お茶会(途中でスプリンクラーが故障して一時中断となったが・・・)が終わり『白き月』が着く間、ルシャーティとヴァインは少しずつエルシオールに馴染んでいった。俺はときどきクロミエのところに行き宇宙クジラから二人の心理状態を聞いたりエンジェル隊のみんなにも気にかけるように声をかけておいた。
第三話「人為的に起こされた天災」
「そうか・・・・・二人とも異常はない・・・か。」
「ああ、どうやら取り苦労だったみたいだな。あれから少しづつこの艦にも慣れてきたみたいだし。」
そのときアルモが『白き月』からの通信をキャッチした。明日にはガイエン星系に到着するようだ。
「意外に早かったな。」
「それだけシャトヤーン様は今回の件を重要視しているってことだろ。なんせトランスバール史上始まって以来のことだからな。」
トランスバール史上か・・・・・。
『ヴァル・ファスク』といいEDENといい事が大きくなりすぎて頭が混乱してきそうだ。はぁ・・・早くこの一件を無事に終わらせたい。
「ロストテクノロジーを生み出したEDENとの遭遇ですからね。」
「でもさ〜EDENが滅びていないわけだし『ロスト』ってつけるのもなんだかおかしくない?」
「そう言われてみれば確かにそうね。」
俺は別にどちらでもよかった。
どのみちロストテクノロジーは俺たちにとって永遠に理解できない品物と言うことには変わりはない。
「でも、これで何かがつかめるかもしれないな。」
「そいつはシャトヤーン様たちとEDENから来たあの二人次第だな。」
ふむ・・・・いろいろなことがわかってくることだし何かしないといけないな。ちょっと仕事でもしようかな。
「よ〜し!!」
「どうした、急に?」
「今までこの宙域でボーッと待機してたけどこれで気合が入ってきたよ。というわけで、お仕事お仕事、『白き月』が到着するまでにできることはやっておかないと。みんなも手が足りないようだったら、どんどん俺のほうに回してくれ。」
「何?」
「はい・・・・!?」
「うそ・・・・!?」
レスターに続いてアルモやココまでも驚きの声を上げた。
俺は何か変なことでも言ったのか。いや、そんなはずはないだろう。
「何で君たちは決して存在しない物体を見てしまったような目をしているのかな?」
「だ、だって・・・・。」
「ねぇ・・・・・。」
さっきまでの空気が一変して重い(?)空気となった。俺が言った発言がそんなに珍しいことだったのかな。
「いや・・・・お前が仕事に励むそぶりを見せるとは思ってもいなかったからな。つい・・・。」
レスターたちに言いたいことがたくさんあったが多分言っても悲しい反応しか戻ってこないようだからここはあえて何も言わなかった。
「勤労意欲に目覚めたお前は確かに貴重だがあいにく今の段階では出番はない。いや、むしろ邪魔だ。」
「うわっ、はっきり言ってくれるね。ウチの副司令官は。」
「事実を言っているだけだ。とにかく、こまごまとしたことは俺に任せてお前はこのことをあの二人にでも伝えてこい。」
俺は邪魔なのか・・・・レスターたちにこのときだけとても腹が立ってしまった。ブツブツ一人事を言っていると「何か言ったか?」など聞いてくる。まぁ結局俺はサボるのが仕事だからな・・・・・さてヴァインのところへ行ってくるか。
「ルシャーティ、いるかい?」
「あ、タクトさん。何か御用ですか。」
「あれ、ルシャーティは今部屋にいるの?」
出てきたのはルシャーティではなくヴァインだった。
「はい、疲れが溜まっていましたから今はぐっすりと眠っています。用件があるようですから起こしましょうか?」
「いや、いいよ。疲れて寝ているのに起こすのは悪いからね。」
「正直いうと助かります。姉は寝起きがとても悪いですから僕があとで姉に伝えてきます。」
へぇ・・・・あのルシャーティでも寝起きが悪いんだ。やっぱりEDENと言ってもやっぱり俺たちと同じ人間なんだな。おっと忘れないうちに早く伝えなきゃな。
「じゃあ後で伝えてくれないかな。明日、『白き月』がこの星系にやってくる。そこで会ってもらいたい人たちがいるんだ。」
「会ってもらいたい人たち・・・?」
「その『白き月』の管理者であるシャトヤーン様と今はもうないけど『黒き月』のノアの二人だ。」
やはり月の管理者に会うというのはヴァインたちには荷が重いようだ。シャトヤーン様は聡明で心が広いから安心だが・・・・ノアはどうだろうか?
