今、トランスバール本星にはかつてない程に多くの人達がにぎわっている。

それもそのはず、ただでさえトランスバール皇国の首星なのに加え、EDENの人々、更にはEDEN人を一目見ようとする者、舞踏会を楽しもうとする者、など一つの星に各々の思いをつのらせ各星系から人が集まっているのだから。












異世界の住人

十章












――――――――舞踏会場――――――――――――


この場にはかつて伝説とまで謳われたEDENの民が大勢来場している。

そして今回はエンジェル隊に限らずエルシオールの乗組員全員にタダでドレスが支給されている。

この事にはエンジェル隊はもちろんほとんどの者(レスターを除く)が喜びをかみ締めていた。

だが、いつの世も『度にしがたしは人の好き嫌い』と言おうか、レスターの様にそういうのが性に合わないという理由から素直に喜べない人間がいるのもまた事実である。

そして彼女もそんな人間の内の一人だった。

「あの〜〜・・・・・・・・」









「一応くれるもんは何でも貰っとかな損やし、皆ドレス姿なんであたしだけ着ぃひん訳にもいかんので着てきましたけど・・・・・・なんかメッチャ違和感あるんですけど・・・あたし軍服以外の時もほとんどデニムとかやし・・・・・」

ほとんどの場合ドレスというのは足元まで裾があるもので、スカートにしても今どき足元までくる様な長いものを履く人間は皆無に等しい。

それを普段から裾の長い軍服を着ている蘭花、フォルテ、ちとせはまだしもミルフィー、ミント、ヴァニラが何の卆もなく着こなしているのがカナからすれば不思議だった。

「か・・・・・」

そんなカナをよそにミルフィーは目をやたらとキラキラさせて何か言いたげな様子だった。

「・・・・・はい?」



「可愛いーーーーーー!!

ガバァッ!!

目をキラキラさせたミルフィーはそのまま叫び声を上げてカナに抱きついていった。

「ななな・・・・・何なんですか!?」

「だって今のカナすっごく可愛いんだもん特にそのし○かちゃんヘアーが!」

「普通におさげでええやないですか!何でわざわざそんなリスクの負った名前つけるんですか!?」






「お久しぶりです、タクトさん。それにエンジェル隊のみなさん」

「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!!!」」」」」」」

そんなやり取りをしていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきたので振り向いてみると、エンジェル隊達はそのあまりに異様な光景に言葉を失い絶句する。









ルシャーティの後ろには確かにかつて死んだはずのヴァル・ファスク、ヴァインが立っているというよりは浮いているという状態だった。

「あ・・・あのさ、ルシャーティ・・・・・・・・あんた肩に何かくっ付いてない?っていうかむしろくっ憑いてない?」

「え?なぜ二回も言われるんですか?」

「あ、いや〜〜・・・・・なんとなく・・・・・・なの・・・・・・かな?」

こんな異様な光景をタクト達以外は見向きもしていない様子を見ると、どうやらルシャーティや他の会場の人間にはヴァインの姿は見えていないようだ。

「遅くなってしまってすみません。ヴァインのお墓に行っていたら、つい遅くなってしまって・・・・・・・」

「・・・・・ルシャーティ・・・・・・」

「憎いはずなのに・・・・・・どうしても憎めないんです。頭の中に浮かんでくるのは彼の優しい笑顔ばかりなんです・・・・・・」

ルシャーティのその言葉につらい過去を思い出しかけたエンジェル隊たちだったが、うしろにいるヴァインによる直筆の真実によって涙は一瞬にして薄れてしまった。

その内容とは




『嘘をつけ!じゃあ、どうしてお供え物がクサヤ(やたらと臭い魚の干物)に納豆なんだよ!?しかも涙ひとつ流さずに笑顔で「あなたの大好物よ」なんて言う奴に憎しみがない訳ないだろ!!そもそも僕がお前に憑いて来たのは墓石に匂いがついて近所の幽霊から苦情が出たからなんだぞ!?』




と、書かれたものだった。

ルシャーティがヴァインの死を悲しんでいる事もヴァインを愛している事も紛れもない事実なのだろうが、それはそれとしてやっぱり憎いものは憎いらしい。

何やら見たくもないルシャーティの嫌な一面を見てしまったエンジェル隊たちだった。

『しかもだ!聞いてくれタクト・マイヤーズ!!それ以外にもこの女は・・・・・・・・』

ここまでくるとヴァインの愚痴が制限なく続きそうなのでヴァインの事は見えなかった事にしてエンジェル隊は一時解散してパーティーを楽しむことにした。

タクトはというと名指しで呼ばれている以上、下手に無視するわけにはいかずにせっかくのパーティーにも関わらずヴァインの愚痴を永延と聞く羽目になってしまった。

というよりはそのまま去ろうとすると祟られそうな気がしたのでその場から動くに動けなかった。








一方エンジェル隊がパーティーを有意義に過ごしているとカナは信じられないといった様な目を大きく見開き、視線を全く動かさずにただ一点見つめだした。

「う・・・・・・嘘やろ・・・・・・でも確かにあれは・・・・・・」

「ど・・・・・どうしたのよカナ!?」

そんな明らかに尋常ではない様子のカナを蘭花は心配の念を込めて話しかける。

「間違いない・・・・・あれは・・・・・・・・あの人等は・・・・・・・・・










お笑い界の若きカリスマ『シックスティーン・シックス』!略して『シクシク』のヤベーとオカマチ!!

