白で統一された室内――――
清潔感溢れるその空間で一人の少女が静かな寝息をたてている。
まだあどけない少女の寝顔。柔らかそうなライトグリーンの髪は部屋の白と綺麗に同調し、まるでひとつの神秘的な光景を目の当たりにしているような錯覚さえ覚える。
少女の隣に佇んでいる、この部屋にはおよそ似つかわしくない鮮やかなピンク色の物体。
その一点を除けば・・・・・・
「・・・ぅ・・・ん・・・」
可愛らしい声を漏らして、ライトグリーンの髪の少女――ヴァニラ・Hはゆっくりと寝返りをうった。
ほっそりとした綺麗な手が、傍らのピンク色の物体に触れる。
ちょっとした違和感にヴァニラは眉根を軽く寄せ、ゆっくりと瞳を開いていく。
そして・・・
時が止まった―――――
===G.A アナザーエピソード===
〜限りなく近く、限りなく遠い世界?〜
場所はお馴染みのティー・ラウンジ。ミルフィーユ、ランファ、ミント、フォルテ、ちとせといったいつものエンジェル隊のメンバー。ついでに『さぼり』という言葉が同居する男――タクト・マイヤーズの姿もあった。
彼女達が色々な話題で賑わっているそんな中、一足遅れてヴァニラがやってきた。
「あ、ヴァニラ。こっちこっち〜!」
いち早くヴァニラの存在に気付いたランファが手を振り、彼女に呼びかける。
「あれ? どうしたのヴァニラ、そのぬいぐるみ」
歩み寄ってきたヴァニラが胸に抱いていた見慣れないぬいぐるみに気付いたランファが問い掛ける。
ヴァニラは視線をぬいぐるみに落とすと、それをスッとランファのほうへ差し出し、一言
「ノーマッドさんだそうです」
と呟いた。
「いや、別に名前はどうだっていいんだけど・・・。ヴァニラの見立てにしては何か可愛さにかけてるかな〜なんて」
『相変わらず失礼な人ですね。あなたという人は』
「うわっ!? ぬ、ぬいぐるみがしゃべった!!」
突然の事態に驚き、ランファは一歩後ずさる。
「わぁ〜。しゃべるぬいぐるみさんですか〜」
一方ミルフィーユは興味津々といった様子。まるで新しいおもちゃを貰った子供のように瞳を爛々と輝かせている。
『この100億ギガヘルツのCPUを持つ私を外見だけで判断するとはなんと愚かしい』
「く、口の悪いぬいぐるみね・・・。ヴァニラ。一体なんなのよ、このぬいぐるみは」
「・・・わかりません」
「へ?」
所持者の思いもよらぬ返答にランファはポカンと口を開けた。
「わ、わからないって・・・」
「今朝目が覚めたら私の枕元に置いてあったのです」
「・・・・・・あんたぬいぐるみの分際でストーカー行為?」
仕返しといわんばかりに侮蔑の眼差しをノーマッドに送るランファ。しかし口の悪さではノーマッドも負けない。
『何を言うのかと思えば。脳味噌まで筋肉の人は思考回路がおかしくて困っちゃいますよねぇ、ヴァニラさん?』
「なんですってぇ!? ヴァニラ、ちょ〜っとそいつ貸して貰えないかな〜?」
『やれやれ、すぐ力に訴える気ですか。さすが脳味噌筋肉、野蛮にも拍車がかかってますねぇ』
プチ・・・・・・
ランファの中で何かがキレた。
「フ、フフ、フフフフフフフ・・・。もう誰もあたしを止めることはできない・・・。あたしの全身全霊をかけてあんたの全てを拒絶してやる・・・!」
スラリ・・・・・
剣を構えたランファが絶対零度の視線でノーマッドを射抜く。
『ちょ、ランファさん? 一体何処から出したんですかその西洋剣は・・・。ま、待って、話せばわかる〜』
「・・・・・・私は魔物を討つ者だから」
『そういうネタは別の場所でやってくださいよっ! だいたい魔物って――――』
「問答無用ッ! 覚悟ーーーーーーーー!!」
ランファが凄まじい怒声と共に剣を振りかぶる。ノーマッドが絶望の色に染まったその時、ヴァニラが庇うようにして抱きしめなおした。さすがにその状態で剣を振り下ろすわけにもいかず、ランファは振りかぶったままの体勢で固まっていた。
「許してあげてください、ランファさん」
「ヴァニラ・・・・・・」
『あぁ、なんてお優しいヴァニラさん。やはりあなたは天使だ。ランファさんもヴァニラさんを見習って少しはその野蛮な性格を直したらどうですか? まぁヴァニラさんのようになるのは到底無理でしょうけど』
心強い味方を得て再び調子に乗り出すノーマッド。ランファの怒りのボルテージが再び大噴火するかといったまさにその時、ヴァニラがノーマッドを自分と同じ目線に持っていった。
『ヴァ、ヴァニラさん?』
ヴァニラの瞳に僅かに怒りの色が宿っていることに気付き、ノーマッドは戸惑いの声を漏らす。
「ノーマッドさんも、そういうことを言っては駄目です・・・。皆さん、とても良い人達ばかりです。きちんと、謝ってください・・・」
『う、でも・・・』
「ノーマッドさん・・・?」
『・・・ごめんなさい』
