ギャラクシーエンジェルBeloved lovers

 

 【国士無双が相まみえ?】

 

 先日のおさらい

 七人組が爆弾仕掛けて倉庫を爆破、エルシオールの食べ物が無くなりましたマル

 

 

 明らかに兵糧攻めを行われたエルシオールだが、補給は必要なため、仕方なく付近の惑星にある

〈オブスティネート〉の基地へと向かうことになった。

 

 

「オブスティネートの基地って安全なのかな?」

ブリッジの司令官席に座りつつタクトはぼんやりと呟いた。

レスターが医務室行きなので、しばらくはこの状態が続く

「そうですね・・・宇宙クジラが心配ないと言っているくらいですし、もうオブスティネートを疑

う必要はないかと・・・」

ココが作業の手を休めて振り返る

「いや、信用はしてるよ、そうじゃなくてさぁ・・・連中は生身でクロノドライブをするだろう? 

厳重な警備もそれじゃ意味がないような気がして・・・さ・・」

ふぅ とそこでため息

「心配ばかりしても始まらないとはいえ・・・いくら俺でもこれは・・・」

はぁ とまたため息をつき

『暗いですね・・・』

「のわぁっ!?」

タクトの眼前に通信画面が開き、デカデカとレナードの顔が出てくる。

「な、なに?」

『少しはオブスティネートの実力を信じて下さいよ。ついさっきお見せしたばかりでしょう?』

「いや、それは・・・」

 

 

 

数時間前

「オブスティネートの基地へ行くのですから、皆さんにはオブスティネートについてもっと良く理解

して頂く必要があります」

パンフレットのようなものを手渡しながらレナードがしゃべる、集まっているのはおなじみエンジェル

隊とタクト、さらに興味のある船員数十名(抽選によって選ばれたため少数、ちなみに倍率は6.29

倍でした)、場所は〈スキーズ・ブラウニル〉艦内。

「と言うわけで、今回はオブスティネートの部隊分けについてです」

 

パチパチパチ

 

「オブスティネートはそもそも、表沙汰に公表できないような怪奇現象などを担当する、いわば裏の仕事

を一手に引き受ける組織です。つまり我々は軍人であり、また軍人ではない国家公務員な訳です」

「なんじゃそりゃ・・・」

誰かが突っ込むがレナードはさらりと無視する。

「色々機密にふれることは除いて説明すると、オブスティネートが担当するものは以下のもの、特殊な生物、

まあ現実で言えばUMA(ユーマ)のような未確認生命体など、そう言ったものを担当する

UCRT(アンノーン・クリーチャー・リスポンス・チーム)一般の人類とは違う亜人種を担当するDHRT(デミ・ヒューマン・リスポンス・チーム)、これはそれぞれ、

UCRTに一番、二番、三番隊が所属、DHRTに四番、五番、六番隊が所属しています」

「その・・何とか隊って何?」

「はい、オブスティネートが特殊能力者を多く保有することは以前解説しましたが、この隊分けは、

能力の種類とバランスを取るためのものです、所属するチームにあった能力者を振り分けたりと、

まあそれぞれの役割に応じた振り分けがなされています」

へー

とか

ほー

とか、何となく感嘆の声が上がる

「さらに、ロスト・テクノロジー、更にそれ以外の強大な力や技術を持った道具オーバー・テクノロジー、

それを総じてオーパーツといいます、そのオーパーツを担当するOPRT(オー・パーツ・リスポンス・チーム)は七番、八番、九番隊と

なっており、連度は高く・・いや、まあ私が言っても証拠にはなりませんか・・・それでは」

 と、そこでいったん言葉を切り、レナードは少し考えるそぶりを見せると

「部隊の練度をお見せしようと思いましたけど・・・皆さんが理解できそうなものって何でしょう?」

『さあ?』

 

 

皆さんが理解してくれないので中止

 

 

「あれは見せられたって気はしないなぁ・・・」

『どうすればいいのでしょう? チームを分けて模擬戦でもします?』

「いや・・・しなくていいから」

そうですか――と肯くと、レナードはスキーズのブリッジで何かを操作し

 

ピッ

 

司令官席の前のモニターに地図が映し出される。

「基地とその周辺の地形図です。基地そのものは岩山に見えるように工作されており、周囲は赤茶色の岩が

いくつも立ち並んでいます」

と、そこで地図の一部が拡大され

『エルシオールはこのゲートから進入して下さい。すぐに物資の積み込みを始めます』

「倉庫の修理を先にね」

『無論です』

そう言っている間にも大気圏を抜け、目の前に広がるのは

「砂漠?」

『はい、直接基地の付近に降下するのは機密保持上危険なので、ここから東南に行けばすぐ見えますよ』

 

 

 

砂漠を抜け、赤茶けた大地といくつもの岩山、凹凸(おうとつ)の激しい地形のすれすれをエルシオール、スキーズ、ギャロップは飛行する。

一見何も存在しないような場所から、誘導ビーコンがエルシオールに放たれた。

ビーコンの光に任せて艦を動かし、岩山の一部がハッチのように口を開けた時には

「(秘密基地みたいだな・・・あっ、実際秘密基地か)」

などとタクトが思ったほど、ハッチ内の格納庫への接舷が終わったところでドヤドヤとエルシオールの周りに人が集まってきた。

いきなりベルトコンベアが出てきたかと思えばエルシオールにいくつものコンテナを運び込み、傷ついた

外装部分の周りをいくつもの人間がうろうろしたり。

「な、なんなんだいきなり!?」

『補給と修理ですよ』

相変わらず前触れ無くレナードが通信してくるが、いい加減慣れた。

「こんなに急いで?」

『はい、F1のピットインみたいなものです。のんびり休む暇はありません、物資の積み込みと格納庫の

修復は同時進行、武器弾薬も同じく。外装の修理ついでに窓ふきもします』

「窓ふき!?」

『予定では今から8時間後には出港可能ですが?』

「早っ! 休む暇は?」

『今休んで下さい。補給したらすぐに出ます』

「なんで!?」

高速の掛け合い漫才を繰り広げるタクトとレナードだったが、その間にもエルシオール内部では・・・

 

 

医務室

「ちわーっす、オブスティネートでーす。コーヒー豆お届けに上がりました!」

「えっ? あ、ご苦労様・・・」

「あれ? サザエさ・・・もといケーラさん。コーヒー豆が場所を取るんで補給する医薬品は外においときます?」

「あ、そうね、そうしてくれる?」

「はい」

薬品より豆優先かよ! と突っ込む者はいなかった

 

 

