[異世界の住人]

 

 

七章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォルテが倒れた後、ケーラの「しばらく安静にしてればすぐ目が覚めるわ」の一言でとりあえずお茶会は解散することになった。

 

 

 

――――――――――――ブリッジ―――――――――――――――

 

 

やることがないので珍しくタクトがブリッジにいる。

 

「あ・・・あの・・・ク・・・クールダラス副指令・・・今日は・・・・何月何日でしたっけ・・・・・?」

 

顔を真っ赤に赤面させながらアルモがレスターにさりげなく(本人はそのつもり)聞いてみる。

 

「ん、214日だが・・・それがどうかしたか?」

 

レスターはアルモの明らかに動揺した様子に特に気に留めずこれといって無関心といった様子でアルモの質問に答える。

 

「あ・・・いえ・・・その・・・・・・なんでもありません」

 

レスターの『今日はただの平日だ』と言わんばかりの態度にアルモも黙ってしまった。

 

そんな親友の様子をタクトは『相変わらずだなぁ』という想いと同時に『うらやましいなぁ』という目でみていた。

 

「クールダラス副指令!まさかとは思いますが今日という日を分かってないんですか!?」

 

普段おとなしいはずのココも親友の困った様子を見て腹を立てているようだ。

 

だが

 

「祝日か何かを期待しているなら止めておけ、我々軍人にそんなものはない。その分補給時間はちゃんと休めているはずだぞ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

レスターのあまりに的外れな答えにココも気づかせるのは無理と判断し、アルモに続いてココも黙り込んでしまった。

 

「・・・・あぁ、のどが渇いたな〜〜、コーヒーでも買いに行こう!」

 

そんな空気に耐えられなくなったタクトは見事なまでにわざとらしく独り言を洩らす。

 

「おいタクト!たまに戻ってきたと思ったらまたか!?」

 

珍しくブリッジにいるかと思えばまたどこかにふらつこうとしている司令官にレスターが怒鳴る。

 

「いいだろ(半分はお前のせいなんだから)なんだったらお前の分のコーヒーも買ってきてやるからさ」

 

「・・・・・分かった・・・行って来い・・・」

 

レスターは半ば諦めたようにぐうたらの司令官に外出許可を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――廊下――――――――――

 

 

「ふぅ・・・やっと抜け出せた・・・・それにしてもあいつの場合あそこまで行くと硬派を通り越してただの堅物だなぁ・・・・・・」

 

やっと場のにがい空気から抜け出して一息つくタクト。

 

「あれ?どうしたんですかタクトさんため息なんてついて・・・」

 

「やぁミルフィー、それにヴァニラに・・・・・・・・・誰??

 

ミルフィーユの隣にはヴァニラと包帯男ならぬ包帯女が立っていた。

 

「・・・あたしですあたし・・・・カナです」

 

包帯女は自分の方を指差し、自分はカナだと主張する。

 

「えっ!?ど・・・・どうしたの格好・・・?」

 

普通なら多少包帯を巻いたところで気づきそうなものだが、あいにく包帯女(自称カナ)の今の姿は頭から顔、軍服の中にまで入って手首まで包帯が巻かれているため、せいぜい軍服から性別がわかる程度だ。

 

「まぁ、ちょっとしたトラブルに遭いまして」

 

痛々しい姿とは裏腹に包帯女は頬をぽりぽりとかいている。

 

「これはその・・・・あたしが悪いんです・・・」

 

突然ミルフィーユが気まずそうに謝罪の言葉をあげる。

 

「え・・・?どういうこと!?」

 

「へ?そうでしたっけ?」

 

当の本人である包帯女はミルフィーユの言葉に疑問を感じているようである。

 

「実は・・・・・・」

 

それとは別にミルフィーユは事の経緯を語りだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――数十分前――――――――――――――

 

 

『ヴァニラさ〜〜ん、ミルフィーユさんとこ行っていっしょにチョコ作りません?』

 

最初はカナがチョコ作りにヴァニラを誘ったのが事の始まりなんです。

 

このときカナはいつも以上に元気っていうか妙にニヤニヤしてました。きっとカナは実はすごいチョコ作りが楽しみだったんだと思います・・・・

 

それなのに・・・・・・

 

 

 

ヴァニラもカナもあたしの部屋でチョコを作ることになって

 

『あの〜〜、万が一のことがあった大変ですし念のため予備に2個作っときません?っちゅうか作りましょう!絶対作りましょう!!特にヴァニラさん辺り!!!』

 

『う・・・うん・・・・』

 

『は・・・はい・・・』

 

そのときのカナは、なていうかすごい気迫というか鬼気迫る感じでした。

 

それであたしが教えてみんな順調だったんですけど・・・・・

 

 

 

 

ガタガタ    ガタガタ

 

急にチョコを煮詰めてた鍋が尋常じゃないくらい沸騰したんです。それで・・・・・

 

ボンッ!!

 

爆発した勢いで鍋がカナに向かって跳んじゃって・・・・・

 

『わ〜い、あったかそう・・・・・・』←何かを覚悟したような目

 

 

 

 

バシャッ!

