翌日。

ここは今日の試合が行われる舞台、トランスバール本星の某所にあるミーヒロ第二市民球場。

決勝戦が行われる前の最後の練習がグラウンドで行われている。

只今ノックを行っているのはタクト達、エルシオールエンジェルス。

バットを握りホームベース付近から内野へ外野へ球を飛ばしているのはタクト。

けれど狙ったところからずれてしまうことも少なくなく、

その結果到底追いつけないような打球になってしまいレスターや蘭花から文句も言われることも。

それでも練習は順調に……とりあえずは順調に行われていた。

 

 

すでに客席にはあらかた人が入っていた。

風はバックネット側から見て右から左。人々の頭や帽子を撫でるように吹いている。

 

内野のある席に赤とんぼが止まった。

夏からの生き残りなのだろうか、羽の一部が破けている。

季節は既に晩秋。まもなく彼らも街から、野原から姿を消す。

 

そんなことを知ってか知らずか。

とんぼは座席の中央の付近に留まると頭を右に、左に傾ける。

その仕草が猫にも似ているようで可愛らしい。

 

 

しかし、暫くして席の主が戻ってきてしまった。

紙コップに入ったジュースをもった主の女は蝿を払うかのようにとんぼを追い払う。

可哀相にも追い払われてしまったとんぼはパッと飛び上がり、

名残惜しむかのように自分を追った人物の上を一回旋回すると、

真っ青な秋空へ帰っていった……。

 

 

    〜G・A草野球狂想曲〜       後編(その2)

                           作・三雲

 

 

プレイボールの時間は刻一刻と近づき立ち歩いている人の数はだいぶ少なくなった。

売り子の女性がジュースやビールを掲げながら席から席へ渡り歩いているくらいである。

 

スコアボードの大型ビジョンが客席の様子を映し出している。

今、カメラが捉えているのは一塁側、対戦相手リトルキャッツの応援席。

1000人いるのではないかという大応援団。

チアガールが華麗なダンスを披露し、ブラスバンドは息のあった演奏。

そうでない人も帽子を被り団扇を持ちさらに服装も黒いシャツに統一。

草野球のチームと思えない大応援団だ。

 

 

そしてその隣には……。

 

「うぉーす!! 根じょぉーうぅぅ!!!!」

 

顔のごつく髭が濃くてむさ苦しい、

いえいえ勇ましい男達が一升瓶片手に大旗を振りまわしている。

近くで観戦している一般のお客さんの頭上を旗が通過し、空気を切る。

 

かなり、危ない。

 

 

そんな中何人かの男達はまず上着に手をかけ、さらにその下のシャ……………。

 

 

プツッ……。

スコアボードの画面がいきなり真っ白になる。

 

 

 

 

 

(しばらく、お待ちください………)

 

 

 

 

 

数十秒後、大型ビジョンが再び客席の様子を映し始める。

 

 

お騒がせな人達は制服を着た人達に囲まれている。

どうやら男達は駆けつけた警備員によって注意されあっさりと「原状回復」したようだ。

これもまた風物詩、なのか。

試合が始まった後一塁側の応援席をテレビが映しだす時は注意が必要であろう。

 

 

 

対して三塁側のエンジェルスの応援席。

今回が初出場。しかも結成してから僅か数週間。

応援団などいるはずが………。

 

 

 

 

 

「L!O!V!E! We love ヴァニラ!!! ヴァニラちゃーん!!! 愛してるぅー!!!」 

 

……いた。

テレビで、さらには星間ネットで彼女達の試合を見ていた「野郎ども」が大挙して押しかけてきた。

 

一際目立っているのが彼ら「ヴァニラちゃんファンクラブ連合」。

大会中にできた私設応援団が合同して結成された。団員は500名を超えるとか。

今日は休日ということもあって100名近い人間が三塁側スタンドの最も高い所に陣取る。

席は一塁側と三塁側に応援するチームによって分けられたが彼らは試合が始まると、

例えばエンジェルスが守備時はヴァニラが守るライトに、打席に立つときはバックネットへ移動する。

ちなみに今日が創立記念日。

 

その一方「本家」も負けてはいない。

準決勝まで仕事の為どうしても、どうしても来られなかった親衛隊が

これまた「ヴァニラちゃんファンクラブ連合」(以下、ヴァニラファン連)の右横を占拠した。

 

片やライトグリーンの鉢巻に法被。

片や同色のシャツと帽子の「戦闘服」に身を固めた異様な集団。

お互いかなり意識しあっているようだ。

 

 

その他にも……。

 

「さ、くらばさーん!!! こっち向いてぇぇー!!!!」

 

「ミントさーん!!! そのキュートな耳、触らせて下さぁぁーい!!!!」

 

「GO! GO! 蘭花!! GO! GO! 蘭花!! ワアァー!!」

 

「烏丸さぁーん!! ちとせさぁーん!! 最高でぇぇーす!!!」

 

様々な男達が声を振り絞ってスタンドからエールを送る。 

まだ試合前なのだけれども。

 

 

さてエンジェルスの応援席にいるのは男性だけではない。

野太い声に数では劣るがそれに勝る程の黄色い声援も飛んでいる。

最もそれは先の四人とは違う人物に対してだが。

 

 「うぉー!! 姐さぁーん!! 一生、ついていきまぁぁーす!!」

 

「嫁にしてくださぁぁーい!!!」 

  

女性陣で唯一同姓からの熱烈な支持を獲得しているのがご存じ、フォルテ姐さん。

某アイドルも顔負けの熱狂振り。

けれど男と女の割合はハーフ・アンド・ハーフ。

意外な、と言っては失礼だろうか。

参考までに先程「一生ついていく」と言ったのは自称23歳、OL。彼氏いない暦6年。商社の受付係。

「嫁にして」と言った方は、年齢24。恋人いない暦、年の数。職業は、自動車会社の営業…………マン。

 

 

「クールダラスさぁぁーん!!! かっ、こいいぃぃぃぃー!!」

 

「きゃぁぁー!! ク、ロ、ミ、エくぅーん!!」

 

この二人への声援は完全に女性100パーセント。

特にレスターへ声の限り叫ぶようなエールを送っている女性たちの瞳は何だか、輝いている。

こんな様子を「年末皇国軍オペレーター研修会」に出席しているアルモが見たらヤキモチ爆発、だろう。

 

かくして応援する方もかなり気合が入っている。

 

その間にもノックは進行していく。

 

「次ぃぃー!! ヴァニラ行くよ。」

 

タクトが右翼を守るヴァニラに言った。

 

カァーン。

ライトへ飛球が飛ぶ。

ヴァニラは弱冠後ろへ下がったが直ぐに落下点に入る。

 

パスッ。

ボールは見事グラブに入った。

 

うおぉぉぉぉぉー!!!!!

