あぁ、ヴァニラさん・・・・・・
優しい心で、全ての生きるものに対し、愛をもって接するヴァニラさん・・・・・・
慈愛の天使――――
その言葉はまるでヴァニラさんのために存在しているかのようだ・・・・・・
あなたが優しく微笑みかけてくれるたびに、私の心はあなたの虜になってゆく・・・・・・
愛しいヴァニラさん・・・・・・
どうしようもなく、愛しいヴァニラさん・・・・・・
なのに・・・・・・
あの男の前でだけ、あなたは私の知らない笑顔を見せる・・・・・・
私には見せてくれない笑顔を・・・・・・
あぁ、ヴァニラさん・・・・・・
どうして、私にはその笑顔を見せてはくれないのですか・・・・・・?
「ねぇ・・・」
どうして私には・・・・・・
「ちょっと・・・」
どうして・・・・・・
「ねぇってば!! 聞いてるの!?」
『あーもうっ! うるさいですね! 何なんですかさっきから! 人が思い悩んでるというのに、まったく・・・・・・』
「あんたが何悩んでようが知ったこっちゃないわよ! そんなことより――――」
「何であんたがまだここにいんのよっ!?」
===G.A アナザーエピソード2===
〜 愛を取り戻せ!? 〜
『いきなり現れてずいぶんなご挨拶ですねぇランファさん! 何なんですか、その言い方は!! 私がここにいちゃ悪いんですか!? えぇ!?』
失礼な闖入者に向かって、物思いに耽ていたピンク色の物体が、不機嫌全開の口調で怒鳴り返した。
ランファはそのピンク色の物体をむんずと掴みあげると、そのまま自分の目の前まで持っていく。
「悪いに決まってるでしょ〜!? あんた向こうのあたし達と一緒に自分の世界に帰ったはずでしょうが! それなのに、なに平然とこんなところに居座ってるのよ!?」
こんなところ、とは毎度お馴染みのティー・ラウンジ。
向こうの世界のゴタゴタも一段落して、久しぶりに爽やかな朝を迎えたランファ。清々しい気持ちで軽めの朝食をとりにきたところまでは良かったのだが、そこで堂々と椅子に佇んでいるピンク色の物体に気付き、最初の清々しい気持ちなど彼方へと吹っ飛んでしまった、というのが現在の状況だった。
凄まじい怒声が飛び交うティー・ラウンジ。
そこに、当初のランファと同じく、軽めの朝食を取りにミントとちとせが現れた。当然ながらこの騒音の元凶に気付かないわけもなく、二人はいまだ騒いでいるランファのもとへと歩み寄っていく。
「ランファさん。朝から何を騒いでいらっしゃるんですか? 他の方々のご迷惑になりますわよ?」
「一体、どうなさったんですか? ランファ先輩」
「あ、ミントにちとせ。どうもこうもないわよ。これ見てよ!!」
ランファが手に持っていたピンク色の物体をズイッと二人の前に差し出した。
それが何なのか、即座に理解したミントとちとせは頬に一筋の汗を流す。
「ノ、ノーマッド・・・さん?」
『ど〜も』
「い、いったい、どうして・・・?」
僅かに顔色を青くしたちとせが震える声で尋ねた。
ランファが首を横に振る。
「あたしだって知らないわよ。さっき来たらどういうわけかコイツが居座っててね。で? どうしてあんたがまだここにいるのかしら・・・!?」
再びランファがノーマッドを自分の目の前に持っていく。
『それはですねぇ。海よりも深い理由がありまして』
「海よりも深い理由・・・ですか?」
『え〜なんといいましょうか・・・・・・』
「はっきりいいなさいよ!」
ギラッと鋭い視線でノーマッドを睨むランファ。
『ぶっちゃけ忘れられてってしまいました〜』
至極簡単かつ最も納得できる理由がノーマッドから告げられた。
場に一陣の冷たい風が吹く。
「・・・あんたって可哀想なヤツなのね・・・・・・」
『そんな痛い目で見るのはやめてくださいよ』
ランファの眼差しにノーマッドが抗議の声を上げた。
「それで、これからノーマッドさんはどうされるおつもりなんです? あちらの世界に帰る手段はありますの?」
『さぁ、どうでしょうねぇ。方法はあのロストテクノロジーを使う以外にないと思いますが・・・。あれは向こうの皆さんが一緒に持っていってしまいましたからねぇ』
「・・・迎えに来て頂くしかないということでしょうか」
『そういうことになりますね』
「・・・可能性は限りなく低そうね」
ランファは深い溜め息を一つ吐き、持っていたティーカップを口に運ぶ。ミントとちとせもその意見には激しく同意だった。
