逆井より:拙作「明日の美紗さん」のパクリです。
性懲りもなくやってみました。
あるいはこれも素晴らしき日々
『明日のルシャさん』
−明日のためにその1−
タクト・マイヤーズが不思議な力で空を飛んでいるが、そんな些細な事はどうでもいいのだ。
そんな事より、僕の姉さんを紹介しよう。
名前はルシャーティ。銀河の英知を統べる、EDENライブラリの管理者だ。
資格的には、この銀河で姉さんに分からない事は無い、ということになる。
「ええっと。ポッキーが180ギャラで午後の紅茶が150ギャラだから……230ギャラね」
でも、足し算ができない。
100ギャラ足りないよ姉さん……。
−明日のためにその2−
「小麦粉が必要だ」
ヴァニラ・H(アッシュ)をこてんぱんにするための準備を整えながら、僕は部屋に戻った。
姉さんがガスコンロにヤカンをかけて、その前にしゃがみ込んでいた。
ヤカンから水蒸気がピューピュー出ている様を、ジッと見つめている。
「……お湯を沸かす、って言うわよね」
深刻に思い悩んだ顔で、僕の方を振り返る。
「でも実際は、沸かしてるのは水なのよね。これは一体どういう事なのかしら?」
姉さん、他に悩むこと無いのかい?
−明日のためにその3−
「エンジェルろっけんろ〜♪」
……たぶん、いま耳にしているウォークマンで、そういう歌を聴いているんだと思う。
姉さんは口に出して歌っていた。
「パワー全開〜♪」
ノリノリだ。
指を鳴らして、弾けるようにステキな笑顔。
やがて終わったのか、満足げにヘッドホンを降ろす。
「うん。元気出た」
それは何よりだ。
「じゃ、寝よっと」
姉さんはベッドを整え、鮮やかに寝てしまった。
……何のために元気出したの? 姉さん
−明日のためにその4−
天気予報によると、明日はミント率53%だそうだ。
意味不明な上に、えらく中途半端だ。
……それはそうと。
「へぇ〜」
雑誌を読んでいた姉さんが、感心したように呟いた。
「献血をすると、体の中で新しい血が作られるから、体のリフレッシュになるんだって。ヴァイン知ってた?」
「まあ、そういう話を聞いたことはあるよ」
「私も献血してこようかな」
「行ってくればいいよ。どれくらいするの?」
200ml 献血と、400ml 献血があるけど。
「どうせなら、ぜんぶ」
……姉さん、少しは頭使おうよ。
−明日のためにその5−
アクション映画を借りてきて、部屋で姉さんと一緒に観ていた。
トレジャーハンターのヒロインが、SFばりのアクションで悪の組織をやっつける話だ。
「かっこいい」
姉さんは惚れ惚れとした様子で言った。
「私もあんな風になりたいな。かっこいい大人の女になるの」
「……いいかい姉さん。人間には、できる事とできない事があってね」
僕はあくまで親切で言ってやるのだが、姉さんはムキになる。
「できるもん!」
……いや、だからね、姉さん。
かっこいい大人の女は、『もん』とか言わないから。
−明日のためにその6−
姉さんが包丁で指を切ったので、一緒に医務室へ向かっていた。
ずるべたーん!
後ろで盛大な音がしたので振り返ると、姉さんが転んでいた。
どうして何もない所で転べるんだ。
「大丈夫かい?」
「いたた……ええ、平気よ」
膝をすりむいて、血が滲んでいた。こちらも手当してもらわないとな。
僕は再び前を向いて歩き出す。
ごんっ!
鈍い音がしたので振り返ると、姉さんは壁の出っ張りに頭をぶつけて悶絶していた。
「姉さん、大丈夫?」
「〜〜〜〜〜〜っ……。だ、大丈夫。私、頑丈だから」
涙目だ。早く医務室に連れて行ってやらないとな。
先を急ごうと、僕は前を向いて歩き出す。
ドカッ! ベキッ! グジャッ! チュドーン!!
「姉さん……」
「へ、平気……私、強い子……」
なんだか振り返る度に、血まみれになっていくな、姉さんは。
−明日のためにその7−
EDENライブラリは恐ろしい。
姉さんがその気になりさえすれば、他人の個人情報までも分かってしまう。
身長・体重・趣味特技といったプロフィールから、好きな異性のタイプや、ちょっと人には言えない特殊な趣味といったプライベートな事まで、それはもう微にいり細にいり分かるらしい。
「ヴァイン、見て見て」
姉さんが部屋に帰ってきた。
……って、メイド服?
「ね、姉さん……!?」
「ふふふー、どうかしら? ライブラリのデータによると、ヴァインはこの衣装が――――
」
うわあああああっ!!
「い、今はちょっと出てってくれないかい……!?」
「え? 嬉しくないの? 私には似合わない?」
いや似合ってる! むしろ激ハマリだ! ぶっちゃけ物凄く嬉しいけど!
まずいから! 僕のダークなイメージとか溢れ出るシニカルさとかが、いろいろピンチだから!
「あ、そうかぁ」
な、何? 今度は何思いついたの姉さん!?
「こほん。『なんなりとお申し付け下さい、ご主人様』 なんちゃってー」
姉さん、出てってくれ、頼むから……っ!
−番外編・明日のために Special−
「あゆみちゃんはコナン君が好き」
「ルパン危うし。逆襲の銭形」
隣の部屋で、姉さんと月の聖母が話している。
会話は管理者同士の暗号で為されているので、何を言っているのかサッパリ分からない。
「波平が浮気?」
「わかめ。カツオがグレる」
「たらちゃん……」
姉さんの声は苦渋に満ちている。なんだか深刻な話のようだ。
『たらちゃん』=『残念』って意味だろうか?
この僕の頭脳をもってしても解読できないとは、何て高度な暗号だろうか。
ところで、テレビでキテレツ大百科が始まってしまった。
姉さん、楽しみにしてたのに見ないのかな?
それから5分くらいして、姉さんはようやく帰ってきた。
「おかえり、テレビ始まってるよ。今、コロ助が―――― 」
「……えっ!?」
姉さんは急に、耳まで真っ赤になった。
何やらモジモジして、上目遣いに僕を見る。
「そ、そんな……駄目よヴァイン。私たち、姉弟なのに……」
はい?
「でも、ヴァインがどうしてもって言うんなら……その、私……」
……もしもし姉さん?
僕、「コロ助」しか言ってないよ?
『明日のルシャさん』
−おしまい−
−いいわけ−
ごめんなさい。
これでも ルシャ×ヴァ の大ファンです。
……ホントですよ?
ああっ、物を投げないで下さいっ……!