倉庫での1件の後、医務室の前にはタクトと、目を覚ましたミルフィーユを加えたエンジェル隊がいた。

しかし、そこにヴァニラの姿はなかった……

 

 

「一体どういうことなんだ!?なんでヴァニラがこんな目に………」

ランファ、ミント、フォルテ、ちとせから今までの経緯を聞いたタクトは、困惑し頭を抱え込んでしまう。

謎のロストテクノロジーの調査に加え、不審人物の出現によりエンジェル隊、特にヴァニラの負傷はタクトにとって予想外の出来事であった。

「すまないタクト……アタシが不甲斐ないばっかりに……」

左肩に包帯を巻いたフォルテが沈痛な面持ちで呟く。

「そんな、フォルテさんは悪くないですよ!アタシが油断さえしなかったら……」

ランファはかばい立てするが、その表情には普段の勢いは感じられなかった。

「お2人とも、そんなに自分を責めないで下さいませ」

「そうですよ。私達がもっと早く駆けつけていれば……」

「みんな……あんまり騒いだらヴァニラの迷惑になっちゃうよ……」

もはや収集がつかなくなると思われた時、ミルフィーユの一言が他のエンジェル隊の冷静さを取り戻させた。

「そうよね……ヴァニラに聞こえたら迷惑になっちゃうわよね……」

そのまましばらく沈黙が続くが、医務室のドアが開く音によって中断された。

 

「ケーラ先生!ヴァニラの容態は!?」

タクトが代表した形でケーラに質問する。

「ヴァニラの傷は相当深いわ。臓器に届く寸前だけじゃなく出血が酷すぎて、このままではヴァニラの命はもたないわ……」

「そんな!」

悲痛な叫びが廊下に響き渡る。

「ケーラ先生、何とかならないんですか!?」

「誰かからヴァニラに輸血を行なえば助かる確率は高いけど……」

「じゃあ、アタシの血を輸血してください!そうすれば……」

率先して名乗り出るフォルテ。しかし、

「それがダメなのよ……」

即座に断るケーラに、訝しげな表情を浮かべるフォルテ。

「なぜ、ダメなんです?」

「ヴァニラの血液型は非常に稀少なのよ。うかつに輸血を行なうことはできないわ……」

「それじゃ、アタシが!」

ランファ、さらに他のエンジェル隊も名乗り出るが、ケーラは首を振った。

「残念だけど、それもムリね。まだ全部調べていないけど、この艦にはヴァニラと同じ血液型の乗組員はいないわ……」

「何だって!?」

驚愕の表情を浮かべるフォルテ。

責任を感じていた彼女にとって、この一言はあまりにも重い……

「それじゃ、もうヴァニラは助からないの!?もう一緒にあたしたちと一緒にいることはできなくなっちゃうの!?」

「ヴァニラ先輩……」

もはや成す術がない……

絶望の雰囲気がエンジェル隊を襲う……

 

 

 

そんな状況の中、タクトは思いついたように、

「ケーラ先生、オレが献血してもいいですか?」

と真剣な表情で言った。

「はい?タクトさん、今なんと?」

「だからオレがヴァニラに献血するって言ったんだ」

あっけらかんとして言うタクトに、問いかけたミントだけでなく、エンジェル隊とケーラも唖然としていた。

ケーラは戸惑いながらも、タクトに言い聞かせた。

「あの……マイヤーズ司令?」

「なんです?」

「せっかくだけど、ヴァニラの血液型って非常に珍しいのよ」

「わかってます。」

「だから、同じ血液型じゃないと――」

「同じですよ」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

一同、驚愕の表情と声を上げる。

 