『なんなんです? その諦めの溜め息は。もしかして迎えにくるはずがないとか思ってるんですか?』
ノーマッドが心外だとばかりに低いトーンで呟く。そんなノーマッドの言葉に
(((思います)))
3人の心は見事にシンクロしていた。
『あ゛〜!? 思ってますね? 思ってるんですね!? そんなことありません、ありえません! 他の皆さんならいざ知らず、ヴァニラさんが迎えにきてくれないわけがないじゃないですか!!』
その意見に関しても、既に向こうのヴァニラの人と柄をノーマッドの記録なりで垣間見た3人にとっては甚だ疑問だった。
向こうの世界の自分達の辞書に『常識』という文字は存在しない――――
それがここ数日でランファ達がはっきりと確信したことなのだから。
「そんなこと言ったって、実際あんた忘れられてたわけだし・・・・・・」
『忘れ物くらい誰にだってあるじゃないですか! 皆さんだって教科書を忘れたりしたこと1度はあるはずですっ!』
「あんた、それ自分が教科書と同レベルの存在だって言ってることに気付いてるわけ・・・?」
呆れた眼差しでツッコミを入れるランファだったが、それが当の本人の耳に届くことは無かった。
「はぁ・・・。ま、要するに向こうの世界から迎えがくるまではどうすることもできないわけか」
『そういうことです。ま、私にとっては都合がいいですけどね。まだこっちの世界でやらなくてはならないこともありますし』
「やらなくてはいけないこと、ですか・・・?」
「なんなのよ、そのやらなきゃいけないことって」
3人の視線が一斉に注がれる中、ノーマッドが高々と宣言する。
『決まっています! この世界のヴァニラさんを、あの忌々しいヘタレ男の魔の手から救い出すのですっ!!』
ズババババーーーンッッッ!!
と、ノーマッドの背後が爆発した――――かのように見えた。
「ヘタレ男って・・・・・・もしかしてタクトのこと?」
『他に誰がいます!? 全くあの男ときたら、ヴァニラさんが何も言わないことをいいことに馴れ馴れしく・・・ヴァニラさんの隣は私の席なのに・・・あ゛〜思い出しただけでも腹が立つーーーー!!』
「何かと思えば嫉妬? 男の嫉妬はみっともないわよ〜?」
ランファがやれやれと言う様に手をプラプラと振る。当然ながら食って掛かるノーマッド。
『何を言ってるんです、私はヴァニラさんのためを思ってですねぇ!』
「それがみっともないって言ってるのよ。だいたいあんたには向こうのヴァニラがいるんでしょうが」
『私にとってヴァニラさんはどの世界であっても愛すべき存在なんです! 私にはヴァニラさんをお護りする義務があります! この世界のヴァニラさんに迫る危機を見過ごすわけにはいきませんっ!! えぇ、断じて見過ごせませんとも!!』
「ヴァニラに危機なんて迫ってないじゃない」
『何を馬鹿なことを! あんな男の傍にヴァニラさんを置いておくなんて、飢えた狼の前に兎を放り込むようなものですよ!? あぁ・・・こんなことをしている間にもヴァニラさんがあの男の毒牙にかかっているやも・・・うぅ、想像しただけでも恐ろしい・・・』
ブルブルガタガタと震えるノーマッド。さながら携帯電話のバイブレーションのようだ。いつの間にかどうでもいい機能が追加されていたらしい。本当にどうでもいい機能だが・・・。
「何を想像したのか知らないけど、あんたがいくら心配したところで無駄だと思うわよ? なんたってあの二人は・・・ねぇ」
ランファが視線をミントに送る。それを受けてミントもコクリと頷く。
「そうですわね。タクトさんとヴァニラさんは相思相愛ですから」
ミントの言葉にノーマッドはピタリと止まった。その直後、今度は先程にも増してノーマッドの体がブルブルと震えだす。そして――――
『な、な、なんですとぉーーーーーーーーーーーーーーーー!?』
辺りを揺るがすノーマッドの咆哮。3人は咄嗟に耳を両手で塞ぎ、その衝撃に耐える。
「だーーーー! うるさいわよっ!!」
『う、嘘だ・・・。ヴァニラさんが・・・ヴァニラさんがそんなぁーーーーーーー!?』
「だからうるさいって言ってるでしょうが!! そんなに信じられないなら証拠を見せてあげるわ!」
ランファはそういうと分厚いフォトアルバムを取り出し、それをテーブルの上に叩きつけた。もはや何処から出したとは問うまい・・・・・・
「ほら。よく見なさい!」
ペラリ、ペラリとアルバムを捲っていくランファ。そこに保存されていた写真はノーマッドにとって目を背けたいものばかりだった。
