異世界の住人
八章
―――――――――司令官室前――――――――――
「タクトさ〜〜ん、紋章機の調整報告書持ってきたんで開けてもらいます〜?」
今まで働くシーンは一切カットされてきたが、カナは一応整備班としてエルシオールで働いている。
※「異世界の住人」四章参照
そのための報告書を持ってきたのだが、タクトの返事は一向に返ってこない。
「あれ?フォルテさんから司令官室におるって聞いててんけどなぁ・・・」
と、そのとき司令官室の自動ドアが開いた。
「なんや、ロックしてなかったんや」
司令官としては無用心だがウォルコット中佐もよく自室のロックを掛け忘れていたので正直いって慣れている。
「・・・・Zzzz・・・・・」
「寝てるし・・・タクトさん!早よ報告書にハンコ押してくれんと“ペンタの神様”に間に合えへんのですけど・・・・」
上官の安眠を妨害するにはあまりにも個人的な抗議をしながらタクトの肩を揺らす。
「・・・・う〜〜ん・・・・・」
「あたしビデオデッキとか気の利いたもん持ってないんですから、お願いしますよて!」
「ミルフィー、それに触っちゃダメだ!」
どんな夢を見ているのか寝ぼけたタクトが急にカナにもたれかかり、それが結果としてカナを押し倒す形となってしまった。
「ちょっ・・・・タクトさん!?」
本来ならここで「あっ、ごめん・・・・・・・」「いえ、あたしの方こそ・・・・・・・」とか言ってお互い赤面しながらその状態のまま目をそらしたり、見つめ合ったりして「ドキドキ」とか効果音が流れたりするのだろうが・・・・・・・まるで前世から不幸と親友だったのではないかという程のこの凶運娘にそんな展開が訪れえる訳がない。
それは今までの事例が証明しているし、何よりこれはギャグ小説だ。
ガコッ!!!
「うぎゃっ!!」
案の定というべきか倒れたと同時に思い切り後頭部を床に打ち、打ち所が悪かったのか目をつぶらずに白目をむいたままそこはかとなく床がうっすら赤くなっている。
「ん?う〜〜ん・・・・なっ!!?なんでこんな所にカナが!?・・・・・・って血!!?」
突然の出来事にやや混乱気味のタクトだが言うまでもなく今のカナとタクトの体勢は人に見られるとあまり良い印象を与えるとは言えない体勢になっている。
そしてこういう時に限って・・・・・・
「カナさ〜〜ん、報告書まだですか〜〜?」
「「あっ・・・・・・・・・」」
人に見られたりする。
お互い何とも言えない気まずい空気が続くこと数十秒間。
「あ、あの〜・・・・・・クレータ班長・・・いや、きっと言いたいことは山のようにあるかも知れないけど、とりあえず落ち着いて話を聞いてほしい」
ようやく重い口を開いたタクトだったが、
「きっ・・・・・・・・・」
たっぷりと息を吸い静かな第一声がポツリと出る。これは推理番組などで第一発見者が大声で叫ぶ前兆だ。
「きゃ・・・・・キャーーーー!!みんなーーー大スクープよーーーーーーー♪」
「うわぁーーーーーー!!待ってくれーーーーーーーー!!!」
噂を流す気満々のクレータをタクトが止めよとするが、タクトが普段運動をしていないのに加えその時のクレータの足の速さが常軌を逸していたのが重なりクレータを止めることができなかった。
「ど・・・・どうしよ・・・・・」
「ん〜〜・・・・なんか刑事ドラマとかで被害者役が後ろから灰皿で殴られたみたいにズキズキする・・・・」
↑気絶していたので何が起きたか分かってない
後頭部の銀髪をうっすら赤くしながら妙に具体的な表現をするところを見ると意外に大丈夫らしい。
「無事かいカナ!?目覚めてすぐにこんなこと言うのも気が引けるんだけど実は・・・・・」
事の重大さをカナに説明しようとするタクトだったが
「あーーーー!!!もう“ペンタの神様”始まってる!!タクトさんその書類にハンコ押しといてくださいよ!?それじゃあ!!」
タクトが起きている事と“ペンタの神様”が始まっていることを確認するとカナは見向きもせずに一目散に走り去って行った。
翌日
「はぁ・・・昨日はえらい目にあった・・・クレータ班長、きっとあのあと整備班の娘たちにあることないこと言いふらしたんだろうなぁ・・・・」
そもそもタクト自身居眠りをしていたため、なぜ自分たちがあんな体勢になったか分からない。
そんな事を考えていると
「あ、マイヤーズ司令おはようございます」
「ココ?珍しいね、こんな所で会うなんて。今日はアルモと一緒じゃないのかい?」
オペレータであるアルモやココとは正直な話ブリッジでしか会話した記憶ほとんどがない。
もちろん四六時中いるわけではないのだろうが、見回り(サボり)をしている時はほとんど会っていない。
「ええ、ついさっきまで食堂にいましたから。アルモはまだ整備班の人たちと話がはずんでるようです」
「へ〜、そうなんだ(・・・ん?整備班?)」
「それにしても・・・・・」
「え?」
