ここは展望公園、気晴らしに散歩していたカナだがそこで昼寝をしていたタクトと遭遇し、お互いやる事もないのでしばらく話し込むことになった。


「そういえばさ、カナってホントよくたこ焼き食べてるよね」

「あの外のパリパリ感と中のちょうどええ大きさのタコは食堂のおばちゃんしか作れませんよね〜」

「分かる分かる!食堂のおばちゃんの料理は何でも絶品だよね」

「あははっ、なんか食べ物の話しよる時のタクトさんてほんまええ顔しますよね?なんちゅうか幸せそうちゅうか」

「そ・・・そうかな・・・?」

カナの何気ない一言に薄くタクトの顔が赤くなる。

「ほんまですよ?タクトさんの笑顔見てると・・・・・・あたしまで幸せな気分になり・・・ますから・・・・」

目をそらしながら語るカナの頬もわずかながら赤らめているようだ。

「・・・・・・あっ・・・あのさ、そろそろお昼だし食堂に行かない・・・?」

恥ずかしさを誤魔化すためなのか不自然なほど急に話題を変える。

「そ・・・そうですね」

こっちはこっちで話題を変えるにはちょうどいい機会だったらしい。








「おばちゃ〜〜ん、あたしオムライスひとつ!」

「へえ、カナでもそういうの頼むんだ?」

「・・・あたしかて年がら年中うどんとたこ焼きばっかし頼んでる訳ちゃうんですから・・・・」

タクトのさりげない感想にカナは不満そうに頬を膨らませる。

「あはは、ごめんごめん」

そんなカナの様子を「かわいいなぁ」と思いつつ笑ってごまかす。






「「いっただきま〜〜す」」

「わぁ、タクトさんのチャーハンもおいしそうですね?」

チラっと横目でタクトのチャーハンを見るとタクトがそれを必要以上においしそうに食べているので余計にうらやましくなった。

「よかったら一口どうだい?」

「ええんですか?」

確かに欲しかったのだがこうも素直に渡されると気がとがめないでもない。

「もちろん!カナが喜んでくれるならそれが一番だよ」

かぁぁぁっ

カナの顔が今までにない程に赤くなっていく。

「よ・・・ようそんな恥ずかしいセリフを素面で言えますね・・・・・・」

そう言って自分のオムライスに手をつけながら顔をそらす。

「・・・・・あの、タクトさん・・・・・」

「え?」





「あたし・・・・・・・・好きですから・・・・・・・・・・タクトさんのこと・・・・・・・・・」

「うん、俺もだよ」

















―――――――――以上全てカナの被害(?)妄想。






「嫌やーーーー!!このまま成り行きに任せとったらツッコミはおろかボケすらない上の序文みたいな何っっの面白みのない恋愛キャラに!!?そんなん嫌やーーーーーー!!!」








 

異世界の住人


九章








「は??何がどうしたんだい!!?いいから落ち着きなってカナ!!!」

例の噂をカナに話し、それを聞いたカナが「そういや、この手の展開でカップル成立した漫画ってどっかで読んだような・・・・・っちゅうことは・・・・・・・」と何やら考えにふけり出したかと思うと急に暴れだしたのでフォルテが急いでそれをなだめる。

「あ・・・・あかん!もしあたしが恋愛キャラに成り下がって元の世界に帰ったりしたら・・・・・・・




浮く!!絶対浮く!!!

