「お久しぶりです、シャトヤーン様。
いかがお過ごしでしたか?」
「シヴァ陛下、よくぞおいでくださいました。」
時は、ヴァル=ファスクとの戦いが終わり、トランスバールとEDEN、そして銀河に平和が戻ってから二ヶ月ほどたったある日の朝。
シヴァ女皇は、『白き月』を訪問していた。
ここ二ヶ月は、混乱していた皇国内とEDENの体制の整備につきっきりになっており、まったく『白き月』を訪れる時間が取れなかった。
しかし、ルフト宰相の尽力などもあって、ようやくひと段落つけることができ、時間を作ることができたのである。
「ですが、二人きりのときぐらい『母』と呼んでいただけないでしょうか?」
「はい、もちろんです、母上。」
〜聖母の子守唄〜
作:笹原
「あなたとこうしてゆっくりおしゃべりできるのも本当に久しぶりね。」
シャトヤーンは、暖かい笑みを浮かべていった。
「はい、今までは反乱やら、ヴァル=ファスクやらと、次から次へと難題が沸いてまいりましたから。
それに、それらを乗り越えたと思ったら、今度は皇国とEDENの再建ですから、本当に休む間もありませんでした。」
シヴァは、少し疲れたような声で答えた。
「そうですね……。
あの頃は、こんな平穏な時間が訪れることを心から祈っていたわ。」
シャトヤーンは、少し表情を曇らせてそう答えた。
「そう……、あの頃は……。」
「母上。
そんなに暗い顔をなさらないでください。
せっかく平穏な日々を送ることができるようになったのですから、もう少し明るい顔をなさってください。
私は、母上のそのような顔を見に来たのではないのですから。」
シヴァは、努めて明るい声でそういった。
「それにしても私は、エオニア戦役でこの『白き月』を発ってからのこの一年間で、とても多くのことを学ぶことができました。
少し不謹慎な気もしますが、この戦乱があったからこそ、私は皇族として精神的に成長することができてと思います。
もっとも、この戦乱がなければ、私が皇族として振舞うこともあまりなかったかもしれませんが。」
「それは仕方のないことよ。
『もしも』のことを考えても、もうどうしようもないことですから。
それよりも、現実をしっかり受け止めることができるようになって、あなたは本当に成長しましたね。」
「ありがとうございます、母上。」
シヴァは、少し照れくさそうに答えた。
「ところで母上。
ムーンエンジェル隊の皆やマイヤーズはどうしていますか?
何にも知らせがないもので少し気になっているんです。」
「ええ、皆さんはいつもどおりお元気ですよ。
ただ、いくら身近に感じても、やはり身分というものがありますから、少し連絡を取り合うのは難しいのだと思いますよ。
これは仕方のないことです。」
「それはわかっているのですが……。
やはり、皇族とは少し難しい立場なのですね。」
シヴァは、少し残念そうにうなだれるが、
「それでも、皆が元気でやっていると聞いてほっとしました。」
と微笑む。
「うふふふ……。」
シャトヤーンも微笑み返す。
しばらく母子の談笑が続いた頃、ふと、シャトヤーンは遠い目をしながらこうつぶやいた。
「きっと、あのとき『白き月』が私に語りかけてきたことが、あの災難の警告だったのでしょうね……。」
「……?
母上、それはどういうことですか?」
シヴァは、怪訝そうな顔をして尋ねた。
「……そうね……。
少し話してあげましょうか。」
そういって、シャトヤーンはゆっくりと昔のことについて話し始めた。
「そう……。
あれはフォルテがこの『白い月』の防衛艦隊に着任した頃までさかのぼるわ。
そのときは、まだ紋章機は誰も適応者がいないまま『白き月』に放置されていたわ。
フォルテが『白き月』に挨拶に来たとき、『白き月』が私に急に語りかけてきたの。
『ふさわしき者が現れた。
この者こそ、紋章機にふさわしい。』
と。
その言葉を聞いた私は早速、フォルテを紋章機に乗せてみたわ。
そうしたら、彼女は4番機をすぐ乗りこなして見せたわ。
そこで、私は皇国軍に『白き月』の護衛部隊の設置を求めて、フォルテをその部隊の隊長にしたの。
この部隊が、今のムーンエンジェル隊よ。
このあと、ミントとヴァニラ、そして、蘭華とミルフィーユ、ちとせが順々に入隊してきて、それぞれの紋章機を乗りこなして見せたわ。
今まで、誰一人として紋章機に適応する者が現れなかったのに、そのときになって、続々と適応者が現れたの。
この意味が、今なら分かるような気がするの。」
そういって、いったん言葉を切る。
「それは一体……?」
シヴァは、よく分からないというように尋ねてみる。
「そう……。
あのときの『白き月』の私への語りかけは、きっと、これから起こる戦乱についての警告だったと思うの。
あなたも知ってのとおり、紋章機は皇国最強、いえ、銀河最強の機体よ。
ただ、あの一連の戦乱が起こる以前には不必要な、大きすぎる力であったことも分かるわよね?
