Of the angel by the angel for the
angel with love
「と言う訳だ、レスター、食堂を1時間くらい借りるから」
「・・・何がと言う訳だ。全然理由になっていないぞ」
全く、こいつの司令官権限は私物化されているな。
「ついでに、お前も来い」
うわ、ちょっと待て・・・何ていう間もなく、俺の襟首は既に奴に掴まれ、共に引きずられた体がブリッジから出て行く。
ブリッジのクルーが気の毒そうに俺を見ていた。
おい、止めろよ。
普通、司令官と副司令官がブリッジにいないなんて考えられんぞ。
しかし、襟首を掴まれたものだから息苦しくて仕方がなく、突っ込みすらできん。
ぼやけ出す景色を見ながら、後で張っ倒してやる。そう心に誓った。
事は1時間ほど前、タクトとエンジェル隊の能天気な話から始まる(いつもの事だが)
相変わらず人の目を盗んで仕事をサボるのが得意なタクトは、艦内アナウンスの呼び出しなど、既に聞こえていない。
(笑いながら「聞こえなかった♪」と、とぼけるタクトに、レスターの愛銃の銃口が向けられていた。)
能天気菌を振り撒く、いや、ぶちまけながらニヤけた顔も直さず、エンジェル隊とじゃれに行っていたらしい。
しかし、普段は和やかなお茶会が開かれているらしいティーラウンジに、珍しいモノを見たとか。
俺にはタクト・マイヤーズという存在すら既に希少種だが。よし、今度タクトに【人間天然記念物】の称号をやるとしよう。
・・・話を戻す。なんと、エンジェル隊が意見をぶつけ合っているらしい。それも1人ずつ、バラバラの意見を持っており、
口論になったとか。
〜再現〜
「ん、みんな揃って何かあったの?」
結構激しい剣幕で話し合うエンジェル隊。そこに能天気菌の親玉1匹。
一瞬、皆がタクトに振り返ったが、ほんの一瞬の間に、口論が再開されていた。
既に相手にされてもらってないタクトは、ティーラウンジの脇でさめざめと泣いた。
どうやら一段落ついたらしく、少し静けさを取り戻しだしたティーラウンジにタクトの声が久々に通った気がする。
「皆、何かあったの?」
蘭花は振り返ると本気で驚いた顔をしていた。
「あれ? タクト、いたんだ」
ティーラウンジの真ん中で首を吊り始めたタクトの頭上のロープをフォルテの弾丸がぶち抜いた。
タクトは泣き顔でフォルテを見た。フォルテもそれに応え、哀れみの表情で頷いた。
「だ、だから、何かあったの?」
泣き声が所々裏返っている。
「実はね・・・オムライスなのよ」
蘭花がしみじみと言う。全然意味が分からないタクトは呆然として、はい? と、聞き返した。
「だ〜か〜ら〜、オムライス! オムライスの味についてよ!」
わめき出した。
熱くなる蘭花とは対照に、段々頭が冷めだしたタクト。
なるほど、読めてきた。実にエンジェル隊らしい。
「普通のオムライスじゃなくて、少し手を加えるなら何が良いか、で口論してるんですよ〜」
ミルフィーユが困ったようにため息をつく。タクトがああ、やっぱりね、とばかりに頷く。
「あのねぇ、オムライスに辛さを除いたら、何が残るっていうのよ!?」
オムライスに辛さを加えたら何が出来るというのだ。
「でも、甘く仕立てたのも、美味しいよ〜」
「オイオイ、あまり強烈なのより、うっすらした感じのが大人の味ってもんだよ」
「あら、味だけではありませんわ、見た目も大事でしてよ」
「・・・栄養が重要・・・」
こんなところで上手く韻を踏むとは・・・侮りがたし。
「先輩方、やはり文化や風流をもってして別の“味わい”というものを・・・」
口々に騒ぎ出す。再び収集がつかなくなる・・・と思いきや、
これはやはり、タクトの生来備わった司令官としての資質か、エンジェル隊をすっかりなだめていた。