「・・・ランファさんも、ノーマッドさんを許してくれますか・・・?」
上目使いで縋るように見つめてくるヴァニラに、ランファの怒りのボルテージも急速に冷めていった。こんなに超絶的に可愛い仕草をされてしまっては無理もない。
「・・・ま、今回はヴァニラに免じて許してあげるわ。でも、2度はないからね?」
ランファはしょうがないなぁ、というような微笑みを浮かべてそう答えた。
「で、落ち着いたところで話は戻るんだけど。ノーマッド、だっけ? あんたは何でヴァニラの部屋にいたんだい?」
フォルテが脱線していた話も元に戻すべく、問いたかった疑問を口にした。
『え〜それなんですが、実のところ私にもはっきりとしたことはわかりません。ロストテクノロジーが原因だとは思いますが。ただ、これまで見た限り、ほぼ確信していることはあります。それは――――』
「「「「「「「それは?」」」」」」」
全員が一斉に視線を送ってくる中、ノーマッドはゆっくりと言葉を続けた。
『それは、ここは私のいた世界とは別の世界だということです』
「「「「「「「別の世界?」」」」」」」
突拍子もないノーマッドの言葉に全員が?マークを浮かべる。
『別の世界といっても全然違うわけではありませんよ。私の知ってる世界にもミルフィーユさんやランファさんはいますし。でも、そこの男性の方――――』
「俺?」
この場で唯一の男であるタクトが自分を指差して確認する。
『そう、あなた。少なくとも私の世界であなたに会ったことは一度もありません。限りなく近く、限りなく遠い平行世界っていうんでしょうか。パラレルワールドってやつですかねぇ』
「「「「「「パラレルワールド」」」」」」
「ってなんですか?」
『お約束のボケですね、ミルフィーユさん』
「えへへ、そんなぁ」
「いや、褒められてないから」
頭の裏に手を回して照れるミルフィーユにランファはすかさず裏手ツッコミ。
ミントがミルフィーユに分かり易く説明する。
「簡単に説明すると・・・そうですね。タクトさんという1点に着目してみましょう。今ここにいるのは、さぼりの常習犯で司令官らしからぬことをさも平然と行うタクトさん。これが私達の世界のタクトさんなのですが・・・」
「うんうん」
食い入るようにしてミントの説明を聞くミルフィーユ。その横でタクトはさめざめと泣いている。
「クールダラス副指令のように冷静沈着に仕事をてきぱきとこなす、そういうタクトさんがいる世界も存在するかもしれない」
「え〜? そんなのタクトさんじゃないよぉ」
タクトの涙が滝のような涙に変わったことにミルフィーユは気付いていない。本人はまったく悪気はないのだろうが・・・。
ミントは苦笑いしつつ続ける。
「まぁ、あくまで例えですので。それで、そういう世界のことをパラレルワールドっていうんですの。ご理解して頂けましたか?」
「え〜っと・・・うん、だいたいわかったよ」
「それはなによりですわ」
ニコリと笑ってミントはそう締めくくった。
「でも、にわかには信じられないですよねぇ。パラレルワールドなんて」
ランファが視線を天井に向けながら呟いた。他の面々も口にこそ出さないものの、心の中ではランファと同じようなことを考えていた。中には純粋に信じている者もいるようだが。
『なんなら見てみますか? 私の世界のみなさんの様子を』
またも思いもしなかった言葉に、全員の視線がノーマッドに集中する。
「「「「見れるのっ!?」」」」
『もちろんですよ。私のメモリーの中に余すところ無く刻まれてますからね。モニターさえあればすぐにでも―――』
「はいこれ!」
ランファが目にも留まらぬ速さでテーブルの上にモニターを用意する。一体何処から? という問いかけが聞こえきそうなものだが、今回はそれについて触れるものはいなかった。今はそんなことよりもノーマッドの世界のことが気になって仕方がないのだろう。
『では、いきますよ』
口からケーブルの延びたノーマッドの上映開始の合図に、全員の視線がモニターに釘付けになった。
「向こうのあたし達ってどんななのかな〜。楽しみだね、ランファ〜」
「しっ! いいから黙ってみてなさい」
そんなやりとりの中、モニターに映像が流れ始めた―――――
映像は衝撃の連続だった。
ミルフィーユが全銀河を破滅へと導くほどの大凶運をもっていたり――――
ランファが異種格闘技大会の出場者を自分の体の頑丈さにものを言わせてブチのめしていたり――――
ミントがどこぞのネコ型ロボットよろしく惑星破壊砲なるものをぶっ放そうとしていたり――――
フォルテが超巨大魚を素手で受け止めて、さらには咆哮と共にブン投げていたり――――
ヴァニラがヘッドギアの宝玉(?)からビームを乱射していたり―――――
ちとせがエンジェル隊の毒殺を謀ろうとしていたり――――
何故か合体ロボットのパイロットになっていたり――――
