「つまり、EDENを『ヴァル・ファスク』の手から開放してほしいということですか。」
「・・・平たく言えばそういうことになりますね。」
第二話「EDENの民」
二人は姉弟で、姉の名前はルシャーティといい弟の名前はヴァインという。二人の話によるとEDENはクロノ・クェイクが発生した後でも存続していたらしくEDENの中心である惑星ジュノーを中心といて繁栄していたが突然の『ヴァル・ファスク』の侵攻によって制圧、長く支配下に置かれてしまっている。
「僕達はあなたがたの噂を聞いてここまでやってきました。あのネフューリアを打ち倒したあなた方の力があれば必ずEDENは救われます。」
「お願いです、マイヤーズ司令。どうか『ヴァル・ファスク』の手からEDENを救ってください。」
ルシャーティとヴァインは頼み込むように俺に言った。
二人の気持ちもわかる。遠く離れたEDENから俺達を頼ってここまで来たのは大変だったと同時に危険だったに違いない。
「すみませんが、その答えはここで出すことはできません。」
「え・・・?どうしてですか・・・?」
「私はこのエルシオールの司令官と言うだけであって決定権は上層部にあります。この事態は本国にも報告させていただきます。それにあなたたちにはこのエルシオールで保護すると同時に精密検査を受けてもらいます。体に異常はないかチェックするだけですから。」
これが今の俺にできる精一杯のことだった。
俺の言葉に対してルシャーティは落ち込んでいる様子だった。
「姉さん・・・・。」
「ええ、わかったわ・・・。」
「マイヤーズ司令、僕達を保護してくれたことを感謝します。」
「・・・・。」
返す言葉もなく俺はゲストルームを出てブリッチに行きこのことをルフト将軍に報告した。しかし、すぐ返事は返ってこなかった。
数十時間後
「マイヤーズ司令、ルフト将軍に通信が繋がりました。」
「よし、メインスクリーンに出してくれ。」
(思ったより時間がかかったな)
通信が繋がる前俺はそう思った。
スクリーンにルフト将軍の姿が映し出された。
「おお、タクト。元気にしておるか?」
「はい、この通り元気でいます。ルフト将軍は元気・・・・・ではなさそうですね。」
「やれやれ・・・弟子に読まれてしまうとはわしも歳をとったものじゃ。」
「これだけ時間がかかったとなると軍部の意見もまとまってきた・・・・と言うわけですか?」
「うむ・・・実は・・・・」
ルフト将軍によると会議では意見がバラバラだったが少しずつまとまってきているという。そこは納得がいった。滅んでいたはずのEDENの存在・・・そして『ヴァル・ファスク』の再来・・・・・頭が混乱してもおかしくはない。
「さて、今後のお前たちの任務はガイエン星系にとどまってほしい。簡単に言うと現状維持じゃな。」
「わかりました。」
「おお、そうじゃ。今『白き月』がそちらに向かっている。」
(へ・・・?)
今のルフト将軍の言葉に耳を疑った。
「あ・・・あの今の話は冗談・・・ですか?」
「何を言うておるか。そもそも『白き月』は400年ほど前にトランスバールにまで来たのだから動くのも当然ではないか。」
「そうは言っても・・・・なんか実感がわかないな・・・。」
「用件はシャトヤーン様に伝えておるから安心せい。それとノアも一緒に来ることになっておる。」
「わかりました、それでは失礼します。」
通信が終わりどっとため息をついた。
その理由はやはり『白き月』がここに向かって移動してきていることだった。
「けど・・・・やっぱり実感がわかないな・・・・。」
「何度も同じことを言うな。シャトヤーン様にあの二人を会わせれば何かわかるかもしれん。どっちにしてもお前の勘は当たったな、タクト。『ヴァル・ファスク』再び・・・・・か。しかもEDENとセットで来るとはな。」
「ああ、そうだな。」
つくづく俺たちは運に見放されているのだなと深く思うのだった。もしかしたら
ルフト将軍はこうなる事態を予測して俺達に長期休暇をくれたのだろうか?