「まぁ、あんたの脳内でどんなシチュエーションが繰り広げられてたかは知らないけど・・・・・とりあえず落ち着きなさいよ」

蘭花もカナほどではないが、恋愛映画を見た後などたまに「もし自分があの映画のヒロインだったら・・・」と妄想したりする経験があるので急に暴れだしたカナを見て「あぁ、これはきっと何かこの娘の頭の中で妙なシチュエーションが出来上がっちゃったんだなぁ・・・」と察してなだめるフォルテの手伝いをする。

「・・・・・ぜい・・・ぜい・・・・・そ、それ大変やないですか!!っちゅうか、なんでそんな噂話が!!?」

「分かりません。ただ、今朝みなさんと食堂に行った時には既に噂が広まっていたのですが、主に整備班の方たちを中心に噂が広まっていた様子でしたので恐らく整備班がその出所かと」

ヴァニラはもしもの時のために精神安定剤の用意をしながらカナの質問に的確に答える。

「このエルシオールはいくら広いと言っても所詮は艦のなかですから・・・・・噂の類が一度広まり出せば並のコンピューターウイルスなんかよりもよっぽど早く噂は蔓延しますわ。早めに対処しておかなければ噂が噂を呼んで今よりも状況がひどくなるのは必至ですわよ?」

以前、ハムスターの着ぐるみを着て夜な夜な艦内を徘徊している所を目撃され、結果「大福のおばけが出る」という噂が猛スピードで広がった事を思い出しながら経験者としてカナに警告を促す。

「と・・・とりあえずタクトさんになんでこんなんが起きたか聞いとかな!!」

「まあまあ、落ち着いてくださいまし。それよりも私にこの状況を一気に打破する名案があるのですが」

「ほ、ほんまですか!?」

「ええ、もちろん協力してくれますわよね?ミルフィーさん、蘭花さん」
















――――――――――白き月・売店付近――――――――――――――


「あのさ、今更だけど本っっ当必要なの!?やらなきゃいけないの!!?」

『ええ、フリだけで結構なのでガーーっとやっちゃってくださいませ』

ちなみに今人前に出ているのはミルフィーと蘭花だけで、他のエンジェル隊はカゲから見守りながらクロノクリスタルで会話している。

「フリだけに決まってんじゃないのよ!!!」

「あ・・・・あたしも・・・・こんな人前でやるのはちょっと・・・・あっ、人前じゃなかたら良いって訳じゃなくて・・・・・」

この二人がここまで嫌がっているその理由、それはミントの“噂防止対策”の内容にあった。










―――――――――――数十分前――――――――――――

「そもそも人が噂を広めるのはその噂の内容が話題性に富んでいるからですわ。カナさんのエルシオールへの到来は以前のルシャーティさんとヴァインさん以来のニュースでしたから、そんなカナさんが司令官であるタクトさんとよろしく(誇張表現)していたとあらば当然みなさん面白がって噂を広めることは自明の理と考えて然るべきかと」

「え〜〜と・・・・どういう意味??」

「つまり噂は面白ければ面白いほど広がりやすいということですミルフィー先輩」

ミントの説明では今ひとつ理解できないミルフィーにちとせができるだけ簡潔に説明する。

「その通り、そこでその噂を止めるにはどうすればいいか?簡単ですわ、要はより話題性に富んだ・・・つまり更に面白い噂を流してしまえば良いのです」

「そうは言ってもねぇ・・・・難しいんじゃないかい?恋愛系の噂は結構根強いから」

「うふふっ、ちゃんとその辺も考慮しておりますわ。そ・こ・で♪ミルフィーさんと蘭花さんには公衆の場で熱〜い抱擁を交わした後で熱〜い接吻など交わしていただければ・・・・・・・」



シ――――――――――――ン・・・・・・・・・・・・・・・



ミントの無邪気な笑顔から発せられたとんでもない爆弾発言に一同は言葉を失った。っていうか凍った。



「きゅ〜・・・・・」

「きゃ〜〜っ!ちとせが倒れました!!」

どうやら数十秒遅れでミントの言葉を理解したちとせには刺激が強すぎたらしく、時間差でショックを受けたらしい。

「・・・・・顔から耳にかけて異常なほど発熱しています・・・・・・」

「うわっ!なんか冬場のせいなのか、ちとせの顔から大量の湯気みたいなのが!!」



「とっ・・・ととと・・・・・・突然何を言い出すのよあんたは!!?」

「あら?私何かおかしな事でも言いましたかしら?」

「え〜〜と・・・・おかしいっていうか変っていうか・・・・・・・なんか日常会話には決してあっちゃいけないようなセリフが聞こえてきたような・・・・・・」

当然、ミルフィーも蘭花もミントのとんでもない提案に猛抗議する。

「分かっていますわ、私としても本来ならタクトさんと副指令の絡みの方が見てみたいですわ・・・・・・・ですが、さすがに噂の当人であるタクトさんにそんな事を頼む訳にはいきませんもの!」

