最初は正直頼りなく見えた。
むしろその隣にいた人物が話に聞いていた男かと思ったくらいだ。
そう考えると私はいつからあいつのことを想うようになったのだろう・・・・・?
あいつは私を皇族の人間としてではなく一人の個人として扱ってくれた、今までそういう人間はごく少数だった。
もちろんみな私に対して気を使ってくれることは嬉しい・・・・だか、どこか気遅れのようなものを私自身感じていた。
だが、あいつは違った気がする、あいつは張り詰めていた私の心を救ってくれた気がする・・・・・・
あいつが「なんとかなります」と言うと本当になんとかなるような気がした・・・・・・あいつと一緒にいると自然に笑えた・・・・
我ながら情けない。今更こんなことを考えても仕方ないというのに・・・・
あいつの周りには私なんかよりあいつを想ってくれる人がたくさんいる。
「あいつが幸せなら私にとって何よりそれが幸せだ」そう自分に言い聞かせてきたし、それは何より正しい。
あいつはお人好しだから、きっと私の想いを知れば返事に困り・・・・結局あいつを困らせるだけだ・・・・・・
だから私は・・・・・・この想いを伝えない・・・・・・
Desire given up
今、エルシオールはロストテクノロジー探索の休憩場として白い月に立ち寄っている。
何の因果かその時私もたまたまシャトヤーン様・・・母上にお会いしに来ていた。
久々にみなの顔を見たが相変わらず元気にやっているようだ。
私は珍しくエンジェル隊と食事をとることにした。
―――――――――ティーラウンジ―――――――――――――――――
「――――――――で、あたしがアイスを買うことになったんですけど、それが全部当たりだったんです」
「へ〜〜、さすがミルフィー!まさに“幸運の天使”だね」
「いえ、そんな・・・・・」
エンジェル隊、マイヤーズもいたのか・・・・・相変わらず素でああいうことを言いおって・・・・・
あの分では桜葉がなぜ顔を赤くしているかも分かってはいまい。
「邪魔していいか?エンジェル隊、マイヤーズ」
私が声をかけるとみな驚いた様子だったが、その中でも約一名が驚くというより動揺といった感じだった。
「しししし・・・・シヴァ女王陛下!!!どど・・・どうぞこちらへ・・・・!!」
「烏丸よ・・・いい加減私に慣れてはくれぬか・・・・・」
「まぁまぁシヴァ様、ちとせも最初気絶していた頃に比べるとマシな方ですよ」
軽くため息をつく私にマイヤーズがフォローを入れてくる、まぁ確かに私もあの頃と比べるとだいぶマシになったとは思うが・・・・
「そういう事も含めてちとせが成長してくれたのは本当にうれしいよ」
「タクトさん・・・・」
本当に慕われておるのだな・・・・マイヤーズは・・・・
「あっ、悪いけどちょっとケーキ直接見てくるよ。それじゃ!」
そう言ってマイヤーズは一時的に席をはずした。
「相当手をこまねいている様だな、マイヤーズの鈍さには」
「陛下もお気づきでしたか?ただ、あれは生まれついての癖みたいなものですからねぇ・・・・・」
確かにシュトーレンの言う通り・・・・あれは直しようがないな。
「あのシヴァ陛下・・・・陛下は・・・・その・・・・」
ブラマンシュが何か言いたげだ。
そうか、確かブラマンシュはテレパスだったな・・・・
「よい、ブラマンシュ、私が今更どうこういう問題ではないからな・・・・・・・」
それにしても、知られていたというのは少々気恥ずかしいものだな・・・・
「え?あの・・・・どういうことなんですか?」
「私も話が見えないのですが・・・・・」
こやつらの鈍さもマイヤーズといい勝負だな・・・・・
「私は・・・苦楽を共にしたお前たちだからこそマイヤーズと幸せになって欲しいと思っている・・・・・何よりマイヤーズもそれを望んでいるだろうしな・・・・・・」
「え!?たたっ・・・タクトさんとししししっ・・・・・・幸せにとは・・・・!?えええ〜〜・・・とそれはつまり・・・・・」
こやつのテンパりぶりは少々心配な部分もあるが・・・・・・大丈夫だろうか・・・?
