[異世界の住人]
四章
結局カナはしばらくの間エルシオールに滞在することになり、一時的に作業員という職にも就いた。
今はあいさつのため色んな施設を回っている最中である。
――――――――――ブリッジ―――――――――――
「っちゅう訳で元の世界に戻る方法が見つかるまでお世話になりますカナ・アルフォートです」
「あたしは通信担当のアルモです。よろしく」
「あたしはレーダー担当のココといいます。あの〜〜・・・・・なんていうか・・・・・・大変でしたね・・・・・」
ああいうのを普段見慣れていない人間からすれば「大変」以外の言葉は浮かんでこないだろう。
ましてやその張本人が今ここに何事もなかったかのように立っているのだから。
「そうですね〜〜、あそこでブラックホールさえ出えへんかったら良かったんですけど」
カナの言葉にはまるで近所のあばちゃんの『あそこのスーパーまた値上がりしたらしいわよ』的な軽さが含まれている。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
その場にいる3人は「そういう問題??」という考えがよぎったがこれ以上関わらないでおこうと考え直し、そのまま黙っていた。
「・・・・・・こほん!いいか!?この艦は本来、一般人は乗れないことになっている!この艦に乗っている以上あくまで軍人として働いてもらう!!」
とはいえ自分までもこんな空気を出していては示しがつかないと考え、カナに対してきつい口調で忠告する。
「いや、軍人ですし(うわぁ、今までのに輪をかけたまともなセリフやな・・・どこにでも一人はおんねんなぁ俗にいう完璧人間いうんは・・・・ん?・・・・完璧?)」
その時カナはかつて向こうの先輩から教えを思い出した。
――――――――回想―――――――――
あれは確かべろんべろんに酔うとったフォルテさんにつまみを運んどった時。
『いいかいカナ!?この世にはオチがない程、恐ろしい事はないんだ!!』
『な・・・なんです?ヤブから棒に・・・・・・』
『あたしは今真面目な話をしてるんだ!いいかい!?オチがないって事は、あたし達の世界観、人間観が崩壊するって事なんだぞ!!?』
『は・・・・はぁ・・・・・(だ〜〜いぶ回っとんな〜〜)』
『かつてあたし達は一度だけオチのない人間と対峙したことがあった!!』
『オ・・・・オチのない人間!!?』
あたしは少なからずその言葉に反応した。何だかんだ言うてもオチのない人間がおるなんて思てへんかったからや・・・・
『そう・・・あれは今でいうサン様みたいな顔立ちだった』
『あぁ・・・・あの顔ですか』
『当時、蘭花はすっかり惚れ込んでいてねぇ・・・・・』
『なんか・・・・容易にその当時の映像が想像できるんはあたしだけでしょうか・・・・・?』
『奴はパオロットとしての腕はもちろんルックス、人当たり、気配り、家柄、階級、実技・学力、その全てにおいて高レベルだった』
『うわぁ・・・過去最高記録ですねぇ・・・・・・』
『もちろんあたし達は必死で奴のオチを探した。すけべオチ、ねこばばオチ、禁断のほんにゃらオチ、実は女オチ、不治の病オチ、化け物オチ、奥さんがいけてないオチ、夢オチ、鮪の中おち、階段落ち、落ち武者、みんな餅つけ・・・・・・だが奴はこの全てをクリアした!!』
『・・・・・・・・・・・・・・・』
途中、変なんがあったけど・・・まぁ気にせんとこう。
『そして奴が研修から帰るために出発した瞬間・・・・・奴の艦は爆発した・・・・』
『ば・・・・・爆発オチですね!!?』
それを聞いてやっと安心した。
次のフォルテさんの言葉を聞くまでは・・・・・・・
『あたしだってそう思ったさ・・・・・だが次の瞬間全員無キズで脱出したとの報告がきたんだよ・・・・・・・』
『それは・・・・・・つまり・・・・・・・・』
『あたし達エンジェル隊の・・・・・・完敗だった・・・・・』
その話を聞いてあたしは思い知らされた。この世にオチがない程恐ろしい事はないんやと・・・・・・
その後しばらくエンジェル隊は頭にケーキを被って(世界観、人間観が崩壊する=ケーキは甘くて食べる物ではなく、辛くて被る物という考えから)敗北感を味わったという。