ヴァニラファン連と親衛隊の構成員が拍手と共に叫び声を挙げる。

 

こんな調子で誰かがノックを受けるごとにスタンドから拍手とどよめきが起きた。

 

ついさっき飛球を捕ったヴァニラが彼女を見守る、見つめる、凝視する視線に気づき振り向く。

ライトグリーンの衣装を着た男達と目線が、重なる。

 

 

 

「う、う、う………。ヴァニラちゃーん!! だ、い、す、き、だぁぁぁー!!!」

 

彼らの愛する少女は目が合うと直ぐに逸らしまたホームの方を向いてしまった。

けれど一瞬でも視線が交錯した……。それだけでも彼らは感激し、雄叫びをあげた。

これだからファンを辞められない、と言ったところであろう。

未だ男達は先程味わった幸福を忘れることが出来ず、その余韻に浸りきっていた。

 

 

 

 

 

(あんたら、何しにきたん?)

 

純粋に野球を見に来た観客の誰かが心の中でそう呟いたとか、呟かなかったとか………。

 

 ともかく様々な人から八人それぞれへ暖かい、寧ろ熱い声援が送られていた。

そう、「八人」へ……。

 

(どうして、俺には……。ダレモ、コエヲカケテクレナイノデスカ ?)

 

仲間外れの気分を味わい、ガラスのような心はパリンと音を立てて割れてしまっていたのだった……。

しょうがない、ガラス屋でも呼ぶしかないか。

けれども仮に新しいガラスを注文しても本人曰く彼の繊細な心、はそう簡単には直らない……らしい。 

 

「マイナーズさぁーん!!」

 

誰かが自分のことを呼んでいるように思った。

そんな筈がないさ、と無視していると。

 

「こっちを向いてー!! マイナーズさぁーん!!」

 

空耳ではない、はっとして振り返りバックネットの方見ると……。

 

「きゃあー!! こっち向いたぁー!!」

 

そこには可愛い二人のエンジェルが自分に向かって微笑みかけていた。

タクトはその十歳くらいの少女達に手を振って答えると、またも彼女達は歓声を上げた。

 

(ふっ!! 俺もまだまだ……捨てたもんじゃないなー。フ、フフフフ。)

 

タクトはすっかり立ち直ると、次々とボールを右へ、左へ。色々な所へ打ち分ける。

 

 

自分は一歩も動かないで……。

 

 

ちなみにボールは球場のスタッフの人が彼に手渡してくれていた。

自分のところにボールが来る度にタクトの下手糞な………。

いえいえ、厳しいノックを受けるミルフィー達。

 

その一方ただ突っ立ているだけで次々と適当なところへボールを飛ばすタクト。

レスターや蘭花はどこか釈然としなかったが、黙ってタクトのノックを受けていた。

 

それはともかくとしてタクトの鼻歌交じりではあったが、厳しい練習はまだしばらく続くのであった。

 

 

 

 

 

「言ったとおりでしょう? あの人、人気ないみたいだから絶対声かけたら反応すると思ったのよねぇ。」

 

「ホント、ホント。マジで傑作よね。」

 

ここはバックネット裏の特等席。

とはいっても席はボロボロで値段も「お手頃」。

その為結構な人数が座席を埋めていた。

 

ニコニコしながら先程のことを振り返っているのは、タクトに声をかけてくれたエンジェル達。

また二人の少女の周りではお喋りに興じている二人のオバサンと、

そしてビールのつまみ一袋を二人で分け合っている中年男性がいた。

子供、母親、父親とそれぞれ勝手に盛り上がっている。

どうやらお隣さん同士で一緒にこのせっかくの休みの日にわざわざ野球を見に来たらしい。

なんとも物好きな……。

 

 

「でもさー。やっぱ名前が『マイナーズ』だけ、あるわよねぇー。」 

 

女の子二人の会話は続く。

ちなみにタクトの苗字は言うまでもなく、マイヤーズ。

 

 

 

「ねえ、あなた達。来てよかったでしょ。」

 

不意に母親のうち一人が娘たちに話をふる。

脈絡がなくいきなりだから困るのであるが……。

 

「うん、とっても。」

 

「誘っていただき、ありがとうございます。」

 

即座に商業用の笑顔を作ってみせ、またそれを見て母親も満足する。

 

そして女の子達はすぐまた商業用から素顔に戻ると話の続きを始める。

 

 

かくして観客席でも色々なドラマ、人間模様が描かれているのであった……。

 

現在時刻は11時45分を回ったところ。

運命の決戦の火蓋が切り落とされるまであと15分弱である。

 

 

 

 

そうこうしている内にタクト達は練習を終えベンチで相手の練習を眺めることになった。

試合は正午開始。

練習が終わり帰ってくる選手達と入れ替わりに作業員がトンボでグランド整備に励む。

そして試合開始10分前、テレビによる中継が始まった。

 

『皆さんこんにちは。球場の上に雲はほとんどありません。秋晴れの中まさにスポーツをするに相応しい

天気です。さあ第96回トランスバール皇国軍親善野球大会、決勝戦。間もなく試合が始まります。解説

はワーガエさんです、よろしくお願いします。』

 

『よろしくお願いします。』

 

低い声で解説者が挨拶をする。さすがに決勝戦というだけのことはある。

準決勝まではずっと実況のみだった。

ちなみに今日の実況は入社してまだ日の浅い若手アナウンサー。

1回戦タクト達の試合の実況を担当した人である。

 

『ワーガエさん。今日の試合はどのような展開になるでしょうか?』

 

『そうですね。力の差はかなりありますからリトルキャッツが先制するとかなり大差の試合になると思い

ます。しかしエンジェルスの方も頑張っていい試合にしてもらいたいものですね。本当、よくここまで残

ってこられたと思いますよ。勢いはありますね。まあ、最後は地力のあるチームが勝つでしょう。』

 

すこし気分が高揚しているアナウンサーに対し解説者は冷静に試合の行方を占う。

この解説者、視聴者の受けはあまり良くない。

 

 

とここで番組のスポンサーが場内の様子と共に紹介される。

 

『この番組は、貴方の納税が明日を支える、トランスバール皇国税務局。ナリキン銀行、ブラマンシュ商会、

スーパーマドレーヌ、一十百貨店、野菜の魚八の提供で、お送り致します。』 

 

 

 

さてスポンサーの紹介も終了し、ゲームが始まるのも秒読みとなってきた。 

11時時点の気温が16度。天気は下り坂で夜には所々で雨が降り出すとの予報。

しかし夕方までの降水確率は10パーセントとのことだ。

客席を見渡しても傘を持っている人はどうだろう、多くて半分くらいか。

仮に万一雨が降り出しても屋根のある両チームのベンチ裏の席に移動すればよい。

この球場同じ一塁側、三塁側であれば席の移動は自由である。

 

空は少し雲が出てきたものの黒い雲ではない。

 

西の空に目をやるといわし雲が見えた。

いわしはゆっくりと、ゆっくりとではあったが広い広い大海原を東へ向かって旅していた…。

 

風が……少し強くなってきた、ようだ。

 

 

 

針が予定の時間をさすと同時に両軍の選手がベンチから飛び出してホームベース付近に整列し礼をする。

グラウンドに選手が散っていった。

 

「お待たせ致しました。ただいまより、エルシオールエンジェルス対リトルキャッツの、決勝戦を行います。」

 

場内アナウンスはそう伝えたが試合はすぐには始まらない。

決勝に相応しい大きなイベントが用意されていた。  

 

『さて、プレイボールの前に始球式が行われます。式を務めるのは……、この御方です!!!』

 

