「あぁ…父よ、彼らをゆるしてたもれ。彼ら何を書いちょるのか、知らへんのや〜」

 牧師の格好のタクトは厳粛な面持ちで語るが、いやになまっている。

「どうか、彼らにネタがあらん事を……タンメン」

 最後のところって、「タンメン」じゃなくて「アーメン」だろ。

「フッ」

 変な語りを終えると満足げに微笑い、帰っていった。

 一体、彼は何をしたかったのだろう。

 もしかして、作者に対してなにかを言っていたのだろうか?

 

 

HI-EXPLOSION 第8話

「裁く側、裁かれる側」

 

 

 やがて砂煙が収まり、視界がはっきりしてきた。

 タクトは顔を押さえていた腕をどけ、声がしたと思わしき方へ目を向ける。

 そして見えてきた、黒光りする影。

「こ、これは…!」

 頭にすげ傘、腕には酒瓶。

 何とも言えないその独特な表情。

「タ、タヌキさんの置物ですわ!」

 ミントは目に星をキラキラと輝かせた。

 落ちてきたのは、まごうかたなきタヌキの置物だった。

 よく居酒屋とか食堂に置いてあって客の心を和ませる、アレである。

「おお、これは素晴らしい信楽焼(しがらきやき)だな。見事な仕上がり、まさに職人芸の光る逸品だ」

 レスターも興味を引かれたようだ。

 三人は置物へと歩み寄り、やんややんやと口々にそれを褒め称えた。

「いい仕事してますねえ〜」

 タクトが大仰そうに深くうなずく。

「オープン・ザ・プライスですわー!」

 ミントは島田○助のように、声を張り上げた。

 果たして鑑定結果は!?

「待ていっ!!!」

「「「!?」」」

 盛り上がっていた空気に水を差された三人は、声のした方へ殺気混じりの視線を泳がす。

「フフフ……ハハハハ………!」

 すると、そこには白衣に身を包んだ、一人の女性が立っていた。

「あ、あなたは…」

 それはタクト達の、よく見知った人物。

「ケ、ケーラ先生?」

「何だと!?」

「ど、どうして!?」

 三人はその場で唖然呆然と立ちつくしていた。

 そこに立っていたのは、御年29歳(三十路まぢか!)の、エルシオール医療担当・ケーラ先生その人だった。

 これまでに見たことのない、冷ややかな微笑を浮かべ、仁王立ちしている。

 ヴァニラは蓑虫状態のままで、ケーラの肩に担がれていた。

 突然の状況に事態が飲み込めず、三人は混乱する。

「どういう事なんですか!」

「なぜあなたが、何の前置きも無しに!?」

「納得する説明をしていただきたいですわ!」

 タクトとレスター、そしてミントは、口々に思いついた疑問を叫んだ。

 まるでスズメの大合唱のような、質問攻め。

 チュンチュン鳴く三羽の大きなスズメたちに、ケーラが鶴の一声。

「黙らっしゃい!!」

 空気を震わせる怒号に、三人は思わず沈黙する。

「「「!?」」」 

「ミントさん、貴女のお陰で、私の計画に狂いが生じてしまったわ。その落とし前、キッチリ着けて貰いましょうか!!」

 肩に乗っているヴァニラがケーラに訴えた。

「下ろしてください…タクトさんと副司令は、重傷を負っています……はやく治療をしないと……」

「必要ないのよ、みんなここで死んで貰うから」

「……え……?」

「医務室を任せておくわねって言ったでしょ? でもあなたは、そんな状態にしておいたのにもかかわらず、持ち場を離れた。これはその罰よ」

 そう言うとケーラは思い切り振りかぶって、ヴァニラを沖島へと投げ飛ばした。

「……ケーラ先生……」

 ヴァニラは、まるで信じられないと言いたげな表情まま、為す術もなく飛ばされた。

 身体が、大きく弧を描く。

「……私が死んでも、代わりはいるもの……」

 ヴァニラは、何処かで聞いたことのあるようなことを言いながら、遠くの方へと消えた。

「くそっ… あんた、なんてことを!」

 タクトの脳天に、先ほどの戦いとは違う怒りが、こみ上げてきた。

 両手を握りしめて、ケーラを睨み付ける。

 そのまま怒りに任せて襲いかかろうとしたが、ミントがそれを制した。

 そして、冷静な口調で尋ねる。

「……ケーラ先生。一体わたくしが何をしたと言うんですの? そもそも計画とは何ですか?」

 冷静な口調とは裏腹に、彼女の瞳には、怒りの炎が燃え上がっていた。

「いいわ、何も知らずに死んでいくのも何でしょうから。冥土の土産話として教えてあげる」

 冷淡な笑みを崩さず、ケーラは胸の前で腕を組んで語り出した。

 きっかけは、フ○テレビケーラがアルモとココ、そしてクレータを麻雀に誘った夜の事。

 

 

鉛筆観察日記

 

4月▼日

今日は、鉛筆にゼリービーンズが実りました。お母さんがバター炒めにしてくれました。お店で買ったのよりおいしかったので、

「やっぱり天然モノは違うなぁ」

と言ったら、いもうとに

「ヤダー、お兄ちゃん。お父さんみたいなこと言ってるー。」

と言われました。ぼくは、こうして男はオヤヂになっていくのだなぁとしみじみ思いました。

 