「ご期待に添えるかどうかわかりませんが・・・・・。」
「そんなに緊張することはないよ。シャトヤーン様は優しいし、もう一人は・・・・多分大丈夫だから。君たちの話す内容によって俺たちの方針が決まるはずだ。EDENに対しても、『ヴァル・ファスク』にも対して・・・・ね。」
「わかりました。では姉にも伝えておきますね。」
さて、伝えることは話した。
ってブリッチに戻ってもまたレスターに追い出されることは目に見えているし・・・・今の時間ならみんなティーラウンジにいるはずだから行ってみるか。
「・・・って言うわけでサボりに来たよ。」
「何が『サボりに来た』わよ。この不良軍人。」
何をいまさら言うのだろうかランファは。こうなることは俺がここに着任と同時に決まったようなものだ。フォルテもあきれているが無理に理由をつけてやること同じなわけだし。
「この方を皇国の英雄と信じ込んでいらっしゃる純真な心を持つ方にはつらいげんじつですわね。」
「ご安心を、ミント先輩。若輩者ではありますが私もタクトさんがそういう方だということはもう承知しています。」
・・・思いっきり理解していないな。ちとせは多分俺をフォローしたつもりでいるが正直言ってまったく正反対のことを言っている。これに気づかないちとせもちとせだな。
「悪いのは自分なのにいっちょまえに傷ついてんじゃないの。」
「みんな、タクトさんはサボるのが仕事なんだからあんまり言ったらかわいそうだよ。」
ちとせの正反対に続きミルフィーにきつーい一言がかなり効いた。
「とどめを刺された・・・って感じね。」
「とどめを刺されても、私が治療します。タクトさん。」
う〜、やっぱり俺のことわかってくれるのはヴァニラだけだよ。けど、とどめを刺されたら治療も何もないがヴァニラの言葉でどうにか助かったようなものだ。
「あーもう、つくづく思うんだけどヴァニラはタクトなんかにはもったいなさすぎよ。」
「ははは・・・・。そうだ、ちょうどいいからみんなにも伝えておくよ。」
「どうしたんだい、改まって?」
俺はみんなに明日『白き月』が到着することを伝えた。これでひとまず先に進むことができるが・・・・きっとそれだけじゃ終わらないと思う。俺たちが知らない『何か』があの二人によって告げられる・・・そう感じられずにはいられなかった。
「マイヤーズ司令、『白き月』のドライブ・アウト反応を確認しました。至急ブリッチまで来てください。」
あのあと俺は自分の部屋で仮眠を取っていた。机から顔を起こし洗面所で顔を洗ってからブリッチに向かった。寝ぼけた顔で行ったらレスターに何を言われるか知れたものではない。
「お、意外にはやかったな。」
「大きなお世話だ。アルモ、『白き月』は?」
「見えてきました。メインモニターに出します。」
メインモニターに『白き月』が映し出され俺たちは圧倒された。こうして『白き月』を見ていると本星とセットでないと何かと不自然に見えてしまう。
「合流する予定より二時間早く来たか。それだけ今回の件を大きく見ているようだな。」
「シャトヤーン様から通信が入りました。」
『お久しぶりです、マイヤーズ司令。』
「はい。シャトヤーン様もなによりで。」
シャトヤーンのそばにノアがいた。
さて、一体どんな言葉が飛んでくるか・・・・・聞くだけで緊張してしまう。
『あら、タクトもいたんだ。あたしはてっきりまた寝坊しているんじゃないかって思っていたけど元気そうね。』
「あはは。ノアも随分のいいようだな。こっちは今か今かって待ち続けていたよ。」
『で、EDENから来た二人は?』
ありゃ、いきなり聞いてきたか。
まぁノアから見てば俺たちと再会しているよりもルシャーティとヴァインに会って話を聞いたんだろうな。それにノアもEDENで生まれたのだから急いでいるのも当然か・・・・。
「ああ、入航したら連れていくから待っていてくれ。」
『あ、そ。早く連れてらっしゃい。』
『では、お待ちしています。』
通信が終わった。
やれやれ・・・・ノアも相変わらずだな。俺はレスターにこの場をまかせヴァニラたちと先に『白き月』に行くことにした。ルシャーティとヴァインには仕度ができたらレスターのところに行くように伝えた。
