●”フォルテとお酒”

 雨漏りと隙間風に年中悩まされるあばら家の壁に、響く泣き声。それを照らすものは、天井から吊り下がる裸電球。
『うわぁああん、ひどいやおとうさん、ぼくのあげた肩叩き券でおさけをかってくるなんて』
 年端のいかない子どもが、声を限りに泣いている。
『・・・いいか、くそガキ。金っていうのはな、酒瓶を手にするためにあるんだ・・・』
 ーー 十数年前、父の日、の翌日。

 一方、ーーエルシオール、PM10:00。
 散らばる酒瓶を見、アルコール臭をかぐと、なんとなくそんな光景を思い出す不遇の人一名。
 ーーま、そんな奇矯な交換システムなどないのは今となっては知っているがーー、当時は固くそう信じていた。

「・・・シュトーレン大尉、カゼを引くぞ・・・?」
 見回りに歩いていたジェイドは、食堂の端っこで、ビールとワインと焼酎とウィスキーとラム酒とチェリー酒・・・、もうやめよう。計三十六本の、大小のガラス瓶を前に、ひとつのコップを手に、机の上に伏しているフォルテを発見。
「うう・・・ん」
 うわ、と身構えるジェイド。腕を掴まれてそれを引っ張られれば、なんとなく危機感が湧くわけで。
(しまった相手のリーチに・・・!)
 受身を取る用意をしつつ、言う。
「シュトーレン中・・・、フォルテっ、寝ぼけてるとそこのエア・ロックから宇宙に捨てちゃうぞ!」
「・・・はへ?」
 眠そうな目を瞬きつつ、起こし主(ぬし)を見上げるフォルテ。
「やぁ、司令官どの。どうだい一杯・・・?」
 ふにゃあ、といつになくシアワセそうな表情を浮かべるフォルテ。
「・・・いや、仕事中、だし」
「そんな硬い事言いなさんな」
「・・・遠慮する」
「飲まないの? 酒」
「飲めない。」
「ほー」
 人差し指でジェイドの鼻先をつつくフォルテ。
「へええ、そうかいそうかい」
「・・・きもち悪いな」
「あっはは! いいなぁ、あんた、ダイスキだよ」
「・・・そういうのほいほい、そこら中で言ってるのか・・・?」
 抱きつかれ、顔をしかめつつ、問うジェイド。酔っ払いっていうのは皆同じだな、と内心思いながら。
(アルコールが体内を回っている間、理性とか冷静な判断力っていうのは、どこに行ってしまうんだろう・・・?)
 くくく・・・、と愉しそうに喉の奥で笑い声を立てるフォルテ。
「そうだよ。そこら中でね」
 ふう、とジェイドは息をつく。代謝されつつあるアルコールーーアセトアルデヒドの匂いがすぐそばに。
「からかうなら他所でやってくれよ。オレはーー」
「誰かさん一筋、か」
 くっくく、と相変わらず愉しそうに笑うフォルテ。
「いいなぁ。そういうところもスキだよ」
「気持ちは有難く受け取っておく。しかし」
「わかってるわかってる」
 ひらひらと手を揺らすフォルテ。
「ほらほら、もう行った、行った」
「・・・何だよ、自分で引き止めておいて」
「ぐー・・・・・・」
「・・・・」

 翌朝。何か握り締めていたらしい紙片をフォルテが広げてみると、そこにはこう書かれてあった。
『肩たたき券』
「・・・??」
 首をひねる、フォルテ。

● 星の歌 ●
 2、『裏返しのフォト・フレーム』

 ”過つは人の常、許すは神の業”