実況のアナウンサーがそう言うとカメラがパッと切り替わり、一塁側のブルペンを映し出す。

すると中から車が出てきた。リリーフカーだ。助手席にユニフォーム姿の男性が乗っている。

どうやらこの人物が始球式の主役らしい。

 

観衆も車に気づいた。しかし誰かまでは判別できない。

マウンドに到達したところで満を持してウグイス嬢がやや震えた声でその人物の名を読み上げる。

 

 

 

「始球式を務められますのは、ルフト・ヴァイツェン将軍です。」

 

場内のどよめく観衆にリリーフカーから降りたルフト将軍は手を振って応える。

打席にはこれまた軍のお偉いさんが立った。

 

マウンドから数メートルホームベースよりに立つ事を勧められたがルフト将軍は断った。

 

グローブを軽く叩き大きく振りかぶって、投げた。

 

ポッン。

ど真ん中とはいかないがなんとかキャッチャーのところまでは届いた。

客席からわっと拍手が巻き起こる。

その拍手に帽子を取って応えると忙しい身分の将軍は足早に球場を去っていった。

 

 

 

 

 

イベントが終わり、ついに試合が始まる。

 

 さあーいよいよ、第96回トランスバール皇国軍親善野球大会。決勝戦が始まります。先攻は、初出場で

驚異の快進撃。今大会に旋風を巻き起こしたエルシオールエンジェルス。4年ぶり2度目の優勝を目指した

ブルーソックスを準決勝で撃破しての決勝進出です。もちろん優勝すれば初優勝。』

 

投手はプレートの上に立ち、打者がバッターボックスに入った。

上空はところどころに雲はあるがおおむね晴れている。

風は一時的に強まったものの現在は右から左へスコアボードの旗が少しなびく程度。

冬の到来が近い事を予感させる晩秋の思わず体を縮めたくなるような風だ。

 

『一方の、まず守りますリトルキャッツは今回で2年ぶり4度目の決勝進出。3回目の優勝を狙っています。

事実上の決勝戦と言われた準決勝では延長11回に及ぶ死闘の末、1対0で5年ぶり2度目の優勝を狙った

生け花同好会を破りました。やはり優勝候補の大本命。下馬評どおり見事、決勝に進出してまいりした。』

 

実況の説明が終わるとほぼ同時にタイミングよく相手の先発投手が投球練習を終えた。

リトルキャッツのユニフォームは黒の帽子に白でRCの文字。

シャツは黒地にチーム名のロゴが白く浮き上がっている。なお、袖の部分は白。

そしてズボンも白。但し靴下は黒。

二色のみの単調な色彩だが、上下でかなり対照的な為割と印象に残りやすいらしい。

黒を基調としていることから「黒猫軍団」との異名を持つ。

 

 

観衆が、テレビの前の視聴者がある言葉が発せられるのを今か今かと待っている。

 

 

そして主審が右手を天に伸ばす。

 

 「プレイボォール。」

 

アンパイアがそう告げて台本のない舞台が始まった。

 

 

 

 

 

試合はやや一方的なものとなっていた。

相手投手の130キロ近い速球と鋭いカーブに手も足も出ず、

守ってはピッチャーの蘭花は5回までに8失点。

きわどいコースをことごとく見切られ、甘く入った球を痛打されるのでは致し方ない。

6回の表も三者凡退となり、得点は0対8。かなり劣勢だった。

 

6回裏。リトルキャッツの攻撃。

この回もマウンドには蘭花。しかしすでにかなりの球数を投げスタミナも限界に近づいていた。

先頭バッターにストレートの四球を与え、続く打者には2球目をセンター前に運ばれた。

ノーアウト一、二塁。

 

 

ここでタクトが動いた。審判に何かを告げたのに続き蘭花に話し掛ける。

 

「ありがとう、お疲れさん。」

 

肩を叩いて労をねぎらう。

蘭花はボールを足元で二度バウンドさせた後、ショートから走ってきたミルフィーに渡した。

場内アナウンスが守備の「後退」を告げる。

 

「ピッチャー、フランボワーズに代わりまして桜葉。ピッチャー、桜葉。背番号、6。」

 

ピッチャーがミルフィーに代わり、蘭花はショートの守備についた。

 

気のせいか空に占める雲の量が増えてきたように思える。

予報よりも早く低気圧が発達しているのだろうか。

太陽が隠れては姿を現わし、また隠れては再び現れてその陽光で地上を照らす。

 

 

 

二球程投球練習をした後ミルフィーは一、二度プレートの土を足で払う。

そして右手とグローブをかかげ、左足を一度上げてから前に思いきり出す。

 

第一球。相手打者は投手の代わり端を捉えた。

 

 

カン!

低い弾道が三塁、フォルテを襲う。

 

『打ったあぁぁー、三塁強襲。あっとサード弾いたぁ、弾いた。しかしすぐに拾って三塁ベースを踏んで

アウト、さらに二塁へ送球。アウト、ダブルプレェェー。』

 

ノーアウト一、二塁からあっという間に二死一塁に。

ここでバッターは今日蘭花から本塁打を打っている2番に回った。

キャッチャーのタクトのリードが俄然慎重になる。

1球、2球外角の際どいコースを要求する。

しかし3球目、外角低めを狙ったボールがインコースの高めに入った。

 

 

カーン!!

強引にひっぱりレフトの上を越える。

 

『打ったぁぁー。これは長打コォォース。打球はフェンスまで到達したぁー。レフト捕って内野へ返す。

一塁ランナー三塁を回ったぁぁぁー。ボールは今、ショートへ。バックフォォーム!!』

 

セーフだった。蘭花が球を握った時点ですでに走者はホームベース手前にいた。

タイミングはセーフだった。けして暴走ではない。

 

バシッ!!

キャッチャーミットにダイレクトで球が収まった。

ランナー何とかかいくぐろうと試みるが不可能と悟るとタクトに思いっきり体当たりした。

タクトの体が1メートルも2メートルも吹っ飛ぶのを見てにやっとした笑みでホームを踏む。

 

 

 

 

 

「アウト。スリーアウトチェンジ。」

 

その声に誰もが耳を疑う。けれどもキャッチャーはしっかりボールを掴んでいた。

観客からいっせいに拍手と歓声が沸き起こる。

 

『アウトォォォー、アウトです。ショートすばらしい返球。そしてキャッチャー体を張った守りぃぃ!!

エンジェルス、9点目を死守しましたぁぁ。信じられません、タイミングは完全にセーフ。しかし、現に

ランナーはアウトになりこれから7回に試合は入ります。』

 

回は6回が終わった。以前点差は8点。

スタジアムの群集はいまだ先程のショートの好返球とキャッチャーのブロックの興奮に酔いしれていた。

 

空を見ればそれまでの秋の晴天にはいつのまにか黒いしみが生じ、

風は北よりから急に西からの風に変わっていた……。

 

 

 

 

 

その後試合の流れは急激にエンジェルスに傾いていった。

これまで4試合連続完封していた相手のエースが試合終盤に差し掛かった頃から急に、乱れ始めた。

球が高めに浮き始めストライクが入らなくなり、カーブがすっぽ抜けることが多くなった。

やはり前日11回を一人で投げぬいた影響があったらしい。

7回に2点、8回に1点を返しミルフィーも相手打線を巧みにかわす。

3対8。そして8回の裏。

 

 

『さー、試合は8回表にエンジェルス1点を返し3対8。しかしその裏リトルキャッツ、ツーアウトから

ヒットと四球で一、二塁。エンジェルス、ピッチャーは桜葉。ワンストライク、ノーボール。ピッチャー

振りかぶって、投げた!!!』

 

 

カキィーン!!

