[異世界の住人]

 

 

六章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ティーラウンジ――――――――

 

タクトは例のごとくブリッジから抜け出し、今ここにはタクトとムーンエンジェル隊、そしてカナの合計8人がくつろいでいる。

 

「そういえば今日はあの日だよね!」

 

そんな中、話を切り出したのはミルフィーユだった。

 

「あの日・・・言いますと?」

 

「すみませんミルフィー先輩、私も分かりません・・・」

 

ミルフィーユの言葉にカナとちとせは分からないといった様子である。

 

「ほら、あの日だよあの日!」

 

「今日、何かあるんですか?」

 

「そうおっしゃられましても・・・・・」

 

たまに相手に分かって欲しくてヒントを出しながらも相手が分かってくれるまで答えを言わない人間がいるがミルフィーユはまさにその典型だろう。

 

「しかし以外だねぇ、そういうのにうとそうなちとせはともかくカナまで分かんないなんて・・・」

 

その様子を見てフォルテが感想を述べる。

 

どうやらこの2人以外にはみんな分かっている様だ。

 

「というよりカナさんの場合、異世界から来た訳ですからひょっとすると時間が私たちと微妙に違うのでは?」

 

 意外がっているフォルテに対しミントが冷静な判断でフォローを入れる。

 

「今、7月ちゃうんですか?」

 

「やはりそうでしたか。こちらでは今日は2月14日になりますわ」

 

カナの質問に納得し、改めてミントがヒントを出す。

 

やはりミントとしてもすぐに答えを言ってしまうのはつまらないらしい。

 

「・・・・・ああ!モテる男を歓喜に震えたたせ、モテへん男を絶望へと叩き落すバレンタインデーですね?」

 

「・・・・・・・・・あんたさぁ・・・もうちょっと他に言い方ないの?」

 

カナのかなり歪んだバレンタインデーに対する解釈に蘭花がツッコミを入れる。

 

蘭花の言う事はもっともである。

 

少なくとも、そういうのを気にしている人物の前では決して言わない方がいい。

 

「そうなんだよな〜〜・・・仕官学校の時もチョコがレスターにばっかり・・・・それも朝から軽く20個は貰ってたもんなぁ・・・・昼休みにもなれば先輩、後輩問わずどんどん押し寄せてきて・・・・放課後やっと俺も女の子から貰えるかと思ったら・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――回想―――――――――――

 

 

その日たまたまレスターは学級委員の仕事で残ってたから俺一人で帰ってた時

 

『あ・・・あの・・・マイヤーズ先輩ですよね?』

 

『そうだけど、どうしたの?』

 

突然、女の子が顔を赤らめながら後ろに何かを隠してたんだよなぁ・・・・

 

『あ・・・・あの・・・・・』

 

『(こ・・・これはもしかして・・・・・・・・・俺にも春が来たか!!?)』

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・これ!クールダラス先輩に渡してください!!』

 

 

 

 

 

 

『・・・・う・・・うん・・・・・あいつも喜ぶよ・・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――現在―――――――――――

 

 

「・・・・・・・・だもんな〜〜・・・・・それどころか母さんまで『うちの子がいつもお世話になって・・・・』とか言って俺貰ってないし・・・・・あいつはあいつで『冷静に考えればたった一人でこれだけの量を食いきれる訳ないというのは分かりそうなものだが・・・・つくづく女というのは分からん』とか色気の欠片もない事言ってたし・・・・・」

 

どうやら嫌な過去がフラッシュバックしてしまったらしい。

 

「タ・・・・タクトさん、あまり気になさらない方がいいですよ」

 

それを見かねてちとせがタクトを慰める。

 

「そ・・・そうですよ・・・男としては寂しいても笑い的にはおいしいと思いますよ」

 

カナもさすがに悪かったと思い、一応フォローを入れたつもりだったのだが

 

 

グサァ!!!!

 

 

「・・・・ど・・・・どうせ俺なんて・・・・・・・ぶつぶつ・・・・・・・」

 

トドメを刺してしまったようだ。

 

「あ・・・・・・」

 

「やれやれ・・・・・カナも意外と天然なんだねぇ・・・さて、あたしはそういう話はあんまり興味がないんでね。ボトルシップの続きでも作りに行こうかね」

 

コーヒーを飲み終えたフォルテが席を外そうとすると

 

「え?でもフォルテさん、以前ラブレター貰っとりましたよね?」

 

カナが爆弾発言を発した。

 

 

 

 

「「「「「「ええ〜〜〜〜〜!?」」」」」」←何気に復活しているタクト

 

「・・・・・・・・・・・」

 

ほとんど全員が驚く中ヴァニラだけは静かにしている。もっともこれでも驚いてはいるのだろうが・・・・・・・

 

「ちょっ・・・・あたしは生まれてこの方、男からそんな物貰った覚えはないよ!!」

 

さりげなく寂しい一言である。

 

「・・・・・・・・あっ、良う考えたら貰ったんは向こうのフォルテさんやった!」

 

「なんだい・・・紛らわしいねえ・・・・・」

 

濡れ衣(?)が晴れてようやくホッとしたフォルテ。

 

一方

 

「ねえねえ!それ本当なの!?」

 

「詳しく教えなさいよ!!」

 

蘭花とミルフィーユは興味津々といった様子である。

 

「私も興味ありますわ!」

 