彼の個性の塊達を。ただ、内容があまりにも馬鹿らしいが。それもまた、生来備わった馬鹿らしさか。
「・・・よし、それなら誰の意見で作った料理が一番美味しくて、良いのかを食べ比べしてみたらどうだろう?」
喧騒は一瞬で落ち着いた。見事、全員一致。
「審査員は俺とレスター。 なんたってレスターの奴、学生時代は“レスター・マスヒロ”と呼ばれたくらいだからな」
マスヒロとは、どこかの国のすごい料理評論家。本名(マスヒロ=ヤマモト)
このことをレスターに話したときに、やはり愛銃の銃口はタクトへ。
「いいじゃない、やってやるわ〜〜!」
蘭花が意気揚揚と拳を振り上げる。
「上等だね。あたしの食べて、腰抜かすなよ!」
「よ〜し、明日の18時から、食堂でやるぞーーー!」
「「「「「「お〜!」」」」」」 と言う事で、一時解散。
各々、素敵な食材をそろえ、いざ、食堂へ!
(本当に、こんなんで良いのか?)
17時、55分、〜エルシオール、食堂〜
(大丈夫か・・・上の書き方・・・殺人事件でも起こりそうな・・・)
連れて来られたのは、もちろん食堂。
途中、本当に窒息しそうで危なかったが、振りほどいた頃は遅く、食堂の中。
向こうではバカが「エンジェル隊の料理ーーーー! 楽しみだなァーーー!」なんて叫んでいる。
好都合だ。今の内に抜け出して・・・
「どこに行くのかな? レスター・クールダラス君」
なッ!?
俺の体は一歩進んだ所で止まった。心眼でもあるのかこいつ。振り返ってないぞ。
どうやら戦略的撤退は見込めないらしい。冷や汗かきつつ、しぶしぶと席に着くしかなかった。
「さて、俺とお前は今回の審査員になっているんだ」
既にナプキンをかけてスプーンを右手で弄んでいる。下品なヤロウだ。
何故俺が?なんて質問は野暮だろう。どうせくだらない事ではぐらかされるに決まっている。俺は黙って話を聞いた。
「そんで、これがルールだ」
そう言いながらタクトは、俺に一枚の紙を手渡した。
ーーーールールーーーー
一、審査員は出された料理を素直に評価すること。
一、どうしても食べられないときは、エチケット袋に吐き出せ。
一、料理には、必ず各々の意匠を加えること。
一通り読み終えた俺は、タクトに返した。
「どう? これ、俺が書いたんだよ? 俺だって、これくらい書けるんだぞ!」
何て低レヴェルな自慢だ。よく軍隊に入れたものだ。
「・・・仕方がない。今回だけ、引き受けてやるとするか」
俺は知らなかった。この気まぐれが大変な事に巻き込まれる事に・・・
「さーて、皆の様子を見に行こうか! エンジェル隊のエプロン姿・・・うぉぉぉーーーー!」
勢いよく席を立って、エンジェル隊が料理している厨房へスキップしていくバカ。かと思いきや、いきなり足を止め、こちらに半眼を向けた。
「ほら、お前も来るんだよ」
・・・まあいいか。俺は気だるくタクトの後を追った。
「あ、タクトさん、それにレスターさんも」
ミルフィーユは厨房を覗き込んだ俺達を見つけて笑顔を見せた。
ケチャップとタマネギの炒めている香りが目立ち、食欲をそそる。
「ほう、いい香りだな」
えへへ、と照れ笑いする。何とも微笑ましい。
「ミルフィーはどんなオムライスを作ってくれるのかな?」
「ヨダレ垂らすな」
ビシッとタクトの頭にチョップを入れた。頭を押さえて くぉぉ、と唸っている。ザマアミロ。
そんな俺達を見ながら彼女は楽しそうに料理をしている。
「これはですねー、甘ーく仕立てたオムライスにデミグラスソースをかけた、少し甘辛系のオムライスです! 後は、卵を焼くだけなんですよ」
タクトは聞くだけでふやけている。スライムかお前は。
しかし、ミルフィーユの料理は期待できそうだな。
「楽しみにしてる」
軽く会釈をして隣のキッチンへ向かった。
「おーい、蘭花」