格納庫

「ちょっと! 紋章機に勝手にさわらないで下さい! そこ! 勝手に内部のデータ見ない!」

「あーんっ! なんでこんな!」

「装甲板の搬入を急がせろ! 修理を急いで、出港準備!」

「仕切らないで下さい! だいたい、あなた達誰です!?」

「オブスティネート、整備中隊隊長グルノー・コスレント中尉です。緊急を要するため、我々が率先して作業に当たります」

「紋章機の整備は私達の仕事です!」

「失礼ですがクレータ班長、あなた方の少人数では素速く完成はしません、あなた方をないがしろにするのではなく、

協力して急いで仕上げようと言うことです。勘違いなされぬよう」

「はぁ?」

「ラッキースターは慎重にしろっ! 機嫌が悪くなったらどうする!」

「そう思うなら私達に任せて下さい!!」

「失礼ですがクレータ班長、あなた方の少人数では素速く完成はしません、あなた方を

ないがしろにするのではなく、協力して急いで仕上げようと言うことです。勘違いなさ

れぬよう」

「はぁ?」

(四行上に戻る)

 

 

コンビニ

『いらっしゃいませぇ、ただいま商品の入れ替えを行っておりますぅ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません〜』

コンビニのいつものメガネ店員、及びオブスティネートから派遣された荷物運び入れ要員が一声に間延びした声を上げる。

「え?」

来店した名も無き船員A(仮名)が驚いた声を漏らす。間延びしているのはこの店員だけかと思ったら、変わり者はいっぱいいたのだ。

「どうされましたぁ?」

「すみません〜パンの補充がぁ・・・」

「たいちょぉ〜これどこでしたっけぇ?」

「う〜ん、店員君〜これはどこにおいておこうかねぇ?」

「はい〜、それはそのBの棚にぃ・・・」

「う、うわぁぁぁぁっ!?」

ダッシュで来客が逃げ出し

『ありがとうございましたぁ』

ハモッてる

 

 

再びブリッジ

「宇宙コンビニから二、三人くらい店員にさせてもらえないかと質問がきていますが?」

「医務室の副司令から、三河屋を速く返してくれ、うるさくて眠れん。と伝言が」

「こっちは格納庫で無限ループを止めて紋章機の整備に入りたい、協力するのは分かったからもういいと言ってきています・・・? 何のこと?」

ブリッジのオペレーターがあちこちで声を上げる中

『何せこの惑星の周りで複数の艦隊が網を張っていて、基地が見つかると包囲されて大変ですよ? 早めに補給して惑星から出ないと』

「先に言ってよ・・・」

『惑星そのものに閉じこめる気かも知れませんね・・・後はじわじわと包囲の話を縮める・・・』

「連中の味方はどれだけいるのかな?」

『さあ? ですが、敵は無人の自動操縦艦を大量に投入してきてますからね、裏でかかわっている工場なんかを押さえられれば・・・』

タクトとレナードはまだ話し込んでいる

『司令!』

「なんだい?」

『はい?』

『タクト・マイヤーズ司令ではなく、ミルガルド司令です』

通信の向こうから声が聞こえていた

「あはは冗談だ『基地の上空をホバリングするヘリが一機、有人です』

『ヘリねぇ・・・偵察にしては妙だ・・・そもそも何故この基地の位置を?』

「無視されちゃっ『不明です、いえ待って下さい。ヘリが付近の岩山に着陸した模様、映像を出します』

『これは・・・セレス、私はこの人達と話がある』

「ねえねえ、その映像こっちに『ご家族・・・ですね?』

「お願い、聞いて下さ『ああ、どうやら色々と込み入った話になりそうだ・・・』

「おーい、頼『念のため、我々もついていきます』

「しくし『分かった』

「泣き声ま『エンジェル隊はどうします? おそらく提督はこの一件に関しての用で来られたのではないかと』

「事情が上手く飲み込『一様呼び出しておいて、ただし自由意思で・・・』

「『了解』

「今、俺一言も発せずに会話『そうそう、タクトさん・・・どうしました?』

「なあ、遮らないで俺の話聞いて? あとナレーションが一度も入らないのは何で?」

『その方がテンポ良く会話が進む時もあるでしょう? 蒼穹一はたまにこういう事しますから、読んでいる皆さんはそこの所覚えておいて下さい』

「なあ、とりあえ『タクトさんも出てこられますか? いくつか詳しい情報が聞けるかも知れませんよ?』

「しくしく、うん分かっ『分かりました、それではお待ちしています』

「最後のワザとだろっ!?」

 

 

 

基地付近―――岩山

移動用にこちらもヘリを飛ばし、エンジェル隊とタクト、オブスティネートのメンバー(蒼乃、セレス、ソラト、

ジュリア)がそれぞれ揃う。

ヘリから降り立ち、悠然と腕を組んで立つのは・・・ミルガルド家(宗家)の皆さん。そしてその中心に立つのが、

レナードの父親ディルス・ミルガルドだ。

 

 

 

よく分かる解説

ミルガルド家は特殊能力者の家系です。宗家と呼ばれる一族の中心となる家系こそが、強力な能力者を持っており、

それ以外の家系を分家と呼びます。

能力者には、ミルガルド家のような血に能力が宿る場合と、突然変異のようにして生まれるタイプの二種類があります。

宗家に比べると、分家の能力者は総じて能力が弱いのですが、在野の能力者に比べれば、かなり高いレベルではあります。

ちなみに、最近出番ゼロのシリアもミルガルド家、フェイツイはそもそも血縁関係はありませんが、能力のレバルは宗家にも劣りません。

 

以上、説明終わり。

 

 

 

「出来ればあまり会いたくなかったのですが・・・塩」

「イエス・サー」

レナードがディルスをにらみつけ、ぽつりというと、セレスが大量の塩(二十キロ)を持ってくる。

この親子、相当仲が悪い。

「散布開始」

「イエス・サー」

 

バッバッバッバッバッバッ

 

あたりに二十キロの塩が大量にばらまかれ・・・・

「久しぶりだな、レナード、舞踏会(ぶとうかい)以来か?」

「ボケは無視ですか・・・・お父様。今日は武闘会(ぶとうかい)でもするおつもりで? わざとらしく殺気など流して・・・」

「レナード、お前は今の戦いをどう見る?」

少しくすんだ金髪を前髪までおろしたおっさんが・・・

 

《あんまり似合わない!》

 

