夢。……彼女は夢を見ていた。

 

 

 

夢の中の彼女は、穏やかな雰囲気を漂わせる公園の中にいた。

その公園の一画にある、大きな木の木陰には彼女ともう一人。

それと、沢山の『友達』が周りを囲んでいた。

元気に遊びまわる宇宙ウサギの一匹を優しく抱き上げたのは、もう一人の少女。

彼女と比べると、随分と小柄ではあるが――これでも、彼女の先輩にあたる。

ウェーブのかかったライトグリーンの髪を揺らしている少女の顔に浮かんでいるのは、小さな微笑み。

少女が毎日の日課としている宇宙ウサギ達との散歩を兼ねた触れ合いに、彼女は随行していたのだ。

 優しげな表情を浮かべる少女と語らいながら、彼女は、自分の足元で美味しそうに野菜を頬張っている宇宙ウサギの可愛らしい頭を、優しく撫で付けていた。

 自分の周りに広がる、のどかで穏やかな雰囲気に、彼女もふと微笑みを浮かべてしまう。

 

この安らかな時間がいつまでも続けばいいのにと、思う。

本当に、のどかで、心休まる瞬間。

 

 

 

――それは、そんな夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――闇。

 

彼がいま存在している場所は、あらゆる色を無くした暗黒の世界。

そのあまりにも暗すぎる世界では、自分の体がその場に存在しているのかどうかさえも疑わしくなる。

いや。体という器はもう存在していないのかもしれない。

この場に漂っているのは、もはや自分の意識だけとでも言えるのだろうか。

 

……自分?

 

そもそも、自分とは何だ?

 

自らの存在を指す言葉。

だが、彼は自分であること――『その種族であること』を捨ててしまっていた。

だとするならば……。

 

――ボクハダレダ?

 

分からない。

 

それどころか、そもそも考えるというその行為自体が酷く面倒なことに思えてきた。

自分の周囲に、音も無く静かに広がる暗黒の空間こそが、それらの手間から開放されて、唯一安らぐことの出来る場所なのかもしれないとも思う。

 

もう眠りたい。

そんな甘い誘惑に誘われるようにして、唯一残っていた彼の意識は、ただ静かに闇の中へと沈んでいこうとしていた。

 

……一度、足を踏み入れてしまえば永遠に目覚めることはないであろう闇の中へ。

彼の意識の奥底でも、少なからずそのことは理解はしていた。

だが、そうだと思っていても抗えない安らぎの世界へと続く誘惑。

 

自分の存在が完全に消えてしまうことを、確か「死」といったか……。

――この期に及んで、まだつまらないことを考えている。

 

もう止めよう。

彼のその結論が、今度こそ決定的に最後に残った意思すらも闇へと沈めようとする。

 

自らの終わりの時が、目の前に迫ったその時。

 

ふと。

彼の中に浮かんできた一つの単語。

 

……これは? ……人の名前?

 

 

ルシャー…………

 

 

その名前を思い浮かべた途端。

闇が掻き消え、彼の意識は急速に覚醒していった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優美な造りの庭園。その場に訪れる者を、思わず穏やかな気持ちにさせてしまうような――のどかな雰囲気を放つその場所は、「普通」の庭園であるとは言えなかった。

庭園の外に広がる光景は――本来ならば、はるか高空に浮かんでいる筈の流れ行く雲達。

つまり、この庭園は「空中に直接、浮かんでいる」のだ。

EDENの本星、惑星ジュノーの首都。空中都市スカイパレス内の一画である、澄明な空気を漂わせる空中庭園で、二人の女性が肩を並べて歩いていた。

明媚鮮麗たる情景の庭園とは別に浮かぶそれらの色彩は、慎ましやかに揺れる黒色と、爽やかに揺れる金色。

その内の一人。緩やかに舞う金色の髪の女性が、おもむろに口を開いた――。

 

 

 

 

 

 

トランスバールを発ったエルシオール・セラフは、第一の目標地点であるEDENへと無事に辿り着いていた。航行中、主だった戦闘行為を行うことも、何らかの襲撃を受けるということも無く、航海はこれ以上ない程に順調であった。

EDEN側の人々も、この巨大な艦の姿とその存在感に、初めの内は驚かされていたが――今は、その遠き星からやってきた友人達を格納庫内へと招いた後である。

レスターは、EDENからの補給物資受領のために評議会へと赴き、艦のクルー達は補給が済むまで自由時間を与えられていた。艦の整備に取り掛かる者や、自分だけの時間を満喫する者。果ては、EDEN内へと降り立ってスカイパレス内を観覧する者達もちらほらと。そんな彼らに紛れて、ちとせとノアもスカイパレスへと降り立つ。

ノアは一目散にライブラリへと向かっていき、ちとせも目指す所は彼女と同じであった為、せっつく彼女に慌ててついて行くという形ではあったが、共にライブラリを目指していた。

ノアは、自らの生まれ故郷であるこの地に降り立つと、望郷の念から足取りも軽くなるのか(本人が聞いたら、本心はどうあれ否定の言葉をこぼしてきそうだが)、はたまた、純粋に知識の探求者であり知了をもとめる面から、英知の宝庫でもあるライブラリにすぐさま触れたいのか――そのことを真に知りうるのは彼女本人だけではあったが――小走り気味に目的地へと向かっていく。

ちとせは、ライブラリが存在する場所に居るであろう人物と、ただ単に話がしたかった為にその場所に向かっていた。

スカイパレス内を縦横に走る通路を駆け抜け(先行するノアの勢いに、すれ違う人々は驚き、後に続くちとせがその人々に頭を下げつつ――そんなに慌てなくてもいいのに、と言ってもそれをノアが素直に聞く筈がないので仕方がない)、警備の人々の脇を通り抜け――彼女達のことは警備隊員の間にはよく知れ渡っているので特に問題はない――やがて、目の前に荘厳な雰囲気を放ちながらも、その表面に描かれた繊細な紋様が眩しく輝いた扉が姿を表した。

ノアは、待ちきれないとでも言うかの勢いでその扉を開け放ち、扉の奥に続く空間へと足を踏み入れていった。ちとせも静かにその後に続く。

「あ……」

 という声は、その部屋の主から――どこか驚いたかのようにして上げられた声。

 声の主は女性。長く揺らめく金色の毛髪に彩られた、どこか儚げで繊細な雰囲気を浮かべた表情。その表情に付随するかのようにして立つ、たおやかさを含んだ姿態。

 驚きの声は――トランスバールの地からやってきた友人達が、この場を訪れるであろうことは分かってはいたが、よもや……こんなにも早くこの場を訪れるとは思っていなかったことから上げられたものであった。

 だが、部屋に訪れてきた人物の姿を改めて確認するなり、驚きの表情は消え、いつも通りの……落ち着きながらも、どこか優しさを秘めたような微笑を浮かべる。

「――お久しぶりです。ノアさん、ちとせさん」

 そう言って――ライブラリの管理者ルシャーティは、久方ぶりに会った遠き星の隣人達に再会と歓迎の挨拶を送った。

 

 

 

 

