「貴方は廊下で倒れて、ココへ運ばれてきたのよ」

「廊下で倒れて……」

ちとせは運ばれてくる前の記憶を辿った。そうして思い出したのは……

 

「っ!?」

 

ガバッ

 

目を見開きベッドから飛び起きるちとせ。

「ど、どうしたの?もう起き上がって平気なの?」

いきなりの行動に驚いたケーラは、思わず問いかける。

「ご迷惑をおかけしました、ケーラ先生。では私はこれで失礼します」

「ちょ、ちょっと何処へ行くのよ!?」

「早くタクトさんと先輩方の所に行かなければ……」

そんなやり取りの最中、医務室のドアが開いた。

「ちとせさん!もう大丈夫ですの!?」

医務室に転がるようにして入ってきたのは、ミントであった。

「ミント先輩!私はこのとおり、もう平気です」

平気であることを証明するため、真っ直ぐ立ち上がり微笑むちとせ。それを見たミントはホッとした表情を見せた。

「安心しましたわ。これで後はミルフィーさんを探すばかりに………」

「ミルフィーユならそこにいるわよ」

ケーラが指すベッドには、ミルフィーユが眠っていた。

「ミルフィー先輩!?」

「まあ……ミルフィーさんはどうなさいましたの?」

ミルフィーユが医務室にいることに、ようやく気付いたちとせとミント。

「それが部屋の前で倒れていたみたいなのよ。けど、ただ倒れただけじゃないみたい……」

「それは……どういうことですか?」

「ってこんなことをしている場合ではありませんわ!申し訳ありません、ケーラ先生。私たちはこれで!」

「ちょ、ちょっと、何処行くのよ!?まだ……」

現在、自分たちが置かれている状況を思い出したミントは、慌ててちとせの手を取り医務室から出る。

「ミ、ミント先輩!?一体どうなさったのですか!?」

「今フォルテさんたちが、不審な人物を追っている途中ですの。早く追いかけなければ!」

「不審人物!?それは一体……」

「行きながら説明しますわ!ランファさんからの通信によると、どうやら不審人物は倉庫へ向かったようです。急いで駆けつけませんと!―――」

ミントは状況の掴めないちとせを引き連れ、倉庫へと急ぐ。

その先に待っているものは何かを知らずに―――

 

 

*

 

 

 

暗闇の倉庫にて、ランファ、フォルテ、ヴァニラの3人は、壁際に移動し相手の動きを伺っていた。

「フォルテさん……これからどうしたら……」

「あいつの動きがわからない限り動かない方がいい……この暗闇の中で迂闊に動くのは危険だからね……」

「だけどアイツ、どうやってアタシたちを始末するっていうのかしら……?」

「さあね。相手は夜行性なのかもしれないねぇ……」

フォルテがそう言った時だった。

 

バシャア!!

 

「ひゃ!!」

「うわっ!なんなんだい!?」

「っ!?」

突如、上から3人の頭部を目掛けて液体が降ってきた。

「冷たーい……何なのよいきなり!?」

「薬品の匂いがします……液体が、光り輝いているように見えますが……」

「これは……蛍光塗料だよ!」

3人にかかった液体は蛍光塗料のようであった。

「なんで蛍光塗料がいきなり降ってくるのよ?」

「敵の仕業でしょうか……?」

「いや、そんなことよりマズイことになったねぇ……」

唇を噛み締めるフォルテ。その言葉にキョトンとなったランファは、

「フォルテさん、どうしてマズイことなんですか?これで少しは明るくなったんじゃ――」

「バカ!アタシたちにだけ蛍光塗料がかかったってことは、相手にとって狙いやすくなったってこと――」

 

 

 

ドン!!ドン!!

 

 

 

「おっと!」

「!?」

「わっ!?」

3人近くを弾丸が通過した。とっさに身を伏せたが、

「どうやら敵には、アタシ達が丸見えのようだね……」

「これじゃあ、相手にとっちゃいい的じゃないの!いくら暗闇だからって、入り口の場所ぐらい覚えてるわよ!」

3人は今いる位置に留まることのを止め、入り口の方へと走り出した。

 

その間も銃声は鳴り続いていたが、かろうじて3人には当たらないようだ……

「ふん、いくら的が見えてるからって、当たらなきゃ意味無いわよ。あのノーコン!」

ランファは笑いながら毒づくが、フォルテは腑に落ちなかった。

(おかしいね……腕に自信がないんなら、アタシたちを始末しようって気は起きないはずだけだど……)

とそこまで考えていたとき、あることに気付いた。

(ヴァニラが走ってきた所にだけ、弾痕がある!?)