その場にいたほぼ全員がそう思った。

ある程度年齢がいったら前髪降ろすのはやめましょうね。

「どう? クーデターでしょう?」

「そうだ、だが以前のような艦隊戦ばかりではない、直接生身での白兵戦も多く展開される事だろう。しかしだ、

お前の今の実力で、果たして乗り切れるのか?」

「お父様?」

レナードが一歩下がり、セレスが大和と撫子を渡す

「何が言いたいのかはだいたい分かりました、私の実力を試す・・・と」

「三十分猶予をやろう、試してやる」

修行って何の話だよ―――心の中で大きなツッコミを入れる一同・・・

 

 

「ねぇ、妙なことになってきたわよ?」

誰かが呆れて呟いた

 

 

ヘリの近くには複数の人影がいたが、ディルスを除く全員がこちらに近づいてくる。

「兄様!」

「お久しぶりです」

駆け寄ってきたのは、銀色の髪を持つ少女とこちらはディルスに似た色の金髪の少年、少年はどうにも中性的な

顔をしていてさすがレナードの関係者と言ったところか

「銅色はいないのかしら?」

「蒼乃さん・・・」

冗談めかして言う蒼乃に一応ツッコミをレナードが入れる

「レナード!」

 

とてとてとて

ぴょんっ

 

別にそんな音がするわけではないが、何となくそう言う効果音をつけてみたくなる少女が現れた、年齢は10歳前後か?

「あ、お「レナード! 久しぶりだな!」

レナードの言葉をかき消して少女が言う、レナードと全く同じ青みがかった銀髪に、珍しい藍色の着物と扇子を持っている少女はレナードの腕にしがみついてる。あ、銀髪の少女―――レナの顔がこわばってる・・・

「それで、おば「どうしてここに・・・か? うむ、久しぶりに顔が見たくなって」

「あのさ・・・家族水入らずの所悪いけど・・・誰一人として分からないんだけど・・・」

取りあえず代表としてランファが聞く

「あ、そうでしたね。それじゃあ、そこの髪の長い()が妹のレナ、男の子が更にその弟のウィン」

名前を呼ばれた二人が会釈する

「そして、そちらが母様のティタニア、腕にしがみついているのが・・・お祖母様のカネアです」

『へー』

何となく出ただけのような声を一同が漏らし・・・・

『ええっーーーーー!?』

あたりに響き渡る大声

「ちょっと皆さん・・・耳が痛く・・」

苦笑いをしてレナードが言うのだが、誰も聞いておらず

「母親が若い! とか言う予定だったけど――その子供がお祖母様ぁ!?」ラ

「どう見ても十歳前後・・・ですよね・・・」ち

「・・・整形?」ヴァ

「身長はどうするんだよ・・・」フォ

「・・・ミントさん・・・」ヴァ

「ヴァニラさん? 」ミ  (怒ってる)

「わーい! かわいいー!」ミル

「個性的な反応ですね・・・」

 

ミルガルド家はティタニアの例を見るように、妙に姿が実年齢よりも若く見えるのだ、ディルスもその例外ではなく。

 

「うー、あたしもミルガルド家に生まれたかったぁ! 長い間この美しさを・・・・」

「はいはい、ランファさんはしばらく黙ってて下さいねぇ」

「あしらうなぁ!」

時間が経つにつれてレナードの表情に真剣さが見えてくる、ディルスとの間に何が起こるのか・・・

「あら? ちょっと待って下さいまし。ディルスさんもミルガルド家のかたなら・・・見た目がもっとお若いはずでは?」

と、ミントが言うと、

「そういえば・・・」

とみんながディルスの顔に注目する、前髪に目元のあたりまで掛かっているが、その顔はかなりシワが・・・

『何歳?』

「54歳」

「・・・・微妙?」

「老けているような年相応のような・・・?」

口々に感想を言うエンジェル隊をティタニアが見かねて

「あなた〜! 元の顔に戻して見せて下さい〜!」

ティタニアが離れた場所にいるディルスに呼びかけると

「・・・・・・・・・・・・・・分かった」

渋々といった表情でディルスが近づいていき、おもむろに取り出した白い布で顔を拭き、出てきた顔は

『ナイスミドル!?』

「なんだそれは・・・」

憮然とした表情のディルス、表情も声も変わってはいないが、いくらか陰影も薄くなりシワも少なくなった。

更にそこで降ろしていた前髪を後になでつけると、かなりかっこいい。

「前髪が邪魔だな」

「じゃあ降ろさなきゃ良いのに」

「昔・・・何かの資料で読んだ、老人で前髪を降ろすモノは高い地位にある人間の中に多いそうだ」

「(老人かどうかは知らないけど、多分それ間違い)」

心のツッコミは届かない

「何でシワのある顔に?」

「若い顔で高い地位にいるとな・・・・威厳というものが必要なのだ・・・普通の顔では威厳が足りないだろう」

十分だろ―――と全員が思ったのだが、誰も声に出していう気はないようだ。

 

 

「さて・・・もういいだろう・・・心の準備は出来たな」

「ちょっとストップ」

ズイとレナードに詰め寄るディルスの前にフォルテが割り込む、その顔には冷や汗が流れていた。

「で、レナードに具体的に何をする気だい? 返答次第じゃぁ・・・」

「先ほど言ったとおりだ、レナードの能力の全てを試す、指揮能力は追々試すとして、まずは戦闘能力」

言葉が終わるとディルスの姿がかき消える、更にレナードも同様―――一同から少し離れた場所に現れ

 

「行くぞ」

 

ディルスがどこから取り出したのか、刀を抜く―――

レナードは大和を越しに構えて居合い抜きの体勢―――

 

すっ―――と、大和を半回転させて、反りを上向きに直す。

太刀を腰に帯びる場合、反りは下向きになる、居合いの時には上向きの方がやりやすいのだ(本人談)

 

「って、神速で動いた? でたらめな連中・・・」

「だが・・・ディルス・ミルガルドの言っていることは的はずれではないのだよ・・・」

ソラトがメガネの位置を中指で正しながら言う

「先日のようにあの七人組による肉弾戦になれば、君たちでは対処しきれないだろう・・・レナード君の実力を確かめるのは間違いではない」

「そうはいっても・・・」

「始まるぞ・・・」

すっ―――――――――

静かにディルスが刀を構える、レナードも腰を低くして居合いの構えを取る。

 

ひゅ!

