問われた本人と問われた本人は、お互い沈黙を保ったまま、往来で共に立ち尽くしていた。

 

「―――えっ?」

 

時が止まったような………

そんな錯覚を生じさせるほどの感覚がミルフィーユを包み込む。

 

視界を埋め尽くす光景に何ら変化は無い。

映像として映し出されている青空も。同様に燦々と輝く太陽も。周辺に林立する多くの建物も。道を行き交う人々の動きも。そして、それに伴う家族連れからと思われる談笑。複数の足音。軌道衛星の管制局が気候を演出するための通風孔の緩やかで暖かな風が肌を撫で上げる。

 

五感を通じて、時が止まったような現象など起きてはいないことを、周囲は雄弁に語りかけている。

 

………はずなのに。

 

「……あ……あの……」

 

目の前にいる少女の物悲しそうな。

それでいて何か言いたげに口を開閉させている顔が現実を受け入れることを由とさせない。

 

いつもの快活な彼女からは見たことも無いようなその表情。

そしてそんな彼女の口から発せられた言葉は、ミルフィーユの思考を停止させるのに充分なものだった。

見つめあって、一体どれほどの時が経ったのであろうか。

恐らく前を歩いていた蘭花とココの2人は、既に随分先へと進み、しばらくもすれば後ろで歩いていたはずの残り2人がいないことに気付くだろう。

 

1分か………それとも10分以上か………

 

だが、実際には数秒しか経っていないはずの時間もこの時だけは不思議と長く感じられた。

 

「―――あの……アルモさん?」

そんな時間の静止にも似た沈黙を破ったのはミルフィーユであった。

恐る恐るといった感じで開いた口から発せられ、見つめる眼差しも不安げなまま。それでも答えを知りたいがために視線を外すことはなかった。

「……っ」

だが、そんな物問いたげな視線に耐え切れなかったのか、アルモは辛辣に似た表情で唇を噛み視線を逸らす。

そしてもう一度問い尋ねる間も無く。

「――――――」

「あっ……」

アルモはミルフィーユに背を向けると、振り向くことなく、前方の2人の下へと駆けていった。

「………………」

待って、ということも出来ず、所在なさげに伸ばされた腕は彼女の居た位置。目的を見失った腕をゆっくりと下ろされる。

だが、止めることは出来ずとも、彼女が離れる寸前に耳に入った言葉がミルフィーユの脳裏を掠めた。

 

“―――ごめんなさい……”

 

(どうして……)

 

謝ったりしたのか。自分は謝罪を受けるようなことをされたつもりはない。ただ、あまりにも突然な出来事に驚愕し、混乱し、そして困惑して何も出来なかっただけだった。それだけのはずだ。

 

だが、彼女は謝った。顔は見えなかったが、辛そうに哀しそうな響きを持ってミルフィーユの耳に届いた。

 

ふと視線を横にずらせば、ようやく2人の所に追いつきそうなアルモの後姿が見える。

 

「アルモさん……」

そっと彼女の名前を呟くが、一心不乱に直走る彼女の耳に届く気配は無い。

その間に流れた、ほんの僅かな時間。

 

その時に見えた彼女の背中は、心なしか物悲しそうに見えた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Good relation

Taste12 『Message from in the LIPS〜My best friends〜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

いつの日か戯れに読んだ恋愛小説の中で、印象に残った言葉があった。

 

『言葉は形となり、そして人の心に感銘を与える』

 

なるほど、と。ミルフィーユはその時何度も納得がいったように、その言葉を反芻して読んだ記憶がある。

自分で言うのも何であったが、彼女自身口数は多い方だと思っている。したがって、この言葉の意味することが自ら経験・知識・本能から理解できた。

考えること。思うこと。悩むことが決して悪いことではない。それらを何度も反芻し、吟味し、仮定していくことによって納得が行く結論が出てくるのかもしれない。

 

自分が知っている限りではあるが、エンジェル隊のメンバーは思ったことをはっきりというタイプだ。ヴァニラとちとせはあまり話すほうではないと思うが、ヴァニラは普段はおとなしいが最近になって思ったことを口にするようになり、ちとせは新人という立場柄か元々あがり症なのかは分からないが、はっきりと自分の意見を言うようになるほどの進展を見せている。

 

勿論それはあくまでもプライベートの範囲だけで、パブリックでは我を抑えて控えめな言動を繰り返すことが当たり前となる。感情を言葉として口に出すようなことは、公の場では慎むのが常識であろう。

 

だが、思ったことを口に出さずにいることで、人に伝わることなど、決してありうる話ではない。言うことで周りに影響を与え、言わないことで自分の心にしこりを残すのが言葉という力。それが良くも悪くも、思っているだけでは何も変わらないのだ。

 

ミルフィーユ自身、思っていることを直接に、積極的に言葉に出すことによって自らを満足させているのだと、はっきりと言うことが出来る。

 

 

 

 

 

だが、もしそれが普段の時ではなく。

 

恋愛小説に出てくる逢瀬のような場面に出くわした時。

 

それでも自分はいつも通りの態度を取れるのだろうか?