「司令もスミにおけませんねぇ♡」
「スミにおけない?いったい何の話だい?」
「ご存知ないんですか?エルシオール中の噂になってますよ『マイヤーズ司令がカナさんを押し倒してた』って・・・・・」
「ええっ!!また妙な形で噂が広がってるなぁ・・・・・まぁ『タクト・マイヤーズ、あわや殺人未遂!?』なんて噂にならなくて良かったけど・・・・・」
「―――――――で?」
「え?」
「いつからそういうご関係に?」
「違ーーーーーーーーーーーーーーう!!!!」
――――――――ティーラウンジ―――――――――――
「あぁ、鼻がムズムズする・・・・空調システムの故障なんやろか?昨日はえらい冷えたなぁ・・・・・」
「おはようございます、カナさん」
カナがティーラウンジに行ってみるとそこにいたのはミントとフォルテの二人だけだった。
「おはようございます・・・・・・・・・ふぇ・・・・っくしゅんっ!!」
「あらあら、あまり感心できませんわよ?やはりカナさんも年頃の娘なのですからもう少しくしゃみは控え目にされた方が・・・・・・・・・」
「・・・・・・くちゅっ!」
「そうそう、そのように・・・・・・・・・」
今この場にいるのはフォルテ、ミント、カナの3名のみ。
カナは先程くしゃみをしたばかり、ミントはしゃべっている最中だった、ということは必然的に今の可愛らしいくしゃみをしたのは・・・・・・
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「な・・・何の話やったでしょうか?」
「た・・・確か最近空調システムの故障がエルシオール全土に広がっているので風邪にはお気をつけください・・・というお話でしたわ」
「おほほほほほほほ・・・・・・・」「あははははは・・・・・・・」
二人と気を使っているのだろう、笑い声がぎこちない。
単に聞かなかったことにしようとしているように見えなくもないが・・・・
「・・・・・何かあれやこれや言われるのも嫌だけど、妙に気を使われるのも居心地悪いねえ・・・・」
「まぁ、気を使っているといいましょうか・・・・・・・」
「どう対応したえらええ分からへんっちゅうか・・・・・・・・」
正直くしゃみひとつでここまで気まずい空気になるというのも珍しいだろう。
「そういえばカナさん、お話は変わりますが今朝の噂は・・・・・・・」
「噂?」
と、その時
『ただ今本艦は無事白き月に到着いたしました。エンジェル隊はブリッジに集合してください』
その艦内放送により会話は一時中断した。
「やれやれ、やっと着いたみたいだねぇ・・・・」
「白き月??」
「まぁ説明は後でするとして、あんたも来なよ」
―――――――白き月・謁見の間―――――――――――
今回エルシオールが白き月に来た目的は今まで回収してきたロストテクノロジーをより詳しく解析するために白き月の設備を使わせてもらおうというものだった。
「お久しぶりですね、みなさん」
「お久しぶりですシャトヤーン様」
「様づけ?なんで天下のフォルテさんがこんな色白の・・・・・」
ガバッ!!!
自分たちが崇拝に近い気持ちを抱いている“月の聖母”に向かってとんでもない失言を発しようとするカナの口をエンジェル隊全員がいっせいに押さえる。
「・・・はんはんへふは!?ほほひはははふへはひひーふはーふは!!?(何なんですか!?この今だかつてないチームワークは!!?)」
「ほほほほ・・・何でもありませんのでシャトヤーン様はお気になさらずに・・・・」
「え?はぁ・・・」
「見かけぬ顔だな、誰だお前は?」
そこでようやくエンジェル隊は手を離した。
「ぷは〜〜〜!カ・・・・カナ・アルフォートいいます(誰やろ?この偉そうな子・・・)」
「こちらの方はシヴァ・トランスバール女王陛下、トランスバール皇国の最高責任者ですわ。そしてシヴァ陛下、こちらはカナ・アルフォート曹長、異世界でエンジェル隊を勤めているそうです」
「(うわぁ・・・めっちゃお偉いさんやん!?・・・しかも女の子やったんや・・・・・)」
カナの心の中を読んだミントはまたシャトヤーンの時の様な失言をさせないため、いち早くお互いの紹介を済ませた。
「へ〜、異世界ねぇ・・・・」
“異世界”という言葉が気になったのかノアがカナに近づいてくる。
「異世界でってどういう事?詳しく説明しなさい」
「は、はぁ・・・・・まぁいろいろありまして―――――――――」
「なるほどねぇ・・・・興味深いわ!」
「は?」
「今すぐ来なさい!ブラックホールに吸い込まれて生きていられる人間、はたまたそれは本当にブラックホールだったのか、本当にブラックホールだったとして何故生きていられるのか、生きているとしてもブラックホールによって身体にどんな影響があるのかetc・・・とにかく調べたい事が山積みだわ!!拒否権ないからさっさと来なさい!!!」
ズルズル・・・・・