 ジェイドの部屋の机の上には、ひとつの写真立てがある。
「ジェイドさん、お聞きしてもよろしいですの?」
「何を?」
 尋ねるミントにだるそうにジェイドは答えた。
「これは・・・?」
 伏せて裏返しに置かれてある写真立てを、ミントは不思議そうに指で示していた。
「ああ、それか」
 ミントの隣までくると、それをひょいと持ち上げて、裏返すーー表では、一人の女性が微笑んでいた。
 白いワンピースに、麦藁帽子がひどく似合っている。ーー夏のひまわり畑みたいな屈託のない笑顔で。
 ミントはひとつの事実に思い当たる。
「・・・こ、恋人、ですの?」
 可笑しそうに笑いーーそれから、ミントがテレパスだったのを思い出してそれを苦笑に変える、エンジェル隊の臨時司令官。
「妹だよ」
 ミントはほっと胸をなでおろす。
 ジェイドが再び可笑しそうに笑っているので、ちょっと憤慨して、抗議などしてみる。
「ーーもう。ジェイドさん、あなたのお考えは、わたくしの耳にこのように筒抜けですのよ。ご用心なさいませ?」
 片手で軽く、白いウサギみたいな耳を持ち上げてみせる。
「美人だろ?」
 あんまりジェイドが屈託なく言うので、ミントは少しばかり、呆れてしまう。
「・・・そんな風に言ってもらったら、幸せですわね」
 ジェイドの脳裡に浮かぶ言葉は、すでに彼女が故人なのだということを示していた。ちょっとばかりしんみりした気分になる、ミント。
「・・・あ、あら。そうじゃありませんわ。そうではなくて、わたくしが思ったのは、なぜ裏返しに置かれているのか不思議だったんですの」
「−−ああ、それ?」
 ジェイドの声がちょっと低くなる。
「学生時代に、寮の部屋に置いといたら、クラスメイトがからかうもんで、そんな癖がついたんだ」
 あの時は殴り合いのケンカになったなあ、などという心中の声がミントの耳には届く。
 ふう、と小さくミントは息を吐いた。
「・・・案外、血の気が多いんですのね」
「そ、そんなことないって。−−今は」

   * * *

 不思議ですよねー? とミルフィーユは言った。
 それに応えてアイビー・コークはだるそうに口を開く。
「ああ、アイツ、写真立てを伏せとく癖があるんだよ」
 何かの用事でジェイドの部屋に入った際、ミルフィーユはそれを見たらしい。
「写真立てに入れるんなら、ちゃんと飾っておけばいいのに!」
「そうしたくないんだろ」
「不思議な人ですねー」
「だろ?」
 なぜか我がことのように自慢げに、アイビー・コークは胸を張る。

 ーーちなみに、何故にこのふたりはクジラ・ルームで甲羅干しなどしているのだろうか。−−サングラスとサンオイルまで用意して。

 それを三十分前にジェイドが問いただしたところ、司令官、アイビー・コークの答えはこうだった。
「日焼けってのはなー、モテる男の条件なんだよ」
「チンギス・ハンが勤しんでいたのは日焼けではなく戦争だったと思うが」
「いいの」
 飼い猫のいたずらを見逃すみたいな口調で、アイビー。
 −−コレについて行かねばならないのかと改めて眩暈を覚える一瞬。ていうか、何でオレはコイツの副官なんだ? これを暗殺して成り上がるためか? −−三秒くらい本気でそう考えるジェイド・カ■ピス。
 ともかくジェイドはその場を後にした。

「ジェイドさんはアイビーさんのことが嫌いなんですか?」
 ジェイドが帰り際、通りがかったクロミエが問う。
 ちなみにその手には宇宙ウサギに与えるらしいニンジンの入った段ボール箱を持っていた。
 そして頭の上に子宇宙クジラ、肩に宇宙文鳥・計六羽、足元に黄土色に緑の斑点模様の宇宙ニシキヘビ一尾。『毒はないですよ〜』と先日クロミエは言っていたが、それに噛まれたらふつうにすごく痛そうだ。
「・・・どうだろう? 考えたことがない」
 それもすごい話だが。ジェイドは言う。
「ワトスン博士が言ってるだろ。自分はホームズの備品や習慣の一部みたいなものなんだって。人間にとって、究極的には好きな人間も嫌いな人間も存在しない。
 選ぶべきは、”大切にしたい人間”と”大切にしなくても一向に気にならない人間”だろ?」
「諸説あるかと思いますが」
「ーーたぶんな。あのバカがやたらムカつくことも含めてそれはオレの習慣の一部なんだ」
「・・・変わった方ですね」
 クロミエが言う。
「・・・かもな」
 ジェイドを見送り、クロミエは改めて浜辺で寝そべっているふたりに目を戻す。・・・仲よさそうである。