タクトとペアルックのセーターを着ているヴァニラ・・・・・・
タクトと一緒に宇宙ウサギと戯れるヴァニラ・・・・・・
タクトに膝枕をして耳掃除をしているヴァニラ・・・・・・
どの写真のヴァニラも、ノーマッドの知らない表情をしていた。
「どう? これで分かったでしょ?」
『・・・・・・』
沈黙するノーマッド。
その横で、一緒にアルバムを見ていたちとせがおずおずと手をあげた。
「あ、あの、ランファ先輩? ちょっとよろしいですか?」
「ん? どうしたのちとせ」
「いえ、ちょっと気になったのですが・・・。このアルバムの写真、全部アングルが微妙におかしくないですか? カメラ目線の写真も一枚もありませんし」
「ぎくっ・・・」
「・・・ランファ先輩、まさか盗――――ムグゥッ!?」
電光石火――――
鮮やかにちとせの背後に回ったランファは瞬時に彼女の口を手で封じ、おほほほと乾いた笑い声を上げた。
「と、とにかくこれが現実よ! いい加減あんたも諦めなさい」
『・・・・・・認めません』
「へ?」
『認めません。断じて認めません!! ヴァニラさんはこの男に騙されているんです! そうに違いありません!!』
「あ、あんたねぇ・・・この期に及んで」
『ランファさん! 私をヴァニラさんのところに連れて行ってください!! 絶対にヴァニラさんを説得してみせます!!』
「な、なんであたしが――――」
ランファが文句を言いかけたところで、彼女の服がクイクイと引っ張られた。
「ん? 何よミント」
「ランファさん。ここはノーマッドさんの言う通りにしてあげてくださいな。このままでは収拾がつきそうにありませんもの」
「え゛ぇ〜〜〜〜〜〜〜」
あからさまに嫌そうに顔をしかめるランファにミントは苦笑いしつつも続ける。
「まぁまぁ、そう言わずに。ヴァニラさんから直接お話をお聞きすれば、さすがにノーマッドさんも納得すると思いますし。それに、早くちとせさんを開放して差し上げないと可哀想ですわよ?」
「あ゛・・・」
ミントに言われて、初めてちとせが腕の中でぐったりしていることに気付いたランファだった。
『ちょっとランファさん、もっと急いでくださいよ』
「なんでぬいぐるみに命令されてんだ、あたしは・・・」
ランファはノーマッドを抱いたまま、仏頂面でヴァニラの部屋へと続く通路を歩いていく。ちなみにちとせのことはミントに任せてきた。
『それにしても・・・くそぅ、あの男め。ヴァニラさんとあんなことまで・・・・・・。許せません! ヴァニラさんの説得よりもいっそのことあの男を抹殺してやりますかねぇ!?』
「なに錯乱してんのよ、あんたは!」
途中何度か口喧嘩しつつ――――
それでも何とかヴァニラの部屋の前まできた二人は、ふと扉のロックが外れていることに気付いた。
「あれ? ヴァニラが部屋の鍵かけ忘れるなんて珍しいわね」
『ハッ! まさかヴァニラさんの身に何か!? ラ、ランファさん、早く入りましょう!!』
「えぇ〜? それはいくらなんでも」
『何を悠長なことを言ってるんですか! もしもヴァニラさんが―――』
「あーはいはいっ。分かったわよ!」
至近距離で騒がれては溜まらず、ランファは仕方なくヴァニラの部屋の扉を開いた。
「ヴァニラ〜? 入るわよ〜?」
照明が落ちて暗い室内。その中を、照明のスイッチを探りながらランファはゆっくりと進んでいく。
やがてランファの手がそのスイッチを探り当てた。パチッという音と共に暗かった室内に明かりが灯る。
ボト・・・・・・
ランファの腕からノーマッドが滑り落ちた。
彼女の反応も最もかもしれない・・・。なぜなら――――
この室内唯一のベッド・・・そこに――――
タクトがヴァニラを抱き枕にして眠っているという光景が広がっていたのだから―――――
何故タクトがヴァニラを抱き枕にして眠っているかというと・・・・・・
それは今から数時間前に遡る―――――
「ふぁ〜・・・」
ここのところ向こうの世界のエンジェル隊の相手をしていたタクトだったが、ようやくそれも一段落して、久しぶりにヴァニラと二人で静かな時間を過ごしていた。
しかし、いかにタクトとてあのエンジェル隊相手に無事でいられるはずもなく、その体力は激しく疲弊していた。今の盛大な欠伸がその証拠とも言える。
「眠いのですか? タクトさん」
「あ〜・・・うん。ちょっとね・・・。ごめん、ヴァニラ。折角二人っきりになれたのに」
申し訳なさげに謝るタクトにヴァニラはゆっくりと首を振る。