8月●日

今日は、鉛筆に消しカス虫がわいて気持ち悪かったです。お父さんが買ってきた「ジェノサイド殺虫ボール」でげきたいしました。

毎年こんなことがあるのかと思うと、ゆううつになりました。

でも、こっちにはひっさつの超破壊殺戮蹂躙陵辱兵器「ジェノサイド殺虫ボール」があるので、むてきだとおもいます。

 

10月■日

今日は、おばぁちゃんが死んだ日です。お母さんにそう言ったら

「ばか!そういうのは‘めいにち’っていうのよ。ことばに気をつけなさい」

と怒られました。怒られて悲しかったです。鉛筆も、おばぁちゃんを悼んでか、なんとなくもの悲しさをたたえたよおすでした。

 

12月×日

今日は、一年でゆいいつよふかしをしていい日です。N●Kの「朱白詩決戦」を見ました。

「去れ年来い年」を見おわったあとに外を見たら雪がふっていました。鉛筆にもつもっていました。来年もよろしくな、鉛筆といいました。

 

 

 

 

「ふむふむ、なるほどね」

「それで私たち、副司令のストーカーをすることにしたんですよ!」

「尾行だよ、アルモ。ストーカーなんて人聞きが悪いもん」

 二人から一通り話を聞き終えたケーラは、顎に手をやって考えた。

(明日、お肉の特売日なのよね。どうしようかしら……)

 そして彼女の頭に、ある恐ろしい計画が浮かんだのである。

「そんな…あんた、このエルシオールを乗っ取るつもりだったのか!?」

 ある程度話を聞いたレスターは、それまで噤んでいた口を開いた。

 ケーラの語った事は、レスターだけでなく、その場にいた二人をも、驚愕させる。

 彼女は話を続けた。

 それは数日前の深夜。

「あら、どうしたのヴァニラ? こんな時間まで起きてるなんて」

 いつも決まった時刻に就寝するヴァニラが、なぜかまだ起きていたので、ケーラは彼女に問いかけた。

「…今日は、副司令の残業のお手伝いがあるのです…」

 ピンク色の醜い物体を縫いながら、ヴァニラは答えた。どうやら時間潰しをしているらしい。

 その手元には、『醜い人形の作り方vol.5 〜アステロイドの凄いヤツ!〜』と書かれた本が。

「へえ〜そうなの。がんばってヴァニラ、オールナイトよ!」

 ガッツポーズを取り、ケーラ。

「オールナイト……?」

 ヴァニラは怪訝そうに首をかしげた。

 まだ13歳という幼さ故に、ケーラの言葉の中にあった単語の意味が理解できていないようだ。

「手伝うのは、あなた一人でしょ?」

「はい…毎日一人ずつ交代で、お手伝いをしています…」

「だからオールナイトよ!」

「!?」

 突如ケーラが大きな声を張り上げ、ヴァニラは驚く。

 戸惑う彼女をよそに、ケーラは熱く語り始めた。

「だって深夜にふたりきりでしょ!? 男と女が、深夜にふたりきりなのよ!? あぁもうだめ! まさに背徳のオールナイト! 青春の蒼き1ペエエェェーーーッジ!!」

 自らの肩を抱き、メトロノームを思わせる動きで、上半身を左右に振る。

 ヴァニラはどう反応していいかわからずに困惑した。

「…わ、私はどうしたら…」

 戸惑い続ける少女の肩に手を置き、ケーラは力強く諭す。

「いい? ヴァニラ、あなたは副司令に全てを委ねるのよ。あなたを好きにする権利が、副司令にはあるの。それがオールナイトよ、分かった?」

「………」

 ヴァニラはしばらく沈黙した。

 先ほどのケーラの大声が、まだ医務室全体にこだましている。

 

 やがて共鳴が収まり、静寂が戻ってきた時。

 かああああぁぁぁぁ…

 ヴァニラの顔が、首から頭の頂まで、一気に赤くなった。

 そのまま南部鉄瓶でお湯が沸かせそうな勢いである。

 どうやら想像してしまったようだ。

「…そ、そんな…副司令が…私を…」

「不安でしょうね。でも大丈夫よ、どーせ誰も見てないから」

 それでどうやって安心しろというのか。

「…が、がんばります…」

 どうやら誰も見ていなければ、ヴァニラは安心できるようだ。

 決意に満ちた表情で、ガッツポーズをとる。

(だからあの晩、アッシュ少尉の様子がおかしかったのか…)

 ヴァニラの「オールナイト」発言に合点がいったレスターは、眉間のシワを深くし、苦虫を噛み潰した。

 口内炎に苦味が沁みる。

「ヴァニラにオールナイトをけしかければ、ブリッジの外でストーキングしているであろうアルモとココは、きっと何があったか訊いてくるはずだから、ヴァニラの正直な性格上…」

 おい、ちょっと待て!

 普通ならそんな所まで読めないぞ。

「まあ、本当にオールナイトしてくれれば、それに越したことはなかったんだけど。堅物の副司令には、期待するだけムダだったってことかしらね」

 レスターに何を期待していたのだろうか?

 もう狙いが分からない。

「そんなことをして、いったい何の得があるっていうんだ!?」

 そうだ、それだよタクト! そのツッコミだよ!

