「あの、弟のことなんですが、最近様子がおかしくて……」
本日の相談者、ルシャーティさん。
「おかしい、と言うと?」
相談室室長、タクト・マイヤーズ。
「前にも増してあまり家で話さなくなったと言うか。よく何も言わずにどこかに出かけるようになりました」
「ふむ、女かねえ?」
相談室相談員、フォルテ・シュトーレン。
「フォルテさんそんなまさか!」
同じく相談員、蘭花・フランボワーズ。
「いやいや、可能性の話だけどさ。無くはないんじゃないかい?」
「はいは〜い、友達ができたんじゃないですか?」
同じく相談員、ミルフィーユ・桜葉。
「……甚だしく失礼なことを言うようですが、あのヴァインさんに限ってあまりそういったことは考えにくいかと」
同じく相談員、ミント・ブラマンシュ。
「……ルシャーティさんに、隠す必要がある何か。ルシャーティさんに関係したことではないでしょうか」
同じく相談員、ヴァニラ・H。
「私もヴァニラ先輩と同意見です。なにかプレゼントのようなものを内緒で用意されているのではありませんか?」
相談室の新人、烏丸ちとせ。
「いやあ、アイツならそういうのはもっとうまくやるだろう」
「わたくしもそう思いますわ。裏工作のお得意なヴァインさんですもの。気づかれるような隙は作られないかと」
以上7人。どんな悩みもたちまち解決、銀河一のお悩み相談室。
「なにか他に心当たりは無いかい、ルシャーティ。最近ヴァインが変わったと思えること。何でもいいよ」
その名も―――――
「その……わたしもよく知らないんですが、最近なんだか地方惑星のアイドルに夢中みたいで」
「……はい!?(×7)」
すぅらんpresents G.A.コメディSS 仮題
「追跡! エンジェルお悩み相談室!」
〜ヴァインのひみつをおえ!〜
そんなこんなである日、家を出たヴァインくんの尾行中。
「許せないわヴァインのやつ! ルシャーティという恋人がありながらアイドルに夢中なんて!」
「あの、ヴァインは弟なんですけど……」
「ま、ルシャーティじゃなくてアイドルってのは引っかかるけどようやくアイツも女に目覚めたかい」
「いえ、弟……なんですけど」
「あんなにルシャーティのこと大事にしてたのにこともあろうにアイドルってどーゆーことよ。本当だったらアタシの蹴りで大気圏から追放してやるわ」
「あの……弟ですから」
「ま、なんにせよあのヴァインが入れ込むようなアイドルってのも気にはなるねえ」
「確かに、意外だよなあ。あれ、ミルフィーとミントとちとせは?」
タクトが辺りを見渡しても見当たらない。はて。
「何言ってんだい。あの子らは今日は休みだよ。前から休暇願い出てただろう?」
「こんな面白そうなときに休みなんてついてないわよねえ、ミルフィーのクセに」
「そうだねえ、なんか3人してやることがあるっつって最近よく顔合わせて相談してたよ」
「そうなんだ。知らなかったよ」
「おいおい室長殿。しっかりしておくれよ」
タクトたちが皆この調子で、ちゃんと寡黙に尾行を継続しているのはヴァニラ・Hただひとりだけであった。
「みなさん、ホシが動きました」
「おっと。すまないね、ヴァニラ」
「いえ……」
そして、ヴァインと一行が行き着いた先は……地方惑星のコンサート会場。
「……本当、だったんだ」
「そうとわかったらふんじばって取っちめてやるわ! 行きましょ、ヴァニラ」
「……はい」
「ちょいとお待ち、2人とも!」
「なんですかフォルテさん?」
「あんたらは気にならないのかい? あのヴァインのやつが入れ込んでるって言うアイドルがさ」
「と言うことはフォルテさんまさか」
「ああ、あたしらも会場に潜入してみようってことだよ」
「でもフォルテさん」
「まあそれは室長が決めることだ。どうだい、タクト」
「へ? いや、そもそもアイドルに夢中ってだけで取っちめて悩み解決になるわけでもないし。とりあえず入ってみようか」
「よーし、室長命令だね。というわけで、ここのチケット代、室長殿頼むよ」
「へ?」
「さっすがフォルテさん。よろしくねタクト。行こっヴァニラ」
「はい。タクトさん、ありがとうございます」
「すいませんタクトさん、弟の為に」
「あれ? ええ?」
5人分のチケットを会場前のダフ屋で購入。締めて8万5千ギャラになります。よい子はダフ屋行為は駄目ですよ。
こうして主にタクトの財布が多大な損害を受けて一向はコンサートホールに侵入を果たす。
そして一行が会場内で目にしたものとは!
敵か味方かまぶたの母か!?
いやいやそんなもんじゃない。
扉の向こうに地獄を見た!
