医務室に着いたタクトたちを見たケーラは、その大所帯に目を丸くする。

「あら、みんな揃ってどうしたの?」

「ヴァニラの様子を見に来たんですけど、大丈夫なんですか?」

「ええ、さっき目が覚めたとこよ。ヴァニラも退屈しているみたい」

医務室を訪れたタクトたちは、ケーラからヴァニラの様子を尋ねていた。

「よかった……本当に……」

ヴァニラの負傷に人一倍責任を感じていたフォルテは胸を撫で下ろした。

「ヴァニラが目を覚ましたって本当なんですか!?」

「ヴァニラ先輩……助かってよかったです!」

「ランファさん、ちとせさん、ちょっと落ち着いてくださいな」

フォルテだけでなく、他のエンジェル隊も喜んでいた。

そこには先ほど目を覚ましたちとせも混じっていた。

「まあまあみんな、そんなに騒いだらヴァニラの迷惑になるよ」

苦笑いしながらタクトが窘めた。

「まあ喜ぶのも無理ないわね。早くヴァニラの所に行ってあげなさい。

 けど、まだ傷は塞がってないから無理は……ってあら?」

ケーラが言い終わる前に、5人はヴァニラの下に行っていた。

 

 

*

 

 

「それで傷はもう大丈夫なのヴァニラ?」

「まだ痛みますが、ご心配をおかけして申し訳ありません……」

そう言ってベッドから降りようとするヴァニラであったが、

…っ!」

わずかに身体を捻った瞬間、激痛が走った。

「ほら、まだ直ってないんなら無理すんじゃないよ」

言いながらヴァニラを寝かせるフォルテ。

「でも、本当によかったです……ヴァニラ先輩が無事で……」

「そうですわね。あの時はヴァニラさんがもう私たちと会うことはなくなるのではと思ってしまったぐらいですし……」

ミントとちとせもヴァニラを見てホッとした様子である。

「しかし、私はどうしてこの傷で助かったのでしょう……?」

「ヴァニラ、それはねタクトのおかげなんだよ」

「タクトさんの?」

「ああ、タクトが輸血してくれたおかげで一命を取り留めることができたのさ」

フォルテはタクトのいる場所に視線を向けた。

「ヴァニラ、身体の調子はどう?」

「はい、おかげさまでよくなりました……」

タクトの質問に微笑みながら答えるヴァニラであったが、ふと疑問が浮かんだ。

「あの……なぜタクトさんは、私に輸血をしてくれたのですか?」

「なんで、って……」

「私の血液型は、きわめて稀少なものなのに、簡単に輸血できるものではないと思うのですが……」

「それは、タクトとヴァニラが同じ血液型だったからよ」

タクトの代わりに答えるランファ。

「なぜわかったのですか?」

「この前アタシがみんなに血液型占いをやったことがあったじゃない。

 その時タクトとヴァニラが同じ血液型だったでしょ」

「あっ……」

その事を思い出したのか、納得の言った顔をするヴァニラ。

「でも、ヴァニラさんの出血は酷いもので、もはや助からないと思われましたわ。」

「その時真っ先に名乗り上げたのがタクトさ。1人だけじゃ自分にも相当負担が掛かるだけじゃなく、もしかしたら死んじまうかも知れないっていうのに」

「まああの時はそこまでは考えてなかったけどね」

苦笑いしながら言うタクト。

「それでも自分の危険を承知の上で、行動を起こしたタクトさんは立派でした」

「それは買いかぶりすぎだよちとせ。

 でも、もしあの時すぐ輸血しなければ、ヴァニラとはもう逢えないと思ったんだ。

 オレのことよりもヴァニラに逢えない方がイヤだったしね」

「タクト……」

しんみりとした表情で、心情を述べるタクト。

そのタクトの言葉に、エンジェル隊全員が感銘を受けた。

「それでは、今私の身体に流れている血は……」

「まあ、オレと同じ血ってことになるね」

なんとなく照れくさくなり、顔を背けるタクト。

その仕草をヴァニラは微笑みながら、タクトの胸に顔をうずめた。

「ヴァ、ヴァニラ!?」

ヴァニラの意外な行動に驚愕するタクト。

タクトだけでなく、エンジェル隊も普段のヴァニラからは想像できない行動に呆然としていた。

「タクトさんの……心臓の鼓動が聞こえます……」

