エルシオールのブリッジから見える景色はエメラルドクリーンに蠢く「そら」、クロノスペースが広がっている。
向かう先はEDENから見てヴァル・ヴァロス星系の更に奥。ヴァル・ファスクの支配領域のひとつである、
ヴァル・メザ星系だ。ヴァル・ランダルでの決戦の際に日和見を決め込んでいたヴァル・ファスクのマティーニが
そこで新王を名乗り、各地の残存艦隊に檄を飛ばし活動を始めた為に、交渉・鎮圧に向かう羽目になった。
決戦艦隊は各地に分かれ、旗艦のエルシオールとエンジェル隊はマティーニ本隊へと向かっていた。
司令官とエースパイロットを欠いたままで。
それにしてもクロノドライブ中はやる事が皆無と言っていいほど無い。アルモは後方を振り向いた。これで4度目だ。
何度見ても、司令官席も、副司令官席も空席である。ココがくすりと笑って声をかけた。
「気になるの?」
「べ、別にそんなんじゃ・・」
「クロノドライブ中とは言っても休憩でこんなに長い間ブリッジを空ける事って無かったものね」
「うん・・・それはいいんだけどね」
「なあに?また『副司令欠乏症』?」
「ちょっとココ!何よそれ!それじゃまるでアタシがいつも・・!」
「違うの?前に1ヶ月休暇もらった時は最初誰よりはしゃいでたのに2週間目には『会いたいよう』って・・」
「言ってないってば!」
「あら?そうだった?」
仲良し2人組が留守番なら話は尽きない。楽しく喋っていても計器類に目を通しているあたりは2人とも慣れたものだ。
さて、ところで話のネタの青年は今、めったに無い休憩を・・・戦っていた。
Stellar Finders〜星探祭〜
第2話 司令代理の憂鬱
「チリドッグおかわり・・」
少しだけ時間はさかのぼりティーラウンジ。蘭花が気だるげに本日6回目となる注文を出す。円卓にはエンジェル隊が全員集合・・・
していない。ミルフィーユがいなくなった事は前にも2度あった。それでもやはり喪失感は大きい。蘭花曰く、
『脳天気がいないと雰囲気が曇っちゃうのよ』だそうだ。なんとも上手い言い方というか。さすがは親友と言おうか。
「・・・あの、ランファさん」
「なあランファ。気持ちはわかるがそんな顔でやけ食いすんのやめてくんねえか。こっちまで余計に沈んじまう」
ヴァニラがつぶやき、フォルテが耐えかねてクレームをつけた。
「そういうフォルテさんだってコーヒー何杯目ですかぁ?」
うっと詰まる。射撃練習後、のどが渇いてここに来て皆と会ったはいいが、何度おかわりをしただろう。
「あ、あたしはのど渇いてたからさ。それに今日のブレンドがやけに気に入ってねえ」
取り繕うがどうも説得力は無い。
「ブラックであまり飲むと胃に悪いですわよ。それにフォルテさん、カフェイン中毒って知ってらっしゃいます?」
ミントがいつもどおりの笑顔で毒々しい色の棒キャンディーを舐めながらハーブティーを飲む。
「ミントさんの飲んでいるそれは、セボリーティーです。不安を鎮める効果があり・・」
「ヴァニラさん、あまり余計な事はおっしゃらないほうがよろしいかと」
おほほほ、と拳を鳴らしながらミントが笑う。だが、もうひとつの耳は垂れたままである。怒りには覇気が無い。
ヴァニラのナノマシンペットも同様であった。伏し目がちで元気が無い。
「やはり・・ミルフィーさんとタクトさんがいらっしゃらないと・・・」
ミントがポツリとつぶやく。それが、いけなかった。
「みるふぃー先輩・・タクトさん・・・」
今まで一言も発さず、何も口にしていなかったちとせの目に大粒の涙が浮かび始めた。4人は慌てふためいた。
「ばっ、馬鹿ねちとせ!死んだわけでもないじゃない。縁起でもない」
無意識に更に縁起でもない事を言いつつ、蘭花は思う。ああもう、泣きたいのはこっちよ。
「泣くんじゃないよあんたは。ほら、鼻かみな」
ハンカチを出しながら慰める。フォルテは思う。やっべー、地雷踏んだ。
「そ、そうですわ!お2人のおかげで今の銀河とわたくし達があるのですから」
とりあえずフォローをしておく。ミントは思う。ほんっと手間がかかりますわねこの方は。
「ほ、ほら、お腹空いてるとネガティブ思考になっちゃうわよ!アタシのチリドッグあげるから」
蘭花が新しく来ていた皿を差し出す。
「いや、それは止めとけ。別の意味で涙がとまんねえ」
そう、それは蘭花好みの真っ赤な色をしていた。テーブルで更にタバスコをどばどばかけている化け物級の代物だ。
「・・・ちとせさん、いいこいいこ」
手を伸ばし、頭を撫でてみる。ヴァニラは思う。ランファさんは今・・・・・・・・・・
「と、とにかく2人ともアタシ達で助け出すって決めたじゃない!へこんでる暇なんて無いのよ!」
勢いで蘭花は締めくくった。だが、その考えはあくまで前向きで、そして正しい。
「そうだねえ、んじゃ手っ取り早く敵さん懲らしめてEDENへ急がないとね」
「そうですわね。正直今更戦いなんてどうでもいい気もしますけど」
「・・命令ですから」
思考を切り替えて好き勝手言い出す先輩たちを見ていると、ずっと泣き顔ではいられない。
「そ、そうですよね。すみません先輩方、お見苦しいところをお見せしてしまって。」
ようやくちとせが笑顔を見せる。目尻にはまだ涙が溜まってはいたが。
ふう、ようやく落ち着いたか。みんな思わずため息をつく。その時、ミントの耳がピクリと立った。
「で?貴方はいつまでそこでつっ立ってらっしゃるおつもりですか?」
皆がミントを、そしてミントの見る方向に目をやると、そこには意外な人物の姿があった。
「・・・その、座ってもいいか?」
珍客の、珍妙な申し出を断るものはいなかった。しかし、すぐに受け容れる者も居なかった。
サマになる絵面とも言える。
円卓には美少女が5人。そして美形・長身の男。だが、彼女らと彼を知る人間から見たら、やはりそれはありえない絵面だった。
本当に自分から来たのかわからないくらい、レスターは居心地が悪かった。
(くそう、何も喋れん。なぜタクトのやつは好んでこんなところへ混ざれるんだ!?)