「あ、あはは・・・。む、向こうのフォルテさんってずいぶんワイルドですね〜・・・」
「は、はは・・・。ラ、ランファこそ・・・」
乾いた笑い声しか出てこない。適応能力の高さでは跳び抜けているミルフィーユでさえ、引きつった笑みを浮かべるので精一杯の様子だ。
それほどまでに目の前のモニターに映し出された映像は破天荒なものだったのだ。
「あはは、あ、あたしもうフォルテさんが火を吹いたって驚かないですよ・・・・・・」
「ま、まっさか〜・・・・・・」
フォルテが否定の声をあげるが、そこには自信のかけらも感じられない。ここまで出鱈目な映像を見せられた後では、火を吹くなんてこともたいしたことではないような気がしてならなかった。
そして、そんな想像を裏切ることなく、数秒後、画面上のフォルテは火を吹いたのだった。ついでに言うと画面上のランファは豚に変身していた。
「ノ、ノーマッド? こ、これって全部、合成とかなんかして作った、え、映像なんだよな〜・・・」
ガクガクと震える指でモニターを指差しながら、フォルテは最後の希望に縋るようにノーマッドに問いかける。
しかし、ノーマッドからの返答はというと
『一切包み隠さずのノンフィクションです』
無慈悲に、冷酷無比に、残虐非道に心を抉るものだった――――
『で、とりあえず私の世界のみなさんを見てもらったわけですが、どうですか? 感想は』
「か、感想・・・ねぇ」
『あ、ちなみにこれ、まだほんの一部なんで』
「・・・パ、パラレルワールドって怖いところなんですね〜・・・・・・」
ミルフィーユの呟きにその場の全員、異論はなかった。
「ん? ちょっと待てよ・・・? そのパラレルワールドにいたノーマッドがこうしてこの世界にいるってことは・・・・・・」
フォルテの言わんとしていることが瞬時に理解できたメンバーは、サァ・・・と血の気が引いていくのをはっきりと感じた。
『あ〜可能性は十分ありますね〜。私がここに来たのは恐らくこの間回収しようとしたロストテクノロジーの暴走に巻き込まれたからだと思いますが、あのとき現場には他のみなさんもいましたし』
ちょうどその時、ブリッジからの緊急連絡がタクトのもとに入った。
『タクトッ! 今どこにいる!? 緊急事態だ!!』
「ど、どうしたんだレスター? そんなに慌てて・・・。ちょっと落ち着いて――――」
『これが落ち着いていられるか! いいか、よく聞けよ! 今さっきこの宙域に突然紋章機が現れたんだ。しかもただの紋章機じゃない! その紋章機は――――』
「・・・ラッキースター、カンフーファイター、トリックマスター、ハッピートリガー、ハーベスター、そしてシャープシューター・・・かい?」
「・・・どうしてわかった? まぁいい、とにかく緊急事態だ! すぐにブリッジに戻れ! いいなっ!!」
通信が切られる。
「ど、どうしよう・・・」
「どうしようって・・・あ、あたし、あんな自分をどうにかできる自信なんてないわよ・・・・・・」
し〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・・・・・
こうしてトランスバールにヴァル・ファスクの脅威をも上回る新たな危機が訪れた。
果たしてタクト達はこの危機を回避することができるのか!?
それとも、シリアス風味だったこの世界も向こうのエンジェル隊の色に染まってしまうのか!?
それは――――――
ご想像にお任せしますっ!!
『えぇ!? ちょ、ちょっとあなた! そんないい加減な終わり方が許されると―――――』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
『って何勝手にフェードアウトし始めてるんです!? あ、こら待ちなさ―――――』
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
〜あとがき〜
今回初めてG.Aの小説を投稿させて頂きましたスレインです。
2次創作小説はネットで読むようになってから2年程になりますが、書きのほうはまるっきり素人です。こうして自分で書いて投稿したのも今回初めてですので、読みにくい部分が多々あったと思いますがご了承ください。
このお話、思いつくまま行き当たりばったりで書いただけなので深い意味とかなんにも考えてませんっ(駄目じゃん) 最後なんてすごい強引な終わり方だし・・・。ただ、何にも考えないで良かった分、詰まることなくスラスラと書けました。ギャグだったというのも大きい理由かも。出来たのはすんごい駄文なんですけどね・・・
とりあえず今後もG.Aの小説を書き続けてみようと思っていますので、そのときは皆さんよろしくお願いします。
最後にここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。