そこはかとなく楽しそうやったというミントさんを除いて。
―――――――現在―――――――――
「(もし万が一にも、この人がその人種やったとしたら・・・・・・)」
「おい!人の話を聞いているのか!!?」
自分の説教中にボーっとしているカナに対しレスターが怒鳴る。
「あ・・・・・あたし・・・・・・・・あたしは・・・・・・・・・・」
「なっ・・・・・!?」
さすがのレスターも急に涙目になったカナに少したじろぐ。
「あたしは無関係や〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
そう言ったのが後か先か、カナはブリッジを走り去って行った。
「な・・・・なんだったんだ・・・・・・・・・・?」
『これじゃ、まるで俺が泣かしたみたいじゃないか』と思いつつレスターはただ唖然とするしかなかった。
「ねぇココ、あの人ひょっとして副指令のこと・・・・・・・」
「う〜〜ん・・・・・あれは違うような・・・・・・・・」
――――――廊下―――――――
「ハァ・・・・ハァ・・・・・まさかこないな所に伝説のオチのない(かもしれない)人間に会うやなんて・・・」
命からがら(?)逃げてきたカナはこの世界に畏怖を感じていた。
というかあの態度はレスターに対して失礼極まりないだろう。
その時
「ん、なんやろあれ?」
カナが見つけたのはさながら“獣が獲物を狙う時”の様な、はたまた“父親が娘を見守る時”の様な空気が混じった(一言で言えば異様な)オーラをまとった男だった。
空気だけならまだしも壁に隠れて何かをコソコソうかがっているものだから一度見つけてしまうと嫌な意味で目についてしまう。
この世界に来て初めて非常識的なもの(人)を見つけてどこか安心した様子で声をかけてみる。
「あの〜〜・・・・何されとんですか?」
「うわぁ!!」
「いや・・・・そんな異様な空気まとった人にそんな化け物でもみたようなリアクションされても・・・・・・」
「す・・・すみません。急に声をかけられたもので驚いてしまって・・・・・」
「まぁ、ええけど・・・・で、何されとったんですか?」
「それはもちろん“ヴァニラちゃん公認・ヴァニラちゃん親衛隊”の一員として交代制で健康チェックはもちろん、起床時間のチェック、髪の状態、今日の仕事とお手伝い項目の確認など仕草のひとつひとつからヴァニラちゃんが会話した男の人数とその素性のチェックに至るまでをこなしていたところなんです」
誰がどう聞いても立派なストーカー行為である。というか手伝いの項目をチェックする暇があるなら手伝うくらいすればいいものを・・・・・
しかも交代制というあたり、ちゃんと仕事と両立しているらしい。
だが、それより何より“ヴァニラちゃん親衛隊”という存在じたいあのノーマッドが許す訳もない。
もしこの場にノーマッドがいたのなら親衛隊を乗っ取るか、恋敵と見なし親衛隊そのものを撲滅するかのどちらかの行動を取るだろう。
なんとなく後者の確率が高いような気はするが・・・・
「・・・・・・ってそれ犯罪ですやん!!!」
場の空気を考えればここでツッコミをするのは自殺行為、そんなことはカナにも分かっていた。
ただ頭で考えるよりも手が・・・もとい口がでてしまった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
そんなカナの発言に“ヴァニラちゃん親衛隊”の男も、そしてカナ自身も黙り込んでしまった。
「「あは・・・・あははっ・・・・・・・・・あははははははははははははは・・・・・・」」
そんな気まずい空気の中、笑うしかない時も人間たまにはある。
カナ・アルフォート14歳
この世界に畏怖を感じながらも久々にできたツッコミに心のどこかで充実感を覚えた。
そんな一日だった。
あとがき
という訳でカナにはこの世界に来て初めてのツッコミ(といえるかどうかは別として)をしてもらいました。
やはりカナが驚いてばかりいるとそろそろ空回りになってしまいそうですから
レスターが少々悪役になってしまいましたが、レスターファンの方には謝らなくては・・・・