注意*「ごめんなさい、ヴァニラファンの皆様。ヴァニラの出番がほぼ0です」

 

『逃げ出した荷物』

 

 

「あっ、それに触らないでくださいっ!」

がしゃん!

ランファが伸ばした手は虚しく空を切り、代わりに、辺りに積まれた荷物が、派手な音とともに崩れた。

「……大丈夫か? ランファ」

呆れたような口調でレスターが言う。

「ふぁい、はいひょぶふへふ」

鼻のアタマを押さえつつ、答えるランファ。

「それより、それに触っちゃ……!」

彼女は、視界の端で、コンテナのふたがゆっくりと開くのを見た。

「きゃ―――っっっ!!!」

ホラー映画で、実際起きている事態より、ヒロインの悲鳴の方が怖かったりするのは、よくあること。

今が、まさにそれで。

ランファの手近にいたためにしがみつかれたレスター。事態が飲み込めず困惑している。

「……何なんだ」

「きゃー、きゃー、きゃ……あれ?」

ランファはふと、叫ぶのをやめた。しかし今度は、血の気が引いていくのを自覚した。

 

 

「宇宙ツチノコだって?」

いぶかしげにレスターは尋ね返す。ランファは、いつになく真剣な顔で答えた。

「はい。

料理用に買ったんですよ。安かったから」

「生きたままか?」

レスターの問いに、ぴっと指を1本立て、答えるランファ。

「食材は、新鮮なものに限ります」

「……で、それが今、艦内のどこかにいるわけか」

「はい。

相手は百戦錬磨の猛獣です。気を引き締めてかかりましょう」

「それはいいが……この捕虫網は意味ないと思うぞ」

「気分です」

ランファはキッパリと言い切り、すたすたと歩き出す。

……疲れる相手だ。レスターは思った。

 

 

Cブロック。

荷物が搬入された格納庫のあるエリアであり、まだ敵はここに潜んでいる可能性が高い。

順に回ることにする。

まず、機関室。

「――いたっ!」

いきなりアタリだった。

ランファは、捕虫網を構え、走り出す。

「目標を確認! カンフーファイター、攻撃に移るわ」

「……いつから、紋章機になった……?」

レスターはとりあえず、ツッコんでおく。度重なる戦闘で、癖になってしまったのか、それとも単なるノリなのか。もし前者なら、何となく心配である。

一方、巨大なナメクジにも似たフォルムのそれは、ランファを認め、ゆっくりと頭をめぐらす。

「ハァッ!」

気合い一閃。跳び上がり、大上段から得物を振り下ろすランファ。

しかし、相手はそれをかわした。意外と素早い動きだ。

そこへ、もう1振り、捕虫網が突き出される。

「……あ」

なぜか空中で方向を変え、それを避ける宇宙ツチノコ。

表情を変えないまま、呆れた口調でレスターは言った。

「どういう仕組みなんだ、あれは」

「さあ……?

それよか、副司令。意外と武闘派なんですね。見直しましたよ」

空中のツチノコを目で追いながら、会話する2人。

捕虫網を構え直しながら、レスター。

「使い途なんて、なかったんだがな。フランボワーズ少尉が、妙な買い物をするまでは」

少しばかり顔をかげらせて、ランファ。

「……だって、気になるじゃないですか。誰もがその味に口をつぐむ、高級食材ですよ?