(さすがにそれはないかな・・・・。)
と自分にツッコミを入れる俺だった。
「さて・・・・一通り方針はまとまったから俺は休ませてもらうよ。」
「ああ、言って来い。」
レスターはさらりと言った。いつもなら一言グチを言いながら追い出されるのに・・・・・。
「レスターにしては素直だな。」
「なぁに、これから忙しくなるし『白き月』がこっちに来るときたらもっと忙しくなるだろ?」
「うっ。」
「いくらお前の神経が図太くてもシャトヤーン様のお膝元では怠けられないだろうから、今のうちにせいぜい怠けておくんだな。」
うかつだった。
これじゃいままでどおりに怠けられない・・・・・。
レスターの奴・・・・だから嬉しそうな顔をしているのか。
「はぁ〜、それじゃ俺はこれで・・・・・」
「ちょっと待て、タクト。先にケーラ先生のところに行ってくれ。」
「え?俺は別に元気だぞ。」
「お前じゃない。あの二人のことだ。」
ああ、なるほど。
ルフト将軍と話しているうちに大分時間が経っているからそろそろ二人の検査の結果が出ているところだからな。
「異常がなかったら・・・・だ。それと・・・・・あの二人に案内役を誰かつけてやってくれないか?」
「『案内』か・・・・『監視』よりはスマートだね。」
「タクト。」
「わかっているさ。それが必要なのは事実だからね。う〜ん、そうだな・・・・。ヴァニラに任せようかな。」
「ヴァニラに・・・?」
俺はヴァニラを選んだ。
その理由はあの二人が艦内を見るとしたらそれなりの気遣いが必要になる。
誰にでも優しいヴァニラならいいと思った。
「ああ、ヴァニラなら大丈夫だと信じているからね。」
「よほど信頼していらっしゃるのですね。」
「それとも愛ですか!?」
アルモとココがそんなことを聞いてきた。
俺の答えはもちろん・・・・。
「もちろん、愛さ!!」
「わかったから、そのことはお前に任せるからさっさと行ってこい。」
レスターはあきれてため息とつきながら言った。
こいつ絶対に女できないな・・・・・いや、作る気すらないな。
(そんなことは学生時代から俺が知っているか・・・・・。)
そんなことを思いながらまずヴァニラの部屋に向かった。
「ヴァニラ、いるかい?」
「あ・・・タクトさん。少し待っていてください。」
インターフォンを押したあとドア越しで少し会話をした。(会話というわけではないのだが・・・・)2、3分経ったあとヴァニラが部屋から出てきた。
「なんの御用でしょうか?」
「うん、実はヴァニラに頼みたいことがあってね。これはヴァニラしかできない
仕事なんだけどいいかな?」
「私にできることでしたらなんでも言ってください。」
そう言ってもらえると助かる。
とりあえずヴァニラにことの事情を説明しながら一緒に医務室に行くことにした。あの二人の検査はいったいどんな結果が出たのだろう・・・・・?
「こんにちは、ケーラ先生。」
「いらっしゃい。話はクールダラス副司令からうかがっているわ。」
「それで結果はどうなったんですか?」
結果は良好だと言う。身体機能に問題もなくなんらかの病原菌に感染しているわけでもない言わば健康体そのものだとケーラ先生は言った。
「・・・・よかった。」
ヴァニラが一言安心したように言った。
ヴァニラから見ればEDENから逃げてくる途中で怪我をしていなかったか心配だった。これで二人は自由に艦内を回ることができるのである。
「・・・・・ケーラ先生、すみません。急にこんなことお願いしちゃって。」
「いいのよ、仕事なんだから。でも、「徹底的に調べてくれ」、だなんて、いつになく慎重なのね。マイヤーズ司令。」
「念には念を・・・・・っていう奴ですよ。」
俺は疑っているわけではないのだがまだEDENの民という決定的に証拠がない
ので警戒を解くにはまだ早すぎる。
「タクトさん、あの二人はもう自由に艦内を回ることができるのですか?」
「ああ、ケーラ先生のお墨付きさ。じゃあケーラ先生、俺たちはこれで。」
「うーん・・・・何か入りづらいな。」
医務室を出たあとそのままルシャーティたちがいるゲストルームへと足を運んだ。部屋の前で行くと俺は少しためらった。先ほどヴぁインたちのEDEN奪還の話をそのままにしていたので入ろうにも入れなかった。
「失礼します・・・・。」
そんな考えをよそにヴァニラは部屋の中へ入ってしまった。
ここまで来たらなんとかなるだろうと思い流れに身を任せて部屋へ入った。
「こんにちは。ヴァニラ・H(アッシュ)です。」
「「・・・・・・・・。」」
「何か困ったことがありましたら何でも言ってください。」
突然のヴァニラの登場に二人は戸惑っているように見えた。
二人から見たら早くEDEN奪還の用意をしてほしい・・・・・そんな感じだった。
「は・・・はい。ところでマイヤーズ司令、なんの御用ですか?」
「あ、ああ。えーと・・・・」
「僕たちの疑いが晴れた・・・・・そういうことですか?」
別に疑っているわけではない。
なぜなら身体検査の結果は良好だったので疑おうにも疑えない・・・・。
ヴァインの言葉が少し重く聞こえた。
「い、いえ・・・・・。別にそうわけじゃないんですけど。」
「仕方がないことです。僕たちがEDENの民という確証がない以上妥当な判断
だと僕は思っています。」
「そ、それはそうなのですが、やはり申し訳ない気持ちは多少あるわけで・・・・・。ねぇ、ヴァニラもそう思・・・・・あれ?」
ヴァニラに話かけようとしたがいつの間にかいなくなっていた。
さっきまでいたのにどこへ行ってしまったのだろうか・・・・・?