「いいえ。タクトさん、最近大変でしたから。とても疲れてらっしゃるんですね。よろしければ、そこのベッドを使ってお休みになられてください」
「え・・・でも・・・」
「私のことなら気にしないでください。こうして、タクトさんと一緒にいられるだけで私は、いっぱいですから」
僅かに頬を紅く染めて、はにかむヴァニラ。
普段であれば、それでもタクトは断ったかもしれない。しかし、体力の限界だったこの時ばかりはそれが出来なかった。
「それじゃあ・・・ちょっとだけ・・・・・・」
タクトはのそのそとベッドまで移動し、そのまま倒れこむようにして横になった。
この時点では、タクトは本当にちょっとのつもりだったのだが、柔らかい布団の感触と、何より鼻をくすぐるヴァニラの甘い香りは彼に最大限の安眠効果をもたらした。即ち、爆睡である。
ヴァニラはそんなタクトの寝顔にしばらく見入っていたのだが、気付いたときにはいつの間にか自分も休まなければいけない時間帯になっていた。
とりあえず就寝の準備をし、後は寝るだけという状態なったところでヴァニラは壁にぶつかる。
彼女のベッドは既にタクトが使ってしまっている。当然ながらこの部屋にベッドは1つしかない。タクトを起こせばいいのだろうが、こんなに気持ち良さそうに眠っているタクトを起こすなど、ヴァニラに到底できるはずもなかった。
ヴァニラ、しばしの心の葛藤――――
やがてヴァニラは意を決して、タクトの眠るベッドへと潜り込んでいった。
自分に密着してきた柔らかく温かい感触に、タクトは反射的にヴァニラを抱きしめた。抱き枕状態の完成である。
そして、ヴァニラもまた、優しい温もりに包まれて、急速に深い眠りに誘われていった―――――
というのがこれまでのあらましなのだが、当然ランファとノーマッドの2人にはそんなこと分かるわけもない。
要するに思いっきり誤解していた。どんな? とは聞いてはいけない。
「・・・ぅ・・・ん・・・」
そんな中、瞼を照らす部屋の明かりと人の気配を感じ取ったヴァニラが、ゆっくりと目を覚ました。
「・・・・・・らんふぁ・・・さん・・・?」
目覚めたばかりでまだポ〜っとしているヴァニラ。無言で見詰め合う二人・・・・・・
しばらくして、ようやく頭が覚醒してきたヴァニラが、現在の自分がタクトに抱き枕にされているという状況を認識した。
カァーーーーーッッッ(///)
一瞬にして顔を紅潮させるヴァニラ。
悲しいかな、ヴァニラのその反応はランファの中の誤解を確信へと変えてしまった。
「ラ、ランファさん、どうしてここに・・・?」
悪戦苦闘の末、何とか抱き枕状態から逃れてベッドから起きてきたヴァニラがランファに問いかける。
「ケーラ先生に頼まれてね〜、ヴァニラを呼びに来たのよ〜。何か急いでたみたいだったけど〜」
爽やかな笑顔で答えるランファだが、目は笑っていなかった。もちろん嘘である。
「ケーラ先生が? わかりました。すぐに行きます」
無駄の無い動きでテキパキと身支度をし、部屋を出て行こうとするヴァニラ。その足がピタリと止まる。
「あ、タクトさん・・・・・・」
タクトの存在を思い出したヴァニラが回れ右して戻――――ろうとしたところでランファの声が響いた。
「ヴァニラ〜、タクトのことはあたしが起こしておいてあげるから、ヴァニラは早くケーラ先生のところに行ってあげて〜」
「・・・わかりました。タクトさんのこと、よろしくお願いします。ランファさん」
もしもヴァニラが少しでも人を疑う心を持っていたなら気付いたかもしれない。ランファの背後にドス黒いオーラが揺らめいていることに・・・・・・。そもそも、ランファがどうやってこの部屋に入ったのかを問いただしたはずだ。
しかし、純真無垢という意味ではエルシオール1、2を争うヴァニラは、完全にランファの言葉を信用し、そのまま部屋から出て行ってしまった。
閉まる扉。
タクト、死へのカウントダウンの合図だった――――
膨れ上がる殺気・・・・・・
ドス黒いオーラを全身から滲ませながら、ランファは何者かにとり憑かれたかのように、ユラ〜リユラリとタクトの眠るベッドへと足を進めた。
呼吸をすることさえ困難なほどの圧迫感に、さすがのタクトも目を覚ます。
彼の眼前にランファの拳が迫っていた――――
「う、うわぁぁぁーーーーーーー!!」
咄嗟にベッドから飛び起き、床を転がり、壁際に貼り付くタクト。
直後――――――
バキャアアアアアアッッッ!!!!!