 割とまともな質問をタクトはした。

「あなた達ふたりを、仲違いさせて抹殺するためよ!」

「「!?」」

 タクトとレスターをキッと睨み付け、ケーラは言い放った。

 言い伝えにある火盗改メ・鬼の平蔵に勝るとも劣らない、凄まじい迫力である。

 しかし、どうやったらオールナイトから仲違いの段階までいくのだろうか。

「ココとアルモを使い、上手く司令と副司令が闘うように仕向け、共倒れになってもらう。もしどちらかが勝ち残っても、満身創痍の状態になるのは確実だから、勝った方を私が倒す。事故に見せかけてね。 それが当初の計画だった…」

「だった…?」

 レスターの口から漏れた疑問符に、ケーラの表情が、禍々しい熱をはらんだものへと変わる。

「計算違いが、三つあったのよ…」

 親指の爪を、ギリギリと噛み、

「うまくアルモとココが報告書を作成し、マイヤーズ司令が副司令の部屋に討ち入るよう、けしかける所までは良かったわ。けど…」

(ま、まさか…)

 タクトは唾を飲み込んだ。

 なんとなく、ケーラがこれから言わんとしている事が何なのか、察しがついたからだ。

 そしてそれは的中する。

「一つ目の計算違い……マイヤーズ司令! あなた、報告書をすぐに読まなかったでしょう!」

 険しい表情でビシっと指さされ、タクトはギクっとした。

「いくらミルフィーさんと過ごす休暇が楽しみだからって、司令官として、部下が報告書を提出したら、普通その場で読むでしょうが!」

「まったく、このボンクラが」

「タクトさん。いい加減、サボリ癖は直した方がよろしいですわよ」

「な、なんで俺が悪者みたいになってるんだ?」

 なぜかレスターとミントも一緒になって責めてきて、タクトは怯む。

 ケーラはさらに話を続けた。

「まぁ、そこまでならまだしも。ミルフィーさんと『魁☆森林浴ツアァァァー!!』に参加したっていうから、その折りに抹殺しようと再生怪人軍団を送り込んだのに、あなたときたら、それを撃退してしまって、こっちはレンタル料と別に弁償させられたのよ! まさか、あなたがモンスターと契約していたなんて…これが二つ目の計算違い」

 タクトはジシャクイノシシと戦った後、ドクダリアン、ナマズキラー、カメバズーカ、カブト虫ルパン、ヒトデヒットラー、獣人吸血コウモリ、奇械人ケムンガ、黄金バット、バンバンビガロ大佐、HMX-12型マルチと、次々に再生怪人に出くわし、いずれも撃破していたのである。

 どうやら今時の悪の秘密結社は、怪人の有料レンタルを行っているらしい。

「最後の一つが、ミントさん、貴女の出現。DVD-BOXをエサに、部屋に縛り付けておく手はずだったのに。内容全てを一昼夜見続けても、最低一週間は出てこられないはず」

「そんなの簡単ですわ。だってわたくし、怪龍達の出ているシーンしか見てませんから。ストーリーなんて、二の次。怪龍たちの着ぐるみにしか興味はありませんでしたもの」

 怪龍映画は、ドラマ部分と特撮が大体7:3の割合で構成されているため、特撮部分のみを見た場合、全編通して見た場合の、およそ30%の時間で終わる。

 DVDの映像特典『バトルセレクション』がアダになった。

 ってか、福田純と本多猪四郎があの世で泣いてるぞ。

「フッ、まあいいわ。こうなったら、三人まとめて私が地獄へ送ってあげる!」

 ケーラが言うのと同時に、彼女の腰に、銀色のベルトが出現した。

 バックルの中央には赤い宝玉が輝き、それを囲む黄金色の装飾品は電気を帯びているらしく、ジリジリと空中放電を起こしている。

 ケーラは大きく深呼吸をした。そして。

「変身!!」

 気合いを込めて『その』言葉を口にした瞬間、彼女の身体は漆黒に染まった。

 そして現れる、究極の戦士。

 闇色の体躯、紅い瞳、四本角。

 身体には金色のラインが、筋肉を想起させる形に走り、肩や肘には、鋭利な突起が伸びている。

 それは言い伝えにある、太陽を闇に葬る凄まじき戦士『クウガ』。

 タクトとミントは、クウガとなったケーラが放つ、障気にも似た異様な雰囲気に息を呑んだ。

「ウフフフ…」

 ゆっくりと、クウガが歩み寄る。

 その歩みは、銀河が終焉を迎えるカウントダウンなのか。

「ケーラ先生は、ベルトの魔力に取り憑かれていますわ…」

 震える声で、ミント。

 おそらく、ケーラがエルシオール乗っ取りという突拍子もない企みに思い至ったのも、ベルトが持つ邪悪な特性によるものなのだろう。

「このままじゃ、やられる…」

 奥歯を噛み締め、タクト。

「タクト……俺には分からない、何が正しいのか。その答えをお前が俺に教えてくれ!」

 今まで蓄積したダメージの痛みで、顔を歪めるレスター。

「見つけようぜ、レスター、ミント! 俺たちの答えを俺たちの力で!!」

 タクトは、力のこもった声で答えた。

 その瞳は、決意と正義の闘志に燃えている。

 左手に、龍の頭を象った紋様が刻まれたカードデッキを持ち、かざす。

 するとタクトの腰に、変身ベルト・Vバックルが装着された。

「変身!!」

 かけ声と共に、カードデッキをVバックルに装填する。

 半瞬のちに、タクトの身体は光に包まれ、仮面ライダーリュウガへとその姿を変えた。

「ケーラ先生……俺には生きる目的がある。待ってる人もいる。こんな所で、命をくれてやるわけにはいかないんだ!」

(ジシャクイノシシに邪魔された、あの時の続きをまだしてない!)