しかも、20%OFF」

「まあ、過ぎた事を言っても始まらん。早く捕まえて、味見してみたらどうだ?」

「そうしまーす」

平坦な声でランファが答える。

しばらくの空中遊泳の後、宇宙ツチノコは急降下してきた。

「来るわ!」

「……っ」

それを正面から突きに行くレスター。しかし前進の勢いは止まらず、仕方なく得物を手放し、身をかわす。

左へよけたランファは、すれ違い様、捕虫網を振り上げた。アルミ製の竿が、頼りなくふにゃりと曲がる。

彼女は躊躇なくそれを投げ捨て、ツチノコに追いすがった。

「必殺! 一文字流星キーック!!」

ランファは叫ぶ。叫ぶと、攻撃力が1.25倍になるから、やはり叫んでおかないと、損をした気分になるのだ(?)。

ランファの跳び蹴りを食らった宇宙ツチノコは、しかしそれでも、よたよたと前へ泳ぎ続ける。顔に捕虫網を生やしたまま。

「な……っ、アタシの蹴りは、偵察用プローブも一撃で破壊するのに……。やるじゃない……!」

「ランファ、下がれ」

光線銃を取り出して構えるレスター。ランファは慌てた。

「銃はダメです! 副司令」

「何でだ?」

「アイツは、生きている内は、体内で毒ガスと強酸を生成しているんです。うっかりガス漏れと液漏れしたら、えらいことになりますよ」

あまりに興味深い生態である。しかし、レスターは、それには興味を示さず、尋ねる。

「……じゃあ、どうすればいい?」

「昏倒させてから、窒息死させるんです。料理の本にはそう書いてありました」

彼は、わかった、と頷いた。

 

宇宙ツチノコはふよふよと泳ぎながら機関室を出、通路を左へ曲がっていく。

素早い動きには見えないのに、追いつくのが難しい。

ランファとレスターも、それを追って機関室を出る。

しかしそこで見たものは――。

「え」「!?」

――ミルフィーユだった。

 

 

ツチノコを追いかけて通路へ出ると、そこには何故かミルフィーユ。

「あれー、クールダラス副司令とランファ? 珍しい組み合わせ!」

ツチノコの姿は、どこにもない。あるのは、満開の桜のような、彼女の笑顔だけだ。

「消えた……?

ミルフィー、アンタ今、向こうから歩いてきたのよね? 何も見なかった?」

ランファは問う。

「何も、って?

あっ、ランファ、もしかして照れてるの?」

「は?」

「デートの途中だったんでしょ? あたし、邪魔しちゃったかなぁ?」

しょぼん、としぼむミルフィーユ。いや、というより、頭につけているカチューシャの花が。

ランファは声を荒げた。

「どうしてそうなるの! アンタの頭には、緊張っていう言葉がないわけ?」

「う〜ん。大勢の前だと、それなりに緊張はするけど……。あたし、人見知りはしないほうだし」

「誰もそんなこと聞いてないわ!

……ああ、もう、とにかく! 何も見てないのね? それならいいの!」

言って、爪を噛むランファ。

ミルフィーユは納得のいかない様子で首を傾げている。

ミルフィーユの向かいで、レスターも首を傾げていた。

「どういうことだ? ひょっとして宇宙ツチノコってのは、壁抜けもするのか?」

ランファはゆっくりと言った。

「料理の本の欄外に書いてあった、クロノ・ドライヴもするっていうウワサは本当だったのね……スゴいもん、見ちゃったわ」

 

「存在そのものがロストテクノロジーみたいな生物だな」

「というワケで、やっぱり食べ物に釣られて出てくるなら、食堂が怪しいと思うのよ、ワトソン君」

「さっすが、博士(?)! 納得です!」

通路の真ん中で艦内図(何故か紙製)を広げ、床に座り、マーカーでなにやら書き込んでいるランファとミルフィーユ。

レスターの独り言は、独り言のまま消えていった。

先ほどから時折、通りかかるクルーが、不審気な視線を投げていく。

「じゃ、食堂だな? 行く……」

踵を返しかけたレスターの背中に、ランファが言葉を投げる。

「何を言うんですか、副司令。こういうものは、ウラのウラのウラまで読まないと!」

「読み過ぎだ」

「……ノリが悪いですねぇ。そんなんじゃ、女の子にもモテませんよ?」

何故だかそんなことを言い出すランファ。

だが、実際は、モテている。外見による効果8割といったところか。

レスターはつまらなさそうに応えた。

「モテて、何か得でもあるのか?」

「そりゃあ、ありますよ! 食事をおごってもらうとか、ブランド物のバッグを買わせるとか……」

「……何か情けないぞ、それは。人としてどうなんだ」

疲れたように言う。ランファはあっけらかんとしたもので。

「そうですか? でも、プライドじゃゴハンは食べれませんよ」

「そこまで困ってない」

うんざりした表情のレスター。ランファは、肩をすくめた。

「それもそうですね。じゃ、行きましょう」

「おー!」

「へいへい」

ミルフィーユが元気良く上げる鬨の声に、投げやりなつぶやきが重なった。

 

