カツカツカツ。消灯時間などとっくに過ぎ、ひっそりと静まり返った艦内に響く靴音。誰もいない通路を進むその人物は、右手に白い袋を持っており歩くたびに金属音を立てている。足音の主は少しずつ速度を上げながら目的地へ近づいていった。

 

 

         〜秘密の○園〜

                      作・三雲

 

 

 その人物、ミルフィーユ・桜葉は目的地、銀河展望公園へ着くとその中へ入っていった。           

時刻は午前2時前。公園には当然人気はなかった。夜の公園に一人佇む桃色の髪の少女…。

 

「タクトさんはまだ来てないのかな。」

 

 待ち合わせの人物はまだ来ていないらしい。静かな公園に鼻歌が木霊している。体を揺らすたびに袋の中身である何かが乾いた音を立てる。彼女は上映前に客席に座っている観客のように、上映開始のブザーが鳴るのをじっと待っていた。

だが、彼女は全く気づいていなかった。自分のほかに観客がいることに。その客は公園の茂みに潜みこれから何が自分の前で起こるのか期待に胸を膨らませていた。

 

「こちら蘭花。ミルフィーが到着したわ。どうぞ。」

 

チャイナ服のような服から見える、すらりとした脚が美しい少女が言った。この少女、蘭花・フランボワーズはミルフィーが来るよりもずっと前からこの茂みに隠れていた。

 

「こちらミント。タクトさんはまだなんですの。どうぞ。」

 

 上品な声で無線の相手ミント・ブラマンシュは答えた。

 

「タクトはまだ来てないわ。どうぞ。」

 

「わかりましたわ。では、また動きがあったら連絡してくださいまし。どうぞ。」

 

「了解。」

 

そう言うと蘭花は無線を切り、トランシーバーを置いた。一方、ミントの部屋では話が終わるのを待っていた片眼鏡をかけた女性、フォルテ・シュトーレンがミントにさっそく質問していた。

 

「で、どうだい。二人は来たのかい。」

 

「ミルフィーさんは来ましたけど、タクトさんはまだお見えになっていないそうですわ。」

 

「ほう、まあそのうち来るだろう。」

 

 ミントの話を聞き一瞬がっかりしたフォルテだったが、気を取り直すとグラスに酒を注ごうとした。だが、いくら傾けても中身は出ず、仕方なく別のボトルを開けた。

 

「あの、フォルテ先輩。さっきからだいぶ飲んでいらっしゃるように見受けられますが。」

 

「飲みすぎは…体に良くありません…。」

 

 真面目がそのまま歩いているような性格である烏丸ちとせと、ナノマシンを使った治療ができるヴァニラ・H(アッシュ)がフォルテをそれぞれたしなめる。

 

「うるさいねー。そうだ、ちとせ、あんたも飲みな。」

 

「フ、フォルテ先輩、そんな、お酒なんて。ち、ちょっとなにをなさるのですか、止めてください先輩。」

 

「いいから付き合いな。酒は大人のたしなみだよ。」

 

フォルテに無理やりお酒を飲まされそうになり、部屋の中を逃げ回るちとせ。                 フォルテたち3名はミントの部屋で蘭花から連絡が入るのを待っている。そもそもなぜこういうことになったのかというと…。

 

 

 午後5時ごろ。エルシオールのティーラウンジではミントとちとせがお茶をしていた。

ミントは高級紅茶に、品の良いカップ。対して、ちとせは 茶色の湯飲みに緑茶を注ぎちょっと遅いティータイムを楽しんでいた。

 

「やはり最高級の宇宙ダージリンはおいしいですわね。ちとせさんもいかがですか。」

 

ミントは一旦カップを置くと、ちとせにも自分の飲んでいるお茶を勧めた。

 

「い、いえ、私はこれで結構です。」

 

 自分の給料ではとても手が届かないお茶を進められ、遠慮して断るちとせ。                    

 

「あら、そうですの。では私はもう一杯。」

 

そんな様子を見てニコニコしながら、ミントはお茶をおかわりした。いつもとかわらない日常であった。だが…

 

「ねえねえミント、ちとせちょっと聞いてよー。」

 

その日常を破る者がいた。

 

「あら、蘭花さん。どうかなさいましたの。」

 

「蘭花先輩、そんなに慌てて何かあったのですか。」

 

ミントとちとせが蘭花に尋ねる。蘭花はいつものカンフースーツではなく、トレーニング用の服を着ており、首にはタオルを巻いていた。体はやや火照っており、トレーニングの後、シャワーを浴びて間もないようだった。       

