「ダメです!応答ありません!」

「何やってるんだ、あのバカは!!」

ブリッジでアルモからの報告を受けたレスターは悪態をついていた。

先ほどからタクトへ通信を行なっていたが、全く応答しないためにレスターは苛立っていた。

「こうなったら艦内放送を使って呼び出せ!

全乗組員にタクトを発見次第、ブリッジへ連れて来るよう通信を行なえ!

くそっ、エンジンが爆発したという一大事に、こんなに対応が遅れるとは………」

それも仕方が無いのかもしれない。

なぜなら第2、第3エンジンが爆発したことで、エルシオールのエネルギー系統に影響を及ぼしているため、ブリッジに来るエネルギーが自動的に制限され、満足に通信が行なえない状態であった。

 

メインエンジンはまだ機能しているが、爆発が連鎖して破損する可能性は無くもない。

 

―――そうなればエルシオールは終わりだ……

 

「副司令、レーダーがまだ機能しません! これでは艦内の状況を把握することは不可能です!」

「慌てるな! 他の作業を止めてレーダーにエネルギーをまわせ!

だが、エンジンが修復されるまでエネルギーの使用は極力避けろ!」

ココに指示を出したのと同時にブリッジに通信が入った。

「副司令、クロミエさんから通信です!」

「クロミエだと!?一体何のようだ?」

モニターには、通信相手のクロミエが映っていた。

しかしその表情は何か良くないことでも起きたかのように冴えない。

「副司令、ちょっとよろしいですか?」

「何だ? 何かあったのか?」

せわしなく返事をするレスターであったが、次のクロミエの一言によって意識を向けざるを得なくなった。

「宇宙クジラが機関室から思念波を感じたそうです。」

「思念波? 機関室からだと?」

「ええ……、

 そこにタクトさんが向かわれているのですが……」

クロミエは一度言葉を切ると、真剣な表情で答えた。

「問題は、タクトさんの思念波が途中で感じられなくなったそうです……」

「何だと!? 一体どういうことだ!?」

予想外の答えに驚愕するレスター。

「うまくは言えないのですが、タクトさんはまるで機関室から発せられる思念波に操られるように向かっているみたいです」

「操られているだと!?」

レスターは思いがけない事態に混乱してしまったが、不意に思い立った考えにハッとなった。

 

エンジェル隊が襲われた一連の事件から間もない頃に、機関室で起こった謎の爆発。

それらを踏まえてタクトに連絡が取れないことは、偶然にしては出来すぎのような気がしていた。

 

だが、クロミエの通信によって、もはやそれは偶然ではないという予感がした。

確信を得るために、レスターは副司令官席から立ち上がり、モニターにかじり付くようにしてクロミエに質問をした。

「クロミエ、一つ教えてほしい事がある。

機関室から思念波を出している奴の正体はわかるか!?」

クロミエは宇宙クジラに訊いてみているのか、顎に手を当て考えるそぶりを見せると、困惑した表情を浮かべた。

「宇宙クジラが言うには、この艦のクルーでは無いようですが――」

この答えによってレスターの中である仮説が生まれた。

 

 

 

レスターは腕を組みながら、今まで考えたことをまとめようとした。

 

 

今回、謎の白い球体であるロストテクノロジーの調査から始まったこの一件は、謎の白い球体のロストテクノロジー、突然出現した不審人物によって起こった出来事であった。

主に被害を受けたのは現時点でわかっているのはエンジェル隊だけであり、ヴァニラ、ちとせの両名は戦線離脱に追い込まれた。

その後、白い球体と不審人物の行方はわからなくなったが、機関室で起こった爆発によりレスターはあることに気付いた。

 

 

まず、機関室による爆発の原因は―――

 

(あの不審人物の仕業だろう)

 

 

レスターはこの艦にいる乗組員の中で、機関室を襲うなどという大それたことを考える者はいないと推測した。その考察は今までの一連の事件から、まず間違ってはいないと思っている。

 

 

エンジェル隊を襲撃したのは艦の戦闘力を激減させることであり、特にヴァニラを戦闘不能に追いやったのは彼女が唯一のナノマシン使い―――つまり回復が出来なくなれば機関室に被害が出ても修復は遅れがちになるだろう。

 

 

(自由に動き回るには、エンジェル隊を足止めすれば1番効率がいいということか?)

