ミルフィーユがまさに戦闘に入ろうとしている頃。

 

 

 

 

 

タクトはミルフィーユの部屋の前に来ていた。

 

一端は別れたものの、どうしてもミルフィーユの様子が気になって仕方が無かったのだ。

 

タクトはミルフィーユの部屋のインターホンを鳴らした。

 

「ミルフィー、起きてる?」

 

だが、ミルフィーユからの返答は無かった。

 

「ミルフィー?」

 

タクトはもう一度インターホンを鳴らしてみた。

 

だが、やはりミルフィーからの返事は無い。

 

「ミルフィー…もう寝たのかな?」

 

タクトはそう考え、また明日来よう、そう思いミルフィーの部屋から立ち去ろうとした、その時。

 

偶々扉に触れたタクトの手に反応して、扉が開いた。

 

「ひ、開いた? ……鍵閉め忘れたのかな?」

 

無用心な、とタクトは内心思いながらも、何とか部屋に入ることが出来る、と思ったタクトは、早速部屋の中に入った。

 

部屋に入ってすぐ、タクトはベットで寝ているミルフィーユが目に入った。

 

「ミルフィー…どうやらちゃんと寝ていたようだ…」

 

タクトは安堵した。

 

「とりあえず、明日はオレが医務室に運んでやるか」

 

タクトはそう言い、ミルフィーユの布団から出ていた手をしまおうとして手を触れた。

 

だが、その直後、タクトの顔が蒼白になった。

 

「ミ、ミルフィー?」

 

タクトは、もう一度ミルフィーユの手に触れた。

 

冷たい。

 

先程まで感じた、あの暖かい手ではない。

 

まるで、氷にでも触ったかのような冷たさ。

 

「ミルフィー…? 嘘だろ…? ミルフィー…?」

 

タクトは、まるでうわ言の様に呟く。

 

そして。

 

「ミルフィー……ミルフィーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

タクトは、大声で叫んだ。

 

そして、半狂乱になり、ミルフィーユの体を揺すった。

 

だが、ミルフィーユが目覚める事は無く、ただタクトはミルフィーユの体を揺すりつづけた。

 

その後、騒ぎを聞きつけたエンジェル隊の皆がミルフィーユの部屋へ駆けつけ、そしてエルシオール中で大変な騒動となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ミルフィーユの手にはめられたタクトとの結婚指輪が、とても冷たく光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MegaMil−メガミル−

 〜ミルフィーユの冒険〜

 

 STAGE1‐2「初めての『戦闘』」

 

 BGM:蠢々秋月 〜 Mooned Insect(「東方永夜抄」より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルシオールがそんな騒ぎになっている頃。

 

「きゃあぁ!」

 

ミルフィーユは謎の生物の拳攻撃を右に横転してかわした。

 

だが、ミルフィーユが横転した先に、今度はもう一体の謎の生物が手から光の弾をだして攻撃する。

 

ミルフィーユはとっさに手をつき、バック転でかわした。

 

だが、光の弾はそのまま床に反射して、ミルフィーユに向かって来る。

 

「え!? ……きゃあ!!」

 

ミルフィーユは今度は左に横転してかわす。

 

だが、今度は壁に反射して再びミルフィーユに向かって来た。

 

丁度避けた直後だったミルフィーユは、反射してきた光の弾を避ける事が出来ず、そのままぶつかった。

 

「きゃあああぁぁぁ!!! ……たっ!」

 

光の弾に当たったミルフィーユは、そのまま床に叩き付けられた。

 

「い、痛ア……っ」

 

ミルフィーユは痛そうに後ろ頭を抱えながら起きた。

 

その手に持ったままの銃―カリム―は呆れながらいった。

 

『…ミルフィーユ・マイヤーズ。避けてばっかりじゃ、ただ君の体力が減っていくだけだよ? ちゃんと攻撃していかなきゃ』

 

「は、はい…確かにそうですけど…」

 