 

 

「この花。『あの人』の最期に贈ろうと思っていたんです」

空中庭園の所々に咲き乱れる花々の中で、決して強い自己主張はしないながらも、その存在感は確かに感じることができる――控えめでありながらも綺麗に咲き誇るその花の前に屈みこみ、呟いたのは金色の髪の女性、ルシャーティ。

優麗な花弁に軽く添えられた艶やかで儚げな色白の指先が、その花本来の美しさをより際立てせているかのようだ。

「…………」

黒髪の女性、ちとせは答えない。

否、どう答えて良いのか分からなかった。……が、黙っているというわけにもいかず、やがておずおずと言葉を返す。

「もしかして、あの時のことをまだ……」

言葉は最期まで続かない。最期まで言い切ってしまうことが、どうにも居た堪れなかった。

ルシャーティのいう『あの人』、ちとせが言う『あの時』とは、侵略者としての生き方を刻みつつも最期には心に目覚めた人物のこと、満足げな笑みを浮かべながら静かに息を引取った瞬間のこと、ではなかった。

――いや。語るべき本筋としては、『その人物』に関してであることは間違いないが、その時、その場所とは異なる空間の出来事である。……出来事と言っても、誰かがそれを確認したわけでもなく、唐突にやってきた事実。

 

――『彼』の姿が消えてしまったという事実。

 

 

 

 

 

 

「ん……まぁ、こうして顔を直に合わせるっていう意味ではそうなるのかもね」

「こちらこそ、お久しぶりですルシャーティさん。また、お会いできて私も嬉しいです」

ルシャーティの言葉を受けて、ノアとちとせも返事を返した。

そこからは、久方ぶりの再会を果たした者達の常として、互いの間で交わされるであろう多様な会話と共に時間を過ごしていく。

 女性同士の会話というものは、すぐに話題がつきるということもなかなか無いものであり、長時間の立ち話といった行為も割りと平然とこなす。数十分か、はたまた一時間にも及んだか……これだけ話していれば流石に話題の種も尽きてくるのであろうか、不意に

「ねぇ、ルシャーティ? あんた結構疲れてるんでしょう。あたしも、あんたと久しぶりに面と向かって話せて満足したし、今日はもう休むかしたら?」

 飛び出したノアの言葉。

「え?」

言われた本人と、その傍らの少女が同時にきょとんとした顔になる。

「だから、疲れてるんじゃないかって言ってるの。――あんた、ここのところ、ずっとライブラリに詰めっきりなんでしょ? その顔見れば、すぐに分かるわよ」

 ルシャーティは驚いた。確かに今、ノアが言ったことは間違いではないのだが、自分としては極力その気疲れした様子を表に出さないように意識していたのだ。――にも関わらず、こうも簡単に悟られてしまうとは、目の前の少女の観察眼の鋭さに感服してしまう(以前の少女の姿を知る者であれば、彼女のそのさり気無い気遣い自体に驚いてしまうだろうが)。

「えぇっ! そうだったのですか? ルシャーティさん……私ったら、そんなことにも気がつかず、長々と話し込んでしまって……」

「いえ。お話したいって思ったのは私も同じですから。心配して貰えるのは嬉しいですけど、そこまで大袈裟になる程、疲れているではありませんし。どうかお気になさらないで下さい」

そう言って、ニコッと笑う。

「まぁ……そうは言うけれど、あんたにライブラリでの調べ物を色々と頼んだのはあたしなわけだし……これからもっと忙しくなるんだから、ここであんたに倒れられても困るのよ。……これをずっと使い続けることが、それなりにしんどいということも今なら分かるしね」

 以前の“ヴァル・ファスク”との戦いの最中、更にはその後に、ノア自身も――ライブラリ管理者であるルシャーティと共にではあるが――幾度かこの装置を直接用いた経験があった。その回数を経ていくうちに、ライブラリを使った情報検索、事象調査、種々の分析……といった手順の勝手を掴んでいくと共に、この装置に長時間アクセスし続けることが、なかなかに気疲れするものだということも理解していたのだ。

「そんなわけだから、今日のあんたはここでお勤め終了。今日の所はあたしの方で、やるべきことをやっておくわ」

 ルシャーティは「せっかく来て貰ったところに申し訳ないです……」と、たおやめとした様子で抗議(?)の声を上げてはいたが――口での勝負でノアという少女に勝てるというはずもなく、今日の所はライブラリ管理者としての勤めは終了ということになった。

「……でも、休むと言っても、これからどうしようかしら。せっかく、皆さんが訪ねて来てくれた所で、いつもみたいにただボーッとして過ごすというのも何だか味気ないし……」

 真剣に困った顔をして言う彼女を目の前にしては、とても口には出来ないが――ちとせは、いつもならただボーッと過ごすという彼女の言葉を聞いて、その様子を想像してみて……何だかその姿がはっきりと脳裏に浮かんできてしまい……少し可笑しな気分になっていた。

(こうも簡単にその様子が浮かんでくるということは、この女性(ひと)ならばそうであっても不思議じゃないってことかしら……って、いけないいけない)

 心に浮かんだ、何となく失礼であるその物思いを中断させる。代わりに、こちらから一つの提案をする。

「もし宜しければ、気晴らしにその辺りを歩いてみませんか? 私も久しぶりに、スカイパレスの中を巡ってみたいので……」

 どうですか? と言いながら、ルシャーティの返事を待つ。

 控え目な表情で再びニコッと笑ったルシャーティの表情が、ちとせの問いに対する答を物語っていた。

 

 

 

 

 

 

“ヴァル・ファスク”との決戦に向かうちとせ達を見送り、決戦を終えて(アナザースペースに向かった、ちとせとタクトを除いた)銀河の英雄達がEDENに帰還してきた、その時までの間に。

正確には、彼らと“ヴァル・ファスク”が正に決戦の最中であった頃だろうか。

 

『彼』が居なくなってしまった。

――彼女の前から唐突にして。

 

 

 

『彼』の名はヴァイン。

EDENの民、ルシャーティと血の繋がった弟――という間柄は、真なるものではなく、単なる虚構であった。

彼の本当の目的から見れば、ルシャーティと言う女性は自分の役割を果たす為の道具でしかなかった。利用され続けるだけの彼女に対して、哀れみや同情の念を抱くことも……当然ながら、なかった。

哀れみや同情といった『心』というものの存在、列強種族たる彼にとっては不要のものであり、何よりも彼自身、『心』というものの不確かさ、曖昧さを酷く嫌っていた。

だが、ある時を境に彼の『心』は揺れ動く。

あれだけ毛嫌いしていた『心』というものが、いつしか自らの中に芽生え始めてきている――。

その事実は……彼を酷く当惑させ、苛立たせ、これまで戦闘種族であり続けた自らの生き方まで否定されつつあるかのように屈辱的であり、耐え難いものであった。

……だが、不思議なことに。ありえる筈のないことに。

自らの身に宿り始めた『心』に対する嫌悪感とは別に――確かに存在していた感情。大いなる矛盾点。

単なる道具でしかないと、凛冽たる視線を投げかけ、無感情な態度で接し続けた彼女を、

いつの間にか、

道具としてではなく、

一人の人間として、

 