ショート蘭花、サードフォルテともに横に飛ぶが、捕れない。

快音と共に打球は三遊間を抜けていく。

 

『打ちましたぁぁー!!! 三遊間を破りレフト前ヒーットォー!! 二塁ランナー三塁を蹴ったぁぁ!! 

いや、止まった、止まりましたぁぁ!! ボールは今、セカンドへ帰ってくる。ツーアウト、満塁。8回裏、

リトルキャッツ絶好のチャンスを迎えましたぁ!!』

 

次打者が打席に入る。5点のビハインド。ここで離されたら勝利は遠のく。ピッチャー、ミルフィー。

タクトのサインに小さく二度頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アウト、スリーアウトチェンジ。」

 

二塁塁審がいきなりそう叫んだ。訳が分からず呆然とする相手チーム。

蘭花達も良く分からぬままベンチに戻る。

ただ二塁ランナーはヘルメットを叩きつけて悔しがり、セカンドのミントは悪戯っぽい笑顔をしていた。

実況も何が起こったのかさっぱり分かっていないらしい。

 

『あー。一体ないが起こったのでしょうか。今の映像見れますか?』

 

テレビの特権で確認しようと試みる。やがて映像が流れた。

しかしテレビで流れていたのでは状況が良く分からず、続いて違うカメラの映像が出た。

 

『えー。ピッチャーがセットポジションにつき、二塁ランナーがリードして……。あ、ここでセカンドの

ブラマンシュ選手がランナーをタッチしていますね。隠し球です。あぁー、全く気がつきませんでした。

見事なプレーです。チームの危機を見事に救いました。試合は8回終わって3対8。リトルキャッツ5点

のリードです。』

 

隠し球。投手のミルフィーはボールを持っておらず、

実はセカンドのミントがボールを持っておりランナーが塁を離れた瞬間にタッチ。

スリーアウトとなったのであった。

実況が気づかなかったのも無理はない。スタジアムの誰もが見抜けなかった。

間近にいた二塁塁審だけがこの一部始終を見ていて、アウトを宣告したのだった。

そして万事上手くいったこの謀の主はベンチに戻りチームメイトに説明すると、

一瞬ぺロッと舌を出したが気づいた者はいなかった。

 

 

 

さてさて試合は8回を終わりエンジェルスの5点ビハインドでいよいよ9回の表を迎えた。

 

「2番。ショート、フランボワーズ。」

 

先頭バッターが出れるか、否か。ピッチャーがサインを確認しボールを投げ込む。

ボール。低めにやや外れた。2球目はコーナーに決まりストライク。

続けて3球目を、投げた。

 

カキーン!!

ボールが三塁線を破っていきファールゾーンのフェンスにまで到達する。

蘭花は一塁ベースを蹴った。

レフトが追いつきショートへ返球したがその時にランナーはセカンドベースに頭から突っ込んでいた。

ノーアウト二塁。

 

続くフォルテは追い込まれてから3球粘った後、セカンドゴロに倒れた。

その隙に蘭花は三塁に進み、ワンアウト三塁。

 

『さあここでバッターボックスに4番のマイヤーズが入ります。5点を追いかける状況。ここは、まずは

1点を返し、つないでいきたい所です。』

 

ピッチャーの顔にはピンチながらも笑みが浮かんでいた。

もうすぐ自分たちが頂点に立つのだ、

その他の内野の選手も主将であるショートを除き白い歯がこぼれる。

ピッチャー、二度軽く頷き力いっぱい速球を投げ込む。

 

 

カァァァーン!!!!

素晴らしい音を残して白球が空に舞い上がる。

 

『打ったぁぁぁぁー。これは大きいぃぃー、大きいぃぃぃー。センター、必死にバックする。入るかぁ、

入るかぁぁぁぁー!!!』

 

センターがバックスタンドに向かって走り、フェンスを蹴ってジャンプして可能な限り左手を伸ばす。

フェンスは人の背より少ししかない。

スタンドに入りかけた打球が茶色いミットの中に空中で一度おさまる。

そしてそのまま落下……。

 

 

 

『さーあ、捕ったのか、それとも…。あーっと、今立ち上がり左手を誇らしげに突き上げたぁー。捕って

います、捕っています。ファインプレェェェェー!!!!!」

 

マウンドの上で背番号1が大きくガッツポーズをし、ショートのキャプテンも一瞬目を細める。

対してタクトは二塁を回ったところでがっくりとしゃがみこんでしまった。

悲鳴の後歓声を上げた相手チームの応援席は「あと一人コール」を声高に叫びだす。

三塁ランナーはタッチアップをしてホームイン。スコアボードが回転し9回の表に1が刻まれた。

犠牲フライで1点を返したが、ランナーは無し。ツーアウト。得点は4対8。

 

「6番。ファースト、クールダラス。」

 

そうウグイス嬢が告げたところでそれまで何とか持ちこたえていた空が遂に耐え切れなくなり、

ポツポツと雨が降り出し乾いたグランドを濡らす。

雨は瞬く間に豪雨となり客席に赤や黄色、透明の花が咲き乱れる。

傘を持っていない者は大慌てで屋根のある席へと集団移動。 

たちまち外野席から傘を持っていない人が消え、一、三塁側ベンチ付近の席に人が集まる。

 

あと一人。しかしたちまち雨は勢いを増し、マウンドに立つ投手は痛いとさえ感じていた。

試合の続行はかなり難しくなってきた。

大会の規定では準決勝までは5回、決勝では7回の裏表を終えた時点で試合は成立するとある。

決勝戦は異例の降雨コールド、打ち切りとなる可能性が出てきた。

 

 

 

 

 

審判たちが協議している。

そして主審がバックネット裏へ走りマイクを貰うと左手に持った。

協議の結果を説明しこれからどうなるのかをスタンドの観客に告げるようだ。

 

球場が異質な空気に包まれる。

 

「えーただいま、雨が強く振っております。よって、試合を一時中断いたします。」

 

パチパチパチ。客席から安堵の拍手が起こった。

内野にブルーのシートが敷かれ、一輪車で運んできては次々と土を足していく。

 

両軍の選手がグラウンドを引き上げる。

雨はさらに激しくなり観客席の階段は滝のように水が流れている。

また一つ、内野席に黒色の花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

十分、二十分、三十分経過した。

いまだ雨は衰えず、内野には巨大な湖が出現していた。

 

 

 

 

 

 

 

時計の針が3分の2回ったところでようやく小康状態となり、再開されることになった。

選手が、審判がグラウンドに戻る。

まだ3時過ぎだというのに、分厚い雲に覆われ日の入り後のように暗い。

外野の照明も光が灯り、カクテル光線が11人の選手と6人の審判を照らす。

 

 

試合が再開しレスターが打席に入る。雨はいまだ降り続いており、たちまちヘルメットに水滴がつく。

初球、ストライク。しかし2,3球目は外れ、次の球もワンバウンドした。

背番号2の捕手が両手で何かを抑える動作をして落ち着かせようとする。

5球目。

 

 

カーン!!