タクトはそれに構わず、

「偶然にもオレとヴァニラは、同じ血液型なんですよ」

と自信たっぷりに言い放った。

「あのタクトさん、なぜ同じ血液型ということがわかるんですか?」

困惑しながら尋ねるちとせ。

「この前ランファたちとティーラウンジで占いをしたことがあるだろ?」

「そうだけど……それがどうしたのよ?」

「その時、オレとヴァニラの血液型が同じだって言ってたじゃないか」

「あっ!?」

タクトの言葉に思い当たる節があったのか、思わず声を上げるランファ。

「確かにそうだったわ……あの時ヴァニラとタクトの血液型がめずらしいってだけじゃなく、同じ血液型どうしって聞いたことがあったわね……」

「だろ?だから別に問題は無いさ」

「すごーい!さすがタクトさん!」

タクトの言葉に喜びの声を上げるミルフィーユ。ミルフィーユだけでなく他のエンジェル隊からも安堵の表情が浮かび上がった。

しかし、ケーラはまだ心配げな様子だった。

「けどマイヤーズ司令、大丈夫なの?ヴァニラの出血量はかなりのものよ。1人では相当負担が掛かるわ」

「まあ大丈夫でしょう。オレもそんなにヤワじゃないですよ」

屈伸運動をしながら、体が丈夫であることをアピールするタクト。それを見たエンジェル隊は、

「どうだか……運動不足のタクトが言っても、説得力ないわね」

「普段、健康的な生活を送っているとは言いがたい方から、言われても……」

「ホントに大丈夫なのかい、タクト?」

ランファ、ミント、フォルテからは散々な評価が出てきた。

「おいおい、酷い言い様だなあ。少しはオレを信用してくれよ……」

「そうだよ、これでもタクトさんは頑張ってるんだから、信用しなきゃかわいそうだよ」

「ミルフィー先輩の言う通りです。それがタクトさんのありのままの姿なのですから、信用性とは関係ありません」

………………」

フォローを入れたつもりのミルフィーユとちとせであったが、タクトは打ちのめされた表情を浮かべていた。

「ま、まあとりあえずその辺にしといて。マイヤーズ司令、本当にいいの?」

戸惑いながらも尋ねるケーラ。その言葉にタクトは気を取り直し、

「はい。これでヴァニラが助かるっていうのなら、お安い御用ですよ。それに……」

「それに?」

「ヴァニラはオレとっても、大切な子でもありますから」

と言い切った。

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

あまりにもあっさりとした言い方に、その場にいた者全員があっけにとられた。

 

いち早く立ち直ったランファは、

「タクト……アンタ、ヴァニラのこと……」

と呆気に取られたが、

「ん、どうかしたの?」

タクトは実に普段通りに振舞っていた。

その様子を見たエンジェル隊は、

「べ、別になんでもないわよ……」

「そうだよねぇ、タクトに限ってそんなことは……」

「まあ、タクトさんですし……」

と呆れ顔で呟いていたが、

「まあ、ヴァニラのことは安心してオレに任せてくれ。

君たちは不審人物の確保と、ロストテクノロジーの回収を頼んだよ」

とタクトは表情を引き締めて言った。

 

「タクトさん……」

「タクト……」

「そうですわね。こういう時のタクトさんを信頼してきたからこそ、私達がここにいるのですから……」

「まったくだ。信じてあげようじゃないか、アタシらの司令官どのをね」

「はい。タクトさん、頼りにしています」

エンジェル隊はタクトにすべてを託した………

 

 

 

 

 

医務室でタクトがヴァニラに輸血を行なっているその時、艦内に警報が鳴った。

「な、何!? どうしたのいきなり!?」

静まり返っている廊下に、突然警報が鳴り響いたことに驚くミルフィーユ。

同時にレスターから通信が入った。

「タクト、聞こえるか!?」

「タクトなら今忙しいわよ。何なのよ、こんな時に?」

「どういうことだ!?」

「お話は後になさいませんこと? それよりもどうなさったんですの?」

「レーダーが敵の艦影をキャッチした。例の無人艦隊だ!」

「ちいっ! ヴァニラがいないって時に――」

「嘆いている暇はありません! 格納庫へ急ぎましょう!」

ちとせの掛け声とともに格納庫へ急ぐエンジェル隊。

「オイ待て! タクトがどうしたんだ!?」

しかし、すでにレスターの叫びは届いてはいなかった……

 

