ある田舎のある神社の中にある一本の林檎の木…。

そのどこにでもあるような林檎の木の前である少女が立っていた。

「太郎さん…。」

その少女、紫亜は林檎の木を悲しそうに見つめながら一言つぶやいた。

その手の中にはある一枚の古い写真が握られていた。

それは、彼女が初めて愛した夫、太郎とその子供たちの写真だった。

 

紫亜は思い出していた、あのときの太郎との誓いを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                「誓い」

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

――あの日…。

 

 

紫亜の命が残りわずかになり、やむを得ず太郎と別れることになってしまったあの日…。

 

 

紫亜は抑えることができなかった。自分自身の魔性の心を。

紫亜は耐えることができなかった。これ以上太郎や子供たちが傷付くことを。

だから、紫亜はニャー…いや、クラウスが帰ろうと言ったときも、すぐに承認した。

 

これ以上、あの愛しき人たちを傷付けさせない為に…。

 

紫亜はそれを涙ながらに太郎に打ち明けた。

すると、太郎は急に強引に紫亜を背中に乗せ、そして走り出した。

「ちょっとだけだ、すぐ戻る!」

引き止めようとするクラウスに、そう言い残して。

 

 

紫亜は訳がわからなかった。突然の太郎の行動に。

「太郎さん、どこに行くの?」

紫亜はどんどん走って行く太郎に尋ねようとしたが、その前に太郎は突然動きを止め、そして紫亜を背中から降ろした。

紫亜は見上げた。そこは太郎と初めて会った、そしていろんな思い出が詰まった林檎の木だった。

太郎はその林檎の木を見上げながら言った。

 

 

「待ってるから。俺はお前のことをずっと待ってるから。」

 

 

それは太郎の心からの誓いの言葉だった。

紫亜はそんな太郎の心からの言葉を聞いて思いっきり泣いた。

 

 

そして、紫亜もまた太郎に誓った。絶対に戻ってくると。そして元気な姿を見せてあげるからと。

 

 

その後、クラウスによって記憶を消された紫亜は無表情のままクラウスについていった。

だが、太郎はずっと紫亜を、自分が愛した妻のことを、姿が見えなくなってもずっと見続けていた。

 

 

――絶対に戻ってくる――。そんな彼女の誓いを信じて。

 

 

――そして、それから約半世紀がすぎた。

 

紫亜は太郎が寿命で亡くなってしまった日の夜、紫亜の曾孫、湖太郎の必死の訴えによって全てを思い出した。

だが、それと同時に太郎が死んでしまったという悲しい現実も募り、そしてあの時みたいに思いっきり泣いた。

紫亜は美紗の薦めで林檎の木へやって来た時、彼女は林檎の木の前でへたり込んだ。

「太郎さん…。太郎さん…。」

ずっとそのつぶやきしか出なかった。

愛しき人を失った悲しみ、そしてあの時の誓いを果たすことができなかった悲しみ…。

紫亜はずっと後悔していた。あの時、もっとあなたと話しておけばよかった…と。

そんな時だった。突然、湖太郎は地面を掘り始めたのだ。

紫亜は一瞬、湖太郎が何をしているのか分からなかった。そう、あの時の太郎のように…。

 

「紫亜さん!ひいじいちゃんは待ってる!まだ待ってるよ!」

 

湖太郎はそう言いながら、地面をどんどん掘っていった。

そして掘り当てた。太郎とその子供たちが写った、一枚の古い写真を。

その写真を見たとき、紫亜は確信した。

太郎さんは、あの人はあの時の誓いを果たしたのだと。

50年という気の遠くなりそうな時間を過ごしながらも、あの時の誓いだけは忘れずにいてくれたのだと。

「ありがとう…。」

紫亜はその写真を抱きながらつぶやいた。

「帰ろう、紫亜さん…。」

湖太郎は言った。今度は本当の家族として一緒に暮らそうと…。

紫亜はそれを聞いたとき、新たな誓いを立てた。

 

 

「私、湖太郎さんのお母さんになります。」

 

 

樋口志摩として、また、紫亜としての最後の誓いを…。

 

 

そして、太郎の葬式を済ませた、その夜…。

紫亜は林檎の木の前に来ていた。

あの時の全てを詫びるために。

「太郎さん…。ごめんなさい…。私はあの時の誓いを果たすことができませんでした…。

あなたはずっとずっと私のことを待っていてくれたのに、私は結局、あなたに別れの言葉をかけることもできなかった…。本当に、ごめんなさい…。」

紫亜は、心からの謝罪の言葉を述べた。

「だから、せめて湖太郎さんと交わしたあの誓いは果たします。きっと…。

私の命はもう長くは無い…。だから、最後くらいは湖太郎さんに…私の大切な子供に親らしい事をしてあげたいと思います…。そして、その誓いを果たした時は、太郎さん、私はあなたに伺います。」

紫亜は全てを言い終わると、その手に持っていた写真をポケットにしまい、そして林檎の木に一礼し、その場を去って行った。

 

 

二度と破られることの無い「誓い」を、その心の中に深く刻み込んで――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜後書き〜

どうもです。私、タコチューの初めての投稿小説、「誓い」、いかがでしたでしょうか?

実はこの作品は「3周年企画小説」を執筆している最中になぜか突然思いつき、そして一気に書き下ろした作品です。そのためになんだかよく分からない作品になってしまいました…。

今思えばもう少し構成をしっかり立てておけばよかったと要反省です。

ちなみに、私がこの小説を執筆している時は、ずっとSowellの「IWill」を聞きながら書いていました。皆さんだったらどんな風に読もうと思いますか?

 

さて、この小説について少し語るとします。

この小説の内容は見てのとおり、「紫亜(志摩)と太郎」です。この二人の組み合わせは「湖太郎と美紗」ぐらいに好きな組み合わせなんですよ。今の時代には少ない、本当の夫婦愛というものを感じます。

 

それにしても、今回の小説は本当に反省点がいっぱいなのですが、何より反省するべき点は最初に言っていた通り行き当たりばったりで書いていった、ということかもしれません。そして気づいたときには後の祭りという状態。

今度からはもう少し気をつけます…。トホホ…。

ですが、こうやって小説を書くのも楽しかったですし、また機会があればこういう二次小説をまた書きたいと思います。

そして、こんな小説でも「あはは〜。何書いてんの〜。この人〜。」と笑いながらでも読んでくれたなら幸いです。

最後に、この小説を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

                                                     タコチュー