ピッチャーが渾身の力をこめて投げた直球をセンターに弾き返した。

一塁を回り次の塁も狙うが半分まで進んで戻る。二死一塁。

ランナーは出たが既にツーアウト。しかも打順は下位へ回る。 

 

「6番。センター、クワルク。」

 

『ツーアウト、ランナーは一塁。バッターはクワルク選手。ピッチャー投げた、ボール。低めにやや外れ

ました。』

 

実況の口調がかなり早口になっている。

 

『ピッチャー、だいぶ疲れているようですがあと一人ですから、気力を振り絞って欲しいですね。』

 

解説の言うとおりリトルキャッツの投手は球数もかなりのものとなり、握力も落ちているようだ。

リリーフの投手がブルペンで投球練習を開始する。

冗談じゃない、とそれを見て「エース」はマウンドを強く蹴り上げる。

 

キャッチャーが間をおいて球を返す。続く2球はストライクゾーンに決まったものの、

4球、5球と大きく外れてしまいカウントはツースリーとなった。

 

6球目、ど真ん中に入った。クロミエは思い切りバットを振る。

しかし球はやや曲がり緩やかに沈んでいく、カーブだ。

 

パッコ……。

体制を崩され当てることしかできない。ボテボテのゴロがサードの正面に転がる。

内野は降り続く雨でぬかるみボールがほとんど弾まない。

三里手が勢い良く前進し捕球して一塁へ……。

 

 

 

 

 

 

が、できない。球はグラブの中に入っておらず、三塁の横を弱弱しく転がっていき少し後方で止まった。

スコアボードにEのランプが点灯する。サード、トンネル。

サードはベース付近に走りゆっくりと泥まみれのボールを拾って投手へ渡す。

ピッチャーはそれを忌々しげに見つめた後、

審判に球の交換を要求した。捕手は新しい球を受け取り投手に投げ「ドンマイ」としきりに繰り返す。

 

 

そんな努力も虚しく、一度狂ったリズムは簡単には直らない。

ピッチャーは集中の糸が切れたのか次打者のミントにはストレートの四球を与え、

8番のヴァニラにも球はことごとくキャッチャーの構えた所とは違う場所へ行く。

 

『ストラァァァーイク。4球目、ようやくストライクが入りました。しかしカウント、ワンストライク、

スリーボール。ツーアウト、フルベースです。』

 

『ピッチャー振りかぶって、投げた。あっと、またまたボールだぁ。フォアボール、フォアボールです。

押し出しだー。5対8。1点返しましたぁー。エンジェルス脅威の粘りです。さあーこれはあの1回戦、

9回奇跡の逆転劇が再びこの球場にリプレイされるのかぁぁぁー!!!!』 

 

『まあそんなに甘くはないでしょう。しかし、すごい粘りですねー。大したものです。』

 

公共の電波を通じ高揚し、裏返った男の声が茶の間やリビングへ届けられる。

また解説の冷徹な意見はよそにスタジアムの熱気はますます高まるばかり。

 

「9番。レフト、烏丸。レフト、烏丸。」

 

ちとせの名前がウグイス嬢に読み上げられた。今日五度目のコール。

緊張した面持ちでネクストバッターサークルから打席に向かうちとせ。

場内の興奮はピークに達しつつあった。

 

 

「ちとせ!! ちょと……。」

 

「え、………。は、はい。」

 

だがここでタクトは審判にタイムを取るように申し出ると、ちとせを呼び止めベンチから手招きする。

ちとせは訝りながらも一旦ベンチへ下がる。

 

「あのー。どういったご用件、しょうか?」

 

自分が呼び止められた理由が皆目見当つかないちとせ。

 

「うーんとねー。えっと……。ちとせ。」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

 

 

「………深呼吸、して。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい?」

 

ちとせはタクトがなぜそう言うのか全く分からない。それは傍で聞いていた蘭花達も同じ。

 

「なにいってんの、あんた?」

 

蘭花が呆れたように問う。

 

「いや、だから。深呼吸、して。」

 

タクトがまたも言葉を繰り返す。

 

「えー。それはその、文字通りの意味ですか?」

 

うん、とタクトが頷く。

ちとせはそれでも意味が呑みこめない。

 

なんともいえない静寂が場に現る。

 

 

 

「要するにー。『落ち着け』ってことですか?」

 

ミルフィーが次打者の待機場所から少し大きめの声で言う。

そこまで聞こえていたらしい。

 

「まあ……。要はそういうことなんだけど。」

 

自分の言いたかったことを代わりに言われバツが悪そうだ。

 

 

 

「そろそろいいですか?」

 

審判がタクト達のベンチを覗き込み、尋ねる。

 

 

「あ、はい。」

 

間の抜けた返事をするタクト。

そしてチームの運命を背負ってちとせが打席に立つべく、ベンチを後にする。

 

 

 

時が再び動き出す。

 

 

 

ちとせは勝負の場へと向かう。そして彼女にタクトが最後の声をかける。

 

「ちとせ、ともかく一生懸命やって、そして楽しんできなよ。これは司令官、いや監督命令だ。」

 

「はい。」

 

ヘルメットを改めて被ったちとせが言った。

ちょっと緊張してはいるようだが硬さは見受けられない。 

だが今のタクトの発言はチームに少なからぬ衝撃を与えた。

蘭花は思わず飲んでいたスポーツドリンクを吐きだしてしまい、少しフォルテの顔にかかってしまった。

 

(あんたが……監督、だったの………。)

 

蘭花が、全てのチームメイトがその「知られざる真実」を知った、知らされた。

しかし蘭花は大丈夫だろうか、幸い別段フォルテは気にしてはいないようである。

 

 

 

 

 

表向きは………。

 

とりあえず諸悪の根源であるタクトをからかうことで鬱憤を晴らそうとする。

 

「でも、命令だったら褒賞があってもいいんじゃないかい?」

 

「そうですねー。看板にあたったら100万ギャラ、っていうのもあるみたいですし。」

 

フォルテにミルフィーが同調する。

しかしミルフィーよ、それはホームランを打った時の話なのだが。

だが二人に、特にミルフィーに言われたらタクトも考えざるを得ない。

 

「そうだなあ……。」

 

 

 

結論から言うとミルフィーの意見がほぼ通り本塁打を打ったら何かをプレゼントということになった。

けれどその何か、が決まらない。

そもそも急に、それも試合の最終回ツーアウトでこんなことを言い出すのが問題なのであって……。

いやそんなことを彼女達に言ってもしょうがない。

とにもかくにもこうなってしまった以上、何をプレゼントするか決めねばならない。

 

ミルフィーも一度ベンチに下がり四人の相談が始まった。

 

四人、そう今塁上にいるクロミエ、ミント、ヴァニラは蚊帳の外。

先程の押し出しで生還したレスターは、興味がなくベンチの奥に下がってしまった。

 