――愛おしく思っていた。

 

その想いに気がついた時こそ、彼が、ヴァインという名の一人の『男』が、戦闘種族として与えられた役割を淡々として果たすのではなく、自らの想いのままに生きること(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を決意した瞬間だった。

 

そして、彼は彼女を守り抜く。

自らの想いに殉ずるかのように、全てをかけて。

――彼は小さく笑う。

『心』という愚かなものに触れた自分を皮肉るように、『心』という素晴らしいものに触れた自分を誇らしく思うかのように。

やがて大きくなった微笑は、どこか満足気で静かな笑み。

それが、ヴァインという名の……一人の人間(・・・・)が浮かべた最期の表情だった。

 

 

 

『彼』が、ヴァインという名のヴァル・ファスク(・・・・・・・・・・・・・・・・)が自分に対して行った仕打ち。それらは彼女にとって、当然許せる行為ではなかった。

ルシャーティの心を――清楚な物腰の彼女からは、けっして似つかわしくないような感情――憎悪や義憤、敵愾心や憤怒といった感情が支配していく。

自分の全てを奪われ、野望のための道具として扱われ続けたことが……憎くて、悔しくて、惨めで、悲しくて……自らをそうあるべくように追い込んだヴァル・ファスク(・・・・・・・・・・・・・・・・)を許すことなんて絶対に出来るはずがなかった。

 

許せるわけがない……

絶対に許せないのに……

彼が『死んだ』と聞いた時。

 

何故だろう?

 

涙が止まらなかった。

止めたくても止めたくても、止まらなかった。

 

あんなに酷いことをする人が居なくなって、自分が悲しむ必要なんてないのに。

理屈ではそう思っていても、彼女の『心』はそうは思っていなかった。

『彼』の名を呼び続け、彼女は泣き続けた。

繰り返し口から零れ出る名と共に、ポロポロと零れ落ちる涙と共に、限りない愛しさをその内に込めて――

 

彼女は、ただ泣き続けた。

 

 

 

息を引取ったヴァインを前にして、ルシャーティは……願いを口にした。

「この人を……ヴァインを、どうか安らかに眠らせてはくれませんか?」

彼女の申し出は、『ヴァインという男の正体』を知る者からすれば――ましては、それが長きに渡って“ヴァル・ファスク”への隷属を強いられてきたEDENの民からすれば――とんでもない要求だったに違いない。

この美しい星を蹂躙し、席巻し、支配してきた憎き仇敵である存在の冥福を祈ってやらなければならないのだ。

ルシャーティの周囲を取り巻くEDEN評議会の幹部達は、この申し出に対し難色を……示さなかった。

ここで静かに横たわる『彼』の正体が何であれ、議員達にとって重大だったことは別にあったのだ。

「大事な……私の大事な、人なんです……」

 恐る恐る、そう呟いた女性。

幼くしてライブラリとその周辺施設内でしか生活することを許されなかった幽閉の日々、やっとライブラリの外へと出られる時が訪れたとしても、そこに待っていたのは自由などではなく、ただ道具として利用されるだけの日々。

そんな苛烈で過酷で辛辣な日々を送ってきた彼女のささやかな願いくらいは、叶えてやりたいというのが今この場に居る人々の総意でもあった。

彼らがそう思ってくれたこととは別に幸いだったのが、今この場に居るごく限られた議員以外は、ヴァインという男の正体、はたまたその存在や名ですらも、殆どの民は知らないことであった。

長くEDENの民として潜伏していた彼は、他の“ヴァル・ファスク”の将軍たちのように表立った行動を起こしていたわけではないので、それは至極当然のこととも言える。

命をかけて一人の人間を守り通した、一人の男。

極秘裏にではあるが後日、ヴァインという名の一人の男の葬儀が、極少人数で侘しくありながらも決行される運びとなった。

その儀が行われるときこそが、彼と彼女の最期の別れの場所。

自分の中に芽生えた本当の想いを告げて、彼を見送る儀式。

その機会を与えてくれた心優しい人々に、ルシャーティは涙を流して感謝の意を述べた。

 

葬儀の準備が整うまでの間、ヴァインの遺体は防腐処理を施した特殊な貯蔵ケース内へと置かれることとなった。

その顔に浮かぶ安らかな表情は、まるでただ静かに眠っているだけのようであり、時がくれば自然と目を覚ましてきそうなそんな錯覚さえ覚えさせる。

だが、事実と言うものはかくも残酷で容赦がない。……彼の生命活動は間違いなく停止していた。

『その場から動くということはありえない』のだ。

 

そして、唐突でありながらも。その『ありえないこと』は起こった。

 

 

 

「消……えた……?」

 ルシャーティは、今しがた自分が発した……その言葉の持つ意味ですらも理解しかねるといった複雑な表情をしていた。

 秘されし葬儀の前日。透明な特殊ケースの向こうで静かに寝息をたてるヴァインの顔を見つめながら、一夜を共にした……無粋な誤解が生じぬよう正確に言うなれば、ヴァインの姿を見つめ続けているうちに、自らも知らず知らずのうちに座っている簡易座椅子の上でウトウトと眠りについてしまった為、気がついたら朝になっていたということだ。

 既に命を失った肉体と共に同じ時間を過ごすという行為は、人によっては、酷く不気味で信じ難く奇妙な行為に映ったかもしれない。

 だが、失われし命を、悼み慎む想いからくる彼女の行動を、責めて卑下する権利は、誰にもないだろう。

 目覚めと共に、目の前にした光景があまりに信じ難く……。ルシャーティは先の言葉を発することとなったのである。

 ヴァインはそこに居なかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

目の前にあるのは、開け放たれた特殊ケース。本来その中にあるべきはず、居るべきはずの人物の姿はどこにもない。

もしかして――誰か、この人(ヴァイン)に恨みを持つような人が……?

という不吉な考えが、頭をよぎる。

ルシャーティの考えはこうだ。――“ヴァル・ファスク”であるヴァインに恨みを持つ誰かが……例え、今は命無き身でありながらとしてもだ。その身体を持ち去り、自らの無念を晴らす為に――具体的に何をするかまでは分からないが、復讐なり何なりを果たそうとしているのではないかと。

しかし、その考えはすぐに頭から振り払われる。

今、ルシャーティが居る場所。ここは彼女の私室なのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

この部屋の主である自分の許可が無ければ、部屋の入り口であるドアは開かないようにロックしてある。

眠りにつく前に誰かが訪ねて来たということもなければ、部屋に誰かを招き入れたということもない。

では、眠ってしまった後はどうか。

彼女は、自分から自然に目を覚ました時以外……つまりは『睡眠中に外的な要因で目を覚まさせられること』を極端に嫌う。

情けなくもあり、周囲の人間にとっては非常に迷惑なことではあろうが……その際には、とても不機嫌になる。

だからこそ、彼女自身も『睡眠中に目を覚まさせられる(・・・・・・・・・・・・・・)』という出来事があったとするならば、それを忘れてしまうようなことはない。

これは奇妙な自信からくる確信ではあったが、この日に限って言えば、彼女は『誰かに起こされたということはなかった』。

つまり、昨日という日には、この部屋の中に彼女(とヴァイン)以外に、足を踏み入れた人間は居ないと言うことだ。

その事実を確認した所で……彼女はふと、入り口のドア――この部屋と外界とを結ぶ唯一の通り口(部屋の中には窓もあったが、その大きさは小窓と呼ぶ程にしかなく、人を通すという意味においては除外することになる)に視線を移す。

そして、絶句した。

ドアが開いていた。――『部屋の中にいる人物が、内側から開かなければ開かないはずの扉が』、だ。

開いていたと言っても、扉はそこまで大きく開かれていたわけではない。半開きというか、ごくわずかな隙間を壁との間に空けて外の世界との繋がりを表している。まるで、『誰かが部屋を出て行った後、ドアを最期までしっかりと閉め切ることを忘れていた』と言わんばかりに。

誰かが出て行った後……?