 

レナードの姿がかすむ

 

ぎぃんっ

 

急に現れた太刀の大和をディルスの刀が受け止めている

見えない

「遅い」

シュッ

ディルスの刀がかき消え、急に現れた大和が受け止める、そんな攻防が長く続く

 

 

「次だ・・・」

シュッシュッシュッ―――――――

何度か刀を振るう音が聞こえたかと重うと、音と音が繋がり、切れ間が聞こえないほどになる

「神速を会得したとはいえ・・・貴様の素早さは私には敵わない」

「くぅっ・・・」

ザシュッ

「きゃぁぁぁっ!」

ちとせが悲鳴を上げる

「がぁっ!?」

血が地面に落ち、赤い華を咲かす。

肩口から斬られたレナードはヨロリと体勢を崩した

 

 

 

「速さで劣るお前が・・・太刀などを使って戦うのがそもそもの間違いだ」

ディルスは静かに告げると、一歩踏み出した。

 

 

 

日本の歴史上、刀として有名なのは打刀(うちがたな)、これは江戸以降の定番となり、刀と言われて想像するのはまずこれだろう。

ディルスがもつのはこの打刀。対してレナードが持つ大和は戦国時代の主流、太刀。打刀よりも長い刀だ。

 

「得物は長ければ長いほどそれを振るう時間は延びる、短い得物は小回りがきき、振るう早さは自然と短い。身体能力

が上の私が、貴様より短い武器を持っておるのだ、何も考えずに刀を振るっているのか?」

 

「がっぁぁ・・・・」

うめきレナードはひざをつく

「この程度か・・・」

ディルスが呟き、レナードの頭に刀を振り下ろす

 

きぃん

 

あたりにすんだ金属音が響く

 

「!?」

 

ヒュッ

ザッ

 

反射的に飛び下がったディルスの胸から頸動脈の近くまで浅く切り裂かれていた

「そんな基本知識は昔教わりましたよ・・・だから撫子で斬りつけたでしょう?」

「ふ・・・ん・・・そうだったな・・・」

レナード、ディルス、双方がにやりと笑う、戦いが楽しいわけでは決してないが、お互いに譲る気など毛頭無い。

『はぁっ!!』

 

再び消えたと錯覚するような速さ。

ここで、読者の皆さんには分かるように解説をしよう!

 

「あたし達が置いてけぼりになってるけど・・・」

「そうです〜、何がなんだかチンプンカンプンです!」

 

はいはい

 

ディルスが刀を突き出し、レナードの心臓を狙う、しかし体を回転させるように突きをかわし、回転の勢いのまま大和で斬りつける。

「はぁぁっ!」

「返し技の基本、円撃・・・あまりにも基本的すぎて・・・私と戦うのにはふさわしくないな・・・」

あっさりと大和を受け止め、撫子の動きにも注意しつつ、ディルスは拳打を放つ。顔を狙った拳は小さく首を振った

レナードの横を通り過ぎ、伸びきったところをレナードが斬りつけようとした時・・・伸びきる前に腕がレナードの首に巻き付く。

「っ・・・がぁっ!?」

 

 

「窒息させる気!?」

格闘に関しては一番詳しいランファが驚きの声を上げる。

「あの二人ホントに親子なの!?」

「無論だ」

カネアがあっさりと応えた、扇子をパタパタと不利ながら言葉を続ける。

 

ちなみに扇子に書いてある文字は――「赤勝て白勝て」だ。

 

「それに、別に窒息させるわけではない」

「ほっ」

「あ・・・そうなんですか・・・」

エンジェル隊が安心したように声を漏らす。

しかし、オブスティネートの面々とカネアだけは依然厳しい表情のまま、レナとウィンははらはらしながら事の成り行きを見守っており、ティタニアは初めからニコニコしたままだ。

「窒息させる気はないが・・・首の骨を折る気だ」

『死ぬでしょ!!』

今この瞬間、みんなの心は一つになった。

「当たり前だ・・・お互いに殺す気でやらねばな・・・」

「なんで・・・ですか?」

ちとせが声を絞り出す。

「ふむ・・・報告によれば・・・エンジェル隊は以前にレナードの豹変ぶりを見たことのある者もいよう・・・」

ミルフィーユは自らが言ったようにチンプンカンプンのようだが、少なくともレナードが豹変したのは覚えている。

以前、ヴァル・ファスクとの一戦―――――

 

 

 

 

「ぐぅ! 急げ! そう長くシールドは持たない!」

 

「え?」

「レナードさん?」

口調が完全に変わっていた、目の色は濁っているようにも見える。

「はやく!」

『は、はいっ!?』

大急ぎで斜線上から紋章機が離れる、途端に交戦は途絶え、アークエンジェルは動きを止めた、衝撃で慣性運動状態になっているが―――

「はやくしろ!」

 

 

 

 

「なんか、人が変わったみたいだったわ・・・」

「目が暗く濁っていましたし、狂気に犯されたような・・・」

ランファもちとせも表情が途端に暗くなる、デムル・ジオの攻撃からエンジェル隊を守った時にそうなったのだから、

自分たちに原因があるのではないかと思うのだ・・・

あれからすぐにレナードは元に戻ってはいたのだが、どうにもあのときの記憶が恐ろしく、誰も本人に聞くことはなかったのだ。

「うむ、レナードは・・・いや、人間ならば大抵が、死地に立たされた時には思わぬ力を発揮するものだ。窮鼠猫をかむ、

火事場の馬鹿力―――そう言った言葉が存在するほどだからな」

 

カネアがやはり扇子をパタパタとさせながら言う、扇子の文字が「カネア先生の講義」になっている。

 

「しかしその時に発生する力は体に大きな負担をかけ、精神をむしばむ諸刃の剣・・・キレると性格が変わるやつがおる

じゃろ・・・あのあたりを想像すると良いな」

 

扇子の文字は「カルシウム」

 