ハンカチを持って「ううっ」と泣き崩れながら(ウソ泣き)反論になっているのかいないのか微妙な事を言い出す。

「ってかさ、それって結局は噂の対象がカナからミルフィーと蘭花に変わるだけなんじゃないのかい?」

「な、何をおっしゃいますやら・・・・仮にも司令官であるタクトさんに妙な噂が立つのはエルシオール存続の危機ともいえますわ。それに引き換えミルフィーさんと蘭花さんなら噂が塗り替えられた頃合を見計らって『劇の練習でした』とでも言えば万事OKですし、何より女性同士という事で冗談としても納得されやすいというものですわ・・・・・・おほっ、おほほほ・・・・・・」

一応言い訳としては理に適ってはいるが、目が泳ぎながら思い切り乾いた笑いをする姿に説得力は求められない。













――――――――――現在――――――――――――――


『さあ、エルシオール存続のためですわ!321・キュー!!』

ちなみにミルフィーと蘭花以外のエンジェル隊は物陰からひっそり見守りながらクロノクリスタルによって会話している

「あぁもう!!やればいいんでしょ!?やれば!!?『み・・・みるふぃー、じつはあたしあんたのことがすきだったのよ〜〜』」←メッチャ棒読み

「『ほんとう!?あたしもじつはらんふぁのことがすきだったの〜〜』」←同じく棒読み





―――――――――物陰―――――――――――――


「いけませんわね〜・・・・・あれでは女優への道はまだまだですわ」

「そ、そうなのですか!?私などもう見ているだけでドキドキしてしまっているというのに・・・・・・・」

「ってか、いつの間にそんな話になったんだい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

彼女たちは気づいていない、二人の演技(?)を見てカナがやたらとウズウズしていることに・・・・・・・





――――――――――白き月・売店付近――――――――――――――


「『うれしい〜〜あいしてるわ、みるふぃー』」

「『あたしもだよ、らんふぁ〜〜』」

そうして二人が髪で顔を隠しながらキスのフリをしようとしたそのとき――――・・・・・・・・



「甘〜〜〜い!!甘過ぎますよミルフィーさん、蘭花さん。VTR再現とかで患者の重要な病気を必ず『あ、風邪ですね』とかゆうて後で絶対その人えらい目に合わす医者くらい甘いですよ〜〜〜〜〜!!!」