そう男はヴァニラにだけ的を絞っているようだ。

(ってことは、相手の狙いはヴァニラってワケかい!?)

そう思ったフォルテは、ヴァニラを担ぎ上げた。

「あ……あの、フォルテさん?」

「ランファ、ヴァニラを守りながら走るんだ!」

フォルテは前を走っているランファに向かって叫ぶ。

「えっ!?フォルテさん、それって!?」

「あいつの狙いはヴァニラだ!ヴァニラがやられたら―――」

 

 

 

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

「うあっ!!」

「きゃあっ!?」

3人の入り口の近くで転倒してしまった。

「しまった……相手はアタシたちに狙いを変えたのかい……」

銃弾の痛みに顔を顰めるフォルテ。

「フォルテさん!?」

「大丈夫なのですか……!?」

フォルテの下へ駆けつけて来るランファとヴァニラも大丈夫ではなさそうだ。といっても、ヴァニラはフォルテに担がれていたので、転倒の衝撃だけですんだようだが……

しかし、フォルテは担いでいた左肩部分に2発撃たれて負傷し、ランファは右足首を撃たれて足を引きずるように駆けつけて来た。

「待っていてください。お2人とも……ナノマシンで」

「そんなことしてる場合じゃないよ!早く逃げるんだ!」

フォルテはヴァニラを逃げるよう促した。

「っ!?フォルテさん、後ろ!」

後ろを振り向くフォルテ。

動きを止められたその間、男は3人の近くまでやってきた。そのまま銃口をヴァニラの前にいるフォルテに向けた。

「ちぃ!」

舌打ちをしながらもフォルテも男に銃を向けた。

 

 

そのまま2人は、同時に引き金を引き放った………

 

 

 

 

 

ドンッ!ドンッ!

 

 

 

 

 

 

男は右足を撃たれ、フォルテは、

……えっ?」

痛みは来なかったが、誰かに倒されたようだった。

「何が……?」

腹部に重みを感じたフォルテが目を向けた時、

 

 

 

「ヴァニラ………?」

 

 

 

ヴァニラがフォルテに覆いかぶさるような形で倒れていた。

腹部から血を流しながら………………

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァニラーーーーー!!!」

「ヴァ……ヴァニラ!?」

 

ヴァニラから流れ出る血を見て、絶叫するフォルテとランファ。

その様子を無表情で見ながら、男は銃を構えなおした、その瞬間、

 

 

 

 

ズダンッ!!!

 

 

矢が男の左手を貫いた。

「!!」

その衝撃で男は銃を落とし、矢が飛んできた方向に目を向けた。

そこには、

 

 

 

 

「ご無事ですか!?先輩方!!」

「遅れて申し訳ありません!」

 

 

 

入り口の方には、ちとせとミントの姿があった。

 

ちとせは矢の篭められた箙を背中に担ぎ、左手には弓を持っていた。

ミントは大型の暴徒鎮圧用の銃を持っていた。

 

 

「っ!」

不利を悟った男は背を向け、逃走を図ろうとしたが、

「逃がしません!」

 

 

 

ドスッ!!!

 

 

 

ちとせが放った矢は、男の背中を貫通した。

………………」

男の動きが止まり、そのまま倒れるかと思った刹那、

 

 

 

「〜〜〜!!!」

なんと男は足を踏ん張り、そのまま奥へと消えていった……

 

 

「そんな……あの状態で走れるなんて……」

「それよりもフォルテさんたちですわ。早く行かなければ………」

ちとせとミントは男の追跡を諦め、フォルテたちの元へ駆けつけた。

 

「先輩方、お怪我はありませんか?」

「まだ動けますか?」

駆けつけた2人は、様子を伺い近づいていったが、、

………………」

………………」

ランファとフォルテからは俯いたまま反応が無かった。

「ランファさん、フォルテさん?どうなさいましたの?」

「何かあったのですか?」

ちとせとミントは声をかけたが返事は来なかった。

………………」

………………」

ランファとフォルテの視線は、足元にいっていることに気付いた2人は、さらに近づくと―――

 

 

 

 

「ヴァニラさん!?」

「ヴァ、ヴァニラ先輩!!」

 

彼女たちの叫び声とともに、そこにあったもの………

 

それはライトグリーンの少女が、血に塗れながら倒れている姿があった。

 

それはまるで赤く染まった池の中心に、茎を真っ赤に染め上げた水仙が浮かぶかのように―――