カネアの言葉に一同が微妙な表情を浮かべた

「なんか・・・難しい話なのかアホな話なのか分からなく―――」

「何を言うか! 重要な事じゃ!」

言葉を遮りカネアが叫ぶ

「率直に言おう! レナードはお前達が以前見たようにその死地に立たされた時に異常な実力を発揮する!」

「良い事じゃないの?」

「どこがだ! 確かに一時的にその力は発揮されるが長くは持たない、それに、戦いの勝敗如何にかかわらず、

そのたびにレナードは精神を著しく消耗して! いずれは精神の均衡が崩れる!」

エンジェル隊は驚きに声も出せない、オブスティネートはただ黙っているのみ

「何で今の今まで放っておいたんだい!」

フォルテがカネアに詰め寄るが、つかみかかったりはしない。

「今の戦いを見れば分かるであろう・・・ディルスはこの戦いを使い、レナードを更に次の段階へと進めようとし

ている。自らと同じ段階に・・・」

「同じ段階?」

オウム返しに聞き返すと、カネアは少し話すのを渋るが

「・・・うむ、ディルスもやはりレナードと同じ状態であった、いや、誰もがそうである時期があるのだ。

ミルガルド家とそれ以外でも、能力者と一般人の違いなく・・・な。普通の人間は危険なレベルまでそのような

状態に何度も陥ることはない、しかし、学生時代のあの一件と、オブスティネートでの暮らしが、レナードに

何度も危機をあたえ・・・結果・・・」

そこでカネアは首を締め付けるディルスとレナードを見る

「こうなった・・・今ディルスはレナードに眠っている実力を出そうとしている、死地に立たされた時の・・・な。

その状態から、安定した状態、今のディルスのような状態に持って行かねばならない・・・」

「・・・まあ、何となく話はつかめた・・」

ランファが閉ざしていた口を開いた

「その、ピンチになった時に出てくる実力じゃあぶないから、安定して力が出せるようにしたくて、無理矢理死地を

作って訓練してる。ま、そんなところでしょ」

「そう言うことだ」

カネアが満足そうに肯く

 

扇子の文字は「理解度満点」

 

「では・・・レナードさんがまずは死地から脱して実力を出すところから・・・ですわね。そしてその後に・・・」

「うむ、たしか、ブラマンシュだったな。そうだ、死地に立たされた時の実力は自らの命を省みないことによって

発揮される、死をも恐れぬなどと褒める言葉にも成りはせぬ・・・ただ命を粗末にしているだけだ・・・まずは、自らの

命を守るところから始めなければ・・・人を守ることも出来ぬというのに・・・」

カネアが言うと、エンジェル隊も半分理解したようなしてないような表情になった。

 

扇子の文字は「まだ8年前のことを気に病んでいるのか・・・」だった。

 

 

8年前、年齢的には7年前となるのだがトランスバール暦406

 

 

「がっ・・・あぁぁぁぁ」

すでに首を絞められてから2分近く、限界も近い

「どうした、その程度で終わる男か?」

 

――いい加減にもう一人のお前が出てきても―――

「あ、ぁぁぁぁ」

 

「ぁぁぁぁぁ」

声がどんどんと小さくなっていく

 

――これ以上は危険・・・か?―――

 

「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!」

「!?」

苦しみ方が変わった・・・これは!

 

ザシュッ

 

不可視の刃がディルスの腕を切りつけた

 

 

「能力の異常活性化・・・始まったか・・」

「ああああっ!」

レナードは叫び、ディルスは落ち着いて観察をする。

ディルスはいったん目を閉じ、再び瞼を開けると・・・

青の瞳が明るく澄んだ瞳へと変わった、対照的にレナードの瞳は深く濁っている、血管を流れる血液の色が、瞳を赤く染め上げている。

 

 

 

《解説》ウサギの瞳はメラニン色素が薄いため、瞳の色がほとんどありません、そのために、ウサギの目は

血液の色がそのまま出てしまい、赤い瞳なのです。レナードの瞳が赤くなっているのは、極端に血液の流れる

量が多くなり、瞳に血液の色が出てきたからです。

 

 

 

「ちょっと・・・大丈夫なの!?」

ランファが声を荒げる

「まだ大丈夫、長く続けば危険だが・・・・おそらくはすぐだろう」

「ところで・・・・」

ミントが急ににこやかになる

「能力・・・使ってますわよ?」

『あ!』

オブスティネートの面々が表情を変えなかったのは、よほど肝が座っているのだろう。

内心冷や汗をかいているのだが・・・・・

 

 

ディルスがレナードの周りに火炎を発生させ、見えない防壁がそれを阻む。

 

火炎発生能力

 

そのまんまのネーミングだが、大気中の酸素濃度すら操作し、強力な火炎を発生させるという、攻撃力ならば最強の能力。

しかしそれも昔の話、今となっては酸素を使わず炎をだし、水などの燃えるはずのない物まで焼き尽くし(蒸発ではない)、

すでに物理現象の域を超えるまでに昇華されたこの能力、ミルガルド家現宗主、ディルス・ミルガルド。

全ての存在を焼き尽くすこの男、少なくとも生身では人類最強といえるだろう。

 

 

 

「ホント、何か見えない壁が・・・」

「気のせいではないのかね?」

ソラトがメガネのブリッジを押し上げながら言う、ジュリアも

「そうだ、目の錯覚―――」

「あ、ディルスさんの腕が切りつけられた、不可視の刃?」

 

レナードの放つ不可視の刃―――力場を刃状に形成したもの―――は複数、ディルスの炎はそれすらも燃やそうとするが、

一つだけ見逃し腕が切りつけられる、しかし、炎の効果で視界が遮られる、冷静な判断を下せるディルスと、死地の実力

を発揮した状態のレナードではそこに差が出来た。

気配を読み、炎の中から飛び出しながら突きを放つ、

 

ザシュッ

 

「ぐぅぅ・・あぁぁ!」

しかし左の肩口に突き刺さった刃を、レナードは片手で掴む、その時に撫子は地面に落ち、手にも血が滲むがお構いなしだ。

 

ザッ

 

刀を掴み逃げられないようにしてから、大和がディルスを斬りつける、とっさに身をかわすが、完全にはかわせない、

ディルスを浅く斬りつけると、レナードは肩に刺さった刀を無理矢理引き抜く、鮮血があふれ出してくる。

 

 

「少しきついかも知れぬが・・・よく見ておけ・・・お主達エンジェル隊の、これからが掛かっておるのじゃ・・・」

(そしてレナード自身の未来も・・・・)

カネアがそう言うと、目をそらすことなく、一同が成り行きを見守る。思わず足が前に出たレナは、カネアに止められた。

 

 

「う・・・く・・・あ・・・・・ぁぁ」

大和を杖代わりにして、ついに地面にひざをつくレナード。

ディルスも傷が多いが、レナードほど危険ではない。

死地の実力も限界にきた、ほとんど人類最強のディルスでさえこうなるのだ、ミルガルド家がレナードを次の段階

へと進めようとしなかったのは、あまりにも危険が大きすぎるから。しかし、今回の一件が始まり悠長なことは言

っていられなくなった。

 

「はぁはぁ・・・父・・・様・・・・・」

息も絶え絶えにレナードが口を開いた。

「・・・なんだ・・・」

こちらも疲労困憊、ディルスが油断なくレナードを見つめる

「わたしは・・・まだ死を・・」

 

 

 

「恐れてはいません」

 

 

 