 

*

 

 

「悪い、遅くなった……」

「遅いぞ、何やってたんだ!って――」

ブリッジに遅れてやってきたタクトを一喝したレスターであったが、その顔色を見て不審な表情になった。

「お前、その顔色どうしたんだ?」

「ちょっとヴァニラに輸血しすぎてね……」

「輸血?どういうことだ?」

「まあ、その説明は後で。それより敵は?」

その言葉にレスターは訝しんでいたが、モニターに視線をやり、

「小惑星から、突然艦隊が現れたんだ。今エンジェル隊が戦闘準備に入ってる途中だ。」

「敵の戦力は?」

「巡洋艦・駆逐艦の各5機、装甲ミサイル艦が4機、高速突撃艦が6機、大型戦艦が2機となっています」

タクトの質問に答えるココ。

「随分多くないか?」

「ああ、残存勢力にしては数が多すぎるな……」

「まあ、普段のエンジェル隊なら問題は無いと思うけど……ヴァニラがいない今は苦戦するだろうな……」

「そうなのか?」

「ああ、今のヴァニラはとても出撃できる状態じゃない……」

タクトとレスターがそんなやりとりをしていた時、アルモから声がかかった。

「マイヤーズ司令、格納庫から通信です!」

「格納庫から?つないでくれ。」

通信を格納庫につなぐと、慌てた声がスピーカーに入った。

「マイヤーズ司令!大変です!」

通信に出たのは、ウェーブのかかった金髪とそばかすが印象的な女性、整備班班長クレータであった。

「どうかしたのかい、クレータ班長?」

「それが、シャープシューターが動ごかないんです!」

「なんだって!?」

クレータの報告にブリッジ全体に緊張が走った。

「シャープシューター……ちとせの紋章機か!?」

「シャープシューターが動かない!?どういうことなんだ!?」

「わかりません。故障ではないと思うのですが……」

クレータの困惑した声が響く。

しかしタクトは気を取り直し、エンジェル隊に通信をつないだ。

「仕方ない……エンジェル隊は、4機だけで敵にあたってくれ。くれぐれも無茶はしないように。」

4機だけでって……ちとせ、どうしたんですか?」

「わからない……けど、今のちとせの状態では、もしかしたら操縦できないかもしれない」

「どういうことだい!?」

「マイヤーズ司令!敵が交戦圏内に突入しました!早く出撃しないと……」

エンジェル隊との通信をしている間、ココの切羽詰った声が聞こえた。

「くっ……説明しているヒマは無いみたいだ。とにかく頼んだよみんな!」

「わかりました。では参りましょう」

「まあ4機だけでもなんとかなるわよ。タクト、ちとせのこと頼んだわよ!」

「わかった!それじゃ……」

タクトは一呼吸置くと、

「エンジェル隊、出撃!」

「「「「了解!」」」」

命令とともに、紋章機に搭乗完了したエンジェル隊は出撃していった。

「レスター、指揮は任せたぞ!」

「おい、タクト!何処へ行く!?」

レスターが止める間も無く、タクトはブリッジを飛び出していった……

 

 

*

 

 

「キャッ、また被弾しちゃった!」

「次から次へと……何なのよこいつら!?」

「皆さん、今度は10時方向から援軍が来ますわ!」

「ちいっ、まだまだあっ!」

宇宙空間で4機の紋章機と多数の敵機が飛び回り、レーザーや砲弾が飛び交うなどの激しい戦闘を繰り返す。

戦闘は苦戦を強いられることとなった。

 

 

 

駆逐艦・巡洋艦は数が多くても、攻撃力や機動力はそんなに高い方ではない。

高速突撃艦の機動力は艦隊の中でも1番高い方であるが、耐久力に関しては逆に1番低い。

装甲ミサイル艦は高い攻撃力、耐久力を持つが、唯一の短所は機動力の低さである

大型戦艦は本来戦闘でのコントロールを掌る母艦の役割に徹しており、機動力はほとんど皆無であるが攻撃力、耐久力に関しては徹底した作りになっている。

 