ミルフィーユはそう言いながらも、少し躊躇った。

 

今までの戦闘では、紋章機で戦い、なおかつ殆ど無人機と戦ってきた。

 

だが、今回は化物と言えど、生きている者なのだ。

 

どうしても心優しい彼女は銃を撃つのを躊躇ってしまう。

 

しかし、この状況を打破するには、この生き物達を倒してしまわないといけない。

 

ミルフィーユは悩んだ。

 

攻撃はしたくない。

 

かといって、ここでやられる訳にはいかない。

 

一体自分はどうしたら…そう思っていた、その時。

 

カリムは、謎の生き物達の容赦無い攻撃を必死に避けるミルフィーユに声をかけた。

 

『ミルフィーユ・マイヤーズ…。君が手を出すのを躊躇うのは分かる…。だが、ここでやらなければ、君は負ける』

 

カリムは続ける。

 

『別に躊躇する必要は無い…。ここで君が手を出す事には、何の罪も無い』

 

「罪って、何ですか…」

 

ミルフィーユは必死に避けながらも、カリムの言葉に呟くように返した。

 

「罪だとか、罰だとか、そんな事ではありません。相手は、生きている者…いわば人なんです。そんな人に、私が攻撃なんて、出来るはずがありません…」

 

そう。

 

彼女は心優しい。

 

だから、攻撃するのも躊躇ってしまう。

 

だから、ここまでやって来られた。

 

だから、タクトが惚れた。そんな心優しい彼女に。

 

だから―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、また逃げるのかい…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?」

 

ミルフィーユは、カリムの呟きで体が一瞬止まった。

 

その隙を付かれたのか、謎の生物の攻撃をまともに食らった。

 

「きゃああああぁぁ!!!」

 

ミルフィーユは、悲鳴と共に艦長席の椅子に背中からぶつかった。

 

そして、そのまま床にへたりつく。

 

その間に、謎の生物はミルフィーユに迫る。

 

だが、ミルフィーユは隣に合ったカリムに目を向ける。

 

先程の台詞の意味を聞き出すために。

 

「に、逃げるって、どういう意味ですか…っ!?」

 

その形相は、普段の彼女らしからぬ、とても厳しい表情だった。

 

『どうもこうも、そのままの意味だ』

 

一方、カリムは決して尻込みする事無く、凛とした声で話す。

 

『君は以前、君の夫、タクト・マイヤーズと大喧嘩をしたそうだね。その時に、彼の事が信じられなくて、結局彼の真意を確かめようとしなかった。君は、記憶を消すという行動によって、逃げ出してしまったんだ。自分の気持ちから』

 

そして、最後に一言。

 

『もう一度言うよ。また、逃げるのかい…?』

 

ミルフィーユは思い出した。

 

あの時、仕事やルシャーティの事で、全くと言っていい程、タクトに会う事が出来なかった。

 

そんな「タクトにあえない寂しさ」を言い訳にして、結局タクトから逃げ出してしまった。

 

だが、タクトは逃げ出した自分を懸命に追いかけてくれた。

 

そして、自分を救ってくれた。

 

タクトは、決して逃げ出す事無く自分に向き合ってくれた。それが嬉しかった。

 

だから、自分も―――。

 

「逃げません…戦います!」

 

ミルフィーユは立ち上がった。

 

もう曲げる事は無い強い意志と共に。

 

カリムも、満足そうに言った。

 

『それでいい…ミルフィーユ・マイヤーズ』

 

ミルフィーユは銃口を前に向け、引き金を引いた。

 

そして、それと同時にレーザーが発射される。

 

レーザーは敵に当たり、謎の生き物はそのまま倒れた。

 

そして、謎の生き物はまるで霞のように消え去った。

 

謎の生き物達は仲間を倒された事で怒り浸透したのか、一斉に襲い掛かってきた。

 

だが、ミルフィーユの顔には先程までの恐怖の色は無い。

 

決意に満ち溢れた顔。

 