フライパンから上がる炎が料理の激しさを物語っている。蘭花は腕を小刻みに動かし、ライスを炒めていた。
「あら、タクトに副指令。・・・さてはあたしの料理スキルを見に来たのね〜」
ヌフフ、と笑いながらも、フライパンの動きは止まらない。
「蘭花はもちろん辛い系だね」
フライパンが赤い。炎じゃない。ライスが赤い。ケチャップじゃない赤さだ。唾が勝手に出てくる。
「赤いねー・・・」
「ああ、赤いな・・・」
俺達は何と言う事無くただその赤いのを見ていた。
別の見方では血にも見えるな。
「そうだ、タクト、味見していきなさいよ」
その言葉がスイッチでたちまちタクトの顔から血の気が引いていく。差し出されたスプーンの上には、赤い何かが乗っている。
友よ、心から冥福を祈ってるぞ。
「い、いただきます・・・」
パクッ ゴクッ 血の気の引いた顔にイグニッション。ゆでだこが現れた。いや、違う。
「ひ、ひひ・・・美味しかったよ・・・ほれじゃあ・・・!」
噛まずに丸呑みして、涙をこらえ、笑顔を向けて早足にその場を立ち去るタクト。言葉もおかしかったところを見ると、舌も回らんらしい。
「・・・?」
何のことか分からずに呆然とする蘭花に、
「・・・とりあえず、楽しみにしている」
とだけ言ってタクトを追った。
蘭花は何処か釈然としない様子で次の作業に取り掛かっていた。
「なぁ・・・レスター、水飲んでひていひ?」
「勝手にしろ」
言い終わるが早いか、食堂の端にある給水口へ走っていった。脂汗がすごいな。
やれやれ・・・
「あら、クールダラス副指令ではありませんか」
「ん? ああ、ミントか」
振り返ると、ミントがライスを炒めていた。ああ、これだ。これがオムライスだ。あの色はおかしい。
「ふふっ、蘭花さんの料理の後に見れば誰のでも美味しそうですわ」
「ところで・・・そのオムライス、見たところ普通のオムライスだが・・・何か工夫はしないのか?」
心を読まれる事を気にすることなく、続けた。
「ふふ・・・これからが面白いんですの・・・まあ、出来てからのお楽しみ、と言うことで・・・」
向こうも何もリアクションをとらなかった事を気にする様子も無く、笑う。一体どんな料理が出来るというのか。
「さて、そろそろかねえ・・・」
フォルテは、炒めていたライスを皿に盛り付けていた。
「ん? 随分色が薄いんだな」
フォルテの作っていたライスは、色がかなり薄い。
「おや、副指令どのじゃないか。タクトはどうしたんだい?」
俺に気付いたフォルテは湯気の向こうで俺1人だということに驚きの表情を浮かべていた。
「蘭花のを試食してな・・・給水口へ走っていった。」
ああ、なるほどねぇ、とフォルテがニカッと笑う。少し八重歯が出ていた。
「・・・しかし、そのライス、色が薄くないか・・・?」
次の卵の準備に掛かろうと、卵を冷蔵庫から取り出しながら、彼女がへっへーともう一度笑った。
「薄味でゆっくり味わう・・・それがコンセプトなんでね」
なるほど。それはそれで良さそうだ。
オムライスは、ある国が進んだ国の食文化を取り入れる際に、自国の主食・・・米を取り合わせるために創り出された
庶民料理。
それを外国の作法(スロー・ミール)で食べ、高級気分を味わう・・・か。原点に立ち返っていて、かえって新鮮だ。
「さて、もう一踏ん張りするかねえ!」
彼女は考えに耽っている俺を尻目に、卵を溶き出した。
「俺も行くとするか・・・」
いつぞやの“ヴァニラちゃん親衛隊”は涙を流しながらヴァニラのエプロン姿に魅入っている。
中にはビデオを撮る奴も。何でも良いが、俺まで映すなよ。阿呆らしい。
「あ・・・副指令・・・」
ヴァニラは俺に気が付いて作業を止めた。
「俺の事は気にするな。ほら、卵が焼けてきてるぞ」
ジュゥゥ〜!