『D! I! G! I! CHA! RAT! D! I! G! I! CHA! RAT! D! I! G! I! CHA! RAT!』
レタス色ショートヘアーに猫耳メイド姿をした10歳のアイドルがそこにいた。
『D! I! G! I! でじこちゃ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!』
レタス色ショートヘアーに猫耳メイド姿をした10歳のアイドルに狂乱して右手を突き出し飛び跳ね、叫びまくるヴァインの姿がそこにあった。
タクトの月末をピンチにしたそのチケットには、こうプリントされている。
『D.U.P.ブロ星系内コンサートツアー413春! 出演:D.U.P. G・G・F』
『(ブ)バイトしてる姿もgood!』
GO! GO!
『(キミ=ヴァ)イタズラ癖もお茶目でgood!』
GO! GO!
『(ブ)にょにょにょ言葉もシビれるぜ!』
GO! GO!
『(ヴァ)マジな激怒も刺激的!』
GO! GO!
『(ブキミ)ぼくら何から何まで大好きでじこちゃ〜〜〜〜〜ん!!!』
かつて見たことの無いハジケまくりのヴァインくんは一行をドン引きさせるには十分であった。
「ふぉ、フォルテさぁ〜〜〜ん! アタシもうトリハダが〜〜」
「あたしもさっきからサブイボ立ちっぱなしだよ」
「ヴァイン……こういうやつだっけ?」
「……見てはいけないものを見た気分になりました」
そして歌は終盤へ向けて加速していく。会場の熱気と叫びと共に。
『(ブ)ずっと熱烈ラブコール!』
GO! GO!
『(で)嘘をついたらお仕置きにょ!』
GO! GO!
『(ヴァ)どんなときでもついていく!』
GO! GO!
『(で)浮気したら許さないにょ!』
GO! GO!
『何と言っても主役はあたしよでじこで〜〜〜〜す!!!』
『D! I! G! I! CHA! RAT! D! I! G! I! CHA! RAT!』
「あの……。ルシャーティ……」
「わたしの弟は『ヴァル・ファスク』からわたしを庇って死にました」
遠い目をしてルシャーティが言った。その目はもはや何者も映してはいない。
「えっと、あの……ヴァインは」
「その名前を言わないでください!」
「……!?」
「わたしのことを守ると言ったくせに、わたしよりもアイドルに夢中になって、こんなところでハジケてる『ヴァル・ファスク』の名前なんて……。言わないで……ください……」
「ルシャーティ……君は……」
「許したのに……すべての過去を許したはずなのに……。これからは本当の姉弟として仲良くやっていこうねって決めたはずなのに……。仲直りしたのに……許したのに……大好きなのに……なんで……なんで……。何で……涙が止まらないんですか……。あの人は……あの男は……わたしの弟なのに……。涙が……止まらないんです……」
『追いつ〜け〜追〜いこ〜せ〜 で〜じことブキミのハミだしロックン で〜じことブキミのハミだしロックン』
曲は盛り上がりの最高潮に達しているというのに、なんとも暗い集団がひとつ。
『で〜じこと! ブキミの! ハミだしロックンロ〜〜〜〜〜〜〜〜ル!!!』
「どうすんだい、タクト。この状況」
『D! I! G! I! CHA! RAT!』
「そ、そうよ。何とかしなさいよ」
『D! I! G! I! CHA! RAT!』
「な、何とかって言われても……」
「司令官として。命令してください、タクトさん」
「うぅ……」
『D! I! G! I! CHA! RAT!』
「さ、作戦失敗! 我々はこれより現戦線を放棄する! エンジェル隊全機、撤収!!」
「了解!!!」
「ごめんなさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!」
『D! I! G! I! でぇじこちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!!!!!』
すぅらんpresents G.A.「メタ」コメディSS 真題
「でじことヴァインのハミだしロックンロール」
〜中の人つながり〜
終われ
*注釈deアト(腐れ)書き
ヴァイン=喜美という声優さんの一致から来る、一人のヴァイン好きとして書いてて泣きたくなる話ですが、この物語の中では同じ原則に基づき、ミント=ぷちこも成立しており、イベント当日にはミント(ぷちこ)はステージ上にいます。描写はしていませんが、行間を読んでください(暴言)。
同様の理由で、ミルフィーユとちとせもD.U.P.の前座「G・G・F」としてステージに立ったため、当日はいません。察してください(暴言)。
ちなみに、新谷良子さんの演じるG・G・Fメンバーは歌を歌うユニットのメンバーではありません。まあそこはメタなので(適当)。
さらに、後藤沙緒里さんはすでにG・G・Fを卒業しております。あしからず。
っていうかG.G.Fって今もまだあるんですかね?(暴言)
もひとつ、D.U.P.もまた活動休止しております。あしからず。
苛立つ日々の中、たまにこんな勢いだけのやつも書きたくなったというひとつの極論です。ええ、私個人は楽しかったです。
雛鸞