蘭花はやや湿ったブロンドの髪をかきあげ、ずいっと身を乗り出すと早口でしゃべり始めた。

 

「さっきそこでね…。」

 

 

「ふうー、いい汗かいたわ。さ、早く部屋に戻らなくっちゃ。」

 

 トレーニングを終えた蘭花はシャワーで汗を流すと、急いで自室へ向かっていた。エンジェル隊の私室があるCブロックへ近づくと…

 

「じゃあタクトさん、夜中の2時に展望公園に来てくださいね。」

 

「ああ、わかった。必ず行くよ。」

 

タクトとミルフィーがミルフィーの部屋の前でなにやら密談をしている。

 

(あの二人そんな時間に公園で何をするのかしら)

 

「いいですか。他の人には絶対に絶対に、しゃべっちゃだめですよ。」

 

「うん。おっと、そろそろブリッジに行かないと、レスターに叱られる。」

 

「それじゃあ、また後で。」

 

そういうとミルフィーはそそくさと自分の部屋へ入っていった。

 

(他の人にはしゃべっちゃだめ、夜の公園、二人きり…。これってひょっとして。)

 

「デート、ですわね。それも深夜の公園で密会だなんて。」

 

蘭花の話を聞き終えミントが結論を出した。

 

「でしょう、ミントもそう思うわよね。」

 

意見の一致した蘭花がうれしそうに頷いた。ただ、ちとせは納得が行かないようで、

 

「本当にそうでしょうか。例えば、仕事上のお話ということもあるかと。」

 

と反論するが、すぐさま、

 

「ないないない。ミルフィーに限ってそんなこと100パーセントありえないわ。」

 

「それにそのような話でしたら、何も深夜の公園で話す必要などないでしょうし。やはり、これはプライベートなことに間違いありませんわね。」

 

と、先輩二人に強くに否定されてしまった。

 

「こうしちゃいられないわ。さっそくフォルテさんとヴァニラに知らせなくっちゃ。みんなで今夜は公園に張り込みよ。」

 

「ええっ! 蘭花先輩それはちょっと…。そうですよね、ミント先輩。」

 

ちとせは蘭花の発言を聞いて再考を促し、ミントの口からも注意してもらおうとした。

 

「そうですわ。蘭花さん。」

 

蘭花をたしなめるミントを見て、頷くちとせ。

 

(やはり、ミント先輩は分別をわきまえていらっしゃいますね。安心しました。)

 

しかし、その安心も次の言葉であっさり砕かれてしまった。

 

「全員で行ったらいくら鈍いミルフィーさんたちでも気づかれてしまいますわ。ここは、一人を代表として残りの人はその人からの連絡を待つのがよろしいと思いますわ。」

 

「えっ!」

 

ちとせの期待に反し、ミントも二人が何をするのか知りたいようだ。

 

「なるほど、じゃあ私その代表をやるわ。」

 

困惑するちとせをよそにミントと蘭花は役割分担を決め始めた。

 

「では、トランシーバーは私が用意いたしますわね。後で、お部屋に届に行きますわ。あ、それからフォルテさんとヴァニラさんに午前2時前に私の部屋に来てくださるように伝えてくださいまし。面白いものが聞けますわよ、と。」

 

子供がいたずらを思いついたときのような顔でミントは言った。

 

「オッケーわかったわ。」

 

そういうと、蘭花はティーラウンジを文字通り飛び出し、二人を探しにいった…。

 

 

「さて、私もそろそろ参りましょうか。ちとせさん、今夜は長くなりそうですわね。」

 

ミントはちとせの方を向き、微笑みながら言った。

  

「わ、私は行くつもりはありません。やはり、こっそり覗き見するなんて良くないと思います。行くのでしたら、先輩方だけでどうぞ。」

 

無関心を装い答えるものの、心の中では見たいとちとせが思っているのを見透かして、

ちとせに揺さぶりをかけるミント。

 

「あら、ちとせさんはタクトさんとミルフィーさんが何をするのか気になりませんの。」

 

「そ、それは、プライベートで何をしようと、タクトさんたちの自由ですから。」

 

ちとせは、ミントの目を見ずに答える。

 

「ですが、タクトさんは私たちの上官ですし、特定の方と親密になられると仕事の面でもいろいろと影響が出てくると思いますわ。」

 

ゆっくりと近づきながらミントは言った。

 

「タ、タクトさんはそんな公私の区別をなくすようなことはないと思います。」

 

何度も舌をかんでしまうちとせ。誰の目にも動揺しているようにしか見えない。

 