   * * *

「それでさー、アイツときたら」
 アイビーの昔語りはまだ続いていた。
「超過保護なんだぜ。俺がエリスをデートに誘うといつもついてくんの。それでさ・・・」
 砂浜は、近づいてくる者の足音を消し去る。
 ーーが、オートマチック銃の装填音とセーフティを外す音までは消し去ってくれなかった。

 えらく低い声が、アイビーの横から聞こえた。
「今更貴様がエリスの名前を口にする権利があると思ってるのか? めでたい頭だな?」
「・・・・・・・・・・・・や、やあ」
「アイビーさんってすっごくつまらないんですよ。ずっとジェイドさんの話ばっかりしてるんです」
 ミルフィーユがすがるように言う。ほとほとうんざりしているのに付き合っていたものらしい。
「しかもジェイドさんの妹が初恋のヒトってー。あたしの前で」

 薬莢がひとつ砂浜に落ちた。

「・・・射撃の腕は相変わらずだな。学生時代だって一度も的に当たったことなかったもんな〜?」
 アイビーがからかう。・・・が、なぜその隙にジェイドは弾倉を入れ替えているのだろう。
「アレは近視に自分で気が付いてなかったんだ。それにコンタクトを買う金もなかった」
 かしゃり、とやたらに軽快な音が、アイビーの目の前で、する。
「は、ははは・・・。ところでその旧式の銃どうしたの」
「さきほどそこでシュトーレン中尉に会ったのでな。−−借りた」
「ふ、ふ、ふぉるてぇええ〜」
 恨みの声を発しつつ、アイビーが砂浜を駆け出す。のしいかみたいなそのポーズは何なのか。
「・・・ジェイドさん、当たってませんよ」
 のんきにミルフィーユが言う。案外、生クリームに金平糖でも落すような感覚で見ているのかもしれない。
「当てたら俺の仕事が増えるだろ」
 さらりと物騒なことを言い放つ。ミルフィーユにはいつものジェイドと変わりなく見えているがーー。
 ゆえに、こんな質問。
「そういえばずっと気になってたんですけど〜、アイビーさんって何をする人なんですか? ときどき戦闘の時にジェイドさんの後ろとか斜め前にいたりー、えらいひとと話をするときになると突然ブリッジに入ってきたりしますよね」
 そりゃないだろう。

「『写真立ての裏側』」
「・・・え?」
 呟く声に、ミルフィーユがジェイドの顔を見上げる。
「”初恋”? よく言うな」
 ヴァニラとフォルテ、蘭花が駆けてくる。
 −−何かあったのだろうか。
 エンジェル隊の四人のそれぞれの声が、ジェイドとミルフィーユのいる位置にも聞こえてくる。
 その音に、ジェイドは我に返ったらしい。
「”見るな”っ」
 その言葉はーー。
 ミントが立ち止まる。
 誰に向けてのものだったのか。
「ジェイドさん?」
 ミントが、不思議そうに呼ぶ。
「−−見る、必要なんかーー」
 くたり、とジェイドは砂の上に落ちた。そばにいたミルフィーユが慌てて受け止めた。
 ひどい耳鳴りと頭痛が、ジェイドの意識のほとんどを埋め尽くしていた。
「少尉、離れて・・・・」
 ミルフィーユを指すのか、それとも? ーーともかく、尚もジェイドはそう言った。

「大変ですわ! ヴァニラさん、医務室に」
 ミントが言い、ヴァニラがこくりと頷く。フォルテと蘭花も手を貸しにきた。
「何があったんだい? 普通じゃないよ」
 フォルテの問いに、ジェイドは自分の額を押さえた。
「・・・すまない。何か、おかしくーー」