 

 

 

 

 

その時は答えを求めるかのように視線を宙に彷徨わせたが、天井は答えることなく、その場で無機質な白さを表現していただけだった。

 

おそらくどんな人間でも明確な答えを出せない欲求。

しかし、それこそ欲求の欲求たる所以なのだろう。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

「ねえ、ミルフィー……大丈夫?」

「……えっ? 何が?」

晴れない胸の内を抱えたまま、どれほどの時が流れたのか。

いつの間に、何処かのブティックに来ていたことにミルフィーユは軽い驚きを見せる。

「やっぱり具合悪かったの?」

先程の声はこれだったのか。

ふと気が付くと、心配げな表情をした蘭花が様子を窺うようにして、ミルフィーユの顔を覗き込んでいた。

「それとも……さっきのこと気にしてる?」

状況がつかめず黙したままのミルフィーユの様子を勘違いしたのか、蘭花は徐々に表情を曇らせて行く。

さっきのことというのは、アクセサリーショップでの一騒動のことだろう。

あの時のミルフィーユは、今目の前にいる親友のおかげで右往左往するばかりで、周囲に目を配ることなど出来なかった。

そのときの事を思い出す度に、ミルフィーユは色々な恥ずかしさに身を縮こませたい思いだったが、ようやく事態が飲み込めた。

「ううん、全然。気にしてなんかいないよ?」

否定するように軽く首を振った後、薄く微笑んでミルフィーユは返す。

「ホントに? もしかしたら悪いことしちゃったのかなぁって」

「大丈夫だってば。本当に気にしてないし……」

罪悪感を募らせたような、ばつ悪げに顔を曇らす蘭花を見ながら、ミルフィーユは内心苦笑を漏らした。

全てといえば嘘になるが、実際ミルフィーユはもう気にしてはいなかった。あの時は突然の出来事であったので、頭が真っ白になり咄嗟にあのような狼狽ぶりになっただけのこと。

もし謝るとするのならば、それは彼女を窒息しそうなほど口を押さえつけてしまった自分の方だと、ミルフィーユは若干ながら心苦しく思っていた。

蘭花が罪悪感を持つ必要は無い。

「だから、もう、気にしなくていいから……」

そう達観しているミルフィーユの意識は自然と蘭花から離され、奥に居る2人に視線が行った。

視線の先にいるその2人の顔は見えない。

近くの商品棚にある、そこに収納された衣服の数々に目が止まったのか、後ろ姿からではあるが、穏やかな雰囲気だけは伝わってくる。

しかし、その内の片方からは覇気と言ったものは感じられず、もう片方に無理をしているような印象も受けた。

 

時間帯も午後を過ぎた店内は、客の入りが活性化しているようだった。

30メートルほどありそうな広さと奥行きの長さが等しい、この大きな店内を埋め尽くすかのような商品棚の数々と目の前を動く多数の客が映るが、人酔いするほどの熱気は感じられない。嬌声や歓声は耳に入って来ても、広々とした店内を囲む淡い内装が、見る者を清々しい気分にさせる。

 

しかし、そのような効果など今のミルフィーユには気休めにもならない。

 

視線の先にいる少女の後姿を捉えたことによって、せっかく持ち直しかけた明るさが、再び暗澹たる気分に逆戻りさせる。

 

(どうして……)

向こうに居る背中は何も語らない。ただ、そこに友人と居るだけ。答えなど期待してはいけない。

 

だけど………

 

どうしても聞きたい。聞いておきたい。聞かねばならないのだ。

「……ミルフィー?」

もはやそこに理屈や感情といった直喩的なものの介入の余地は無い。

本能や理性を越えた何かが、ミルフィーユの全感覚を支配しつつあった。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

「ねえ、ミルフィー……」

ブティックを後にしてすぐ、傍らから声量を潜めた声が聞こえた。

「……何?」

隣を振り向くと、蘭花が自分と前を歩いているアルモとココの2人を窺うようにして話しかけてきたのが分かった。

「あのさ―――」

前に居る2人に何か聞かれたくないことでもあるような、彼女たちの様子を気にするようにしながら蘭花はミルフィーユに近づき、そっと耳打ちをしてきた。

「―――アルモと、何かあったの?」

「………………」

その指摘に不思議と驚くことは無く、ミルフィーユは真剣な表情を保ちつつ、沈黙を持って頷く。

「……そっか」

そんなミルフィーユの様子を見て蘭花も思うところがあったのか、それ以上追求することもなく口を閉ざす。だが、時折何か考え事をするように口元に手を当てて、ブツブツと呟いているところを見ていると、決してミルフィーユに関係の無いことを考えている様子では無いように見えた。