 タクトの脳裏に浮かぶのは、ミルフィーユと過ごす甘い一時の妄想。

「俺もだ。まだ書類整理も終わっていないというのに、やられてたまるか!」

 タクトの勇敢な(不純とも云ふ)声に、レスターも奮起した。

 立ち上がった彼の腰には、機械的なデザインをしたベルト状のロストテクノロジー『カイザドライバー』が巻かれている。

 レスターは懐からこれまたロストテクノロジー『カイザフォン』を取り出し、コードを入力した。

 

【 9,1,3,ENTER 】

 

 ファンファンとブザーが鳴り響くカイザフォンを、カイザドライバーのバックル部分に装着する。

「変身!!」

 

【 COMPLATE 】

 

 カイザフォンがバックルに装着され、電子音声が鳴ると同時に、ベルトから上下2本ずつ、計4本の黄色い閃光が伸び、レスターの身体をなぞるように走った。

 そして彼の身体が光ったかと思うと、その下から伝説の戦士『カイザ』が現れた。

 『カイザ』とは先文明EDENの時代、異形の怪物『オルフェノク』と戦ったとされる戦士の名前。

 その正体は根性の曲がった男、怪奇ウマ野郎、洗濯屋ケイちゃんと諸説あり、あれ? 洗濯屋ケンちゃんだっけな…まぁ、真相は定かではない。

「行くぞ、レスター」

「おう」

 並び立つ、二人の戦士。

 タクトとレスターが変身する様子を見ていたミントは、クマの顔がプリントされた手提げバッグを取り出した。

 そして怪しく微笑う。

「うふ、うふふふ…まさかコレを使う日がやって来るなんて……」

 バッグのファスナーを開け、そこからどこかで見覚えのあるスーツを取り出す。

 カラーリングは赤と青で構成され、頭部から胸部、腕部にかけては、蜘蛛の巣を想起させる形にラインが走っている。

 そうそれは、手から糸を出しながら摩天楼を飛び交う、あのヒーローに酷似していた。

「ついに、ついに、わたくしの小さな頃からの夢が実現するのですわ! 着ぐるみを着て、悪と戦うヒーローになるという夢が!!」

 そのスーツで戦うには特殊なクモに噛まれる必要があるのだが、彼女にはそんな経験があるのだろうか。

 第一『小さな頃から』って、あんたもともと小っちゃ……おっと、危ない危ない。

「燃えろ変身命がけ、己を変えて突っ走れ、ですわーー!!」

 戦いの時は今、戦いの時が来た!

 ミントは興奮しながら意味不明な発言をすると、いそいそとスーツを着込み、マスクをかぶった。

 頭の横からは、しっかりとウサ耳が出ている。

 ついに揃った、三人の戦士。

 リュウガ、カイザ、そしてスパイダーミントは、クウガと対峙する。

 クウガは嘲るような声で言った。

「フッ、まあいいわ、あまり歯応えが無さすぎるのもつまらないし。かかってらっしゃい」

 決戦の火蓋は切って落とされた。

 三人は猛烈な勢いで、クウガへと突進していく

「絶対に勝ぁーつ!」

「愛と真の力と技に、命をのせてぶち当たるんですわーー!」

「ブラマンシュ少尉、少し落ち着けええぇぇ!!」

 もはやスパイダーミントは、テンションが上がりすぎておかしな状態になってしまっている。

 

 四人の超戦士の戦いは、熾烈を極めた。

 拳打の竜巻に大地が揺れ、蹴打の嵐に大気が震えた。

 大地を蹴ってライダージャンプ、地面水平大風車。

 稲妻を呼ぶライダーキック、敵を倒したライダーチョップ。

 怒りのライドル引き抜いて、Xライダー今日もゆく。

 鋼鉄粉砕の黄金ハンマーに、日輪の力を借りた必殺クラッシュ。

 見よ必殺・電ショック、男の命をかけてゆく。

 努力と根性のバスターなビームに、零距離で放つメガトン級のビーム砲。

 RVソード激走斬り、エーテルちゃぶ台がえし、そして必殺骨外し。

 人生の厳しさを教える、懐かしのゴムひも地獄(よろしくねー!)。

 

 しかし、アルティメットフォームの力は強大で、三人は徐々に追い込まれていく。

「もう終りね、飽きてきちゃったわ。ふん!」

「うわあ!」

 ドラゴンロッドの一振りで三人は変身を解かれ、吹っ飛ばされた。

 その隙に、クウガがトドメの姿勢に入る。

 右足の踵を、地面に擦りつけるように動かすと、赤いエナジーが迸った。

「イクワヨ、イイワネ。ライダーキイィィィィック!!」

 何処かの桃色レンジャーがトドメに言うような前置きを付けて、クウガは技名を高らかに叫び、タクトに向かって駆け出した。

 アルティメットフォームのキックを生身の状態で喰らえば、もしかしなくてもお陀仏決定間違いなし。

 vsレスター戦とvsクウガ戦で傷付いた今のタクトの身体では、よける事も逃げる事もできない。

(もう、ここまでか。一度でいいから、ミルフィーに膝枕で耳掃除してほしかった…)

