使用上の注意:何も考えずにお読み下さい。

 

 

 

明日の美紗さん

 

 

 

 

―明日のためにその1―


帰宅途中、商店街で紫亜さんに会った。

「樋口さん、こんにちは」
「こんにちは」
「晩ごはん、何がいいですか?」
「丸焼き」

紫亜さんに戸惑い顔をさせる事に成功し、僕は悦に入りながらさらに家路を急ぐ。
公園で、桜の木を掘り返している美紗さんに会った。

「美紗さん、何してるんですか?」
「てひひー、桜の木の下には死体が埋まってるらしいッス!」

仮にそれが本当だとして。
掘り出してどうするつもりなんですか?

 

 

 

―明日のためにその2―


「これでも食らえ」

大ちゃんにカレーをたっぷりと食べさせ、満足した僕は教室に戻ることにした。
廊下で美紗さんが待っていた。

「コタロー君、進路って何ッスか?」

手にした書類を見せながら尋ねてくる。
進路希望調査書だった。

「ふつうは受験したい学校を書くんですけど……美紗さんの場合は、希望する職場とかを書けばいいと思います」
「なんだ〜、お仕事したい場所を書けばいいッスね?」

美紗さんは廊下にしゃがみ込み、その場で記入を始める。

『 希望進路: 天国  』

……自殺志願者みたいだ、とか思ったのは内緒だ。

 

 

 

―明日のためにその3―


おかげさまで、子星ちゃんをきりきり舞いさせることに成功した。
塾へ向かう途中、道の真ん中で空を見上げている美紗さんに会った。

「美紗さん、何してるんですか?」
「………………」

まぶしそうにしながら、太陽を睨んでいた。

「負けないッス!」

やおら叫ぶと、翼を広げて飛び立ってしまった。
……ロウの羽根じゃないから、まぁ大丈夫だろう。

 

 

 

―明日のためにその4―


美紗さんはたまに、人間界の物品についてうろ覚えだ。

「美紗さん、マフラー取ってくれませんか?」
「マフラー……ああ、首にグルグルして、あったかいやつッスね!」

夕食を作っている時も。

「美紗さん、包丁とってくれませんか?」
「包丁……ああ、人を刺すやつッスね!」

あなた本当に天使になる気あるんですか?

 

 

 

―明日のためにその5―


美紗さんはたまに、人間界の物品についてうろ覚えだ。

「美紗さん、ボールペン取ってくれませんか?」
「ボールペン……えっと、ゴシゴシやっても消えない方……ッスよね?」

たまにシャーペンとの区別がつかなかったりする。
夕食を作っている時も。

「美紗さん、塩とってくれませんか?」
「はいッス! なめると甘い方ッスね!」

たまに自信満々で間違ってたりもする。

 

 

 

―明日のためにその6―


紫亜さんと買い物に出ると、街でテンちゃんに会った。

「し、紫亜さん。こんにちは」
「こんにちは」
「湖太郎……その、で、デート……か?」
「それ、キラーパス」

セリエAばりの絶妙なタイミングで、テンちゃんに紫亜さんをパスする(ぶん投げる)。
2人はもつれ合って倒れた。

ドンッ ドテッ ボキッ!

「し、紫亜さん大丈夫ですか?」
「綾小路さん、足が変な方向に!」
「なあに、紫亜さんが無事ならこれくらい……湖太郎てめえ!」

礼なんていらないさ。
僕は1人で買い物を続けた。

 

 

 

―明日のためにその7―


今日は健康診断。
死闘の果てに、ついに視力2,0を勝ち取った。

「見える……見えるぞ……」

商店街を悠然と凱旋する。
武具店で弓矢を物色している美紗さんに会った。

「美紗さん、弓が欲しいんですか?」
「やっぱり天使と言えば弓矢ッス! あの子のハートに一発必中ッス!」

おまわりさん、ここに人殺しがいます。

 

 

 

―明日のためにその8―


秋の夕暮れ、美紗さんと公園へ散歩に出た。

「わ〜、コタロー君、とんぼッス! 赤とんぼがたくさんッス〜!」

はしゃぐ美紗さん。
赤く染まった空に、赤とんぼの群れが飛んでいた。

「 ♪ ゆうや〜けこやけ〜の、赤と〜ん〜ぼ〜」

不意に、美紗さんは歌い出した。
情緒あふれる歌声だった。
わけもない物哀しさに、目頭が熱くなる。

「追われ〜て見たの〜は〜、いつの〜日〜か〜♪ 」

……三木露風は、何に追われていたんだろう?
昔の人の苦労を思い、目頭が熱くなった。

 

 

 


ーあとがきー

燃えたよ……燃え尽きた。
真っ白な灰に……。

ファンの皆様ごめんなさい。