「『リーダーには根本的に向いていない性格です。

このままでは、まっとうな職業につくことさえ保証できません』……だって」

心理テストの結果を、ランファが読み上げる。

タクトは、大層ショックを受けたようだった。

「タクト? タクトってばー、おーい?」

呼びかけるが、返事はない。

ランファが一文字流星キック(弱)を食らわせると、ようやく現実に戻ってきた。

「大丈夫?」

「あ……ああ、平気さ……ハハハ」

ヨロヨロと、彼は立ち去っていった。つぶやくランファ。

「本当に大丈夫かしら……?」

 

『司令官感謝デー』

 

 

数時間前のことだ。ランファが同じように、同じ記事の質問を、ある人物にしていた。

たまたま通りかかったタクトは、聞くとも無しにそちらに注意を向ける。

しばらく、Q&Aのやりとりが続いてから、ランファはタクトの時と同じように、結果を宣告する。

「『あなたはまさに、人の上に立つべくして生まれてきた人です。周囲の人々をうまく導いてください』だって。

へーっ、すごいじゃない! レスターさん。一番いい結果ですよ?」

ランファは、我が事のように喜んでいる。レスターの方は、特に嬉しそうには見えない。

タクトの方までは聞こえないが、無難なコメントを返したようだった。

 

「やっぱりそうだ。あいつの方が、司令官に向いているんだ……」

現在に戻る。タクトは、とぼとぼ、と通路を歩いていった。

 

「ちょっとー出てきなさいよ、タクト」

ランファがドアホン越しに、呼ぶ。暗い声が返ってきた。

「ランファ……何しにきたんだ」

「何しに、とは何よ、何しにとは。落ち込んでたみたいだから、

直々に励ましに来てあげたんじゃない。感謝しなさいよね」

「ランファ……。

……いや、いいんだ。気にしないでくれ。

オレなんかがエンジェル隊の司令官なんて、初めからできすぎてたんだ」

「どうしたのよ? いつものアンタらしくないわね。もっとシャキっとしなさいよ、シャキっと」

返事がない。

「タクト? タクト! 返事しなさいよね!! まさか――」

ランファはつい、最悪の事態を想像してしまう。

「心理テストの結果を苦に自殺!? アタシのせいで!? いやー! そんな!?

開けなさい、タクト!」

ドアを、がんがん叩く。

そこに、ミルフィーユが通りかかった。

「どうしたの? ランファ。

あっ、もしかして、かくれんぼ? いいなぁー、あたしも仲間に入れて」

「どこをどう見たらそうなるのよ!?

タクトが――タクトが、アタシのせいで!!」

「落ち着いてよランファ。タクトさんが、どうかしたの?」

「……そ、そうね。アイツがそんなこと、するハズないわ。

えっとね、ミルフィー」

 

 

「タクトさーん、おいしいケーキもありますよー」

そのままのケーキを載せた皿を手に、ミルフィーユが言う。

「そうよ、タクト。ミルフィーの特製よ。今なら、この激辛あんまんもつけるわ」

饅頭を蒸すための蒸籠(せいろう)を肩に、ランファが言う。

蒸籠からは、まだ湯気が立っていた。しかしその香りは食欲より、どちらかといえば粘膜を刺激する。

ミルフィーユは、首をかしげた。

「……出てこないね。まだ生クリームが足りないのかなぁ?」

「ううん、やっぱりきっと、もっと辛くなくちゃ、駄目なのよ。

作り直すわよ、ミルフィー!」

「うん、ランファ!」

2人は、息巻いてキッチンへと向かう。

「あら、お2人とも、何をなさっているんです?」

そこに、ミントが通りがかった。

「あ、ミント。

今ね、ランファと2人で、タクトさんの為にお料理してるの。お腹が空いて、部屋から出てこられないんだって。タクトさん、かわいそう……」

「まあ……そうでしたの。でしたら、こういうのはいかがです……?」

 

 

「タクトさーん。これからみんなでクジラルームに海水浴に行くんです。一緒にどうですか?」

「今日の為に水着も新調したのよ。見て驚きなさい、タクト!」

「見ないと一生、後悔なさいますわよ。マイヤーズ司令」

3人が替わる替わる呼びかけるが、タクトからの返答はない。

「……仕方ありませんわね、私たちだけでまいりましょうか」

無情にも、ミント。ランファも頷いた。

「そうね、せっかく水着を新調したんだし」

「でも、タクトさんは……? 放っておいていいの?」

心配気なミルフィーユに、ランファは答える。

「来たくなったら、自分で来るでしょ。子供じゃないんだし」

「それもそうね。じゃあ、行きましょ」

 

