「ゲホッ…ナイスタイミング、ランファ」

咳き込みながら親指を立てるフォルテ。

ランファが近づいていることを知っていた彼女は、自ら囮役になっていたのだった。

「フォ、フォルテ先輩!大丈夫ですか!?」

ちとせは焦燥と不安が入り混じった表情で、後方からフォルテの下へと駆けつける。

「ゲホッ……なんとか無事みたいだよ」

途中咳き込みながらも、ちとせに笑いかけるフォルテ。

「大丈夫ですか!? フォルテさん、ちとせ、タクトさん!」

「ミルフィー!?」

「ミルフィー先輩!」

「痛ってて……。な、何が起こったんだ……?」

そこへ前方の物陰からミルフィーユも駆けつけてきた。

「あんたも来てくれたのかい」

「はい。先ほどからランファと一緒に近くの物陰に隠れてたんですけど、急いで駆けつけて来ました!」

「本当に助かりました!もしあの時助けがなかったら、私はどうしたらいいかと………」

……なあ、みんな一体何があったんだ?」

 

「「………………」」

その時、フォルテとちとせの声が止まった。

 

「タクトさん!よかったぁ、気が付いたんですね!」

「ああ、ミルフィー………オレは一体どうし―――」

「ちょっと待ちな」

ミルフィーユとタクトの会話を遮り、フォルテが間に入った。

「どうしたんだい、フォルテ?」

フォルテとちとせは声が聞こえた方向へ視線を向けると、

 

そこには仰向けの状態から上半身を起き上がらせ、

キョトンとした顔をしている黒髪の青年がこちらを見つめていた。

 

「タクト……」

「タクトさん……、気が付かれたのですね」

フォルテとちとせは、ようやくタクトが元に戻ったことに気が付いた。

「気が付いたって、オレは一体………」

タクトは状況を確認しようとした瞬間―――

 

 

ごんっ

 

 

「あだっ!?」

いつの間にか近くにいたランファの鉄拳が、タクトの頭に炸裂していた。

「ア・ン・タってやつは〜!!どこまで人様に迷惑かけるつもりよ!?呑気に人質になってるんじゃないわよ!」

ランファの怒りは収まらず、タクトのこめかみに両拳を押し付けていた。

「痛でででででっ! ランファ、タンマタンマ! 頭が割れる割れる!! 割れるって!!!」

「いっそのこと割れちゃいなさい!いっぺん死んで、もっと優秀になってきなさい!」

「ランファ先輩……そんな無茶な………」

緊迫した状況から一転、

メインエンジンの近くでは、騒然とした場違いな雰囲気が展開されていた―――

 

 

 

 

 

だがそれも一瞬―――

「最期の再会は終わったかしら」

機関室に死刑宣告が響き渡ると、一瞬にして緊迫した雰囲気が舞い戻った―――

 

タクトたちは声の方向へ振り向くと、

飛ばされた場所でシェリーが平然としながら直立していた―――

 

 

 

*

 

 

 

「へぇ………、あの一撃を喰らって立ち上がれるなんて………」

ランファはシェリーの平然とした様子に驚愕しつつも、いつでも相手の行動が予測できるよう身構えた。

「当然よ。 確かに効いたけれど、予測できない行動ではなかったわ」

「フンッ、強がっちゃって。それでも余裕のつもり?」

ダメージが無いことを示すかのような表情のシェリーに、髪をかき上げながら憎まれ口を叩くランファ。

「えっ!? あ、あそこに居るのって、まさか!?」

「そ、それよりも、何でシェリーさんがここに!? 確かあの時に死んだハズじゃ―――」

「タクト、その話は後にするよ………。それよりもまず―――」

状況が飲み込めないタクトの言葉を遮ると、フォルテは視線を前に向けた。

「あんたはいったんブリッジに戻りな、ここはアタシたちが押さえておくよ。

ミルフィー、ちとせ。タクトを守ってブリッジまで連れて行っておくれ」

「はい、分かりました!」

「了解しました!

