温かい。

まるで母親の胸に抱かれているような、とても心地の良い温もり。

ひどく久しぶりに感じた気がする。

一体誰だろう、この温もりは・・・。

何だか、とても、懐かしい―――――

 

 

 

 

 

 

GALAXY ANGEL 〜Marital vows〜

 

 

〜第2章 決意の天使〜

 

 

 

自分の身体を柔らかいものが包み込む感触にミルフィーユはゆっくりとその双眸を開いた。

視界一杯に飛び込んできたのは親友の寝顔。予想外の出来事に一瞬思考が停止する。

・・・ランファ? どうして、ここに・・・

ミルフィーユは覚醒したばかりでまだうまく機能しない頭を必死に回転させ、記憶を辿る。

そして思い出した。

昨日の夜、タクトのいない現実に耐えられなくて手首を切ろうとした自分。

そんな自分を叱咤し、目を覚まさせてくれた親友。

彼女が本気で叱ってくれたからこそ、自分は深い暗闇の世界から足を踏み出すことが出来た。

あの後、自分は彼女の胸に縋りついて大声で泣いた。その後の記憶はないが、きっと彼女は自分が泣き疲れて眠ってしまった後も一時も離れることなく一緒にいてくれたのだろう。

ミルフィーユの瞳から涙が零れる。

ありがとう、ランファ――――

ランファがいてくれたから、今わたしは、こうしてここにいられるんだよ――――――

ポツリ、ポツリと零れた涙がランファの腕に落ちた。

「う、うぅん・・・」

その刺激にランファが軽く眉根にしわを寄せ、ゆっくりと瞼を開いていく。

「・・・おはよう、ランファ」

「うん、おはよ〜みるふぃ〜・・・」

日頃の習慣から、反射的に言葉を返してしまうランファ。

僅かな沈黙・・・

直後、彼女の目は大きく見開かれ、鞭に打たれたかのように飛び起きた。ミルフィーユも続くようにゆっくりと起き上がる。

「ミ、ミルフィー!? あんた・・・」

ランファは食い入るようにミルフィーユの表情を覗き込む。そこにはぎこちないながらも確かな笑顔があった。ミルフィーユの目は確かに前を向いている。

張り詰めていたものが切れたのだろう・・・。ランファはベッドにへたり込むようにして俯く。

「・・・ランファ?」

ミルフィーユが心配して彼女の顔をうかがい見ようとしたとき、突然ランファがミルフィーユの頭をグシャグシャと乱暴にかき乱した。

「いたいよ、ランファ・・・」

「うるさいっ。あんた、あたしにどれだけ心配かけたか分かってるんでしょうね」

コツン、とランファが額をミルフィーの額に当てがった。

「・・・ごめんね・・・ランファ」

「・・・もう、大丈夫なの?」

「・・・うん。タクトさんのこと、寂しくないって言ったら嘘になるけど、もう、諦めたりは絶対にしない。タクトさんのこと、信じるって決めたから」

ミルフィーユがランファの手を両手で包み込むように握り締める。

「ありがとう、ランファ。ランファのおかげで、あたしは前に進むことができたんだよ」

「・・・・・・二度とあんなことするんじゃないわよ」

ランファの瞳から流れ落ちた一粒の雫がミルフィーユの手の甲を濡らした。

この一粒に、一体どれだけの想いが込められていることだろうか。

ミルフィーユは言葉を発するかわりにランファの手をより力強く握り締める。

それは彼女に対する確かな約束。

親友を悲しませるようなことは絶対にしないという誓いの証。

それが伝わったからこそ、ランファはまた涙を溢れさせる。そしてまたミルフィーユも・・・・・・

彼女達の間には確かな光が満ちていた―――――

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

時刻は午前10時。ティー・ラウンジにはミント、フォルテ、ヴァニラ、ちとせの姿があった。別に約束をしていたわけでもなく、かといって目的があったわけでもない。今は休暇中の身でもあるのだから、それこそ各々で自由な時間を過ごしていていいはずなのに、いつの間にかこの場所に1人、また1人と集まってきていたのだ。彼女達の心は無意識のうちに仲間を求めたのだろう。

