2機の天使が高空を征く。HMTSルクシオールから発艦したVF-2、ルーンエン

ジェルス所属のF/A-18Eスーパーホーネット。装備はAIM-120アムラーム中射程

ミサイルを6発と翼端にAIM-9Xサイドワインダー短射程ミサイルを2発空対空

戦闘用の装備で任務は戦闘空中哨戒。指定されたCAPポイント間を往復しなが

らパトロールする警戒ミッション。警戒する目標はクーデター軍の無人戦闘機。

高高度から各種誘導兵器を放ってくる厄介な連中だ。

戦闘空中哨戒の役割は、侵攻して来る敵機を追い返すことにある。別に敵機を

撃墜する必要はないから、命中を期待できないような長距離からミサイルで敵

を威嚇して彼らの作戦を諦めさせれば事足りる。相手が無人機でもコース上に

自分では対処不能な脅威が存在すると認識させてやればいい。

ただしそれは敵が来た場合の話。パトロールの名が示すように、この任務では

結局敵に会わないまま帰投することもある。今日のフライトはまさにそれだっ

た。

 

[[Starburst,Gargoyl1.Contact Ref "Bullseye" 230 65miles hits12 declaer?]]

 

[[Gargoyle,Your group Ref Bullseye 230 65 12000. RigZeo.hostile]]

 

[[Roger,Gargoyle will engage this target]]

 

味方からは忙しそうな無線が聞こえてくるがこっちは何も出てこない。

こうなるともう遊覧飛行と変わらない。

 

「オファニエル02、そこから何か見える?」

 

コールサイン”オファニエル01”のカズヤシラナミ少尉が”オファニエル02”

へ呼びかける。答えるのは同じくルーンエンジェルス所属のナノナノプディ

ング少尉。

 

「ノージョイ。何にも見えないのだ」

 

傍らの僚機はいつも通りに少し離れて寄り添うように飛んでくれている。

少しも機体を動揺させず定められたポジションでエレメントを組んでいた。

 

「カズヤ、やっぱり高い所はいつも晴れてて気持ちがいいのだ」

 

僚機のナノナノが話しかけてくる。コクピット正面にすえられているHUDから

少し後下方に位置している僚機の方へ視線を移してナノナノのほうを見る。

水色のストライプを入れたホーネットが見えた。ナノナノが付けた名前は

ファーストエイダー、ストライクタンカーとして攻撃部隊に随伴する空中

給油任務が得意なナノナノらしいパーソナルネームだ。

もう少し距離が近ければキャノピー越しに直接顔をみて話せるけど、今の状況

でそれは少し危険だ。とっさの対応を取るにはある程度の間隔が要る。

でも声の感じからはきっと笑顔なんだろうな。

 

「下も見てごらんよ、下の方の雲が絨毯みたいだ」

 

下方にいるナノナノの機体を見ると、背景の雲が眼に入った。地上から見れば

どう頑張っても高すぎる雲も、ここから見ると地面に張り付いているように思

える。考えてみれば自分があの雲よりも高い場所に居る事も変な感じがする。

まさか海軍の航空隊へ入るなんて考えてもみなかったな。パティシエになる事

が夢のはずだったのに、気付いてみればこうして最新のマルチロールファイタ

ーで、昔はただ見上げるだけだった雲を越えて大空の彼方を飛んでいる。

一体どこで道を間違えたのだろうか?でもそのおかげで、ナノナノや他のみん

なとも会えたわけだ。これはこれでむしろよかったと思う。

 

「ふわふわしててあの雲も気持ちよさそうなのだ」

 

ナノナノの元気な声を聞くとよけいにそう思えた。もう一度眼下の白い絨毯を

眺めてみると、確かに寝そべったら気持ちよさそうだった。雲がところどころ

途切れた、絨毯のほころびから見える海の輝きも綺麗だ。

 

「ほんとに今日は気持ちがいいのだ」

 

「そうだね」

 

いまが作戦行動中で無ければいいのに。平和で静かな空をナノナノと飛べたら、

きっと今以上に気持ちがいいんだろうな。はやくそうなって欲しいと思う。

 

「気持ちのいいまま終わればいいのにね。ナノナノ」

 

「今日はきっと大丈夫なのだ」

 

「大丈夫かな」

 

「きっとなのだ」

 

「だといいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきナノナノが大丈夫だと言った通り、結局この日はただの遊覧飛行でお

終いになりそうだ。CAPステーションの間を何度往復しても敵が現れる気配は

まったく無い。規定の哨戒時間をすぎて粘ってみても何の反応も無いので、

帰投許可を得て離脱した。高高度でパトロールをすると帰りに巡航高度まで

上昇しなくてすむから楽でいい。それに戦闘隊形を取る必要のない巡航中は、

ナノナノのファーストエイダーと近い距離で編隊を組めるから直接顔を見て

話せる。そんな事を思って横を見ればファーストエイダーが殆ど機体を傾け

ないで滑るように右の斜め後ろから近づいてきた。パイロットのナノナノも

こっちを見ている。

 

「カーズヤ」

 

「どうしたの?ナノナノ」

 

ファーストエイダーをカズヤの駆るホーネットの横においたナノナノが呼びか

けてくる。妙に笑顔が明るい。何か企んでるな。

 

「それぇ!!」

 

「ちょっと、ナノナノ!?」

 

そう思った矢先、ファーストエイダーが機首を少し上げてロールし始める。ファ

ーストエイダーの機体上面をカズヤの駆るブレイブハートの方へ向けたまま機体

の周りを回りバレルロール。

 

「カーズヤ、見てるのだ?」

 