 場違いな後悔の念が、タクトの脳内に充満した。

 漆黒の体躯が宙を舞い、クウガ必殺の右足が眼前に迫った、その時。

 

「……あなたは死なないわ…私が、守るもの……」

 

 突如聞こえてきた、抑揚に乏しい、少女の声。

「……ATフィールド展開!」

 クウガのライダーキックが、突如タクトの前に出現したフィールドによって、完全にはじき返された。

 フィールドによって跳ね返されて、ケーラは吹っ飛ばされる。

「な、に…?」

 姿勢を崩され、クウガは顔を砂浜に突っ込んだ状態で地面に落ちた。

「この声は…まさかヴァニラか!?」

 タクトは、声の聞こえてきた方へ――海の向こうに目をやる。

「……タクトさん……」

 見えてきたのは、横一列に編隊を組んで飛ぶ、9つの影。

 それは背中に白い羽根を生やした、ヴァニラちゃん親衛隊のメンバーだった。

 彼達の手には、ロンギ○スの槍が握られている。

 ヴァニラは、中央で飛んでいる親衛隊長の背中におぶさっていた。

 彼の顔は、何処か満足げである。

「な、なんてことですの! まさかヴァニラ・シリーズを全機投入してくるなんて…」

「確かに、少し大げさ過ぎるな…」

 レスターとミントが意味深な驚きを顔に浮かべる。

「まさか、サドン・インパクトを起こすつもりなのか?」

 一体タクト達は何を知っているのだろうか。

 これもある意味のショータイムなのか。

 心の底からどうでもいいことであるが。

「…いいえ、ケーラ先生捕獲計画です…」

 ヴァニラは律儀に答えた。

 9人の親衛隊員が砂浜に降り立ち、ヴァニラも隊長の背中から降りる。

「ヴァニラちゃん……我が背中に感じた、あなたのぬくもり。それがしは生涯忘れません!」

 隊長は大げさに敬礼した。滝のような涙を流して。

 他の隊員たちも、隊長にならって敬礼した。

(いーよなー、隊長)

(くそう! あの時俺の手札にクラブの8が来ていれば、ヴァニラちゃんは俺の背中に…)

(後で隊長の背中の皮ひっぺがして、それで春巻作って食ってやる!)

(おおそりゃいいな、みんなで分けようぜ。ヴァニラちゃんのぬくもりを我が体内に永遠に閉じこめるんだ)

 小声でなにやら物騒なことを囁きあっている。

「……どうも、この節はお世話になりました……」

 ヴァニラは深々とお辞儀を返した。

 何とも愛らしい彼女の動作に、隊員たちは一斉に歓声を上げる。

「ど、どどどっ、ど、どおぉぉぉぉいたしましてえええぇぇぇ!!」

「うおおおおおおお! 今日は記念日だああああ!!」

「ああ…茂! 猛! 隼人! 志郎! 丈二! 敬介! アマゾン! おい、デルザー軍団はどうなったんだ?」

「一人残らず、全滅です!」

「なら難民船の一隻ぐらい放っておけ(それに、彼奴の母艦かもしれんからな…)」

「ライダーの戦いを止めたい。正しいとか間違ってるとかじゃなくて、それが俺の、ライダーとしての願いだから…」

「さがれ下郎! さがれ、さがれさがれ、下郎さがれ!!」

「…全ては殿の責めとは申し上げ難し。お命奪うは忍ばれど、天下万民のため、お見逃しは…いたしかねる!!」

「は、半兵衛! 半兵衛! 半兵衛ェェェーーー!!!」

「いえいえどうぞお気になさらずに! ヴァニラちゃんのお役に立てるなら、たとえ火の中水の中、どんなことも苦にはなりません!」

 どうやら嬉しすぎて発狂してしまった者も数名いるようだ。

 ヴァニラはクウガの方へと向き直り、

「……これで、ゲットだぜ……」

 そう言うと、先程展開させていたままで、放置してあったフィールドをクウガに向かって投げた。

 投げたフィールドは檻のような形に変形し、彼女を拘束する。

「なによこれ! 冗談じゃないわ」

「……ぐるぐるのお返し……」

 どうやら彼女、結構根に持つタイプらしい。

「…今の内に、治療します…」

 ヴァニラはクルリと反転するとナノマシンを発動させ、タクトとレスター、そしてミントの怪我と、激闘で半壊したクジラルームを修復していった。

 激しい光が全てを包み込む。

 と、その時。

 

「おほほほ、おーっほっほっほ!」

 

 突如響き渡る、甲高い笑い声。

『!?』

 その場にいた全員が、声のする方へと注目する。

 ヴァニラは驚きのあまり集中を乱し、ナノマシンの光が、風に吹かれたように消えてしまった。

「うふふふふ……」

 視線の先に仁王立ちする、赤いチャイナ服の弐号機。

 袖の無い軍服、蜂蜜色のロングヘアー、そして頭の左右についている、マラカスのような謎めいた髪飾り。

 はたしてそれはエンジェル隊隊員、蘭花・フランボワーズその人であった。

 なぜか彼女の背中からは、アンビリカルケーブルが長〜く伸びていたりする。

「フランボワーズ少尉、どうして君が…」

 

【 ファイナルベント 】

 