そんな彼女達は、今、驚きのあまり全身を硬直させていた。ランファと共にこの場に現れたミルフィーユ。その顔には僅かに笑みも浮かんでいる。その様子は昨日自分達が見たものとは似て非なるものだった。

状況を認識することができない。

ミントの手からスプーンが滑り落ち、それが甲高い音をたてて床に落ちた。

「ミルフィー・・・さん?」

ミルフィーユのあまりの変わり様にミントは唖然と声を漏らす。ミルフィーユは小さく頷き

「みんな。心配かけてごめんね」

全員に視線を送った後、ミルフィーユは謝罪の言葉と共に頭を下げた。感極まったちとせは溢れ出る涙を拭おうともせず、ミルフィーユに縋りつく。

「ミルフィー先輩っっ・・・! よかった・・・本当に・・・っ!」

「・・・ごめんね、ちとせ」

ミルフィーユはそっとちとせを抱きしめ、彼女の髪を優しく撫でた。ちとせに続くように他の面々もミルフィーユのもとに歩み寄る。

「・・・ミルフィー? もう、大丈夫・・・なのかい?」

「フォルテさん・・・・・・ご心配をおかけしました。でも、もう大丈夫です。あたし、決めましたから。タクトさんのこと、何があっても信じるって」

その答えにフォルテは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべる。が、次の瞬間には

「・・・そうかい」

と、満足そうな笑顔で呟いた。ミルフィーユの目を見ればわかる。その言葉に偽りがないことが。

ミルフィーユの言葉を耳にしていたミントとヴァニラも同時に胸を撫で下ろした。続いて笑みが零れる。

正直なところ、ミルフィーユがこんなに早く自分を取り戻すことができるなんて思っていなかった。最悪の場合、二度と立ち直れないかもしれないとすら考えた。そんな彼女が今こうして自分達の前で笑みを浮かべて、しっかりとした意思の輝きをみせているのだから喜びも一入だろう。

「本当によかったですわ。一時はどうなることかと心配しましたが・・・もう安心ですわね。ミルフィーさんの目はきちんと『前』を向いていますもの」

「うん。でもあたしが前に進むことができたのはランファのおかげなの」

「そういえば、ミルフィーさんの頬が少し腫れているようですが・・・」

「・・・昨日の夜ランファに思いっきり叱られちゃった。恋人のあたしが信じてあげないでどうするんだ! って」

「まぁ、そうでしたの」

「ミルフィーさん、こちらへ。治療します」

ヴァニラが手近な椅子を引いてミルフィーユに座るように促す。しかし、ミルフィーユは首を左右に振ってやんわりとそれを断った。

「ちょっとミルフィー、ヴァニラに治療してもらわないの? その、叩いたあたしが言うのもなんだけど・・・痛むでしょ?」

不安げな表情で問いかけるランファに、ミルフィーユは優しい眼差しを返す。

「ありがとう、心配してくれて。でも、これはいいの。この痛みは全てを諦めようとしたあたしへの罰。そしてあたしが前へ進むことができた証だから」

「ミルフィー・・・」

「・・・わかりました。ミルフィーさんがそうおっしゃるのであれば。でも、もし辛いようでしたらその時は言ってください」

「うん。ありがと、ヴァニラ」

コクリ、とヴァニラは頷いた。

 

 

「とにかくミルフィーが元気になって何よりだよ。これで後はタクトが帰ってくるのを待つだけだね」

「はいっ! 帰ってきたらドーーーンと抱きついて、バーーーーーンと引っ叩いちゃいますっ! もうボッコボコですよ〜♪」

「「「「・・・え?」」」」

にこやかに、しかし何気にぶっそうなことを口走るミルフィーユに全員がポカンと口を開ける。直後、ミント、フォルテ、ヴァニラ、ちとせの視線が一気にランファに注がれた。ミルフィーユだけが頭に?マークを浮かべている。

「な、なに?」

気圧されて後ずさるランファ。

「ランファさん。あんまりミルフィーさんに物騒なことを教えないでくださいまし」

「そうだねぇ。ミルフィーはいろんな意味で純粋だから本当にタクトをボコボコにしかねかいかもねぇ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよフォルテさん! 確かに思いっきり引っ叩いてやれとは言ったけど、あたしボコボコにしろなんて言ってないですよ!?」