そんなことなどちっとも気にせずに四人の話し合いは続く。しかしなかなか決まらない。

プレゼントといっても予算があるわけではないからお金がかからないのが望ましい。

けれども本人が喜ぶものでないと意味がない。

いいアイディアが、誰も、浮かんでこなかった。

 

それに「ホームランを打ったら」という過程の話であることを多くの者が、

いいや全員が綺麗さっぱり忘れていた。

 

一体どうしてこんなことになったのやら。

 

 

まだ、決まらない……。

時間だけが、過ぎていく……。

 

 

 

「ちとせ、なにがいい? 何でもいいよ。」

 

これ以上話し合っても結論が出ないと判断しタクトは、ちとせに委ねることにした。

結局は本人が望むものが一番だと考えたからだ。

 

ちとせは首に手を当てて考え込んでしまう。

何でもいい、と言われても……。 

 

「ちとせが一番やりたいこと、して欲しいことでいいんだよ。」

 

タクトが優しく言った。

ミルフィーとフォルテはちとせが何を望むのかが気になるご様子。

蘭花は自分が何を頼むかでかなり迷っている。

だから別に無条件でもらえるわけではないし、

そもそも二死なのだからこの回2番の蘭花に打順が回ってくるかの有為は限りなく低いのだけれど……。

 

少しの沈黙を守った後、ちとせはタクトに尋ねた。

 

「私がやりたい、して欲しいことですか?」

 

コクンとタクトは頷く。言う方は簡単だからいいが言われるの方は困ってしまう。

急に言われたら尚更、だ。

 

 

それでも何やら思いついたらしい。

ちとせはキュッと手を握る力を強め、訊いた。 

 

「あの、あのー。………タク、タクト、さん……。本当に何でも、よろしいのですか?」

 

タクトはちとせの眼にドキッとする。

上目遣いがなんとも可愛らしい。

もちろん特別に意識してはいないのだろう。しかしタクトは正直戸惑っていた。

男は大体こういうのに弱いものだというがある程度は本当らしい。

 

「うん? ああ、俺ができることならね。男に二言はない。」

 

それでもそんな様子を微塵も見せないようにと注意を払い、ドンと胸をはって答えた。

最も当人と一人の先輩を除いてはバレバレだったが……。

それでもタクトの言葉を聞いて安心したのだろうか、

ちとせはほんのりと顔を赤くしながらタクトに自分の希望を言った。

 

「えっと、それでしたら……。『アレ』でもよろしい、でしょうか?」

 

 「ちとせ。『アレ』っていうのは、なに?」

 

タクトの当然の質問にちとせは恥らいながらも答えた。

 

「え、その……。モノ、ではなくて行為なのですけど……。タクトさんのお顔をお借りしたいのです……。」

 

えっ!! 現場にいたタクト(それとミルフィー)以外の三人が凍りつく。

さらに言葉の意味を確認しようとするタクトからちとせは目を逸らす。

 

 

普通のことならばわざわざ代名詞を使う必要はない。

しかもちとせのこの恥ずかしがりよう……。タクトの頭は一つの結論に達した。

 

「ダメ、ですよね……。」

 

ちとせの表情がうっすらと曇る。

けれど残念そうではあるが落胆しているようには見えない。

ダメで元々。最初から受け入れられるとは思っていなかったのかもしれない。

ところが……。

 

「うんうん、全然。全然構わないよ。」

 

即答である。

かわいい部下の頼みを無碍に断れる筈がないか、この男に……。

タクトはデート先で荷物を持って、と恋人に言われたたら絶対に断れない性質だろう。

(まあ、そもそも「恋人」ができるのかが大きな問題である)

 

もちろん、それだけでなく『アレ』への期待が全くないわけではなかったが。

 

「本当、ですか?」

 

「いいよ。」

 

タクトの声は弾んでいるように蘭花やフォルテには思えた。

恐らく気のせいで……ないかも、しれない。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

ちとせの顔が朝焼けの空に浮かぶ雲のように赤くに染まる。

 

 

 

もしかして『初』なのか? 

 

 

 

 

 

あり得る。十分すぎるくらいにあり得る。 

 

「ちょ、ちょっと!! ちとせ、駄目よ!! そんなの。」

 

「は、早まっちゃいけないよ!!」

 

優しい先輩二人が必死にちとせを諌めるがどこ吹く風。

というよりも本来一番彼女を止めないといけない人間が……。

 

「ところでちとせ。『アレ』ってなに?」 

 

タクトは何やら遠足に出かける小学生のようにうきうきとしている。

 

「昔、父にやった時にとても怒られてしまいした……。『男の人に軽々しくやってはいけない』と。」

 

質問の答えにはなっていないが言葉のニュアンスが代わりに答えている。

『男の人に軽々しくやってはいけない』ということは、やはり………。

 

 

 

 

 

 

 「あのぉ…………まだ、ですか?」

 

腕を組み困りきった顔で主審が再びベンチの前にやって来て聞いた。

 

「え? す、すみません!!」

 

どういうわけかちとせが謝り、バッターボックスへ大急ぎで向かう。

本来頭を下げなければならぬ人物は違う気がするのだけれど。

 

「ちとせ、ちょっと待って!!」

 

その張本人がまたもやちとせを呼び止める。

 

「今度はなんですか?」 

 

ちとせが髪を、絹糸のように美しい黒髪をなびかせて振り返る。

 

 

 

 

スッ。

タクトは自分のバットを差し出した。

 

「はい、よかったらこれ使って。」

 

 受け取ったちとせは……。

 

 

 

 

 

「はい。ありがとうございます、タクトさん。」

 

はちきれんばかりの、笑顔だった。

 

 

 

 

 

バットを借りるとちとせは打席に入りピッチャーと対峙する。

 

ズバッ!

1球目は外角低めに決まった。

大きく息を吸って、投手は膝を上げ腕を振り下ろす。

 

バン!!

速球が胸元を掠めミットに収まる。

尻餅をついてしまったちとせに投手が帽子を取って軽く頭を下げる。

いくら草野球とはいえそこそこのスピードが出ている、

そんなのが自分の体を掠めたならば普通は多少なりとも恐怖感を覚えるであろう。

しかし、再びバットを構えた彼女の目にそれは無かった。

 

ドン!!

速球が内角ぎりぎりをつく。ツーストライク、ワンボール。

一塁側はもう拍手と歓声の嵐。高らかに「あと一球」と多くの観衆が叫びだす。

 

ちとせは一度ベンチに目をやる。そしてバットに何かを祈った。

雨脚がすこし弱くなり、雲の切れ間から太陽が時々顔をのぞき始める。

 

あと一球、あと一球。拍手とコールがバックネット裏からもいつしか起こっていた。

全ての観客が次の一球、幕が下りる瞬間を見逃すまいと固唾を飲む。

 

『9回の表、ツーアウト満塁。得点は5対8、エンジェルス3点を追いかけます。カウントツーワンから

ピッチャー、投げた。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カキィーン!!!