 

『熱ーーーーーーっ!!!しかもねっとりしてるせいで熱いんが離れへーーーーん!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――現在―――――――――――

 

 

「そ・・・・それでその姿なんだ・・・・・・・」

 

タクトの目にはまるで核戦争から生き延びた被爆者を見るような哀れみが込められていた。

 

「まぁ、痛み止め塗ったんでこの通り!」

 

ほとんど全身包帯姿で「この通り!」と言われても説得力は皆無だろう・・・・・・・

 

「それよりフォルテさんも目ぇ覚めたみたいですし、もういっぺんティーラウンジ行ってバレンタインパーティーしません?」

 

「いいけど・・・そのケガで大丈夫なのかい?」

 

「問題ありませんからちゃっちゃとやりましょう!」

 

「・・・・なんか急いでない?」

 

「いえいえいえ!」

 

そう言いつつもタクトの背中を押している。それも妙にニヤニヤして。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――ティーラウンジ―――――――――――――

 

 

こうして再びエンジェル隊+タクト+カナの合計8人が集まった。

 

「今更なんだけどなんでバレンタインデーパーティーで男が俺だけなの?」

 

「それは私たちがチョコをあげる男性といったらタクトさんくらいしかいませんから。それにレスターさんにあげたりしたらアルモさんあたりが発狂しかねませんから」

 

タクトの今のメンツに対する疑問にミントが答える。

 

「え?それって消去法で俺になったってこと?」

 

「本来なら1個も貰えないあんたがこれだけの人数に貰えるんだから感謝しなさい!」

 

トゲのある言葉でタクトを責めながらも蘭花はチョコをタクトに手渡す。

 

「わぁ!ありがとう!」

 

「いっ・・・・・いい!?それは義理も義理!超ド義理なんだからね!!?」

 

何度も義理と言いつつもそこはかとなく顔が赤くなっている。

 

「ううっ・・・・・・そこまで言わなくても・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

そんな二人のやりとりをカナは複雑そうな表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というのも正直な話、今までカナは蘭花の恋愛沙汰に巻き込まれてろくな事があった試しがない。

 

もちろん最初はちゃんと蘭花の相談に乗っていたのだが、すぐに「この人の恋愛に関わるとろくな事がない」と悟る羽目になった。

 

そのためいくら別世界とはいえ自分にまた不幸が降りかからないか心配だった。

 

要訳すると「(へぇ、蘭花さんタクトさんに惚れてんねや・・・・・・・・っは!でも今まで蘭花さんの恋愛沙汰に巻き込まれて一度もろくな目にあった試しないしなぁ・・・・蘭花さん恋愛がからむとミルフィーユさん並の凶運発揮するし・・・・いやいやこの蘭花さんは別世界の住人なんやから心配する必要ないかな・・・・・でもなぁ、世界は違えどやっぱし蘭花さんやしなぁ・・・・)」という心境だった。

 

話が逸れてしまったが、タクトはチョコが包まれた袋を開け、チョコを口に運ぶ。

 

 

 

「・・・・・・・・・かっ・・・・辛い〜〜〜〜〜!!!!!!!」

 

チョコを食べて辛いと言う人間もそうはいないだろう。

 

「ら・・・蘭花・・・・・・あれってチョコだよね・・・・・・」

 

ミルフィーユはタクトのリアクションを見てそれがチョコであること自体、疑わしくなってきた。

 

「そうよ!通常のチョコレートに隠し味として唐辛子100個分を凝縮した自信作なんだから!」

 

蘭花は誇らしげに語っているが唐辛子100個分という時点で少なくとも“隠し味”ではなくなっているだろう。

 

「あらあらタクトさん、そういう時は甘いものを摂取すると辛味が中和されますわ」

 

そんな様子を見かねたミントが自分のチョコをタクトに手渡す。

 

 

 

「あ・・・・・ありがと・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・甘っ!!!!

 

「ふふふっ、いかがですか?砂糖を1兆1億個分の味が楽しめる私の試作段階の調味料の不可思議かつハーモニーな味わいのほどは」

 

蘭花同様、ミントもまた誇らしげに語っている。

 

ある意味不可思議かもしれないがハーモニーというのはミントにとってだけだろう。

 

「あぁ、辛くて甘かった・・・・・・・・・・・・あれ、カナは?」

 

凄まじいまでの辛さと甘さを水で洗い流して来ると、カナがいつの間にかいない事にタクトが気がついた。

 

「・・・カナさんなら先程、私の予備のチョコを持ってどこかに行きましたが・・・・」

 

タクトの疑問にヴァニラが答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――作業ルーム(男子専用)―――――――――――――

 

 

「皆さ〜〜ん!お仕事中悪いですけど注目〜〜!!」

 

そこにはいつの間にか包帯も取れ、はっぴにハチマキ、手にハリセンというまるでお祭りの客寄せのような姿をしたカナが大声で叫んでいた。

 

「ここにあります一つのチョコ!ただのチョコとちゃいますよ!!なんとヴァニラさんの手作りチョコレート〜〜!!!」

 

「何〜〜〜〜〜〜!!?」

 

言うまでもなくこの場にいるのは全員“ヴァニラちゃん親衛隊”のメンバーである。

 

「このヴァニラさん特製のチョコ!欲しいですか!!?」

 

「おぉ〜〜〜〜〜!!!」

 

もはや何かの宗教もしくはアイドルか何かのライブのような光景になってきた。

 

「ただし!ここにあるんは1個だけ!!っちゅう訳でオークション形式にさせていただきま〜〜す!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ヴァニラのチョコを手に入れた親衛隊の一員の1人は他の親衛隊にタコ殴りにされた挙句そのチョコは栄養重視でほとんどチョコの味はしなかったという。

 

 

 

 

結局、そのチョコが誰に渡ったのかは誰も知らない・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

・・・・・・何このオチ?

 

 このオチはこの作品を思いついた時から考えていたのですが、改めて読んでみると・・・・変ですねぇ・・・

 

一応、一瞬蘭花とアルモ辺りにバレンタインデーっぽい雰囲気を出させてはみたもののやはりすぐにコメディに戻ってしまいます

 

親衛隊久しぶりの出番もあまり活躍してないような ・・・