「所詮・・・ここまでか・・・・」

死を恐れぬ事、それがレナードの今の実力、しかし

「貴様がいなくなれば、お前の妹のレナも、弟のウィンも、ティタニアも、母様も、いや、お前にかかわった者の多

くが悲しむだろう。貴様はその人々を守るために命を捨てる、しかし、それによって貴様は、守るべき人々を悲しめ

るのだ。自らの命の価値も計れぬ人間に、人を守る資格など無い・・・・」

 

チャキ

 

ディルスは刀を構える、澄んだ、まさしく透き通った瞳は、静かにレナードを見据える。

 

 

「待てっ! ディルス!!」

カネアが叫ぶ

「お、お祖母様?」

「ディルスの奴! レナードに見切りをつけおった、殺す気だ!」

『はぁっ!?』

再びエンジェル隊が同時に声を上げた(一部除く)

「ちょ、ちょっと! 殺すって、なんで!?」

「危険だからだ・・・あの状態がいつまでも続き、精神の均衡が崩壊すれば、とんでもない実力を持った殺人マシーン

の出来上がりだ、どうなるかの正確な状態は分からぬが・・・下手をすれば人を斬り殺すだけの存在という可能性も」

「ええっ!?」

「ちょい待ち! 何だってそんな・・・」

口々に何か言おうとするが、カネアはそれを全て止める

「いいか、レナードの実力はまだ発展途上、だからこそ次の段階へと進めようとしている、しかし、発展途上とはいえ、

あの実力で見境が無くなれば対処できん・・・」

「でも!」

ちとせが何かを言いかけ・・・しかしそこにミルフィーが

「あの・・・さっきの話だと・・・レナードさんが生きる希望を見つけられればいいんですよね?」

「その通りだ、なんだ、理解しておるではないか」

後の方でエンジェル隊が(思いつかなかった!)みたいな顔をしている

「じゃあ、レナードさんを後から応援するってのはどうでしょう? みんながいるから、死んじゃダメだって・・・・」

「おお、一理あるな・・・しかし・・・」

そこでカネアはディルスを見る

「本気のようだ・・・・」

「マジですか・・・」

「マジだ・・・」

「・・・・・」

ティタニアがいきなり前へ出た、さすがに今まで黙っていたので、誰も予想していなかった

「レナードちゃぁぁぁん! ファイトーッ!」

『何か違う!!』

「・・・いやまて・・・そうか・・・」

「カネアさん・・・一人で納得しないで下さい」

ミントの言葉を聞いているのかいないのか、カネアは声を張り上げる。

扇子の文字は「絶叫!!」

「レナード! おまえの護る人間を思い出せっ!!」

「護る・・・?」

 

守る――いや――――護る―――――

 

舌が痛くなる料理を出す中華少女――――昔の仲間を思い戦いに身を投じた女隊長――――家のために自らの希望を

捨て欠けたお嬢様――――父親の死を悼み悩み続ける少女――――自らの感情を殺し続けた小さき少女――――エンジェル

 

はた迷惑でしかない副会長――――屁理屈の会長――――ナンパしてはフラれ続ける級友――――元気だけが取り

柄の女子――――フラッグ持ちの少女――――気弱な委員長――――お茶ばかり飲む少女―――そのほかにも・・・・愛すべき学友たち・・・

 

そして――――自らが愛し―――相思相愛――――そして――――自ら死なせてしまった――――あの―――――――――

 

死ぬわけにはいかない――生きている者――死んでいった者――自分の後に護り――隣に立って共に戦ってきた――――その人達を――――

 

「あああああああっ!!!」

 

「また!?」

「違う!」

レナが驚きの声を漏らすが、カネアがそれを止めた。

「次の段階だ・・・」

 

護るべき者を悲しませるな

 

 

隣に立つ戦友に涙を流させるな

 

 

愛すべき家族を

 

 

かつて愛したあの人を―――今はいないあの人を――――

 

 

「はぁっ!!!」

ミルガルド家の剣術を振るう二人、神速の居合い

 

気合い一閃

 

ディルスの刀もまた超神速で振るわれ、レナードに向かい

「はぁぁぁっ!!」

 

ギィィィンッ!

 

レナードの振るった大和は、ディルスの刀を斬り飛ばした。

 

「レナードが・・・次の段階に?」

ランファが呆然と呟く

カネアもそれに肯き

「うむ、自らの死が、より多くの人間を悲しませることを、あやつは分かっていなかった・・・・ただ・・・それだけのこと」

 

 

「レナード、貴様はあのときの事件で人を多く殺した、オブスティネートでもそれは変わらん、斬り殺し、撃ち殺した

数は四桁に達しているだろう。

敵艦を撃墜して死んでいった者の数は知りようもないが・・・それまで含めれば5桁は超える。人の命を奪いすぎたこ

とにより、お前は罪悪感を背負い込み、自らの命を軽く見た・・・・贖罪のために人を護り、そして今はエンジェル―――

ミルフィーユ・桜葉・マイヤーズを護っている。

そのために命を捨てる覚悟をして・・・・しかし、お前が死ぬことでまた悲しむ者が出ることを考えていない、それがお前に

眠る真の力をも押さえつけた・・・後で鏡を見てみろ・・・今の貴様の目は・・・とても澄んでいる」

 

ディルスは蕩々と語った、レナードの瞳は、先ほどまでの濁った瞳ではなく、ディルスのように澄んだ瞳であった。

ディルスの瞳は―スッ―と元の色に戻った。

 

「生きようとする意志を持ち・・・・自らの命と共に人を護ることを思うお前ならば・・・この一件を任せてもいいかもしれん・・・・」

 

「父様・・・」

 

レナードはかすれた声で呟いた。

 

「己の命を犠牲にして人を護ったとしても、護られた者にはお前が死んだという悲しみが残り、幸せなど感じられるはずもない」

 

ディルスはそこで目を細めた―――過去を思い出すかのように

 

「生きようとする意志は強き物・・・彼女の一件があってから、お前は自分の命を軽く見るようになった、しかし、

今のお前は違うだろう? 今のお前ならば、連中に負けることも無かろう・・・」

 

「父様・・・ありがとうございました」

 