そもそもここまで来てみたものの、何から話せばいい?タクトはいったい何を話していた?レスターは思考を巡らした。
誰もが褒め称える頭脳は仕事の事ならば常人の数倍で働くというのに、こんな時にはさっぱり回転しないらしい。
(ふふふ、面白いじゃないか)
フォルテは思う。休憩中の暇つぶし、気分転換には十分なりそうだ。
そう思った途端だった。
「や、すまん。邪魔したな。オレはこれで・・・」
いきなり席を立ってしまう。隣にいた蘭花が思わず裾を掴んで引っ張った。
「ちょっと!なんで来るなりどっか行こうとしてんのよ!ワケわかんないわよ!」
無理やり座り直させてから思う。っていうかほんと何しに来たのよ。
向かいのフォルテはもう笑いをこらえるのに必死である。
ミントは彼がここに来た理由を、その想いを知っている。仕方ない。今回は手助けしてあげるとするか。
新しいカップを取り出し、ハーブティーを注いだ。レスターに差し出す。
「ティーラウンジに来たんですからお茶の一杯くらいどうぞ。落ち着きますわよ」
「あ、ああ、すまんな」
一口飲んで息をついたところで、ミントは再び喋りだす。
「それで、何をしてらっしゃったんですか?」
「み、見回りだ。艦内のな。タクトの代わりにな」
「あらあら、それでわたくし達の姿が見えたのでここへ?」
「ま、まあそんなところだ」
単純かつ、答えやすい質問をしていき、無愛想ながらそれに答えていくレスター。ここにきてようやくコミュニケーションといえるものがとられだしている。
ただ、これらの質問の答えをミント自身はすでにテレパスで知っており、それをレスター本人から他のエンジェル隊へと伝える為の退屈な誘導であった。
「・・で、わたくし達を心配して?」
「ま、まあな。あいつらがいなくなって落ち込んでいないかと、な。戦闘も近いことだし」
もちろんレスターは戦力的なことだけを考えてコミュニケーションをとろうと思ったわけではない。
彼女達の生死にさえ関わることだ。彼は女性は苦手だが、彼女達は多くの戦いを潜り抜けた仲間だ。純粋に心配している。
それに、親友に後を任された。それはレスターの中の大きな理由だった。
「その、オレでは役に立たんかもしれん。タクトのようにはなれんだろう。努力はするが、それは仕方ない」
初めてレスターがミントの誘導ではなく、自分の言葉で語りだした。
「オレはあいつの代わりにはなれん。女は苦手だ。だがオレはオレなりに君らを信用している。タクトとミルフィーユを助け出す為にお前達の力を貸してほしい。そしてオレにできる事があれば何でも言ってくれ。・・・・その、それだけだ」
静かにレスターは語り終えた。少しの間が空き、では、とミントが口を開いた。
「できる事があれば、とおっしゃいましたわよね。でしたらここのお勘定を持っていただけますか?」
「・・・・・は?」
もう一度言ってくれ。と言わんばかりの完璧な疑問符を顔に浮かべる。
「おお、そりゃいいねえ。んじゃあたしはブランデーケーキ追加で」
「副司令ごちそうさまです、アタシチリドッグもう1本♪あ、あとライムのタルト!」
「あの、ランファさん」
「なによ、ヴァニラ。遠慮なんかしないほうがいいわよ」
「そうではなく、さっきから言おうとはしていたのですが」
「だから何よ」
「・・・摂取カロリーが今の注文で2.63583333……日分に達します」
その瞬間、蘭花は石になった。後日、蘭花の部屋で叫び声が聞こえたとか。
「・・私は紅茶シフォンケーキをお願いします。・・副司令。ありがとうございます」
「えっと・・よろしいんですか?じゃあ、私は苺大福を」
次々と注文するエンジェル隊。いまだ状況が飲み込めないレスターがいた。
「うふふ、みなさん元気になりましたわ。ありがとうございます、クールダラス副司令」
言いながらメニューの中で高い品ばかり上から3品ほど見繕うミント。
女は恐ろしい。レスターは思った。そして気がついた。なぜ皇国軍准将であり、浪費癖も無いはずのタクトが、月末に宇宙コンビニでの買い食いすら悩んだ末に諦めるのか。原因はここにあったようだ。
女性と交流の無いレスターはエンジェル隊が特殊であるという可能性には思い至らなかった。
「ドライブ・アウト3分前です」
第2警戒配備が敷かれ、エンジェル隊は紋章機で待機命令が出される。レスターは指示を出し、ため息をついた。