「では、二人が特別な関係になってもよろしいんですのね。」

 

ちとせを見上げながらミントは言う。微笑みこそ崩していないが、目は鷹のように鋭い。

 

「…はい。」

 

そう答えるちとせの顔は、とても哀しげだ。

 

「二人が恋人同士になったとしても、ですか。」

 

伏目がちに話すちとせにミントは容赦なく追い討ちをかける。

「恋人」と聞き、目を大きく開き、顔を紅潮させるちとせ。

なかなか、言葉が出でこない。気持ちを落ち着かせるべく、お茶を一杯飲み、しばらくしてからやっとの思いで、

 

「タクトさんとミルフィー先輩が、それを望んでいらっしゃるのでしたら…。」

 

下を向きながら答えるちとせ。その体は小刻みに震えている。

 

「ふふふ、そんなことを言っていたら、ちとせさんの欲しいものは手に入りませんわよ。」

 

何とか冷静に対処しようとしていたちとせだったが、「欲しいもの」という言葉に反応し、思わず声を荒げる。

 

「わ、私は別にタクトさんと特別な関係になりたいなんて、思っていません!!」

 

二人しかいないティーラウンジに響く声。カップの中の小さな海がさざ波を立てている。その水面に写ったちとせの顔は今にも泣き出してしまいそうだ。

チッ、チッ、チッ。再び静寂が支配した場で時計が規則正しく時を刻み続ける。

秒針が半周した。ようやく自分の言った言葉の意味に気づき、ちとせは慌てて口を抑えた。

そして、その動作を待っていたかのようにミントが口を開く。 

 

「あら、ちとせさんはタクトさんとそのような関係になりたいと思ってらしたんですの。」

 

ミントは相変わらず笑顔のままだが、その笑顔は悪魔のように意地悪な笑みになっている。

 

「え、あ、あの、いえ、違うんです!! 私、本当に。」

 

ちとせの顔は沸騰寸前のやかんのようだ。いつもの冷静さが全く見られない。必死になって釈明しようとするが、言葉が続かない。

 

「まあ、もしも、気が変わったら来て下さいな。それじゃあ失礼しますわね。」

 

「…………。」

 

そう言うとミントは静かに席を立った。ちとせは顔を赤くしたままその場を動くことができずにいた…。

 

これがおよそ9時間前の出来事である。

 

 

 話を戻して、ここは銀河展望公園。ミルフィーは時々歩き回りながら、待ち人が来るのを今か今かと待っている。時刻はすでに2時を回り、長針と短針が重なろうとしていた。

 

「遅いなータクトさん。」

 

初めは待つことを楽しんでいたミルフィーも、待ちくたびれてしまったようだ。だが、それ以上にいらいらしている者が一人。

 

(もう、どこをほっつきあるいてんのよ、あの馬鹿は!!)

 

茂みに隠れている蘭花は腕を組み、しきりに歯軋りをしている。自分が待ち合わせをしているかのように…。

 

辺りを意味もなく歩き回っていたミルフィーがベンチに腰掛けようとしたとき、

 

「ハア、ハア。ごめん、ミルフィー遅くなって。」

 

息を切らしながら、ようやくタクトが公園にやってきた。

よっぽど急いできたのだろう、着いたとたん膝に手をつき、懸命に息を整えようとしている。 

 

「タクトさん。」

 

それまで曇りがちだった彼女の顔が、一瞬にして満開の花のようになった。

 

一方、違う意味で笑顔になった人物もいた。

 

「こちら蘭花。タクトが到着したわ。どうぞ。」

 

蘭花はタクトの到着を確認すると、すぐさまトランシーバーを手にとった。

 

「こちらミント。それでは蘭花さん、お二人のすぐそばまで近づいて赤いボタンを押してくださいまし。」

 

「赤いボタン……。ああ、これね。」

 

ミントの言葉を理解すると、蘭花は静かに茂みの中を移動し、二人まで数メートルのところまで接近すると、いわれたとおり赤いボタンを押した。

 

「…ごめん、随分待たせちゃったかい。」

 

「いいえ、私も今来たところですから。」

 

トランシーバーからタクトとミルフィーの声がはっきりと聞こえてきた。

 

「おっ、これはすごいね。どうなってるんだい。」

 

「驚きました…。」

 

フィルテは大げさに体をそらしながら驚きの言葉を言い、ヴァニラもいつもの無表情な表情ながらもほんのわずか目を丸くしている。

 

「ふふ、このトランシーバーには超高性能集音マイクの機能がついているんですのよ。」

 