ルシャーティの脳裏に、信じがたくもあり……信じたいと思っていたある事柄が浮かぶ。

この部屋の主である自分が、ドアのロックを解除してその扉を開いたのでなければ……内側からそれを開くことが出来たのは、もう一人(・・・・・・・・)

自分と共にこの部屋に『居た』……ヴァイン。

彼女はこう考えたいのだ――既に命を失っていたはずのヴァインが実は生きていて、目を覚ました後に、ドアロックを解除して外に出て行ったのだと。

……馬鹿馬鹿しい考えだった。彼は確かに……「死んで」いた。その彼が、再び目を覚ました? そんなことはありえない。

だが、しかし。誰かが部屋の外から入ってきたのでなければ、このドアを開いたのは自分しかいない。だが、自分ではない。だとしたら……。

『ありえないこと』ではありながらも、心は『ありえない答』を求めている。

 自分が寝ぼけるなり何なりして、ドアロックを解除し、そのまま開けっ放しにしていた――などという事態は流石にないだろう。ない……と思う。

真実はどうあれ――とにかく、居るべきはずの場所、自分の目の前にヴァインは居ない。

その事実を再認識したルシャーティは立ち上がり、たった今目線を向けていた場所へと駆け寄り、入り口のドアを乱暴に開け放った。

もしかしたら、この扉の外に居るのではないかと……全く根拠のない不確かな思いに後押しされるようにして。

そこには誰も居な――くはなかった。急に開け放たれた扉を前にして、驚いたような表情をして立つ、老婆と呼んでも差し支えはないだろうか……老年の女性が一人。

身にまとっている衣装は、葬儀や法事などの際に着る薄墨色の衣服――すなわち喪服だった。

「あ、の……葬儀の準備が、整いつつ……あるので、そろそろ準備して頂こうと、お呼びに参ったのですが……」

老婆は、突然目の前に現れた人物の――普段の姿からは予想も出来ないような――厳しい表情をした少女の剣幕に気圧されるかのようにして……訥訥とした様子で告げてくる。

次の瞬間、

目の前の少女が、

泣き出しそうな顔をした。

いや。

既に泣いていた。

泣いたまま、老婆に抱きつくようにしてもたれ掛かる。

まるで……何かの救いを求めるかのようにして。

そして、老婆は涙を流す少女から告げられた出来事に驚愕した。

 

「ヴァインが……居なく、なっ……て、しまったんです……」

 

こうして『彼』は、ルシャーティの前から突然、姿を消した。

今も、その行方は不明である。

 

 

 

“ヴァル・ファスク”との決戦を終えたエンジェル隊一同(と、後にアナザースペースから帰還したちとせとタクト)も、ルシャーティ本人の口から、その信じがく衝撃的な話を聞かされた。

その時の彼女は、常の物静かな物腰をも相まって、酷く儚げで弱々しく意気消沈したような姿だった。

だが、『今の』彼女は――。

 

 

 

「……そうですね。気にしてないと言えば嘘になりますけど、もうウジウジと悩むのは止めにしたんです」

立ち上がり、ルシャーティは答える。

その表情はいつもと同じく、爽やかで落ち着いた笑顔。

その様子を見たちとせは、先ほどの自分からの問いかけが単なる杞憂に過ぎなかったことに一応の安堵を覚える。

柔らかな風が吹き、庭園に咲く花々と草葉、二人の女性の優美な長髪を優しく揺らした。

「そういえば……」

「?」

口を開いたちとせの言葉に、ルシャーティが反応する。

「『あの時』も、私にそう言ってくれましたよね」

ウジウジと悩むのは止めにしよう。

その言葉をかけてもらった……その日、その時をちとせは思い起こしていた――。

 

 

 

 

 

 

常に強くあろうとした心は、彼女が思うよりもずっと弱くて、儚かった。

決して失いたくないものを、突然に、無慈悲に、容赦なく、奪い去られたという事実は……まだ若い彼女には残酷なものであっただろう。

絶対的な不条理の刃は、彼女の心に鋭く突きつけられ、高ぶる気持ちを問答無用で削ぎ落としていく。

笑顔が、安らぎが、温かさが、去っていく。

泣顔が、苦しみが、冷たさが、やってくる。

 

その結果として、残る姿は――……。

 

 

 

白き月居住区画のとある一室。

その一室の雰囲気を端的に言い表すのならば、ただ静かである……という言葉だけで事足りるだろうか。

無駄な装飾等は一切無く、ただ機能面のみを特化させた真っ白な壁面で覆われた静かな部屋。

物音一つしないその部屋。

音は無くとも……部屋の主は、確かにその部屋の中に居た。

ベットの上でただ座っているだけのその人物までもが、この部屋に漂う静かな雰囲気を助長させているようにも思えた。

(……嫌な雰囲気)

部屋の主、烏丸ちとせを訪ねてここへやって来た少女――ルシャーティは心の中でそう呟いた。

部屋の中へと自分を招き入れる前……ドアロックを解除してくれた時に中から聞こえてきた声も、とても弱々しく今にも消えて無くなりそうな声だった。

まったく、これは、烏丸ちとせという少女らしくない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

視線の先にある少女の黒髪は、最近は手入れをしていないのか。普段のような艶やかさ麗しさを全く感じることが出来なかった。

どこかしら呆けた表情を浮かべるだけの少女に、ルシャーティは穏やかな表情の下で、少なからず怒りの気持ちを抱いていた。

それは何に対する怒りなのか?