さあ行きましょう、タクトさん!」

フォルテの言葉に頷き、タクトを連れて駆け出すミルフィーユとちとせ。

「ちょ、ちょっとみんな待ってくれ!なんだか分からないけれど、イヤな予感がするんだ!ここに残ったら―――」

「いいからさっさと機関室から出て行きなさい!ここはアタシたちに任せとけって言ってるでしょ!」

タクトの言葉を遮り、振り向かずに叫ぶランファ。

その後もタクトは何か叫んでいたようだが、やがてその声も小さくなっていく―――

 

 

 

 

 

「さてと………、覚悟は出来たかしら?」

タクトたちが離れて行ったのを物音で確認したランファは、今まで注視していたシェリーを睨みつけると、ゆっくりと前へと歩き出す。

「小細工の正体はまだ分からないけど、アタシたち相手にそう簡単に引っかけられるとは思わないことだね」

フォルテは先ほど捨てた銃を拾って、相手へ銃口を向けると、シェリーの下まで近づこうとした。

「警戒している暇があるのかしら?」

「なんのことだい?」

だが、シェリーは余裕の構えを崩さない。

「そんなにゆっくりと攻めていたら、この艦に大変なことが起きるわよ」

「へぇ、そうなんですか、フォルテさん?」

フォルテのほうへ視線を向けるランファ。

「いや、ぜんぜん分からないね」

さあ? といった感じで肩をすくめるフォルテ。

2人の言動に訝しむが、シェリーは気を取り直して告げる。

……それならば死ぬ前に1つ教えてあげるわ」

シェリーは呼吸を整えると、改めて2人を睨みつける。

「つい先ほどまで、この機関室ある全てのエンジンに時限爆弾を仕掛けさせてもらったわ。早くしないと10分もしないうちに、この艦は終わりになるわよ」

勝ち誇った笑みを浮かべて髪をかき上げるシェリーは、これでこの者たちが動揺すると思っていた―――

 

 

―――

 

 

「それはどうでしょう?」

妙齢の少女―――というにはやや幼い声が辺りに響き渡った―――

 

「誰!?」

シェリーは声が聞こえた方へ振り向き、誰何するも、

 

 

ドンッ!!

 

 

「ぐっ!?」

向けていた銃がバキィッと重い音を立てて崩れていく―――

 

「おいおい、相手が誰だかぐらい確認してからでもいいんじゃないかい?」

あーあ、あたしのコレクションが……、と呟きながらフォルテは銃を下ろした。

衝撃にシェリーが手を押さえて蹲っている間、横の方角から2人の少女が駆け寄ってきた。

「助かりましたわ、フォルテさん」

「なーに。そっちこそ解体処理ご苦労さん」

パンッとタッチを交し合うフォルテと声の主―――ミント・ブラマンシュ。

「無事、終了しました……」

その後ろにはヴァニラ・Hが佇んでいた。

「ヴァニラ、ご苦労様」

微笑みながら労いの言葉をかけるランファ。

ヴァニラは無表情で返事をする。

「何故その2人が……」

シェリーは左手を押さえながら、何が起こったのか、何故彼女たちが居るのかを把握できないようである。

「こういうことさ」

その様子を見たフォルテは答えにならない答えをする。

案の定、シェリーは怪訝な表情で返した。

「計算が狂っちまって理解力が落ちたのかい? つまり時間稼ぎをしてたのはあんたじゃなく――」

フォルテは青い髪の少女に視線を向けると、話の続きを促す。

「私たちのほうだったのです」

申し訳ありません、とミントは顎に人指し指を当てて微笑む。

シェリーはまだ混乱していたが、概要はこうであった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

―――この作戦を立てるきっかけとなったのは、ヴァニラが持っていた資料であった。

 

機関室へ向かう少し前、エンジェル隊は廊下を歩いているライトグリーンの後ろ姿を発見し、もしやと思い近づいてみると、それは紛れもなく封筒を抱え込んでいたヴァニラであった。

彼女が持っていた資料は現在の状況を記述したものであり、これを見たフォルテが今回の作戦を思いついたきっかけとなる。

 

タクトの身に危険が迫った場合、ミルフィーユとランファ、フォルテとちとせのペアで接近し、その間ミントとヴァニラは仕掛けられていると思われる時限爆弾の解体を担当するという役割分担がその時決定された―――