ヴァニラのベッドが真っ二つに粉砕された。言うまでも無いがこのベッド、決して木製ではない。というか象が乗ってもビクともしない代物だ。
タクトは全身の毛穴という毛穴から汗が滲み出るのを感じながら、それでも何とか声を絞り出した。
「ラ、ランファ!? あ、危ないじゃないか!! 当たったら大変なことになってたぞ!?」
「当てるつもりだったわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・りありー?」
「りありー」
しばし無言で対峙する二人・・・・・・
「ちょ、ちょっと待ってくれっ! 一体俺が何をしたっていうんだ!?」
「何をしたぁ〜!? この後に及んでよくもまあぬけぬけと!! あんたヴァニラに何をしたぁーーーーー!?」
「な、何って・・・何もしてないぞっ!!」
タクトの言っていることは本当だ。だいたい彼にはヴァニラを抱き枕にして寝ていた記憶すら無いのだから。
しかし、今のランファにとってはその言葉も火に油を注ぐ代物にしかならない。
「まだ白を切る気!? 見損なったわタクト! あんたは馬鹿だけど、司令官として・・・いいえ人としての分別はあると思ってた。でも、それもあたしの思い違いだったようね! 所詮あんたもただのケダモノだったのよ!! あんたはやってはいけないことをした・・・その罪――――」
ダンッと地面を蹴り、タクトに向かって跳躍するランファ。空中で体を回転させ、遠心力をつけて弾丸のような拳を繰り出す。
「万死に値するわ! その身に刻め!! 断・罪・拳!! オォりゃ嗚呼アアアアアーーーーーー!!!!」
ヒュガッッッ!!!!
ひぃっと悲鳴を上げ、咄嗟にしゃがみこんで回避するタクト。
ドギャアァァッッッ!!!!!!
直前までタクトの頭があった位置にランファの拳が突き刺さり、壁が無残な音をたててベコベコに変形した。どうでもいいけど、ここがヴァニラの部屋だってこと忘れてないか・・・?
「・・・よけたわね・・・? そう・・・抵抗する気なんだ・・・・・・フ、フフ、フフフフフフ・・・ッ!」
「ら、ら、ランファ・・・は、話し合おう・・・は、話せば、わ、わか―――――」
修羅となったランファの前に、タクトの言葉は最後まで紡がれることはなかった・・・・・・
阿鼻叫喚―――――
こうしてタクトは全治3週間の大怪我を負うことになったわけで。
それは本来ならノーマッドにとって万々歳の結果なのだろうが。
先の光景があまりにもショッキングだったのか、今、彼の意識は宇宙の彼方へぶっ飛んでいた。
ノーマッドの意識が戻ったのは、それから1週間後の出来事だった。
尚、彼はこのときの記憶を綺麗さっぱり忘れ去っていた――――
おまけ
瀕死の重傷を負ったタクトだったが、その後誤解のとけたランファと、そして何よりヴァニラの献身的な看護によってみるみる回復していった。
そして、そんなタクトとヴァニラの姿が再びノーマッドの嫉妬の炎に油を注ぐ原因となるわけだが、それはまた別のお話――――――
〜あとがき〜
どうも。再び小説を投稿させて頂きましたスレインです。
当初『GAアナザーエピソード』は続編とかは全く考えていなかったのですが、『タクトとノーマッドがヴァニラを・・・』的な話が書きたくなって、急遽前回の設定を引っ張りつつこんな話を書いてしまいました。で、書き終わってみて思ったことなのですが・・・・・・あれ? 『タクトとノーマッドがヴァニラを・・・』ってシーンは何処へ・・・? ランファメインのギャグ話にしか見えないんだけど・・・(汗)
どうでもいいけど、この話のランファ、アニメ版でも十分通用しそうだと思うのは僕だけでしょうか・・・?
とにかく『GAアナザーエピソード』シリーズはここまでにするつもりです。・・・たぶん。
それではまた!