 

ではなぜ犯人はレーダーに映らなかったのか?

レーダーに映る前に乗組員と遭遇することはなかったのだろうか?

(そういえば不審人物は乗組員に変装していると言ったな。それならば大抵のやつには誤魔化しきれるだろうが……)

 

エルシオール艦内は元々ブリッジによって管理されており、監視カメラやサーモグラフィーのレーダーをあちこちに配置されている。

だが、24時間体制で見張っているといっても管理するのが人間であれば限界が来る。例えカメラやサーモグラフィーにわずかに反応してもそれを身落とすことがあるだろう。

 

(ここまで長い時間、正体を隠し続けたのは大したものだが……。巧妙な仕掛けでも限界はあるということか)

レスターはわずかに口の端を上げる。

 

もう1つの謎はこの一連の事件を起こしたものの正体である。

監視カメラの映像、クルーの証言、被害状況を照らし合わせると、艦内を動き回っていたという点を取っても、白い球体と不審人物の今までの行動が一致しているのである。

 

そして極めつけは、ミントのブリッジでの証言―――

 

―――私が不審な人物に質問をすると、今回のロストテクノロジーと同じ特徴が見受けられたのです。光と騒音を発しながら、襲い掛かるといった点は全く同じですわ……

 

つまり―――

(不審人物は、あの謎のロストテクノロジーが変化したものなのか!?)

 

最後はタクトの謎の行動である。

何によって操られているのかはわからないが、とにかく今のタクトに意志は感じられないとクロミエは言っていた。宇宙クジラの見立てならば間違いはないだろう。

 

(ということは犯人の目的はタクトか!?)

ハッとなって顔を上げるが、

……いや、何かが違う)

浮かび上がった答えを心の中で取り消し、また顔を伏せてしまった。

 

犯人の目的がタクトであれば、エンジェル隊を襲う必要はないとレスターは思った。

なぜならタクトがブリッジにいることはどちらかというと少なく、普段なら艦内を1人でうろついていることが多いからだ。それならばタクトだけを襲えば効率がよほどいい筈だ。

(考えろ……犯人の真の狙いを……)

焦りを募らせるレスターであったが、ふとデスクを見渡すと、側に置いてあった艦内地図が目に入った。

しばらく機関室の位置を見ていたが、突然頭の中で何かひらめくようにしてある事を思い出した。

それは機関室には、エルシオールがトラブルによって、ブリッジからでも制御不能な状態になった場合、緊急の時のみ奥にある制御室によって管理が出来る部屋があるのだ。しかしそこは、この艦の司令官のみの権限によって入ることが出来るのである。

 

 

―――ということは!)

タクトを機関室へ誘き寄せているのは、制御室を開けるためだとすれば―――

 

 

 

―――犯人はエルシオールの掌握する気か!

 

 

 

今まで解けることのなかったパズルが、ようやく全貌を現し始めた……

 

 

 

早くこの事実をタクトたちに伝えなければ―――!

 

「っ!?こうしている場合じゃない!

アルモ、整備班とエンジェル隊に至急機関室へ行くよう連絡しろ!」

クロミエとの通信を終え、不吉な予感を抱いたレスターは全体を見回しながらアルモに指示を行った。

 

それに従ったアルモが通信回線を開いた瞬間―――

 

 

 

 

 

フッ―――

 

 

艦全体の照明が消灯し、暗闇が辺りを支配する―――

「レーダー、起動できません!」

「通信も同じく使用不可能です!」

「エネルギーがブリッジまで回らなくなったか……」

次々報告される内容にレスターは焦燥感に襲われたが、すぐに気を取り直した。

「非常用のエネルギー装置を使え!だが、作業はエンジンの修復が終わるまで自粛しろ!」

(どうもイヤな予感がする………早く戻ってこいタクト!)