「どうしたんですか?休憩から戻ってきてからため息ばっかり」
「いや、まあ・・オレも金はあまり使わんから構わんのだがな・・・」
「?」
アルモもココもさっぱりわからなかった。
「とにかく、これがオレの紋章機を指揮する初陣ってことか」
「こんなに戦闘慣れした初陣も無いと思いますが」
ココがあきれたように言う。意外にかわいいことを言うのだなと珍しがりながら。
「ルフト先生は自分では紋章機を扱えないといった」
「ああ、そういえば。それでマイヤーズ司令にエンジェル隊を託したんでしたね」
「オレはルフト先生と同じタイプの指揮官だと思っている。教え子だしな。それに・・」
「それに?」
「いや、なんでもない」
レスターは答えなかった。自分にも扱う自信がない。そう言いたいのだろう。ココとしても気持ちはよくわかる。
この場は言葉を濁したが、本当にレスターが言いたかった事は違う。
『オレは先生とタクトの指揮の腕に勝てると思えた事はない』
だが、エンジェル隊を指揮できないならば、勝利は遠ざかる。何より、彼女達の命がかかっている。
失敗は、許されない。
レスターは思わず息を呑んだ。
眼前が白く輝く。光が収まると漆黒と星の光が点在する宇宙が広がっている。
「通常空間にシフトダウンしました。艦内各部、異常なし。ヴァル・メザ星系に到着です」
「レーダーに反応あり、ヴァル・ファスクです、1時方向、距離40000で停止しています」
「待ち構えていたか・・・手っ取り早くて助かるな。全艦第一戦闘配備!」
「了解、全艦第一戦闘配備!」
「紋章機を前面に押し出して交渉に持ち込めたらいいが・・・」
レスターの読みとしては、こちらの力を示して降伏させようという腹だ。
『ヴァル・ファスク』という種族は強さこそが絶対の掟。それは過去の戦いで既にわかっている。
「艦隊の中に旗艦と思われる大型艦があります」
「モニターに出してくれ」
レスターの眼前に現れた敵旗艦は見覚えがあった。あれは・・
「分析出ました。あのロウィルという将校の艦と同型艦のようです」
やはり。モニターに以前データに取ったオ・ケスラを出し、二つを重ねると良く似ている艦だという事がわかる。
ただ、少し装甲が厚いだろうか。レスターはひとつきりの眼を細く凝らしてみた。
「敵旗艦に通信つなげるか?」
「やっていますが応答なしです」
おかしい。まさか無人艦?謀られたとでも言うのだろうか。しかしこの艦隊の規模は恐らくこれが本隊のはず。
「一応生命反応をスキャン・・」
レスターが口を開いた瞬間だった。電子音がブリッジに鳴り響く。
「え?て、敵旗艦から通信です・・」
アルモが素っ頓狂な声を出して振り向く。こっちは今も発信しているというのに。応答でなく、通信。
「ああ、わかった。あのロウィルってやつと一緒だ」
思わずため息をついた。こっちとまともに喋る気は無いのだろう。早くも交渉は決裂だ。こっちをあくまで見くびっている。だが、
「それなら、負けんさ」
自信たっぷりに小さくつぶやき、通信をつなぐよう指示を出した。
「オレはマティーニ。ヴァル・ファスク王マティーニだ」
映し出された男は人間で言えば30歳程度の姿。
眼は据わって邪に輝き、下卑た笑いを浮かべていた。いつそんなものを用意したのか頭上にはいやらしい趣味の豪華な王冠がある。
ああ、ちょっと若くてより性悪なレゾムか。ブリッジの連中は言葉もなく同じ想像にたどり着いた。
ただ、正確に名前を思い出せたのはレスターだけだったけれども。
「人間どもに告ぐ。まずはよくやった。元老ゲルンを打倒した事、誉めて遣わそう」
ヴァル・ファスクには薄い仲間意識。力関係のみで成り立つかりそめの関係は上下関係にも共通するらしい。
「お前達も相当な犠牲を払ったようだし、降伏してもいいぞ。人間は塵だが、役に立つのは道具にしてやってもいい」
ここまで一気に喋る男を見てレスターは息をついた。
相手はどうやら俗物だ。恐れるほどの策士ではない。
「断る。その程度の艦隊で紋章機相手に勝てると思うか。仮にオレ達を墜としたとして、満身創痍の艦隊で皇国軍に勝てるとでも?トランスバールは、人間はそんなに弱くないぞ。お前こそ降伏したらどうだ?」
モニター越しににらみ合う2人、数秒程度の間だったが、互いに交渉・譲歩する気など無い事は良くわかった。