「来なさい」という誘いの言葉を持ちかけておきながらカナの腕を掴み、どこかへと引きずって行く。
「あの〜、ちなみに痛いんとかなしですよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あぁ、ないない」
手をぱたぱたと振りながら否定する彼女の目はどことなく泳いでいるようにも見える。
「何ですか今の間は!!?目に全然説得力ないんですけど!!!」
「ごちゃごちゃうるさいわね!研究に犠牲はつきものなのよ!!」
「勝手に犠牲にせんといてくださいよ!!何が悲しいてそんな知的好奇心の犠牲にならなあかんのですか!!?」
「はいはい、どうせあんたに拒否権なんてないんだから」
「ノア、あまり手荒なことは・・・・」
「分かってるって、殺しゃしないわよ」
そんなあまりに弱いシャトヤーンの制止を聞き流しながらとうとうカナは研究室まで引きずられる。
しばらくお待ちください。
ここから先は主人公が拷問(?)されているので、そういうのがお嫌いな方はそのままスルーして下さい。
それでも良い方(どうせ大した内容ではありませんが)はドラッグ(左クリックを押したまま下へ)でご覧下さい。
「熱ーーーーーーーーー!!!」
「これくらい我慢しなさい!」
「いや!それほんま無理!!絶対無理!!!」
「最初から無理なんて決め付けてんじゃないわよ!」
「いや、そんな良い事言いながらやるような仕打ちとちゃいますからこれ!!!」
「いやーーーー!!いっそ殺してーーーーーーーーーーーー!!!」
「もうすぐ終わる言ってるでしょ!」
――――――――数十分後――――――――――――
「ふうっ、久しぶりに知的好奇心が満たされたわ♪」
研究室から出てきたノアの顔はまるでスポーツ後の爽やか好青年の様な満足げな笑みを浮かべていた。
「たっ、ただい・・・・まっ・・・・」
バタッ!
それとは対照的にこっちはまるで2次会で調子に乗って飲みすぎて一度吐いたにも関わらず3次、4次、とぶっ通しで飲み続けた挙句友達に家まで送られてベッドにバタンキューみたいな顔をしている。
「カナ大丈夫!?顔真っ青だよ!?」
「・・・・心なしか少し見ない間におやせになりました・・・?」
「せっ・・・世界が・・・回る〜〜〜・・・・・・・・・」
―――――――――ティーラウンジ(白き月)―――――――――――――――
その後ミントの「お茶でも飲んで落ち着かれてはどうでしょう?」という意見のもとカナとエンジェル隊はみんなでお茶をすることになった。
「どう?少しは落ち着いた?」
「な・・・・なんとか・・・・・」
「・・・あの、いったい何があったのですか?」
少しは落ち着きを取り戻したものの先程までどう見ても尋常ではなかったカナにちとせが質問する。
ガタガタガタガタガタガタ・・・・・
「何がって・・・・・そりゃ・・・・・・・そりゃもう・・・・・・何っちゅうか・・・・・」
ちとせの質問に先程の光景がフラッシュバックしたのか口ごもりながらガタガタ震えだした。
「い・・・いえ、聞かなかったことにしてください・・・・・」
「――――で、話は戻るんだけどさ・・・あんたホントに今朝の噂聞いてないのかい?」
そんな気まずい空気の中、フォルテが気になっていた事を口にする。
「あの噂・・・・?あっ!この白き月に来る前にゆうてた話ですね?」
「そうそう・・・まぁ、あんたの様子を見た限りじゃ本当に知らないみたいだから言っとくけど・・・・・ってこれ言っていいのかねえ・・・・・・」
「???」
正直、最初は内容が内容だけにからかおうと思っていたのだが、こうまで「全く知りません」という様な態度をとられては多少なりとも質問するには気がとがめるようだ。
「あんた・・・・・タクト押し倒されたんだって・・・・・?」
「・・・・・・・はい??」
「やっぱり知らなかったか・・・・・」
ここまできたら今更話さない訳にはいかない、フォルテは頭を抱えながら「あちゃ〜〜やっちまった」と後悔した。
「いやいやいや・・・・・誰が誰に何されましたって・・・??」
「いや、だからさ・・・あんたがタクトに押し倒されたって噂が何故か流れちまってるんだよ・・・・それも情報源は“近所のおばちゃん並に噂を広げるのが好き”な整備班・・・・・」
「は・・・・はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜????」
あとがき
なぜに今回ちょっとラブコメ風(自分で書いといて)?
恋愛系って読むのは好きなのですが書くのって結構なぜか妙な抵抗があったりします。
ちなみに今回また隠し文字を作ってみました、多少残虐的(そうでもないかな・・・?)なので構わない方のみご覧ください。
白き月陣のファンの皆様、シヴァやシャトヤーンの出番が少なくてすみません・・・・あっ、ルフトも出てない!!