「は・・・・・・・・・??」


いつものカナらしからぬ真剣な表情に何事かと構えていた蘭花にとってカナの間抜けとしか言いようのないコメントは呆れを通り越して思考回路を一時停止させた。

「っちゅう訳であたしはこれからサインをもらっ・・・・・・・・・あれ?」

バタンッ!!

蘭花の思考が停止している間にもカナはお構いなしでにこやかにこれからの自分の行動を提示しようとすると、何の前フリもなくそのまま大きな音を立てて倒れてしまった。




「カナ、大丈夫か!?」

その様子に気づいたタクトや他のエンジェル隊がカナの元へと駆け寄る。

「・・・・・・え?大丈夫ですよ・・・・・もうライブマドの株価くらい絶好調です・・・・・・」

「ちょっと―――――!!いつの話してんの!?今はアレ全然大丈夫じゃないから!!」

よく見てみると息づかいも荒く、顔も少し赤めになっている。

そんな状態でもうろうとした意識でズレた話をするカナにタクトが全力でツッコむ。













――――――――――――医務室――――――――――――


「どうやらただの風邪のようね。この様子じゃ何日か前から引いていた風邪をそのまま放っておいたんじゃないかしら?」

カナは倒れた後すぐに気を失い、エンジェル隊達によって医務室へと運ばれた。

「あぁ、そういわれてみれば『社内ならぬ艦内恋愛疑惑事件!?』の噂が広まりだした頃から調子悪そうだったからねぇ……」

ケーラの診察結果を耳にしたフォルテは『異世界の住人 八章』の時のカナの様子を思い出す。


「まぁ、しばらく安静にしてればすぐに良くなると思うわ」














――――――――――――1時間後――――――――――――


「・・・・・・・あれ?ここは・・・・・・・・・・・・?」

「良かった、気がついたみたいだね」

ようやくカナが自分の置かれている状況がよく理解出来ていない様子で意識を取り戻すと、その傍らにはタクトが一人で医務室の椅子に座っていた。

「えと・・・・・・確かあたしは・・・・・・・・・・・あっ!『シクシク』は!?ヤベーとオカマチはどこに行きました!!?」

カナは靄のかかった意識の中で徐々に記憶をたどっていき、自分にとって重要な記憶に行き着くやいなか、すごい勢いでタクトに食ってかかる。

「お・・・・・落ち着いて・・・・・・・・君風邪で倒れたんだから・・・・・・・」

「え・・・・・?そういえばどことなく身体がしんどいですね」

タクトに言われて初めてカナは自分の体調の異常に気づく。

「そんな時にはこれだよ。マイヤーズ家秘伝の健康スープ!」

そう言ってタクトはややニンニク臭強めのスープを笑顔でカナに差し出す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「え?ひょっとしてスープとか苦手だった?」

ノーリアクションで珍しい物でも見るかのようにタクトを見るカナに対してタクトは自分の行為にどこか不謹慎な点があったのかと少し焦り始める。


「いえ・・・・・・・・ありがとうございます・・・・・・・・・・タクトさん・・・」


その時のカナの表情がタクトにも、そしてカナ自身にも分からない程度に赤くなっていたのは風邪のせいなのか・・・・・・・・・・それとも他に原因があったのかは定かではない・・・・・・・・・・


と、そのとき

ピピッ!

タクトの胸にあるクロノクリスタルからトーンの高い音が鳴り、秒間隔で点滅し始めた。

『タクト!今どこにいる!?』

そして、クロノクリスタルからはレスターの声が医務室に鳴り響く。

「どうしたんだレスター?まだパーティー中だっていうのにそんな物騒な声なんか出して」

『何をのんきな・・・・・・パーティー会場に爆弾が見つかったんだぞ!?今すぐ来い!!』








――――――――――――パーティー会場――――――――――――


会場の雰囲気はすでにザワついており、とてもではないがパーティーどころではなかった。

「爆弾は!?」

そこへ連絡を受けて駆けつけたタクトと、なぜか風邪で寝込んでいたはずのカナまでついてきていた。

「な・・・・なんでカナまで一緒なんだ!?」

一応エンジェル隊から事の経緯を聞いているレスターはカナがこの場にいることの不自然さに気づいた。

「あ・・・・・いや・・・・・・・それより爆弾は!?」




レスターからの通報があった後、タクトはカナに医務室で寝ているように言ったのだが、カナは『お願いします!連れてってください!!』とタクトの反対を押し切ったのだった。