 

そんな蘭花から視線を外すと、夕焼けに照らされた前に居る2人を見ることが出来る。もし2人が会話をしていても、よほどの大きさの声でなければ聞こえる事はない距離であったのだが、ココから見てもアルモとココに談笑する気配は感じられない。でも、時々隣で歩く少女に話しかけるココの横顔はいたって真面目であり、そうして返事をするアルモの表情には迷いがあるように見えても、覇気が感じられないわけではない。

 

喩えるなら、今の自分たちと同じような様子だと思いながら、ミルフィーユは空を仰ぐ。

 

映像の空は太陽暦に合わせた既定時間帯に設定されているのか、昼頃の青空から既に夕暮れ時の緋色に切り替わっている。しかし、それも灰色の雲が多数で夕日を遮ろうとしているところを見ると、もうじき夜が訪れることを意味していた。

そんな時間になれば流石に艦に居る人たちに疑われるとのココからの提案により、ミルフィーユたちは宇宙港までの帰途を辿っていたところであった。

 

空が薄闇色に変わるまでどれくらいの時間があるのだろうと、ミルフィーユは道中考えていた。

 

宇宙港に着くまでの間、このまま黙々と歩いているだけでいいのだろうか。

もし帰艦してしまえば、もう聞くことは出来ないのではないか。

聞きたいことは多々あった。

だが、どのようにしてきっかけを作れば良いのか、あとほんの一歩が踏み出せない。

 

欲望が独走しようと、それを繋ぎ止める理性が拒絶し、鬩ぎ合いがミルフィーユの裡側で展開され、彼女の言動を沈静化させていた。

 

 

不思議にも誰もが言葉を交わすことなく、歩き続けることしばらくして………

 

「もうすぐ着きますよ」

ココが示す方向に視線を向けると、遠くにある一際目立つ巨大な建造物が見えてきた。

 

 

中にある発着場を囲むようにして横に500メートルは広がっている外壁には、ガラス戸という陳腐な代物ではなく、ミラーウインドウが埋め尽くされており、建物内部と街灯からの光が反射しているせいか、直視し続けることをさせないほどの眩い明かりを放っていた。

 

もうすぐ日が暮れようとしている外の光景を、今持っている技術総てを酷使して、その広大なスケールを遠目からでも分かるくらい眩い光を周囲に放っている建造物。

 

それがこの軌道衛星最大の交通手段を誇るステーションその物であった。

 

 

 

壮大な門構えに囲まれた自動扉を潜ると、そこに直結しているステーション内待合ロビーは帰省客らしき人々が溢れかえっていた。

発着場ホームへと繋がる改札口を始めとした多数のドアと、何処まで伸びているのか彎曲に伸びた通路が左右に分かれている。ロビーといえども人々の声が満遍なく伝わってきそうな天井は高く、それに似合って待合広場も広大なものとなっている。

中心にはいくつかのベンチが設けられており、隅には売店らしき姿も見ることが出来る。

 

そんな賑わいを見せるステーション改札口近くに辿り着いた4人であるが、そこで立ち往生するという事態に遭遇することとなる。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

『――ステーションをご利用いただき誠にありがとうございます。当軌道衛星から宇宙港経由への次の便は時刻19:00に発進予定となっております』

 

 

 

 

 

ようやくステーションに辿り着いたミルフィーユたちを迎えたのは、ステーション内に流れたそんなアナウンスだった。

「発進予定時刻19:00って……あと一時間以上あるじゃない!」

蘭花はアナウンスと腕時計を交互に照らし合わせるなり、驚愕の叫び声をステーション内待合ロビーに反響させる。その叫び声に反応したのか、何事かという視線がロビーに居る複数の客から一瞬だけ向けられる。

「嘘ォ!?」

だが、そんな僅かの間の視線などまるで感じなかったように、4人の視線は前方の改札口の上に備え付けられた電光掲示板に向けられていた。

 

『宇宙港へのシャトルのエンジンに異常が発生し、現在原因を調査中。整備終了までしばらくお待ちを―――』

 

右から左へと横長の電光掲示板を流れる文字は、事の重大性を淡々と説明している内容であった。

 

「ええ!? まだシャトルが来ないなんて……」

掲示板の内容を見た瞬間、急に冷や水を掛けられたように我に返ったミルフィーユは、傍から見れば大げさなほど凍りついたように目を見開いた。

 

「これじゃあエルシオールに戻れるまで1時間近くは掛かりますね。艦内で手続きは行いましたけど、あまり遅くなるとどうなるか……」

 

このステーションから宇宙港までシャトルで移動すれば約10分程度であるが、エルシオールが現在停泊している発着場までは直接足で移動しなければならないために少々時間が掛かってしまう。

職業柄からの習性なのか、ココはそのような説明を4人にしたのだが、予想外の出来事に眼鏡越しからの瞳には焦りの色が見え始めていた。

 

