PM11:00。仕事の手を止め、ペンを置いて一息つく。どうも少し疲れているようだ。

今日はもう寝てしまおうか。

そう思い、椅子を立った時だった。部屋の戸をノックする音が聞こえてきたのは。

 

「ヴァイン……。まだ起きてる?」

扉の向こうからの控えめな声で来客の正体を知る。もとより僕の私室を訪れるのはこの女くらいのものだ。すべてが終わってこの『スカイパレス』に一室を与えられてから『EDEN』との調停に従事しているが、基本的に僕と積極的に関わろうとする人間などいない。当然だ。僕は長年この星を支配していた『ヴァル・ファスク』なのだから。

「どうしたんだい、こんな夜中に」

彼女はインターホンを使っていなかったので扉を開けて返答した。もっとも、インターホンで応対するとこの女はいつも機嫌を損ねる。

さらに言うなら、僕には扉を開けるのにわざわざ今立ったばかりのデスクに再び着いてこまごま弄る必要も、扉のところまで歩いていってパネル操作する必要も無い。気の遠くなるほど昔からその身に織りこまれた特殊言語と片手の振り一つで労苦もなく扉は開く。『ヴァル・ファスク』としての最も基本的な能力のひとつだ。だからと言って扉のところまで近寄っていかなければ、これもまたいつも機嫌を損ねることになる。

まったく、面倒なことだ。

「よかった。ヴァインまだ起きてた」

心から安堵した表情で笑顔を見せてくる。この女と目を合わせるとどうもペースが乱れる。だからいつも目線を外して壁に目をやることにしている。

ちょっとした防衛策だ。

「君じゃあるまいし、こんな時間にまだ寝たりしないさ。これでも忙しいんだ。それと、チャイムくらい鳴らしてくれないか」

僕の言葉に、はにかみながら「もう寝てたら悪いかと思って」と答える姿が視界の端に映る。

ほんの今、もう寝ようかと思ったことをここで言ったりはしない。そんなことを聞けばまた節介焼きの顔を覗かせるに違いないのだから。

「それで、何の用なんだい?」

このとき初めて目の前の姿が寝間着なことに目が止まった。水色の普段着とは対照的なライトイエローのパジャマは金の髪に馴染んで違和感が無い。ただ、丈の長さと身頃が少し大きすぎるようだ。ぶかぶかと着ている様は楽そうではあるが、ただでさえ童顔なのをさらに見た目に幼く見せている。そういえば寝間着姿は初めて見る。なにか急用なのだろうか。

「うん。その、今日ね、エンジェル隊とお茶会をして、蘭花さんに怪談を聞かせてもらったの。すっごく怖いお話」

ふうん、それで?

まったく、まさかとは思うがそんなことを報告する為だけにこんな時間に来たのだろうか。

「それで、怖くて眠れなくって。一緒に寝てもいい?」

 

……。

待て。今、なんて言った?

 

 

 

らいおんハート

 

 

 

「……ごめん、もう一度言ってくれないかい」

「一緒に寝てもいい?」

思わずいつもの自己防衛策を忘れ、正面から見据えてしまった。胸の前で柔らかな羽根まくらを抱きかかえているのに本当に今更ながら気づいた。

「一緒にって、子供じゃないんだから」

「ねえお願い、今日だけだから」

そんな調子で習慣化したわがままがこれまでいったい幾つあったことか。

「う〜、今度は本当よ」

ほら出た、常套句。次は「一生のお願い」ってところかい?

