[異世界の住人]
三章
「な・・・・なんであたしの考えとることが分かったんですか!?」
一瞬自分が無意識に口に出していたのかと思ったが、他のみんなが気付いていなかったことからすぐにその考えを振り払った。
「さて、どうしてだと思います?」
「微妙な表情の変化で相手の心理を読む読心術とかいうやつですか?」
「おしいですわね。あいにく私のは直接相手の心が聞こえるテレパシーなんですの」
「え・・・・・・・・・えええ〜〜〜〜〜!!?よりによってミントさんにそんな不思議で素敵な特殊能力が!?!?それはつまり・・・・・・・・」
――――――――カナの妄想―――――――――――
例えばミントさんの着ぐるみ製作に手伝わされとる時も
『いかがですかカナさん、製作の進み具合の程は?』
『・・・・・・順調ですよ・・・・・(なんで?今何時やと思てんの?っちゅうか何自分人に任せて“マドマーゼル・クルックー”なんてやってんの?)』
『あらカナさん、私の事をそんな風に思っていたなんて心外ですわね』
『え?』
といいつつミントさんが何かのリモコンを取り出して
ウィ―――ン・・・・
ボタンを押すと部屋中の着ぐるみがあたしの方を向いたりして・・・・・
カチッ
『あ・・・あの・・・ミントさん、これは・・・・?』
『おほほほほほほほほほ』
その着ぐるみがあたしにレーザーを放って
『ンぎゃああああああああああ!!!!!!!!!』
あ・・・・・・・あかん・・・・・・・あかんやん・・・・・・
――――――――現実――――――――――
「あ・・・・あの〜〜〜・・・・・・」
カナの妄想もばっちり読めているミントが声をかけていいのか戸惑いつつ話しかける。
ミントからしてみれば妄想の中とはいえ自分をまるで悪魔のように描かれえていたら少なくとも良い気分はしないだろう。
「・・・・・・・っは!すいません!別に他意はないんです!!ただ単に妄想癖なだけなんです!!」
普通はむしろ妄想癖という事の方を否定したがるだろうがカナにとってミントに受ける仕打ちに比べれば妄想癖と思われるぐらいなんとも無いようだ。
とはいえ、この妄想癖はエンジェル隊に幾度となく命の危機にさらされて身についてしまったものである。
「い・・いえそうではなく、私は別にき・・・・・着ぐるみが趣味という訳ではないのですが・・・・」
否定しながらも少々歯切れが悪い。
「・・・・あっ!そうですよね〜〜。ここがパラレルワールドや言うことすっかり忘れてました」
心の底から安心している。どうやらカナはミントに相当トラウマがあるらしい。
「パラレルワールド?え?それってどういう事?」
話の状況が分からない蘭花は訳が分からないといった感じで尋ねる。
もっとも、ミントのテレパシーは心の表層部分しか読めないので結果としてタクトとヴァニラ以外は解っていなかったのだが。
「っていう訳なんだ」
状況の解っていないエンジェル隊にタクトが一部始終を説明した。
「ブラックホールに入ってパラレルワールドねぇ・・・・・・またずい分と突拍子のない話だねぇ・・・」
その説明を聞いた後フォルテが素直な感想を述べる。
これが普通の反応だろう。もしこの話を聞いたのが普段ロストテクノロジーに関わっているエンジェル隊やタクトたち、白き月の研究員“月の巫女”でなければ信じてすらもらえなかった可能性が高い。
「(その引き金引いた人間と同じ顔で言われても・・・・・・)まぁ、当事者のあたしもいまいち実感湧かへんのですけどね・・・・・」
が、カナにとってそんな事はどうでもいいらしく物分りの良いフリをして心の中で毒つく。
意外と根に持つタイプらしい。
「ねぇねぇ、じゃあカナはあたし達の事知ってるってこと?」
こっちは疑うということを知らない(良く言えば純真無垢)らしくミルフィーユが興味津々といった感じで尋ねる。
「(ありゃ、こっちのミルフィーユさんタメ口?)言うたかて外見は別として少しこうやって話しただけでも大分違いありますよ?」
「例えば?」