端からどんどん固まってくる卵。その中には、パセリがまぶされている。
「ほぉ・・・美味そうだな」
卵の見事な焼き色に、思わず唾を飲み込むくらいだ。
「・・・栄養満点のオムライスを作ります・・・」
切れ込みを入れ、フライパンから破れる事無くすくい上げられた薄い卵が、ライスの上に乗った。
底までしっかり卵が巻きつけられ、少し殺風景ながらも立派なオムライスが出来ていた。
「後は・・・装飾だけです・・・」
この出来で栄養満点ならば、食堂に栄養食として置いても良いのでは? と本気で思っていた。
「ここにパセリ、少し香り付けにしそを・・・」
何故だ。何故オムライスの装飾にしそなんだ。
「ちとせ」
普段から集中力が研ぎ澄まされているのだろう。こちらの言葉などまるで聞こえていない。
「ちとせ」
今度は語勢を少し強くして呼んでみる・・・・・・・・ダメか。
ふと隣を見ると、刺身包丁が置いてある。・・・何故?
さらにその隣に醤油注し・・・何故だ?
とりあえず、疑問だらけのままで審査員席に戻ることにした。
「終了ーーーー!」
復活したバカがどこからかラッパを取り出して吹き出した。お前、それ補給品目にあったやつじゃねえか!
誰がこんなの買うんだと思ってたらお前か!
いつのまにか出来たギャラリー達の歓声が上がる。親衛隊が特にやかましい。
「では、まずミルフィーからいってみようかぁ!」
やけにハイテンションなタクトと一緒にハイテンション・・・なハズのミルフィーユは何故か挙動不審だ。
「は、はい・・・ドウゾ・・・」
ん? 最後が棒読みだったぞ・・・? 自信無さげな態度と裏腹に、蓋から現れたるは見事なオムライス。匂いが良いな。
「おおお、美味そうだな〜!」
コイツ、勢いだけで全部食べてしまいそうだな。ヨダレが糸引いて、まるでダイダ●ボッチだ。
いただきまぁ〜す と、タクトがスプーンでオムライスを切り分けて行く。
スプーンがオムライスに当たる度に あっ とか あぅっ だとか悲鳴ともつかない声を小さく上げる。
何をそんなに焦っているのだろうか。
タクトはそんなミルフィーユの異変に全く気付いておらず、口に運ぶ。そのとき・・・
「あ・・・!やっぱりダメ!」
どうしたことかミルフィーユが止めに入った。しかし、時既に遅し。オムライスは口の中に。
あ・・・ 彼女は呆然とタクトが笑顔から疑惑の顔に、それから苦しみの顔に変わるのを見ていた。
「に、苦い・・・」
何とか飲み込んだタクトは、卵を捲って見る。
なんと、黒い。真っ黒だ。焦げ・・・なのか!?
「ごめんなさーい、失敗しちゃいました・・・」
俺達2人は、正直、楽しみにしていただけあって、愕然とした。
この・・・発癌性の高そうな食べ物に。
しかし、他のエンジェル隊は、優勝に一歩近づいた為か、皆が皆、ほくそえんでいた。(ヴァニラやちとせまで)
「つ・・・次・・・蘭花・・・」
コイツ明らかにショック引きずってるな・・・大丈夫か・・・?