ぶわぁぁぁくそおぉぉぉぉぉ! すえぇぇうんきゃぁぁぁぁくっ!!」

 レスターが言い終わらないうちに、蘭花は必殺『爆走星雲脚』のカードを発動させると、親衛隊めがけ、脱兎の如き猛スピードで走り出した。

 と思ったら、勢い余ってすっ転び、頭を思い切り地面に叩き付けた。

 それでもスピードは死なず、彼女の身体は逆立ち状態でスピンしながら地面に轍を刻んでゆく。

 転んだ際に、背中のケーブルは、プッツリとちぎれてしまっていた。

 そして、約300メートルほど進んだ所で止まり、蘭花の身体は地面にペタリと倒れる。

 

『…………』

 

 異様な静寂が訪れた。寄せては返す波の音が、世界を満たしている。

 誰もが、迷っていた。

 この状況に、どうツッコんでいいのか。

 

「んむふふふふう〜」

 

 永遠に続くかと思われた沈黙は、蘭花自身によって破られた。

 地面に沈んでいた頭をひっこ抜き、口からザラザラと砂をこぼしながら、親衛隊を睨む。

「残り1分で9体。やってやろうじゃないの……!」

 説明しよう!

 通常EN供給は、背中のアンビリカルケーブルを通じて行われており、もし何らかの原因でそれが遮断されてしまうと、活動時間が限定されてしまう。

 ケーブル無しでは3ターンでEN切れになり、動けなくなってしまうのだ(←?)。

「うおおりゃああーーー!!」

 朱き金髪の超獣が、親衛隊へと襲いかかる。

 タイムリミットが近くてテンパっているのか、目が普通じゃない。

「うわわわ、来ましたよ隊長!」

「ええい逃げるな、恐れるな! ここまで来たら戦いだ!!」

「おお、BLACK RXっスね」

「行ってきまーっす!」

「行ってらっしゃ〜い。待ってるわん、あ・な・た〜」

 隊員たちが勇気を振り絞り、蘭花へと立ち向かってゆくが、

「遅い! スーパーライダー梅花二段蹴りぃぃぃ!!」

 バギャッ、グシャ!

「あべし!」

 怪人ギョストマもイチコロなキックで、まず1人。

「大輪剣! 疾風怒濤!!」

 ズシュワ!

「うごおおお!?」

 ゴーマ3ちゃんズもタジタジな剣技で、2人目。

「爆走星雲脚! 喰らええええぇぇぇい!!」

 ドガゴゴ!