タクトがブリッジ不在の今、艦内の指揮を取れるのは自分しか居ない。

そう思いながらレスターはブリッジに留まっていた。

 

 

 

 

 

だが既に始まろうとしていた―――

 

 

 

悲劇という名の現実が、着実に歩を進めながら―――

 

 

 

 

時同じくしてエンジェル隊は、ヴァニラを除いて全員Dブロックの倉庫の入り口に集結していた。

敵襲ではない事に気付いたミルフィーユが格納庫から戻ってきたのと同時に、爆発音と衝撃とともに艦内全体の照明が消えてしまった。

「どうしたっていうんだい?いきなり暗くなるなんてさ」

突然の出来事に戸惑いを隠せないフォルテ。

だが、それはフォルテだけでなく他のエンジェル隊も同じであった。

「副司令がタクトさんを急いでブリッジに連れてくるように言われたことと、何か関係があるような気がしますわ……」

ミントは、現在の状況とレスターの報告を照らし合わせ、淡々と述べたがやや緊張した面持ちであった。

 

その時廊下の奥で、ゆっくりと歩いている人影があった。

「あれ?今、あそこにいるのってタクトじゃない?」

艦内の照明が消え、唯一照明が起動している機関室付近―――

いち早く人影の正体に気付いたランファの指摘に、全員が奥に視線を向けた。

 

エンジェル隊はすぐにタクトを呼び止めようとしたが、

マントを揺らし、夢遊病のようなおぼつかない足取りを見て、思わず声をかけるのを躊躇ってしまった。

「タクトさん?何でこんなところに来たんだろう?」

タクトの行動に首を傾げるミルフィーユ。

「確かに変ですわね。あの動き方といい、現在の状況といい……」

普段の胸を張って、堂々としたタクトの歩き方と違うことに気が付いたミントは、不審な顔付きをしていた。

だがこんな時、本来ブリッジで指揮を取っているはずのタクトが、なぜDブロックにいるのか不思議に感じるのも無理はなかった。

………………」

不審に思ったフォルテは無言で機関室の方角へ視線を向けていた。

「あら?フォルテさん、どうなさったんですの?」

ミントは突然歩き出したフォルテを呼び止める。

「決まってるじゃないか、後を追うのさ。いきなり艦が揺れ動いたり、真っ暗になって、オマケにここにタクトが来ている……。変に思ってもおかしくはないだろう?」

フォルテの言葉にエンジェル隊は一斉に頷く。

「それに……、どうも妙な予感がするんだ。機関室に何かあるような気がして……」

そして呼吸を整えると真顔で言い切った。

「それを確かめないことには、このままタクトを連れ戻しても真相はわからずに終わっちまう。そうなりゃ後悔どころじゃ済まないような気がするんだよ――」

フォルテが言い終える直前、

「っ」

一瞬、ちとせがわずかに身を震わせた。

何処からか一瞬殺気を感じたちとせは周りを見渡したが、それらしきものは感じなくなった。

「どうなさいましたか、ちとせさん?」

ちとせの様子を横目で伺ったミントは小さな声で訊いた。

「い、いえ、少し寒気を感じたもので………」

「やはりまだ体調が優れないのではないですか?無理なさらずに休まれた方が――」

「いえ、もう大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」

その言葉とは裏腹に顔色は優れないままであった。

エンジェル隊がDブロックに集結する前、ちとせは医務室に居たが、体調は良くならなかった。

ちとせの顔色を見た他のエンジェル隊は口々に安静するよう催促するが、真面目なちとせの性格上遠慮するのは目に見えていたため、エンジェル隊も多くは言わなかった。

だが、本当はまたあの夢を見てしまうかもしれないという危惧が、ちとせを突き動す要因であった。

 

集結した時のちとせとのやり取りを思い出したミントは、嘆息しながらもそれ以上何も言うことはなかった。

「それじゃあ、タクトを捕まえる前に後を追うとするかね」

そのフォルテの呟きに同調するかのように、エンジェル隊は後について行った。

だが、その後ろでちとせは暗い表情を浮かべていた。

(機関室で、何かが私を呼んでいるような気がする……)