会心の当たりが前進守備の外野の頭上を襲う。

ライトがジャンプするが、白球はその遥か上を行った。

打った瞬間呆けていたちとせがベンチの、タクト達の声を聞くとバットを放り出して走り出す。

 

 

ドワアァーアァーアァァー!!! 得体の知れない歓声にスタジアムが揺れる。

クロミエがまず還り、二塁ランナーミントも余裕のホームイン。

打球はフェンスにまで到達した。

ようやくライトがボールに追いついた時にはすでに一塁走者のヴァニラは三塁を蹴り、

両足を可能な限り速く動かして本塁へ向かっていた。

打ったちとせもセカンドからサードへ走っている。

間に合わない。諦めたライトが山なりに球を内野に返す。

ちとせが三塁に到達した。スリーベースヒット。スタンドから拍手が起こる。

 

 

 

しかしちとせは止まらない。そのまま本塁へ一直線に突っ走る。

これにはタクト達も驚いたが相手はさらに驚いた。

慌てて二塁手が中継に入ろうとする。

ちとせにはキャッチャーは見えていない。ただ、五角形のプレートを目指して走っていた。

 

『セカンド中継に入ったー。バックホーム!!』

 

セカンドからの送球はキャッチャーの手前で僅かにバウンドしてミットに飛び込む。

それとほぼ同時にホームにちとせが頭から突っ込み、キャッチャーがタッチをしにいく。

 

『ヘッドスライディーング。クロスプレーはアウトか、セーフか。』

 

 

 

 

 

 

 

ヘルメットが回転を止めてとまり、顔とユニフォームが泥まみれのちとせが顔を上げ、

相手キャッチャーと共に審判を見る。

アンパイアは右手を顔の辺りで握り締めていたが両手を胸の辺りに持っていきクロスさせ、

さらに横一列に広げた。

 

「セーフ。」

 

それを聞きキャッチャーが、相手チームの選手ががっくりと膝を落とす。

対照的にヒロインを迎える三塁側ベンチは大いに盛り上がっていた。

 

『逆てぇぇーん!!! 逆転、逆転、逆転、逆てぇーん!!! エンジェルス、大、逆、転だあぁぁぁー!!! 

9対8。試合を、一気にひっくり返したあぁぁ!!! とんでもない、とんでもないことが起きました!!!

なんと!! まさかまさかのランニングホームラーン!! す、すごいことが起きましたぁぁぁ!!!』

 

実況は未だ興奮状態のまま。

それは球場の大多数の観客も同じ。

ただ勝利目前でひっくり返されたリトルキャッツの選手と応援団は茫然自失としていた。

 

 

だがしかしこの舞台の幕はまだ下りていない。

終幕がほんの少し伸びただけである。

かくて試合は続いていく。

 

打順は1番にかえってミルフィーがバッターボックスに入った。

最初の球、高めのストレートにバットが出てしまった。

 

パンッ。

ファーストゴロ、スリーアウトチェンジ。

リトルキャッツにとって長いそして悪夢、悪夢としか言いようのない9回表が終わった。

スコアボードにはこの回6、という数字が刻まれた。

 

そしてゲームは9回の裏へと進んでいく。

 

 

 

 

 

9回裏、最後の攻撃。追い込まれたリトルキャッツは打順よく1番からの攻撃。

マウンドにミルフィーが立ち一度帽子を取った。雨上がりの湿った風がピンクの髪を気持ち悪く撫でる。

そしてきつく被り直し、タクトとサインを交換する。

サインを確認して頷くと、ゆっくり振りかぶってキャッチャーミットめがけて投げ込んだ。

初球。外へ大きく外れてワンボール。続く2級目は外れ、ノーツー。そして3球目。

 

カーン!

高めの球を思い切り叩きつけた、ピッチャー返し。

 

『打ったあぁぁー!! ピッチャーの横を抜けるぅぅー、センター前ヒットォォ!! リトルキャッツも

まだまだ、まだまだ諦めません。9回の裏、ノーアウトのランナーが出ました。差は僅かに1点です。』

 

得点は9対8。もし、本塁打が出れば試合はそこで終わる。

 

ブゥゥン。ブゥゥン。

リトルキャッツの2番打者は大きく2度スイングしてから左打席に入った。

タクト、低めのインコースに構える。ミルフィー、右の太もも辺りを一度軽く叩く。

 

『さあー、ピッチャー桜葉。振りかぶってぇー、投げた!!!』

 

 

 

 

 

 

カアァァァーン!!!

低めのボール球を掬い上げ球がレフトのポール際へ流れていく。

 

『初球を打ったぁぁぁぁー!! 流し打ちぃぃぃー!! 打球は、打球はレフトポール際あぁぁぁー!!! 

入るか、入るか、入るかあぁぁぁぁぁー!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポン、パン、パン……。

 

 

 

打球はスタンドに飛び込み大きく跳ねた、

ミルフィーは振り返ることも無くうな垂れ一塁ベースを回った打者は右拳を天に突き上げる。

一塁側、リトルキャッツの応援席が大きく揺れ動く。

 

『入った、入った、入った、入った、入ったぁぁぁー!!! 逆転サヨナラツーランホームラァァーン!!!』 

 

 あまりにも早口で何を言っているのかよく聞き取れない。

しかしその雰囲気から例え打球が左翼席へ吸い込まれていく映像を見逃してしまっていたとしても、

テレビの前の視聴者は何が起きたのか、少なくともただならぬことが起きたのは理解することが出来た。 

 

 

 

 

 

 

だがこの舞台の脚本を書いた人物はここで試合が終わるのを 終わってしまうのを、

決して許しは……しなかった。

 

 

 

 

 

外野の線審が何やらジャスチャーをしているのに主審が、やや遅れて選手達が、観衆が気づく。

 

 

ポールのすぐ傍で見ていた線審が下したのは、

 

無常にもファールとの判定……。

ポールの僅かに左にそれた、という判定らしい。

これによりまたも一塁側は誰から強いられたわけでもないのに、沈黙する……。

 

『さて、今のVTRでますかね。ああー、確かにポールの左ですね。うーん、30センチくらいでしょうか、

これがもし当たっていたら本塁打なんですがねぇ……。』

 

解説が残念そうに、本当に残念そうに。嘆くかのように言った。

  

 

 

判定はファール。

無死一塁、カウントワンナッシングで試合が再び動き出す。

 

『さあー。先程はあわやホームランという大ファールでした。ワンナッシングからの第2球。ピッチャー、

振りかぶってぇー、投げた!!』

 

 

仕切りなおしの2球目をバッターはまたも力強く振りぬいた。

 

カァーン。

 

今度は引っ張りにいった。白球はまたも高々と舞い上がる。

 

『打ったぁぁぁー!! これも外野へ飛んだぁぁー!! 今度こそ、今度こそホームランかあぁぁぁ!!』

 

 

 

 

 

しかし外野に飛んだことは飛んだが、打ち上げてしまいライトのヴァニラが捕った。

 

 

続く3番はなんと送りバントを試み、これをきっちり決めた。そして相手は4番。敵の主戦だ。

 

「4番。ショート、マット。ショート、マット。」

 

二死二塁。得点は9対8、エンジェルスあとアウト一つで優勝。

しかし、もしホームランが出れば逆転サヨナラ負け。試合は最大の山場を迎えた。

 

 

第1球、膝元。審判の手は上がらない、ボール。

2球目またも低めの際どいコースにバットが出掛かるが途中で止めた。

タクトが一塁塁審にアピールするが審判はは手を静かに横に広げた。ノーツー。

次の内角高めを狙った球も外れノースリー。

一塁側スタンドがざわつく。しかしそこから2球連続でストライクが入った。カウントツースリー。

7球目、

 

バンッ。

キャッチャーの構えた外角のコースにズバッと決まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボ、ボール。フォアボォール。」

 

審判は打者に一塁へ行く事を指示する。

一塁側からまるで同点に追いついたかのように歓声と拍手が起こった。

 

(えぇぇー!!! 今のが?)