この無人艦隊は一つ一つ性能では紋章機に劣るため、それぞれの役割に徹し数の多さで攻め立てる戦法を主としていた。

 

 

 

といっても普段のエンジェル隊ならば、例え数が多くとも苦戦するはずの無い艦隊でもあったのに関わらず、苦戦を強いられたのは明確な理由があった。

 

エンジェル隊全員の士気が下がり、紋章機の特徴である、操縦者のテンションによって左右されるクロノ・ストリング・エンジンが十分に起動していないため、本来の力を出せないこともあった。

 

しかし、もう1つ、いやこれが最大の理由であろう。

 

ヴァニラとちとせがいない―――

 

ヴァニラが操縦するハーベスターは紋章機唯一の回復可能の機体であり、他の紋章機がダメージを受けた場合、回復させることができるのはエルシオール以外ハーベスターだけであるからだ。

 

ちとせのシャープシューターは長距離専用の機体であり、紋章機の中でも特に命中率が高い。そのため後方からの援護を行なうには最適である。

 

今回のような多数の艦隊を相手にするためには不可欠な2人がいない。

ちとせは一体どうしたのか、ヴァニラは大丈夫なのか……

何よりもタクトが指揮を執っていない。

 

それらが原因でエンジェル隊の士気は下がる一方であった……

 

 

*

 

 

……おまたせ」

「何していたんだ!?もう戦闘中だぞ!」

ブリッジで臨時指揮を執っていたレスターは、またもや遅れてきたタクトに怒鳴りつけた。

「すまない、すぐに指揮を執るよ」

青白い顔をしながら言うタクトに、レスターはやむなく指揮を譲った。

その時タクトの傍に顔を俯かせているちとせに気付いた。

「タクト、何故ちとせがここにいるんだ?」

「戦闘が終わったら話すよ。とにかく今のちとせは紋章機に乗れないようなんだ」

「なんだと!?どういうことなんだそれは!?」

絶句するレスターであったが、それ以上タクトの口からは何も出てこなかった……

 

 

苦戦を強いられたが、何とか敵を撃退することに成功したエンジェル隊だったが、

「エンジェル隊以下4名帰還しました……」

「みんな、ご苦労様……」

ブリッジに来たときには疲労感に覆われていた。

さらにちとせがブリッジにいたことに気付き、ちとせの身に一体何が起こったのか、そんな雰囲気がブリッジに漂っていた。

 

「ねえタクト、何でちとせがそこにいるの?」

ちとせがタクトの傍にいたことに、4人は不思議に思っていたが、ランファが質問の口火を切った。

「そうそう。ちとせ、どうしたの?」

「何か喜ばしくないことでも、おありなのですか?」

「どうなんだい、お2人さん?」

質問攻めにあうタクトとちとせ。

しばらく2人は沈黙していたが、ややあってタクトが口を開いた。

「みんな……落ち着いて聞いてくれ。ちとせは……」

「ちとせは?」

「ちとせは、紋章機に乗れなくなっている」

『!?』

驚愕するエンジェル隊。エンジェル隊だけでなくレスターや他の乗組員も絶句していた。

 