「王者の慈悲を受け入れないのなら話は簡単だ。下等種族は死ぬがいい」
ぶつりと通信が切られる。なんともいえない不快感だけがブリッジに残された。
まったく、オレ達が上を倒したから上に立てただけの癖にこうまで高圧的とは。頭が悪いのか?レスターは考えた。
だが、マティーニの態度はそれが理由ではなかった。むしろマティーニの頭の回転は速いほうである。
彼はヴァル・ファスクでは年若い方であった。
マティーニはレスターの読み通り、権謀術数に長けていたわけではない。けれど他人の力を見定める事は上手かった。
そして、取り入った上官を裏切り、踏み台にして成り代わる。それがこれまでの、彼の能力とも言える武器だった。
彼がいち早く取り入ったのはあのネフューリアである。
EDENとの戦争の際、表立って輝かしい戦功を上げたわけではない、戦後の実権を取り損ねた彼女の部下に志願し、トランスバール侵攻尖兵としての任務をもらった際はロウィルとの連絡役を務めたのである。
ネフューリアが敗れてから彼女の野心を証拠もそこそこに報告し、まんまとネフューリアの後釜としての地位をものにし、ロウィルに仕えた。
そしてヴァインの監視役の任を受け、そこであっさりとヴァインの元へと裏切った。
2人が火花を散らしているのは軍内部では多くの者が知っている。敵艦への潜入、撹乱をするヴァインこそ功高きと見たのだ。
EDEN解放戦後は、ヴァインから離れ、ゲルンの元へ軍勢をかき集めるフリをしていた。日和見策である。
勝機ありなら加勢、劣勢なればゲルンに取って代わるチャンスというわけだ。
仮にゲルンが勝って、自分が間に合わなかったとしても現在残った将校で、ナンバー2は自分以外にはありえ無い。
気楽なものであった。このように実に上手く成り上がっていったマティーニだが、誤算があった。
ゲルン以下将校6名戦死。元老近衛艦隊全滅。集結した地方駐留艦隊の8割が撃沈。
クロノ・クェイク爆弾は不発、原因不明。惑星『ヴァル・ランダル』を占領。
その瞬間、彼は蜃気楼の様でも、第1位の権力の座を手にしてしまった。
負けは見えている。人間どもに取り入ろうか。
もちろん男の脳裏をその考えが掠めたが、断じて出来なかった。
一度手にした地位を投げ打ちたくない。頭は支配欲で埋まってしまう。
これまでの彼は成り上がるために他者への服従を厭わなかった。だが今、誰にも従わなくなった、天を掴んだ今。
あのようなクズどもの下にだけは置かれたくない。それならば王として華々しく散ったほうがましだ。
それがヴァル・ファスクだ。それが首を絞めようとも。
今、マティーニの目は曇りきっていた。
だからレスターにはわかるはずも無かった。
「敵艦、動き出しました」
「こちらの戦闘準備はできているな?」
「全艦いけます」
「副司令、2番機、5番機、6番機のテンションが上がりません!」
「何だと!出撃できるのか!?」
「H.A.L.Oリンク率、2番機82%、5番機85%、6番機80%、通常時の力はなんとか発揮できてますが光の翼が出せません!」
「くそっ・・!やはりまだあいつら・・」
紋章機のリミッターは既に解除されている。けれど、リンク率・テンションが一定に達しなければ翼は開かない。
「・・トリックマスターとハッピートリガーは大丈夫なんだな?」
「はい。3番機、4番機、光の翼が展開しています」
レスターは手元のコンソールパネルでエンジェル隊へと通信をつないだ。5人の顔が目の前に表示される。
『4番機ハッピートリガー、いつでも出撃出来るよ』
『トリックマスターは問題ありませんわ』
『あ、アタシは精一杯やってるわよ!?べ、別に翼なんか無くたって・・!』
『・・・5番機、ハーヴェスター。このままで問題はありません』
『申し訳ありません、クールダラス副司令。で、ですがこのままだって・・』
レスターは言葉に詰まった。こんな時、なんと言えばいい?普通の軍艦、乗組員なら「戦闘に集中しろ!」と一喝するところだ。
だが。紋章機は違う。それでは命令できても信頼関係と、そこから来る強さは生まれないのだ。
(あいつなら・・・タクトならなんと言う?いつも何と言っていた?今はなんと言うべきなのだ・・)
ほんの一瞬だった。だが、レスターにとっては長い苦悩だった。
(・・・オレの事は、信用できんか?)