「もしバレちゃったら、どうなるんですか?」

仮にも銀河を防衛する役目に就いているエルシオール乗組員の一員。無断外泊が上官に発覚となると、相応の処分が下る恐れがある。

「一応は重要課題研究中につき長時間持ち場を離れていると報告書に書いておきましたけど、無断外泊が発覚してしまったら、どんな処分を受けるか……」

「え〜!? まさか減給とかじゃないでしょうね!」

ココから聞かされる推測は、その場に居る4人の、ほんの軽い気持ちから起こした行動を咎めるかのような、そう愕然とさせるのに充分なものだった。

「そんなぁ……」

時間ギリギリまで遊んでいたのが仇になってしまった、という心境がミルフィーユの心に湧き上がりかけたが。

「……大丈夫だと思いますよ? もしバレちゃっても司令だったら大目に見てくれそうですし……」

「……えっ?」

ふと横から聞こえた細々とした呟きが、ミルフィーユを我に返す。

はっとして振り向くと、隣に居るアルモが未だ電光掲示板を見ているが、先程の言葉は彼女からのものだったようだ。

「そうかしら? って言っても、アイツなら本当に許してくれそうだけど……」

「はい。きっと大丈夫ですよ」

蘭花の疑問にならない呟きに答えるかのように、アルモは控えめな笑みを向けた。

「それに……」

だが、急に声のトーンを落とすと。

 

「副司令だって許してくれますよ、きっと―――」

 

聞きなれた名前とともに確信めいた言葉を言い放った瞬間。

 

(―――えっ?)

 

ミルフィーユは少なからず動揺を表し、瞠目する。

 

 

 

 

 

しかし、ミルフィーユが動揺を示したのはアルモの言葉から出てきた名前ではなかった。

 

気のせいかもしれないが、ほんの一瞬、彼女が視線を送ってきたように見えたのだ。

 

何か含んだような、訴えるかのような、それでいて感情が読み取れない、夜の大海原のような茫洋とした瞳………

 

一瞬だけ浮かべた弱々しい表情に彩られた視線と言葉が相まって、ミルフィーユの心を大きく揺り動かした。

 

 

 

 

 

「―――まあ、どうなるのかよくわかんないけど……」

と、ミルフィーユのそんな思考を打ち切るように蘭花が口を開くと、何か探すように周りを見渡す。

「どうせまだシャトルが来ないって言うんなら、どっかで休まない? ずっと歩きっぱなしだったから疲れちゃって……」

そう疲れた表情で言う証拠として、彼女の両手には本日の買い物の成果が紙袋に入って塞がっていた。しかし、それは他の3人にも言えることで、ミルフィーユも彼女と同じような状態だった。

「それじゃ、向こうにあるベンチに座りませんか? ちょうど空いているみたいですし……」

蘭花の提案に同意するかのようにココが指差した場所は、奥にあるバルコニー近くに配置された、4人は余裕で座れそうな背凭れ付きのベンチであった。傍らには観葉植物と灰皿も置かれている。

「そうね。カフェとかがあったらそこで休もうかと思ったけど、出来ることならもうお金使いたくないしね」

確かにこのまま立ち尽くしていては足だけでなく、荷物を持っている両手も疲れてくる。それでなくても今日はショッピング巡りで身体が疲れているのだ。少し休みたい欲求も出てくる。

そう蘭花を始めとして、誰もが向こうで休むことに異議を挟むことなく、ベンチの所へ行こうとしたその時。

「じゃあ、向こうに行っててください! 私、皆さんのチケットの手続きを行ってくるので!」

提案をした本人であるココは突然言い残すと、それ以上言うことなくすぐさま踵を返す。その拍子に持っていた荷物を近くに居たアルモに押し付けるようにして渡す。

「えっ? ちょ……ちょっと!」

急な言動に驚いたアルモは、思わずココの勢いに体勢を崩しかけながら荷物を預かったが、構わず彼女の背中はすでに東側の通路へと小さくなっていた。

「あ〜あ、行動が早いわねえ……あの娘っていつもあんなんなの?」

「い、いえ……普段はあんな風な感じじゃないんですけど……」

戸惑ったように言うアルモを見る限り、いつもとは違う一面を見せ付けられたことに驚いたのは蘭花だけでなかったようだ。ミルフィーユに至っては驚きを通り越して茫然としている。