周りの状況を気にならないのかヴァニラは続ける。

「タクトさんと出会えたことで……今私がこうしていられるのですね………」

「ヴァニラ……」

「こんな私を助けていただき……本当に、ありがとうございますタクトさん………」

「ヴァニラ」

ヴァニラが顔を上げると、そこにはやさしげな表情をしているタクトがいた。

「『こんな私』って言い方は止めておけって言ったろ。

ヴァニラは自分で思っているほど悪い子じゃないよ。

 

それに、オレは君が大切だから助けたんだ。義理で助けたんじゃない………」

「タクトさん……」

「ヴァニラはオレにそうさせるだけの価値があるんだ。

 ……ってことにさせてくれ。」

最後の部分は照れていたのか、聞き取りにくい声であったが、ヴァニラにはすべて聞こえたようだ。

ヴァニラはわずかに瞳を潤ませ、顔を紅潮させながら

「ありがとうございます、タクトさん。

とても……うれしいです……」

と呟いた。

その表情は心からの感謝と敬意の念が込められていた。

 

どくん………どくん………、と

ヴァニラは自分の心拍数が上がっていくことに気付いた。

(鼓動が早い……顔が熱くなっている………

なにより……タクトさんの傍にいると、心が温かくなる……)

この感情が何かはわからなかったが、今はタクトに抱きしめられていることがなによりも大事だった。

「ヴァニラ……」

 

そしてヴァニラの頭を撫でながら、そのままの体勢でいるタクト。

 

その光景はお互いを心から信じきった2人を表現するかのように………

 

 

 

*

 

 

 

長く続くかと思われた雰囲気は、医務室のドアが開いたことによって断ち切られた。

………………」

医務室に入ってきたのはミルフィーユであったようだが、どことなく沈んだ表情をしていた。

「あっ!?ミ、ミルフィー、今来たんだ」

ミルフィーユが現れたことで、タクトは急いでヴァニラから離れた。

「あっ……」

その際ヴァニラが寂しそうな表情を浮かべたが気付いた者はいなかった。

「遅いわよミルフィー、今まで何してたのよ?」

ランファが声を掛けると、ミルフィーユは今気付いたかのように反応を示したが、

「う、うんゴメンナサイ……」

またすぐに沈んだ表情に戻ってしまった。

「まあ、いいわ。早くこっち来なさいよミルフィー」

入り口の方から一歩も動こうとしないミルフィーユの手を引っ張り、ランファはベッドの方へと連れてきた。

「ミルフィーさん……」

「あ、ヴァニラ、遅れてゴメンね」

「いえ、来てくださってうれしいです……」

「そういえばミルフィーさんは、今まで何をなさっていたんですの?」

ミルフィーユとヴァニラが挨拶を交わした後、口を開いたのはミントであった。

「え、えっとその……」

「何か差し入れでも作ってきたんじゃないの?」

「えっ!?そ、そんなのじゃなくて……」

「あら?ミルフィー先輩、その手……」

曖昧な返事をしながら質問に答えるミルフィーユ。

だが、ちとせはミルフィーユの両手を見たとき異変を感じた。

ミルフィーユの両手、正確には指の辺り殆どが絆創膏に覆われていた。

「両方の指、ケガをしているじゃないですか!?」

「ホントだ。ミルフィー、来る途中何かあったのかい?」

「あっ、これはさっき転んじゃって。」

指摘され慌てて手を後ろに隠すミルフィーユに、タクトたちは訝しげな視線を投げかけたが、ヴァニラの見舞いだけに、ケガの話題には触れなくなった。

 

 

「ヴァニラ、そろそろ検査に入るわよ」

面会に来てから1時間が過ぎた時、ケーラがエンジェル隊の所へ来た。

「あれ、もう面会終わりですか?」

「もうちょっとぐらいヴァニラとお話したいのに……」

「ごめんなさい。でもまだヴァニラは重症だし、あまり長く起きるのは身体に良くないのよ」

確かにヴァニラは目が覚めたとはいえ、まだ重傷の身である。

「そうだね。早くヴァニラの元気な姿を見たいしね」

「それでは、ヴァニラ先輩。お大事に」

「あまり無理なさいませんように」

タクトとエンジェル隊はヴァニラに声を掛け医務室を後にした。

 