ミントは二人の驚いた表情を見てご満悦だ。

 

「でも、それならミルフィー先輩に盗聴器を持たせれば事足りたのではないでしょうか。」

 

その発言の直後、ミントの部屋の時がしばらく止まった。

1分や2分にも感じられた沈黙の後、ようやくミントが口を開いた。

 

「まあ、たしかにそうですわね。でも、こちらの方が面白いでしょう。そうは思いませんか、ちとせさん。」

 

ミントはちとせのほうを向き、微笑しながら言った。だがその微笑は氷よりも冷たく、

ちとせはたちまち伝説の魔物、メドゥーサを見たかのように固まってしまった。

 

「あらあら、どうしたんですの、ちとせさん。」

 

心配そうに言葉をかけるミントだが、顔は明らかに笑っている。

 

「ナノマシンで、気付けを…。」

 

「大丈夫だって、そのうち目を覚ますよ。」

 

治療を行おうとしたヴァニラを制し、フォルテが言った。

 

「さて、と。あ、お二人が移動を始めたようですわ。」

 

ミント達が話している間に、タクトとミルフィーは公園の奥へと歩き出していた。それを追って蘭花も奥へと向かう。しばらくして立ち止まると、ミルフィーは持っていた袋から何かを取り出そうとしているようだ。

 

(えーと、二人が抱き合ったり、キスをしたらこのカメラで撮ればいいのね)

 

蘭花はミントから渡された赤外線カメラを手に持ちシャッターチャンスをうかがっている。

 

「いよいよ、ですわね。」

 

「さーて、じっくり聞かせてもらおうか。」

 

「…一言も聞き漏らしません。」

 

ミント達3人はトランシーバーの音に耳を済ませているが、ただ一人、メドゥーサ・ミントの呪縛から開放されたちとせは取り乱し、

 

「タ、タクトさん。仮にも上官とその部下がそんなことをするなんて。皇国軍軍規第…」

 

歩く皇国軍軍規であるちとせは、こんなときでも規則を気にしていた。

 

「ちとせ、うるさいよ。静かにおし。」

 

フォルテはちとせの口を抑え、黙らせようと試みた。

その間も、ミントとヴァニラは全神経をトランシーバーに集中させている。

 

そして、ミルフィーはあるものを取り出すとタクトに渡した。

 

「はーい、タクトさんスコップですよー。」

 

「サンキュー。ミルフィー。」

 

………………………………。

 

そう言うと、二人はなにやら地面を掘り出し始めた。訳がわからず戸惑っている者たちがいることも知らず、ミルフィーはやがてスコップを置き何かを地中から取り出した。

 

「あ、タクトさんこんな大きいのが掘れましたよー。」

 

そう言って彼女が高高と掲げたのは……芋。

 

「俺のも大きいぞ。」

 

負けじとタクトも自分の掘った芋を誇らしげに掲げる。

 

「わあ、すごいです、タクトさん。」

 

手を叩いて喜ぶミルフィー。

状況が飲み込めずに、言葉を失う盗み見ていた一人と、聞き耳を立てていた四人。

 

「いやー、芋掘りなんて懐かしいな。子供のとき以来だよ。」

 

土の中から次々に主を掘り出しながらタクトは言った。

 

「えへへへ。ここ、芝生も何にもないんでこっそり種芋を植えておいたんですよ。うーん、大学芋に、スイートポテト、あ、グラタンもいいな。今度作ってあげますね、タクトさん。」

 

早速どんな料理を作ろうかと考えるミルフィー。

タクトもミルフィーが作った料理を想像し、思わずよだれが出そうになり、口元を抑える。

 

「お、楽しみにしているよミルフィー。」

 

にやけた顔を正して、タクトは言った。

すると、ミルフィーは声のトーンを落として、

 

「えっと、タクトさん。このことは副指令には…。」

 

「わかってるよ、レスターには絶対言わないから。公園の敷地を無断で芋畑にしていたなんて知ったら、あいつ、怒るだろうからな。ほんと、柔軟性のないやつだよ。」

 

ミルフィーが最後まで言い終わるのを待たずにタクトが言った。

タクトはそう言うが、一般の公園でいくら何もないからといって勝手に作物を植えていいはずがなく、柔軟云々の話ではない。  そもそもいくら公園があるといっても、ここが艦の中であることを二人は半分、いや、今は完璧に忘れているようだ。

 

「はい。」

 

その言葉に笑顔で頷くミルフィー。タクトの顔がまたもにやける。二人ともとても幸せそうだ。

 