仲間を失ったことに対して、何もしないで拗ねている姿にか。――違う。

大切な人を失い、ただ泣き腫らして日々を過ごすだけの姿にか。――これも、違う。大切な人が居なくなれば誰だって悲しい。

周囲の人々に心配をかけ続けて、情けない姿をさらし続ける姿にか。――そんなことじゃない。

それは、きっと。

……その姿が、自分と同じだった(・・・・・・・・・・・・・・・・)からだ。

かつての自分の姿を見ているようで、『大切な人が二度も居なくなったあの時の自分の姿』のようで……とても、腹立たしい。

気持ちを表に出さないように意識しながら、目の前の少女に声をかける。

「隣……座ってもいいですか?」

返事はない。声をかけられた当人は、軽く目を伏せたまま静かに頷いただけ。

その様子を見て、ルシャーティは無言でベットへと歩を進め、ちとせの真隣に静かに腰をかける。

お互い真正面を向いたまま、顔も合わせなければ言葉も交わさない。

そんな時間がどれほど過ぎただろうか。

不意に、

「ウジウジ悩むことはもう止めて……私は、信じることにしたんです」

ルシャーティが口を開いた。

「え……?」

あまりに突然な言葉に思わず声を出して、表情を……やっとこちらに向けてくれた状態で、ちとせが口にする。

「私は、あの人が居なくなってしまっても、いつか再び会えるって信じることにしたんです」

ちとせの疑問の声を聞いてか聞かずか、話を続けていく。

「おかしいですよね。今、私がこう思っているのに……私にそのこと(・・・・・・・・)を教えてくれたはずの人が、それ(・・・・)を忘れてしまっているなんて」

ちとせの表情が歪んだ。与えられた苦痛に耐えるかのような、苦い表情。

「どんな時にも諦めないで、不可能だと思えることにも全力で立ち向かって行って、最後の最後には必ずそれをやり遂げる。……私が、自分自身の本当の意思で、あなた達と一緒に居られた時間はそう長くはなかったけれど……それでも、そのことだけは確かに、私は教えられたんです」

 わざと、他人行儀に「あなた」という表現を用いたことに、目の前の少女は気がついただろうか。

 いま目の前に居るのは、ルシャーティという少女のよく知る『烏丸ちとせ』では決してないのだから――その呼び方は、ある意味正しかった。

「……でも」

ポツリと呟いたのは――ちとせ。

「それでも……私は守りきれなかった! 今まであれだけ自分の力を磨いてきたのに、強く信じても何も出来なかった! 私の力が足りないせいで、大切な人を……何も出来ないまま見ているだけだった! 私は何も出来なかった!! 何も! 何もッ――!!」

 呟きから続く言葉は、悲痛な叫びの連続だった。髪を振り乱しながら喚き散らし――

「それは、私だって同じです!!」

 怒声が響いた。

ちとせのものではない声。彼女がそこまで怒気を孕んだ声を発したのは、これが始めてだったかもしれない。座っていたベットから立ち上がり、眼下で泣き喚く少女を見下ろしている――声の主はルシャーティ。

「私だって……! 何も出来ずに守られているだけだった! 彼はボロボロに傷付いているのに、私だけが無傷で……。だけど、私には何の力もないから、彼を守ることは出来なかった! 守れないものがあったのは、あなただけじゃない!」

ちとせは叫びを止め、その言葉をただ静かに聞いていた。

 その様子に合わせるようにして、ルシャーティの声も常の如く、だんだんと静かで穏やかなものになっていく。

「……それでも、私とは違ってあなたには力があるはずです。本当の意味での力が。――大切な人たちを、守り救う為に与えられた力が。前に立ち、その役目を引き受けるべき人間が、こんな腐った状態で(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)一体何を守り救えるというんですか!?」

「………………」 

穏やかになっていったと思えた口調は、再び熱を帯びたものへと変化していた。そしてまた、再び静かな音色へと。

「私は、信じることにしたんです」

先程すでに一度、口にした言葉を再び。

「ウジウジ悩むのは止めにしました」

 強い言葉で、そう告げる。

「確かにあの時、命を失ってしまっていたはずのあの人だけれど。もう一度、会えるかもしれないという考えが、単なる現実逃避と捉えられたとしても……信じなければ、何も始まらない。――かつて、あなた達が、7番機を奪って逃亡した私たちを信じて追ってきてくれた時のように、絶望的な戦いの勝利を信じて戦い抜いたこと、必ず銀河を救うと信じた時。……信じなければ、何も始まらない。そう私に教えてくれたのは、ちとせさん(・・・・・・・・・・)……あなた達ですよ?」

「…………」

 ちとせは未だ無言だ。

「信じて、信じて……信じ抜いて、それでも駄目だった時に諦めればいい。……ちとせさんは、そこまで信じ抜きましたか? まだ諦めるには早すぎませんか? 『最期まで諦めない!』これは、ちとせさんと、その大事な人が心を同じくする言葉ではなかったのですか?」

「……」

 ちとせの顔に、微かではあるが光が灯り始めた。

 『あの日』から『今日この時まで』。誰の言葉も聞かず、抜け殻のように過ごしたきたちとせの心を揺さぶる言葉。

その言葉の主も……『大切な人を失っていた』のだ。

その人物の言葉だからこそ――大切な人を失ってまでも、彼女らしくあり続けようとする強い女性の言葉だからこそ――。

弱い自分の心に、強く激しく響いてくるのだろうか。

「あなたの翼は、もう折れてしまったのですか?」

ルシャーティは、自らのその言葉をゆっくりと首を振って否定する。先ほどまで感じていた苛立ちや怒りは、もうどこにもない。

「私には見えるんです。あなたの背中に輝く翼が。……もう一度、その光を――私に、大切な人達に、守りたい人達に……見せてはもらえませんか?」

 天使の翼は全てを守り、全てを慈しみ、全てを救う。

「私の……翼」

ちとせの顔から、身体から発せられる輝きが次第に強く、ゆっくりとではあるが確実に強くなっていく。

そんなちとせに続いて、ルシャーティも口にしていた。

「見せる……。私の、翼を……」

「そう。あなたの、翼を……」

 いつの間にか、ちとせは立ち上がっていた。

「私の、翼を」

「あなたの、翼を」

繰り返される言葉。

その瞳に、再び強い輝きが煌き始める。

「私の、翼を!」

「あなたの、翼を!」

なおも繰り返される言葉。

信じる心が湧き上がり、大切な人達との再会を望む気持ちが大きくなっていく。

「私の、翼を!!」

「あなたの、翼を!!」

それぞれの想いの丈を込めて。

再び一歩を踏み出し、思いの場所に飛んでいこう。

「私の翼で!!!」

「あなたの翼で!!!」

無心に繰り返される言葉から、望み向かうべき場所。

それは今更問うべきことではない。――その答は、ただ一つ。

ちとせは一心に願った。

「私の翼で――」

 

――大切な人の下へ!!