ギャラリーは騒がない。気の毒そうにこっちを見ている。ということはやはり・・・
「見て驚きなさい! じゃーん!」
・・・・・・・・・・・・・・・赤い。もう卵がどこだ、ライスは何だとかそれ以前に赤い。全てに共通して赤い。
「その辛さ、1000倍よ!!」
もう味なんてするのだろうか? そんな疑念を抱いてる内、急にタクトがスプーンでそれをすくい上げた。
「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを・・・教えてやる」※1
訳の分からないことを言いながら、マジな顔で口に運ぶタクト。
一口、二口、・・・顔がいよいよトマト化していく。
「ぐ・・・ぐぅう・・・」
席を立ち、よろめき、とうとう膝をついた。
「大丈夫か! タクト!」
流石に心配になった俺はタクトの側に駆け寄った。しかし腕を突き出し、助けを拒絶した。
「まだだ!まだ終わらんよ!!」
再び立ち上がると、あの赤い奴(名称不明)を勢いで全て平らげた。
「ララァ・・・やったぞ・・・」
―――18時34分、42秒、タクト・マイヤーズ、もといシャ●・アズ●ブル、死亡―――・・・
エンジェル隊をはじめ、ギャラリーが皆合掌した。
では、タクトの葬儀中は、
美味しいオムライスをご鑑賞していて下さい。
「何で!? 納得いかないわ! 美味しいオムライスなら、今タクトが食べたじゃない!」
激しい剣幕でまくし立てる蘭花。
「ああ、タクトも美味しそうに食べてただろう? もっと辛い料理をあの世のタクトにご馳走してやってくれ」
彼女は、OK! 任せといて! とばかりに親指を立て、ウインクした。
「さて、次はミント!」
次の瞬間には普通に司会者を務めているタクトの光景に、俺はもう言葉もなく、呆れていた。
「私の作品は少々派手ですわよ」
カパッと現れたのは・・・何だこれは?
虹色のオムライス。・・・・・・オムライスか?
「あら、失礼ですわね。添加物、“アスタキサンチン”“イエロー 2G”“カロテン類”“コチニール色素”etc...をふんだんに使った・・・
『ハイブリット レインボウ』です。れっきとしたオムライスですわ」
そんな物がいつ世間にオムライスと認められたんだ。
「人体に影響はないのか?」
心配そうに尋ねても、ええ、恐らく。 大丈夫か・・・
「今度はお前が食べろよ」
タクトがこっちを恨めしそうに見ている。仕方がない。端を切って口に入れる。
「ふむ・・・」
外見に力を込め過ぎて、味が洗練していない。
まあ・・・見た目も、な・・・
「やはり私の料理は共感される物ではございませんか・・・」
共感する物ではないな。独創性の塊、と言った所か。
「さあ、エンジェル隊のリーダー、期待してますよ!」
タクトの拍手に、自信満々にフォルテが皿を運んでくる。
「ふふふ・・・」
妖しげな笑みが大人らしい。
出てきたオムライスには、ケチャップ、及び調味料がかかっていない。
ライスに僅かにケチャップを使用した色が窺える程度だ。
「あたしの傑作さ。薄味がこれまた良いんだよ」
タクトは一口咥え、よーく噛み。飲み込んだ。
「・・・フォルテの作る料理って・・・いつもこれくらい薄味なの?」
何とも表現の難しい顔をする。怪訝そうにフォルテが頷く。
あの顔の言わんとすることは・・・恐らく。不味くない。けど・・・美味くもない。・・・いや、これはむしろ・・・
「・・・味がしない・・・」 ※2
ドギュン!