「ふ〜ん。まあ、意外な一面見せられたのは確かね……」

感心したように何度も頷く蘭花だったが。

「それじゃあ、アタシもちょっと売店のところに行って来るわ。ただ待つだけじゃ退屈だし」

「ええっ!?」

そんな今思いついたような蘭花の言葉に、今度声を上げたのはミルフィーユのほうだった。

「ら、蘭花、さっき休みたいって言ってなかった?」

先程との言葉と今の言葉の矛盾さに、ミルフィーユは抗議に近い疑問を投げかけるが。

「ん〜、やっぱりただ待ってるだけじゃ退屈だと思って、せっかくだからその間飲み物でも買ってこようかなって、思っちゃって……」

何処となくぎこちなさを感じさせる、たどたどしい言い方をする。まるで一字一句考えながら言うように蘭花は目を泳がせていた。

「それじゃ、あたしも行く! あ、あたしも何か飲みたいから……」

焦りながら言ってから我ながら下手な嘘だと思った。別に喉が渇いているわけでもなく、凄く退屈だとも思っているわけでもない。

ただ、先程のアルモの発言と反応を顧みると、アルモと2人っきりという気まずさが前面に出てしまうような事態になるのは何としてでも回避したかった。

「いいっていいって。アタシが何か買ってくるから、アンタたちは向こうで休んでなさいって」

しかし、そんなミルフィーユの言い分を一顧だにせず、押し留めるようにしながら蘭花は快活に微笑んだ。

「蘭花……」

それでも諦めきれず、ミルフィーユは異議を唱えようとすると。

「ミルフィー―――」

蘭花は顔を近づけ、唇を動かした。

「―――!」

そしてミルフィーユに荷物を渡すと、蘭花は手を振って売店の方へと向かった。

 

止める間もなかった、あっという間の出来事………

 

「………………」

「………………」

 

取り残された2人は、両手一杯の荷物を抱えたまま、ただ唖然と立ち尽くすのみ―――

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

「………………」

「………………」

いつベンチに座ったのか思え、一分一秒が長く感じられるほど沈黙が続く。

 

何処からかチラチラとこちらの様子を窺うような視線をあちこちから向けられているような気がするが、今の自分もしくは彼女に気にする余裕は無かったと思う。

 

ステーション内に居るほとんどの人々が心地良い疲れを身に纏いながら、誰かと談笑するざわめきが近くからも聞こえてくる。

 

だからこそ、今の自分達の席は周りの目から見れば浮いているのだろう―――

 

「………………」

「………………」

蘭花とココが別の場所へ行った後、手持ち無沙汰になったミルフィーユとアルモは示された場所のベンチになし崩し的に座ることにした。大人4、5人は座れるベンチなので空いているスペースはあったが、最低限のマナーから荷物は下に置いてある。

しかし、隣同士で座ったものの、そこから会話が発生することは無かった。

 

如何したら良いのだろうか? そんな思考が脳裏を埋め尽くす。

生来の穏やかな明るさに裏付けられた笑顔が、今この時に限って浮かび上がらない。多分自分は今、凄く困惑した表情を浮かべているのだろうとミルフィーユは思った。

自分達の周りから発せられる気まずさを含んだ空気を感じながら、ベンチに座っているミルフィーユはチラリと隣を窺う。

そこにはやや俯きがちに反対方向を向いて座っているアルモがいた。

彼女も気まずいのか、アルモは左側にあるバルコニーの窓に映る外の風景を見ているように、何処と無く顔をそちらに向けている。その様子が何より彼女の今の心境を物語っているような気がした。

 

(やっぱり話しづらいのかな……?)

ミルフィーユは快活なイメージがあるアルモの、いつもとは違った様子に困惑を隠し切れなかった。

 

考えてみれば、そもそもアルモとはお互い仕事上会話を交わすことはあっても、プライベートで会話をするという機会は滅多に無かった。たまに開かれるパーティなどで会話のチャンスがあっても、誰かの話に便乗するようにして二、三言交わすぐらいである。

 

このように二人だけになるといったこと自体なったことの無い2人にとって、会話が弾まないとしても無理は無かった。親しい者から見れば珍しい一面とも言えるだろう。どちらかと言えば人見知りしなさそうな明るい性格を持つ2人が、一言も発さずに黙って座っているのだから。

 

しかしそれ以上に、2人の間を気まずい雰囲気が包み込む原因は別のところにあった。

 

 

あの時。

アクセサリーショップを後にして、しばらく街中を歩いていたあの時。

不意にアルモから紡がれた言葉が、ミルフィーユの心に衝撃をもたらした。

 

“―――ミルフィーユさんは、副司令のことが好きなんですか?”