 白。
 たゆたう場所(もの)は、白い霧の中。

「・・・ジェイドさん」
 ミントが手を握ってくれていた。どうも医務室にいるらしい。別に消毒薬臭が強いわけでもないのだが、天井だけで何か独特の雰囲気があるのだ。
 ジェイドは謝る。
「・・・ごめん。”見た”な? 悪い。聞かせるつもりなんかーー」
 テレパスの少女は自らの耳を冗談めかして、残る片手で軽くつまみ上げる。それにつれてその髪も揺れた。
「”この子”はそこまで優秀じゃありませんわよ。せいぜい断片的に声が聞こえるくらいです」
「そうか。よかった・・・」
 心底ほっとしたように、ジェイドが軽く目を閉じる。
 テレパスの少女が気づかわしげな顔をする。
 −−ミントに手を握られていると、心の奥底まで読み取られそうで、実は少しばかり落ち着かない。
 そう考えてから、自嘲気味にジェイドは皮肉の笑みを浮かべた。
 ーー嬉しいくせに。
 ミントが問う。
「アイビーさんと、何かありましたの?」
「昔の話だよ」
「でも、覚えているということは、あなたにとっては”現在(いま)”なのではありません?」
「・・・はは」
 虚を衝かれたというように、ジェイドが力なく笑う。
「・・・よくある話だよ。人間って、色々間違うだろ? 大事なのは、それをどこまで許せるかだ」
「・・・・」
 少しの沈黙ののち、ミントは別の問いを口にする。
「アイビーさんのことが憎いですか?」
 ストレートすぎる質問。ふだんのミントならまず言いはしない類の。
「どうかな。よくわからないーーいや、君には聞こえてるんだものなーー」
 −−肯定。
 しかしそのあやふやなものを、−−”感情”というもの全般を、ジェイド自身が信じたくないのだろう。肯定的なものにせよ、否定的なものにせよ。
「(あなたが)言いたくないことまでは言いませんわよ」
「わかってる」
 その後に『君は優しい』と続いていてーーそれは声にされることはなかったのだけれど。ミントは顔を赤くした。

 裏返しの写真立て。

 謝るということは誤ったということ?

 ーーでも、どんな謝罪にも消せないものがある。

 ゆるす?
 何を、何から。
 過ちは人の常、許すは神の業。けれどーー


 はは、とジェイドが力なく笑う。
「一連のできごとがさ、まるで数十分続く映画みたいになっていて。一度思い出し始めると止まらないんだよ。−−おかしいだろ? 頭痛はするし目はかすむしーー、何なんだろうな、これ」
 ミントが首を左右に振る。
 ついでに、頭をかかえる。自分のじゃなく。ジェイドの。
「忘れてしまっても誰も怒りませんわ」
「・・・いや、忘れないよ」
 起き上がり、微笑む。
「ありがとう、ブラマンシュ少尉」
 すでにいつもの調子で言うので、ミントは少しばかり残念な気がした。だから、少しばかり甘えてみる。ーーからかってみる。
「いつも心の中で呼んでるみたいに、ミントって呼んでいただいていいんですのよ」
「・・・・」
 三秒間の沈黙の後、誰かさんは厳かに告げた。
「”ブラマンシュ”って長いだろ」
 −−やや、決まり悪そうに。