頭をよぎる嫌な考え。
いや、そもそも答えは既に持っていたはずだ。先ほど自分で言っていたではないか。
レスターは顔を上げた。
「おいお前ら・・・」
『おやおや、なんだい?指揮官どの』
『あらあら、戦闘前に自分からおしゃべりをなさる副司令はレアものですわね』
フォルテとミントがいつもどおりの軽口で返す。この2人は安心だろう。
レスターは肩をすくめて笑った。
「お前ら、オレの事が信頼できんならできんとはっきり言え」
『・・・はい?』
さすがのミントもこれには虚を突かれたようだ。他のエンジェル隊もぽかんとしてしまった。
やはり一言では伝わらないもんだな。レスターは再び口を開いた。
「お前らとは今までずっとエルシオールで一緒だった。それなりの仲間意識はあるだろう。だが、オレの指揮での戦闘はこれが初めてだ。命を預けるという重大な事だ。信頼しろって方が無理だろう。ならそれを隠す事は無い。そのくらいはっきり言えん間柄でこの先信頼関係が築けるとは思えん。そう、これが初めてなんだ。信頼も何も無いだろう。これから先の戦いの中で、少しずつオレを見極めてくれ。今でなくともいい。そもそも相互の信頼なんてものはゆっくりと築いていくものだろう?」
レスターなりに思っていたことを言ったつもりだ。
できたかどうかはわからないが、タクトが日ごろ言っていた「愛想」とか言うやつも考えてはみた・・つもりだ。
タクトならウマいこと言ってあいつらを乗せるのだろうが、オレはオレだ。オレなりの考え方、言い方しか知らないし、できない。
仮にやってみたところで中身の無い空言にしかならない。
これで果たして効果はあるのか。
むしろ逆効果になって反発を招くのではないか。
レスターの背中は実は冷や汗でびっしょりだった。
『・・・っはっはっはっは!』
永遠に続くかのように感じられた緊張の一瞬は豪快な笑い声で破られた。
『言うじゃないか副司令!気に入ったよ。あたしゃまたてっきりタクト張りの明るい台詞でも吐くと思ってた』
『言われずとも。エンジェル隊の司令官の資質、量って差し上げますわ、副司令』
『そうね、これくらいの艦隊なら余裕だし。せっかくだから指揮の腕の採点でもしてあげますよ副司令』
『おいおいランファ、そんだけやる気なら光の翼だしなよ』
『うっ・・その・・は、ハンデですよ相手へのハンデ!あ、アタシの慈悲がわかんないんですか?フォルテさん』
『ふ〜ん、そういうことにしとこうかねえ』
表情に輝きを取り戻した蘭花が早速フォルテにからかわれる。
いつもどおりのどたばたを横に、
『翼は出ていないかもしれませんが、・・・副司令を信じています』
『副司令が歴戦の兵(つわもの)であるということは戦術を教えていただいた私が良く知っています』
ヴァニラが、ちとせが笑顔で返す。
よし、エンジェル隊全員に笑顔が戻った。レスターはふっと目の前が明るくなった気がした。
「そうだ、その顔だ。『なあに、何とかなる』」
言ってからレスターが、そしてエンジェル隊が笑い出す。
「いつもあいつが言う言葉だったか。そうだな、あいつなら今もこう言ったはずだ。・・行って来い。エンジェル隊、出撃!」
『了解!』
『クールダラス副司令の指揮での戦闘は初めてですわね』
『副司令殿のお手並み拝見といこうかねえ』
『頼むから下手な指揮をしないでよね』
どこかで聞いたような3人の言葉。以前タクトが初陣のときにも聞いたな、とレスターが苦笑した。
けれど、彼女達の口調はあの時とは違う。試すようにではなく、からかうように。
『・・・勝ちに、行きます』
『副司令の名を汚さぬよう、努めます』
リンク率を再び確認してみる。わずかだが、上昇している。自分は、少しはタクトの代わりが出来たろうか。
「さて、そろそろ無駄口を叩いている場合じゃないぞ。作戦を指示する」
そんな事は今考えるときではない。目の前の事に集中すべきだ。
向こうはマティーニ旗艦、重戦艦2、重巡洋艦4、駆逐艦7、戦闘機4、攻撃機4の編成である。
こちらは戦艦3、巡洋艦2が僚艦としてついている。広く、遮るものもない宙域だ。なら小細工はいらない。正面衝突だ。
「戦艦、巡洋艦はエルシオールを護衛。近寄ってくる戦闘機と攻撃機を撃ち落せ。紋章機はそれらに構わなくていい。艦船を確実に撃破しろ」
『了解!』
各艦が答えるのを確認して再びエンジェル隊に指示を出す。
「駆逐艦はある程度損害を与えたなら無理に撃墜しようとするな。重巡洋艦、重戦艦の主砲をエルシオールに届かせないようにしろ」
『了解しましたわ』
『あいよ』
「出来るなら旗艦を落としてしまえ。そうすれば艦隊は止まる。全滅が目的じゃない」
『了解しました、副司令』
「よし、戦闘開始だ!」
紋章機のスロットルが全開になる。その瞬間、宇宙に5つの流れ星が生まれた。光が駆けていく。
最速を誇る蘭花が戦闘機をすれ違いざまに落とした。構うなと言われていたが、スピードを落とさずならいいだろう。
誰よりも早く、駆逐艦と交戦を始める。紅く舞う。蜂のように。
続いたのはフォルテだった。翼のはえたハッピートリガーは速い。更に紋章機は調子の良し悪しで加速力・最高速力ともに大きく変わる。
ハーヴェスターよりも先に戦場にたどり着き、そこいら中にお得意の実体弾をぶっ放し、破壊していく。
通信回線になんとも気持ちよさそうな声が響いていた。
ハーヴェスターが続く。単身突っ込めばさすがに傷を受けるカンフーファイターをまず修理。
それから、2機が撃ち漏らしたボロボロの敵艦を中距離高出力レーザー砲で確実にとどめをさしていく。