 

*

 

 

「みんなは、これからどうするんだ?」

医務室を出た後、タクトはエンジェル隊に質問した。

「私はティーラウンジでのんびりといたしますわ」

「アタシは部屋で銃のコレクションでも磨いてるよ」

言葉からは緊張感の感じられないミントとフォルテであったが、タクトはいつもどおりの2人にホッとしていた。

「ちとせはどうするんだい?」

「私は弓の稽古でもしてみます。

今までやってきたことを一から行なえば、本来の自分を引き出すことができると思いますから」

「なるほど……そうすれば」

「はい……もしかするとまた紋章機に乗れるようになるかもしれません」

自信を持った表情で答えるちとせ。

そこには先ほどまで落ち込んでいたちとせはもういなかった。

「ミルフィーはどうするんだい?」

「えっ!?」

フォルテの問いに慌てるミルフィーユ。

「何を驚いているだい、まったく。これからどうするのかってことさ」

「あ、あたしですか……あたしは、ちょっと部屋にいると思います。

それじゃあ、また」

曖昧な答え方をしながら、その場から立ち去るミルフィーユ。

その言動に不審な視線を浴びせていたエンジェル隊とタクトは、

「ヘンですわね……」

「ああ、いつものあの子らしくないね……」

「ミルフィー先輩、何かあったのでしょうか?」

「うーん……」

それぞれミルフィーユへの感想を口にする。

………………」

その中でミルフィーユの立ち去った方へ、無言で視線を向けているランファがいた。

 

 

*

 

 

ミルフィーユの部屋の前にたどり着いたタクトは、ドアの所にあるインターホンを鳴らして部屋の主を呼んだ。

「ミルフィー。タクトだけど、ちょっといいかい?」

 

・・・・・・・・・

 

返事がない。

 

「あれ、ミルフィーいないのか?」

何度もインターホンを鳴らすがやはり反応はなかった。

「いないのかなぁ……それなら何処に……」

タクトが部屋の前から離れようとしたとき、

……っ………ぅ……」

「うん?何か今……」

何か声のような音が聞こえたような気がした。

「一体何処から?」

音の発信源を突き止めようとしたタクトであったが、それはすぐに見つかった。

「もしかして、ミルフィーのところから聞こえてきたんじゃないか?」

先ほどドアの前に近づいたときにだけ、かすかではあるがはっきりと聞こえてきた。

タクトはドアの側へ聞き耳を立てると、

「っく……ううっ……ひっく」

確かにミルフィーユの部屋の中からすすり泣きのような声が聞こえた。

「ミルフィーどうしたんだい?何かあったのかい?」

タクトはインターホンを鳴らしながら少し大きめの声で呼んでみたが、ミルフィーユからはすすり泣きしか返ってこなかった。

不吉な予感がしたタクトは、ドアを叩きながら大声でミルフィーユを呼んだ。

「ミルフィー、何かあったのか!?返事をしてくれ、ミルフィー!」

ドアを叩きながら、ミルフィーユからの返事がない事で焦りが募るタクトであったが、

「ん?鍵が……」

ミルフィーユの部屋にドアロックがかかっていない事がわかると、

「しょうがないか……

ゴメン、ミルフィー。勝手に入らせてもらうよ。」

謝罪しながら部屋へと入っていった。

 

 

 

部屋の中へ入ったタクトを迎え入れたものは、

「な、何だこれは!?」

思わず絶句してしまう。

 

エルシオールの個人部屋の広さは、司令官室以外全て約12畳分の広さになっていた。

 

ミルフィーユの部屋は、ピンクを基調とした壁と床に覆われており、部屋中の所々にアクセサリーやぬいぐるみが置かれていた。

部屋に入って右端にはベッドが配置されておりシーツや枕もピンクで統一され、左側にはキッチンが備え付けられていた。

 