「あひゃ〜」

「ひでぶう〜」

 アニメ版ではついに日の目を見なかった、本日二度目の必殺キックで、3人目と4人目をまとめて撃破。

「あとぉ、32秒で5人。あひゃはははは!!」

 今現在のクジラルームはまさに、まさに地獄の四丁目六番地。

 蘭花の、たたみかけるような波状攻撃の前に、親衛隊は次々と倒されていった。

 海が、彼女のチャイナドレスと同じ色に染まってゆく。

 殺戮という名の炎が燃え盛り、血煙が上った。

「でええい!」

「おひゃむおん」

 蘭花の強さはまさしく鬼神だった。

 銘酒『八海山』の酒瓶を片手に持ちながらのちゃぶ台返しで5人目を倒し、通りすがりの野生児から習ったという『スーパー大切断』で6人目を倒した。

「タクトばかりにいいカッコさせてたまるもんか!!」

 ガマ口の『プログレッシブサイフ』を使ったビンタ攻撃をかます。

 ベシコンベシコン。

「がはあ!」

 ついに、彼女は7人目を撃破した。

「残りは、あんた達だけね…」

 蘭花は血走った目を隊長と副隊長に向け、妖艶(というよりは不気味)に舌なめずりした。

 返り血を浴びた彼女の顔は、狂喜に歪んでいる。

 だが、蘭花に残された時間はあと16秒。

 この僅かな時間で、隊長・副隊長を倒さねばならない(彼女がなぜ戦うのかは不明だが)。

 生き残った隊長と副隊長は恐ろしさのあまり蘭花を正視できず、顔を見合わせ慌てている。

「も、もうムチャクチャでござりまするがな!」

 副隊長の方は錯乱してしまったようだ。

「落ち着け! ネタが古すぎるぞ!」

 隊長のツッコミもどこかズレている。

 というか、彼等は一体どこで花菱アチャコなど知ったのだろうか。

「お、お前行けよ、ほら!」

「いやですよ! 隊長行ってくださいよ」

「バカ言え! 俺は最後の砦だろうが!」

「こっちには家庭があるんですよ! 女房が故郷で待ってんだ!」

「何だと? こっちなんてなあ、女房と愛人4人が待ってんだぞ! 引き算でお前の負けだ、行けえ!」

「意味分かんないッスよ! 不倫してる方が偉いんですか!?」

 その女房とか愛人とやらが、愛する男は13歳の少女の追っかけをしている(しかも幹部)と知ったら、どれほど落胆する事であろうか。

 隊長と副隊長は罵り合いながら、互いを前に押し出そうと躍起になった。

 土壇場になって「自分だけでも助かりたい」という人間の本性が現れた、醜い争いだ。

「残り9秒! 一気に行くわよー!!」

 そんな2人の事情などお構い無しに、蘭花は最後の力を振り絞る。

「2人まとめて喰らえぃ! 超奥義・流星万烈蹴!!」

 蘭花の身体の周りに、燃えるような乳白色のオーラが沸き上がった。

 『流星万烈蹴』とは、彼女が育った惑星に伝わる伝統武術の、最大にして最凶の奥義である。

 クンフー・マスターの称号を持つ蘭花の師匠ですら、ついに会得しえなかった技だ。

「行けっての、ほりゃ!」

「し、シェイ(性)は丹下、名はシャゼン(左膳)!」

 突き飛ばされた副隊長は、錯乱のあまり大河内伝次郎状態になって、手に持っていた○ンギヌスの槍を突き出した。

 なぜ彼等のネタは古い物ばかりなのだろうか。

「こうなりゃ、差し違えたらぁぁあ!!」

 そう言うと槍を投げ捨てて、ドス一丁片手に突撃していった。

 しかし、次の瞬間に彼の魂は、ドスもろとも粉々に砕け散っていた。

「とおりゃああーー!!」

 悲鳴を上げる事すら許さない、キックの嵐。

 副隊長はその技を喰らう瞬間、お花畑が見えた気がした。

(ああ、お豊。何一つ夫らしいことしてやれなくて、ごめんよぉ〜)

 鮮血を撒き散らしながら副隊長の身体が宙を舞うと、隊長は玉砕覚悟の意を固め、蘭花に特攻を仕掛けた。

 涙や鼻水など、およそ人間が顔から出す液体が全種類だだ漏れした、情けなくも儚い表情だった。

―残り時間は5秒。

「うわああああーーーん!」

 しかし、情けない隊長の視線は、まるで月形龍之介のそれのように鋭く、蘭花を捉えていた。

 ロン○ヌスの槍を握りしめ、泣きながら走る。

「ぬおおおあああ!!」

 蘭花が叫びながら髪飾りを外すと、髪飾りの棒状の突起が2メートル程に伸び、錘になった。

―あと3秒。

「うっきゃおぉぉぉう!!」

 隊長の真紅の槍が、蘭花に迫る。

「成敗!」

 そう言うと、異様なうなりをあげながら、蘭花の錘が隊長の頭めがけ、振り下ろされる。

―あと2秒。

 ゴギャッ!!

 鈍い音が、クジラルームに響き渡った。

 蘭花が刹那の見切りでロ○ギヌスの槍をかわし、錘の一撃を、隊長の頭部へとヒットさせていた。

―残り1秒。

「パトラッシュ、ぼくもう疲れちゃったよ…」

 ENが尽きた蘭花の身体と、生命の灯火が消えた隊長の身体とがバランスを崩し、倒れ込む。

TIME UP

「なんだかとても眠いんだ……」

 砂浜に倒れた彼女の表情はしかし、カナリヤを食ったネコみたいに充実したものだった。

 

 タクトも、レスターも、ミントも、言葉を無くして立ちつくしていた。

 ケーラにいたってはあまりの急展開に、唖然として変身が解けてしまっている。

「……弐号機だから、たぶん暴走はしません……」

 ヴァニラの言によると、どうやら、あまり楽観はできないらしい。

「……捕獲は成功しました…もう、何もかもお仕舞いにします……」

 そう言うと、彼女はタクトの元へ歩み寄り、手を取って囁いた。

 

「…あなたに、力を…」

 

 何の脈絡もなく、突如、タクトの身体からマイクロウェーブ受信装置が展開し始める。

「なっ…コレは!?」

 タクトは自分の身体の変化に驚いているようだ。

 もっとも、他に驚くべき点は山程あるのだが。

「あの装置は…ま、まさか! 空に月は…月は出ているか!?」

 レスターは何かに感づいたようだ。

 すかさず天井を見上げる。

「え、ええ。ホログラフですけれど、まん丸で綺麗な月が出ていますわ…」

 大きく輝く月を見上げながら、ミントは答えた。

 激闘が長引き、気付けばクジラルームは黄昏時であった。

 ホログラフの月から一筋の光線が伸び、タクトの身体へと降り注ぐ。

「マイクロウェーブ、来る!」

 青白い光をその身に帯びて、発射準備を完了した。

(こ、これを喰らったらおしまいだわ!)

 タクトのただならぬ雰囲気に、にわかにケーラは焦り始める。

「うぬぬぬ……てえぃあ!!」

 ケーラは再び変身しなおすと、自らの身体を拘束していたATフィールドを破った。

 そしてほとんど逃げるような形で、避けそうと足を上げようとする。

 が、その時

「ウフッ、ウフフフフ…」

 不気味な笑い声が、耳朶に突き刺さる。

 次の瞬間、クウガは右足に異様な違和感を覚え、つまずきかけた。

「!?」

 驚いて足下を見やると、そこにはなんと、9機のヴァニラ・シリーズとの死闘でEN切れになっていたはずの蘭花がいた。

 常人離れ(っていうか人間離れ)した握力で足首をきつく握っており、振り解くのはほぼ不可能。

 どうやらクウガを見つけ、這って近付いて来たらしい。

「もぉ〜離さないわよ〜ジョージィィィ……」

 蘭花の目の焦点はぼやけ、とろりと溶けているようだ。

 二枚目のイイ男に目の眩んだ、彼女らしい欲望にまみれた瞳。

 不気味な眼つきと病的な微笑みが、クウガの背筋を凍らせる。

「誰よジョージって!? 離しなさいよ!」

 必死に踏みつけたり足振ったりで、なんとか逃れようともがくが、蘭花の欲望よりも強い力などありはしない。

「強引な所がまたステキィ〜イィ〜」

 蘭花はクウガの蹴りを喰らって鼻血を垂らし、恍惚したアブない笑みを浮かべながらも、やはり足を掴んだ手は離さなかった。

「離しなさいよこのぉ〜。早く逃げないと撃ってきちゃうじゃない!」

「撃ってぇぇ…私のハートを撃ち抜いてぇぇ〜ジョージィィィ〜」

 そうこうしてる内に、

 