「……。もう、わかったわよ。誰か他の人にお願いするから」

 

……他!? 不覚にもその言葉に二の句が告げなかった。この女、どこまで自覚が無いんだ。その無知と言えるほどの無邪気さは誰もが幼いと認めるが、年齢的・身体的には年頃の女性だ。居住区には男性職員だって少なからずいる。まさかとは思うが、いや、万が一、いやいや、このボケた女ならありうるかもしれない。

ため息をついた。どうも覚悟を決めなければならないらしい。半身になって入る隙間を空けてやった。仕方ない。

「いいよ。入れば」

「……いいの?」

「好きにすればいい」

「うん、ありがとう」

……疲れる。どうも今日は眠れなさそうだ。仕様が無い、不運だった。そう思おう。

 

 

 

なんだ、どうしてこうなった。僕はなにかしただろうか。因果応報というが、因果律の及ぶ限りにこの結果を生んだ原因が転がっているのを知るものがいるのなら教えてくれ。

僕のシングルベッドに枕が2つ並んでいる今の状況を。

ためらい無く無邪気に、早くも横になって。……なんでこっちを見ているんだい。

「ヴァインは寝ないの?」

寝れるわけがないだろう。……とは言わない。

「僕はいいよ。ベッド、端に寄らずに広く使えばいい」

「それじゃあヴァインに悪いわよ。一緒に寝ましょう」

悪いと思うんなら自分の部屋で寝て欲しいものだけれどね。

「あう、ごめんなさい……」

これ以上目を合わせていると不利な気がする。もういいよ。僕はもう少し仕事をしているから、君は寝ていてくれれば……。

「あの……、あのねヴァイン」

身体を起こして恥ずかしそうにしている。なんだい今度は。部屋に戻るのなら送っていってもいいけど。

「その、お手洗いに行きたいの」

 

いらっ。

 

「行けばいいだろう」

背後のバスルームを顎でしゃくって示してやる。部屋の造りは同じはずだ。いちいち僕に許可を取る必要なんて無い。

「で、でも、夜のトイレにはオバケが出るって蘭花さんが……」

 

いらっ。

 

「何をどう考えたら僕の部屋のバスルームにそんなものが出ると思うんだい」

「だって蘭花さんの怪談では……」

「あんな馬鹿の話を鵜呑みにするな!」

憤慨して声を荒げてしまった。まったく馬鹿げてる。そんなに言うなら見ればいい。ことさら大股で歩き、バスルームの扉を中が伺えるように開け放ってやった。ほうら、何もいやしないじゃないか。

「本当にいないわよね? ほら、その隅っことか」

 

 いらっ。

 

おっかなびっくりついてきて僕の体にしがみつき盾にするようにして中を伺うその様が実に腹立たしい。

「いるわけ無いだろう。仮にそんな非科学的な存在がそこにいるとすればそいつは僕が苦しめた『EDEN』の民の亡霊に違いないね。僕を呪い殺そうとしても君に危害を加えるとは思えないよ」

しまった。こんなこと、言わなければよかった。目の前の悲しみに揺らいだ瞳がみるみる潤んでいくのを見て少し反省する。何を言ってるんだ僕は。この女の幼稚な発言に腹がたつからといってこんな嫌味な口を利くなんて。我ながら情けない。疲れているせいだろうか。

「……ごめんなさい、ヴァイン。そんなつもりじゃなかったの。そうよね。そんなの、いるはず無いわよね」

「いや、今のは僕が悪かったよ。どうかしてた」

「ううん、いいの。いつまでもオバケを怖がってちゃ銀河中の叡智を集積する『ライブラリ』の管理者失格だもの」

そう言ってぎゅっと眼を瞑って自らの頬をぺちぺちと両手で挟む。ひょっとして、気合入れに叩いてるつもり、なのだろうか。

「うん、よし。が、頑張ってくるわね」

緊張した笑顔でガッツポーズを見せ、ロボットのように歩き出した。

だから、手洗いに行くだけで何を頑張るというのだろうか。本当、理解に苦しむよ。

「ヴァイン、ずっとここにいてね。いなくなっちゃいやよ」

扉を閉める前に必死な顔で念を押してくる。ここは僕の部屋で、さして広くも無い。部屋の外に出る理由はないのだが。それともこのバスルームの扉の前で自分が出てくるまで待てということだろうか。そんな情けない絵面はごめんだね。……いっそいなくなってあげようか。