「あ・・・あの私も・・・・その・・・・・・・」

 

ミントとちとせも賛同している。

 

「そうですね〜〜、あたしも直接それを見た訳とちゃいますけど・・・確か内容は・・・・『奪い取った血まみれの宝箱より大好きなフォルテ様、』」

 

「「「「「「へ???」」」」」」

 

冒頭からしてすでにおかしい。

 

が、カナは周りが引いているのにも気づかずそのまま続ける。

 

「『あなたを初めて見たとき私の身体には命乞いをする帥祖のようにぶるぶると震えが走りました。そして、剣が首筋をかすめた時のようにどきどきし、殴り合いをした時のように頬があつくなりました。どうか私とつきあってください、つきあってくれないとサメの餌にしちゃうぞ』やったと思いますよ」

 

 

 

 

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

もはや言葉すら出てこないようだ。

 

これを読んだ大抵の人間は思うだろう「それは脅迫状だろ?」と・・・・・

 

一応最後にとか付けて可愛く書いているつもりなのだろうが、その程度ではそれまでのあまりに濃い文章を緩和するのは不可能だろう。

 

「・・・・・ねぇ・・・そんなのが本当に届いてきたの?」

 

蘭花が沈黙を破り、信じられないといった感じでカナに尋ねる。

 

「まぁ・・・それはほんまやと思いますよ。実際フォルテさん、呼び出された場所に行ったらしいですし」

 

「い・・・・行ったのかい!!?」

 

フォルテはその話を聞きながら、自分がそんなものを貰ったなら、まずイタズラの類だとはき捨ててわざわざ行ったりはしないだろうと考えていたので異世界とはいえ自分がそういう行動をとったのには驚いたようだ。

 

「はい、フォルテさんも半信半疑やったんですけど手紙といっしょにサメのヒレが同封されとりましたから・・・」

 

これは明らかに来なくてもサメの餌という事を暗示している。

 

もっともその時、フォルテ以外のエンジェル隊はフカヒレが手に入ったということで喜んでいた。

 

「で、フォルテさんが行ってみるとちょうど抗争中やったそうでほんまに血まみれの宝箱があって、帥祖がぶるぶる震えとって、斬り合いやら殴り合いしとったうえにサメの生簀まであったらしいですよ」

 

「じゃ・・・じゃあ本当にフォルテさんは海賊さんとつきあっちゃったの!?」

 

だんだん真実味がでてきたカナの話にミルフィーユは不安を覚えた。

 

「まぁ、状況が状況やったし・・・一応最初はフォルテさんもつきあう事にしたんですけど・・・・・」

 

「最初・・・とおっしゃいますと?」

 

歯切れの悪くなってきたカナにミントが疑問に思い追及する。

 

「実は・・・・その海賊に妙な甘え癖があったらしいて、耐えに耐えとったフォルテさんも『膝枕をさせてくれ』の一言でとうとうブチキレて・・・・・・・・」

 

 

 

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

ここまでくると全員が聞き入っている。

 

「我を失ったフォルテさんが手持ちの重火器と海賊船にあった武器を使いまくって海賊船まるまる制圧したそうですよ・・・・」

 

「かっこいい〜〜〜!フォルテさん!!」

 

「さすがお姉さま!」

 

「・・・・一騎当千・・・・・・」

 

天然2人組とヴァニラは論点の違う驚き方をしている。なにやら、ちとせが普段と違う呼び方をしていたような気がするが恐らく気のせいだろう・・・・・・・

 

「っていうかそれ、すごい昇格のきっかけになるんじゃない?」

 

「それもそうですわね・・・ましてや1人で海賊を鎮めたともなれば二階級特進もありえますわ」

 

ミントと蘭花はフォルテの昇格について素直に喜んでいるようだ。

 

「な・・・・なんかすごいというより無茶苦茶だねぇ・・・・・・」

 

フォルテは異世界の自分のとんでもない行動力について半ば呆れている、おそらく今この中で一番まともな思考をもっているのはフォルテだろう。

 

「まぁ・・・海賊沈めるだけやったら、ほんまに昇格しとったかもしれませんねぇ・・・・・」

 

思い出すようになにか含みのある言い方をする。

 

「その後、何かあったのかい?」

 

まるでおとぎ話を聞いている子供の様にタクトが食いつく。

 

「はい・・・・その後、我を失ったままのフォルテさんが海賊船使って軍本部に進撃しまして・・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

バタッ

 

もはや聞くに堪えなかったのかフォルテはカナの言葉に気を失ってしまった。

 

「キャーーー!!フォルテさんが倒れた!!!」

 

「タクトさん!肩のほう持ってくださいまし!!」

 

「フォルテ先輩!大丈夫ですか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後フォルテが目覚めたのは数十分後の医務室でのことである。

 

ちなみに向こうのフォルテは処遇は一応海賊を捕らえという事ですぐに釈放となったが、連帯責任ということでエンジェル隊全員の減給は避けられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

最初バレンタインネタでいこうと思って書いたつもりでしたが気がつけば全く別方向に進んでしまいました

 

それにしてもヴァニラがほとんどしゃべってませんね

 

やはり複数の人間を同時にしゃべらせるというのは難しいです

 

レスターに関してですが、あれだけしっかりして頭も良ければやっぱり学級委員くらいやっていてもおかしくないという

 

私の勝手な想像です