ミルフィーユの部屋は、17歳の少女にしては少し幼いくらいの趣味に統一されているようにしか見えないが、それも彼女の性格を見れば頷けるものがあった―――

 

だが、タクトが驚愕したのはそんなことではなかった……

 

原型を留めてはいるものの、あちこちに物が散らばっていた。

部屋の中をよく見渡すと、調理道具や食材が床や壁に散らばっていて、キッチンの方からは黒い煙や焦げ臭い空気が充満していた。

 

そして部屋の奥には、背を向けて力なく座りこんでいるミルフィーユの姿があった―――

 

 

「ミルフィー!?」

急いでミルフィーユの下へ駆けつけるタクト。

「おい大丈夫か!?何があったんだ!?」

タクトはミルフィーユの肩を掴みながら声をかけると、今気付いたかのような反応が返ってきた。

「タクト……さん?」

タクトは反応があったことに少しホッとすると、何気なく視線を下へ向けた。その時、

「ミ、ミルフィー!?その手……」

………………」

ミルフィーユの両手は、絆創膏だけでなく指と言わず全体に傷があり、その傷からまた新たな血が出ていた。

「いったいどうしたっていうんだ!?なんでこんな傷が?

 まさか――」

「タクトさん」

虚ろな目をしながらタクトに視線を向けるミルフィーユ。

「別に襲われたわけじゃないんです……ただ」

「ただ?」

「少しお料理がしたかっただけなんです」

言いながら寂しそうな表情をするミルフィーユ。

そんなミルフィーユに訝しげな視線を送るタクトは、疑問に思っていたことを口にしていた。

「じゃあ、何で泣いていたんだい?

 料理好きな、君が何でそんな悲しい顔をしているんだ?」

………………」

返事は無い。

そのまま顔を俯かせるミルフィーユに、タクトは不安がちに問いかける。

「ねえ、ミルフィー」

「笑わないで下さいね」

タクトの問いに顔を上げながら返事をするミルフィーユ。

その表情からは何の感情も読み取る事は出来なかった。

「な、何を笑うなんて……」

「タクトさん……あたし……」

ミルフィーユは一呼吸置くと、こう呟いた。

 

 

 

 

 

「もう……お料理が出来なくなってるんです……」

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

ミルフィーユの言葉にあっけに取られるタクト。

「えっと……、どういうこと、ミルフィー?」

もう一度問いかけるが、ミルフィーユは無言で立ち上がりキッチンの方へと歩き出していった。

「ミルフィー?」

困惑するタクトの問いかけにも答えず、包丁を手に取って食材を切ろうとするミルフィーユ。

タクトはそのまま料理でもするのかと思ったとき、

「痛っ!?」

ミルフィーユは小さく悲鳴を上げた。

「大丈夫かい、ミルフィー!?」

ミルフィーユの手元を見てみると、左人指し指に切り傷が出来ていた。

慌てて駆けつけたタクトであったが、ミルフィーユは何の反応もしなかった。

「大したケガじゃないな。早く治療を―――」

「いいんです……もう……」

「いいって何が?」

ミルフィーユの呟きに、怪訝な表情をするタクト。

「どうせもうダメなんです。いくらやっても……」

「もうダメって、少し指を切っただけじゃないか。これくらいなんとも―――」

「さっきもこうだったんです……いくらやっても同じ失敗を繰り返してばっかりで………」

ミルフィーユは医務室に来る前の出来事を語りだした―――

 

 

*

 

 

戦闘が終わりヴァニラの見舞いに行くことになり、ミルフィーユは部屋に戻って差し入れを作って持っていこうと思った。

そしていざ作ろうとしたときに、何か違和感を持った。

「あ、あれ、どうしたんだろう……確かここらへんに……」

作り始めようとしたミルフィーユであったが、以前と違う感覚に襲われていた。

「何か違うような……」

と言いつつも食材を漁りだすミルフィーユであったが、ミルフィーは異変に気付いた。

「あたし……何作るんだろ?」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「あたしは、何でもいいから作ろうと思って、サンドイッチを作ろうとしたんですけど……」