一方、ちっとも幸せでない人たちが5名。

二人の会話を聞きすべてを理解したミント達は、体中の力が抜けていくのを感じた。

 

「深夜の密会が芋掘りか、おかしいと思ったんだよ。あの二人がそんな急にくっつくわけないしね。」

 

帽子をかぶり直しながらフォルテが言う。

 

「まったく予想…していませんでした…。」

 

ヴァニラも、ぼそりとつぶやく。

 

「はあ、蘭花さん帰ってきてよろしいですわよ。」

 

「了解…。あー、せっかくこんな時間まで起きていたのにー。」

 

ミントがため息を吐きながら作戦終了を告げると、蘭花はグチグチと文句を言いながら無線を切った。

 

部屋は静まりかえっている。一体、自分たちは何をしていたのだろう。皆がそう思った。

そんな中、ちとせはほっとしたように頬を緩めると、

 

「でも…、良かったです。タクトさんとミルフィー先輩、今回の様子を見る限りでは恋人同士というわけではないみたいですね」

 

ちとせの呟いた一言に、部屋がまた騒がしくなり始める。真っ先にフォルテが口を開き、

 

「へーえ、ちとせ。あんたタクトに気があるのかい。」

 

テーブルに肘をつきながらフォルテが言った。

 

「えっ、そ、それは確かにタクトさんは尊敬していますが、あくまでも上司として、です。」

 

慌てて取り繕うとするちとせだったが、3人は全く相手にしていない。

 

 「…タクトさんは、やさしいお方です。」

 

「誰にでも、ですけれどね。」

 

先輩たちから次々に言葉を浴びせられ、激しく赤面するちとせ。今なら、彼女の顔でやかんを沸かすこともできそうだ。

 

「ち、違います。わたしはあくまでも尊敬する上司の方が、分別をもっていらっしゃっ…」

 

必死になって釈明しようとするちとせだが、ミントとフォルテはそんなちとせの様子を

かえって面白がっている。

 

「そんなに無理して隠さなくてもよろしいのですのに。」   

 

全部お見通し、といった調子でミントが言う。

 

「本当に違います!! 大体、さっき先輩方もただの芋掘りだとわかって、ほっとした表情をなさっていたように見受けられましたが。」

 

執ようなからかいの言葉に耐えきれずちとせは、3人も本音は同じではないかと指摘し逆襲に転じた。

 

「な、なに言っているんだい。」

 

「…そんなこと…ありません」

 

フォルテは狼狽して帽子を落とし、ヴァニラもうっすらと頬を染めている。

ただ、一人ミントは全く意に介さず、

 

「皆さん、そろそろ寝ませんと仕事に差し支えますわよ。」

 

そう言いながら、寝巻きを取り出した。フォルテもすぐに落ち着きを取り戻し、床に落ちたものを拾い軽く咳払いをすると、

 

「そうだね、それじゃあお開きにしようか。あたしは部屋に戻って寝るよ、おやすみ。」

 

「お休みなさい…。」

 

「それでは、おやすみなさいませ。」

 

フォルテとヴァニラは挨拶をすませると、自分の部屋へ帰った。

ミントは二人を見送ると、ちとせのほうを向き、 

 

「ちとせさんも、おやすみなさいませ。」

 

と言った。直接口にこそ出していないが、話すことはなにもないという意思がはっきりと伝わってくる。       

ミント達がタクトのことをどう思っているのか聞きたかったちとせだったが、

 

「…わかりました。おやすみなさい、ミント先輩。」

 

そう言うと自室に戻っていった。 

ちとせが部屋を出たあと、戸締りをするミント。時計を見ると短針は3を指し、長針もスタート地点に戻りつつあった。

 

こうして、蘭花がタクトとミルフィーの密談を目撃したことから始まったこの騒動は終結したのだった。  

 

 

ちなみに翌日、タクトとミルフィーは、エルシオールの副指令殿に呼び出されみっちり絞られた。誰がしゃべったのかは…、おわかりですよね。

 

                            おしまい

 

 

  あとがき

 

初めて小説を書きましたが、書くことがとても楽しく作品自体は3日でできてしまいました。しかし、誤字脱字などのミスや、修正にだいぶ時間がかかってしまいました。当初はコメディのつもりだったのに、ややシリアスになってしまったり、展開が未熟だったりなど、稚拙な文ですが送らせていただきます。(批評していただければ幸いです)

この作品の経験を生かし今後も管理人様や皆様と末永くお付き合いさせていただきたいと思っておりますので、未熟者ですがこれからよろしくお願いいたします。

 

 

 

         2004年10月15日    三雲