一抹の不安を抱えながら、ちとせは機関室へ向かった……

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

エルシオールの心臓部を担う機関室。

そこは天井に向かって密着している円柱型のエンジンが、広い空間を埋め尽くすようにして立ち並んでいる。エンジンの中には縦型にして流れるエネルギーの光が確認できる。

 

その機関室の中心にある一際巨大なエンジンの前に佇む1つの人影があった。

 

 

そして機関室の自動扉の方角から、その人影に近づくタクトの姿があった……

 

 

 

 

 

その人影の前に立つ。

…………」

タクトはまだ虚ろな目をしていた。

……フン」

その人影はタクトを目の前にして、つまらなそうに鼻を鳴らした。

「いくらロストテクノロジーの能力とはいえ―――」

こうも簡単に操られるとは―――

人影は長い髪をかき上げながら呟いた。

…………」

タクトからの反応はない。

 

「それにしても……

なぜこんな男によって、あの方が滅びなければならなかったのか……」

人影のタクトを見る眼はだんだんと怒りを帯びていく。

が、すぐに相好を崩すと、

「まあいい。これで私の復讐は果たせるのだから……」

呟きながら左手を上げる。

そこには何時出したのか拳銃が握られていた。

「さあ、タクト・マイヤーズ」

人影はタクトの頭部に銃口を向けた。

「恨むのならば、あの方を死に追いやった自分を恨むことね……」

そして引き金に指を掛けると、

 

 

 

 

 

ドン!!!

 

 

 

 

 

 

 

躊躇いも無く引き金を引いた。

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

 

銃弾はタクトの頭を反れ、奥の柱に当たっていた………

 

「出てきなさい、大きなネズミさんたち」

人影はタクトから銃口を反らし、奥にある柱に向かって叫んだ。

 

すると―――

「やれやれ気付かれちまったかい―――」

そう呟きながら柱の隅から出てきたのは、

「タクトさん!ご無事ですか!?」

フォルテとちとせの2人であった。

 

「待っていたわよ、ムーンエンジェル隊」

フォルテとちとせからは、タクトの身体によって隠れている人影の顔は確認できないが、声と口調から『女』であることがわかった。

「いつから気付いていたんだい?」

フォルテは相手の様子を伺いながら拳銃を構える。

「そうね……、この男が来てからすぐってトコかしら」

問いかけをはぐらかすようにして『女』は含み笑いを漏らす。

「それよりもタクトさんをどうしたのですか!?」

本来、冷静なちとせからは考えられない剣幕で『女』に問い詰める。

「今のところ何もしてはいないわ……今のところはね。」

ちとせの剣幕にも動じず、涼しげな口調で『女』はタクトの頭部に銃口を押しつける。

「タクトさんから離れなさい!この不礼者!」

「ちとせ落ち着きな!」

フォルテは興奮状態に入っているちとせを落ち着かせるために一喝したが、

「あらあら、そんなにこの坊やが大事?お熱いことね、お嬢さん」

そのやりとりを見ていた『女』はあざ笑いながら挑発する。

「っ!この!」

その言葉に煽動され持っていたレーザーガンを相手に向けるが、再びフォルテに止められる。

「ちとせ、いいから落ち着きな!タクトが向こうにいるんだよ!?」

「フォルテ先輩!でも……」

ちとせは拳銃を下ろしながらフォルテの方へと振り向く。

「どうしたっていうんだい、アンタらしくもない」

…………」

フォルテは戸惑いながらも言い聞かせようとするが、ちとせからの返答は無かった。

 

 

 

ちとせは機関室に入った時から、不吉な予感がつきまとっていた。

タクトの無事な姿を確認して少しは安堵したものの、傍らにいる人影を見て、その不安はピークに達した。

(あれは………間違いなく関わってはいけないもの!)