あのとききっと、『白き月』はこれから起こる数多の災難を察知した。
そして、紋章機という強大な力が必要になると判断し、適応者を求めた。
そして、それを私に語りかけた。
そう思うの。」
ここまでいってまた言葉を切る。
「ただ、そのころは、その語りかけの意味するところはそのままの意味だと思っていたわ。
ただ単に紋章機の適応者が現れた、としか思ってなかったの。
きっと、平和慣れしていたからでしょうね。
私も、まだまだ修行が足りなかったのかもしれないわね。
ふぅ……。」
ため息をついて表情を曇らす。
「母上……。」
シヴァも、少し暗い顔になる。が、しかし、
「ノアがいっていたようにこちらには情報がかなり欠落していたのですから、どのような人でも、そこまで考えることはできないと思います。
それに、それに母上は、皇国のため、EDENのため、いえ、銀河のために様々なことに尽力してくださいました。
あのような混乱時でも、冷静に判断を下していたのですから、修行が足りなかったなんてことは決してありません!」
と、微笑みながら力強くいった。
「そう……、かしら?」
シャトヤーンは、まだ引っ掛かりがあるようである。
「そうです!
母上が後ろから私たちをご覧になってくださったからこそ、私たちは安心して戦い抜くことができたのです。
それは、母上がそのことに値することをなさってきたからに違いありません!」
シヴァは、更に力強く言った。
「うふふふ……。
そうね、シヴァ。
あなたの言う通りかもしれないわね。
うふふふ……。」
ようやくシャトヤーンの顔に笑みが戻ってきた。
「あなたは本当に強くなりましたね。
戦乱が始まる前のあなたは、とても心が不安定で、なにかあるとすぐに動揺していました。
でも、今のあなたは、私の曇った顔を見ても、それを支えることができるようになりました。」
「ありがとうございます。
ですが、そう見えるようになったのは、きっとマイヤーズらのおかげだと思います。
皆が私をいろいろな面で支えてくれたおかげで、動揺も和らぎました。
それに、支えがあるからこそ、心が強くなれることに気付かされました。」
「そうです。
人は、一人では弱いものですが、多くの人が支えあってこそ強くなれるのです。
助け合うことで大きなことができるのです。」
「大きなこと、ですか……。」
シヴァの表情が、少し曇った。
「ですが、私が背負っているものは少し大きすぎるような気がします……。」
「そんなことはないですよ。
あなたには力を貸していただける方々がたくさんいるではないですか。
たとえ、目に見える範囲にいる方々は少なくても、見えないところであなたの行いを見ている方々は多くいます。
あなたは、もっと自分に自信を持ってもよいと思いますよ。
あなたは、正しいことを行っているのですから。
そうでなければ、このように多くの力を貸してくれる方々は現れないと思いますよ。」
「わかりました。
……私にとって一番心の支えになるのは、やはり母上です。
母上に見守られていれば、私もがんばれそうな気がします。」
シヴァは、この日一番の笑顔を見せた。
夕日がまぶしく二人を照らし始めてきた。
「それでは、母上。
そろそろ本星に帰ります。」
「ええ、気をつけて。」
「また、しばらくお会いすることはかなわないと思いますが、どうかお体にお気をつけてください。」
「シヴァ、あなたもお元気で。」
「はい。
それでは。」
母子は笑顔で手を振りながら徐々に遠ざかっていった。
完
あとがき
お初にお目にかかります。
とりあえずどこかの大学の学生としてがんばっておりますHN笹原と申します。
SSには初挑戦であります。
いつも皆さんのすばらしい文章を拝見させていただいておりまして、
「自分もこんな文章を書いてみたいな……。」
と思い立ちまして、短いものですが書いてみました。
残念ながら理系人間であるため、少し話に厚みを持たせることや、言葉遣いなどにやや難があって大変見苦しい文章になってしまったと思いますがお許しください。
なんだか話がありきたりな感じがして、読んでいてつまらないかもしれませんが、これが『Angel Wing』の隅にでも載せていただければ光栄です。
内容としては読んだとおりのシヴァ女皇とシャトヤーン母子のELの後日談みたいなものです。
もう少し構成力があれば、もうちょっとましな展開が広げられたのですが……。
うまく伝えることができたら幸いです。
本当は別のメンバーでコメディー風のものを書いてみたかったのですが、まだまだ至らないところが多く、崩壊する可能性が高いため、もう少しまともな文章が書けるようになってから挑戦してみたいと思います。
最後になってしまいましたが、管理人の佐野清流様、すばらしい文章書きの先輩方、どうぞよろしくお願いします。あとずうずうしいかもしれませんが、小説のご教授の方もしていただけたなら幸いです。
笹原