「ちとせが紋章機に乗れないってどういうことだい!?」

いち早く気を取り直したフォルテが、タクトに問い詰める。

「フォルテ、今回のロストテクノロジーの特徴は覚えてるかい?」

「その事と、ちとせに何の関係が―――」

「いいから答えてくれ」

いつになく真剣な表情のタクトに気圧されながら、フォルテはしばらく考え込んでいたが、

「白い球体で、人を襲う習性があるってことかい?」

「正解だ。じゃあ襲われた人はどうなるんだった?」

「襲われた後は記憶障害に………ってまさか!?」

気付いたような表情を浮かべたフォルテに、頷くタクト。

「そう……ちとせはそのロストテクノロジーに襲われたんだ」

「何ですって!?」

驚愕の事実に思わず声を上げるミント。

「ちとせだけじゃない。おそらくミルフィーも、あのロストテクノロジーに襲われたんだろう」

「へっ?何のことですか?」

事情を聞かされていないミルフィーユには、事態は飲み込めていないようだ。

「そっか……やっぱりそうだったんだ」

「ランファ、知ってたの?」

「知ってたっていうより、薄々気付いてたっていうカンジかしらね……」

思わず天井を仰ぐランファ。

医務室で2人の状態を聞かされたランファは、ようやく認めざるを得ない表情をしていた。

「なぜちとせさんとミルフィーさんが襲われたとおわかりになられたのですか?」

疑問の声を上げるミント。

「ミルフィー、ちとせ。みんなに首筋を見せてやってくれ」

髪をかき上げながら、無言で従うちとせとは対照的に、ミルフィーユはまだ困惑していたが、タクトの言葉どおりに首筋を見せた。

「首筋?別に何とも……」

「いいからよく見て」

「ん〜……2人とも薄いけどアザがあるねぇ……」

「本当ですわ、しかも同じ位置に」

薄目を開けながら2人の首筋に同じ位置に薄いアザがあることに気付いたミントとフォルテ。

「ですがタクトさん、これだけではまだ……」

「これだけじゃない。ちとせ、襲われた時の状況を皆に話してくれないか」

「はい……では……」

今まで顔を俯かせていたちとせであったが、タクトの言葉によってようやく顔を上げた。

「これは、私が襲われた時の様子なのですが―――」

 

―――ちとせは白い球体を発見した時の様子を詳細に語った。

 

「―――その時、白い球体は騒音を発しながら光り出し、思わず私が身構えたところ、首筋に何かが当たったのですが……、その後の記憶はありません……」

今まで当時の様子を語っていたちとせは、ようやく肩の力を抜いた。

「それが原因でちとせは紋章機に乗れなくなったってことか……」

フォルテはようやく合点がいったという表情をしていた。

「でもちとせは記憶があるみたいじゃない。何で紋章機に乗れないのよ?」

「確かに私自身、記憶を失っているということはありません。ですが……」

ちとせは一呼吸置くと、

「紋章機を動かす時の感覚がどうしても思い出せないんです……それが原因でH.A.L.O(ヘイロウ)も反応しないままだったんです……」

沈痛な面持ちで語るちとせ。そんなちとせに声を掛けられる者はいなかった……

 

.A.L.O(ヘイロウ)―――乗り手の精神エネルギーをキーに発動するドライブシステム。このH.A.L.Oを通じてクロノ・ストリング・エンジンを起動させるのであるが、テンションが上がらなければ、紋章機は本来の力を出すことは出来ない。

 

だが、ちとせの場合、テンションはおろかH.A.L.Oすら起動できなくなっていたのだった。

タクトが格納庫に駆けつけた時、ちとせと一緒に紋章機を起動させようとしたが、ピクリとも動くことはなかった。

 

普段のちとせからは考えられないことであったため、この事からタクトはちとせがロストテクノロジーに襲われたことに確信を持ったのだった。

 

 