 

 

*

 

 

 

「あんたがタクトを人質に取ったとき、まさかとは思ったけど――」

こんなに上手くいくとはねぇ…、とフォルテは感慨を持って呟いた。

自分の作戦が予想以上の結果をもたらした事に、満足のいった表情であった。

「成る程、つまり時間稼ぎをするために―――」

「アタシたち自身が囮になったとも言えるわね」

ランファの言葉に合点がいったのか―――

シェリーはゆっくり立ち上がると、

「恐れ入ったわ―――」

まだ余裕があるのか僅かに微笑んでみせた。

2人の行動を悟らせないために、私を引き付けておく必要があった……

もし邪魔が入り解体作業が失敗した場合、エンジンごと大破は免れないでしょ―――」

エンジェル隊の目の前で淡々と語っていたシェリーであったが、

突然、

 

―――爆弾?」

 

すぅっと憑き物が落ちたように彼女は無表情となった。

 

「何があったのでしょうか………?」

「解らないけど、何か様子がおかしい。みんな注意しときな」

ひそひそと小声で様子を伺うエンジェル隊だが、シェリーは立ち尽くしたまま身を震わせていた。

 

その異様な光景に不気味さを感じるエンジェル隊―――

 

耐え切れず行動を起こそうとした矢先―――

 

「爆弾………」

沈黙はシェリー自身によって破られた―――

 

「そんなものを………私は何時手に入れたの?」

俯いているせいか表情は読めない。

しかし、その声は何故か震えているように聴こえた。

「一体何を仰っておられますの?」

1人で喋りだすシェリーに耐えかねたミントが問いかけるも、ブツブツと呟き続ける相手の耳には入らない………

「何とか答えたらどうなの!?」

痺れを切らしたランファは、シェリーに掴みかかろうとした、

その時―――

「そんなバカな!」

突然の大音響にビクッと身を震わすエンジェル隊。

急に叫び声を上げたシェリーに、ランファは思わず足を止めてしまう。

 

そんなエンジェル隊を尻目に、シェリー本人はまるで何かを否定するように首を振っていた。

「何時仕掛けた? 何時使用した? そもそも計画とは何のことなのよ!?」

全身全霊を尽くす魂の叫び―――

誰に対し訴えているのか、目の焦点が合わないまま、何かにとり憑かれたようにシェリーは辺りへ喚き散らす―――

 

そんな彼女の異様さに思わず口を閉ざすエンジェル隊。

 

一際叫んだあと、呼吸を荒げながら押し黙るも、

……そういうことね」

何かを悟ったような口調で天を仰ぐ。

 

「何がそういうことなんだい?

勝手に叫ばれて、勝手に納得されちゃ困るんだよ」

フォルテは呆れた表情で肩をすくめる。

だがその言葉はシェリーの耳に入ってはいなかった………

「私は操っていたのではなくて、操られていた側の方………」

意味深な言葉。

その言葉に反応したミントは、耳をぴくっと動かし反射的にテレパスを開始させた。

「所詮この身はまがいもの………意思すらコントロール出来ることも解っているつもりだわ………

でも……」

ゆっくりと振り向くその表情―――

その眼は獲物を発見した猛禽類のようであった―――

「あの方を破滅に追いやった人間に操られるのならばまだしも、道化風情に操られるのは屈辱以外何物でもないわ」

それならば、と呟き姿勢を低める。

同時にテレパスを行っていたミントはハッとなった。

 

 

―――私は私なりのやり方でこの者たちを始末する!」

「皆さん、回避して―――!」

 

 

シェリーとミントの叫びと同時に、凄まじい速度で4人の間を何かが通過した―――

 

 

ドゴォォォン!!!