「あの・・・じゃあシヴァ陛下は・・・・・・」
「気にすることはない。以前少しだけ好意を持っていた・・・・それだけの話だ」
「そ・・・そうなんですか・・・?」
普段鈍いくせに妙なところで鋭い・・・・・・桜葉は少しマイヤーズに似ているな・・・・・・
「・・・・・私が皇族でなければ良かったんだが・・・・・・」
!!?
ちょっと待て!私は今何を言った!?
幸い小声だったため、みなには聞こえてなかったようだが・・・・・正直今の言葉には自分が一番驚いている・・・・・
「お待たせ!」
「わぁ!!」
「ど・・・・どうしたんですかシヴァ様?」
「い・・・いや・・・何でもない・・・・」
私が考え事をしていたのもあったが、それを抜きにしてもこやつ今気配が消えてなかったか・・・・・?
その後、私は気晴らしにシュトーレンに射撃を教えてもらうことにした。
――――――――射撃場―――――――――――――
「――――――――――――いいんですかシヴァ陛下?」
「以外だな、シュトーレンが射撃中に雑談するとは」
「まぁ、そんな時もありますよ。もちろんあたしが首を突っ込むことでもないんですけどね」
「そうとも言い切れないと思うが?」
「と、言いますと?」
「少なからずシュトーレンもマイヤーズに好意を寄せているうちの一人だと思っていたのだが」
「なっ!!?・・・・敵いませんねシヴァ陛下には・・・・・・」
「いや・・・私も同じ気持ちだからこそ気づいたのだと思う・・・・・」
「状況はイーブンなのに陛下は諦めるんですか?」
「いや、マイヤーズはみなの気持ちに対して鈍くはあるものの、お前たちエンジェル隊の誰が好きなのかを決めかねている・・・・・私の入る隙などないさ・・・・・」
そう・・・・あいつは私を一人の人間としては見てくれているが、そういう対象としては見ていない。
「あいつは優しいからな・・・私の想いを知ればきっと困らせてしまう・・・・・」
「陛下・・・・・」
「さて、こうやって話し込んでいても仕方ないな。私にも撃たせてはくれぬか?」
「そうですね、ムシャクシャしてる時は思い切り撃ちましょう!」
「ああ!」
――――――――渡り廊下―――――――――――
「ずい分遅れてしまったがシャトヤーン様に会いに行くとするか」
ん?
あそこで紙袋と花束を持っているのは・・・・・・マイヤーズ?
間違いない、あの髪型も服も間違いなくマイヤーズのものだ。
紙袋は分かるが、なぜ花束・・・・?
・・・・・・そうか、マイヤーズもいよいよ心を決めたのだな。
私のことに気づいてないマイヤーズはそのまま渡り廊下をあとにして行った。
そう、これで良い・・・・・・・・ただ少し・・・・つらいかな・・・・・?