そしてその申し出を断れる事は、流されやすくお人よしのタクトにはできなかった。





「・・・・・・なぁ、レスター・・・・・・」

「何だ?」

タクトとレスターは爆弾処理に取りかかろうとフタを開けて中身を確認しようとしたのだが、すぐにその中身の異常さに二人とも気づく。

「いや・・・・・最初見た時からやたらとでかいなぁ、とは思ってたんだけど・・・・・・・・何これ?」

「・・・・・爆弾だろうな・・・・・」

二人ともその中身の異常さを敢えて口には出さないままお互いにそれを言わせようとしている。

「いや、爆弾ってさ・・・・・・フツーはフタを開けて、中には二本のコードがあってどっちかを切れば助かるってヤツだと思ってたんですけど・・・・・・」

「・・・・・・オーソドックスなやつはそうだろうな・・・・・」

「じゃあ何なんだよこのコードの量は!?あきらかに50は超えてるぞ!!」

「そんなことは作った奴に聞け!!」

「しかもコードのたたみ方が嫌に繊細だし!!もしこれ作ったのが女の子じゃなく男だったら俺は泣くぞ!!?」

「知るか!!その爆弾解体したら俺のいない所でいくらでも泣いてろ!!!」






時限爆弾のリミットが10分を切っているせいで二人とも冷静さを欠いて漫才に熱中してしまっている。

「・・・・・・・・話が脱線して言い忘れていたが、そのコード束から解除コードは一本だけだそうだ」

150!?そんな宝くじよりも・・・・いや、宝くじよりは成功率高いか・・・・・・・・じゃなくて!何だその爆弾ネタの王道を無視したメチャクチャな展開は!!?」

だがタクトは自分の発言を頭の中で整理して、この状況を打破するのにぴったりの適任者がいる事に気づいた。



「そうだ!ミルフィーならこの1/50のコードの中から正解を・・・・・・・」

「あぁ、無理無理」

そうタクトが口を開いたが全てを言い切る前に蘭花にそれを制止された。

「今日この娘、コンビニのくじ引きで何十回も一等当ててるからそろそろ『凶運』の方がくる率が高いわよ?」

蘭花の言う『凶運』とは、ミルフィーの『強運の波』を指している。

ミルフィーは『強運』、つまり運勢が両極端なだけで決して『幸運』ではない。

つまり『幸運』が続けば続く程その分『凶運』が降りかかってくる可能性は高くなってくる。

「す、すみませ〜ん・・・・・」

「い・・・いや気にすることないよ、ミルフィーは悪い事した訳じゃないんだから・・・・・」

すまなそうに謝罪するミルフィーだが、タクトにしてみればまるで自分がミルフィーを責めているようで気まずかった。

「タクトさん・・・・・・」



そんな二人の世界に割って入る様にヴァニラがぼそりと一言・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・爆発まであと20秒を切りました・・・・・・・・・」


「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」←ほぼ全員

というかここまで誰一人として気づかなかった事にある意味びっくりだ。



「へ?なんかあったんですか?」

そこへ事態の全く理解できていないカナが姿を見せる。

その手には何枚ものサイン色紙があることから、おそらく会場に来ているお笑い芸人に片っ端にサインを求めたのだろう。色紙が用意されているのだから最初からそのつもりで風邪を堪えてパーティーに出席したという事になる。





事情を聞いたカナは動揺しながらもある提案を持ち出した。

「ああと・・・・・・ええと・・・・・・漫画とかによくある『爆弾を放り投げて空中で爆発させ』るとか・・・・・・」

「それだ!蘭花!!」

その漫画のような曖昧な提案にタクトは以外にもあっさりと賛成し、蘭花を名指しする。

「なんで即答であたしにフってくるかがすごく気になるけど・・・・・・・・分かったわ!!」

確かにスポーツは全般的に得意だし、この中で一番適任なのは自分だという自覚もある。

だからといって 肉体労働 自分 というのは女扱いされていないようでいまいち納得し難かった。


「でりゃ―――――――――――――――!!!」

ブンッ!!

蘭花はその納得いかない微妙な気分を投げ捨てるかのように思い切り爆弾を窓から投げ捨てた。




カンッ!

が、爆弾は隣の建築物へと当たり、蘭花の勢い余った力の反動でそのまま再びタクト達の元へと帰ってくる。

もう一度他の窓から投げようと戻ってくる爆弾を受け取ろうとする蘭花だが、運悪く受け取る寸前で

ピッ  ピ――――ッ!

タイムオーバー











今回の事件はトランスバールに非はなかったが、パーティーと共にEDENとの関係に何の進展も得られなかった。

ちなみに当日、トランスバール病院の空部屋は一瞬にして入院患者で満席になったという。










あとがき


どうも、久しぶりに書いても全く執筆力に進歩のないまくらです。

ルシャーティ、ヴァインのファンの皆様には出番が少なくてすみません。

そういえば今まで爆発系のオチはなかったと思い、途中から爆弾とか出てきてますがなんだかうやむやな終わり方になっちゃいましたね。

基本的に恋愛系は苦手なのに変な興味本位で書いてしまう悪循環ですが、あまりそっちの方は期待なさらない方が無難だと思います。

バイトなどが忙しくあまり時間は取れませんが、これからもよろしくお願いします。