トランスバール皇国412年○月×日

運命の日はやってきた。一週間のつらい準備は終わりを告げ、今決行の日は訪れた

今放たれし八人の戦士たちよ

この計画を必ず成功させてほしい

諸君の健闘を祈る

 

 

ギャラクシーエンジェル

愛しさと切なさと・・・

 

黒猫  

 

 

「あ〜〜っ!!楽しかった〜。でも、一時は本当にどうなるかと思ったわ。これもミルフィーの運のせいね」

「ごめんねランファ。でもこれ見て!こんなの貰っちゃったよ」

金髪の少女、蘭花(ランファ)・フランボワーズと桜色の髪の少女、ミルフィーことミルフィーユ・桜葉(さくらば)が話している

ミルフィーユの手には小さい潜水艦のキーホルダーがのっていて、潜水艦の側面には『大和(だいわ)』と書かれている。この艦はある星で不沈艦と呼ばれたもので、その後改造され宇宙に旅立ちその星を救ったとか救わなかったとか。とにかく凄い艦らしい

ここは最近できたばかりのアミューズメントパーク。ここの最大のウリは、潜水艦に乗ったり、戦闘機に乗ったり等ということを本物さながらに体験できることである

彼女達エンジェル隊は、福引で当たった十枚の招待券でここに遊びに来ていた。それをタクトが見逃すはずもなく、タクトが加わり、半ば強引にレスターを連れ、アルモとココも呼んだ

彼女たちが乗ったアトラクションは『超潜水艦大和(だいわ)』というもので、体験者は潜水艦クルーとなり潜水艦を動かし、敵艦隊と戦うものである。場合によっては巨大なタコと戦うこともあり、タコを倒した時は名誉クルーとして表彰されることになっている

 

しかし彼女達十人は、それ以上の体験をしていた

 

 

タコが何匹も群れで襲ってきたのだ

 

 

もちろん原因不明の機械の誤作動である。この一件に、ある一人の運が関わってるのは言うまでもない

誰も予想だにしない事態が起こった訳だが、タクトを艦長、レスターを副艦長としたエルシオール体制の潜水艦大和は、十匹のタコをすべてぶちのめしたらしい

その後機械が完全に壊れ、アトラクションは一時中止となった。そして彼女たちにはお詫びとしてキーホルダーが渡されたのであった

従業員は完成したばかりの機械が壊れたことに驚いていたが、それよりもあの状況を見事に突破した彼らの方に驚かされていた

 

 

 

 

「まったく、せっかくの休みだというのに余計に疲れてしまった。これでは休みとは言えんぞ」

「そんな事言うなよレスター。せっかくみんな誘ってくれたんだから、もっとスマイル、スマイル!」

少し不機嫌なレスターをたしなめるタクト

このような所に来るはずのないレスターは、タクトに誘拐犯よろしくな方法で連れられてきた。その方法は、少々問題があるので明言は避ける。しかし簡単に言うと、近づき、連れ込み、眠らせ、持ってきたということになる。

「何言ってやがる!お前が勝手に・・」

電光石火の動きで後ろに回りこみ口を押さえる。口外されるとまずいことになる。タクトはよく知っていた

「むがが、むぐむがむががぐわうんが?(タクト、いつの間にこんな速くなったんだ?)」

「元からさ。それよりいいのかな『アレ』をばらまかれても」

驚くレスターに耳元で囁く

「!! ふがががうまくっくらんか!?(お前まだ持っていたのか!?)」

「ああ。エルシオールの隠し通路にね。全部渡すから今日は頼む」

そう言って手を離す。あきらかにさっきよりも怒っていた

「・・・・・・・・・・」

タクトを親の仇のように見つめ、何も言わずに前を歩く。頭から湯気が立ちそうだった

タクトは溜息を吐きながら後ろを向き、二人の少女を見る

 

「ほら、アルモッ!しっかりしなさいよ。こんなチャンス二度と来ないわよ」

ココはアルモを激励する。それでもアルモは動かない

「そんな事いったって〜。マイヤーズ司令のせいで副司令怒っちゃったじゃない。余計に近づきづらいよ〜」

二人はタクトを睨む。二人の視線はタクトの心に突き刺さった

 

 

レスターを連れてきた理由はこれである。『アルモとレスターの距離を縮めよう』という旗印の下、この計画は立てられた

 

 

一方その立案者達はというと

「ねえみんな!次何乗ろうか?」

計画のことなど忘れ、普通にエンジョイしていた

エンジェル隊とオペレーターコンビは目の前の地図を見つめる

バーチャルを駆使したアトラクションの他にも、定番ものもそろえてあり、地上120メートルから転落するジェットコースターや、回り方が立体的なコーヒーカップ、などがある