そこに、フォルテが通りがかった。

「おや、楽しそうだね。そろって、どこ行くんだい?」

「これからみんなで、クジラルームに泳ぎに行くんです! フォルテさんも一緒に行きませんか?」

ミルフィーユが答える。

「あたしは、遠慮しておくよ。やることがあるんでね」

「……そうですか、残念です。でも、次は一緒に行きましょうね!」

元気良く言うミルフィーユ。

「ああ、そうしよう。

ところで、ミント。どうかしたのかい? 顔色がよくないみたいだけど」

それに応えてから、フォルテは尋ねた。

「ええ、実は……」

ミントは、タクトが、ひどく悲しそうなのだと説明した。それは先ほど、テレパシーで感じ取った感情でもある。

「気にすること、ないんじゃないのかい? 誰だって、落ち込むことくらいあるだろ?」

「それは……そうなのですが」

ミントは暗い顔のままだ。

「ああ、もう、しょうがないね。あたしが様子を見てくるよ。あんたは安心して楽しんでおいで」

そう言ってフォルテは、彼女らを見送った。

 

 

そこに、ヴァニラが通りがかった。

フォルテは、司令官室の前に、カラオケに必要な設備をセットしているところだった。

「お手伝いしましょうか……?」

「ああ、ヴァニラ。悪いね。じゃあちょっと、そっちを持ってもらえるかい?」

「……了解しました」

しばらく何も言わずに手伝ってから、ヴァニラはポツリと尋ねた。

「……これは、何をするのですか……?」

「うん、良い質問だ」

ありがとうございます、と伏目がちにつぶやくヴァニラ。得意そうにフォルテは続ける。

「これはね、タクトを励まそうっていう企画なのさ」

「タクトさんを……」

「ああ。日頃から頑張っている司令官どのに感謝を込めて、みんなで歌を歌う」

「……すると、どうなるのですか」

「タクトが元気になって、この中から出てくる! どうだい、中々いいアイディアだろ?」

自信ありげなフォルテ。ヴァニラは頷いた。

「……なるほど。

でしたら、他の乗組員のみなさんも呼んできたほうがいいでしょうか……?」

そうだね。フォルテは言った。

 

 

わいわい。

「な……何なのよ、コレ」

海水浴帰りに立ち寄ると、司令官室前は、大変な騒ぎになっていた。

顔を引きつらせるランファの横で、ミルフィーユは嬉しそうだ。

「わぁー、賑やか。この前のお花見みたいだね。いいなぁー、この雰囲気!

ランファもそう思わない?」

「思う……けど。これはちょっと、やりすぎじゃない?」

「そうかなぁ?

あ、フォルテさーん!」

整備班を始め、ブリッジクルーやティーラウンジの店員までがひしめき合う司令官室前の通路。フォルテの姿を見つけたミルフィーユは、手を振った。

「何事ですか、これは」

ミントは、しかめ面でフォルテを見る。

「まあまあ、ミント。そう目くじら立てなさんなって。それじゃあ、副官どのが2人いるみたいだ」

「私はもともとこういう顔ですわ」

つん、とそっぽを向くミント。あんな朴念仁と一緒にしないでほしい。

 

 

宴会は、夜遅くまで続いた。

いつの間にやら酒も出てきて、参加者の多くが酔いつぶれ、あるいは引き上げた頃。

艦橋から出てきた男が1人。

「……すごいな、これは」

所々にある艦内モニタの映像から、状況は理解していたものの、実物を前にすると、また別の感慨がある。

レスターは、通路に横たわる泥酔者を避けつつ、司令官室の前へと辿り着く。

そこには、タクトがいた。彼はのんびりと言う。

「やあ、レスター」

「交代の時間だな? タクト」

「そうだけど……これは一体、何?」

「さあな。連中、お前をねぎらうとか言っていたが……。中にいて、何も気付かなかったのか?」

「うん。知ってるか? 司令官室は、防音が入ってるんだ。秘密の話でもできるようにね」

1つため息をついて、タクトは続けた。

「お前が1日のんびりしていいっていうから、今日は悲劇ものの映画を4,5本見てたんだけど。

まさか出てきたらこんなことになっているとは」

肩をすくめるタクト。レスターは静かに後を継いだ。

「予測がつかなくてワクワクするだろ?」

「ああ。胸が張り裂けそうだよ」

 

 

END

 

* 冒頭の心理テストは、ゲーム(無印)第5章で、ランファがタクトにしているものです。