 

唐突な、しかしその時のミルフィーユにとって何よりも強力な不意打ち。そして2人の間に訪れた、形容し難い気まずげな空気………

 

言葉に籠められた想いが分からず、紡いだ表情は辛そうに哀しそうに。

時が止まったような気がした。どんな反応をすれば良いのか分からなかった。

 

………しかし。

 

(もしかしたら……)

 

時間が経つと冷静さが戻るのは人間の摂理だが、冷静さを取り戻したミルフィーユの脳裏にある記憶が蘇った。

 

それは自分がまだレスターを意識していなかった頃。

そして彼をどう思っていたのかも分かっていなかった時に、耳に入れた言葉があった。

 

(もしかしたらアルモさんは……)

 

「―――綺麗ですね……」

「っ!!」

ビクッと、座席から浮き上がりそうなほど身を竦めるミルフィーユ。

今までまったく言葉を発さなかったアルモの、思いもよらない突然の一言に心臓が激しく鼓動を打ち、ミルフィーユは不意打ちを食らった形で動揺してしまった。

「綺麗ですよね……そう思いません?」

もう一度バルコニーの窓に顔を向けたまま、今度はこちらに聞くように一言呟く。どうやら独り言では無かったようだ。

「え、えっと、何が、ですか?」

ミルフィーユは未だ動揺が収まらず、些かつっかかりながら狼狽気味に問い返す。

突然尋ねられたこともあるが、一体何が綺麗なのかが分からないこともあったために、動揺を収めることが出来ずにいた。

「………………」

問いかけられたアルモは何も言わず、ただゆっくりと窓のほうを指差す。

ミルフィーユはその反応に訝しげな表情をするも、示されたとおりに窓に視線を向ける。

すると―――

「あっ……」

視界に飛び込んできた予想外の映像に思わず息を呑む。

 

ミルフィーユたちが居るステーションは丘の上にあり、窓越しから見下ろす形となって街中を見渡すこと出来たが、感嘆したのはそんなことではない。

 

緋に染まっていた空はいつの間にか色を変え、蒼を混じらせた薄闇色が上空と街を包み込んでいこうとしている、夜という名の時間帯。街にある店もビルも道路を照らすための街灯も、次々と照明を点け、その数を増やして行った時、それは完成した。

 

街の明かりが醸し出す夜の光景。

街灯だけで無く道路を走る車のライトが点滅し、瞬きのように夜景のイリュージョン効果の一役を担う。

 

それは宛ら、人工的な夜景が織り成す、満天の星空が地上で展開されていた。

 

「綺麗……」

「……でしょう?」

思ったことを自然に呟くと、アルモが振り返らずに相槌を打って来た。

「星空とかは見慣れているあたしたちですけど、こうして地上で夜景を見てみると、星空とは又違った趣がありますよね……」

まったくその通りだとミルフィーユは夜景から目を離さず頷く。

 

宇宙空間で戦闘機に乗って戦闘をする時、周囲には鏤められた宝石の如く、銀河の星々が煌き、そして瞬いていたのを何度も見たことがある。そんなミルフィーユにとって星空というものは決して珍しいものではなかったが、これだけは別に感じられる。

 

「不思議ですよね……たった1つの明かりからでも、いつの間にかあんな夜景を作り出すなんて……」

夜景を眺め続けていると、傍らからは未だ夜景を見続けているのか、感慨深げな呟きが聞こえてくる。

「皇国が出来る前どころか、EDENが誕生する前の大昔には、あんな風な明かりなんてなかったんですよね……」

「そうですね……」

「……人間の可能性って、凄いなぁ……」

相槌を打ちながら、アルモの言葉から士官学校時代に習った皇国の歴史の内容が脳裏をちらつく。

 

歴史の教科書によれば、EDEN文明誕生以前の銀河は、現在の辺境の星以上に荒廃した土地に覆われた未開の星が大多数であり、その星で暮らしていた人類はほぼ野生の生活を強いられていたという。

そんな時代から時は流れ続け、今ミルフィーユたちが見ている光景が出来ているのだ。技術の革新は凄いという他無い。

 

「昔の人々はどんな風に明かりが欲しいって思ったんでしょうね……」

昔は電気や水道、ガスを始め、全て自動で働く物の原動力となる各種エネルギーといったものが無かった太古の時代。光が無く夜を不安に過ごしていた者たちにとって、明かりというものは心底から欲したものだろう。

「どんなことでも諦めずに思い続ければ、いつか願いは叶うんですね……」

思うということは歩み続けることと同意義。結論と感慨を呟きに乗せて、ミルフィーユは薄く微笑んだ。

「……あたしの願いも、いつか叶うんでしょうか……」

「……えっ?」

その時不意に、ポツリと独り言のように呟かれ、それでもはっきりと聞こえたその言葉に反応し、ミルフィーユは思わず声の方向へ視線を移す。

 

声の主は相も変わらず窓の外を見ている。

だがよくよく目を凝らせば、ロビーの照明に反射されたガラス窓は鏡となり、彼女の顔がこちら側からでも見ることが出来たその時。

 

(あっ)

 

ミルフィーユは心の中で驚きと困惑の混じった声を上げる。

 

窓辺に映る彼女の顔は、それはまるで精巧なまでに彫刻された人形を思わせる無表情。

夜景の光と漆黒の背景が相まって、異様なまでの禍々しさを感じさせる。

 

しかし、そんな能面に近いはずの瞳は何かを訴えているように、切々と揺れ動いていた………

 