 

 

 

ルシャーティとの語らいを終えたすぐ後に。

烏丸ちとせは、白き月の中を走り抜けていた。

目的の場所へとただまっすぐに、ひたすらに。

誰も彼女を止めはしない。それも当然だ――輝きに満ちた表情を再び浮かべた彼女を、誰が止めることが出来ようか。

程無くして、ちとせは目的の場所へと辿り着く。

「待たせてしまいましたね……シャープシューター。どこまでも愚かな私ですが、再びあなたの力を貸しては貰えませんか?」

 

 ちとせの頭上で眩く光を放つ、天使の輪――H.E.L.Oシステムが、その問いに対する答を全て代弁していた。

 

 今、ちとせは特別何をしたかったというわけではない。

決意を新たに、再びこの銀河を駆けてみたくなったのだ。

格納庫の扉が当然のようにして、彼女の意思を知りつくしているかのようにして、静かに開かれる。

目の前に広がるのは、彼女が望んだ銀河そのもの。この果てに目指すべき場所はあり、信じる道がある。

彼女は飛び出し――思い切り、飛びまわった。

宇宙(そら)を駆け巡る翼は、どこまでも美しく。その光は、銀河を照らし。刻まれる光跡は、希望を目指し。

天使の翼は、銀河を駆け抜ける。

翼を持つ者の名は天使。

 

それこそが。

 

大いなる『翼』を持つ者。

 

銀河を駆ける光の天使(ギャラクシーエンジェル)――。

 

 

 

 

 

 

「……えぇ。そういえば、そんなこともありましたね」

 一際大きく咲いていた花を撫でつけながら、ルシャーティは微笑む。

「……あの時、わざわざルシャーテさんが不甲斐ない私のために訪ねて来てくれたというのに、随分と失礼な真似をしてしまって……。今更ですが、何とお詫びしたらいいのか……」

「いえ。私だって勢いに乗って、結構失礼なことを沢山言ってしまいましたし……ここは、おあいこということでどうでしょう?」

 再び柔らかな風が吹き、庭園内の全てのものを優しく包み込む。

 優しく吹く風の中で、二人はお互いに顔を見合わせてニコリと笑った。

その笑顔が周囲の花々の持つ清々しさと合わさり、和やかな空気を庭園内へと広げていく。

「きっと、無事に……。皆さんと一緒に、ここへ戻ってきてくださいね」

風が吹き抜けた後に、ルシャーティが口を開いた。

ちとせの答は、言うまでも無く決まっている。

だから、元気に応じた。

「はいっ!!」

 その応答の言葉に、自分の想いの全てを含ませて。

 

庭園を囲む雲は、思いのままに流れ、

庭園を吹き抜ける風は、安らぎを運び、

庭園に咲く花々は、二人の少女の姿を静かに見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

「副指令。関係各所への通達、完了しました」

「いつでも出港可能です」

「よし」 

アルモとココ、二人のオペレーターの声を受け、レスターは頷いた。

1日かけて行われた、エルシオール・セラフのEDENでの補給作業を兼ねた休息は終わりを迎えた。

あとは、セレナが提示してきた合流地点まで一気に進んでいくことになる。

クロノドライブを繰り返し、道中で大きな妨害等が無ければ数日中には到着するだろう。

艦全体の雰囲気を見てみても――クルー達にとって、この1日の休息でさえ気晴らしになったのであろうか。皆、生き生きとした表情をしている。

ちなみにレスター本人は、自室に篭ったまま……いつもと変わらぬ事務作業に精を出していた。本人曰く、こうしている時が一番落着くのとのことだそうだ。

このことは、レスターを誘ってスカイパレス内を一緒に巡り歩こう! と画策していたアルモの計画失敗を意味することでもあった。

結局は、いつものようにココと連れ立って自由時間を過ごすのみで今回も終わってしまった。(副指令の代わりとして、毎回連れ立たせられる身のココとしては、正直いい気分がしない点もあったが、親友の頼みとあれば無下に断るわけにもいかなかった)

「出港準備は整ったな? 出港前にもう一度、EDEN評議会に、貴君らの補給ともてなしに感謝すると伝えてくれ。それが済み次第、すぐに出港するぞ!」

 一人の少女の悩みを知ってか知らずか(おそらく知りはしないだろう)、レスターが指令を下す。

こちらから通信回線を開こうとした所に、丁度EDEN側から通信が送られてきた。

通信を受け取り、表示されたモニターに映っていたのは、ノアとルシャーティ。

「あんた達、あたしが居なくなったからってヘマやらかすんじゃないわよ」

面と向かっていきなり、これである。

「あ、えと……皆さん、お気をつけて下さいね」

 先に飛び出したノアの発言があまりにもズケズケとした物言いだった為、どこかおよび腰といった様子のルシャーティ。

「わざわざ、すまないな」

 激励の言葉をかけてくれたルシャーティに、レスターは(心の中ではノアを除外しておいた)感謝の意を述べる。

 同じくブリッジに居たちとせも、心の中でノアとルシャーティに(律儀にも両者に対して)同じく感謝の意を述べた。

「ま、こっちも出来る限りのことはやっておくから。あんた達も、せいぜい頑張りなさいよ」

「無事に、帰ってきて下さい」

見送りの言葉を受けて、エルシオール・セラフは動き出した。

クロノストリングエンジン始動。

空中都市スカイパレスを後にして、巨艦は空の中へと身を進めていく。

雲の合間を突き抜ける巨大な艦影を、白く輝く光の航跡が彩る。

空行く(ふね)は空の彼方へと、高く高く飛び上がっていった。

 

 

 

――ちとせは、自分の大切な人との再会を信じるのと同時に、『彼』のことも信じ、『彼女』との再会を願っていた。

願いと共に、遠く小さくなっていく空中都市の姿を見つめ続ける。

その姿が、小さくなって、見えなくなってしまうまで、いつまでも、いつまでも。

 

――ルシャーティは、『彼』と『彼女』の再会を心から願い、待ち望んでいた。

祈りと共に、はるか銀河へと飛び立つ巨艦の姿を見送り続ける。

その姿が、小さくなって、見えなくなってしまうまで、いつまでも、いつまでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“グラン・ヴァルカス”が要塞(・・・・)として用いているこの施設の一画。

特別な立場――この場合は“グラン・ヴァルカス”各人と、混沌の波“ケイオスタイド”の構成員ということになる――の者しか立ち入りを許されない、特殊格納庫に六人の超人達が足を踏み入れていた。

いや、一人と五人と言うべきか。

その内の一人は、今この場に居る全員の中で間違いなく最も高次な次元の存在であり、また、その彼自身――格納庫の最奥部に鎮座する巨大な艦へと早々に乗込んでしまっていた為、先の五人とは行動を別にしている――“ケイオスタイド”の指揮隊長ルーク・グランフォートその人である。

残された五人も、自らが向かうべき場所へと歩き始める。……“ガルム”という名の大型戦闘機が待つ場所へと。

彼女たちが今、身につけている衣類は先ほどまでの簡素なローブ然とした物ではなく、機能性のみを重視した漆黒の戦闘服だった。

その黒の囲みの内側に、巨烈たる災禍を内包し……その黒を纏う者達は、暗き影を引きながら。目指すべく場所へと、五つの混沌が歩を進めていく。

 

ひたすらに無機質という言葉が似合うほどに単調で、何の彩りも感じられない深い紫色に覆われた壁面。それら一切の無駄を省いた格納庫内の一角で、居並ぶかのようにして存在感を主張しているものがあった。

五機の大型戦闘機。――特務戦機遊撃隊“ケイオスタイド”が駆る大型特殊戦闘機“ガルム”である。

 

大型特殊戦闘機“ガルム”。

 はるか過去に、そして現在も極一部の者が実際に用いているであろう――『紋章機』と呼ばれている機体を模して造られた、ケイオスタイドが操縦する大型戦闘機群はこのように呼称されていた。