「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」









―――――――――ティーラウンジ(白き月)―――――――――――――――


「・・・・・・結局コントだと思われてしまいましたわね・・・・・・」

「すみません・・・・・・いっぺんやってみたかったんですアレ・・・・・・・なんか身体が無意識のうちに・・・・・・・・」

「それで、どうします?このままではその・・・・あの・・・・」

人知れずタクトに惚れている身としては正直不安を抱えならちとせはカナに訪ねる。

「あぁ・・・グッバイ、マイツッコミ人生・・・・・・(いや、ちょっと待てよ。恋愛キャラとまではいかんでも・・・・・




『ポヨヨ〜〜ン!』                                『う〜〜ん、夫婦愛



夫婦漫才!!?)」




「よし!その路線で
!!」

「・・・・・どの路線よ?」









――――――――――一その頃タクト――――――――――――――


ロストテクノロジーの解析に思いの外、手間取りそうなためエルシオールは2・3日“白き月”に滞在する事になった。

「あぁ・・・せめて噂が“白き月”に蔓延するのだけはさけなくちゃなぁ・・・・」

今更だがタクトは独り言が多い、主人公という立場上仕方ないのかもしれないし、状況が状況だけにぼやきたくなるのも無理はないだろう。

しかしまぁ、独り言というのは誰にも聞こえてないと思っている時に限って誰かに聞かれたりするものである。

「残念ながら、その噂なら私も聞いている」

「しっ・・・・・しししっ・・・シヴァ陛下!!?」

運の悪い事にその場にはシヴァどころかルフト、シャトヤーン、ノアという面々が勢揃いしていた。











――――――――――一更にエンジェル隊――――――――――――――


「あのさ、今更なんだけど・・・・・・・・・・」

ちょうどコーヒーを一飲み終えたフォルテがみんなの今までの苦労を水の泡にしかねない発言をするべきかどうか迷っている。

「何かとっておきの策がございますの!?」

「遠慮しないで言ってください!あたし嫌ですよ、これ以上ミントのおもちゃになるの!!」

「先輩の策ならきっと上手くいくはずです!!」

さすがのフォルテも後輩の熱意に押され「まぁ、これで騒ぎが収まるなら良いか・・・・」と考えを改め少し気まずそうに口を開く。

「いや、策も何も・・・・・・・・司令官室の監視カメラに真相が全部映ってるんじゃないかと思うんだけど・・・・・・」





「「「「「・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・・・・・・・」」」」」」






さっそくエンジェル隊一行は監視カメラのチェックのためエルシオールへと向かうことにした。


「それにしてもカナは何があったか覚えてないの?」

「う〜〜ん・・・・・・タクトさんとこに資料持ってったまでは覚えてますけど、どうもその前後の記憶があいまいで・・・・・」

などと話しながら一行がエルシオールに向かう道中、何やら見覚えのあるお偉方と噂の当事者の片割れが白き月のある広場にて話をしているのが見えた。

いや、話というよりはむしろ一方的にタクトがお偉方にお叱りを受けている様子だった。






「いや、ですから今回の噂に関しては俺も何が何やら・・・・・・・・」

「いくら女好きとはいえ客人に手をかけるとは・・・・・・・」

「いや、若いうちは仕方ないかもしれんが・・・・司令官として信頼を損ねるような噂が流れるのはどうじゃろうなぁ・・・・・・」

「あのね、あれはあたしの研究体なのよ!それが済んだらどうとでもして良いから、それまでは無茶しないでよね?」

「マイヤーズ司令・・・・貴方の女性関係に口出しするつもりはないのですが、いくらなんでも無理矢理というのは・・・・・・・」



どうやら噂がどんどん曲解して伝わっているらしい、ノアに至っては相当勝手なことを言っている。



そして一方的に責められているタクト・マイヤーズを物陰から隠れ見ている彼の部下であるエンジェル隊やカナ達は上官を助けることもなく見解は一致した「面白そうだし、助けるのは後で良いや・・・・」と――――――・・・・・・・・・







その後エンジェル隊は監視カメラの映像を元に見事真相を解き明かしたし、タクトは普段滅多に見ることのできないであろうお偉方の平謝りを見ることができたそうな。















〜〜〜〜〜〜〜〜おまけ〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「言い忘れていたが、実は明日EDENとトランスバールとの親睦を深めるためにトランスバール本星で舞踏会が行われるのだ。今回に至ってはエンジェル隊はもちろんの事エルシオールのクルー全員に参加してもらうことになっている。そこでアルフォートよ、そなたも参加してはどうだ?」

「えっ!?それだけですか!!?」

「どういう意味だ?」

「オチは?」

「・・・・・・・・・黙れ」











あとがき


と、言う訳で今回は珍しくオチ無しです。

おまけでも言っていたように次回は舞踏会編ですので乞うご期待・・・・・・・・・・してもらえると嬉しいです。

もちろん、EDENとトランスバールとの親睦を深めるための舞踏会ですから当然あの姉弟(?)も登場してきます。

ルフトの出番も結局これといって思いつかなっかのでラストで無理矢理登場させてみました。