『白き月』の謁見の間で俺たちは久しぶりにシャトヤーン様とお会いした。ノアも大分『白き月』に慣れていたので安心した。(と言っても無駄なスペースだらけなのもっと機能的にしろなどと文句を言っているが・・・・)一通りの会話が終わったあとレスターがルシャーテシィとヴァインを連れて謁見の間に入ってきた。シャトヤーン様が二人に対して軽く自己紹介をしたあとノアは二人に会った途端に意外なことを聞いた。
「証拠はある?」
「証拠・・・ですか?」
「あんたたち二人がEDENの民と言う証拠を見せてもらいたいの。『黒き月』の管理者としてそれを確かめなくてはいけないの。」
ちょっと待ってくれ。確かに俺たちは二人がEDENの民であるという確証を持っているわけではないが二人はあのとき『ヴァル・ファスク』の艦隊に追われていたのだから信じてもいいじゃないか。
「ノア、待ってくれ。」
「あんたには聞いてないわ。で、どうなの?」
ヴァインとルシャーティはお互いの目を見て何か小言で会話しているように見えた。そしてヴァインは口を開いた。
「・・・では僕たちの身分の証明になるかわかりませんが・・・・姉さん。」
「ええ、ヴァイン。」
ルシャーティは予言らしき言葉を言った。
そのあと謁見の間が強い光を放ち部屋全体に映像を映し出された。この光景に見覚えがあった。それはノアとシャトヤーン様が『白き月』と『黒き月』に伝わる伝承を読んだとき同じだがあのときには今映し出されている星はなかった。
「あの星の周りにあるのって『白き月』じゃない。」
「『黒き月』も・・・・一緒です。」
「EDEN・・・・・。」
ノアが小言でEDENの名前を口にした。
「そうよ・・・・・あれはEDEN。六百年前のあの日を境に私が見た・・・最後のEDEN。私は・・・あの星で生まれた・・・。」
ノアは自分に言い聞かせていた。
もしかして、泣いているのか?あのノアが・・・・・。
「このような記憶がまだ『白き月』に残されていたなんて・・・・。」
「こうも簡単に『白き月』の記憶に触れることができるなんて・・・・あんた、まさか!?」
「そうです。私もノアさんやシャトヤーンさんと同じく『管理者』と呼ばれています。私は・・・・ライブラリの管理者です。」
ライブラリ・・・・・?
名前からすると図書館みたいなものだろうか?
「そう・・・・やっぱりね。」
「ノアさん、ライブラリって何ですか?」
「ライブラリはEDENの情報と銀河の英知が集結する場所。ライブラリに存在しないものは決してないと呼ばれ『白き月』と『黒き月』のデータベースの元になったいわば親みたいなものね。その管理者なら『白き月』にもアクセスできるってわけ。」
うーん、よくわからないがそのライブラリがすごいということはわかった。ノアもちゃんと説明してくれればいいんだけど・・・・。
「しかし、それは昔の話です。今は・・・・。」
『ヴァル・ファスク』の手に落ちてしまった・・・・というわけか。
「ヴァイン、ルシャーティ。詳しく話してくれないか?」
「もちろんです、姉さん。」
「わかったわ、ヴァイン。」
そうするとルシャーティは話し始めた。
「クロノ・クェイク(時空震)でこの銀河がズタズタされて次第に安定し始めたころ突然『ヴァル・ファスク』の艦隊がEDENにやっていました。そして・・・一夜にして占領されて・・・。」
「ちょっと、待ちなさいよ!一夜に・・・ですって!?」
「はい、姉の言っていることは全て事実です。」
ノアは否定するように言った。
「そんなはずない!いくらクロノ・クェイクでEDENが衰退していても一夜にして占領できるはずがないわ!」
「確かに不自然な話ですわね。クロノ・クェイクの影響を考えれば戦力は五分と五分・・・。」
その話を聞いていたミルフィーが頭をかしげている。つまり、クロノ・クェイクの影響を受けたのは『ヴァル・ファスク』も同じであると言うことだ。しかし、一体どうしたら一夜にして征服することが可能になるのだろうか?