その時ミントは、ちとせの話を黙って聞いていたが、何か思いついたような顔つきになった。

「あの……タクトさん」

「どうしたんだい、ミント?何か質問でも?」

「質問というほどのものではありませんが、そのロストテクノロジーは人を襲うとき、必ずしも球体のままなのでしょうか?」

「どういうことだい?」

「どんな形にも変身できるという可能性は無いでしょうか?」

「へっ?」

ミントの発言にあっけにとられるタクトであったが、彼女の性格からして思いつきで言っているということは無いだろうと思い続きを促した。

「詳しいことはわかりませんが、Cブロックでロストテクノロジーの探索をしているとき、部屋の前でキョロキョロしていた不審人物を見つけたのですが―――」

ミントはいったん言葉を切ると、こう言った。

「私が質問をすると、今回のロストテクノロジーと同じ特徴があったのです。

光と騒音を発しながら、襲い掛かるといった点は全く同じですわ」

「なんだって!?ミントも襲われたのか!?」

「幸いなことに、私は装備をしていたので未遂に終わりましたが……」

「ちょっと待っておくれ。

それじゃあ今回のロストテクノロジーっていうのは、どんなものにでも変身できるってことなのかい?」

フォルテが疑問の声を上げる。

「さあ、どうだろうね……

そういえばミルフィーはどうだったんだい?」

「えっ、あたしですか?」

タクトに問いかけられ、今まで事情が飲み込めず黙って拝観していたミルフィーユであったが、慌てて質問に答えようとしていた。

「ええ〜っとですね、あたしの場合は……」

自分が襲われた時の記憶を探っていたが、

………………///」

 

無言で顔を近づけるタクト。

 

そっと目をつぶるミルフィーユ。

 

そのまま2人は顔を近づけていき……

 

その時の状況を思い出し赤面するミルフィーユ。

「ん?どうしたのよミルフィー?顔が赤くなってるわよ」

「えっ!?ううん別に」

慌てるミルフィーユに訝しげな視線を送るランファ。

「と、とにかくアタシが襲われたときは、ミントと同じように人型になっていて、大きな音を出しながら光っていたんです」

全貌を隠しながら語るミルフィーユであったが、誰にも不思議がられなかった。

「そうか、ミルフィーも同じような目に遭っていたのか……」

無念そうに呟くタクト。

 

白い球体………不審人物………突然の無人艦隊の出現………

タクトにはこれらの事がたった一日で起きたというのは、とても信じられなかった………

 

「これからどうする気だ、タクト?」

考え込んでしまったタクトに、レスターは声をかけた。

「どうする気って?」

「俺たちの任務は、ロストテクノロジーの調査だけでなく、クーデター残存勢力の制圧も課せられているんだ。現在の状況で満足に出来ると思うか?」

「あっ―――」

確かにレスターの言う通りではある。

 

今回のロストテクノロジーの不可解さ、ちとせの突然の戦線離脱、ヴァニラの負傷、まだ詳しくはわからないがミルフィーユの記憶障害。

これらの問題を抱えたまま、任務を続行するのは不可能に近い………

 

そう思ったタクトは顔を上げ結論を出した。

「決めた。白き月に連絡を入れた後、トランスバールに向かおう」

「本当にいいのかタクト?」

「ああ……不可解なことばかりだからね。それにミルフィーやちとせの症状を調べてもらわないと。あとヴァニラを静養させておかないとね」

「わかった」

レスターは操縦席の方へ向くと命令を下した。

「任務変更。これよりエルシオールは進路を変え、クロノ・ドライブを行ない、トランスバール皇国へ向かう」

「了解。クロノ・ドライブに入ります」

 

 

*

 

 

「エルシオール、クロノ・ドライブに入りました。システムに以上はありません」

「艦内各部、異常無し」

アルモとココの説明どおり、ブリッジのモニターには辺り一面、白い光に覆われたクロノ・スペースの空間が写っていた。

「あと何時間でトランスバールに着くのかな?」

「ドライブ・アウト予定時刻までは、あと4時間ってとこか。その後は通常通りに移動を行なうと……5時間後だな」

「それまでは時間があるな。それまでエンジェル隊は自由にしてくれていいよ」

そうタクトはエンジェル隊に声を掛けるが、

「ちょっと待て、ロストテクノロジーが何処へ行ったのかわからなくなっているだけじゃなく、まだ不審人物がうろついているとも限らない。あまり艦内を出回るなよ」

すかさずレスターが釘を刺した。

「なぁに、心配しなさんなって。今のあいつじゃ満足に動けやしないよ」

フォルテは事も無げに話していたが、真面目な顔つきになると吐き捨てるように言った。

「それに、もし、ばったり出会ったんなら、今度は容赦しないよ……」

フォルテだけでなく、他のエンジェル隊も同じ考えなのか同意といったように頷く。

その後エンジェル隊はそれぞれブリッジを後にした―――