それは、もう二度と逃げる事は無いという、決意の証。

 

ミルフィーユは、ゆっくりエネルギーをチャージする。

 

チャージ完了まで、後10秒。

 

ミルフィーユは、敵の攻撃を受け流す。

 

後9秒。

 

敵が別の敵の肩を踏み台にして、ミルフィーユに飛び蹴りを繰り出す。

 

後8秒。

 

ミルフィーユはその飛び蹴りを、勢いよくバック転をしてかわす。

 

後7秒。

 

バック転をした先にいた敵にミルフィーユは足払いを食らわし、敵を転ばす。

 

後6秒。

 

その転ばした敵を盾にして、敵の光の弾をやり過ごす。

 

後5秒。

 

盾にして動かなくなった敵を、そのまま別の敵に向かって投げ飛ばし、気絶させる。

 

後4秒。

 

ミルフィーユは右に横転し、敵に破片を投げつける。

 

後3秒。

 

敵はその破片を手で弾き、光の弾をミルフィーユに向けて発射する。

 

後2秒。

 

ミルフィーユはまたもや右に横転し、敵に向かってタックルする。

 

後1秒。

 

吹き飛ばされた敵は他の敵を巻き込みながら壁に激突する。

 

――――0。

 

ミルフィーユは壁にもたれ掛かり、そして銃口を敵達に向ける。

 

そして、発射された―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っけぇーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その小さな銃から出された出されたとは思えない、巨大なレーザー砲は、そのブリッジ内にいた敵という敵を一遍に薙ぎ倒していった。

 

そして、レーザー砲がおさまる頃には、敵の姿は無く、残ったのは、夥しい数の敵の燃えカスだけだった。

 

ミルフィーユは溜め息をついて、へろっと床にへたりついた。

 

「はあ…はあ…」

 

ミルフィーユは床にへたりついてからも、荒い息使いが収まる事は無かった。

 

ミルフィーユには、緊張感から一気に開放されたせいか、他の事に気を回す余裕など無かった。

 

それこそ、あれだけのレーザー砲にも関わらず船内には全くと言っていい程影響は無かったという事にも気付かない程に。

 

「はあ……ふう…っ」

 

そして、疲れからかそのまま寝てしまった。

 

『ミルフィーユ・マイヤーズ…これだけの敵を本当に全員倒してしまった…彼女の実力は本物という事か』

 

カリムは思い出していた。

 

あの時、決意した後のあの一発。

 

あれは、今まで自分が使われていた者の中で、何よりも威力が高く、そしてとんでもないスピードだった。

 

そして、あのチャージショット。

 

今まで、様々な者に使われてきた。だが、あんな馬鹿でかいレーザーは見た事が無い。

 

そもそも、自分の最大チャージ時間も5秒が限度なはずなのに、ミルフィーユはいとも簡単にその倍を上回った。

 

恐らく、彼女のイメージがそのまま反映された証拠だろう。

 

カリムは思った。

 

彼女なら、きっと…いいや、絶対に、この世界を…「アナザークロノワールド」を救ってくれる。

 

僕をいとも簡単に扱った彼女の実力なら…絶対に!

 

カリムは、寝てしまったままのミルフィーユに声をかけた。

 

『ミルフィーユ・マイヤーズ…君の実力、確かに見せてもらったよ…。君のその実力なら、きっとこの先、うまくやっていけるだろう。改めてお願いしよう。この世界を救ってほしい。そうすれば、君のその病も直す事が出来る…君の病気はただの風邪とは訳が違うからね…まあ、全ては君が起きあがってからだ。それまではおやすみ…ミルフィーユ・マイヤーズ』

 

もちろん、カリムの言葉は寝ているミルフィーユには届いてはいなかったが、カリムは伝え終わると、彼自身の電源を切り、彼も休みについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない儀礼艦、クロノシップ・エルシオール。

 

そこには、一人の少女と、一つの銃だけが、明日を待つかのように眠っていた。