 

 

ガラガラと何かが崩れた音が鳴り響く―――

 

音の方角―――後ろへ振り向くとそこには―――

 

 

エンジンをかすめ、右腕を埋らせながらも、

巨大重機のように壁を破壊した銀髪の女性の姿があった―――

 

 

「フン、何があったかは知らないけど………」

身体を起き上がらせ、構えの体勢を取るランファ。

「とりあえずやるっきゃないようだねぇ」

同じくフォルテの銃を構えなおす。

ミントは一瞬ヴァニラに視線を向け、

「それでは、私は―――」

ランファとフォルテにアイコンタクトを送り、2人が無言で頷き返すと、

「ヴァニラさん、ここから避難致しますわよ!」

「あっ……」

ミントはヴァニラの手を取り、この場から離れた。

 

「あ、あのミントさん、私はまだ―――」

「いいえ、これは約束事ですので異論は後でお受け致します!」

………………」

ミントの言葉に、ヴァニラは俯きながら口を閉ざす―――

 

 

―――医務室に居た時、レスターから現在の状況を資料で知らされ、それをベッドの上で確認したヴァニラは自分なりにまとめ上げた現状打開の案をブリッジへ報告に行こうとしていた。

 

しかし、重傷の身である自分が1人で歩くことは危険極まりないことでもある………

 

だがヴァニラには、重傷の身であるからこそ、自分に出来ることをやっておきたいという願望があった。

その気迫に押されたのは医師のケーラだけでなく、エンジェル隊にも言えることであり、無理をしないという前提で許可することとなった―――

 

 

 

「逃げられると思っているのかしら?」

ぼそっと―――

感情の無い一言がランファとフォルテの耳に響き渡る。

その時、銅像のようにピクリとも動きを見せなかったシェリーは、鼻を鳴らすと静かな声を上げた。

 

 

がらがらとコンクリートの欠片が崩れ落ちる―――

 

 

 

「邪魔する気かい?」

フォルテがそう問いかけ、声の方向へ視線を向けた瞬間――

 

「なっ――」

その場に敵の姿は無かった。

何処に行った!?

そのような言葉を放つ暇もなく―――

 

バキィッ!!

 

「がっ!」

顔面に衝撃が走った―――

 

蹴られた―――!? 

そう気付いた時には既に、フォルテは近くのエンジンまで弾き飛ばされていた―――

 

「フォルテさん!?」

ランファが慌てて駆け寄ろうとするも、突然横から銀色の人影が姿を現す。

咄嗟の出来事ながら、上段突きでカウンターを放つも、

 

パシッ

 

かわされ、足払いを喰らってしまう。

「なっ!?」

うつ伏せに転倒し、右腕を取られ逆手を取られてしまう―――

「しまっ―――」

慌てて引き抜こうとするも、

 

「遅いわよ」

絶対零度の殺気が襲い掛かる―――

 

ボグッ

 

「ぐあああっ!?」

同時に

鈍い音とともに、ランファの右肩に激痛が走った―――

 

激痛に悶え苦しみ地面に蹲るランファを、冷笑を浮かべて見下ろしていたシェリーは

「勝ち誇るのはまだ早いわよ、エンジェル隊」

出口の方へと顔を向けた。

 

「もうすぐハッキリするわよ……

本当に優勢なのはどちらなのかを、ね……」

 

 

―――フンッ、上等じゃないか」

シェリーは声が聴こえて来た方角へ振り向こうとした直前、

 

目の前に赤いカンフーシューズが接近していた―――

「ぬっ」

シェリーは身を逸らしてかわすも、制服の一部分がボタンごと引き裂かれてしまう。

態勢を整え、目の前の敵に掴みかかろうとするも―――

 

ドンッ!

 

左大腿部に熱い痛みが走り、一瞬、動きが鈍ってしまう。

 

「ランファ、今のうちに!」

いつの間にか銃を構えていたフォルテの合図とともに、ランファは身を屈めると―――

「っせい!」

掛け声と同時に、相手の顎先へ膝蹴りを叩き込む―――

 

ゴキィ!!