ちとせの思考から冷静さが消え、恐怖と不安に押しつぶされながらも、何とか自我を保っていられるのは、フォルテが傍についていたのが大きな要因となっていた。

 

 

 

「まあ、今はそんなことよりも……」

フォルテはちとせから視線を外し、タクトの後ろにいる『女』を見据える。

「アンタのほうが重要だ」

そして牽制する様に銃を構え直す。

フォルテの言葉に、『女』はフン、と鼻で笑う。

「そうかしら?貴女の思い違いではないの?」

「すっとぼけんじゃないよ。

今回の一連の事件、アンタの仕業なのかい?」

「さあ?どうかしらね……」

余裕の構えを崩さない『女』。

その様子を見ていたちとせは拳を握り締めるが、フォルテに視線で窘められた。

「オイオイ、タクトに銃突きつけておきながら、はぐらかすつもりかい?」

やれやれといった感じで首を振るフォルテ。

「アンタのようなやつがここにいる時点でヘンじゃないか。普通の人間が宇宙空間からこの艦に入ることなんて不可能に決まってるだろう」

「本当にそうかしら? この艦が航行している間は不可能だけど、停止している時ならばいくらでも潜入することは可能だわ」

小馬鹿したような口調で答える『女』。

だが、フォルテはあくまでも冷静であった。

「なるほど、潜入したことは認めてるワケだ……」

納得したように頷くフォルテ。

しかし表情を引き締めると睨みつけながら言う。

「だけど、エンジェル隊だけを狙ったのは感心しないね……」

そしていったん言葉を切ると、相手をしっかりと見据えながら言い放った。

 

 

 

「納得のいく理由を聞かせてもらおうじゃないか………

 

 

―――エオニア軍の残党どの」

 

 

 

 

わずかに動く気配。

それは傍らにいるちとせからではなく、『女』によるものだとフォルテは確信した。

「フォルテ先輩、なぜエオニア軍の残党だということがわかったんですか?」

今まで2人のやりとりを見ていたちとせが、フォルテに疑問を投げかける。

「カマをかけただけさ。アタシたちの任務に残党処理も含まれていたから、もしやと思ったけど……当たっちまったみたいだね」

フォルテの洞察力に舌を巻くちとせ。

同時に今まで身体の中を覆っていた不安が取り除かれた気がした。

 

『女』は沈黙しつつも、すぐに気を取り直したのか、

「フフッ」

静かに笑い声を漏らした。

「流石はエンジェル隊のリーダー、フォルテ・シュトーレンという所かしら」

「えっ」

『女』の言葉に驚きの声を上げるちとせであるが、フォルテはわずかに眉を動かしただけであった。

「よく知ってるねぇ。アタシのファンなのかい?」

「ちょ、ちょっと、フォルテ先輩!?」

フォルテのあまりの場違いな物言いに思わず窘めるちとせ。

先ほどまでの2人の立場とは、まったく逆になってしまった。

「まあ、忘れられるものでないことは確かね」

フォルテとちとせのやり取りにも動揺することなく、『女』は笑いながら答えた。

「貴女の搭乗する『ハッピートリガー』には手を焼かされたものだわ――」

「っ!?な、なぜ紋章機の事を……」

『女』の言葉に驚愕するちとせであるが、

「手を焼かされた?」

フォルテはその言い方に違和感を持った。

疑問に思ったフォルテは『女』に問いかける。

「紋章機のことといい、その言い種といい……

アンタは一体何者なんだい?」

『女』は鼻で笑うと、

「さあ……貴女の記憶力が悪くなければ、確認した方が早いと思うわよ」

そう言ってタクトの後ろから顔を出した。

 

陰になるものが無くなり、出てきた『女』の顔は―――

 

 

「なっ!?」

「え?」

 

フォルテほどではないが、女性にしては高い背丈―――

 

紫がかった真っ直ぐな銀髪―――

 

切れ目がちの女性ではあったが―――

 

「アンタは……」

 

 

普通の女性には決してあるとは思えない、左頬にある大きな傷………

 

 

 

 

その傷のある女性に、フォルテは嫌というほど見覚えがあった。

 

 

 

「お久しぶりね、フォルテ・シュトーレン」

 

 

「ああ………本当に久しぶりだね

 

 

 

――――シェリー・ブリストル」