黄色い布地に、赤い色で『ツチノコ捜索隊』と書かれたノボリを手にした一団が、エルシオールの通路を歩いていく。ランファとミルフィーユは、同じような配色のはっぴを着、はちまきまでしている。何かの安売り市みたいだ。

「おお、楽しそうだな、レスター。ミルフィーやランファといるなんて、珍しいじゃないか」

通りがかったタクトが、ひやかすと、レスターはタクトに、肩に担ぐようにしていた派手なノボリを押しつけた。

「……譲る」

「譲るって……おい、レスター!?」

慌てるタクトを残し、彼はそのまま歩き去る。

感慨なさげに、ランファがつぶやいた。

「あー、行っちゃった」

「副司令、私たちを見捨てるなんてひどいです〜」

「そうだぞ、レスター。困っている女の子を見捨てるなんて、ちょっとひどい」

ミルフィーユとタクトに口々に言われて、25mほどの距離で立ち止まる。

「……」

戻るべきか、このまま立ち去るべきか。彼が3秒ほど迷っていると、絶妙なタイミングで、宇宙ツチノコがドライヴ・アウトしてきた。

 

「デカいナメクジ!?」

タクトの第一声が、それだった。ランファは聞きとがめる。

「何言ってんの、タクト! 高級食材よ、超高級品! 高いんだから、しっかり捕まえてよね!」

(安かった、と言っていなかったか? まあ、高級な物としては安かった、という意味だろうが)

レスターは心中でツッコミを入れる。

そして、ノボリを持ち上げて張り切る、エンジェル隊のごはん係。

「よ〜し、頑張る! 頑張って、おいしいソフトクリームにしてあげるから!」

(してあげるから……ってそりゃ、喜ぶわけにはいかんだろ。本人(?)としては。

それに、宇宙ツチノコのソフトクリーム……? 味も形も想像できない。いや、ソフトクリームというからには、例の形なのだろうが。そういえばこの前、サザエのソフトクリームの目撃情報が……)

再びレスターの心中。声に出すのと違い、思考であるため、判然としない言葉の流れとなっている。

すると、心の中を読んだような涼やかな声が背後から。

「……あら。立て込んでいらっしゃいますわね。

それにしても、宇宙ツチノコ味のソフトクリームですか……。あれは、その、何と申しますか……、あまり他人様にお奨めできる味ではありませんでしたわね」

何の前振りもなく、ミントが居た。レスターは斜め下を振りかえる。約60cmの身長差といえば、こんなものだろう。

レスターは興味を引かれて尋ねた。

「……食べたことがあるのか?」

「はい。父が極秘に開発させた新製品だったのですが……試作の段階でストップされ、幸い、製品化には至りませんでした。一度、食べさせてさしあげたいですわね……」

誰にだ。そしてさっき、他人には奨められないと言わなかったか?

水面下の声にはかまわず、ミントは、少し離れたところで繰り広げられる攻防戦を見ていた。

「あら、こっちに来ます」

タクトやランファ、ミルフィーユに攻め立てられた宇宙ツチノコは、退路を探してか、頭をめぐらし、ミントの方へ向きを変えた。さきほど顔に付いた捕虫網は、クロノ・スペースにでも落としてきたようである。どこかの艦と接触事故でも起こしていなければいいが。

ふと、手許に気付いて、レスターは舌打ちする。

「……しまった。得物はさっき、タクトに預けてしまったな」

「……あのユカイなノボリのことですの?」

「捕虫網よりマシだろう」

「どっちもどっち、ですわね」

言ってミントは頬笑み、一歩前へ出る。

「おい!?」

彼女は慌てるレスターを制した。

「お任せくださいな。以前から、フライヤーの広範囲攻撃を、生身で実現できないかと試みておりましたの」

そう言ってミントが取り出したのは、カード。

「……はっ?」

タクトならば判るのだが、お菓子系雑誌の付録、その名も『駄菓子deポン!』というカードゲームのものだ。

ちなみにみんなで遊んだが、今まで誰も、ミルフィーユに勝てた者はいない。何せ、運がよすぎる。

「そして生まれたのがこの技!」

ばっ! とカードを床にバラまくミント。

ノリノリである。やはり彼女も、“エンジェル”の一人なのだと思い知らされる。

「大丈夫か? そんな紙で……」

不安げなレスターに、ミントはもう1つの耳をぴくりと動かす。

「……今、駄菓子をバカになさいました?」

「巻き戻して聞きなおせ」

「はい」

ミントは適当に頷いて、迫る宇宙ツチノコに向き直る。

「覚悟はよろしいかしら……」

ざぁっ!