「ランファさんが『思いっきり引っ叩いて』とおっしゃったら『ボコボコ』とイコールですわよ」

「ちょっとミント!? 『あたしが言ったら』ってどういう意味よー!」

「言葉通りですわ♪」

ミントが憎たらしいくらい爽やかな笑顔でさらりと切り捨てた。『あんたねぇ〜・・・』と、こめかみに青筋をたててピクピクと震えるランファ。

「はぁ〜。こりゃタクトが帰ってきたら血を見るかもしれないねぇ」

「ま、まさかミルフィー先輩に限って・・・。ランファ先輩じゃあるまいし」

「ちとせーーーーー! あんたまで言うかーーーーっっっ!!」

怒りの矛先がミントからちとせに変わった。ランファの咆哮にちとせが『ひぃっ』と小さく悲鳴をあげて縮こまる。

 

「あはは」

 

ふと、一触即発の状態になりかけていたところに、場違いな笑い声が響いた。気がつけば今のやりとりを見ていたミルフィーが肩を震わせて笑っている。

その姿を見た途端、全員の心に穏やかな風が吹いた。

そう・・・・・・

彼女がこうして『戻って』きてくれたから、自分達はこんな冗談を言い合うこともできる。

その事実が堪らなく嬉しく、故にどんな感情よりも優先的に笑みが零れてしまう。

ミルフィーユの笑い声に連鎖するように1人、また1人と笑声がもれた。

やがてティー・ラウンジは賑やかな音を奏でる。それがこの場所の本来の姿。安らぎの風が集う場所。

今、確かに彼女達は心から笑っていた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

「ミルフィーユ・・・!?」

「桜葉・・・!?」

白き月の謁見の間にシャトヤーンとシヴァの驚愕の声が響いた。謁見の間に現れたエンジェル隊。その中にミルフィーユの姿があったからだ。

ミルフィーユが目覚めたという連絡は昨日の時点でケーラから届いていた。もちろんミルフィーユの状態についても。だからこそまさか彼女がこの場に現れるとは予想もしていなかった。

それはルフトとノアも同じだったようで、声こそ上げなかったものの、その表情には僅かに動揺の色が見える。

「・・・・・・ミルフィーユッ!」

嬉しさのあまり涙を流すシャトヤーンがミルフィーユを抱きしめようと駆け寄り、手を伸ばす。が、その手はミルフィーユに触れる直前にピタリと静止し、そして力なく下ろされた。

自分には彼女を抱きしめる資格なんてない・・・・・・

彼女の誰よりも大切な、もっとも愛する人を死へと追いやってしまった自分には・・・・・・

その負い目がシャトヤーンの心に暗い影を染め落とす。

そんな中、ミルフィーユが俯き項垂れるシャトヤーンに向かって一歩踏み出した。

シヴァとルフトに僅かな緊張が走る。ミルフィーユにとってタクトとの絆は何事にも変え難い尊いものだったはずだ。その絆を断ち切ってしまった自分達に彼女が抱く感情など容易に想像がつく。

シヴァとルフトが固唾を呑んで2人を見守る中、ミルフィーユの口がゆっくりと開かれた。

「・・・シャトヤーン様、ご心配をおかけしました」

「・・・え?」

響いてきたのは穏やかな口調。しかもその内容は自分達に対する謝罪の言葉。予想していたものとはおよそ正反対の事態にシャトヤーンはただ呆然と声を漏らすことしかできなかった。

「・・・どう、して―――

あなたが謝る必要があるのですか・・・?

あなたに謝るべきは私のほうなのに・・・・・・

いえ・・・例え謝ったとしても許されるものではないはずなのに・・・・・

恨まれたって仕方がない。あなたには私を憎む理由がある。それを咎める権利などない。

それなのに・・・・・・

どうして・・・・・・

あなたは、また私に微笑みかけてくれるのですか・・・?