「………………」

「………………」

先程とは又雰囲気の違う沈黙が訪れ、ふと我を取り戻す。

 

穏やかなクラシック、無秩序な喧騒。

忘れかけていた周囲のバックグラウンドが今になって、臨場感たっぷりにごくごく間近に感じられた。

喩えて言うなら、その中心に紛れているような………

 

「―――あたし……」

だが、それもほんの一瞬のこと。

 

「好きな人が居るんです―――」

アルモはそっと溜め込むようにして、それを口にした。

 

「………………」

驚きはしない。彼女から紡がれた言葉は予期出来たものだった。

「驚かないんですね?」

逡巡の後、頷く。

彼女がこちらを見ているかも分からないのにも関らず、頷くことによって答えたつもりだった。

「……そうですか」

それでも彼女はこちらの反応が分かるのか、依然振り返らぬまま呟いた。

 

たった一言から感じさせた決心は、いつしか勇気へと繋がったのか………

 

「あたしは初めに出会った頃、その時は第一印象からではあったんですけど、何となくその人がいいなあって思ってました」

初めはゆっくりと、しかしペースを落とさずに。

「でも、時間が経つにつれてその人を見続けてるうちに、ステキだって思えるようになってきました」

今まで溜め込んできた胸の裡を、全て吐き出すかのように。

「そう思ってしまったら、その人とほんの少し接するだけで意識したり胸が熱くなったりして、気がついたらその人を眼で追ってるんですよ、あたし……」

 

そして、いつしか楽しげな口調となって………

 

「これが恋なんだなって思ったとき、あたしはその人が好きなんだって分かったんです―――」

 

彼女は想いの丈を吐息と共に紡いでいった―――

 

 

「………………」

 

三度訪れる沈黙。

しかし、時が止まった錯覚を感じながら、今の雰囲気に居心地の悪さを感じることは無かった。

 

「アルモさんは―――」

 

今度の静寂も刹那の間………

 

「―――どうしてその人が好きなんですか?」

 

沈黙を打ち破ったのは自らが述べた疑問の言葉。

 

「理由なんて必要ありますか?」

「えっ?」

先程と違うのは、質問してからの返答が証明する反応の速度。

 

 

 

「あたしにもはっきりとした理由なんて分かりません。だけど―――」

 

 

 

そして、何より違うのは―――

 

 

 

「あたしはその人が好き……それだけが真実なんです」

 

 

 

言葉の重みと振り返られたその表情は、いつに無く輝いているように見えた。

 

 

 

(あ……)

可愛い。綺麗だ。そんな陳腐な台詞は頭の中で泡のようにいくつも膨れ上がり、そして弾けて消え去っていく。

ただ、これだけははっきりと言える。

 

―――美しい。

 

同じ陳腐な台詞でも、同じ女性の完成からではその意味合いは違ってくる。

 

自らを鑑みても経験があるのかどうかは、少なくとも記憶には無い。

だが、恋をしている女性と言うものはかくもこんなに美しくなれるものなのか、思わず見とれてしまうものであった。

 

「……アルモさんの好きな人って」

言ってから言うべきことではないことだと、自分の何処からか罵声が飛んできた気がした。

彼女の言葉から連想できる意味は、たった一つしかないことは自分でも分かっているはずなのに。

 

それでも彼女の口から聞きたかったのか………

 

「―――それはミルフィーユさんも、よく知ってる人だと思いますよ?」

「えっ―――」

問い返された言葉の槍はミルフィーユの心の奥底を貫いた。

 

「その人はミルフィーユさんも好きな人です」

アルモの表情は以前と変わっていない。

ただ、その瞳は答えを求めているような、そんな輝きを持って揺れ動いていた。

 

「どうなんですか、ミルフィーユさん?」

それは昼間に聞かれたあの時の問いかけの再来。

違うのは彼女が決心のついた表情と雰囲気。

 

「えっと……あの―――」

それに気圧されるようにしてミルフィーユは口籠もってしまう。

 

問う立場と問われる立場。

聞く立場と言う立場。

否、言わねばならない立場が、いつの間にか逆転しているような錯覚が生じた。

 

混乱と困惑が渦巻く脳裏は、いつしか戸惑いとなって思考を埋め尽くす。

「あ、あの……」

言葉が上手く出てこない。考えがまとまらない。何か言わねば、今度は自分が答える番だと言うのに。

 

何時間にも思えた空白の時間に耐え切れず、自分から眼を逸らしかけた、その瞬間。

 

「――――――!!!」

 

ミルフィーユの中で、ある光景がフラッシュバックした。

 

 

 

 

 

それは今から、たったつい先程のこと。

 

この場を離れる前の親友が自分の近くへ顔を寄せたあの時、言った言葉があった。

 

“――――――”

 