床に寝ていたカードが、一斉に起き上がる。かと思うと、床から天井へ、降り注いだ。

紙であるはずのカードは、ツチノコとすれ違う様、無数の傷を作り出す。

「……あ」

ここへ来て、レスターは思い出した。

確かランファは、このツチノコが体内で毒ガスだの強酸だのを生産すると言っていなかっただろうか。しかし表面のみなら問題はなかったらしく。宇宙ツチノコは紫の血(?)を流しつつ、再びターンする。

「逃がしませんわ! お行きなさいな、愛すべき駄菓子カードの皆さん!」

ミントは、言い違えなかった。それをフライヤーだのと呼ばれた日には、どうしていいかわからない。

……少しばかり語呂が悪いのには、この際、目をつぶろう。

ツチノコを挟み撃ちにするように、向こうからランファも駆けてくる。

逃げ道に窮した宇宙ツチノコは、――

 

――上へ、向きを変えた。

 

「なっ」

「やばい――」

「嘘――」

 

クロノ・ドライヴは、障害物のない場所で行うこと。さもなければ、物質の核か何かが大変なことに。

つまり、核融合反応規模の爆発とか。そして、上方向には、すぐに、天井がある。

 

事態を理解した何人かは、図らずも死を覚悟する。

 

 

為す術もないまま、辺りは、白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷ」

 

 

 

 

 

 

 

「あっはははは! 何よ、あれ!」

 

 

静寂は、ランファの笑い声によって破られた。

「……た、確かに、あれは……」

タクトが、呆れたような笑みを浮かべる。

「え、え? なに? みんな、どうしたの?」

救い主は、わけがわからないという顔で、まわりの皆を何度も見比べる。

ツチノコは、天井にハマっていた。

上の半分だけが、輪切りにされたように。まさに“ありえない”ことだ。

「ミルフィーさんのおかげ……ですわね」

力が抜けて倒れ込みながら、うめくミント。タクトが繰り返した。

「そうだな、ミルフィーのおかげだ」

「? そうなんですか? よくわかりませんけど、あたし、役に立ったんですか?」

きょとん、とするミルフィーユ。役に立つどころか、この宙域全体の平和が守られた……かもしれないのだ。

 

 

 

じゅうじゅうと、おいしそうな音を立てて、炒められる宇宙ツチノコ。

片手にフライパン、もう一方に菜箸(さいばし)をもって、ミルフィーユは鼻歌に合わせて箸を動かす。タクトがひょい、と厨房を覗き込んだ。

「おっ! おいしそうだね、ミルフィー」

「タクトさん! はい、そりゃあもう、おいしいに決まってますよ。

みんなで捕まえたツチノコですから!」

「いや、そういうことじゃないんだけど……ま、いいか」

タクトは軽く頭をかいた。不思議そうにそれを見るミルフィーユ。タクトは言った。

「先に調理した分を、もうみんなで食べてるけど、君はいいの?」

食堂のカウンター越しに、賑やかな声が流れてきている。

「これで最後ですから、終わったら行きますね」

「うん」

タクトは頷くと、みんなのところへ戻った。

ミルフィーユの再開された鼻歌と、食材の焼ける音がそれを見送る。

 

 