絞り出すような声をレナードが出す、ふらふらの足で軽く礼をしたようだ。

「それにしても・・・この刀はマキナに造らせたものなのだがな・・・」

ディルスは半ばから折れた刀を鞘にしまう、レナードも大和と撫子を鞘にしまう。

「まったく、不良品だな・・クレームをつける」

「あれだけの一撃を受ければ折れるのも当たり前であろう」

カネアが二人に歩み寄る、後から一同もぞろぞろと付いてくる。

「ヴァニラ・(アッシュ)、ナノマシンでレナードを治療してやってくれ」

「・・・はい」

静かに肯くと、ヴァニラは早足でレナードに近づき治療を開始する。

「こちらも頼む」

「は〜い」

ディルスが言うと、ティタニアがニコニコしながら歩み寄る、ティタニアが手をかざすと、みるみるうちに傷がふさがっていく。

「治癒系の能力かい?」

だんだん能力者についての知識も増えてきたのか、フォルテが聞くと

「いや、ティタニアの能力は――能力複写能力――人の能力をまねする能力じゃ」

「何じゃそりゃ・・・まあ大体意味は分かるけど・・・」

カネアとフォルテが苦笑する。

「治療が終わったら・・・我々は戻るぞ」

「えっ、兄様とまだ話をしてません!」

「いそがしい、オブスティネートもすぐに出発するだろう、データを転送しておいた、ここに来る途中でこの惑星を

包囲している部隊があったぞ、とっとと撃破して、本星に戻れ・・・民間船だからこうして来ているのであってお前

達は明らかに攻撃の対象だ」

「分かっています」

「それと・・・」

 

いったんそこで言葉を切った、ディルスは神妙な面持ちになり

 

「バリトン・カーノのことだ」

「!!」

「エオニア軍の残党として一部の兵が潜伏していた、さすがにもう連中だけで行動を起こせるほどのモノでもなく、

バリトンにも求心力はさほど無かった。

後は時間と共に自然消滅を待つような状態だったのだが、司法部の企み、それと共に一部の作戦部・情報部・研究部

の人間の裏切り、それによって残党連中が兵力を集めていった。

そして、大量の戦艦だが・・・そのほとんどがオートパイロット、つまり自動操縦。どうやら連中は、軍需産業複合体

ローハイドを後ろ盾としているようだ」

「なるほど、ローハイドならば多くの艦やMHを用意できるのもうなずけますね、しかしなぜ?」

「シェアの拡大だろう、武器産業においても、トランスバール、いやEDENか・・・シェアナンバーワンはブラマンシュ

財閥、ついでミリエルス重工だ。

ローハイドはこれらの企業よりも上に立つために、自分たちに都合の良い世界を作ってくれる連中に協力したのだろう」

「欲ボケでここまでやりますかね?」

「成功すれば莫大な利益を得られるのは事実だろう、新たな政府となるクーデター軍がローハイドから武器を買えば

自動的にシェアナンバーワンだ、政府が不買運動でもすればブラマンシュもミリエルスも自然と潰れる」

 

「それだけはさせませんわ!!」

 

「み、ミントさん・・・」

ディルスとレナードの二人だけのシリアス世界に割り込み一名。

話の展開に必死で付いていこうと周りが見ていたのだが、自分の家の会社がつぶされようとしている彼女は黙っている

つもりはないようだ。

「ま、まあとにかくだ。ローハイドの軍事工場の位置を一部転送しておく、分かっている分は全てだ、それを元に後は

オブスティネートで調査しろ、一週間もあれば全て押さえられるだろう」

「ええ」

「だが連中の工場を押さえるよりも、優先すべきは――」

「言われずとも・・・分かっていますとも」

「・・・そうか」

 

 

「えっとぉ・・・ちょっといいかな? お二人さん」

「はい?」

「なんだ?」

フォルテがおずおずと手をあげると、レナードとディルスがタイミング良く振り返る。

何か、さっきまで殺し合ってた二人とは思えないほど息がぴったりだ・・・さすが親子・・・

「展開に誰もついて行けてないけど・・・」

「むぅ・・・」

「えぇっと、ローハイドというのは・・・先ほども申しましたように軍需産業複合体と呼ばれるモノでして、

戦艦や武装などの軍備品を扱っているわけです。

他の商売にも手は広げていますが、まあ軍備品中心の会社です。で、そのローハイドがエオニア軍残党と

トランスバール皇国軍の一部から出た反乱分子と手を組んだというわけです。

父様はいくつか情報を手に入れたのでデータを転送してくれました、データを元に独自調査を行い、次の行動

に移ります。・・・分かりましたか?」

 

『半分くらい』

 

「あはは・・・微妙な状態ですね」

「それでだ、更に悪い知らせがある」

「いい知らせは?」

「お前の実力がアップしたぞ」

「・・・悪い知らせを聞きましょう」

「アポカリプスが動き出した」

「なっ・・・」

ディルスの言葉にレナードの口から先ほどとは段違いの驚きの声が漏れる、いや、それは声ではなく息が漏れた

音だけで、声など出せてはいないのかも知れない。

「って、だから置いてけぼりにするなよ」

またもやフォルテが・・・・あれ? タクトが後の方で何か言いたそうに・・・まあいいか

「ああ、すみません。アポカリプス・・・というのはまあ暗殺を請け負う企業でして・・・私も何度か襲われたことがあります」

「おいおい・・・そのアポカリプスとかいう連中が今度はさっきの連中と手を組んで・・・とか言う話じゃないだろうね?」

フォルテの言葉を受けてレナードがディルスの方を見る

「大体そんなところだな・・・正確にはアポカリプスにクーデター軍が依頼を入れたそうだ、内容までは分からないが

大方タクト・マイヤーズ、ランファ・フランポワーズ、ミント・ブラマンシュ、フォルテ・シュトーレン、ヴァニラ・H

烏丸ちとせ、つまりお前達への暗殺以来」

 

『ええっーーー!?』

 

名前が挙げられた全員が、それぞれの驚きを示す、上のように叫ぶ者、目を丸くする者、天国にいるお父様とか

言い始めちゃってる人!?