「ヴァイン!」

閉口。やれやれ、いくつになってもこれだ。とりあえず今度蘭花・フランボワーズには抗議しておこう。

 

 

「じゃあおやすみ」

照明を調節し、睡眠環境を整えてやる。明るすぎず暗すぎず、目の前の表情が伺える程度には光量を確保して。

「ねえ、ヴァインは一緒に寝ないの?」

「僕はいいって言ったろ? 気にせず休めばいい」

「昔は一緒に寝てくれたのに」

少し頬を膨らしているのがわかる。本当に子供のままだ。

「昔とは違うさ。もう一緒に眠る年齢じゃないだろう。まったく、いくつになっても怖がりな……」

「違うの」

「何が?」

静かだが強い声に思わず凝視したその顔にはさっきまでの安易な怪談を怖がる子供の表情は無かった。絶対的な孤独を知る哀しみの貌。

「その、違うのよ。確かにオバケはまだ怖いけど。ヴァインのところに来たのは夢を見たからなの」

「夢?」

「ええ。本当は怖いのを我慢して一度眠ってみたの。そうしたら夢を見たの。ヴァインが、みんながいなくなって私がひとりぼっちになっちゃった夢」

「……。怪談の影響だろう。ただの夢さ」

「そうね、それはわかってる。けど、怖くて。気がついたらここに向かってたの。明日までひとりぼっちで居たくなかったの。……馬鹿げてるわよね。子どもみたいに怖がって。でも、もうあんな思いはしたくないの。お願いヴァイン、そばにいて頂戴。私を、独りにしないで……」

懇願する彼女は声も身体も震えていた。

 

ひとりぼっち。彼女が言うのは幼い日、親族をすべて殺され、自分ひとりだけが生かされた、長い虜囚の始まりの日だ。彼女は幼すぎたために覚えていないのだろうか。誰でもない、この僕がそれを命じたことを。ゲルンからの処分命令にいささかも疑念を覚えずそれを当然と考え、彼女の目の前でためらいも無く処分を指示した。僕がこの少女の家族を奪った。僕が、彼女を独りにしたのだ。目の前の孤独に怯えた震える少女を作り出したのは、僕――――。

 

「……。これで、いいかい? ……一緒に眠ることは、できないけど」

「あ……。うん、ありがとう」

そっと繋いだ手は、温かかった。

 

 

……。眠った、か。

ゆっくりと規則的に上下する胸。それに合わせてわずかに開いた唇から漏れる深い吐息が、確かな、そして深い睡眠を教えてくる。やっと、と言ったところか。なんだか長かった。明日も忙しい。そろそろ僕も睡眠を取らなくてはならないな。起こさないようにそっと繋いだ手を離す。しかし、どうもそれが間違いだったみたいだ。

「う……ん」

急に自由になってしまった手が、家を探す迷子のような動きであたりを探る。寝相の悪さも昔から変わらないな。

間抜けな手の動きにほころんでいた自分こそ抜けていた。探求者であるところの手が、手近なものをその掌の内に捕らえたのだ。

……ええと、すなわち、僕の腕を。

「うわ……っ!」

正直、不覚だったとしか言いようが無いね。僕もあれ以来いいかげん平和ボケてきてたのかもしれない。いきなりとはいえこんな寝ぼけ眼の細腕に引っ張られたくらいで体勢を崩し、倒れこんだのだから。その後も、もう不測の事態の連続に不覚の連続としか。

 

「……!」

軟らかかった。顔から勢いよく倒れこんで、それで痛みを感じなかったのだからこう言うしかない。こう感じてしまったのだから仕方ない。

「ルシャー……ぐっ!」

後頭部に両の手が乗せられ、重力加重方向に両手分、申し訳程度の力が鉛直下向きにかかり、僕の頭は再び、文字通り沈みこんだ。

 