タクトの頭上をマグナムが掠めた。途端、今度は散弾銃を取り出し、乱射を始めた。
一体どこからでてきt(ry
「ああ! そうかも知れないけど! 薄いかもしれないけど! あたしはこれが好きなんだ! とやかく言うなーーーーーー!!!」
タクト以外の者は既にキッチンの安全圏内に避難している。俺は急だったので、とりあえず机の下へ。
薄いのは認める。けれど、決してスタイルを変えようとしない。実に男らしい。
男は時に間違っていると分かっていても変える事が出来ないことがある。
ジャキッ、
「・・・何で俺に銃を向けるんだ・・・」
思わず両手を上げてしまった。彼女が荒い息遣いでこちらに殺気を向ける。既にタクトは原型が残っていない。
「へへへ・・・副指令、あ、あたしは女なんだけどねえ・・・」
「す、すまない・・・」
彼女もテレパシストか。よく覚えておこう。それと、テレパシストは精神年齢と外見のギャップが激しいことも。
「ヴァニラ〜、どうぞ〜」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ん、どうした? レスター、そんな呆れ顔で」
黙れ、『人間・リバイバル・スライム』め。
「・・・何でもない」
反抗したくない。疲れるだけの不毛な戦いだ。・・・反抗するだけ無駄なんだ・・・きっと、無駄なんだ・・・
「はい・・・どうぞ・・・」
いかにも健康そうな緑一杯のオムライス。
ふむ、期待通りの出来栄えだ。
「美味そうだな」
パセリがアクセントでヘルシーに見え、周りも色とりどりの野菜が囲んでいる。
流石、菜食主義と言うところか。
「・・・実は、量を間違ってしまい、二つ作ったのですが・・・お2人とも食べられますか・・・?」
少し申し訳なさげに喋るヴァニラ。こちらとして見れば、万万歳なのに。
「本当か!? よぉっし、沢山食うぞ〜! 持ってきてくれ!」
タクトが嬉しそうに言うと、ヴァニラはにわかに元気付いて、少し嬉しそうにもう一つの皿に同じように盛り付けたオムライスを持ってきた。
「では、頂こう」
親衛隊がこっちを恨めしそうに見ている。知るもんか。オムライスは渡さん。
ばくっ、もぐもぐ・・・
「ふむ、美味いな」
やはり親衛隊が歓声を上げた。一部は悲鳴。
タクトは既にスプーンが止まらない。
確かに美味い。俺もどんどん食べるとしよう。
ぱくっ、もぐもぐ・・・ぱくっ、もぐもぐ・・・ぱくっ、もぐもぐ・・・バリッ!
「ん? なんだこれは?」
何か硬い物を噛んだので、取り出してみる。大変下品だが、ここは仕方がない。
タクトも何かを見つけたらしく。何故か白目をむけて口に手を突っ込んでいる。
「これは・・・錠剤?」
口から出てきたのは、少し噛み砕いてしまった錠剤らしき物。その割れた錠剤? には、vita・・・と言う文字が窺えた。
・・・・vita・・・まさか・・・そんな・・・
「・・・はい・・・ビタミン剤、プロテイン、固形カルシウムなどのサプリメントが入っています・・・」
「サ、サプリメントォォォーーーー!?」
俺達は当然驚嘆の声を上げる。
「橘さん!」 ※3
??? タクトが壊れた? 視線の先はヴァニラちゃん親衛隊。
「何故見てるんです!」
すっかり威勢を無くした親衛隊が、ボソボソと何か話をしている。
「本当に裏切ったんですか!?」
そのまま さあさあ、仕事仕事、と食堂を後にしていく親衛隊。
「そんな・・・そんな・・・」
・・・・・・すっかり泣き崩れるタクト。
ふと見ると、ヴァニラまで泣きそうな顔をしている。
「・・・もしかして・・・お口に合いませんでしたか・・・?」
「「そ、そんなことないぞ!」」
そういうつもりは無かったが、ハモってしまう。不可抗力だ。
タクトも俺も、あの顔には勝てん。
「「ほら、美味しいぞ!」」
ばくばくばく・・・もぐもぐガリッ!もぐガリッ!ボリボリガリッ!もぐもぐ・・・
