―――銀河の成れの果てである辺境の地

 

 

 

荒廃した大地に薄汚れた大気は人間が住むには途轍もない悪環境の惑星。

 

 

 

その地の洞窟ともいえない抉れた空間で、僅かな赤い光を照らす炎を囲む2人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

In anecdote

〜間章〜

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の入り口の方角へ視線を向ける。

 

 

 

入り口からは何の偶然か、ほんの僅かに『白き月』の姿を見ることが出来た。

 

 

 

 

―――クーデターに失敗した2人を待ち受けたものは、辺境の地への流刑

 

 

 

仲間や部下といった者もおらず、人の住めない場所まで追放されてしまっていた………

 

 

 

皮肉なものだった。

 

 

 

自分達がこんな境遇に置かれながらも、

 

 

 

人民の崇拝の象徴とされる『白き月』は耐えることなく、神聖なる清らかな光を放ち続けていた。

 

 

 

今は2人の他に誰も居ない。

 

 

 

洞窟の中は突き刺すような冷え切った空気が覆っていた。

 

 

 

2人は何も話さない。

 

 

 

パチパチと音を鳴らす炎をずっと見つめていた―――

 

 

 

 

“シェリーよ……私は皇王になりたかったためにクーデターを起こしたわけではない”

 

 

ぽつりと、

 

 

 

静かな声で静粛は破られる。

 

 

 

1人は長い髪をそのまま下ろしている、長身で整った顔立ちをした青年の男。

 

 

 

胸に響くような低い声ながらも優しげな言葉を、もう1人の女性―――もしくは耳元まである銀髪に、頬に痛々しい大きな傷をつけた少女に投げかける。

 

 

 

“退廃しきった皇族や貴族への復讐など、本当はどうでもよかったのだ……”

 

 

 

寂しげな……しかし慈愛に満ちた表情が青年の顔に浮かんだ。

 

 

 

 

“私は…ただ…皇国の人々全てが平和に…そして幸福に満ちた表情で生きる姿が見たかった―――”

 

 

 

荒廃しきった辺境の地に追放されても、その想いが青年を支えていた。

 

 

 

そんな青年の傍らで、銀髪の少女はどんな境遇に置かれながらも、力強く支えてきた。

 

青年が忌み嫌われた存在になっても、廃太子という立場になっても、『同族殺し』という汚名を被せられながらも………

 

 

 

手酷い裏切りにあっても、目の前で行われたどんな屈辱にも、身を切らすような苦痛を味わっても………

 

 

 

少女はいつしか女性に成長し、辛い表情を出さずに、長い間青年を支えてきた………

 

 

 

 

 

その青年が変わってしまったのは何時からだろう―――

 

 

 

次々と青年の下に腹心の部下が現れたあの頃からか………

 

 

それとも、あの禁断の領域とされた『黒き月』を発見した頃からか………

 

 

―――黒き月

 

 

 

『白き月』の対とされたもう1つのロストテクノロジー(失われた『EDEN』の遺産)………

 

 

『黒き月』の力を手に入れた青年は徐々に変質していった。

 

 

 

自分を破滅に追いやった者達を何の慈悲も無く、1人残らず粛清していった。

 

 

 

その時の青年の心境は計り知れない。

 

 

 

ただ、自分を裏切り、忌み嫌った皇族や貴族達への蓄積されていった負の感情が爆発したのかもしれない。

 

 

皇国民を従わせようとするやり方は実に単純だった。

 

 

 

前皇王の汚点を表面化・誇大化させ、『簒奪』ではなく『奪回』という言葉を使って自分を新皇王に即位させ、自分達の正当性をクローズアップさせる。

 

 

 

もし従わないものが居るとするのならば、力で押さえつけようとした。

 

 

―――こんなやり方で人々が従うわけが無かった

 

 

 

青年に対する国民の評価は下落の一途を辿る。

 

 

 

それでも青年はめげることなく、やり方を変える事は無かった。

 

 

 

それは言い方を変えれば、青年自身どんどん変わっていったことを意味した。

 

 

 

表に居る時の青年の顔は威厳がありながらも、人々を畏怖させるような凶悪な相貌をする時もあった。

 

 

 

だが、女性の前では、唯一生き残った皇族である従兄弟―――シヴァ・トランスバールを本心から気にかける表情を見せた。

 

 

 

 

 

―――女性はそんな青年の表情(かお)が好きだった

 

 

 

例えどんなに青年が変わっていったとしても、傍らで仕えることが最高の幸せだったのだから………

 

 

 

銀髪の女性の、青年への想いは本物であった。

 

 

 

自分の相貌に壮絶とも思える傷がついても揺らぐ事は無かった。

 

 

だが、想いを口にする事も表に出す事も一切無かった―――

 

 

 

ただ、青年の傍らにいることだけが至福であったのだ。

 