型式番号はGM−00等として表現される。

紋章機の情報を基にして造られたとは言え、その基本コンセプトは『基となった紋章機を超え得る力を持つ戦闘兵器としての運用』という点であった。

その為、基になった紋章機よりも武装面での強化が重視され、“ガルム”シリーズ全機体を通して、高威力の火器を許容量限界まで数多く搭載することが可能となっているのである。

また、半年前の事件において3番機アークレギオンが特殊な機械郡を用いて(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、微かに入手することに成功した『天使環(エンジェルリング)』――HELOシステムの情報を基にして更に強化(・・・・)された擬似HELOとも言える特殊システム(ケイオスタイドはこれを「カオスリング」システムと呼称している)が、現行の機体には設置されていた。

“グラン・ヴァルカス”が過去において、“ガルム”の設計モデルとした紋章機搭載のそのシステムは、HELOという名称をまだ定められていなかった上に、システム上の完全な完成を見せてはいなかった。

HELOいうシステムが究極の完成の形を迎えたのは、“グラン・ヴァルカス”が姿を暗また後に、EDENと“ヴァル・ファスク”との激しい戦いが開始された時になってからである。

自らが独自に発展させてきたカオスリングシステムに――究極の完成を遂げ、度重なる戦いにて洗練されてきたHELOという、カオスリングと同種の起源を持つシステム。このシステムをカオスリングに組み込むことで、更なる力の発言が望める――。

 結果として現行のカオスリングシステムは、更なる力を発揮することが可能となった。そして、その力の発現の方向性はHELOシステムとは少々異なってもいたのだ。

カオスリングシステムは、搭乗者の心の中にある闘争心や怒りの気持ちといった負の感情のみ(・・・・・・・・・・・・)を力の糧とする。その暗く激しい感情こそが、絶対的な破壊と混沌を撒き散らす為の欠かせない原動力となる。

常に戦いを望むように調整されたケイオスタイドの面々にとって……その機構は、常に力を最大限に引き出すことが出来る最良のシステムであると言えるのだ。

 

ケイオスタイドのリーダー格――赤紫色の長髪を揺らした女性フェリア・イグニアスは、機体固定用のアームといった種々の機械郡によって中空(なかぞら)に固定された自らの乗機であるGM−01『アグニトーラス』を前にしていた。

大袈裟なまでにして機体を固定しているアームやワイヤーといった諸々の設備は、上下左右あらゆる方向から複雑に絡み合うようにしてアグニトーラスを包み込み――もとい、硬く拘束でもしているかのような印象を受ける。まるで……凶暴な(ガルム)を鎖で雁字搦めにして、その動きを封じているかのように。

そして、その凶暴な『獣』は程無くして束縛から解き放たれることになる。

荒れ狂う混沌を撒き散らす猛獣――その駆り手にして、導き手たる女性は、笑っていた。

声を出して笑っていたのではない。声無きその表情に浮かぶ微笑は――とても冷たく、残忍な笑みだった。

口の端を吊り上げる様な独特の笑み、鋭く細められた眼差しから放たれる眼光は獲物を狙う獣のようだ。

先ほどの“グラン・ヴァルカス”達が鎮座していた広間内で見せたような落ち着き払った挙措は、その表情からは微塵も感じられない。

迫りくる戦いの気配を前にして、その戦いにおいて敵対者を蹂躙する力の存在を前にして、身の内に眠る闘争本能が刺激され、身体中の血が熱く滾り始めていた。

“ケイオス・タイド”の面々は優れた兵隊であり、狂戦士でもある。

“カオスリング”という独特のシステムの存在を無視したとしても、彼ら彼女らの身の内には――怒り、妬み、疎み、闘争心、破壊衝動、暴力性、残虐性……ありとあらゆる負の感情が敷き詰められている。

戦いにおいて、力を発揮する要素として最も大きなものは――敵対者を完膚なきまでに殲滅しつくすという性質の戦いにおいてはなおさらだ――こうした負の感情を出所とする力だ。

彼女たちは、常に戦いの力を発揮する為にそう造られた(・・・・・・・・・・・・)

猛り狂うその気持ちを代弁するかのようにして、声が響き渡る。

高ぶる気持ちを、身体の内に収め切れないとでも言わんばかりの勢いで響く彼女の声。

「さぁ! 狂騒の宴が間もなく開始される!! あたし達の前に立ちはだかる者は全て……破壊だ! その牙で噛み砕き、その爪で切り刻み、その腕で奪い取り、その尾でなぎ払い、その瞳で獲物の最期の瞬間を容赦なく見つめてやれッ!」

 赤紫色の髪を激しく振り乱しながら、猛然と吼える。――揺れる赤紫が描く残影は、激しく燃え盛る紅蓮の炎か、はたまた静かに揺らめく紫炎の表れか。

 混沌の駆り手たる女性の声は、その場にいる全ての『獣』達に付和雷同たる伝令の如く浸食し、浸透していった。

 

「ヒャーハッハッハッハッハァーッ!!」

 甲高くて耳障り、下卑た笑い声が、GM−02『ベイオウルフ』を前にして響き渡る。

声の主は金髪を大きく逆立たせて、眼を鋭く吊り上げた男だった。

狂ったように笑い続けた後、彼は自らの身から湧き出る衝動を言葉に乗せていく。

「殺すぜ壊すぜ! 殺すぜ壊すぜ! 殺すぜ壊すぜ! 殺すぜ壊すぜぇ……ぶち殺して、ぶち壊して、皆殺しだぜぇッ!! ヒャーハッハッハッハッハッ!!」

 狂気の言葉を飽きもせずに繰り返す男。彼こそが、ベイオウルフのパイロット――ビュート・シュバイツァーである。

彼は“ケイオスタイド”の面々の中でも、最も破壊衝動が強く、他の追随を許さない程の残虐性を秘めていた。

――否、「秘めていた」ではなく、存分に「発露」していた。

高笑いを上げ続けるその表情は、殺戮の時を今か今かと待ち侘びるかのように嬉々として輝き、

その身体は、血と硝煙の香りを求め、獲物の断末魔の悲鳴を聞いた時に訪れる恍惚の瞬間を狂喜のままに欲していた。

「ヒャハハハッ! ヒャーハッハッハッハッハッ!!」

 狂ったように笑い続けるその声が、この場に更なる狂喜と狂騒を呼び起こしていく。

 恐悦、はたまた欣喜とでも言うべき狂人の声を身に受ける(ベイオウルフ)も、やがて訪れる破壊の瞬間を期しているかのようにして、硬く拘束された身体から確固たる存在感を放っていた。

 

 GM−03『アークレギオン』のパイロットであるエニル・アシュフィールドは、自らの主たる者に対して極めて従順であった。

 いくら巨大な力を有しているとは言え……それを使う側にも制御が効かないような危険な力を持つ者は、大規模な組織活動においては不要であり、またその存在は毒とも害悪ともなる。

 凶暴かつ強大な力を持ちながらも、決して従順さを忘れず、自らに隷属を強いることの出来る存在。

エニルという女性は、まさにそのような存在であった。

「…………」

無言のまま、自らの愛機であるアークレギオンを見つめている。

落着いた表情を浮かべているその姿は、身の内に宿る……暗く禍々しい心の姿とは正反対であった。

従順であり、冷静でもある彼女も混沌の波の一員なのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

他のメンバー達が抱くような、激しい負の感情を確かに持っている。

その暗き想いが高ぶりつつあるのは、戦いの時が近づいているからという単純な要因だけでは決してなかった。

……『半年前』に味わった、あの屈辱。

アークレギオンが、エニル・アシュフィールドという女が、絶対の自信を持って放った隷従千徒(レギオンスレイブ)――極微細操郭機郡による目標の確保が……はるか過去からの忌々しき妨害者によって阻まれたという事実。

この私の。“ケイオスタイド”たる私の。エニル・アシュフィールドの。

――使命を妨害されたのだ!