 

攻撃は相当な威力を持っていたのか、シェリーは衝突音とともに壁の向こう側へと吹き飛ばされた―――

 

 

「ふんっ!」

ゴキッという音を鳴らし、左手で右肩をはめ直すランファ。

肩をはめ直した瞬間、激痛に顔を歪めた。

「ランファ、大丈夫かい?」

「ええ、なんとか……」

駆け寄ってきたフォルテに頷き返すも、まだ痛みは残っているのかその息は荒い。

 

「なるほど―――」

その時、奥から冷めた声が聴こえてくる。

そこにはまるでダメージを受けていないかのように、平然と立ち上がっているシェリーの姿があった。

 

シェリーは2人を見据えると冷笑を浮かべた。

2人がかりで私を相手にするという訳ね」

フンッ、と小馬鹿にしたように鼻で笑う。

「卑怯とは言わないよね?」

だが、フォルテは全く動じず得意げに笑い返した。

「もし卑怯だなんていうのなら、今まで自分のやったことを思い出してみなさい」

ランファは左肩を押さえながらも、臨戦態勢に入っていた。

「それに軍人は任務を優先させるのがモットーさ………

決闘なら今度にしておくれ」

文句あるかい? と呟き、フォルテは銃口を相手に向けた。

 

その時、

入り口の方向から、2人分の足音が聴こえてきた―――

 

フォルテはその足音の主を確認するため横目を向く。

「ミント、ちょうどいい所に―――」

来たよ――と言おうとした刹那

 

 

ビシュンッ! ビシュンッ!!

 

 

2人の間を、閃光が襲った―――

 

 

 

「うおっ!?」

「きゃあ!!」

 

 

 

辛うじて回避した2人は別々の方向へと転がり、物陰へ隠れるも―――

 

 

 

 

ドガァァァァァン!!!

 

 

 

「なによ!?」

今度は後方から爆発音が響き渡り、後ろへ振り向くとそこには火の手が上がっていた………

 

「あそこは第3エンジンじゃないか!?

一体誰が―――」

フォルテは身を潜めていた円柱から、レーザーを発射してきたと思われる方向へと視線を向けると、

 

「えっ!?」

「なっ!」

絶句のあまり言葉が出ない―――

 

 

 

 

 

入り口から40メートルは離れた先―――

 

 

 

そこには、銃口を前に向けたミルフィーユとちとせの姿があった―――

 

 

 

 

「ミ、ミルフィー!? ちとせ!?」

「な、何であんたたちが―――」

「やっと効果が出てきたようね………」

混乱するランファとフォルテの声を遮り、シェリーは静かに嘲笑した。

 

「それってどういう意味よ!?」

今の言葉に不吉な予感を覚えたランファは、シェリーを睨みつけ疑問を放つ。

 

だが、敵の答えは想像を絶する答えであった―――

「あの2人には記憶を吸収させてもらっただけではなく、ある仕掛けをさせてもらったわ」

「記憶を吸収って………」

「それよりも、ある仕掛けだって!?」

「そう―――

 

人間をコントロールすることが出来るという仕掛けをね………」

「なっ!?」

本来では考えられない現実―――

だが、ランファとフォルテの目の前に居る女性からは、言葉に表せない不気味な雰囲気を醸し出していたことを感じ取り、一瞬口を噤んでしまう―――

 

だが、まだ否定する気力は残っていたのか、ランファは動揺を抑えながら反論する。

「…ふ、ふざけないでよ! そんなこと出来るとでも思ってんの!?」

「それじゃあ、貴女はあの2人の行動をどう捉えているのかしら、蘭花・フランボワーズ?

貴女達に攻撃を行った、あの者たちの行動の原因を」

「っ」

ランファはまだ信じられないのか―――

いや、信じたくないのか、シェリーの問いに答えることが出来ず、唇を噛み締める。

 

 

「まあ、信じたくないのならばそれでもいいわよ………」

含み笑いを漏らすような一言の中に存在する自信―――

「どうせすぐにでも分かるようになるのだから―――」

シェリーはゆっくりと右手を上げると、

―――この者達を始末しなさい!

ミルフィーユ・桜葉! 烏丸ちとせ!」

号令とともに振り下ろした―――

 

 

それに呼応するかのように、意思の無い瞳で、

ミルフィーユとちとせは、ランファとフォルテに襲い掛かった―――

 

「くそっ!本当に来ちまった!」

「止まって2人とも!アタシたちは味方よ!!」

 

 

 

 

 

仲間として共に戦ってきた銀河の天使達―――

 

復讐の魔女の姦計によって、同士討ちという悲劇に襲われることとなる―――

 

 

 

 

 

今ここに、エンジェル隊同士の戦いの幕が切って落とされた―――