 

 

自分の想いをこの青年に告げるなど、そんな身の程知らずのことだと思っていたからだ。

 

 

現皇王を名乗った後の青年と、いつも傍らに居た女性との日々は、長くは続かなかった―――

 

 

 

 

 

徐々に敵を追い詰めるも、相手は切り札を使おうとした。

 

 

 

そうさせる前に、敵を『白き月』まで辿り着かせてはならない。

 

 

 

トランスバール正統皇国軍、戦闘母艦内部に集う腹心の部下達。

 

 

 

その青年を守るために自ら足止めを名乗り出る銀髪の女性。

 

 

 

今こそ青年への想いを態度で示すかのような言動であった。

 

 

だが、青年はあくまでも足止めだけであって、身を犠牲にする事を許さなかった。

 

 

青年は大切なものを失おうとする子供のように、恐怖と不安の入り混じった表情を、目の前にいる女性に向けた―――

 

 

 

“シェリー、私はお前を犠牲にするようなことはしたくはない……

 

 

 

まだ私にはお前が必要なのだ―――”

 

 

 

 

 

その言葉をどんなに待ちわびた事か―――

 

 

 

信頼されている自分がここにいる………

 

 

 

必要とされている自分がここにいる………

 

 

 

叫び出したい。

 

 

自分も貴方が必要だと―――

 

 

 

 

激情に駆り立てられるような思いが女性の全身を駆け巡った………

 

 

 

例えその言葉が偽物であったとしても、固まった決意はもはや崩れることなく存続した。

 

 

 

万感たる思いを胸に秘め、女性は内面を隠すかのように微笑む。

 

 

 

 

“エオニア様に仕えることが私の至上の喜び………

 

 

 

このような戦いで身を落とすような事は致しません―――”

 

 

 

 

―――さようなら、エオニア様………。

 

 

 

また、生まれ変わった時も貴方様の下で御使いしとう御座います

 

 

 

 

 

建前と本音、公と私。

 

 

 

咄嗟に出た嘘はどんなに胸を爽快にさせたことか………

 

 

 

これが青年への最後の言葉だと思うと涙が溢れそうになり、歓喜を叫びたくなった………

 

 

 

言動が一致しない個(じぶん)は、今、最愛の人に背を向けて、最高の想いで死に望みに行く―――

 

 

 

女性の母艦にあるモニターから映る戦況は、『白き月』の申し子―――5つの紋章機の活躍によって決した。

 

 

 

戦闘は完全に敗北を喫していた。

 

 

銀髪の女性はこの戦況を茫然とした思いで、コクピットから見つめていた―――

 

 

 

その時徐々にやってくる感情は焦燥と欲望―――

 

 

このまま敗北を黙ってみているのは、どうしても忍びない1つの感情と。

 

 

 

このまま撤退し、懸想している青年の下まで帰りたい、もう1つの感情がせめぎあいを起こしていた………

 

 

 

―――このまま敵を『白き月』まで辿り着かせてはならない

 

 

 

―――もう自分は充分やった………このまま撤退してもかまわない

 

 

 

葛藤している間にも敵はこの場から離れようとしている。

 

 

 

 

歯痒い思いでモニターを睨みつけていた途端、何のイタズラか、最も起こって欲しくない結末が頭の中を通り過ぎた―――

 

 

 

味方も部下も居なくなり、孤立無援の状態の青年の姿。

 

 

 

敵が何かを言っているが聞こえる事は無かった。

 

 

 

青年は死を覚悟しているのか、ゆっくりと首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

敵はしばし沈黙していたが、すぐに母艦を動かすと………

 

 

 

青年の母艦に向って、高出力レーザーを発射した。

 

 

青年はゆっくりと眼を閉じる。

 

 

 

同時に、

 

 

 

母艦が朱い閃光に包まれていった―――

 

 

 

―――はっ、と顔を上げる

 

 

 

自分の全身から汗が噴き出しているのが判る。

 

 

 

一瞬目の前に浮かんだ幻覚が、女性の心を乱す。

 

 

 

今のは瞬時に浮かんだ悪いイメージ。

 

 

 

イメージに過ぎないはずなのに………

 

 

 

何故自分の心はこんなにも不安に駆られているのだろう―――

 

 

 

 

 

モニターに映る敵の白い旗艦―――儀礼艦エルシオール、『白き月』のロストテクノロジー。

 

 

 

戦闘能力は敵軍事力の中でも最下級のはずなのに………

 

 

 

―――何故あの艦は今出てきた幻覚の母艦に似ているのだろう。

 

 

 

 

 

全身に襲い掛かる強烈な悪寒。

 

 

 

 

 

今行かせてはならない………

 

 

 

 

 

今止めなければ、きっと………

 

 

 

 

 