 

タクトは立ち上がり、審判に盛んにアピールするが判定が覆るはずもない。

 

ツーアウト一、二塁。

雨は上がっていた。けれど依然空は真っ黒な雲が占拠したまま。

カクテル光線は内外野全ての選手を照らしている。

しかしこの舞台の主役は相手チームに交代したのだろうか。

客席を立つ者はいない。そして一塁側の応援席は不思議と明るかった。

その他の観客や実況の胸にも「何か」が起こりそうな予感が渦巻く。

球場は異様なムードに支配されかけていた。

 

たまらずタクトがマウンドに駆け寄る。

一言二言何か言ったがミルフィーは完全に上の空だった。いろいろと声を掛けるが全く反応がない。

仕方なく肩を三回叩いて戻ろうとする。

 

「タクトさん。」

 

今まで無反応だったミルフィーがいきなりタクトを呼び止めた。

タクトが驚いて振り向くとミルフィーは、

 

 

 

 

 

笑っていた。

 

 

笑っていた。そしてそれがまた、たまらない程いとおしくて。 

瞳を動かすことさえ、許されなかった……。

 

 

 

「野球って楽しいですね。またやりましょうね、タクトさん。」

 

タクトは一瞬声が出なかった。出すことを忘れていた。

しかしすぐににっこりと「パートナー」に笑顔で応えてみせる。

 

「ああ、楽しいね。またみんなでやろう。」

 

それを聞いてミルフィーの表情がさらに明るくなる。

 

「はい、タクトさん。」

 

 

 

 

 

マウンドから戻ったタクトはマスクを被りミットを構える。

ここで打席に入る選手は背番号5。9回表、トンネルをしたサードだ。

最後に汚名を返上する機会がやってきた。

初球。甘く入ったボールを見逃してワンナッシング。

次の球、内角の球を腕を折りたたんで打ち返した。

 

 

 

 

 

パコン。

タイミングが外れセカンドベース付近のゴロになる。

回り込んだ蘭花の顔はすでにほころんでいる。

 

『打ったぁぁー、ショート右への内野ゴロォォォー!!! 今、ショート回りこんで…………。』

 

 

 

 

 

その瞬間、球場のもの全てが色をなくし音が何かに吸収された。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

『あっ、あああぁぁぁ!! ボールがセカンドベースに当たったあぁぁぁー!!!! 打球が大きくはねる。

ショート飛びつくが取れない、取れない、取れませぇぇーん!!! レフトへ点々と転がるぅぅぅー!!』

 

信じられないことが起こった。二塁ランナーが手を叩きながらホームイン。同点。

さらに一塁ランナーまでもが本塁目掛け突っ込んでくる。レフトのちとせが中継の蘭花へ送球。

だが球が雨上がりの芝に濡れたため手元が狂った。やや三塁側にそれる。

一塁走者は三塁を回った。

蘭花が自分に残された全ての力をこめて本塁へ、タクトへ投げる。

 

ドオン!

力強くボールがミットを叩く。ランナーがホームへ滑り込んだ。

タッチ!!!

 

 

サヨナラか、延長か。スタジアム全体が息を呑んで審判の判定を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セーフ、ゲームセット。」

 

ダアアアアァァ。一塁側が歓喜の声をあげ、抱き合い、涙にむせぶ。

 

『サヨナラだ、サヨナラだあぁぁー!! リトルキャッツ2年ぶり3度目の優勝ぅぅ!!! 信じられない、

信じられない結末!! あまりにも劇的な幕切れ。勝利の女神は土壇場、本当に土壇場でリトルキャッツに

微笑んだのかあぁぁー!!! それとも、あるいは運命の女神が、エンジェルスに意地悪な笑みを贈ったの

かあぁぁぁー!!!』   

 

 

 

 ブラウン管からは依然アナウンサーの興奮した声が流れ続けている。

 

雲の切れ間から沈みかけた太陽が球場を赤く照らす。 

それはさながら舞台の照明のよう……。

 

幕は下りた。

けれどもこの素晴らしいドラマを作り上げた者全てに対する報い、

そしてシナリオライターが用意した最後の演出のように太陽は舞台を、役者を、観客を照らし続けていた。

 

 

 

 

 

こうして、波乱に満ちた決勝戦は終わった。

 

 

 

試合時間、2時間39分。   

 

 

     〜あとがき〜

さて「G・A草野球狂想曲」ようやく完結いたしました。

「え、これで終わり?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

実はこの後、後日談と言う形で話を用意してあります。

またもや終わらなくなってしまいました……。

 

今回の話は読んでくださった方の意に添うような話だったでしょうか。

前回のようなギャグ全開の話ではなかったので今ひとつ盛り上がりにかけてしまったかも。

また、野球に詳しくない方がどのように読まれたのか心配です。

(ちなみに実況のイメージはAB○テレビです。)

内容もさることながら読んでくださった方は思わずこう思うことでしょう。

 

 

ながぁぁ!!

 

すみません、話がやたらと長くなってしまいました(汗)

本当は(その2)で完結するはずだったのですけれど、あまりにも長くなってしまったので分けました。

前回の教訓が生かされてなく、恥ずかしいです。

 

しーかーもー、またまたまた「彼女」が目立ってしまった、のかな。

違うんですよー!!!(何がだ)

最初は本当に本当に本当に本当に、そんな筈じゃなかったんです。構想にはあんな場面は……

なーのーにぃぃぃー!!

 

 

 

失礼しました………。ああ、話の途中からキボードを叩く手が暴走してしまい(汗汗)

結局タクトはどっちと、いや誰とくっつくのか。

優柔不断、すぎますかねぇ? でも原作(漫画)でもそうでしたし……。

(え、そう思っているのは私だけですか?) 

ともかく全ては次回で明らかになる……かも。いいかげんな作者ですみません。

 

さて今度こそ終わる筈、です。

話の内容は……。前回に近いものになりそうです。

でもあそこまでぶっ飛ばしたら収拾つかなくなってしまうことでしょうし。

かなり話の構成には四苦八苦していて……。

 

ともかく最終回らしく、きちんとまとまった話になればと思っております。

 

 

最後になりますが本当にこの話を読んでくださった方にはただ、ただ感謝するのみです。

やはり何度もいい作品を作り続けることはとても大変ですね……。

投稿作家の皆様の偉大さを改めて実感すると共に、

己の狭量さを痛切に感じています。

 

こんな未熟者ですが管理人様、皆様どうかこれからもお付き合いの程をよろしくお頼み申し上げます。

                    2005年1月17日    三雲