わずかに遅れたトリックマスターが射出したフライヤーが縦横無尽に敵を裂いていく。みな、逃れようなく。
僚艦戦艦と他の紋章機の間で機体を止めて、長距離狙撃を行なうのはちとせ。
シャープシューターの正確な狙いは確実に戦力をそぎ、前線の負担を軽くしていく。藍の機体は間断なく、そして正確にレールガンを放ち続けた。
「なん・・だと・・・!」
旗艦、オ・ロンゾのブリッジでマティーニが呻いた。純粋な武力の正面衝突で勝てないのは理解していた。だから彼は特攻策を採ったのだ。
駆逐艦や戦闘機、攻撃機部隊が時間を稼ぎ、またはそれらの特攻で邪魔者を排除し、重巡洋艦・重戦艦の衝突により人間どもの旗艦を落とす。
なのに。なぜこんなにも強いのか。まったく近寄れない。射程に入ったと思ったら主砲が潰されてしまう。特攻どころかまともに攻撃すら出来ない。
このままでは・・・・・・・・・・・死
「馬鹿な!こんなやつらに殺されるなど!ヴァル・ファスクが人間ごときに!?死んでたまるか!」
ミントはコクピットの中で上機嫌だった。戦いやすい。レスターの指揮は的確で意図が明確だ。フライヤーの操作性も好調だ。
早くも出力のメーターがハイパーゾーンに達する。無邪気に笑って「超必殺技」と少女らしい可愛い文字で張り紙された赤いボタンを押した。
「お行きなさい、フライヤーダンス!」
6つのフライヤーが超高速で射出された。ミントの意志で散らばっていく。次の瞬間、全方位エリア攻撃を繰り出した。
それは特攻策のため密集していた敵艦隊には効果抜群であった。
わずかに残った重巡洋艦を、既に宇宙の粗大ごみとなった敵艦を残らず塵に返していく。重戦艦の装甲を削り取っていく。
数秒後、プラズマの雨は止み、フライヤーはトリックマスターへと帰ってくる。モニターには「72Hit!Great!」と表示された。
アクションゲーム好きのミントのこだわりらしい。赤いボタンも、表示のシステムも彼女の要望(脅迫)でクレータが設置したものだ。
「ひゅーっ、やるじゃないかミント。あたしも負けちゃいられないねえ」
フォルテが笑う。H.A.L.Oを駆使し、ハッピートリガーに搭載された全武装の開放を行う。
慣れた手つきでタッチパネルの操作を同時に行い、両手のトリガーに火気管制のすべてを回す。
迫りくる重戦艦に照準を合わせる。距離4000。自機は敵進路上。この巨体。外しようも無い。思わずニヤリと笑みがこぼれた。
「蜂の巣にしてやるよ!ストライクバースト!」
後は彼女の大好きな撃ちっ放しだ。両のトリガーを歓声を上げながら引きまくる。
ハッピートリガーのコクピットのトリガーは彼女の趣味で銃と同じ質感を再現してある。
彼女曰く、「あとは火薬の炸裂音がすれば最高なんだけどねえ」ということらしい。
重力制御装置をOFFにしてあり、反動で体が軋むほどのGを受けながらフォルテは輝いた眼で笑っていた。
「よし、重戦艦を一隻沈めたか。勝ったな」
レスターがブリッジで安堵の声を漏らす。正直言ってオ・ケスラよりも重戦艦の方がよほど手ごわい。
同型艦であり、搭乗者のことを考えると脅威に思っていたのは2隻の重戦艦だった。もはや残る敵艦はまばらだ。
旗艦オ・ロンゾが宙域の奥まったところに一隻残されている。
「ちとせ、狙え!」
シャープシューターに通信を送る。ちょうどシャープシューターのゲージがハイパーゾーンに達していた。
『はい!』
シャープシューターの高性能照準装置を旗艦にピックアップする。11時方向、俯角10度、距離8000。20m近い砲身に大電流が流れ込み、蒼く光る。
電磁飛翔体加速装置により、弾は光速の70%まで加速される。機械は良好に動く。後は自分の仕事だ。呼吸を整え、精神を集中する。
「当てます!フェイタルアロー!」
いざ死を目の前にして、マティーニの目の曇りは晴れていた。死にたくはない。死んでしまっては全てが終わりだ。
今まで取り入ってきたものたちは確かに自分よりも能力は高かった。
だが奴らも死んでしまえばなんと言うことはない。いくらでも、そいつらの持っていた力を我が物にできる。
自分よりも数段劣る、どうしようもない屑だったと、吐き捨てることができる。
だが自分も死んでしまえば無能どもの仲間入りだ。踏みにじられ、全て奪われる。
たとえ人間に媚びてでも生き延びねば。生き延びればまた数百年後には。寿命が短い人間どもなど所詮最後には我らに屈服する。
こいつらが死んだ後でこいつらの力を奪ってしまえばいいのだ。
マティーニはパネルを操作し始めた。なんとか取り入らねば。
その瞬間、前方が光った。同時に目の前一切が粉砕される。前方彼方から放たれた矢は正鵠を、オ・ロンゾのブリッジを射止めたのだ。
「馬鹿・・・な・・・畜ショ・・・・!」
「敵旗艦、爆散しました。周囲の艦も動きを止めました。エネルギー反応ありません」
ココの報告で、レスターは大きく息を吐きながら席に腰をかける。
「よし、全員よくやってくれた。エンジェル隊は帰還してくれ」
『え・・終わり?アタシの見せ場は!?』
たった今もう一隻の重戦艦に必殺のアンカークローを叩きつけようとしていた蘭花が拍子抜けした。
「ああ、もう動きは止まっているだろう?」
『かっこよく決めるとこだったのよ!?あ〜ん、アタシの見せ場〜』
「あ、カンフーファイターのテンションが急降下していきます」
アルモの報告でレスターは深くため息をついた。
「・・・やれやれ、難しいもんだ」
無事、天使達を使いこなし・・たのだろうか。初勝利を収めた指揮官殿はお疲れのようだった。