―――あの御方が微笑(わら)うことは、もう無くなってしまう………

 

 

 

 

 

操縦桿を掴んでいる手が動いていた。

 

 

 

 

 

艦が動いていた。

 

 

 

無意識の内に、身体も艦も動き出していた。

 

 

 

 

 

目の前に拡がる宇宙空間。

 

 

 

 

 

その中心にある白き艦。

 

 

 

 

 

その艦に向けて、戦闘でボロボロになった自分の艦を動かし、一直線に突き進んだ。

 

 

 

 

 

敵は急いで自分の艦に向けて攻撃を開始する。

 

 

 

 

 

艦に走る強烈な衝撃と爆発。

 

 

 

艦が軋みを上げ、随所に亀裂と穴が開き、火の手が全体に拡がっていく………

 

 

 

 

 

肺に煙を吸い込み、眼が霞み、上手く呼吸が出来ず、意識が朦朧とする。

 

 

 

 

 

だが、それでも艦は動く………

 

 

 

 

 

自分もまだ動ける。

 

 

 

 

 

まだ諦めない。

 

 

 

 

 

例えこの身が滅びようとも、

 

 

 

 

 

あの艦だけは道連れにしなければならなかった―――

 

 

 

 

 

どれだけの時間が経っていたのかは分からない。

 

 

 

 

 

その間まで自分がどんな事を叫び、どこまで艦を進めたのかも分からない。

 

 

 

 

 

ただ、手を伸ばせばすぐに、

 

 

 

 

 

白き艦が視えることだけは分かった―――

 

 

 

 

 

もう退く事は出来ないほど、艦は損傷し、身体もボロボロになっている。

 

 

 

 

 

死は覚悟していた事だ、今更何の悔いがあろうか。

 

 

 

 

 

―――ただ1つ叶えられる事があるのだとすれば

 

 

 

 

 

特攻する自分の艦が、白き艦に近づく。

 

 

 

 

 

―――もう一度目の前で

 

 

 

 

 

衝突すると思った瞬間。

 

 

 

 

 

―――優しげな表情で微笑むあの御方が見たかった

 

 

 

 

 

瞳を潰してしまうかのような眩い閃光………

 

 

 

 

 

 

 

身体が光に包まれるほんの一瞬、

 

 

 

 

 

 

 

青年の微笑む姿が見えた気がした―――

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆらゆら、ゆらゆら、と………

 

 

 

 

 

 

 

自分の何かが宙に浮かんでいるような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

今自分がどうなっているのかも判らない、判ろうとも思わない。

 

 

 

 

 

 

 

ただ、何か………

 

 

 

 

 

 

 

大切な事が自分の中にあった気が………

 

 

 

 

 

 

 

茫洋とした意識の中で思い描いていた。

 

 

 

 

 

 

 

………どれだけの時間が経ったのか。

 

 

 

 

 

 

 

今自分がどうなっているのか。

 

 

 

 

 

 

 

ただ、視界の隅に捉えた白い球体が、

 

 

 

 

 

 

 

自分の下まで近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

 

だが、どうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 

今は何も考えず、ただ宙に浮かんでいたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気のせいだと思いたかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしている間、いつの間にか白い球体から、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白く眩い光を発していることに―――

 

 

 

 

光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が真っ白に覆われる。

 

 

 

 

 

 

 

白き無音なる世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も無い、何も聞こえない空間………その筈なのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に居る長髪の青年は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故自分に微笑み掛けているのか―――

 

 

 

 

 

 

 

瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

堰を切った洪水のように、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の中で何かが開きだした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、自分は何故こんなことをしているのか?

 

 

 

 

 

 

 

何故自分はここにいるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

そして自分にとって何よりも大切なあの御方はどうなったのか!?

 

 

 

 

 

自分の精神、肉体に例えようもないエネルギーが満ち足りてくるのが分かる。

 

 

 

 

 

それは今自分が何をすべきか分かった事によって生じる自然な気力なのかもしれない。

 

 

 

 

 

白い光が徐々に失われると同時に消えていく青年の姿………

 

 

 

 

 

それを茫然としながら見ていた途端、

 

 

 

 

 

 

 

 

電源が切れた機械のように、意識がぷつりと途切れた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから約半年が過ぎた―――

 

 

 

あの後自分はどこかの星に放り出されていたのが判った。

 

 

星の表面からなるクレーターと灰色の岩山、同じ色をした地面に何かの機械を配置して湧き出す水と生暖かい空気が、この星に充満していた。

 

 

それ以外は建物も自然も資源も無く、動物も虫も存在してはいなかった。

 

 

唯一あるものとすれば、この星の何処かにある駐留軍の基地と、随所に配置されている宿泊機能を備えた境界線管理用プレハブの建物だけであった。

 

 

 

だが、何も無い地での生活は思ったよりも苦痛ではなかった。

 