震える声でかろうじて紡がれた短い問いかけ。

しかし、その言葉の中に渦巻くたくさんの嘆きを感じ取ったミルフィーユは、シャトヤーンの手を取り、その手に自分の手を祈るようにして重ね合わせた。

「タクトさんを信じてますから」

「・・・え?」

「信じてるんです。タクトさんは生きているって。だから、シャトヤーン様も信じてください」

「ミル、フィーユ――――

彼女の瞳には曇りがない。本当に、そして純粋に、信じているのだ・・・。絶望という名の闇が渦巻くその中にある小さな輝き――――奇跡ともいえる未来を。

「・・・あなたは、強いのですね」

ミルフィーユが顔を横に振る。

「そんなことないです。すごく弱いですよ、私は・・・。私がタクトさんを信じれるようになったのは、暗い闇の中に閉じこもっていた私を救い出してくれた人がいたから。私一人だったら、全てを諦めていました」

双眸を閉じて、微かに微笑みを浮かべながら、ミルフィーユが呟く。

その様子を見ながら、シャトヤーンは心の中でもう一度、ミルフィーユに向かって語りかけた。やはりあなたは強い、と。

例え手を差し伸べる人がいたとしても、殻に閉じこもったままその手を取ろうとしなければ結果は変わらない。差し伸べられた手を取り前へ進むか、差し伸べられた手を払い退けてその場に立ち止まるか、その決断をするのは本人の心次第なのだから。

そしてミルフィーユは前へ進むことを選んだ。

それならば――――

私も彼女と共に前へと進もう。それが、おそらく今の私が取るべき最も正しい道だと思うから・・・・・

「・・・・・・ミルフィーユ。私も、信じます。マイヤーズ司令のことを」

「はいっ!」

シャトヤーンの言葉にミルフィーユが嬉々として頷く。その笑顔に誘われるように、罪の意識に苛まれていたシャトヤーンの顔にもようやく微笑みが戻った。そして、その光景を目の当たりにしていたシヴァもまた瞳を閉じて、今一度自分自身に自分がとるべき道を問いただす。

答えが出るのに時間はかからなかった。シヴァは瞳をゆっくりと開くと、ミルフィーユのもとへと歩み寄る。

「桜葉っ!」

「は、はいっ!」

突然間近で響いた声に飛び上がらんばかりに驚くミルフィーユ。

「す、すまぬ。驚かせるつもりはなかったのだが・・・」

「い、いいえ」

ミルフィーユは胸に手を当て、一呼吸を入れる。彼女が落ち着くのを見計らって、シヴァはゆっくりと口を開いた。

「桜葉、まずは謝らせてくれ。私はマイヤーズに全てを背負わせただけでなく、僅かでもマイヤーズが生きているという可能性がありながら、それを否定してしまっていた。我ながら情けなく思う」

「シヴァ陛下・・・」

「だが、今のお前の言葉で目が覚めた。桜葉、私も信じよう。マイヤーズは帰ってくると。何より桜葉、お前が信じているのだからなっ」

「・・・はいっ!」

――――なんて甘い

壁に寄りかかり、腕を組みながらノアは眉根を寄せた。

一体何を期待しているというのだろうか。あの状況下において、そして現在の状況とあわせてみても0番機が、もしくはタクトが無事に脱出したなんてことは万に一つもありえないのに。奇跡でも起きないかぎりは・・・。

奇跡―――――

なんと魅力的な言葉だろう。だが、そんなのは所詮は夢物語にすぎない。現実とはそんなに優しいものではない。

奇跡など、信じるだけ無駄だ。期待すればするほど、それが叶わぬと分かったときに傷つくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わかっているはずなのに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノアの瞳が彼女の心の動揺を表すように揺れ動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わかっているはずなのに――――

何処かで信じたいと思っている自分がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクトは死んだんだ――――

でも、生きているかもしれない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってくるはずがない―――――

でも、帰ってくるかもしれない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡など起きはしない――――

でも、奇跡は起きるかもしれない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迷う必要なんて無いんじゃありませんの?」

――――っ!?」

突然間近で響いた声に、ノアは弾かれたように顔を上げる。そこには微笑みを浮かべたミントの姿があった。彼女だけではない。よくよく見れば、いつの間にかノアは他の面々に囲まれてしまっていた。