「エンジェル隊、帰還したよ」
ブリッジの扉を開けて5人がわいわい入ってくる。急にブリッジが狭くなった気がするのは彼女らの存在感なのだろう。
「おう、皆よくやってくれた」
レスターのねぎらいは珍しい。一瞬驚く。だが、笑顔で迎えられて悪い気はしない。
「どうでした?副司令、アタシの活躍は」
「ああ、機体の持ち味をよく活かしていた。見事だったぞ」
誇る蘭花に誉めて返す。それで蘭花の機嫌は持ち直したようだが、次があったら見せ場を作ってやらんと、正直後が怖い。
「絶好調でしたわ。副司令の初指揮は満点をあげられますわね」
「そいつはありがたいな。お前の戦いぶりも見事だったぞ」
ミントにも誉められた。満点とはまた持ち上げてくれる。
「やるじゃないか副司令。撃ちまくれてスカッとしたよ。お前さんの指揮、嫌いじゃないよ」
「なに、お前の実力が戦果を上げただけのことだ。真正面から戦艦に撃ち勝つ力。見事だったぞ」
にやりとしたフォルテが胸を叩いてくる。
「お役に立てましたか?」
「ああ、いつもながら修理の指示に応じる迅速さは見事だった。助かったぞ、感謝している」
「的確な指示に感謝いたします。安心して戦えました」
「百発百中だったな。特に最後の射撃、あれは見事だったぞ」
ヴァニラが、ちとせが控えめに戦果を報告してくる。
「・・・っていうか副司令。さっきから『見事だった』ばっかりじゃないですか」
蘭花からツッコミが入った。レスターは顔をしかめる。
「・・そいつは悪かったな。誉め方がわからんのだ。こういう言い方しか知らないんだよ」
気持ちは事実だ。それを多彩な表現で表すことは難しい。いろんな表現を知っているはずのレスターだがこう言う時には発揮されない。
それを聞いて、ブリッジに笑顔があふれた。本人を除いて、だが。
「やれやれ。それじゃあ『白き月』に戻るぞ。エンジェル隊は解散だ。ゆっくり休んでくれ」
「ああ、少々よろしいですか?」
「なんだ?」
ミントに呼び止められる。もうこちらから話すことは無いはずだが。
「いえ、副司令の初指揮での戦闘も終わりましたし。わたくしからの提案なんですけれど」
いたずらっぽい笑みを浮かべるミントをみて、なんとなく嫌な予感がした。
「これからタクトさんとミルフィーさんを助け出すまで副司令に指揮を執って頂くのですし、信頼関係をよりしっかりと築くためにも、わたくし達も副司令の事をファーストネームで呼ばせていただいても構いませんか?」
それはかつてもエンジェル隊とタクトとの間で行われたやり取り。今回はミントからの持ち掛けであったが。
「ええ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「うわっ!な、なんだアルモ!?」
思わず大きな声を上げて立ち上がったのはアルモ。今この艦の中で「レスターさん」などと呼べるのは自分ひとりだけだったのに・・!
「あらあら、どうなさったんですの?アルモさん」
もうひとつの耳をピンと立ててさわやかに微笑み返すミント。テレパスで考えている事などお見通しだろうにあえて問う。
「い、いえ。なんでもありません・・・」
しおしおと席に着くアルモ。隣でココがため息をついた。どうしてこんな時だけアルモは引っ込み思案になってしまうのか。
「で、よろしいですか?『レスターさん』」
ミントが再び問いかける。その瞬間、アルモの背中がびくりと動いた。ミントの耳もピクンと跳ねる。
「オレは構わんぞ。好きに呼べ。こっちも今まで好きに呼んでいたしな」
「それでは・・改めて宜しくお願いします。レスターさん」
レスターの返答を受けてヴァニラが軽く頭を下げる。
「はい。これからはレスターさんとお呼びさせて頂きます」
ちとせもファーストネームで呼ぶようになった。エンジェル隊にもなれたせいか、タクトの時ほど躊躇いはしなかった。
だが、エンジェル隊の面々が『レスターさん』と呼ぶたびに、アルモが後ろで大げさなほどショックを受けていた。
「ではそうさせて頂きますわ。ありがとうございます、『レスターさん』」
一番ひどいのは、やけに強調してアルモのショックを見て楽しむミントだった。
いつに無く戸惑っているのは恋愛爆走娘、蘭花だ。
レスターをファーストネームで呼んで交流を深めようというのに異論は無いが、アルモの反応を見ていると心苦しい。
「あ、アタシは別にいいかな〜、今までどおりで」
それを聞いて全員がぱっと蘭花に注目する。蘭花がこういったことに乗り気でないというのも珍しい。
「い、いえ別に呼びたくないとかそういうわけじゃないんですけど、え〜と・・そう、な、なんか『副司令』って呼ぶのに慣れちゃったっていうか・・」
「ランファ先輩?どうかされたんですか?」
「一度呼べばきっと慣れます。・・特に、ランファさんのような方は」
「ど〜いう意味よ?」
「・・深い意味はありません」
失礼な。むしろ自分は非常に気を使っているというのに。ヴァニラとちとせもアルモの気持ちを汲んでくれないものだろうか。
先ほどから目配せを試みてはいるが、さっぱり伝わっていないようだ。
これでは自分ひとりがオトナで馬鹿みたいだ。・・いや、実年齢も上ではあるが。
けれど救い主は居た。フォルテだ。
目配せをして必死に何かを伝えようとする蘭花を見て気付いたようだ。伝えようとしている事を。
そういうことかい。まったく可愛いねえ。
そうなんですよフォルテさん。アルモの為にもフォルテさんからもウマい事いってあげてくださいよぉ。
しょうがないねえ。高くつくよ。
恩に着ます!