 

 

辺境の地での生活が長かったことが幸いしたのか、皮肉なものを感じたのを思い出す。

 

 

 

そんな生活で不意にプレハブの場所の外から、複数の人間の会話を盗み聞きした途端、脳天を重いもので殴られたような衝撃が走った………

 

 

 

 

 

―――エオニア軍の滅亡と、エオニア元皇子の死

 

 

 

 

 

 

全てが止まった。

 

 

 

自分の精神を破壊するほどの衝撃が延々と襲い掛かっていた。

 

 

 

 

 

自分は何のために生きていたのか………

 

 

 

もう一度あの御方に会うために生きてきたのではなかったのか………

 

 

 

 

 

崩れ落ちそうになる身体と精神。

 

 

 

だが、向こうから聴こえる侮蔑と嘲笑によって現実に引き戻される。

 

 

 

元皇子の死によって皇国が平和になったのは、とても喜ばしいことだ、と―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぷつり、と……

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の中の何かが音を立てて切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も考えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も聴こえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ身体が、笑っている者達に向って、自然と動き出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴちゃ、と水滴が落ちたような音で現実に引き戻される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして気が付いた時には、地面をうつ伏せに転がり、地面を真っ赤に染め上げた黒い軍服を着た者達と。

 

 

 

 

 

 

両手と顔と軍服の青白いマントを真っ赤に染め上げ、手の先から朱い水滴を垂らした自分が呆然と立ちすくんでいたのが判った。

 

 

 

 

 

一瞬、基地の扉の隙間から漏れ出す淡い光………

 

 

 

 

 

 

 

 

それは地面に転がる者達の最期の煌きのように見えた―――

 

 

 

 

 

 

 

あれからどのようにして惑星ロームまで辿り着いたのかはよく覚えていない。

 

 

 

どのようにして生きてきたのか、考えようとも思わない。

 

 

 

 

 

ただ風の噂で聞いた、何処かのクーデター残存勢力の裏側で、軍部が糸を引いていることと。

 

 

 

エルシオールが惑星ロームへ、ロストテクノロジーの調査にやってくると言うことだけが自分の興味を惹いていた。

 

 

 

エルシオール―――

 

 

 

自分にとって忌み嫌う存在である、『白き月』の申し子。

 

 

 

そして、自分の全てをかけてでも、滅ぼさなければならない復讐の対象―――

 

 

 

その時が来るのを待った………

 

 

 

じっとして今か今かと思いながら、時が来るのを待っていた。

 

 

 

そして、

 

 

 

とうとう目の前に、

 

 

 

巨大な白き艦が佇んでいた―――

 

 

 

高揚する感情が抑えられないのが分かる。

 

 

 

何度も夢にまで観た、儀礼艦エルシオールが目の前にあって、何も思わないのが無理というものだろう。

 

 

 

 

一陣の風が吹く―――

 

 

今、自分が立っている場所は、屋根が無く、黒光りに舗装された惑星ロームの星面、宇宙船発着場の外。

 

周りにはほとんどが男性と思われるトランスバール皇国の軍服を着た複数の人間と、巨大なコンテナを搭載した大型車が立ち並んでいた。

 

補給のために惑星ロームまでやってきたエルシオールが、倉庫のハッチを開けようとしていた。

 

 

 

偽装は完璧だ。

 

 

 

誰も自分を、エオニア軍の生き残りである―――シェリー・ブリストルとは思っていないだろう。

 

 

 

キョロキョロするのは止めて、目の前のハッチに注目する………

 

 

 

 

 

しばらく時が進むと。

 

 

 

 

 

ガコンッ、という重厚な音とともに、

 

 

 

 

 

ゆっくりと上下にその巨大な口を開いた。

 

 

 

 

 

――――――運命の扉がゆっくりと開く

 

 

 

―――その先にあるものはどんなものなのか………

 

 

 

 

 

自分がどうなるかのかはまだ分からない―――

 

 

 

 

 

ただこの艦に乗ったとき、自分の人生が終わりを告げるような気がした。

 

 

 

 

 

薄く笑う。

 

 

 

 

 

元々何度も自害しようと思った者が、感傷にとらわれることがあったとは………

 

 

 

 

 

惑星ロームの黒光りする地面を、2〜3回足踏みをする。

 

 

 

 

 

―――よし行こう

 

 

 

 

 

今は亡きあの御方への弔いと―――

 

 

 

 

 

あの御方を破滅へと追いやった、あの者達への復讐を―――

 

 

 

 

 

今この胸に誓おう―――

 

 

 

 

地面を転がる白い球体………

 

月明かりに照らされた白い光は、

 

まるでこれから起きる運命を祝福するかのように煌いていた―――

 

 

 

 

 

 

銀河へ奏でるRhapsody  〜Another story〜

 

FIN