そんなことが許されていいのだろうか。

――私は従順たる刃、敗北や失敗は許されない。その私の役割を妨げることは許されない!!

憎い。――憎い憎い憎い! 自分の邪魔をする全てのものが!

全てをかけて、潰してやる。

「フフッ……ッフフフ」

 ふいに笑みが零れた。

 口元だけを歪ませた暗い笑みが、表情という名の帖に表装される。

 憎くべき、その相手の自由を思うがままに弄ぶことに、限りない程の愉悦を覚える。

 彼女は笑い続けていた。涼やかな青髪に彩られ、暗く静かに、身の内に溢れる冷淡で陰湿な想いを吐露するかのようにして――笑っていた。

 

「よう、相棒。久方ぶりに大暴れ出来るみたいだぜ? 今か今かと待ち侘びて、疼きに耐えてきたが……やっぱ、あの瞬間は堪らないよなぁ」

 と、語っている内容は大いに物騒ではあるが……ガイン・ダハーカは、まるで親しい友人にでも話しかける時のように気軽な口調で、GM−04『ニーズへグ』に語りかけていた。

「ん? ……お前も楽しみで仕方ないってか。そうだろうそうだろう」

 大仰な仕草で満足そうに頷く。ブロンドの髪をオールバックに固めた彫りの深いその顔に、そこか陽気さを含ませたような笑みが浮かんだ。

 物言わぬ機械であるニーズへグから、果たして本当に返事が返ったのかどうか。事実はどうあれ、言葉をかけ続ける本人にとって、それを問うことは意味のないことであった。

ガインにとっての戦いは、一種の『ゲーム』のようなものだった。

自らの存在が、戦いの為に生み出されたものであるということはよく分かっていたし、心の内で猛る衝動も全て受け入れていた。

そんな彼だからこそ、戦いに向かう身としては正に適材適所であると言えたであろう。

戦いに適した存在である彼は、戦うことを義務付けれたものと考えるのではなく、その行為自体を一種の『娯楽』として捉えていたのだ。

奪い、破壊し、踏みにじるという行為を娯楽として捉える彼にとっては、それらを行うことが喜びであり楽しみであったのだ。

その姿は、子供がテレビゲームといった仮想体験の世界で、物を壊したり、何かを奪ったりという行為を目的とし、また、それを楽しみとするといった姿に重ね合わせたようなものである。

だが、彼の場合の『その行為』は現実の世界で行われる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

仮想の世界ではない場所で行われる、究極の娯楽にして、究極のゲーム。

戦いの中で悦楽を見出す。それが、ガインという男だ。

「あぁ、待ち遠しいなぁ……待ち遠しいよなぁ?」

 精悍な顔つきとは相反するかのような――あくまでも陽気な口調で、ガインは『相棒』へと声をかけ続けていた。

 

 ニヴァス・ホーントヘルは、静かな表情の裏で、激しい怒りを燃やしていた。

 “ケイオスタイド”としての本能に加え――『半年前』に共に任務を行っていた、先のエニルと同様にして――その怒りの篝火は、屈辱という言葉を薪代わりにして燃え盛っている。

 彼女の乗機、GM−05『アガスティア』は半年前に与えられた任務において……その機体に備わった『ある機能』を用いて、3番機アークレギオンの補佐に当たっていた。

 そして……妨害された。

 ただの人間が造った存在如きに、目的を阻まれ、煮え湯を飲まされた。

 “ケイオスタイド”たるその身が、人一倍その行為に対する怒りと憎しみを増大させていく。

今度こそ、完全なる混沌を与えてやらねばならない。

「……消す」

 静かで無感情な表情に、どこか陶然たる表情を加えたような奇妙な相貌。

白銀色に輝くショートヘアに彩られて、暗く冷たい心が叫び続けていた。

 

 

 

フェリア・イグニアスが駆るGM−01『アグニトーラス』。ビュート・シュバイツァーが駆るGM−02『ベイオウルフ』。エニル・アシュフィールドが駆るGM−03『アークレギオン』。ガイン・ダハーカが駆るGM−04『ニーズへグ』。ニヴァス・ホーントヘルが駆るGM−05『アガスティア』。――彼ら、彼女らは、この力を用いてただひたすらに混沌の波(ケイオスタイド)を広げていく。

 

 

 

ルーク・グランフォートは、自らが『操艦する』巨大戦艦、“ケイオスタイド”の運用母艦とも言える艦、特務戦闘艦『ギア・ルーク』のブリッジに居た。

ブリッジと言っても、暗い紫色に染まる広大なスペースには艦の運用に必要不可欠な計器類や、クルー達のつく座椅子といったような物が一切存在していない。

彼は、“グラン・ヴァルカス”たるルークは、“ヴァル・ファスク”と同様にして、その身一つで巨大な艦を巧みに操る。

ただその場にあるのは――広間の中央に轟然たる存在感を伴って立っているルーク本人と、彼自身を囲むようにして地面から伸びている――腰元までの高さを持つ、細長い直方体の形をした突起物のみだった。

その突起物の一つに、軽く手をかざす。不気味な光が、その先端から微かに放たれた次の瞬間。ルークの周囲の空中に五つのモニターが映し出された。

そこに映るのは、“ケイオスタイド”各人の姿。その誰もが……高ぶる戦意と、来るべき狂騒に、大いに高揚している様子が目に取れた。

相対する存在を、完膚なきまでに消し去るための余興であるのだろう。

高ぶるのは大いに結構だが、彼にとってはそんなことはどうでも良かった。

自分たち(グラン・ヴァルカス)の最終的な目的は、敵対者を単純に滅することではない。そんなことではないのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

最終的な望みはもっと別の所にあり、所詮は道具でしかないものにそれを伝えても詮無いこと。

敵対勢力を減退させるに越したことはないが、大局的に見ればそれも大したことではない。

望みが叶えば、全てが消えてしまうのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

あの者達の抵抗力を少しでも削ぎ落とし、かく乱することことさえ出来ればそれでいい。

そう思いながら、自らの本能を体現し続ける者たちを――ルークは、涼しげな視線で見つめ続けていた。