俺達は美味しそうにオムライスを味わった。
明らかにオムライスに有るまじきオノマトペと共に。
「ラ、ラストはちとせ!」
そ、そんな千鳥足で・・・いや、見間違いだよな、タクト。俺達、ヴァニラのオムライスで元気が有り余ってるものなあ。
もう何でもいい。普通でいい。工夫なんて必要ない。普通のオムライスをくれ。
そうしないと、本当のオムライスを忘れてしまいそうだから。
「はい、こちらです」
・・・・・・妙な匂いがするな。
「同時に頂くとするか」
「OK」
タクトは右端、俺は左端を切って、一口。
「・・・これ・・・魚か?」
事もあろうか鯖の白身が入っている。
あの刺身包丁は・・・なるほど。
「はい! 鯖を小さく切って、オムライスに入れました! 我が故郷の味と、オムライスの融合です!」
ちとせが目を輝かせていった。
ご丁寧にワサビまで混ぜてくれてまあ・・・魚の臭みが逆に引き立っている。
「・・・・・・」
「結果発表をする。50点満点だ」
とうとうタクトは自室で療養するらしい。
仕方ないか。俺達の友情は更に深まったと思ったのだが・・・
「わくわくしますね〜!」
ミルフィーユがはしゃいでいる。ドキドキじゃないのか?
「まず、ミルフィーユ」
「は〜い」
「失敗したのと・・・後、独創性に欠けたな。・・・・・・・20点」
「はあ、仕方ないですね〜」
溜息をついてしょげる。なんだ、俺が悪人みたいだな。
「次、蘭花」
「どうだった?」
期待の眼差しで俺を見る。
「君が審査員なら間違いなく100点だったが・・・・・・・・14、1421356点」
「何それ! 低っ!って言うか、中途半端!」
「いきり立つな。俺が決めたんじゃない。タクトだ」
不満たらたらでブーイング。タクトの奴、後が大変だな。妙な語呂合わせするから・・・
「さて、ミント」
「高得点は望んでませんわ」
「色彩がすごかったが、やはり自分の趣味の範囲で頼む。・・・・・・・・27点」
こんなものですわ と無表情で言いつつも、耳がヒクヒクしてるぞ。分かりやすい。
「あー、フォルテ」
「あいよ」
「フォルテの料理もタクトが審査した。・・・『味がしなかったので・・・・・・・3点』」
ジャコッ!
電動銃のリボルバーの弾を充填する音が食堂全体に響いた。誰も、喋らない。
「・・・タクトはどこにいるのかな?」
ああ・・・「どこへ行くんだ」・・・なんてとてもじゃないが言えない。そんな鬼気迫る顔で・・・
プシューーー
ややあって、少しエルシオールが揺れたが・・・気のせいか?
「・・・ヴァニラ」
「・・・はい・・・」
「栄養は他の食品で補えばよい。サプリメントはあまり良くないぞ・・・・・・・・30点」
「・・・はい・・・」
だ、だからそんな泣きそうな顔をするな。いつの間にやら帰ってきた親衛隊の殺気を感じるから。
「最後に、ちとせ」
「・・・はい・・・!」
「味が噛み合ってなかったぞ。もう少し改良をすべきだ・・・・・・・・・13点」
「まだまだ精進が足りませんでしたか・・・」
次は美味い魚との融合料理を期待している。(ワサビ抜きで)
「・・・・・・ってことは、優勝はヴァニラ!?」
蘭花が驚きと悔しさが混じった声で言う。
俺は首を横に振った。
「エンジェル隊の中ではな。ヴァニラは確かに優勝だ。・・・だが、本当の優勝者は・・・」
俺はビシッとギャラリーの中にいる食堂のおばちゃんを指差した。
「・・・おばちゃんだ」
あらまあ、と照れ笑いをするおばちゃん。
「つまり、工夫する前に、基礎を見直して、本当のオムライスを熟知してから、だ」
「温故知新・・・ですね」
ああ、いい響きだ。ちとせの言葉に俺は深く頷いた。
「まあ、何にせよ」
ヒョイッ、 あ、お前・・・
「『料理は愛だ! 愛あらば Love is OK!』だー!」
テメ、今更、どの面下げて、バキッ!ベキッ! ウララァァァーーーー!!!