―――――――白き月・謁見の間――――――――――――――――――
「お久しぶりですシャトヤーン様!」
「本当に久しぶりですねシヴァ陛下、どうです陛下としてのお仕事は?」
「仕事のほとんどはルフトがやってくれるので私などやることがないくらいですよ」
「ふふっ、そうですか・・・・・あら?シヴァ陛下どうしたのですか・・・その涙の跡は?」
「え!?あ・・・いや、少し寝不足気味なものでしたので・・・・」
「・・・・・陛下・・・いえ、シヴァ」
「は・・・はい」
「私にはあなたのその涙の理由を知る術はないわ。でもね・・・・できることならあなたに後悔だけはしないで欲しいの」
「母上・・・・」
やはり母上はすごいな・・・・
「人は結果のために行動しがちだけど、そうではなく行動するから結果がついてくる・・・・・この事は他ならないエンジェル隊やマイヤーズ司令に教えてもらったことなの」
「マイヤーズに・・・・?」
「ええ、彼女たちの姿を見ているうちに自然とそのことを教わった・・・・そんな気がするの」
「母上・・・・ありがとうございます!」
「あなたの役に立てたのならそれだけで私は嬉しいわ」
「シヴァ様、ここにいらしたんですね」
「まっ・・・・マイヤーズ!!?なぜここに・・・・・?」
私が謁見の間を出て少し飲み物を飲んでいるとマイヤーズが私の所へやって来た。
「いや、実はシヴァ様を探してたんですよ」
「私を・・・・・?」
「はい、それで・・・・・・」
「まっ・・・マイヤーズ!その・・・・迷惑なのは分かっている・・・ただ・・・」
予想はしていたが想像以上に顔が火照っている、きっと今私は相当赤くなっているだろう。
「解ってます」
「・・・・え?」
「これでシヴァ様も市街区へ出かけれますよ!」
そう言ってマイヤーズは私が渡り廊下で見かけた紙袋を取り出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ???」
は??市街区??
何を言っているんだこいつは・・・・・・・
顔の火照りなどいつの間にか消え失せていた。
「ほら、言ってたじゃないですか『私が皇族でなければ良かったんだが』って、あれって皇族だと市街区に出ると目立つからって意味じゃなかったんですか?」
聞こえていたのか・・・・
「じゃあ・・・・その中身は?」
「女の子用の洋服ですよ、きっと似合うしこれならバレませんよ」
「ちょ・・・・・ちょっと待て!じゃあ、お前が持っていたあの花束はどういう事なんだ!!?」
「ああ、クロミエの飼ってる動物たちがあの花が大好物なんですよ・・・・・あれ?シヴァ様、その時いましたっけ?」
あぁ・・・・そうだった・・・・・
こういう奴だったんだ・・・・・・マイヤーズは・・・・・・・
「ど・・・・どうしたんですか?急に脱力して」
「・・・ふふっ・・・」
「え?」
「まったく・・・・・馬鹿なやつだと思ってはいたが、ここまでとはな・・・・」
「はぁ・・・・よく言われます・・・」
まったく・・・・こいつを見ていると悩んでいるのが馬鹿らしくなる。
「いくぞ!」
「はい?」
「私を市街区に連れて行ってくれるのではなかったのか、マイヤーズ?」
「きゅ・・・急に乗り気になりましたねぇ・・・・」
誰のせいだと思っているのやら・・・・
「ぼやぼやしていると置いてくぞ。マイヤーズ!」
「は・・・はい!」
―――――――市街区――――――――――――――
「きゃあ!シヴァ陛下可愛い♪」
「こらミルフィー!あんたはフランクに話し過ぎ!!」
「とても良くお似合いですわシヴァ陛下」
「ええ、これならバレませんよ」
みなそれぞれ感想を述べてくれる。
「それじゃ早速行きましょうか」
「そうだな」
「ブラマンシュ」
「はい?」
「私が今考えている事を後でみなに伝えてほしい。私からの宣戦布告だ♪」
「・・・・・・・・了解いたしましたわ♪」
マイヤーズ。
私はお前を困らせたくない、そう思っていた。
だが、お前のせいでそんな考えは消えた。お前の戸惑った顔を見るのも悪くない♪
覚悟しておけ、マイヤーズ!
あとがき
うわぁ、今更ながらなんて無謀なものを書いたんだろう・・・・・シヴァのイメージ崩れてなかったでしょうか?
この手の話を書いてると書いてる側も暗くなっちゃいます
これを書いてる最中に何度ギャグに暴走させたいという衝動に襲われたことか・・・・・・
実際最後の方やっちゃいました
どうなんでしょうね?後先考えずにこんなの書いてしまって・・・・
こういうまじめな話を書くとつくづく自分に文章力がないことが思い知らされます