 

いつの間にかタクトも加わり、九人で話し合いをする

レスターは後方5メートルのところに立ち、彼らを見守る

彼はふと天井の空を見上げた。感情のない無機質な青い空が広がる。雨でも降って帰るようにならないかと彼は考えているが、作り物の天井から雨が降るわけがなかった

不毛な考えを終えた彼は前を向く。そこに一人の少女がいた

「あっ・・あのぅ・・・」

うつむき加減のアルモは消えそうな声で話しかける

「どうした、アルモ?行く所が決まったのか?」

「えっ・・?あぁっ!?はっ、はいそうです!」

アルモは弾けるように答える

気付くとほかのみんなは既に先に行ってしまっている。二人は横に並んでみんなを歩いて追い始めた

 

 

周りの人から見れば二人はどのように見えただろう

方や銀髪に眼帯、すらっとした体型に整った顔立ちの青年

方や紫の髪に髪留め、少し小柄な体型に顔を赤く染める少女

 

立派なカップルの光景だった

 

周りの視線が集まる。『お似合いだ』『不釣り合いだ』等と見る者の感想は人それぞれだが、それは確かに二人だけに降り注ぐもの。それを感じた彼女はさらに顔を赤く染める。レスターは感じていなかった

アルモはこれまでにないほど緊張していた。はっきりと周りの視線を感じる。顔を一ミリ上げることも出来なかった

前にエンジェル隊のみんな、タクト、そしてココがいた。ココはチラリと二人を見ると、すぐに前の七人に話しかける

 

 

ココ―いつもアルモのそばにいて、二人の動向を見守り、前に踏み出さない彼女に一歩踏み出すように後押ししていた

ただのおせっかい焼きではなく、親友として激励し、時にはからかったりもして彼女の想いをレスターへ向わせた

恋に対して亀のように頭を引っ込める彼女の頭を、上手く出させることが出来る唯一の人

そんなアルモがやっとああいう雰囲気になった。これだけでも、この計画を立ち上げた意義があったというものだった

 

 

 

 

最初の立案者はココだった。それをエンジェル隊のみんなに知らせ、タクトに知らせ、準備を始めた

計画は困難を極めていた。まず、レスターをここに連れてこなければならなかった。これが最大にして最も重要な困難だった

結局、二人っきりでデートさせるのは不可能と判断し、みんなで行動して頃合を計り、二人っきりにさせることにした

場所に関してはミントがブラマンシュ財閥の力を借り、最近出来たばかりのここの招待券をもらった

日程に関してはタクトのがんばりが不可欠だった。少しでも仕事があれば、休日だろうが仕事をするレスター。この日の仕事が完全になくなるように、タクトは一週間、司令官室にこもり仕事をやっつけていた

エンジェル隊はタクトのフォロー等をしていた

 

 

とにかく一丸で取り組んだこの計画。レスター誘拐という実力行使もあったが、計画は成功していた

みんな前を向きながら笑っていた

「どうやら成功したようですわね。良かったですわ」

ミントが前を向きながら話す。二つ目の耳がパタパタと動く

「ほんとよね〜。あの二人、変なところで奥手だから。ああ〜〜!アタシも運命の出会いがした〜い!」

ランファがそれに応じる

「まったく、神経使わされる俺たちの身にもなってくれって。慣れないことしたせいで肩こっちゃったよ・・」

そういいながら頭を左右に傾けるタクト。すると後ろから

「それなら後で肩もみしてあげますよ。タクトさん!」

「・・・あんた達もいいわよね。ラブラブで・・・」

元気な声を上げるミルフィーユにランファは呆れ顔で言う。『ラブラブ』と聞いたミルフィーユはアルモ並みに赤くなった

「はいはい、ごちそうさま。さて、もう少し歩きますか。二人の邪魔しちゃ悪いからねぇ」

フォルテも呆れる。そして少し意地悪な笑みを浮かべながら後ろを向く

「それで、私たちはどこへ向かうのですか?あそこでは何も決めませんでしたし・・」

ちとせがみんなに質問する

『レスターの意見も聞きたい』ということで、アルモをレスターの元へ向かわせ、その隙に移動した彼らに目的地はなかった

「どこにも行きませんわ」

微笑みながら伝える

「そうね。後ろの二人が気付くまで、そこら辺をぐるぐると廻ってるとしますか」

他に異論はなかった。みんな、あの雰囲気を大事にしてあげたかった

「・・・それでは皆さん、参りましょう・・・」

ヴァニラの一言に応じて、前の八人は進路を変える。移動時間はかなり長くなりそうだった

 