当人達以外にはテレパスのミントしか理解できないアイ・コンタクトをやってのけ意思疎通する2人。
けれど、目をそらした瞬間、フォルテの目は――――
「んじゃあたしも気楽に呼ばせてもらうよ。『レスター』」
「なっ!」
「フォっ・・ルテさん!?」
アルモが、蘭花が思わず声を上げる。『呼び捨て』なんて!火に油を注ぐようなものではないか。
フォルテの目は―――『からかい甲斐のあるおもちゃ見つけちまったねえ』となっていた。
「それでは今度こそ、失礼いたしますわ。ああそうそう、『また』ティーラウンジでのお茶会に御一緒してくださいな」
去り際に残して言った台詞。『また』!?
「また!?」
思わず叫んでしまった。
「ん?あ、ああ。戦闘前にエンジェル隊とティーラウンジで話をしたが・・・どうしたアルモ?急に立ち上がって」
ティーラウンジでレスターとお茶を飲んだ事など自分にはない。そういえば戦闘前にお金がどうとか・・まさかおごりで!?
いや、アルモもわかってはいる。信頼を得るための指揮官としての仕事だ。タクトもやっていた。けれど、恋する乙女がそれで割り切れるわけではない。
(そんな・・・そんな・・・!それにミントさん。ミントさんもレスターさんが・・?)
もういてもたっても居られない、アルモは駆け出した。
「すいません!ちょっと急用が!」
「お、おいアルモ!まだ仕事が・・!」
「この一大事に仕事なんてできませんっ!」
アルモの言葉が終わる頃にはブリッジの扉は閉まっていた。
「・・・・なんなんだ」
女心って奴は本当にわからない。ブリッジ連中がアルモに同情する中、レスターは完全に状況から置いてけぼりだった・・・・・
次回予告!
「さぁ〜て、第3話の星探祭は?」
ちとせ、リモコン持ってくるっとターンでテレビをON!
「フォルテだよ。ミントがアルモを挑発したおかげで修羅場に巻き込まれちまったよ。あれ、あたしもだっけ?
というわけで次回は、『カツオ、大慌て』・・じゃなかった。『ミントVSアルモ』、『彼の名前』の2本立てだよ」
「っていうかアルモとミントじゃミントの圧勝よねえ。あの子が口で負けたの見た事ないし」
「・・・ディベートクイーン」
「果たしてミント先輩の想いは?来週もまた見てくださいね、じゃ〜んけ〜んぽん!うふふふふ♪」
「この番組は、豊かな暮らしのお手伝い。ブラマンシュ財閥と、白き月遺失技術一般化部の提供で」
「・・・いいえ、この番組は取り立ててどこも提供しておりません」
「ヴァニラ先輩、それは・・」
「嘘はいけません」
「それはそうですが、台本でこう読めと・・」
「嘘はいけません」
「・・・」
「嘘はいけません」
「そうですよね、どんなときでも嘘はつかない、それが祖母の教えでした。ヴァニラ先輩、私が間違ってました」
「ではちとせさん。改めてどうぞ」
「この番組は、取り立ててどこも提供しておりませんでした♪」 続く
第2話修正しました。戦闘シーンとレスター・マティーニの葛藤心理は大きく?加筆修正しました。
前回の予告で蘭花がちとせに食らったアピール潰し。意外に好評だったので第2話に反映させてみました。かわいそうに。
しかしここに来てミントが出てきました。非常に動かしやすい子ですね。このまま正統派3角関係になってしまうのか?第3話をお楽しみに。
また、今回の小説ではシリーズ通して食べ物ネタには気合を入れています。蘭花のカロリー計算は実際に算出してみました。
(注:蘭花はダイエット中であり、一日の摂取カロリー制限プランをヴァニラに組んでもらってますので「通常の一日分」ではありませんよ)
どうでもいい小ネタに一番時間を費やした気がします。それが楽しいんですけどね。それではまた。 雛鸞