……熱い。火傷を負いそうな程に。逆さになったわけでも重力反転したわけでもないのに全身の血が一気に頭に上ってくるのがわかる。その一方で頭の中が真っ白になって何も考えられなくなる。酸素の急激な欠乏も、理解はしているが息ができない。なんだ。この感覚だけが暴走してるのに身体が動かない状態は。

「ウ……ん……」

何かをつぶやくとともに僕の頭を抱える腕にさらに力が篭る。ヘッドロックというには力がまったく足りてないが、僕を更なる混乱と息苦しさに追い込むには十分だった。

くそっ、何をしてる。動け。僕がこんな弱い拘束から抜け出せないわけが無いだろう。頭を、上げるんだ。それだけだ。ほら、動けっ!

「ぷはっ。なにを、するんだいいきなりっ」

「あっ……。ウ……ん」

悲しそうに、残念そうに何事か呟く。……この女の夢の中でいったい僕は何をされているというんだ。

しかも、またしても抱擁するものを無くした腕と掌はふらふらと失ったものを探して彷徨う。

「ウ……ん。ウサギさん、いっちゃった。……ヴァインおねがい、おいかけて……」

……。ウサ、ギ?

「ヴァイン……はやく……」

 

いらいらっ。

 

この女。僕をいったいなんだと思ってるんだ。誰の顔をウサギと間違えてる。

 

……は?

「なんだと思ってる」だって?

……待て、そもそもまったく僕らしくない。僕は何を苛立っている。不測の事態とはいえ、ここまで動揺するなんて。この女の僕の扱いに対して腹を立てるだって? そんなことは僕には関係ない。この女にどう思われようが構わないはずだ。恨まれ、憎まれ、殺されても文句など言えないはずではないか。それを、さっきの程度で不満を感じたなんて。傲慢にも程がある。……どうか、している。心などというもののせいだろうか。本当にままならないものだな。理屈として当然でわかりきったことに本能的に反発しようとする。度しがたい。

 

彷徨う両手が目の端にちらつく。寝顔もけして安眠している、とは言えなさそうだ。かと言って自分を差し出すわけにもいかない。僕は自分の枕を取って掴ませてやった。疑似餌に見事食いついて抱きしめるあたり、動物並だな。

「ん……ヴァインの、におい……」

表情がほころび、そのまま静かになる。落ち着いた、のだろうか。

 

どうも調子が狂う。ついこの間まで赤ん坊のようだったはずが、もうすっかり身体的には成年のそれだ。人間の成長は僕らにとって見ればあっという間だ。人間から見れば犬猫や、それこそ虫を見るのと同じような尺度でしかないのだから。僕らと同じ姿をしているのに、瞬きの間に成長して、老いて、死んでいく。彼女もけして例外ではない。精神の方はいまだ幼児のそれと大差ないようにすら思えるのだが。タクト・マイヤーズやエンジェル隊、その他僕が知る限りほぼすべての人間は彼女のこの人格を「可愛い」と称し、好ましいものと見ているようだ。確かに、今のこの人格が彼女にとって不利益をもたらすものではないことはわかる。

しかし、彼女本来の人格素養はこうではなかったはずなのだ。『ライブラリ』管理者の一族はみな一様に理知的で、同じ管理者であるノアやシャトヤーンの2人とどこか共通する気配があった。一族・両親の元で育ったならば彼女もまた理知的で、精神的にも強く成長しただろう。僕がすべてを奪い、閉じ込め、酷使した為に彼女の精神の成長を止め、流れる時間は彼女の身体と心を引き離した。僕の過去の行いが現在の彼女をつくりあげたのだ。今更どうしようもないが、終わったこと、と済まされていいわけも無い。10数年。『ヴァル・ファスク』にとってはたったの10数年。それでも彼女にとって、そして僕にとっても大きく、長い10数年。どう足掻こうと戻らない年月。