「さっき聞いた様に向こうのミントさんは着ぐるみが趣味ですし、テレパシーなんてありませんでしたし(ちゅうか向こうのミントさんにそんな能力渡ったらエンジェル基地はミントさんに支配されたも同然やん・・・・・)」
「他には?」
「ヴァニラさんのそばにノーマッドさんがおれへんし、それ以前あたしがヴァニラさんに話しかけた時もまともな会話になってませんでしたし」
「あの、まともな会話をしたことがないというのはどういうことなのですか?」
話がいまいち見えないという様子でちとせが質問する。
「う〜〜・・・ん、なんちゅうか話しかけても話題が真横に逸れてくっちゅうか同じ土俵に立たせてもらえんっちゅうか・・・・・・」
「え・・・と意味が良く分からないのですが・・・・」
「まぁ、実際会ってみんことには説明しづらいと思います」
「は・・・はぁ・・・・・」
「で、これからあんたどうするんだい?行くアテもないんだろ?」
そこにフォルテがカナの今後について尋ねる。
「幸いサイフはありますし、どっか適当な星見つけてホテルにでも泊まっとりますんで。何か帰る方法見つかったら教えてください」
「え〜〜!カナ行っちゃうの!?」
元々人懐っこい性格のミルフィーユはせっかく出会えた自分たちとも歳も近い人間と別れたくないらしい。
「失礼ですがカナさん、所持金はいくら程お持ちですか?」
ミントもまだ少ししか話していない(しかもテレパシーでカナの本性を垣間見た)とはいえそれなりにカナのことは心配のようだ。
そもそもミントは実家で裏のある人間をいくらでも見てきたのでこれくらいまだかわいいものなのだろう。
「給料日からまだそんなに経ってませんから・・・・・・・ホテルでも1ヶ月くらいやったら・・・・・」
ひどく曖昧な答えだ。
「それにしても食費や雑費などもあるでしょうし、それにこちらに来たことによって職を失ってしまった訳ですからバイトをしたとしても収入は著しく低下するはずですわ」
カナの曖昧な答えに比べてミントは実に的確にカナの今後について意見していく。
「そ・・・・・・そうですねぇ・・・・・・(こっちでもミントさんはキレるなぁ・・・・・・まぁあっちでは8割はその頭脳を悪用してたような気ぃするけど・・・・・・・)」
「それならこのエルシオールでしばらく暮らしてみたらどうかな?」
その会話を聞いてタクトが自分の考えを提案する。
「エルシオール?この建物の名前ですか?」
「まぁ・・・建物っていうか艦なんだけどね」
「え!?これ艦なんですか!?普通にティーラウンジとかありますやん!!」
「えへへ、驚いた?この艦は儀礼艦だから他にも展望公園とか宇宙コンビニとなんかもあるんだよ!」
カナのリアクションにまるで自分のことの様にエルシオールの説明をするミルフィーユ。
どうやら彼女にとってエルシオールに対してのこういうリアクションは新鮮なものらしい。
「凄いですね〜〜・・・・(まるでエンジェル基地やん!・・・・・・つまりこのエルシオールいう艦がこの世界のエンジェル基地みたいなもんなんやろか・・・・・・?)でもええんですか?この艦にもクルーの人らがぎょうさん乗っとるんとちゃいます?」
「別に気にすることないよ。この艦は相当広いから空き部屋もまだ十分あるし」
「そうそう、問題があるとしたらタクトがクールダラス副指令に怒られるくらいだろうし気にする事ないわよ」
タクト自身すっかり忘れていた問題点をほじくり返しながらも笑顔たいした事ないという様に言い放つ蘭花。
「あ、そうなんですか?あたしはてっきり手続きやら面倒なんかと思ってましたけど。それなら問題ありませんねぇ」
その傍らで沈みながらレスターへの言い訳を必死に考えていたタクトがいたのは余談である。
あとがき
やっとカナがエルシオールで暮らすことになりました
私の理想としてはこれからもカナがムーンエンジェル隊とギャラクシーエンジェル隊とのギャップに苦しみつつ
どんどん暴走して欲しいと思っているのですが“書いてるうちにキャラが勝手に動いてしまう”という事を実感している今
どうなるのか私にも正直分かりません。