 

 

アルモの緊張は段々とほぐれてきた。顔の赤みも少し取れた気がした。少しずつ、少しずつ顔を上げていく

10メートルほど前にみんなを確認した。この状況は前の八人が作ったに違いなかった。彼女はそれに感謝したし、怒ってもいた

勇気を持って横を向く。それはいつもの姿だった

ダークブルーの瞳に整った横顔、すらりとした指。いつものレスター・クールダラスだった。ただ今日は制服ではなく、普通の私服。そんな普通の服も彼にとってすごく魅力的だと思った

ふと彼女は自分のかっこを見た

『最近ココとショッピングに行ったときに買った服。ココに勧められちょっぴり背伸びして買った服。ココは似合ってると言ってくれたけど、私は半信半疑だった。モデルが着ればきまってるんだろうけど、私は・・・。』

服を見ながらうつむく。彼女には自信がなかった。レスターと自分がつりあうかどうか

自然と彼女の手が服を握り、しわをつくる

『でもうつむいちゃだめ!このためにこの服を買ったんだから。うつむくだけじゃ、つりあうかどうか判らないんだから!』

決心した彼女はレスターに恐る恐る話しかける

「あのぅ・・レ・・・クールダラス副司令」

「ん?どうしたアルモ?」

普通に答えるレスターに対して、アルモはドキドキだった

何を話すか考えていなかった彼女は必死に思案しつつ

「あっ、あのっ・・そのっ・・今日は、来てくれてありがとうございます」

「? 別に感謝されることではない。半分タクトに連れ去られたようなものだからな。俺は昔から、あいつのペースに巻き込まれてばかりだ」

「そっ、そうなんですか。マイヤーズ司令って士官学校時代からあまり変わっていないんですね?」

「ああっ、あいつはな・・・・・・」

 

 

きっかけさえ掴めば後は簡単だった。二人は何気ない話をし続けた

 

 

「・・・その時のココの顔ったらですね・・・」

 

 

いつのまにか話し手は代わり、アルモがココとの思い出について話している。レスターは、ぼうっとアルモを見ていた

「クールダラス副司令?どうしたんですか?」

それに気が付いたアルモはレスターを見る。さっきまでの恥ずかしさはもうなかった

「あぁ・・いや・・・」

なんとも取れない反応をするレスター。彼女はさらに見つめる

「アルモの私服を始めて見たなと思ってな。その・・・とても・・・」

「とても?」

急に顔が熱くなった気がした。心臓の鼓動が急に増した。けれど彼女はうつむかなかった。もしかしたら自分の知りたい答えが彼の口から出てきそうだった

 

 

 

「とても・・・似合ってると・・思うぞ」

 

 

 

照れくさそうなレスターから、小さかったが確かに届いた声

信じられない言葉に声も出せないアルモ。しかし

 

 

 

 

「はいっ!ありがとうございます!」

 

 

 

 

今日一番の満面の笑みで彼女は答えた

 

 

 

 

無機質な空が、優しく微笑んでくれた気がした

 

 

FIN  

 

 

 

 

あとがきみたいなもの

 

初めまして。SS初挑戦の黒猫という者です

作品について始めに言わせていただきますが

 

 

初めはこんな予定じゃありませんでしたから!!(爆)

 

 

本当です。レスター×アルモは予定していましたがこういう風になるとは考えていませんでした

ですが書いてる途中

「あっ!ここからなんか繋げられそうじゃん。これはいいなあ(脳内妄想)。よし、これでいこうっ!!」

ということになりまして・・・(汗)

僕としてはいいハプニングだったと思います。なぜなら本当の予定では大変なことになっていましたから(若干二名ほど)

 

それから部分的にいろいろ変わり、今に至ります。最後の服については最初、微塵も考えていませんでしたから

でもこの話、エンジェル隊とタクトの影が薄い・・・。これは仕方ないことなのでしょうか

SS書くのって本当に大変ですね。身をもって思い知りました

短いですが最後に

こんな作品をここまで読んでくださっているそこの方、本当に、本当に、本当に、くどいですが本当にありがとうございます。

拙い文章で読みづらかったと思います。ここまで読んでくださるとは。涙が止まりません。

そして管理人の佐野清流様

こんな文章を載せていただいて本当にありがとうございます

Angel Wing」に自分の文章を載せたい!と思い、頑張ってきましたが。ついに念願叶いました!

でもこれだけに終わらず、もう少しSSを作れればと思っています

その時はこんな私ですが、またお願いできればと思います

本当にありがとうございました

大学受験中の身の黒猫でした(勉強しろ!)