ヴァインは落ち着いた感じで話を続けた。
「そう考えるのが普通ですね。しかし、そこに両者のスタンスの違いがあったのならどうでしょうか?」
「どういう意味よ?」
「クロノ・クェイクを事前に知っていた者と知らなかった者・・・・・その違いですよ。」
そんなことがあるものだろうか。
第一、クロノ・クェイクは一種の災害みたいなものなのだから知ることことなどできはしない。
「どうやら言い方を変えたほうがいいですね・・・・・。」
「もったいぶってないで、もっと端的に説明しなさいよ!!」
「すみません、ノアさん。しかし、弟は決してもったいぶって言っているわけではありません。私もヴァインもこれを知ったとき、震えが止まらなかったんです。」
いったいどういう意味なのか。
ヴァインがまずクロノ・クェイクを簡単に説明した。
「およそ六百年前、クロノ・クェイクによって各惑星は孤立しEDENも衰退していきました。クロノ・クェイクは一種の津波や地震、あるいは天災とも言われその原因は依然として知られていない・・・・これがみなさんの知っている内容です。しかし・・・・。」
「違う・・・というのか?」
「クロノ・クェイクは・・・・天災なんかではありません。」
続いて言ったヴァインの言葉を疑うくらい全身から血の気が引いていくのを感じた。いや、俺だけじゃない。きっとみんなも同じはずだ。
「『ヴァル・ファスク』が人為的に起こした未曾有の災害。これがクロノ・クェイクの真相です。」
「『ヴァル・ファスク』が・・・・クロノ・クェイクを起こした!?」
「はい。目的は敵であるEDENの力を封じ込めるためです。」
「ハッ、冗談にしては少々キツイな。」
「冗談ですまない現実は山ほどあります。違いますか?」
ヴァインはクロノ・クェイクの真実を俺たちに伝えてもなお冷静でいた。
六百年前、EDENと戦っていた『ヴァル・ファスク』、EDENがまだ残っているという真実・・・・確かに冗談ではすまされない現実が山ほどあるな。
「今度ばかりは「はい、そうですか」と素直に言えないね。」
「そうですわね・・・・・。」
「ノアはどうなんだ。今のを聞いて。」
俺はノアのほうを見たがノアはずっと考え込んでいるようだ。ノアの悪い癖だな。みんなには言わず、ただ自分だけで考え込んでしまうところが・・・・。
「うかつだったわ。まさか、そんな手があったとはね・・・・・。」
「ノアさん、それはいったいどういうことですか?」
「簡単な話よ。クロノ・クェイクによって敵の戦力を削ぐ。そして、傷が癒えたのを見計らって一気に攻める。これ以上相手が有利なる条件はない、戦うどころか戦いにもならない。たかだが数百年待つだけで全てが手にはいるんだから。」
ノアはそのように説明したが気になることがあった。
『たかだが数百年待つだけ』と言ったがその『数百年』という時間が問題になってくる。そんなに時間が経っていれば『ヴァル・ファスク』も衰退するのではないだろうか?
「でも、そんない時間が経ってしまっては『ヴァル・ファスク』も衰えるのではありませんか?」
「いえ、彼らは衰えません。彼らにとって数百年など大した時間などではありませんから。」
なるほど、『対した時間じゃない』っていうのはそういうことなのか。
だから『ヴァル・ファスク』は衰えない・・・か。
「そう考えたら連中がクロノ・クェイクを持ち出したのにも合点がいくわ。さすがにその方法まではわからないけど・・・・だとしたら・・・。ヴァインっていったっけ?質問があるんだけど。」
「なんでしょう。」
「現在の『ヴァル・ファスク』の指導者は何者?」
「・・・・ゲルン。『ヴァル・ファスク』の長老、ゲルンが支配者として君臨しています。」
ノアはそのことを聞くと「やっぱり」と言った。ノアの話を聞くとそのゲルンと言うのはクロノ・クェイクが起きる前からさらに数百年前にEDENに宣戦布告し、その頃から頂点に立ち続けた最古の『ヴァル・ファスク』の一人だという。ヴァインいわく『彼こそ『ヴァル・ファスク』の中の『ヴァル・ファスク』と呼ぶにふさわしい人物』らしい。
「EDENの時代からずっと変わらず体制を維持している・・・・正直、想像を絶しますわね。」
「覚えておきなさい。あんたたちがケンカをしようって相手はそういうバケモノなのよ。」
「・・・心しておくよ。」
続けて沈黙していたルシャーティは口を開いた。
「ですが『ヴァル・ファスク』にも誤算が生じました。それがクロノ・クェイク後、トランスバールまで飛来した――――」
「この『白き月』と・・・・」
「『黒き月』・・・ってわけね。まぁどっかの誰かさんがそれをぶち壊したけどね。」
ノアはその『黒き月』を破壊した張本人・・・・つまり俺たちを睨んできた。やっぱりまだ根に持っているのか。あれは仕方がなかったことだが・・・と言ってもノアが納得するはずがないか。
そのあとも話は続き俺たちは再び戦いの決心を決めた。いま覚えばこれが俺にとって最大の問題となっていったのである。
第三話「人為的に起こされた天災」 終
第四話に続く。
あとがき
原作に沿って書くと言うのはなかなか大変なものですね。(何回言っているんだ、こいつは)ってなわけで途中でカットした部分については申し分けませんでした。長くなればなるほど感情移入ができなくなってしまうので・・・私の場合。
遅いですが完結するように頑張ります。