カズヤの真上を反転した状態のファーストエイダーが左へ流れる。ナノナノのは

しゃいだ様な声も聞こえてくる。だが15フィート(5メートル弱)の近距離でも

ナノナノが機体の挙動を不安定にする事は無い。さすがはトランスバール海軍の

トップエースと言ったところ。翼端からは後方へ二本のコントレイル、白い水蒸

気のラインを曳いている。まるで尻尾みたいだ。こんな様子で機体の周りをバレ

ルロールで回られると、まるで仔猫がじゃれ付いてくるようにも感じる。

ホーネットは仔猫と呼ぶには大きすぎるけど。

 

「ちょっ、ナノナノったら」

 

お互いにさかさまの状態で目が合う。企みが成功して満足したようなナノナノの

笑顔が見えた。ファーストエイダーはさらにロールを打ちながらブレイブハート

の左側同高度で機動を止める。ナノナノは最後まで笑顔。

 

「バッチシ決まったのだ!! やっぱり回るのは楽しいのだ」

 

「もう、いきなりするのはやめてよ。何するか言ってからじゃないと危ないだろ」

 

左のファーストエイダーへ向かってカズヤが言う。カズヤは注意したつもり

だったのだが、当のナノナノには効き過ぎたらしい。

 

「..!?..  ゴメンんなさい、なのだ...」

 

せっかく頑張ったのに怒られてかなりがっかりしている様だ。

 

「カズヤ回るのが嫌いなの忘れてたのだ...退屈してると思ったのだ...」

 

楽しませてくれるは嬉しいけど、いきなりやったら危ないよ。

ただし、続けてぶつかるかも知れないでしょ?と言ったらさらに沈みそうだか

らやめとこう。若干謝るポイントがずれてることも気にしない。

その日の飛行に関しての注意は帰ってからのデブリーフィングでもいい。

でもいい加減に、遊園地へ行ったときにコーヒーカップに乗って目をまわ

した事は忘れて欲しい。パイロットの恥だ。

 

「まぁ、たしかに退屈はしてたから、びっくりしたよ」

 

「...?」

 

「それに綺麗なマニューバーだった。さすがだね、ナノナノ」

 

「本当なのだ? やったぁ! ほめられたのだ」

 

少しフォローするとすぐにナノナノの顔に笑顔が戻る。

単純な性格だけど、そこがまたナノナノのいい所でもある。

それにしてもナノナノは明るくて本当に可愛い。

すぐに調子に乗る欠点さえなければ。

 

「なんならもう一回するのだ?」

 

「はい...?」

 

カズヤがナノナノ方をみながら思っていると、そのナノナノからもう一言が来

る。もうしないだろうとすっかり油断していたカズヤには取りうる対応は無

い。ナノナノに言わせればカズヤもカズヤで結構単純なものらしい。

ノリが悪いところが彼女とは違うそうだが。

 

「今度は逆なのだ」

 

「えぇ!? ちょっと」

 

「今度はちゃんとするって言ったからやったのだ」

 

「いや、そうだけど」

 

「だから今度はOKなのだ!」

 

「ちょっとナノナノ、そういう問題じゃないよ」

 

「そういう問題なのだ♪」

 

見ている間にも、ファーストエイダーは先程とは逆に右斜め上へローリング。

ブレイブハートの真上へ来る。

 

「だめだったら」

 

「ならストップするのだ」

 

そういってナノナノはファーストエイダーをブレイブハートの真上に、機体の

上下を逆転させた状態で静止させる。いったいどうやったら背面飛行のまま編

隊を維持するなんて事を平気で出来るんだろ。しかもこっちを見たままで。

 

「危ないよ、ナノナノ」

 

「これくらい平気なのだ。まだ10フィートくらいは間があるのだ」

 

「10フィートって、3メートルじゃないか」

 

「ナノナノの身長の2倍もあるのだ。大丈夫なのだ!」

 

「2倍もじゃなくて2倍しかないの」

 

「背が低いからってナノナノをバカにしてはいけないのだ!」

 

「そんなこと言ってないよ!」

 

「言ったのだ!!ジェットコースターには乗れなくてもフットペダルにはちゃんと

 足が届いてるのだ!! G耐性も小さな方がいいのだ」

 

怒らせたかな。カズヤがそう思ったときにはすでに遅かった。ナノナノが自分

はこんなにも不機嫌ですよとアピールするかのように、ファーストエイダーを

さらに接近させる。とっさにスティックを倒して降下。距離を保つ。

まるで問い詰めれれているかのようだ。

 

「わ、分かったよナノナノ。分かったから」

 

「本当なのだ?」

 

「本当だよ」

 

「うーん... ならいいのだ!」

 

「ほら、マイナスG掛けすぎるとエンジンがフレームアウトしちゃうよ」

 

「それじゃ、元に戻るのだ」

 

そう言ってから、ナノナノはファーストエイダーを順面へと戻してブレイブハート

の右側へ落ち着ける。HSIを見れば、帰投コースから若干ずれてしまっているので

進路を変えないといけない。

 

「ヘディング330、コースを戻して早く帰ろう」

 

「了解、オファニエル02」

 

二機のホーネットは機体を少し左へ傾けて暖旋回。ルクシオールへの帰艦コースへ

復帰する。

 

「帰ったら何をしようか?」

 

「うーん、...帰ってから考えるのだ」

 

「そうだね」

 

二機の天使は翼を連ねて帰艦していく。

 

 

 

 

 

 

 

たまにはただ飛ぶだけもいいかなとか思ってみたり。

冒頭のガーゴイル隊は私のお気に入りゲームに登場

するプレイヤーが所属する部隊です。

無駄に英語を使ってみたり(←バカw