 ひそひそ、と続くのはウワサ話。
『倒れたって』『えー、どうしたんだろ』『どっか悪いんじゃないのー?』・・・・・・・
 その中を、ミントは足早に歩いて通り過ぎる。
 ぱたり、と医務室の戸を閉めて、ようやく安堵した。
 外の見えない音と入れ替わりに、ぶつぶつ、とジェイドがぼやく実声が聞こえる。
「インフルエンザってわけでもあるまいに」
「艦内で銃など撃つのは、じゅうぶん平静じゃありませんわよ」
 入ってきたミントが言う。
「・・・・」
 かもな、とつぶやいてジェイドは身を起こした。
「アイビーはどうしてる?」
「なんだか元気がないみたいです」
 ミントについてきていたミルフィーユが言う。
「・・・オレ、下りるべきかな。こんな不安定なのがいたんじゃーー」
 ミルフィーユが必死の形相で力強く止める。
「そんなことありません! ーーそれに、もしそうなったら戦闘の指示は誰が出してくれるんですか!? ミントだってそういうのは上手いけど、あたしたち、けっこう好き勝手に戦うんでバラバラですよ! それに、それにーー」
 ぺし、とミントがジェイドの頭を軽くはたく。何を考えたものかは、ジェイドとテレパスしか知る由はないがーー。
 ミントの表情を見ればなんとなく判る。不用意な発言をたしなめる表情だ。ーー頭の中まで検閲されたのでは堪るまいに。それはミントも自分で気づいたらしい。ひとつ小さな咳払い。
 ミルフィーユが言った。
「ーーとにかく。いてくれないと困ります〜」
「ルフト准将がいてくれたらよかったんだけどね」
 はは、とジェイドは肩を落として笑った。


 エルシオールの射撃場。ぱぁん、と小気味いい破裂音。的の真ん中がきれいに吹き飛ぶ。
「『写真立ての裏側』ってなんだい?」
 フォルテが尋ねる。
「・・・ああ、それ、言い間違えなんだ。正しくは『裏返しの写真立て』」
「??」
 フォルテが、わけがわからない、という顔を見せる。ジェイドは説明を足した。
「たとえばさ」
 彼は弾倉を入れ替える。
「とてもたのしい思い出が、ある日突然、悪夢に変わる」
「・・・・」
 フォルテは黙っている。
「”菜の花畑に雷雲”。−−そういうことがあるとする」
 ジェイドは的に狙いを定める。
「そうするとさーーオレなんかは、その菜の花畑さえ思い出したくなくなるんだ」
 弾は狙いを外れた。
「犯人さがしは趣味じゃない。−−だけどさ、オレにとっては、その雷雲を呼び寄せたのがアイビーだった」
 ぱぁん! 的に、当たる。
「ヤツの面を見るたびそれを思い出すんだよ」
「・・・なんで一緒にいるんだい、そんな奴。異動願いでも何でも出しゃいいだろ」
「・・・だよね」
 困ったなあ、というようにジェイドは微笑む。
「なんでオレ、そうしないんだろ」

「ジェイドさん!」
 ミントが射撃場に入ってくる。これほど彼女に不似合いな場所もあるまい、とジェイドは我知らず、思う。
「言ってるだろ。別にオレはインフルエンザじゃないって」
「わかってますわ。けれどーー」
 心配そうなミントの頭を、ジェイドは軽くなでる。
「ちょっと仲直りしてくるわ」
「??」
 フォルテとミントは顔を見合わせた。


 結局それは何だったのかーー。
「やあ!」
 翌朝、ブリッジに姿を現したアイビーは、スズメバチの巣でも取ろうとしたみたいに、顔中を腫らしていた。
 誰からともなく視線を外し、各々の仕事に没頭する。−−今は、彼と顔を合わせたくない。
 一方でジェイドのほうは、ーーやはりこちらもアイビーと似たような具合なわけで。
「・・・ふたりで蜂の巣取りにでも行ったのかな」
 オペレーターのひとりがつぶやく。


「その人の所為なんですの?」
 銀河展望公園、晴天。所在無く芝生に伸びていたジェイドの上に影が差す。
「・・・ブラマンシュ少尉」”(長い)”
「・・・もう」
 苦笑交じりにミントは微笑む。ときどき、この人はテレパスを逆手にとってわけのわからないことをしてくれる。その思いは別にして、質問の続き。
「アイビーさんを見捨てられないのは」
「見捨てる・・・ねぇ」-- --”(なんのことかな。)”--「少しおせっかいだぞ」
「そうですわね・・・」
 寝転がっているジェイドの隣にミントが腰を下ろす。
 立体映像の雲が、風に吹かれたように流れていっている。

 雲が、流れていく。流れてーー

 カタチを変えていく。

おしまい。