その中で僕は彼女にありきたりすぎる想いを抱いた。どうかしている、『ヴァル・ファスク』ともあろうものが。その想いの正体に気づかぬまま僕はエルシオールに赴き、あの騒がしい連中と出逢った。思えば、偽りの関係、嘘と裏切りを重ねた生活とはいえ、あの時間は間違いなくこれまでで一番幸せな日々だった。彼女の見るウサギの夢も、その頃の夢であるに違いない。僕はエルシオールで『心』を知り、自らの想いの正体、『心』を知ってしまった。

 

そして今、心から思う。彼女を守りたい。例えこの先彼女の側に居られなくなろうとも、彼女と接する立場が如何に変わろうとも、それは変わらない。距離が離れても、僕のことをどのように思おうと、それだけは。僕が奪ってしまった彼女の幸せはもう返すことはできないけれど、誰であろうと彼女から何も奪わせはしない。彼女が望むのならなんにでもなろう。家族でも、友達でも、憎い仇にでも。ただ、もう二度と彼女を苦しめる存在にはならない。すべての苦しみから守る。それができるのならば、僕はもう他には何一つ望まない。この世界のすべてよりも、彼女ひとりを守れればそれでいい。

穏やかなその寝顔を見ているだけでふつふつと力がわいてくるような気がする。これが、心。この温もりが。すべての答え。

 

 

今なら、ぐっすりと眠れる気がする。

 

これまで長い年月を生きてきて人間が言うところの「快眠」や「安眠」など感じたことなどなかった。睡眠は身体と脳を休める本能から来る生理的行動であって、夢見がいい悪いなど考えたこともない。ましてやまともな心など持っていない『ヴァル・ファスク』の夢見などいいはずも無い。心を知ってからは特にそうだ。「心が休まる」眠りなど、経験したことがない。そんなことを望めるわけも無い程に多くの苦しみや悲しみを生み出してきたのだ。

 

けれど今なら。

 

虫がいい。傲慢な思いだ。つい今、この目の前の少女さえ守れれば他には何一つ望まないと強く思ったはずなのに。この身の強欲さには呆れ果てる。この席を立ってソファーにいく、そして眠る。ただそれだけのことをする力が出ない。この安心しきった寝顔が見られるこの席を立つ気が起こらない。脱力してしまい、どうにも意識が遠くなっていく。

 

 

今、このまま睡魔に身を委ねていいだろうか。

罪深いこの身に大それた行いだ。

今、この椅子で眠る、それだけの欲望を満たしてもいいだろうか。

僕自身の想いを僕自身が裏切るなど。強欲にも程がある。

今、この少女と手を繋ぐ、そんな贅沢を、僕の行為を許してくれるだろうか。

僕はこの少女にこれまで何をしてきた。そんなことが許されるとでも思っているのか。

 

 

 

誰に願えばいいのかはわからない。それでも、お願いだ。

今だけは、今宵一夜だけは……。

 

 

 

僕は、枕を抱きかかえる細く白い手にそっと自分の手を重ねた。今、この手の温もりを感じてこの安らいだ寝顔を見て眠れれば、例え椅子に座ったままでも、僕には幸せすぎるだろう安らいだ眠りが得られそうなんだ。分不相応なのはわかっている。これまで多くの人から安らぎを奪ってきたこの身には過ぎた欲望だろう。

 

 

 

 

それでも――。

 

 

 

 

 

今、己の安らぎの為だけに手を伸ばし、繋がった。繋ぐ前よりも彼女の寝顔に笑顔が浮かんだように見えるのは僕の傲慢故か。

 

 

 

 

 

 

「おやすみ。……ルシャーティ」

 

 

 

 

 

 

 

願わくは、どうか僕と彼女によい夢を―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

ええ、おやすみなさい。ヴァイン――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどろみの中で、声が聞こえた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この声が現実でないのはわかっている。これは僕の望みから聞こえる幻聴、僕の心の願望が作り出した声なのだとわかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、安らぎの鐘の音が胸に染み渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とても安らかで、心地いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、心から満ち足りた、眠り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とても、いい夢が、見られそうな……。