「したんだけど?」

話の続きを促すタクト。

「何回も指を切っちゃったり、なかなか食材が切れなかったり、火を使ったとき焦がしちゃったり、散らかしちゃったり……」

「なんだ。そんなの調子が悪かっただけじゃないか」

「それだけじゃないんです……他のお料理でも作ろうとしたとき、

作り方自体思い出せなくなってるんです……」

「えっ……」

一瞬あっけにとられるタクトだったが、気を取り直すと疑問を口にした。

「それってどういうことなんだ?」

「あたしもよくわからないんです……前まではきちんと作れてたはずなのに、レシピや感覚が思い出せないんです」

「何だって!?それってまさか!?」

ミルフィーユの言葉に、思い当たる節があるタクトは過敏に反応した。

 

紋章機に乗れなくなったちとせも、同じような症状を持っているからだ。

(ちとせに続いて、ミルフィーまで……)

そう思ったタクトであるが、ミルフィーユをこれ以上混乱させないために口には出さなかった。

「医務室から帰った時も、思い出そうとして作ろうとしたんです。

 でも、また同じ事を繰り返して……」

タクトが一瞬考え込んでいた間も、ミルフィーユは俯きながら独白を続けていた。

あまりにも無表情なミルフィーユに、思わず不安を抱いたタクトは慌ててフォローを入れた。

「ミルフィーそんなに落ち込むことはないよ。別に病気と言うわけじゃないんだからさ。」

「でも……」

「もし料理が出来ないからって、命に係わるってワケじゃないんだ。誰も気にしないよ。別にいいじゃないか。」

その言葉はタクトの本心であった。

 

このときはあくまでも励まそうとしただけで、他意は無かった。

ロストテクノロジーの影響によって、ちとせのように不安に感じてしまうような症状でなかっただけに、少なからずホッとしてしまったのだろう。

 

 

 

 

 

そうこの時までは………

 

 

 

 

 

「そうなんですか……」

「えっ?」

顔を上げ、感情を押し殺したような暗い声を出すミルフィーユ。

その声に驚愕しながら、もう一度尋ねたタクト。

「あたしはもうお料理ができなくなってもいいんですか?」

先ほどよりもはっきりとした口調だったが、うつろな表情で問いかけるミルフィーユ。

そんなミルフィーに気圧されながらも、タクトは毅然とした表情で答えようとした。

「ああ、別にミルフィーはミルフィーなんだ。そんなに気にすること……」

……ゃ…す……」

聴き取れないような声でミルフィーユが呟く。

「ミルフィー?」

「いやです!お料理が出来なくなっちゃうなんてイヤです!」

「ミ、ミルフィー!?」

突然絶叫するミルフィーユに驚愕するタクト。

いつものミルフィーユからは考えられない剣幕で言葉を放つ。

「別に料理ができなくなってもいい?命に係わる問題じゃない?随分簡単に言うんですね!それはタクトさんや他の人たちにはわからないかもしれませんけど、あたしにとってお料理は大切なことなんです!あたしが生きてこられたのも、お料理が出来たからなんです!他にとりえのないあたしにとってお料理はたった一つのとりえなんです!」

「ミルフィー!」

このまま激情にまかせて、何を言うか分からないと判断したタクトは、一気にまくし立てようとするミルフィーユを止めに入る。

「君は本当にそう思っているのか!?本当に自分をそんな価値しかない人間だと思っているのか!?」

「だって……」

「オレやエンジェル隊のみんなが、料理が出来なくなったくらいでミルフィーを見放すような人間とでも思っているのか!?」

「そんなこと思ってません!」

「だったらどうして!?」

「タクトさんにはわからないんですよ!あたしにとってお料理が出来ることは、何よりも大事なことなんですからっ!」

叫びながらミルフィーユは部屋から飛び出していった。

「待ってくれ、ミルフィー!」

タクトは追いかけようとしたが、躊躇ってしまう。

たとえ追いついたとしても、何を言ったら良いのかわからないのでは、行く意味が無い。

そして何よりも、

 

今のミルフィーを説得する自信がない―――

 

タクトは無力感を味わいながら、ミルフィーユの部屋を後にする―――