「ツインサテライトキャノン、発射あぁーーー!!」

 

 カタストロフィーは、いつも突然やって来る。

 超高出力のエネルギー放射が、クウガと蘭花を呑み込んだ。

 激しい光がクジラルームを包み込み、その場にいた全員の視界を白く染め上げる。

 後にこの時の状況を、レスターはこう語っている。

「あの光……恐怖は感じなかった。いやむしろ、温かくて安らぎを感じた」

 彼は一体、何の共振を見たのだろうか?

 やがて世界に色が戻ってきた。

 クウガの足を掴んでいた蘭花は、跡形も無く消滅していた。

 代わりに、彼女の顔がプリントされたカードが一枚落ちている。





 もはやアンデッド扱いなのか。

 クウガも力尽きたのか、黒いアルティメットフォームから、白のグローイングフォームへと変態していた。

 変わったのは体色だけでなく、鋭い四本角は丸みを帯びた弱々しい形になり、全身の棘のような突起も消え失せている。

「蘭花さん…ご立派な最期でしたわ…」

 大事な仲間の死を悼み、ミントはハンカチで涙を拭った。

 それはレスターの血を拭いたハンカチだったので、顔中真っ赤になってしまったが、彼女自身は気にも留めていない。

(これで、からかってストレス発散する相手が一人減ってしまいましたわ…)

 微妙に悲しむポイントがずれているような。

「…大丈夫です、ミントさん…」

 ヴァニラがミントを慰める。

「…あとで食堂のおばさんに、『リモート』のカードを使ってもらいましょう…」

 『リモート』のカードには、ラウズカードに封印されていたアンデッドを開放する力がある。

 それによってブレイドとカリスも、ずいぶんと手こずらされた。

 というか、なぜに食堂のおばちゃんはレンゲルの適合者なのか。

 まあ、あのおばちゃんならば、カテゴリーAの呪縛など屁でもないだろうが。

「それなら、安心ですわね…」

 ミントは充血した目を細めて微笑んだ。何かいろいろ間違ってないか?

「ケーラ先生、あなたは…」

 タクトが声をかけようとした時、クウガの身体から青白い炎が噴き上がった。

 最後の刻が、訪れたらしい。

 苦悶の声が漏れる。

「グ…グオッ……カ…!」

 震えながら天を仰ぎ、両腕を掲げる。

 その手は、見えない何かを掴むように空を切っていた。

「…見エル……見エル…ゾ。コノ私…ガ、全銀河ノ……覇者…ニ……!!」

 彼女の目には、脳裏には、一体どのような桃源郷が映っているのか。

 ミントのテレパスが、それを探る。

 見えてきたのは、財前五郎(演:田宮二郎)を蹴落として教授の座に着き、椅子でふんぞり返って高笑いする、ケーラの姿。

 胸に、憐れみとも嫌悪ともつかない、複雑な感情が沸き上がる。

「副司令。もう、終わらせましょう…」

 ミントの呼びかけに、レスターは再びカイザへと変身すると、静かに肯いた。

「ケーラ先生。例え幻でも、あなたにそれを見せるわけには、いかない…!」

 カイザブレイガンの銃口から光弾が放たれ、クウガはその直撃を受けた。

 光弾はヒットした箇所から網目状に広がり、彼女の身体を拘束する。

「……あ…ああっ…あ…」

 カイザブレイガンをブレードモードに変形させ、コマンドを入力した。

 

【 イクシードチャージ 】

 

「これでぇ、終わりだぁ!!」

 腰を落とした姿勢で構えると、カイザの身体は光となって、クウガの身体を貫いた。

 渾身の必殺技『カイザスラッシュ』だ。

 一連の動作は、全てが一瞬のうちに行われた。

 

「ハハハハハ! アッハハハハハハ…ハハ……」

 

 ケーラの最期の高笑いを、レスター達は恐らく、一生忘れる事はできないだろう。

 大いなる勘違いから端を発する戦いは、ここに終結した。

 

 

 

 宇宙クジラが、沖で潮を吹いている。

 元はケーラだった灰の山は、潮風に乗って流されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜筆者より〜

 これを読んで「もうこんなんGA小説じゃねえよ!」と思った人は、正常です。

 つまりこんな作品を書いた作者が、異常なんです。

 

 これが最後の大暴走ぢゃーってな感じで、荒唐無稽の支離滅裂を極めた内容となっております。

 ストーリーがあちこち破綻しまくってますが、それは整合性よりも笑いを重視したためです(言い訳)。

 

 ミントの変身に関してはカエアンの着ぐるみにしようかとも思ったけど、あれは一回使うと死んじゃうのでボツに(カイザギアも一回変身すると灰になってしまうけど)。

 そんなわけで彼女には、スパイダーミント(←コレ知ってる人おるんかいな?)に変身してもらいました。

 タクトのリュウガとレスターのカイザに関しては……まあ、何だ…GAとは井上敏樹つながりということで…。