「って、ミルフィーが抜けてるけど・・・?」

「連中が殺したいのは指揮官であるタクト・マイヤーズ、そして実質的戦力となるエンジェル隊だ、ただし、貴様らも

知っているとおりミルフィーユ・桜葉を敵は狙ってきている、殺すのはお門違い・・・もしかすればアポカリプスの

暗殺者達にミルフィーユ・桜葉の誘拐も依頼内容に含まれているやもしれん・・・」

落ち着いて淡々とディルスが喋っているが、小さな混乱状態にみんなが陥っていた。

「私が考えていたよりも、事態は深刻になっているようですね・・・」

「そうだ・・・レナード、一つ言っておくぞ・・・」

「何でしょう?」

混乱し始めたエンジェル達を後に、ディルは静かに―――

 

「アダムが来るはずだ・・・」

 

「・・・・・・・そうですか」

しずかに、呟いて応えた

「誰よ?」

「私に復讐したがっているアポカリプスの人間、そして」

 

「組織名である神の計画(アポカリプス)の名を付けた張本人」

 

 

 

 

 

「よいしょっと・・・」

「まだ・・・あまり動かない方が・・・輸血をしなければ行けませんし」

あちこち血に汚れた体を見渡し、レナードは苦笑しつつ

「そうでしょうけど、急いで戻る必要もありますし、あまり時間をかけるわけにも行きませんからね。それでは」

 

ビシッと敬礼をする

 

「オブスティネート司令官、レナード・ミルガルド、ただいまより任務へ戻ります」

そこですこしニコリとする

対してディルスは笑み一つ浮かべずに

「急げ、いつまでものんびりはしていられんぞ」

「はい」

それだけ言うと、名残惜しそうなレナとウィンを引きずってディルスはヘリに戻る、ティタニアとカネアも後ろに続く。

「またな!」

そう言うとカネアが扇子を持った手を振る

 

扇子の文字は「また合う日まで」だ

 

「まったく、とんでもない話だったわよ・・・GAの世界観は無茶苦茶だし、活躍してるのあんた達だけじゃないの、

あと、能力のこと黙ってたことも説明してもらうわよ」

「あ、それは敵の目を欺いて今も能力が使えないと思い込んでいれば不意打ちになるかと・・・」

「へぇ・・・でも、あたし達を欺したのは・・・・許さなぁい!!」

ふざけてレナードの頭をぐりぐりと拳骨(げんこつ)で抉るランファ

「ぐはぁっ!?」

叫んでレナードが倒れ込む

「重傷だった人間に・・・なんて事を・・・」

「ヴァ、ヴァニラ・・・・」(汗)

グルグル目玉になっているレナードをソラトが担ぎ、ヘリに乗り込む。

「まったく、レナード君も大変ね」

蒼乃がぽつりと呟くと、周りも一斉に肯いた

しかし、そこでランファがふと重要なことに気が付いた

「あーもう! 結局休めなかったぁ!」

 

 

 

「疲れが・・・」

「俺結局何しにあそこ行ったんだろう・・・」

 みんなが口々に文句を言う、特にタクトは本当に何しに行ったんだろう、会話に入ってないし。

『ハァ・・・』

 

「ため息ばかりつくな・・・こっちまで憂鬱になってくる・・・・」

復帰したレスターが呆れたように後ろを振り返る、ブリッジの後でだらけた声を漏らすタクトとエンジェル隊

「病み上がりのくせに元気だな・・・」

「病んでたわけじゃなくて怪我と気絶だけどな・・・それよりも、エンジェル隊を待機させろ、上空に敵艦隊を捕捉、

20000キロメートル上空、成層圏を抜けてすぐだ・・・」

「あ〜もう・・・疲れた疲れたぁ! 休みたいぃ!」

「やかましぃ! エンジェル隊は紋章機にて待機!」

「りょーかいー」

「はぁ」

 

ダラダラ

 

「駆け足ぃっ!」

 

ドダダダダッ!

 

「ったく・・・ん? おいアルモ、その端に出ているのは何だ?」

レスターがスクリーンの端を指さした

「えっと、あ、ディルスさんからのデータです、整理をしておこうかと・・・たとえばほら・・・この軍需産業複合体、

何か言いにくいのでローハイドで言いますけど。

そのローハイドの提供した艦隊を指揮する予定の人間の名前が出てます」

「ん? 指揮する予定?」

レスターが疑問の声を上げる。

「ああ、たぶん、残党にはろくな指揮官が揃って無くて人手不足で、戦艦と一緒に指揮官も提供してもらったんじゃないかな?」

「無茶苦茶だな・・・で、指揮官の名前は? 有名な奴なのか?」

「さあ、有名かどうかは分かりませんけど・・・サイモン・ローエンハイム・・・だそうです」

 

『サイモン!?』

 

「え? あの、司令も副司令もご存じで? 有名な指揮官なんですか?」

「クールダラス副司令はともかく、マイヤーズ司令まで知っているとなると有名なんじゃない?」

アルモが聞いて、ココがからかうように言うと・・・

「残念ながら有名人じゃない、ただ・・・・」

「士官学校時代の友人だよ」

 

途端に、ブリッジに沈黙がおりた。

 

 

 

【あとがき】

 え? 前回エンジェル隊を活躍させるって言ったのに話が違うじゃないかって? ちょっとちょっと奥さん、

エンジェル隊は次の話で活躍するんですよ、一見「ああ、クロス小説とかの分類だもんね」くらいの感想しか

持たれないような今回も、ちゃんと以降の話にかかわっているんですから! 見捨てないで下さい・・・

 

ところで皆さんは雑談室は見ていますでしょうか?

  

結構反感を買う書き込みかも知れない・・・。

 

さて、この中で書かれている「どうでもいい」部分はどこでしょう?

A.それは今回の話です。

 

うう・・・本当は展開上の都合で登場させた連中も、なんだか当初の予定と大幅にずれてしまい、いくつか

「無駄」と思える話で軌道修正していかなければならなくなり、オリキャラ嫌いの人がそう思うのも仕方あり

ません。

 

オリキャラ嫌いの方は・・・まあ小説2に立ち寄らなければいいので・・・2も読みたい方だけが来ればいい・・・

せっかく分類されているんですからね。

 

というか私自身がオリキャラ前面に押し出しすぎるのはどうかと思うくらいです。

今回の話でメインはレナード、次の話はエンジェル隊の予定ですが、それでもやはり軌道修正のために色々とオリ

ジナル要素が入ってくるでしょう。

長々と続くのはやはり私自身も感じているところですが、もうしばらくお付き合い下さい。

 

まあとにかく、あまり良くない感想を持たれるのも仕方ありませんが・・・次回は・・・ってあ

 

次回予告

  

あとがきが―――

ランファ「さあ! ランファ様の次回予告!」

 あと―――

ランファ「次回は一気に逃げから攻めへと転換、本星とその周辺を掌握する作戦になるとか! あたしの活躍をこうご期待!」

 あとがきぃ―――――

ランファ「オブスティネートが何をやるのかも興味あるけど、読者が気になるのはあたしの活躍よね!」

 話を聞い――――

ランファ「さあ! 次回【是々非々が相手に欠けている】お楽しみに!」

   あとが――――

        

           話を聞いてくれない無茶苦茶なあとがき次回予告

 

是々非々―――良いことはよいこと、悪いことは悪いことと道理にそって判断することを言う。