かなり近くからでなければ聞き取れない、自分だけにしか聞こえなかった大きさの声。

 

そんな声で親友は投げ掛けてくれた。

こうなることを予期していたかのように、自分に対する不甲斐無さを知っていたように。

 

微笑みながら、まるで姉のように優しげに。

 

彼女は囁いた………

 

 

“ガンバレ、ミルフィー”

 

「あ―――」

そうだ、何を悩んでいたのか。何を戸惑っていたのか。

「あたし、は―――」

彼女は言ってくれた。微笑んでくれた。勇気をくれた。

「あ、あたしは―――」

ならば今度はこちらの番だ。

 

親友の微笑みに答えるべく。

目の前の少女に答えるべく。

 

そして、自分自身に答えを出すために。―

 

自らの想いを一字一句、嘘偽りの無い心がけで。

 

自分の中で出来た答えを目の前の少女にぶつけていった―――

 

 

 

 

 

「あたしは―――」

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

『大変長らくお待たせ致しました。まもなく19:00発進予定の宇宙港行きシャトルの搭乗手続きの開始を致します―――』

 

 

「―――あっ。もう時間が来ちゃったか……もうちょっと遅れてても良かったのに」

名残惜しい態度で、蘭花は空になったコーヒー牛乳の紙パックをストローが付いたままゴミ箱に捨てる。

「そうですよね……せっかく私達が気を利かせておいたのに、もう整備が終わっちゃったなんて」

まるで興醒めだと言わんばかりの表情のココは、腕時計を見ながら恨みがましそうに呟く。

「あの()達、本当に上手く話し合えたのかしら?」

「……ここからではよく分かりませんね」

言いながら2人が向けた視線の先には、4、5人掛けのベンチに腰掛けた2人の少女の姿。

様子見していることがバレないようにと、やや離れた死角となっている場所に居る蘭花やココであったが、向こうに居る少女達の後姿から表情は窺うことは出来ない。

ただ1つ言えることは、二人を包み込むその空気は決して良くも悪くも無いということだけだった。

 

「でもまあ大丈夫ですよ、あの2人なら」

「……何でよ?」

唐突なココの台詞に、蘭花はやや間を置いて尋ねる。

「私、ここに来る前にアルモにアドバイスをしておきましたから」

振り返った微笑みに後悔は含まれておらず、満ち足りたような返答を口にしてきた。

「……そうなんだ」

その言葉には内心驚かされたが、彼女がいつの間にアルモにアドバイスをしたのかに対しての驚きではない。

「同じね……」

「……えっ?」

「アタシも同じことしたのよ、あの娘に……」

奇遇にも、偶然にも。

自分と同じ事をしていたことに、蘭花は運命的な何かに似たものを感じ、驚嘆を表した。

「そうですか」

その返答にどのような思いが胸に去来したのか、何か驚きながら、それでいて納得したように頷くと、ココは再び2人の居る場所へ視線を移す。それに続くようにして蘭花も視線を向ける。

 

依然として表情が分からない向こうの様子。

だが、心なしか会話が進んでいるような、そんな進展の兆しが窺えるような雰囲気が感じられた。

 

「会話が進んでるみたいですね……」

ココも同じものを感じ取ったのか、蘭花が思っていたことと同じ感想を口にした。

「そうね……」

傍らに居るココを見ずに、蘭花は相槌を打つ。

「アドバイスしておいて良かった……」

「そうね……」

「……蘭花さんは信じてましたか?」

「何が?」

何かを願うような問い尋ね方に、視線をココに向ける。

「ミルフィーユさんのこと、信じていましたか?」

口元を微笑ませながらも瞳は真剣な彼女の様子に、蘭花は『何が』とは言わなかった。

 

ありきたりだ。当たり前のことだと思いながら。蘭花は………

 

「当然じゃない。アタシの親友なんだから」

 

彼女の瞳を見つめながら、微笑み返した。

 

「私と一緒ですね」

 

そして彼女も我が意を得たりと、優しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

「―――さてと、そろそろ戻りましょうか?」

「そうですね。あまり遅いと心配掛けちゃいますし」

ひとしきり語り合った後、蘭花とココはようやく腰を上げて、彼女達の元へと向かい始めた。

「あっ、ようやく終わったみたいよ。何か落ち着いちゃってるわ」

彼女達も話を終えたのか、満足げな雰囲気を纏わせながら窓辺に視線を向けていた。

「そういえば蘭花さん」

「ん? なに?」

ココは歩きながら、彼女たちが居る方向へ手を振る。

「ミルフィーユさんに何てアドバイスしたんですか?」

彼女たちはそれに気付いたのか、ゆっくりとこちらのほうへと振り返ってきた。

 

「ん。それはね―――」

 

その時見えた彼女たちの表情は。

 

 

 

 

 

満天の星空を思わせるような、輝いた笑顔だった―――

 

 

 

 

 

See you next again………