「・・・・・お待たせしました。」
「へっ・・・・!?」
いきなりヴァニラが出てきたので驚いた。
よく見てみるとヴァニラはお盆の上に紅茶が乗っていた。
いなくなっていたのは紅茶を入れにいっていたのだろう。
「ハーブティーを入れてきました。よろしければいかがですか。飲むと疲れが癒されます。熱いうちにお召しあがりください。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
どうやら二人にとってヴァニラの行動がわからないようだった。
固くならないようにとヴァニラは紅茶を持ってきたようだが二人は黙ってヴァニラを見ていた。
「お気に・・・・召しませんか。」
「・・・・あ、いえ。その・・・ヴァイン?」
「・・・そうだね。いただくとしようか。」
「どうぞ、それから、タクトさんも。」
ヴァニラから紅茶が手渡され一口飲んだ。
ルシャーティもヴァインも一口紅茶に手をつけた。
「いかがですか?」
「・・・とてもよい香りですね。それに味もさわやかで心地よい。」
「本当に。それにとても温かい。」
ヴァニラの入れてくれる紅茶は俺も大好きだ。
きっと二人なら気に入ってもらえると思う。
「ご馳走様。とてもおいしかったですよ。ありがとう。」
「よろしければおかわりもあります。」
「それではもう一杯いただきますか?私、こんなおいしい紅茶を飲んだのは初めてです。」
やっと少し硬かった顔がゆるくなりほっとした。
まずここで二人に謝ることにした。先ほどまでそっけない態度をしていて不愉快にさせてしまっていると思っていたから。
「ルシャーティさん、ヴァインさん聞いてくれませんか。」
「は、はい・・・・。」
「お二人には大変不愉快な思いをさせてしまいました。ですが、それはささいな疑いを打ち消しEDENとトランスバールとの友好を深めるためと理解してくれれば幸いです。それと同時に――――お二人をEDENの使者として歓迎します。ようこそ、エルシオールへ。」
軍上層部のことも気になっていたが二人を安心させることがまず第一だ。言い終
わると二人はお互いの目を見てから答えた。
「ヴァイン・・・・・・。」
「そうだね、姉さん。マイヤーズ司令。あなた方の誠意にをありがたく思います。」
「EDENとトランスバールによりよい未来が築き上げられんことを。」
俺は心から感謝した。
あと、呼び方についてだがいつもどおりタクトでかまわないと二人に言った。
「タクトさん、ドアの向こうが騒がしいです。」
そうヴァニラが言い終わると同時にロックしてあったドアが勝手に開きそこから
ミルフィーたちが倒れこんできた。
「わ、わ・・・・わ!」
「うわぁ・・・・!!」
ドシャーン!!
鈍い音を立て倒れながら入ってくる形となった。
「いったーい!!」
「ぐすっ・・・・鼻の頭を打ってしまいましたわ。」
「いいからあたしの上からどいておくれよ。」
突然の出来事に正直驚いた。
だけど、こんなところで一体何をしていたのでろうか?
「や、やあタクトにヴァニラじゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だねぇ・・。」
「とか言っているけど本当は立ち聞きしていたんじゃないの?」
「まぁ立ち聞きなんて人聞きの悪い。」
「そうよ、私たちはただ近くまで来たから寄っただけよ。」
近づいただけ普通ドアが開くものだろうか?
初めてエルシオールに来てルフト先生から司令官を頼まれたときも同じようなこ
とが起きた気がする・・・・。
「も、申し訳ありません、タクトさん!で、でもどうしてでしょうか?勝手にドアのロックがはずれるなんて・・・・。」
「案外ミルフィーの運のせいかもね。」
「あ〜ん、ごめんなさ〜い。」
そうこう雑談が続いているうちにルシャーティとヴァインが固まってしまった。
みんなはただ二人と仲良くなりたかった。それだけのことだ。
「二人とも聞いてくれ。みんなは二人と仲良くなりたいんだよ。」
「そ、そうそう。」
こんな話の展開となり結局公園で自己紹介も含めお茶会を開くことになった。そ
のときも二人はときどき固まってしまったが楽しいお茶会となった。あとは『白き月』が来るだけだな・・・・・。
第二話「EDENの民」 終
第三話に続く・・・・・・。
あとがき
久しぶりの執筆です。
といっても少しずつ書いていたのですがなかなか思うように書けませんでした。やっぱり原作通りに書くっていうのは難しいものですね。
さてさて、これからペースを少し上げて書いていくのでどうかみなさん抜けている場面があったりすると思いますがどうか応援してください。
それとSOLITUDE〜孤独〜のほうもよろしくお願いします。