心の葛藤に捕らわれていたあまり、彼女達の存在に全く気付くことができなかったらしい。

「ノアさんも、本当は信じたいのでしょう? タクトさんを」

「な、何を馬鹿なこと言ってるのよ。あたしがそんな無駄なことするはずないじゃない。現実がそんなに甘かったら苦労しないわ」

馬鹿馬鹿しいというようにノアはフイッと顔を背ける。だが、その言葉は彼女が自分自身にそう言い聞かせているように感じられた。少なくともこの場にいる人間には。

ランファがやれやれと肩を竦める。

「まったく、あんたって本当に根性がひん曲がってるわよねぇ。信じたいなら信じたいって素直に認めればいいじゃない」

「そんなこと――――!」

「そんな涙の痕残した顔で言われてもただの強がりにしか見えないわよ」

「なっ――――

ランファの言葉にノアは反射的に両手を頬にあてた。あててしまった。気付いた時には時既に遅し。冷静になって考えてみれば一昨日の涙の痕が残っているはずがない。だいたい、涙の痕が残っていないかどうかなんて自分で何度も確認したのだから。

「だ、騙したわね!!」

キッと鋭い視線をランファに向けるノア。だが、羞恥心と怒りが入り混じった表情では、なんとも威圧感にかけている。実際にランファも全く意に介さず、淡々と続けた。

「カマかけてみただけなんだけど、その様子だと当たりだったみたいね。なら、なおさら信じたいと思ってるはずよ? タクトのために涙を流したあんたは・・・」

「っ・・・・・・!」

「ノアさんも一緒に信じましょう? タクトさんのことを・・・」

俯き、沈黙するノアにミルフィーユが優しく語り掛ける。周囲の人間もノアを促すように彼女の名前を優しく呟く。そんな中、全員の視線を一斉に浴びてもはや逃げ場はないことを悟ったノアは、とうとう自分の本心をさらけ出した。

「あーもうっ! わかったわよ! 信じるわよ! 信じればいいんでしょ!? えぇそうよ、泣いたわよ、大泣きしたわよ! 悪かったわね! 本当は信じたいと思ってるわよ!!」

「逆ギレかよ!?」

「ノ、ノアさん? 落ちついてくださいまし」

「だ、誰も悪いなんていってないでしょ!?」

初めてノアが見せた一面に驚きながらも、各々で何とか彼女を宥めようと努力する。その甲斐があってか、数分後には何とか落ち着きを取り戻したノア。もっとも、よほど叫び疲れたのかいまだにハァハァと呼吸をしているが。

 

「・・・ノア。この間は悪かったわね。あんたの悲しみに気付かずに殴ったりして・・・・・・」

ランファが唐突に神妙な面持ちで言った。ノアが顔だけをランファのほうへ向ける。

「・・・別に、いいわよ。あの時酷いこと言ったのはあたしだしね」

でも、それは全部あたし達を思ってのことだったんでしょ・・・?

ランファは首を左右に振り、もう一度謝罪の言葉を紡いだ。

「・・・本当にごめんなさい」

「・・・もう、気にすることないわよ」

「うん・・・。ありがと」

「・・・・・・」

誤解が解けてよかった。もしあのままノアが誤解されたままになってしまったら、それはとても悲しいことだから・・・。

シャトヤーンが慈愛の眼差しでノアを見つめる。視線を感じたのか、ノアが一瞬シャトヤーンを見るが、目があった瞬間に慌てて視線を逸らし、取り繕うように言葉を続けた。

「と、とにかくこの話はこれでお終いよ! それに水をさして悪いけど、私達の戦い、まだ全てが終わったわけじゃないんだから」

「え?」

「ヴァル・ファスクはネフューリア一人じゃない、ということよ。言ったでしょ? 過去のデータを調べていて判ったんだけど、EDENが戦っていた当時のヴァル・ファスクの軍勢はもっと大規模なものだったらしいわ」

「それでは・・・・・・」

「そう。また新たな戦いが起こる。奴等が次に攻めてくる日はいつか、それはわからない。でも、きっとそれは、そう遠くない未来。どのみち戦いは避けられないと思うわ。あんた達も、それだけは心に留めておいてね――――

 

 

 

 

それは、受け止めるにはあまりにも重く圧し掛かる言葉・・・・・・

 

 

 

 

そして・・・・・・・

 

 

 

 

悲しくも、事態はノアの予想通りに加速していくことになる――――

 

 

 

 

 

つづく