ちゃっかり手で丸を作って、決め台詞を奪ったタクトは、蘭花やフォルテの悔しさの捌け口に早代わり。
・・・・・・・・やっぱり、不運な奴だなこいつ。せいぜいここで悪運を貯蓄しておいてもらおうか。
あれから数週間、俺はオムライスを口にすることが無かった。
たとえ、食堂のおばちゃんが作る、美味しい美味しいオムライスさえも。
数週間後・・・・・・・・・・・ブリッジにて。
「レスター、お前も食堂に来てくれ」
「ことわ・・・」
ズルズルズル・・・
ぐ、ぐるじい・・・・
事は1時間ほど前・・・・
(終わっとけ)
※1 勿論知っていると思いますが・・・・赤き彗星のシャアですね。
あまりガンダムは知りません(というか世代が・・・)が、シャアは何故か思うところがあって、使わせていただきました。
※2 仮面ライダー剣の第一話の名場面ですね。 主人公が先輩のライダーに裏切られる!? ・・・という場面です。
某掲示板で話題になった「オンドゥル語」もここからの出典ネタです。
参考資料 http://www5f.biglobe.ne.jp/~mukutan/hatakenabe/swf/on22.htm
自分も最初はネタチェックのつもりで観てましたが、ストーリーが面白いのなんのって。
滑舌が悪いのが玉にキズですが。
※3 2005年5月11日、(今書いている当日)愛のエプロンで青木さやかのミネストローネ、見た目は良しなんですが「味がしない」
と言われ、ボロクソ言われていたのを観て、「あれ? ネタ被ってるな」と。
自分のフォルテのキャラクターの捕らえ方は青木さやかなのか。(ショック)
後書き。
無謀な少年、ナガラ。(享年14歳)
人生の先輩方の良作品を読んで感化される。
「長編は無謀だ。ショートのギャグで」
ウケるかどうか心配で、中々投稿できず、尻込み。
aitoさん、初作品が長編(スゲェ・・・)
俺もガンバロウ、と励ましつつ、やっと投稿に漕ぎ着ける。
そして未だにウケたかどうか心配でギターをかき鳴らして暴れる。
親に怒られる。
本当に心配です。文章力が無い、テーマが絶妙、そうなったらもうネタにすがるしかありませんしね。
自分は逆井さんの「GA男塾」とヒーロー村田さん、餡蜜堂さんによる「HI-EXPLOSION」
で何度も笑わせて頂いてます。スレインさんの「GALAXY ANGEL 〜Marital vows〜」第8章、「親友の願い」で、
酔ったミントの壊れっぷりに笑ったのが記憶に新しいです。
俺、大変面白い物が好きなのですが、時々笑いのツボがずれてたり、訳の分からない物に大笑いしたりと、
ヤヴァいかな、とか思ったりします。
無意味に長くなりましたが、これだけが言いたかったのです。
皆さん、読んで頂いて、ありがとうございました。
まだまだ文章が荒いですが、これからも努力していきますので、よろしくお願いします。
2005年、5月11日、 ナガラ。
加筆修正加えました。本当に些細な事なんですが・・・それでも、少しでも読みやすくなってもらいたいですし。
1つ、2つくらいネタも増やしました。では。
2005年、6月23日、 ナガラ。