フォルテは、目の前に差し出された皿を、汚いものでも見るように見ていた。

揚げ過ぎたシイタケのような、茶色くしなびた物体が、ちんまりと、皿の真ん中に鎮座ましましている。

大きめの犬ほどはある宇宙ツチノコだが、その体積の大部分は水であり、火を加えてしまうと、極端に小さくなる。高級食材と呼ばれる所以である。

立ち昇る湯気が、出来立ての“料理”であることを主張するせめてもの要素だった。食材そのものに匂いはない。

「……何だい、こりゃ」

「えっ!? 知らないんですか、フォルテさん!!」

嫌そうに尋ねるフォルテに、ランファは、大げさに驚いてみせる。

「知らないから訊いてんだろ。……何なんだい。

さっきも、私らを仲間ハズレにして、楽しそうなことしてたしさ。なぁ? タクト」

フォルテは、隣へ戻ってきたタクトを、半眼で見つめる。

「いやぁ、あまりに突然のことだったから、知らせるヒマがなくてさ。

あと一呼吸あれば、フォルテにも教えたさ、もちろん」

「そうかい? ……まあ、そういうことにしておこうか。

……で、これは何だって?」

話は振り出しへ戻った。ちなみに、一応補足しておくと、彼女の言う“楽しそうなこと”とは、先ほどの捕り物のことである。

一方、ランファは、説明する気をなくしたのか、それとも始めからする気がないのか、ひたすら皿を差し出す。

「それはもう、美味しいんですから。食べてみてください」

「いや、そう言われても……」

渋るフォルテ。ふと、テーブルの向かいの会話が聞こえてきた。ミントとヴァニラ、レスターだ。ヴァニラは、無言のまま、残りの2人を見守っている。どうやら、観察しているらしかった。

 

「どうです? お味の方は」

「……発案者の顔が見たいな。どうしたらこんなものを考え付くのか……」

「でしょう! ……ああ、良かった。

初めてこれを口にして以来、ずっと、誰かに食べさせたいと願っておりましたの。

長年の憂いが晴れて、よかったですわ」

「……じゃあ、他の連中にも食わせてやったらどうだ?」

レスターは言う。

「ヴァニラさんは菜の物しかいただかないとおっしゃいますし……。

あちら側では、ランファさんが、フォルテさんを仲間に引き込もうと頑張っておられます。

タクトさんはおそらく、ミルフィーさんが今作っているものをいただく予定でしょう?

量が多ければ別ですが、ほんの少ししかないのですから、この場合、一人分が限界というものですわ」

ミントはにっこりと笑った。ちなみにこのソフトクリームも、ミルフィーユ製だ。

ブラマンシュ商会の没商品、宇宙ツチノコ入りソフトクリーム。

例えるなら、シイタケと抹茶アイスクリームを一緒に食べるような味で(著者注:未確認)。

何故かそれを食べているレスター。

確かに味が気になったのは事実だし、ミントの言うことも、もっともだ。捨てるのも不憫だし……。

そう思い、レスターが嫌々ながら、食べるのを再開しようとすると、ミントが横から手を伸ばした。

「そんなに気が進まないのでしたら、ちょっと貸していただけますか?」

言われるまま、コーンを手渡す。

「あ」

ミントはそれを、一口で飲み込んだ。

「こうしてしまえば、味などわかりませんわ。5年前の忌々しい物体も、この方法で処理しましたの」

「そ……そうか」

よく一口で入ったものだと感心すると同時に、今のは……などと考えてみる。

「余計なことはお考えにならなくてよろしいですわ」

ミントに髪を引っ張られた。

 

(あーあー、よくやるねぇ、まったく)

その光景だけでお腹が膨れたような気になりつつ、フォルテは思う。隣では、相変わらず、ランファが迫っている。

「さあ、食べてください。さあさあさあ」

「わかったよ! ああもう、い・た・だ・き・ま・す!」

自棄になり、ひったくるように皿を受け取り、箸で一気にかきこむ。

フォルテは言った。

 

「不味い! もう一杯!」

「ありませんっ!!」

 

END

 

 

 

 

ご高覧に感謝。

 

始めに注意書きをしたヴァニラですが…彼女はマジメで、おそらく一番、常識的な行動をとるので、こういうお遊び的な雰囲気には、入れづらいです…。一番手に持ってくるかなぁ…。

 

それと。

書き手個人の趣味で、どことなく2人の世界なヒトたちがいます。…あんまり気になるようでしたら、お申しつけ下さい。